世界で注目を集めている小型原子炉は、本当に脱炭素の選択肢になるのか
EnergyShift編集部 より211028
2050年カーボンニュートラル実現に向けて、再生可能エネルギーの比率をどこまで上げるのか。再エネの導入拡大は重要な論点のひとつだが、その普及スピードや天候による発電量の変動を鑑みると、ある種の現実解として「原子力発電」をどこまで稼働させるのかも、考えるべき論点になっている。
事実、次世代原子力である小型モジュール炉(SMR)の導入議論が日本でも起こりはじめた。原子力の最大の課題である「安全性」の壁を乗り越える技術のひとつと称されるSMRについて、もとさんこと本橋恵一が解説する。
⚫︎そもそも小型原子炉(SMR)とは
小型原子炉(SMR:Small Modular Reactor)とは、出力が比較的小さく、パッケージ(モジュール)で製造される次世代原子炉を指す。
⚫︎そもそも小型原子炉(SMR)とは
小型原子炉(SMR:Small Modular Reactor)とは、出力が比較的小さく、パッケージ(モジュール)で製造される次世代原子炉を指す。
IAEA(国際原子力機関)の定義によれば、出力が30万kW以下とされ、主流の大型炉(100万kW超)に比べると3分の1から4分の1ほどの規模となり、主流の大型炉よりはるかに小さい。なかには5,000kWというものもあり、マイクロ原子炉と呼ばれている。
実はSMRに近いものはすでに存在している。それが原子力潜水艦だ。潜水艦の内部には、数万kWの原子炉が入っており、それで電力をつくり、海中を走っている。
主流の大型炉より工期が短く、安全性が高いとされるSMRを導入しようと、各国が開発を進めている。10月12日、フランスのマクロン大統領は原子力発電分野での「破壊的イノベーション」に取り組むと宣言し、2030年までに10億ユーロ(約1,300億円)を投じてSMRを複数導入すると表明した。
海外電力調査会によると、世界では73基のSMRが開発中で、アメリカ18基、ロシア17基と、この2国が特に積極的で、全体の約半分を占める。次いで中国8基、日本の7基が続く。
世界で唯一、SMRを実用化したのがロシアだ。2020年5月、SMR2基を搭載した海上浮体式原子力発電所(FNPP:Floating Nuclear Power Plant)が運転を開始。
実はSMRに近いものはすでに存在している。それが原子力潜水艦だ。潜水艦の内部には、数万kWの原子炉が入っており、それで電力をつくり、海中を走っている。
主流の大型炉より工期が短く、安全性が高いとされるSMRを導入しようと、各国が開発を進めている。10月12日、フランスのマクロン大統領は原子力発電分野での「破壊的イノベーション」に取り組むと宣言し、2030年までに10億ユーロ(約1,300億円)を投じてSMRを複数導入すると表明した。
海外電力調査会によると、世界では73基のSMRが開発中で、アメリカ18基、ロシア17基と、この2国が特に積極的で、全体の約半分を占める。次いで中国8基、日本の7基が続く。
世界で唯一、SMRを実用化したのがロシアだ。2020年5月、SMR2基を搭載した海上浮体式原子力発電所(FNPP:Floating Nuclear Power Plant)が運転を開始。
また、中国は2021年7月にSMR「玲龍1号」が着工しており、海外電力調査会は「アメリカ、イギリス、カナダの完成時期が2025年以降であるのに対し、ロシア、中国は2020年の運転開始や2021年の運開を予定するなど、先行している」という。
日本でも導入議論が高まりつつあるSMRは、次の4つ特徴を持つ。
ー安全性
ー工期が短い
ー核不拡散
ー水素製造への利用も研究中
日本でも導入議論が高まりつつあるSMRは、次の4つ特徴を持つ。
ー安全性
ー工期が短い
ー核不拡散
ー水素製造への利用も研究中
ひとつ目が、安全性だ。そもそも原子力発電は、原子炉の中でウランが核分裂するときに出る熱で水を沸かして蒸気をつくり、その蒸気の力でタービンを回して発電している。
この原子炉が暴走したとき、原子炉そのものを冷やす必要があるのだが、今、主流の大型の原子炉はポンプで水を汲み上げて冷やさなければならず、電気の供給が途絶えると冷却できない、という問題を抱えている。
一方、SMRは小型であるため、大型炉よりも冷却が早いとされ、しかも、原子炉全体をプールの中に沈めておくことができるため、メルトダウンを起こしにくいとされている。
