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⚠️🌏 「砂」の枯渇が招く世界の危機 資源ウォーズの真実 砂、土、水  202106

2021-06-23 12:02:00 | 📗 この本

〝サンドウォーズ〟勃発! 「砂」の枯渇が招く世界の危機 資源ウォーズの真実 砂、土、水を飲み込む世界
      Wedge  より 210623 石 弘之

『砂戦争』(角川新書)
 半世紀前に、「水」を資源と考える人はほとんどいなかった。蛇口をひねれば出てくるものであり、文字通り「湯水のように……」使うことができた。ところが、1960年代に入って首都圏は雨がほとんど降らない干天つづきで、64年には最大50%減まで水道の給水が制限された。この年は前回の東京オリンピックが開かれた年で、大渇水のなかで開催できるのか、不安のなかで開会式にこぎ着けた。このころから「水資源」という言葉が定着した。

⚫︎無尽蔵に思えた砂 その枯渇が世界的に深刻
 世界を見渡すと、いたるところで水をめぐる紛争が起きている。米国のシンクタンクによると、2000年以降、「水資源」をめぐる国際紛争は357件に上る。
 たとえば、メコン川やナイル川などでダム建設をめぐって上流と下流の国の対立がつづき、シリア内戦では政府軍と反体制勢力が水源をめぐって激闘を繰り返した。身近な資源である水産物や森林をめぐっても、深刻な国際間の対立が表面化している。

 意外なことに、ありふれたはずの「砂」が、資源危機の二の舞になりつつある。これらの資源は、いずれも再生可能な資源である。国連は「SDGs(持続可能な開発目標)」を掲げているのに、これらの資源は「持続不可能」なまでに濫用されている。

 高いところから街を眺めてほしい。コンクリートのビルが地表を覆っているだろう。コンクリートは、セメントに砂と水を混ぜたものだ。ということは、ビルの約6~7割は砂でできていることになる。私は『砂戦争』(角川新書)という著作を出版して以来、ビルを見ると砂の塊に見えて仕方がない。

 砂はどこからきたのだろうか。上流で岩盤がはがれて川に落ちたり、川底や岸の岩が削られたりして川で運ばれ、途中で砕かれて次第に細かくなり下流や河口で沈殿したのが砂である。海岸に溜まれば砂浜になる。日本は急峻な山地が多く、しかも網の目のように河川が走るので砂の運搬量もハンパではない。

 上流から運ばれてくる量の砂を採掘している分には「持続可能な資源」だが、補充される以上に採掘すれば減っていく。水資源と同様に無尽蔵に思えた砂だが、その枯渇が世界的に深刻になってきている。都市の膨張とともに、ビル建設、道路舗装、公共建造物などのために過剰に採掘されているからだ。

 戦後復興、高度経済成長、そしてあいつぐ大災害からの復興で、日本の砂の消費量は飛躍的に増えてきた。高度経済成長期にはじまった臨海工業地帯の造成でも、埋め立てのために膨大な量の砂が海に投入された。自然海岸は消えていき、海水浴場や潮干狩り場は次々に閉鎖に追い込まれた。

 砂は砕石などとともに「骨材」とよばれる。骨材はその名の通り、コンクリートの骨格となる建設資材で、砂の最大の用途だ。その供給は89年度からの8年間で最高になり、ピークとなった90年度には約9億4900万㌧に達した。その後は建設件数が減ったこともあって、ピーク時の4割ほどに減った。

⚫︎日本の砂浜は 180年後に消える?
 砂浜という緩衝地帯を失って、津波や高波や浸水の被害も目立ってきた。今や、日本の海岸線の多くが波消しブロックや防波堤や突堤などの人工構造物で固められ、海岸はずたずたにされてしまった。
 東京湾や大阪湾を見てほしい。海岸線はほとんどがコンクリートで固められて、自然の砂浜は申し訳程度にしか残されていない。
 実際、全国の海岸が平均17㌢ずつ侵食されている計算だ。日本の砂浜の平均が30㍍程度だから、このままでは約180年後には、日本の砂浜が全て失われることになりかねないのだ。

