無頼派生物学者・池田清彦さんに聞く「晩年を楽しく生きるため」の9つのルール
日刊ゲンダイDIGITAL より 221025
池田清彦さん(C)日刊ゲンダイ
独自の人生論を次々に出版して評判の生物学者の池田清彦さん(75歳)。
晩年の過ごし方のコツについて聞いた。
◇ ◇ ◇
【その1】「いいひと」だと思われようとしない
騙されないためには本当の知性を身につけるべきと主張されています。
「まず重要なのはもっと自分にわがままになれということ。日本人って人がいいから自分がイヤでも頼まれると引き受けちゃうんだよな。
◇ ◇ ◇
【その1】「いいひと」だと思われようとしない
騙されないためには本当の知性を身につけるべきと主張されています。
「まず重要なのはもっと自分にわがままになれということ。日本人って人がいいから自分がイヤでも頼まれると引き受けちゃうんだよな。
自分がいい人だと思われたいとか。それって騙される典型的なパターンだよ。さらに一度、人にいい人だと思われると今度は断りきれなくなっちゃう。
たとえば新興宗教の勧誘でも友だちから『会合に来てください。あなたを好きな人が多いんですよ』などと言われて行ってしまう。勧誘の電話がかかってきても切るのが悪いからとなんとなく話してしまって騙される。
たとえば新興宗教の勧誘でも友だちから『会合に来てください。あなたを好きな人が多いんですよ』などと言われて行ってしまう。勧誘の電話がかかってきても切るのが悪いからとなんとなく話してしまって騙される。
ぼくは0120から始まる番号なんか出たことない。付き合っちゃうと騙されるんだ。
友だちから電話もなく孤独だとついつい取り込まれてしまうことがあるよね。骨の髄まで人のためになるのはいいことだと信じ込んでいる人も騙されやすい。利他主義はヤバイよね」
【その2】過度な利他主義は権力の思うツボ
「利他」という思想は最近はやりだ。「カリスマ」と持ち上げられた京セラ創業者の故・稲盛和夫氏が広めたことでも知られている。
「だれかのために自分を犠牲にするのは特攻隊と同じ。SNSでも人助けの話がやたら共感されているけど危険な兆候だよね。会社でも残業して身を粉にする人間はいい人間、残業代をよこせというのはわがままな人間って話になりかねない。だけど実際はこの国でトップの人間が一番わがまま。
そもそも国家は幻想です。国家の実態は実は時の権力者のことなんですよ、国家のために戦えとプーチンは言ってますけど、本当は俺のために戦えと言っているわけです。
友だちから電話もなく孤独だとついつい取り込まれてしまうことがあるよね。骨の髄まで人のためになるのはいいことだと信じ込んでいる人も騙されやすい。利他主義はヤバイよね」
【その2】過度な利他主義は権力の思うツボ
「利他」という思想は最近はやりだ。「カリスマ」と持ち上げられた京セラ創業者の故・稲盛和夫氏が広めたことでも知られている。
「だれかのために自分を犠牲にするのは特攻隊と同じ。SNSでも人助けの話がやたら共感されているけど危険な兆候だよね。会社でも残業して身を粉にする人間はいい人間、残業代をよこせというのはわがままな人間って話になりかねない。だけど実際はこの国でトップの人間が一番わがまま。
そもそも国家は幻想です。国家の実態は実は時の権力者のことなんですよ、国家のために戦えとプーチンは言ってますけど、本当は俺のために戦えと言っているわけです。
どこかの宗教みたいにサタンをやっつけるためだなんて一番怪しいタイプ。そういう話に騙されないためには過度な利他主義は警戒したほうがいい。
それにはいい話にできるだけ感動しないこと。利他主義に利用されるから。
それにはいい話にできるだけ感動しないこと。利他主義に利用されるから。
年寄りは感情の起伏が激しくなって涙もろくなっているんだから,感動しちゃだめなんだよ。
僕なんか、ほとんど泣かないよ。感動させようとしている狙いには注意したほうがいいんだよ」