2つ目が工期の短さだ。SMRは、モジュール化して工場で組み立てて、現地へ運ぶことができるため、品質管理がしやすく、しかも工事期間も短くて済む。
3つ目が核不拡散だ。原子力施設には核兵器への転用を防ぐため核不拡散の原則がある。
SMRは原子炉全体を工場で組み立てて現地に設置することも可能になるとされている。
一方、SMRは小型であるため、大型炉よりも冷却が早いとされ、しかも、原子炉全体をプールの中に沈めておくことができるため、メルトダウンを起こしにくいとされている。
2つ目が工期の短さだ。SMRは、モジュール化して工場で組み立てて、現地へ運ぶことができるため、品質管理がしやすく、しかも工事期間も短くて済む。
3つ目が核不拡散だ。原子力施設には核兵器への転用を防ぐため核不拡散の原則がある。
SMRは原子炉全体を工場で組み立てて現地に設置することも可能になるとされている。
原子炉の持ち運びが可能になれば、発電が終わったら、原子炉全体を撤去することもできるということだ。そうなれば、途上国などにつくったとしても、途上国などがSMRを解体して核兵器をつくることを防ぐことができる。そうした意味では、核不拡散にもつながる。
最後の4つ目が水素製造への利用だ。原子力は電気をつくるだけではなく、発電時に排出される熱を使って水素をつくることも可能だ。原子力による電気エネルギーのみを使って、水を電気分解して製造された水素はイエロー水素と呼ばれ、日本でも研究開発が進められている。
世界でSMR導入に対する関心が高まる背景には、活発化する技術開発がある。そこで次に国内外の開発状況を見ていきたい。
⚫︎SMR開発をめぐる各国の状況とは・・・
実用化に向けて先行するのがアメリカだ。
2007年創業のニュースケール・パワー社は、2029年にも1号機が運転開始すると言われている。すでに、米国原子力規制委員会(NRC)の型式認証を取得済みであり、あとは建設するだけの状況になっている。同社は、出力7.7万kWのモジュール炉を最大12基並べて運転する計画で、合計出力100万kW弱と、大型原子炉に近い出力規模となる。緊急時には原子炉全体をプールに沈めるため、非常用電源がなくても炉心を冷やせるという。
そしてもうひとつの特徴が、負荷追従運転で再エネの変動に合わせた出力調整が可能である点だ。ニュースケール社の原子炉は、再エネが多くの電力を発電しているときは発電量を絞り、再エネの発電量が落ちてきたときには、出力の増加ができる。出力調整が可能という特徴はかなりのメリットになるだろう。
また、同社には米国エネルギー省が4億ドル(約450億円)を出資するほか、日揮ホールディングス(0.4億ドル)とIHI(0.2億ドル)も出資し、原子炉格納容器など中核部材の開発や建設工程の管理などで協力体制を組んでいる。
⚫︎日立はGEと組み、2028年の実用化を目指す
日本企業も開発を進めている。
その1社、日立製作所はGEとの合弁会社(GE日立ニュークリア・エナジー)で、SMRであるBWRX-300を開発中だ。
出力30万kWとなるBWRX-300のひとつの特徴が「沸騰水型軽水炉(BWR)」だという点である。沸騰水型は事故を起こした福島第一原発と同じ形式であるものの、従来の沸騰水型よりも非常に構造を単純化することにより、コストを削減し、大規模事故の発生リスクを回避しているという。
GEと日立は2028年ごろの実用化を目指して、NRCには安全審査項目に関する技術レポートなどを提出済みだが、まだ型式認定はおりていない。またカナダでの建設も視野に入れて、カナダ原子力安全委員会でも並行して審査がはじまっており、アメリカではなく、カナダで先に運転開始するのではないかと見られている。
GEと日立は、PRISM(Power Reactor Innovative Small Module)と呼ばれるSMRも開発している。
PRISMは原子炉の冷却に水ではなく、ナトリウムを使った原子炉になる。ナトリウムを冷却材に使用し、ナトリウムを循環させることで高温のナトリウムをつくり、その熱いナトリウムからお湯をつくり、原子炉を回すタイプだ。
最後の4つ目が水素製造への利用だ。原子力は電気をつくるだけではなく、発電時に排出される熱を使って水素をつくることも可能だ。原子力による電気エネルギーのみを使って、水を電気分解して製造された水素はイエロー水素と呼ばれ、日本でも研究開発が進められている。