 確かに日本は経済的には豊かになった。でも、その分自然は貧しくなった。「白砂青松(はくしゃせいしょう)」といわれた日本の砂浜がこれほど醜悪になったのに、どれだけの人が気づいているだろうか。これは政治家や行政や建設業者に自然をまかせっぱなしにしてきた、私たち世代の責任でもある。

 今の子どもたちが知っている砂浜は、遠くの国から運ばれてきた砂を敷いた人工の海岸だ。たとえば、和歌山県白浜町の白良浜は、文字通り白い浜辺が観光の目玉である。だが、町名にもなった白い砂は、オーストラリアから輸入したものだ。規模にして約14万㌧。冬季には風による飛散防止のためのネットを張って保護している。阪神甲子園球場で高校の野球選手たちが持ち返る土には中国産が混じっている。

⚫︎24の島が消えた インドネシア
 国連の報告書(2014年)によると、世界で毎年500億㌧前後もの砂が使われている。過去20年間で消費量は5倍にもなった。これは東京ドーム2万杯分であり、上流から運ばれて補充される2倍以上の量に相当する。2060年までに820億㌧まで増加する、と国連は予測する。

 誰しも「砂漠にはいくらでも砂があるではないか」という疑問を抱くに違いない。だが、砂漠の砂粒は細かくて表面が滑らかなので、セメントをつなぎにしても互いに絡み合わないのでコンクリートの強度が得られない。粉砂糖とザラメ糖の違いである。
 さらに、世界では大小80万基以上のダムがつくられて上流からの砂の補給を阻み、本来ならば、河口地帯に運ばれるはずの量の半分しかたどり着けない。

 これだけ重要な資源であるのにもかかわらず、砂の採掘や取引を規制する国際条約は存在しない。たとえば、シンガポールは世界最大の砂の輸入国であり、独立以来、近隣のアジア諸国から大量の砂をかき集めて海を埋め立て、国土面積を25%も拡張した。
 シンガポールの初代首相リー・クアンユーはかつて「この国の発展には砂と労働者を近隣の国から集めるのが必須の条件だ」と演説し、周辺国から出稼ぎ労働者を集め、同時に砂もかき集めた。
 この砂を供給したインドネシアでは24の島が消えてしまった。シンガポールの輸入は違法なものも多く、インドネシアをはじめマレーシア、カンボジアなどの輸出国が次々に輸出を禁止した。
 各国の禁輸に対抗するため、シンガポールは砂の国家備蓄をしている。砂を石油並みの戦略的資源と考えていることが分かる。
<シンガポール東部のベドックには備蓄された砂 がある>

 世界が呆れかえったのが、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイに出現した超モダン都市であろう。砂漠のなかに莫大なコンクリートをふんだんにぶちまけて、巨大な人工空間をつくり上げた。圧巻は世界一高い「ブルジュ・ハリファ・タワー」であろう。163階建て828㍍の高さは、東京スカイツリーの1.3倍もある。76万㌧の高性能コンクリート(オリンピックサイズのプールにして132杯分)。それに3万9000㌧の鋼鉄、10万3000平方㍍のガラスが使われた。さらに今年完成予定の「ドバイ・クリークタワー」は1000㍍を超える。

①ブルジュ・ハリファ:アラブ首長国連邦のドバイにある。163階建てで、2004年に着工し、10年に完成した。総工費は約15億ドルとされる
②上海中心大厦:上海中心大厦は、「上海タワー」と訳される。127階建てで、2008年に着工、16年に完成した。総工費は150億元以上とされる
③アブラージュ・アル・ベイト・タワーズ:サウジアラビアのメッカにある複合ビルで、ホテル棟である「メッカ・ロイヤル・クロック タワー」が最も高い。2004年着工、11年完成 
(出所)「Council on Tall Buildings and Urban Habitat」よりウェッジ作成 

