湯川秀樹博士の教科書復刊 量子力学の広がり予見 大阪大学出版会
毎日新聞 より 210824
日本人初のノーベル賞受賞者、湯川秀樹博士(1907~81年)がノーベル賞受賞の2年前の47年に著した教科書「量子力学序説」が7月、大阪大学出版会から復刊された。
旧仮名遣いなどを改めて読みやすくしたほか、湯川博士が当時、教科書に書き込んだ加筆部分も収録。現在につながる量子力学の広がりを予見していた記載もある。
71年の新装版を最後に絶版となり、現役の研究者でも目にする機会は少なかったといい、復刊の中心となった大阪大の土岐博名誉教授は「私自身、存在を知らなかったが、教科書として今でも通用する内容だ」と話している。
湯川博士は京都帝国大(現在の京都大)専任講師となった翌年の33年、大阪帝国大(現在の大阪大)講師を兼任。34年に専任講師となり、京都帝国大教授に招かれる39年まで大阪帝国大で素粒子の研究に打ち込んだ。この間に発表した論文「素粒子の相互作用についてⅠ」(中間子論)で、38年に理学博士号を取得。さらにはノーベル物理学賞を受賞した。
量子力学は、物質を形作る原子やその原子を構成する電子や中性子など、微小な世界の物理法則を扱う学問。ニュートン力学や電磁気学などの古典力学が身近な物質の運動を対象とするのに対し、量子力学は物質を波と粒子の性質を併せ持つ存在として研究する。
湯川博士は京都帝国大(現在の京都大)専任講師となった翌年の33年、大阪帝国大(現在の大阪大)講師を兼任。34年に専任講師となり、京都帝国大教授に招かれる39年まで大阪帝国大で素粒子の研究に打ち込んだ。この間に発表した論文「素粒子の相互作用についてⅠ」(中間子論)で、38年に理学博士号を取得。さらにはノーベル物理学賞を受賞した。
量子力学は、物質を形作る原子やその原子を構成する電子や中性子など、微小な世界の物理法則を扱う学問。ニュートン力学や電磁気学などの古典力学が身近な物質の運動を対象とするのに対し、量子力学は物質を波と粒子の性質を併せ持つ存在として研究する。
量子力学は20世紀の物理学、化学で中心的役割を果たし、さらには工学・生物学分野などでの応用が期待されている。湯川博士の教科書執筆はその黎明(れいめい)期にあたる。
⚫︎原著にできるだけ忠実に
「昭和十九年十月」と記載のある「序」には「量子力学は今日、物理学のみならず化学においても、もっとも基礎的な地位を占める理論体系である。さらにそれは工学の諸分科や、生物学・生理学・心理学ないしは哲学にまでも重大な影響を及ぼしつつある」と記され、湯川博士が量子力学の応用範囲の広がりを既に見据えていたことがうかがえる。
⚫︎原著にできるだけ忠実に
「昭和十九年十月」と記載のある「序」には「量子力学は今日、物理学のみならず化学においても、もっとも基礎的な地位を占める理論体系である。さらにそれは工学の諸分科や、生物学・生理学・心理学ないしは哲学にまでも重大な影響を及ぼしつつある」と記され、湯川博士が量子力学の応用範囲の広がりを既に見据えていたことがうかがえる。
また「追記」として、「東京の印刷所の強制疎開で組版がこわされてしまったので出版が非常に遅れ」と記すなど、戦況悪化の中で出版準備が進められたことが分かる記述もある。
土岐さんは2018年に編集者の藤原行俊さんから同書を紹介され、現在でも通用する内容に感銘を受けた。「現代の教科書は量子力学を使う観点から書かれているため、『なぜ古典力学ではいけないのか』という基本を突き詰める形では書かれていない。
土岐さんは2018年に編集者の藤原行俊さんから同書を紹介され、現在でも通用する内容に感銘を受けた。「現代の教科書は量子力学を使う観点から書かれているため、『なぜ古典力学ではいけないのか』という基本を突き詰める形では書かれていない。
しかしこの教科書は、『なぜ自然は量子力学に従っているのか』について、湯川博士が考え抜き、理解した内容が克明に書かれている」と指摘し、「量子力学の概要を理解するのに最適」と話す。
初版は「量子論の発達」「波動力学の概観」などの7章構成。57年の改訂増補版で「第8章相対論的電子論」が加わるなどの改編があったが、71年の新装版で、再び初版の構成に戻るなど、変遷がある。
初版は「量子論の発達」「波動力学の概観」などの7章構成。57年の改訂増補版で「第8章相対論的電子論」が加わるなどの改編があったが、71年の新装版で、再び初版の構成に戻るなど、変遷がある。
復刊では「原著にできるだけ忠実に」を目標に、改訂増補版で補われた部分も採録し、旧仮名遣いや旧漢字を現代表記に改め、読みやすくした。また生前親交があった小沼通二・慶応大名誉教授や湯川博士の著書をすべて保存している京大基礎物理学研究所の協力を得て、湯川博士が実際に使った著書の現物を参照。そこにチョークなどで書き込まれていた加筆、修正部分も反映した。図版も湯川博士の手書きの図を活用している。
⚫︎「副読本に」と既に重版
土岐さんは「応用の教科書だったら、70年以上前の本なんて使い物にならなかっただろうが、基礎の教科書だったから現代でも使える。行間からは、黎明期にある学問を若い学生たちに伝えたいという湯川博士の情熱が伝わってくる。
⚫︎「副読本に」と既に重版
土岐さんは「応用の教科書だったら、70年以上前の本なんて使い物にならなかっただろうが、基礎の教科書だったから現代でも使える。行間からは、黎明期にある学問を若い学生たちに伝えたいという湯川博士の情熱が伝わってくる。
量子コンピューターの開発など応用が進む現在、特に工学や生物学など他分野の学生にぜひ読んでほしい」と話している。阪大では一部の教員から「副読本として使いたい」との声が上がり、版元の大阪大学出版会によると、既に重版がかかったという。
⚫︎ A5判、422ページ、税抜き3800円。問い合わせ先は同出版会(06・6877・1614)。【高野聡】
⚫︎ A5判、422ページ、税抜き3800円。問い合わせ先は同出版会(06・6877・1614)。【高野聡】