世界でSMR導入に対する関心が高まる背景には、活発化する技術開発がある。そこで次に国内外の開発状況を見ていきたい。
⚫︎SMR開発をめぐる各国の状況とは・・・
実用化に向けて先行するのがアメリカだ。
2007年創業のニュースケール・パワー社は、2029年にも1号機が運転開始すると言われている。すでに、米国原子力規制委員会(NRC)の型式認証を取得済みであり、あとは建設するだけの状況になっている。同社は、出力7.7万kWのモジュール炉を最大12基並べて運転する計画で、合計出力100万kW弱と、大型原子炉に近い出力規模となる。緊急時には原子炉全体をプールに沈めるため、非常用電源がなくても炉心を冷やせるという。
そしてもうひとつの特徴が、負荷追従運転で再エネの変動に合わせた出力調整が可能である点だ。ニュースケール社の原子炉は、再エネが多くの電力を発電しているときは発電量を絞り、再エネの発電量が落ちてきたときには、出力の増加ができる。出力調整が可能という特徴はかなりのメリットになるだろう。
また、同社には米国エネルギー省が4億ドル(約450億円)を出資するほか、日揮ホールディングス(0.4億ドル)とIHI(0.2億ドル)も出資し、原子炉格納容器など中核部材の開発や建設工程の管理などで協力体制を組んでいる。
⚫︎日立はGEと組み、2028年の実用化を目指す
日本企業も開発を進めている。
その1社、日立製作所はGEとの合弁会社(GE日立ニュークリア・エナジー)で、SMRであるBWRX-300を開発中だ。
出力30万kWとなるBWRX-300のひとつの特徴が「沸騰水型軽水炉(BWR)」だという点である。沸騰水型は事故を起こした福島第一原発と同じ形式であるものの、従来の沸騰水型よりも非常に構造を単純化することにより、コストを削減し、大規模事故の発生リスクを回避しているという。
GEと日立は2028年ごろの実用化を目指して、NRCには安全審査項目に関する技術レポートなどを提出済みだが、まだ型式認定はおりていない。またカナダでの建設も視野に入れて、カナダ原子力安全委員会でも並行して審査がはじまっており、アメリカではなく、カナダで先に運転開始するのではないかと見られている。
GEと日立は、PRISM(Power Reactor Innovative Small Module)と呼ばれるSMRも開発している。
PRISMは原子炉の冷却に水ではなく、ナトリウムを使った原子炉になる。ナトリウムを冷却材に使用し、ナトリウムを循環させることで高温のナトリウムをつくり、その熱いナトリウムからお湯をつくり、原子炉を回すタイプだ。
そのため「高速炉」とも呼ばれ、従来の原子炉と比べて廃棄物の有害度が低く、量も少ない。また、使用ずみ核燃料から取り出されるプルトニウムを燃料として使えるといった特徴を持つ。
米国エネルギー省は、PRISMをベースとした出力30万kWの多目的試験炉(VTR)をアイダホ国立研究所に建設し、2030年までに運転開始をする計画だ。
⚫︎三菱重工は小型化と一体化で大規模事故のリスクを回避
日立が開発するなら、三菱重工もやらない手はない。
三菱重工が開発するSMRは、3万kWから30万kW級のもので、原子炉内でつくった約300℃と高温かつ高圧の水から蒸気をつくり、原子炉を回すしくみとなる。
概念設計はすでに終了しており、蒸気をつくる熱交換器などの主要機器を原子炉容器内に入れ、一体化させることで、非常にシンプルな小型原子炉が開発できるとしている。
この原子炉が実用化されると、離島や船舶の電源に応用することが可能になる。
三菱重工はヘリウムガスを冷却材に使う高温ガス炉(HTTR:High Temperature engineering Test Reactor)の開発も進めている。ヘリウムを使うことで、高圧の水よりも高い熱を効率よく取り出すことができるという特徴がある。
米国エネルギー省は、PRISMをベースとした出力30万kWの多目的試験炉(VTR)をアイダホ国立研究所に建設し、2030年までに運転開始をする計画だ。
⚫︎三菱重工は小型化と一体化で大規模事故のリスクを回避
日立が開発するなら、三菱重工もやらない手はない。
三菱重工が開発するSMRは、3万kWから30万kW級のもので、原子炉内でつくった約300℃と高温かつ高圧の水から蒸気をつくり、原子炉を回すしくみとなる。
概念設計はすでに終了しており、蒸気をつくる熱交換器などの主要機器を原子炉容器内に入れ、一体化させることで、非常にシンプルな小型原子炉が開発できるとしている。
