「米国は助けに来ないかも」 欧州は独力でロシアと戦えるのか
FORBES より 231210 David Axe
ロシアはウクライナでの戦争の長期化を見据えて 軍や経済を動員しつつある。もしウクライナを敗北させた場合、ロシアはそこで止まらないかもしれない。つまり、さらに西進して、バルト諸国やポーランドなど、北大西洋条約機構(NATO)の最前線の国に侵攻するおそれがある。
しかし、そうした大変動が起こっても、NATOの盟主である米国は何もしないかもしれない。「米国はわれわれを助けに来ないかもしれない」。英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のジャスティン・ブロンク上級研究員は、最新の 論考の発表にあたってそう 警鐘を鳴らしている。
全体主義国家による欧州の民主主義の支配、さらには破壊を防ぐために、米国以外のNATO諸国はただちに 弾薬の生産を増強するとともに、ロシアの防空システムの破壊という危険な任務に向けて空軍の準備を進めなくてはならない。
現在、NATOの重要な軍需品の大半を提供しているのは米国である。だが、2つの要因から、米国の気前のよさは当てにできなくなるおそれがある。ひとつは米国自体に忍び寄る全体主義。もうひとつは、現実味を増す米中戦争の可能性だ。
中国が台湾に侵攻し、米国が介入した場合、米国防総省は勝利のチャンスを得るために、欧州駐留の米軍をアジアに移動させる必要が出てくるかもしれない。
「中国軍が台湾、もしくは南シナ海や東シナ海の主要な係争海域に対して封鎖や侵攻に踏み切るリスクは、2026年から2028年にかけて最も高くなりそうだ」。ブロンクは論考でそう分析している。
この時間枠では、中国軍がアジア太平洋に駐留する米軍に対して大きな航空優勢と海上優勢を確保している可能性がある。ブロンクによれば、その頃には「(米軍にとって)非常に問題になる中国の能力の大部分は成熟し、実戦配備されている」のに対して、新型のステルス戦闘機や爆撃機など「対抗する米国の装備の多くはまだ用意が整っていない」とみられるという。
「したがって、この期間にインド太平洋で危険なにらみ合いや実際の軍事衝突が起こった場合、米国(の戦力)は大きく引き伸ばされることになる」とブロンクは続けている。
ロシアの独裁者ウラジーミル・プーチンは、自由なウクライナを破壊するという目標を中国による台湾攻撃よりも先に達成した場合、米中衝突の機を捉えて、民主主義の欧州に対する攻撃を続けようとするかもしれない。欧州大陸は「(中国による台湾侵攻と)並行したロシアの軍事侵攻を受けやすい状態に置かれる」とブロンクは警告する。
ブロンクの論考では、中国との戦争がなくても、米国が友人や味方であるはずの国への軍事支援を停止する可能性については触れられていない。
米議会の共和党は今月、ウクライナとイスラエル、台湾への 軍事援助を含む法案を否決した。これらの援助と引き換えに、長年続けられてきた難民保護政策の実質的な廃止をジョー・バイデン政権側に要求していたが、折り合えなかったからだ。
共和党政権では、米国による中国やロシアの軍事侵攻への対応は「何もしない」というものになりかねない。その場合、欧州の民主主義諸国は独力で対処せざるを得なくなる。
だが、欧州諸国はその準備ができていない。ロシアがウクライナで残虐な戦争を始めて22カ月目に入るというのに、NATOの大国はポーランドを除いて、集団的自衛のための動員を部分的にすら行っていない。
2022年2月にロシアがウクライナに全面侵攻したあと、ドイツの国防費は増えるどころか減った。英会計検査院は最近、英国の重要な国防プログラム向け予算が170億ポンド(約3兆1000億円)不足していると明らかにしている。
欧州での戦争拡大を防ぐ最も安価な方法は、ウクライナがロシアを打ち負かすのを助けることである。ただ、重ねて言えば、共和党が国内外の全体主義の脅威にきちんと向かい合わない限り、欧州はこの取り組みで米国を頼りにすることはできない。
欧州はウクライナを通じて間接に、あるいはウクライナが敗れた場合は直接に、ロシアと単独で戦えるように準備しなくてはならない。単独で戦うためには、米国が現在提供している軍事能力をすべて自前のものに切り替える必要がある。
「英国を含む欧州諸国は、ウクライナが戦い続けるのに必要な砲弾や予備部品、防空ミサイルの生産能力を大幅に引き上げるとともに、危険なほど減っている自国の在庫を補充するためにも、至急投資する必要がある」とブロンクは提言している。
さらに欧州の空軍は、ロシアの防空システムを制圧・破壊するという複雑で危険な任務に向けて訓練し、装備を整えることも求められる。
なぜなら「欧州でロシアの通常戦力を押し返すうえで頼りにできるのは、もっぱら航空優勢の達成になる。それなしでロシアを打ち負かすのに必要な規模と質の地上戦力、地上火力を配備する採用能力や資金を、欧州のNATO諸国は持ち合わせていない」(ブロンク)からだ。
欧州人とその指導者は、いまが歴史的な危機だということを理解しなくてはならない。戦争が欧州で起こり、アジアでも起こる可能性が高まってきている。ウクライナの国の存亡をかけたロシアに対する死闘を支援することで、戦争の拡大は防げるかもしれない。
戦争など起こらないとうそぶくのは、前もって降伏するも同然だ。ブロンクは論考の最後に、1936年、ドイツとの戦争は不可避と正しく認識していた英国の政治家ウィンストン・チャーチルが、 議会で英軍の軍備増強を訴えた際の言葉を引用している。
「わが国の防備を整える時間はまだ残されておりましょうか。(中略)それとも、あの恐ろしい、『遅すぎた』という言葉で振り返られることになるのでありましょうか」
💋近年の中露の動きを見る限り、大帝国主義化が顕著、共産主義恐るべし。