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『セクシー田中さん』の悲劇で加速する 「漫画ビジネス」の残念な未来  202402

2024-02-01 01:30:00 | ¿ はて?さて?びっくり!

『セクシー田中さん』の悲劇で加速する 「漫画ビジネス」の残念な未来
  ITmedia Online より 240201 窪田順生


 日本テレビは映像化の提案に際し、原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております。

 果たして、これが「感謝しております」という人の訃報に付けなくてはいけない文言なのだろうか。

 人気漫画家・芦原妃名子さんが亡くなったことを受けた日本テレビの哀悼コメントが、「露骨な責任逃れ」「いま言うべきことか」などと批判を呼んでいる。芦原さんが亡くなる直前に世に投げかけた「言葉」を全否定するようなトーンだからだ。

 きっかけは、日本テレビ系で2023年10~12月に放送したドラマ『セクシー田中さん』の原作者である芦原さんが自身のブログとXアカウント(旧Twitter)で、全10話のうち、9話と10話の脚本を自ら書くことになった経緯を説明したことだった。

 芦原さんによれば、実写化にあたってドラマ制作スタッフらと話し合いをして、「必ず漫画に忠実に」することや、そうでない場合には芦原さん自身が加筆修正することなどの約束を取り付けた。また、漫画がまだ未完であることから、ドラマのラストは芦原さん自身が“あらすじ”やセリフを用意し、脚本に落とし込む際には原則変更しないことも希望して、その条件も呑んでもらっていたという。

 しかし、フタを開ければこれらの取り決めが守られることはなかった。芦原さんの意図に反し、毎回大きく改変したプロットや脚本が提出され、登場人物のキャラも世界観もガンガン手を加えられていた。さすがにこれは話が違いすぎると、芦原さん自身が9話と10話の脚本を手がけたというのだ。

⚫︎脚本家側も不満の声
 一方、「降板」となった脚本家側は23年末に自身のSNSで「過去に経験したことのない事態で困惑」「苦い経験」と不満を述べて、「どうか、今後同じことが二度と繰り返されませんように」と発信していた。

 ドラマ制作サイドと原作者の主張が真っ向から食い違うと注目を集める中で、芦原さんは「攻撃したかったわけじゃなくて。ごめんなさい」とこれまでの投稿を削除、そして帰らぬ人となった。

 このような悲劇こそ「二度と繰り返されませんように」と強く願う一方で、筆者は芦原さんが必死の思いで訴えたことについてはこのままフタをするべきではないと考えている。
 なぜこんな行き違いが起きたのかと日本テレビは第三者調査を実施、その結果を踏まえて、テレビドラマ業界、漫画原作者、そして代理人を務める出版社が知恵を出しあって、漫画の実写化で二度とこのような問題が起きないようにすべきだ、と強く思う。

▶︎ドラマと漫画原作の「田中さん」を比較(出典:日本テレビ)
 テレビ局からすれば「自分たちは悪くない」で突っぱねたいだろうが、これは長い目で見れば日本のテレビドラマを守ることになる選択なのだ。

 芦原さんの訴えを「臭いものにフタ」という対応をしている限り、多くの人気漫画家が「実写化するなら原作者へリスペクトのない日本よりも海外の方が安心」としてNetflixやアマゾンのPrime Video、中国や韓国の配信事業者と組む流れが今以上に加速してしまうからだ。

⚫︎世界的大ヒット漫画も
 ご存じのように、日本では人気漫画の実写化が今や定番コンテンツ化している。一方で「原作の世界観が台無し」「芸能事務所ありきの毎度おなじみのキャスティングでイメージと全然違う」など、コアなファンからは酷評されるパターンが多い。

 そういう人気コンテンツに“いっちょかみ”したいオトナたちが骨までしゃぶる、というなんとも日本的なものづくりに辟易(へきえき)した。……かどうかは分からないが、人気漫画家たちがこぞって海外での実写化に踏み切っているのだ。

 その代表が、世界的大ヒット漫画『ONE PIECE(ワンピース)』(集英社)の原作者、尾田栄一郎氏だ。
 尾田氏はこれまで長く同作の実写化に否定的だったという。しかし、Netflixと組んで実写化に乗り出した。その理由を過去のインタビューでこのように語っている。
「ありがたいことにNetflixは、僕が満足するまで公開しないと約束してくれたんです。脚本に目を通して意見を伝え、原作が正しく映像化されるよう番犬のように振る舞いました」(VOGUE JAPAN 23年9月1日)