この原子炉が実用化されると、離島や船舶の電源に応用することが可能になる。
三菱重工はヘリウムガスを冷却材に使う高温ガス炉(HTTR:High Temperature engineering Test Reactor)の開発も進めている。ヘリウムを使うことで、高圧の水よりも高い熱を効率よく取り出すことができるという特徴がある。
実用化にはまだ時間がかかるが、1,000℃の高温ヘリウムを得ることができれば、発電効率が上昇し、さらにこの熱源を使って、効率よく水素をつくることができると期待されている。
⚫︎冷却にナトリウムを使った原子炉の開発も進む
アメリカにはビル・ゲイツが設立した原子力開発ベンチャーのテラパワー社もある。
テラパワーは「Natrium」という名の原子炉を開発中だ。その名前の通り、先述したPRISMと同じく、ナトリウムを冷却材に使う。
⚫︎冷却にナトリウムを使った原子炉の開発も進む
アメリカにはビル・ゲイツが設立した原子力開発ベンチャーのテラパワー社もある。
テラパワーは「Natrium」という名の原子炉を開発中だ。その名前の通り、先述したPRISMと同じく、ナトリウムを冷却材に使う。
このNatriumの高速炉技術はGE日立が開発している。中国とも協力協定を結んでおり,2021年6月には,アメリカのワイオミング州にある石炭火力跡地で,実証を行うと発表。
マイクロ原子炉(MMR:Micro Modular Reactor)の開発を目指すのが、アメリカのウルトラ・セーフ・ニュークリア社だ。親会社はカナダの企業であり、出力5,000kWのマイクロ原子炉(MMR)をつくり、複数基並べて発電させようと、実証を進める計画だ。
マイクロ原子炉(MMR:Micro Modular Reactor)の開発を目指すのが、アメリカのウルトラ・セーフ・ニュークリア社だ。親会社はカナダの企業であり、出力5,000kWのマイクロ原子炉(MMR)をつくり、複数基並べて発電させようと、実証を進める計画だ。
20年間発電し、20年後、発電が終わったら、撤去し、新たなモジュールに交換するしくみで、核不拡散に資するものになるという。
イギリスのロース・ロイスは1950年代から原子力潜水艦における原子炉の設計・製造をおこなってきた。
イギリスのロース・ロイスは1950年代から原子力潜水艦における原子炉の設計・製造をおこなってきた。
その実績からSMRに参入し、「Rolls-Royce SMR」という名の原子炉の開発を進めている。出力規模が44万kW〜47万kWと他社原子炉より大きいのだが、2030年代に初号機を運転開始させ、2035年には10基程度の運転開始を目指している。
同社はさらに、2016年にUK SMRコンソーシアムを立ち上げ、Assystem、Atkins、Jacobs、NNL、Nuclear AMRCなどさまざまな企業と開発を進めている。
⚫︎SMRが抱える課題とは・・・
OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)は、「2035年までに約2,000万kWに達する可能性がある」と指摘するように、今、SMRの開発は日本のみならず、アメリカ、カナダ、イギリス、ロシア、中国、韓国などで進んでいる。
⚫︎SMRが抱える課題とは・・・
OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)は、「2035年までに約2,000万kWに達する可能性がある」と指摘するように、今、SMRの開発は日本のみならず、アメリカ、カナダ、イギリス、ロシア、中国、韓国などで進んでいる。
出典:JAEA(日本原子力研究開発機構)
特に、アメリカやイギリス、カナダは世界をリードしようと国をあげてのSMR開発に取り組んでいる。ロシア、中国もSMRの海外進出を狙っている。だが、課題も多い。
たとえば経済性だが、確かに工期が短縮されれば、コスト削減はできるが、100万kWの大型炉1基と10万kW10基を製造した場合、大型炉のスケールメリットを覆すほどの経済性は発揮できないとされている。再エネの発電コストの低下が今後も進展する中、コスト競争力を発揮できるかも不透明だ。