⚫︎米国の100年分のコンクリを 2年以下で消費する中国
 アジア、中東などの発展途上地域では、建設ラッシュに沸いている。それを反映して、砂の市場規模は世界で約700億㌦にも上る。ただ、砂の採掘量や消費量や貿易量については、統計がない国が多く実態はつかめない。この市場規模は21年の半導体製造装置の世界販売額に匹敵する。
 この背景にあるのは、世界的な都市の膨張がある。国連世界人口白書によると、世界人口は1900年の16億5000人から2018年には76億3100万人と4.6倍になった。この間に都市人口は、2億2000万人から43億人に膨れ上がった。

 総人口のうち都市部に住む人口の割合を「都市化率」という。国連の「世界都市人口予測」によると、50年当時、世界の都市化率は30%にすぎなかったのが、18年には55%になり、50年には68%にまで増えると予測される。ちなみに、日本の都市化率は94%だ。
(出所)「United Nations 2018 Revision of World Urbanization Prospects」よりウェッジ作成 
 歴史上、例のない建設ラッシュのつづく中国は、年間25億㌧近いコンクリートを消費する。アメリカが20世紀の100年間に使ったコンクリートの総量は45億㌧だから、中国の2年分にもおよばない。

 19年暮れには中国の武漢市からはじまった新型コロナウイルスの流行が、全世界を巻き込んで過去100年で最悪のパンデミックになった。これも、都市の過密を抜きには考えられない。飛沫感染するウイルスにとって、人口の集中という絶好の環境をつくってしまった。

⚫︎はびこる砂の違法取引から 目を背けるな
 砂の不足から世界各国で砂の違法取引がはびこっている。砂を違法に採掘・販売する「砂マフィア」と呼ばれ、有力者、役人、警察、軍部などが犯罪組織と結託して、違法な砂の採掘や取引を牛耳っている。こうしたヤミ組織が、中国、インド、インドネシアなどで暗躍し、国連の調査では違法な砂採掘は約70カ国で捜査の対象になっているという。

 反対する活動家やジャーナリストの殺害が多発している。過去10年間に、インド、インドネシアなどで砂の保護を訴えていたNGOの活動家、地元住民、政府関係者など数百人が殺害された。

 川砂は最高品質の骨材だが、その採掘はいとも簡単だ。以前は河岸などでの露天掘りが主だったが、資源の枯渇とともに川底や海底に採掘場所が移ってきた。船に吸引ポンプを取り付けて川底にパイプを伸ばして吸い上げるか、浅い場所であれば、パワーショベルなどですくい取って船やトラックで運ぶ。

 こうした砂の略奪で、海岸や河岸が侵食されて集落が押し流され、島々が水没した。また、アジア各地の漁村では、漁場を奪われた困窮した漁民が抗議行動を起こしている。各地で、美しいビーチが姿を消し、水辺の生態系が破壊され、生物は絶滅の危機に瀕している。

 英語のスラングで「砂に頭を突っ込む」(put the head in the sand)とは、「見てみない振りをする」という意味に使われる。そうしていられない時代がはじまっている。

Wedge7月号では、以下の特集を組んでいます。
■資源ウォーズの真実 砂、土、水を飲み込む世界
   ※砂
part I-1  〝サンドウォーズ〟勃発! 「砂」の枯渇が招く世界の危機
  2     ハイテク機器からシェールまで 現代文明支える「砂」の正体     
  3     砂浜、コンクリート…… 日本の知られざる「砂」事情とは? 
   ※土
part II-1  レアアースショックから10年 調達多様化進める日米
   2     中国のレアアース戦略と「デジタル・リヴァイアサン」    
   3    〝スーパーサイクル〟再来 危機に必要な真実を見極める眼力
   ※ 水
part III-1  「枯渇」叫ばれる水 資源の特性踏まえた戦略を 
   2     重み増す「水リスク」 日本も国際ルール作りに関与を  
   3     メコン河での〝水争奪〟 日本流開発でガバナンス強化を
◆Wedge2021年7月号より

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