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ウクライナ侵攻で浮かび上がった「GDP神話の噓」 202410

2024-10-06 02:11:00 | 気になる モノ・コト

ウクライナ侵攻で浮かび上がった「GDP神話の噓」
 東洋経済Online より 241006  佐藤 優:作家・元外務省主任分析官


⚫︎もはやGDPでは本当の「国力」は測れないという
 民主主義とは何なのか? そこに限界はあるのか? 台頭するポピュリズム、強権主義に対して、民主主義は生き残っていくことができるのか? 
 現在の民主主義社会が抱える問題点に次々と疑問を投げかける、元外務省主任分析官の佐藤優氏は、一般的な経済指標として使用されているGDPの存在にも疑問を呈します。
 佐藤氏が指摘するGDPの問題とは、いったいどういったものなのでしょうか。
※本稿は、佐藤氏の著書『佐藤優の特別講義 民主主義の危機』から、一部を抜粋・編集してお届けします。

⚫︎GDPは本当に「国力」を表しているのか?
 2007年に世界銀行が発表した報告書『東アジアのルネッサンス』の中で、「中所得国の罠」という言葉が使われました。この言葉には、ある程度民主主義が発展しないと、個人の所得は1万ドルの壁を超えることができない、という意味があります。
 一見、なるほどと思わせますが、この説はGDP神話というものを前提としており、ほとんど意味のないものであると私は思います。
 なぜなら、ウクライナ紛争によって、GDPが圧倒的に多いアメリカが、ロシアを屈服させることができないという現状があるからです。

 GDPの指標として、民主主義が成熟した国においてはサービス業の数字が入っており、このサービス業の数字がかなりの曲者です。たとえば、トランプの不倫裁判にかかる費用も、不倫のもみ消し料も、すべてGDPに計上されます。
 GDPは1国の付加価値の合計だから、こうしたものまで計上されてしまうのです。

 アメリカの作家ジョン・デ・グラーフと経済学者デイヴィッド・K・バトカーは『経済成長って、本当に必要なの?』の中で、GDPの問題点を指摘しています。

 今は物があふれていて、所有権の移転も多くなりました。交換して所有権が移転するだけなら付加価値は生じないので、GDPには反映されないし、税金もかからない。極端な話、「メルカリ」や「アマゾン」などを禁止すれば、GDPは上がるかもしれません。
 日本のGDPが伸び悩んでいるといっても、セカンドハンド(中古品)でものを回すことが多くなっているだけです。
 ネット空間での物と物の交換のような取引も相当な数に上りますが、そうしたものはGDPに計上されません。GDPのみで経済を判断することには問題が多すぎるのです。

 基本的には、GDPではなく、購買力平価で経済の動向を測るのが現実的といえます。購買力平価の実体に近づけて測るようになると、全然違う様相が見えてきます。

 そうした計測で見れば、日本はまだ豊かであるという結果が出ると思います。
私たちの見えないところで、かなりの数の品物の流れが起こっているはずです。
 そうした現象を見ずにGDP中心主義を押し通していくと、実体経済というものが見えなくなってしまうのです。

⚫︎旧ソビエトではサービス業を入れない統計方法も
 しかし多くの経済学者は、GDP神話を変える気はないでしょう。GDPへの信仰は一種のイデオロギーだから、簡単に変わらないのです。
 経済統計という点でいえば、旧ソビエトでは、サービス業を入れない独自の統計を使っていました。旧ソビエトの統計方法を使って今の日本の経済状態を測り直したら、そのほうが実体に近いかもしれません。

 ところで、GDP神話の崩壊が明確に理解できるようになるのは、戦争が起きたときです。
たとえば、2024年2月、世界のGDPにおける順位において日本は3位から、ドイツに追い越されて4位に落ちたということが大きな話題になりました。

 2024年2月15日の読売新聞には、「内閣府が発表した2023年の名目国内総生産(GDP)は591兆4820億円だった。ドル換算すると、4兆2106億ドルとなり、ドイツよりも2400億ドル少なく、世界4位に転落した」という内容の記事が書かれており、多くのジャーナリストはこのニュースを日本経済の凋落というニュアンスで捉えました。
 しかしドイツは、ウクライナ紛争の影響で、ロシアからパイプラインで送られてきていた天然ガスの供給がストップしたため、エネルギー価格が約4倍に高騰し、GDPに大きく反映されてしまっているのです。
 こういう点に関しては正しく報道されず、日本のGDPの順位が下がった点だけがクローズアップされて語られているのが真相です。
 さらに、円安が起きています。そのため日本の経済力をドル換算のGDPだけで見れば、どうしても下降している数字が出てきてしまいます。

 これらの点をふまえれば、国家の経済力を示すものとしてのGDPの指標は、すでに崩壊しているといえます。それがはっきりと見える形をとるのは、繰り返しになりますが戦争が起きたときです。
 結局、国力というものが端的にわかるのは戦争に強いか弱いかであって、当然戦争に強い国のほうが国力は上なのです。

⚫︎アメリカの弱体化が暴く「GDPの噓」
 今回、まさにロシア・ウクライナの紛争で、「戦争の強さ=国力の大きさ」が如実に示されました。2023年の時点でGDPがアメリカの約7パーセントにすぎないロシアが、アメリカの支援するウクライナと互角、あるいはそれを凌駕する戦いを見せている現実を見ると、GDPがその国の実力を反映していないのはもはや明らかです。

 ウクライナ問題とパレスチナのガザ地区をめぐる問題で、アメリカの今の実力はこんなものだということが世界に知られてしまいました。
 ロシアにしても、ハマスにしても、中国にしても、じつはその点をよく見ています。
アメリカはなんとかこの状況をうまく乗り切りたいと思っていますが、アメリカの国力自体が弱体化している今、それは難しいでしょう。

 エマニュエル・トッドは『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』の中で、ウクライナ紛争にともなうロシアへの経済制裁について、
 一見、『戦争』を回避するための『平和的手段』に見えても、その究極の目的は『相手国の破壊』にある、かなり暴力的な手段なのです。現在、西洋諸国とロシアが互いに科している経済制裁は、長期化すればするほど、双方にダメージを与えるでしょう。
 しかし、西側メディアの論調とは違って、ロシア経済よりも、『消費』に特化した西側経済の脆さのほうが今後露呈してくると私は見ています。(『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』)
と述べています。

 この言葉は、生産する国(ロシア、日本、中国など)ではなく、消費する国(アメリカやフランス、イギリスなどの西側諸国など)のほうが、戦争が起きれば、経済的ダメージをより受けやすいという点を的確に示しています。
 なぜなら、戦争が長期化すればするほど、過酷になればなるほど、食料や武器、エネルギーなどの実際につくり出される物資(商品)が重要になっていくからです。

 先に触れた『経済成長って、本当に必要なの?』には、「ノーベル経済学者のジョセフ・スティグリッツとアマルティア・センは、GDPを増やそうとする政策が、国民の生活の質を貶めていると指摘している。
 この時代遅れの経済目標を使い続けている理由は、80年間も使い続けてきた惰性にすぎない」という記述もあります。

 この発言は、GDPがある国の現在の経済状況を測るための一基準にしかすぎず、それによって国民1人ひとりの生活の真の満足感や幸福感といったものは測ることができないということを意味しています。

 経済学者は自明のものとしてGDPを経済や財政の分析に使っていますが、もはやそれだけでは国力を測ることができないことに気がつくべきだと私は思います。
 ひと昔前にもてはやされた基準だけを追い求めることで、失ってしまうもののほうが大きいということや、そもそもその数字では測れないものが多数存在していることを私たちは自覚すべきなのです。

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