また、小型炉を複数設置するには立地自治体との調整も複雑になり、その手続きが軽減されるわけではない。さらに、核不拡散の原則が遵守されるかもわからない。世界各地で設置されることになれば、それだけ放射性物質の管理が難しくなり、核兵器に転用される可能性も高まる。
またPRISMやNatriumなどの原子炉は、ナトリウムを冷却材に使うが、本当にナトリウムを適切に扱えるのか? 疑問が残る。実際、日本では高速増殖炉「もんじゅ」がナトリウム漏れ事故を起こし、2016年に廃炉が決定している。
日本特有の課題もある。アメリカなど海外企業が主体に製造したSMRが、地震や津波が多い日本の立地条件に適合するのか。導入には原子力規制委員会による審査を通過しなければならない。
そもそもSMRであっても、原子力そのもののリスクはゼロにはならず、バックエンドの課題は抱えたままだ。使用済み核燃料の処理はまだ誰も解決できていない。フィンランドだけが地中深く埋めることを決めたくらいだ。
⚫︎日本はSMRを導入することができるのか
SMRの開発は、従来の原子炉メーカーであるGEや三菱重工、アレバ(現・オラノ)などではなく、スタートアップの活躍が目立つ。しかし、ロシアが2基、商業運転を開始しただけで、実用化のめどが立っているとは言い難い。さらに大型炉以上の安全性を本当に持つのか、その実証にはさらなる時間が必要だ。
CO2を排出しないSMRはカーボンニュートラルの実現オプションとしては否定できない。
しかし、原子力への信頼が必ずしも十分に回復していない状況の日本で、導入を進めることができるのか。10月22日に閣議決定された第6次エネルギー基本計画においても、原子力のリプレース(建て替え)は盛り込まれず、中長期にわたる原子力政策の議論は棚上げされたままだ。
また、SMRの導入議論の前に、既存原発の再稼働や運転期間の延長に取り組むべきとの意見もある。
SMRが本当に使えるのかどうか、慎重に見極めることが大切ではないか。
(Research:本橋恵一・渡邊健斗)
特に、アメリカやイギリス、カナダは世界をリードしようと国をあげてのSMR開発に取り組んでいる。ロシア、中国もSMRの海外進出を狙っている。だが、課題も多い。
たとえば経済性だが、確かに工期が短縮されれば、コスト削減はできるが、100万kWの大型炉1基と10万kW10基を製造した場合、大型炉のスケールメリットを覆すほどの経済性は発揮できないとされている。再エネの発電コストの低下が今後も進展する中、コスト競争力を発揮できるかも不透明だ。
また、小型炉を複数設置するには立地自治体との調整も複雑になり、その手続きが軽減されるわけではない。さらに、核不拡散の原則が遵守されるかもわからない。世界各地で設置されることになれば、それだけ放射性物質の管理が難しくなり、核兵器に転用される可能性も高まる。
またPRISMやNatriumなどの原子炉は、ナトリウムを冷却材に使うが、本当にナトリウムを適切に扱えるのか? 疑問が残る。実際、日本では高速増殖炉「もんじゅ」がナトリウム漏れ事故を起こし、2016年に廃炉が決定している。
日本特有の課題もある。アメリカなど海外企業が主体に製造したSMRが、地震や津波が多い日本の立地条件に適合するのか。導入には原子力規制委員会による審査を通過しなければならない。
そもそもSMRであっても、原子力そのもののリスクはゼロにはならず、バックエンドの課題は抱えたままだ。使用済み核燃料の処理はまだ誰も解決できていない。フィンランドだけが地中深く埋めることを決めたくらいだ。
⚫︎日本はSMRを導入することができるのか
SMRの開発は、従来の原子炉メーカーであるGEや三菱重工、アレバ(現・オラノ)などではなく、スタートアップの活躍が目立つ。しかし、ロシアが2基、商業運転を開始しただけで、実用化のめどが立っているとは言い難い。さらに大型炉以上の安全性を本当に持つのか、その実証にはさらなる時間が必要だ。
CO2を排出しないSMRはカーボンニュートラルの実現オプションとしては否定できない。
しかし、原子力への信頼が必ずしも十分に回復していない状況の日本で、導入を進めることができるのか。10月22日に閣議決定された第6次エネルギー基本計画においても、原子力のリプレース(建て替え)は盛り込まれず、中長期にわたる原子力政策の議論は棚上げされたままだ。
また、SMRの導入議論の前に、既存原発の再稼働や運転期間の延長に取り組むべきとの意見もある。
SMRが本当に使えるのかどうか、慎重に見極めることが大切ではないか。
(Research:本橋恵一・渡邊健斗)