▶︎老化にあらがう必要はない
▶︎老化にあらがう必要はない
【その3】自分の身に関係ないことはスルーしましょう
「さらに言えば、何かを助けたりして、自分が気持ちよくなることもヤバいんだよね。プーチンは気に入らない、だから日本にいるロシア人をやっつけようとか。
「さらに言えば、何かを助けたりして、自分が気持ちよくなることもヤバいんだよね。プーチンは気に入らない、だから日本にいるロシア人をやっつけようとか。
ちゃんと自分の気持ちを整理して、善きにつけ悪しきにつけ、自分に関係のないことだったらスルーしていくことは大事。
プーチン辞めろなんて言えば自分は気持ちいいかもしれないけど、それってロシアで叫んだら意味があるけど日本で日本人が叫んでもあまり意味がない。そのエネルギーがあるならほかのことをやれ、選挙でも行け。
プーチン辞めろなんて言えば自分は気持ちいいかもしれないけど、それってロシアで叫んだら意味があるけど日本で日本人が叫んでもあまり意味がない。そのエネルギーがあるならほかのことをやれ、選挙でも行け。
効果がないのに自分がいいことした気分になるってことに騙されない。
年寄りはなるべく世間の空気に流されない。テレビはあまり見ないほうがいいよ。ぼくはほとんどテレビ見ないよ。『なんでも鑑定団』だけは見ているけど」
【その4】ほどほどに老いて生きていきましょう
長寿は遺伝子の組み合わせであって、ハダカデバネズミは老いずに30年でピンピンコロリで死ぬ例などを著書で紹介されていますね。
「人間が老いるのはしょうがなくて努力にも限度がある。老化に合わせた生き方をしましょう。体を鍛えても若返ることは不可能です。だから老化にあらがう必要はないんです。
【その4】ほどほどに老いて生きていきましょう
長寿は遺伝子の組み合わせであって、ハダカデバネズミは老いずに30年でピンピンコロリで死ぬ例などを著書で紹介されていますね。
「人間が老いるのはしょうがなくて努力にも限度がある。老化に合わせた生き方をしましょう。体を鍛えても若返ることは不可能です。だから老化にあらがう必要はないんです。
毎日ランニングしても硬いコンクリートを走れば膝を痛めるだけ。そもそも楽しくなければやらないほうがいい」
【その5】認知症の人をリスペクトしましょう
心身は健康でも脳機能にまつわる認知症には不安を持っている人は多いのでは。
「いつボケるかわからないんだからボケる心配してもしょうがない。
【その5】認知症の人をリスペクトしましょう
心身は健康でも脳機能にまつわる認知症には不安を持っている人は多いのでは。
「いつボケるかわからないんだからボケる心配してもしょうがない。
女性のほうがボケる確率が高いけど、それは女性のほうがボケた後も長生きしているからだと思う。
男のほうが認知症になってからの余命が短いに違いない。男は社会的な承認を気にしすぎて、認知症が怖くてストレスになるんじゃないかな。
介護施設で働いている人が言っていたけど女性4人のグループで3人が認知症だったけどみんな楽しそうに話していたので残りの1人が浮いていてつらいと言っていたって話もあるよ。可愛い認知症の人っていますしね。
大変なのは介護をする人だけど、なるべく認知症の人をリスペクトして(敬意を払って)話を聞いてあげたほうが暴力的にはならないという例も聞きました。そのほうが介護するほうも楽でしょう。
いま90代の親を介護している60代の人って結構いると思うけど、老老介護のコツは年寄りをあがめ立てて機嫌よくさせることだって言いますね。徘徊や妄想などが出なくなるというし」
【その6】その日暮らしに徹する
「楽しく生きるためにはその日暮らしに徹するってことです。今日のことはいいけど未来のことは知らん、と。75歳から10年先のことを考えてもしょうがない。
いま90代の親を介護している60代の人って結構いると思うけど、老老介護のコツは年寄りをあがめ立てて機嫌よくさせることだって言いますね。徘徊や妄想などが出なくなるというし」