 結局、尾田氏は実写版の「製作総指揮」に名を連ねて、キャスティングにもかかわり、配信前には「この作品に一切の妥協はありません!!」という直筆レターまで出すほど自信を見せていた。
 結果、実写『ONE PIECE』は世界中で大ヒット。公開2週間足らずでなんと視聴時間が2億8000万時間を超え、続編の制作も決定した。
 この要因は尾田氏が「原作が正しく映像化される」ことに徹底的にこだわり、それをNetflix側も最大限尊重したことで、原作者も納得のクオリティーが実現できたからだ。

⚫︎もし日本で制作していたら
 厳しい言い方だが、もし日本で制作していたらこういうことにはならなかっただろう。
テレビ局と映画配給会社、広告代理店による「ワンピース制作委員会」が立ち上げられて、メディアミックスの名のもとで横断的なプロモーションやキャンペーンが行われる一方、尾田氏の「原作が正しく映像化される」ことはそれほど尊重されなかったはずだ。

 まず、キャスティングが無理だ。観客動員数が欲しいということで、主要キャラである「麦わらの一味」の半分くらいはSMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)所属のアイドルになっていたかもしれない。漫画の実写化作品でおなじみの役者も入っていただろう。
 ストーリーや演出に関しても、関係各位の「オトナの事情」から、尾田氏の意向はそこまで反映されなかったはずだ。

 そのような日本のエンタメ業界のシビアな現実を踏まえれば、尾田氏の「実写版は海外と組む」という決断は大成功と言わざるを得ない。
 実際、この成功パターンの後に続けと言わんばかりに、堀越耕平氏の人気漫画『僕のヒーローアカデミア』(集英社)も、ハリウッド版『GODZILLA』で知られる米レジェンダリー・ピクチャーズでの実写版製作が進行している。

 また、組むのはハリウッドだけではない。例えば、お隣の国・韓国ではもともと日本の漫画は人気で多くの実写化実績もある。22年7月に放送をスタートしたドラマ『今日のウェブトゥーン』は、松田奈緒子氏の人気漫画『重版出来!』(小学館)が原作だ。

 少し前には、日本の漫画ファンが多いことで知られるフランスでも『シティーハンター』(集英社)が映画化された。東京・新宿を舞台にした原作を、フランスを舞台にフランス人が演じたのだ。
 日本では当初イロモノ扱いされたが、視聴してみると、原作への愛が随所にあふれていたこともあって、ファンはもちろん、そうではない一般の映画ファンからも好意的な反応だった。

⚫︎日本映画やドラマの「衰退」を引き起こす恐れも
 さて、このような「成功例」が積み上がってきた中で、人気漫画の原作者の立場になって考えていただきたい。実写化させて欲しいという話が、日本テレビのドラマ制作部とNetflixから同時にやってきた。韓国の制作会社でもいい。原作者がどっちを選ぶのかは明らかではないか。

 今回、芦原さんが原作者としての「不満」を訴えたにもかかわらず、日本テレビは「許諾をいただきました」と木で鼻を括(くく)ったような回答したことで、日本中の漫画原作者たちは「明日はわが身」とショックを受けたはずだ。だったら、原作者の意向を最大限聞いてくれるほうに流れるのは当然だろう。
  (芦名さんのXアカウント( @ashihara_hina))

 視聴者をくぎづけにした2023年10月クールの秋ドラマで『セクシー田中さん』は2位(出典:REVISIO)
 つまり、日本の映画やドラマが、人気漫画の原作者へのリスペクトなしに作品づくりを続けていけばいくほど実写版コンテンツの海外流出が進んでいくということだ。
 それは、今や「漫画原作」にすっかり依存しきっている日本の映画やドラマにとって深刻な衰退を引き起こす恐れもあるのだ。

 「日本映画やドラマのクオリティーの高さは世界からも称賛されている。そんなことで衰退するわけがないだろ」と不愉快になる映画・ドラマ業界の人も多いだろう。
 しかし、「発明をした人」への敬意を欠くことで、国際競争力を失って衰退するのはある意味で、日本の定番の負けパターンなのだ。

⚫︎海外流出はコンテンツだけではない
 分かりやすいのは、数年前から警鐘を鳴らされている「頭脳流出」だ。日本の有能な研究者がどんどん日本企業を辞めて、海外企業へ移ってしまうことが懸念されている。
 要するに、米国で活躍する大谷翔平選手のように優れた才能のある若者が世界に飛び出してしまうということが、先端技術や学術分野でも起きているというのだ。

