物質の「第5の状態」による超伝導を実現! 高温での超伝導へ新たなアプローチ
ナゾロジー より 201111
credit: ナゾロジー
物質の「第5の状態」による新しい物理現象が東京大学の研究者たちにより実証されました。
11月6日に『Science Advances』に掲載された論文によれば固体・液体・気体・プラズマに次ぐ第5の物質の状態として知られる「ボース・アインシュタイン凝縮」において、はじめて超電導が実証されたとのこと。
ボース・アインシュタイン凝縮に由来する超伝導現象はこれまで実験的に観測されたことはなく、物理学史上に残る快挙となりました。
しかしボース・アインシュタイン凝縮とは、いったいどんな物質の状態なのでしょうか?
**目次
固体・液体・気体・プラズマに次ぐ「第5の物質」
超伝導と「ボース・アインシュタイン凝縮」の関連性
最高精度の観測装置
第5の物質は超伝導性を持つ
◉固体・液体・気体・プラズマに次ぐ「第5の物質」
物質は温度を上げていくと固体・液体・気体と分子の結合状態が変化し、さらに高温になると、分子間の結合がちぎれて、単独の原子が飛び回るプラズマ状態になります。
一方で、逆に温度を極限まで下げていくと、「第5の物質(ボース・アインシュタイン凝縮)」と呼ばれる特殊な状態に変化することが知られていました。
物質がこの第5の状態になると、信じがたいことに全体から粒子性が失われ、単一の波動として振る舞うようになります。
温度の低下によって粒子の存在が波として曖昧になって(淡く滲んで)いき、最終的に1つの巨大な波に統合される
またボース・アインシュタイン凝縮となった物質は、粘性のない「超流動」と呼ばれる不思議な性質を獲得することが知られています。
超流動状態では、通常の物質ではとても通過できないような小さな穴からでも漏れ出たり、容器の壁を勝手に伝って外にこぼれ出るといった、常識から外れたような挙動をとることができます。
今年9月に発表された別の研究では、超流動体内部では摩擦や抵抗が生じないことも示されました。
◉超伝導と「ボース・アインシュタイン凝縮」の関連性
一方で、「超伝導」は物質の電気抵抗がゼロになる現象。また超伝導状態となった物質は強い磁力を発生させ「磁気浮上」することが可能になります。
そのため超伝導は抵抗がない電子回路や超伝導リニアモーターカーなどへの利用が期待されています。
また超伝導が発生するのは、ボース・アインシュタイン凝縮と同じ低温の環境です。
そのため研究者たちは、両者の間に何らかの関連性があるのではと考えられていました。
もしボース・アインシュタイン凝縮で超伝導が確認されれば、波としての性質を獲得した物質に、抵抗なしに電気を通すということが可能になります。
しかしながら今日に至るまで、実験的な証明には誰も成功していませんでした。日本の研究者たちは、いったいどうやって難関を突破したのでしょうか?
◉最高精度の観測装置
Credit:東京大学
歴史的な証明を行うにあたり、研究者たちは実験素材としてセレン化鉄(分子式: FeSe)のセレン原子の約2割を硫黄(S)に置き換えた鉄系素材を選びました。
この特殊な鉄系素材は低温において超伝導を引き起こすことが知られているだけでなく、計算上は、ボース・アインシュタイン凝縮も起こす可能性がありました。
そこで研究者たちは、まず超伝導状態を引き起こし、続いて新たに開発された世界最高精度の光電子分光装置を使って、電子のエネルギー状態を調べました。
もし従来通りの超伝導だけが起きている場合、電子のエネルギー状態は上の図の左側のようなM字の形状をとります。
一方で、超伝導と共にボース・アインシュタイン凝縮が生じている場合、電子のエネルギー状態は図の右側のような、より滑らかな分布をみせます。
測定を行った結果は…明白な右側のパターンとなって現れました。
これは超伝導が従来の生成原理とは異なった、ボース・アインシュタイン凝縮によって超伝導が引き起こされていることを示します。
◉第5の物質は超伝導性を持つ
今回の研究により、物質の第5の状態(ボース・アインシュタイン凝縮)での超伝導という新たな物理現象が確認されました。
以前の発表された研究では、超高圧と引き換えに常温での超伝導を実現しています。
しかしボース・アインシュタイン凝縮は従来の超伝導よりも高い温度で起こすことが可能だと考えられており、今後の研究では、より高温での超伝導の実現につながる可能性があるのです。
超伝導を常温常圧で達成することができれば、世界中に超伝導の電線を通してエレルギーロスが少ない送電をおこなえるかもしれませんね。
reference: 東京大学
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