【その6】その日暮らしに徹する
「楽しく生きるためにはその日暮らしに徹するってことです。今日のことはいいけど未来のことは知らん、と。75歳から10年先のことを考えてもしょうがない。
ぼくもせいぜい1年先のことしか考えていないな。しょうがないから」
▶︎「ぼくは終活をやらない。無駄だよ」
▶︎「ぼくは終活をやらない。無駄だよ」
【その7】適度なストレスは必要
「ストレスがまったくない生活というのはよくないんです。若いときは仕事があって常にストレスがあったけど、ストレスはやる気につながり、努力することにもつながります。
筋肉も同じで、破壊された筋肉がリバウンドして少し元気になる。ただし過度なストレスは危険なので、ぼくも仕事はセーブしたりコントロールしたりしている」
【その8】終活は無駄です
「ぼくは終活をやらない。無駄だよ。死んだ後に人に迷惑をかけるかもしれないけど、それはしょうがない。葬式だって、自分事じゃなくて他人事だよ。
【その8】終活は無駄です
「ぼくは終活をやらない。無駄だよ。死んだ後に人に迷惑をかけるかもしれないけど、それはしょうがない。葬式だって、自分事じゃなくて他人事だよ。
自分の死は自分は知ることはできないし。それよりも楽しいことをしようと考えています」
【その9】連れ合いとの老年の過ごし方のコツは「旅行」と「カネ」
晩年の夫婦円満の秘訣などは──。
「暇とカネがあれば夫婦でいろいろ旅行したほうがいいよ。ロンドンの大英博物館やボストン美術館に行ったことなどは夫婦の思い出になってずっと2人の話題になってくれています。今も一緒に出かけることは多い。
【その9】連れ合いとの老年の過ごし方のコツは「旅行」と「カネ」
晩年の夫婦円満の秘訣などは──。
「暇とカネがあれば夫婦でいろいろ旅行したほうがいいよ。ロンドンの大英博物館やボストン美術館に行ったことなどは夫婦の思い出になってずっと2人の話題になってくれています。今も一緒に出かけることは多い。
お互い楽しいことはある程度同じだけど、趣味は違うことをやっていたほうが張り合わずに序列がつかないから、お互いハッピーになれる。
妻は絵を描いたりステンドグラスを作ったりするのが趣味だけど、ぼくは虫を収集して研究するのが趣味。妻がぼくの論文のために虫の絵を描いてくれて、とても助かりました。
妻は絵を描いたりステンドグラスを作ったりするのが趣味だけど、ぼくは虫を収集して研究するのが趣味。妻がぼくの論文のために虫の絵を描いてくれて、とても助かりました。
カネに無頓着だったのもよかった。結婚したとき、ぼくは無職で収入がなかったので会社員だった妻に養ってもらっていたんです。だけど妻の会社が扶養家族だと認めないと言った。だからぼくはヤクザみたいな格好して妻の会社に乗り込んで認めてもらった(笑)。
当時、給料は現金支給でタンスの引き出しに無造作に入れていて2人で勝手に使っていました。半月くらいで空になってしまったこともあって残りの半月は食うや食わずの生活をしていたこともあったな。だからお互い今でもカネの争いはないですね」
▶︎池田さんの迷いのない生き方が参考になれば幸いだ。
▽いけだ•きよひこ 1947年,東京都生まれ。生物学者,評論家。早稲田大学名誉教授。
当時、給料は現金支給でタンスの引き出しに無造作に入れていて2人で勝手に使っていました。半月くらいで空になってしまったこともあって残りの半月は食うや食わずの生活をしていたこともあったな。だからお互い今でもカネの争いはないですね」
▶︎池田さんの迷いのない生き方が参考になれば幸いだ。
▽いけだ•きよひこ 1947年,東京都生まれ。生物学者,評論家。早稲田大学名誉教授。
著書に「騙されない老後」他多数。フジテレビ系「ホンマでっか!?TV」への出演など、メディアでも活躍。カミキリムシの収集家としても知られる。