 もちろん、研究者がより良い環境を求めて海外に行くのは万国共通の現象だ。日本だけが沈没する船から逃げ出すネズミのように研究者が流出しているわけではない。

 にもかかわらず「頭脳流出」という恐怖が煽(あお)られるのは、「画期的な研究をしているようなスター研究者」になればなるほど日本を飛び出していることが大きい。海外のほうが自分の研究を正しく評価してくれていると判断し、後者を選んでいるからだ。

 この評価の1つはもちろん「お金」である。総務省「科学技術研究調査」によれば、10~20年度まで日本の研究者に対する処遇(人件費)を含む研究費は、ほとんど変わらずに横ばいだ。
 しかし研究によっては、海外にいけば処遇はもちろん、研究費などの待遇も改善される。だから「スター」ほど、よりハイレベルで妥協のない研究ができそうだ、と海外を目指す。
 ▶︎主要国における研究費の推移(出典:総務省「科学技術研究調査」)

 漫画家の尾田氏が自身の作品をフジテレビや電通と組んで実写化せず、米国の企業と組んで進めたのも同じような「状況判断」が働いている可能性がある。
 Netflixなら日本と比べものにならない予算が付くし、原作者へのリスペクトもある。つまり、「よりハイレベルで妥協のない作品づくり」ができそうだと海外を選んだのではないか。

⚫︎それでも続く「組織の病」
 さて、このような話をすると、「なぜ尾田氏のようなスター漫画家にも見切りをつけられているのに、日本のテレビドラマや映画関係者は原作者をリスペクトしないのか」と首を傾げる人も多いだろう。

 ただ、これは現場にいる個々の人が悪いわけではなく、「組織の病」という側面が強い。

⚫︎日本テレビは哀悼コメントを掲載したが……(出典:AC)
 日本のテレビドラマというのは芸能事務所の「ウチのタレントにこんな役を」という要望、テレビ局のお偉いさんの「データ的にも今はこんなストーリーがウケるだろ」という組織内圧力、さらには広告スポンサーから「確実に数字の取れるものを」という至上命令などをうまく利害調整しながら制作していく。

 そういう「妥協の産物」の中で、演出家や脚本家というドラマ制作スタッフたちはなんとか「いい作品」を生み出そうと努力をしている。当然、信念を曲げることもある。「こだわり」を捨てなくてはいけないこともある。組織の中で何かを実現させるには、「しょうがないことだ」と自分に言い聞かせている。

▶︎「組織の病」がはびこる日本のドラマ制作の現場(提供:写真AC)
 そういう我慢と妥協が骨身に染みているクリエーターは、巨大プロジェクトに参加する全ての人に同じような我慢と妥協を強いる。なんともバカバカしい話だが、それがたとえ作品の造物主である「原作者」であったとしても、そういう力学が働いてしまう。日本型企業のプロジェクトには「オレがこんなに辛い思いをしているんだからお前らも同じように苦しめ」という体育会系的な平等思想がまん延しているのだ。

⚫︎日本特有の別問題も
 そこに加えて、日本企業特有の「セクショナリズム」も大きい。

 特にテレビドラマや映画の現場は古い職人カルチャーがまだ残っており、「餅は餅屋」という考えが強い。いくら原作者といえども、こちらの仕事を邪魔するような「領域侵犯」をしてくれるな、というプライドの強い人がまだたくさんいらっしゃるのだ。
 ▶︎原作者の権利を守るシステムの確立を(出典:ゲッティイメージズ)
 もちろん、だからと言って、自らの命を削りながら生み出した作品を勝手に変えることなど許されるわけではない。日本の場合、実写化に伴い、漫画や小説の原作者の権利や主張を代弁するエージェントが少ない。原作の担当編集者がそれを兼ねているような状態だ。

 芦原さんが最後に「攻撃したかったわけじゃない」と発信したように、この問題は誰か特定の人を吊(つる)し上げて解決できるような問題ではない。

 現場にいる個々は「良かれ」と思って自分に与えられた仕事を真面目に取り組んでいる。しかし、そんな真面目な人たちの集団を俯瞰(ふかん)してみると、「良かれ」と思いながら不正に走っていたり、誰かを傷つけていたりということがよくある。日本企業の不祥事も全く同じ構造だ。

 今回のドラマに関わった人々を守るためにも、日本テレビは第三者による公正な調査を実施して、ドラマ現場の「病巣」を浮き彫りにすべきだ。

 最後になりましたが、芦原妃名子さんのご冥福を心からお祈りいたします。合掌。


▶︎不安や悩みの主な相談窓口
こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556
日本いのちの電話:0570-783-556
よりそいホットライン:0120-279-338

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