開発が進む最新軍事テクノロジー「昆虫サイボーグ」【未来予報図03】
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部 より 220310
<マイクロコンピュータをつなぎ,生きている昆虫の行動を操るサイボーグの研究開発が進んでいる。予想される用途は,軍事攻撃から浮気調査まで。一体どんなテクノロジーなのか>
透明人間サービス、臓器チップ、料理テック、空飛ぶタクシー、体温発電、見たい夢を見る装置、深海未来都市......。
これらはすべて、齊田興哉氏の新刊 『ビジネスモデルの未来予報図51』(CCCメディアハウス)で取り上げられているテクノロジーだ。
齊田氏はJAXA(宇宙航空研究開発機構)で人工衛星の開発に携わった後、宇宙ビジネスに関する専門家として活躍。多方面の最新テクノロジーに精通しており、テクノロジーの発展と、それによって起こるビジネスモデルの変化を知り、仕事やキャリアに生かしてほしいと話す。
テクノロジーは驚くべきスピードで「進化」している。今も世界中の企業が、SFを思わせるような未来のテクノロジーを開発しているが、それらによって未来のビジネスがどう変わっていくかは、実はある程度「予測」できる。
ここでは、『ビジネスモデルの未来予報図51』(CCCメディアハウス)から3回にわたって抜粋する。51の最新テクノロジーとそれらの「ビジネスの未来予報」を分かりやすく解説した1冊だ。
抜粋の第3回は、昆虫サイボーグについて。
※第1回:2030~2040年には、犬・猫との双方向の会話が実現する【未来予報図01】
※第2回:世界を変えるテクノロジー,「台風の制御」実現は遠い未来ではない【未来予報図02】
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⚫︎昆虫の行動を、マイクロコンピュータで操る
昆虫サイボーグとは、昆虫の体もしくは体の一部とマイクロコンピュータの電子回路系を接続し、行動をコントロールするもの。まるで漫画の人造人間のように、生きている昆虫の一部を改造して、生きたまま操る。そんな姿をイメージしていただいて構わない。
昆虫サイボーグのメリットは、小型で低コストであることと、大量生産に適していることが挙げられる。
日本の LESS TECHは、昆虫サイボーグを開発している。昆虫サイボーグにあらかじめインプットされたアルゴリズムによって、自動で障害を避けたり越えたりして、目的地まで移動できる。
昆虫サイボーグには、あらかじめ決められたS字や8の字に沿って移動することや、ある限定された領域に留まること、ジョイスティック(スティックを傾けることで、方向を操作したり制御したりする装置のこと)を使って遠隔で操作できることなどがインプットされている。また、約10cm/sのスピードで動くことができるという。
人探しにも、昆虫サイボーグが役立つ。昆虫サイボーグに、赤外線カメラ(IRセンサー)を搭載し、体温を検出する。検出した体温が人のものかどうかは、人工知能AIを使って判別する。人だと認識した場合は、アラームが鳴り救出に向かえるという仕組みだ。
昆虫サイボーグのカメラの捜索範囲は半径1.2m程度で,決して広いとは言えない。例えば,1機の昆虫サーボーグで5km2(2016年に発生した熊本地震〔マグニチュード7.3〕では,行方不明者の捜索範囲は5km2だった)の範囲を捜索するには242日かかってしまう。しかし裏を返せば,242機の昆虫サーボーグを投入できれば,1日で捜索できてしまう計算になる。
昆虫サイボーグは他にも、米国の Draper(Draperは、トンボの神経系を遺伝子組み換えして、光のパルスに反応できるようにする方法を開発しているという)、米国の カリフォルニア大学バークレー校などで、さまざまな昆虫で研究開発されている。
⚫︎ビジネスの未来予報:人命救助・安全保障で活躍! 軍事市場で暗躍!
昆虫サイボーグは、以下の市場に販売されることが予想される。
●軍事、情報機関
昆虫サイボーグにマイクロコンピュータを埋め込めるようになれば、見た目は昆虫となんら変わりない。政府の国防機関や情報機関に販売され、犯罪防止のための情報入手や、軍事における敵地の偵察や攻撃などに活用されるだろう。ステルス性を持つ最強の軍事テクノロジーになるかもしれない。
●自治体
自治体に昆虫サーボーグを販売することで、台風、地震、津波などにより被災した地域で行方不明者の捜索に活用される。また、道路が寸断され行くことができない場所でも、詳細な被災状況を把握できるだろう。
●探偵・興信所
浮気調査、人探し、身辺調査などの依頼に応じて、昆虫サイボーグを使い情報収集する。探偵による尾行や張り込みなども不要になり、業務は効率的になるだろう。
●遺失物の捜索
落とし物などの捜索サービスを事業化することも考えられる。今後、IoTセンサーやGPSの小型・軽量化がさらに進み、GPSの位置情報の精度も向上する。これらの情報と併せて昆虫サイボーグを使えば、遺失物の捜索はそれほど難しくない。
●昆虫や動植物の生態調査
昆虫や動植物の生態調査にも活用できるかもしれない。大学や研究機関に昆虫サイボーグを販売すれば、昆虫や動物の行動、生息地、餌などを調査できる。また、人が立ち入るのが困難な場所での調査も可能となるだろう。
一般向けの販売は、犯罪の温床になる可能性もあるため、ハードルが高い印象。法規制や免許制にするなどの、さまざまな規制が検討されるだろう。
2021年時点で昆虫サイボーグは、ラボレベルでの実証実験がおこなわれている。今後、規模を拡大して国や自治体との共同研究が開始されるとすれば、2030年後半頃には先述の市場で活躍していくものと考えられる。
💋新技術、革新技術であればあるほど、行政・立法はしっかり勉強して欲しいもの、結果の予想・予測を! とは言え現状では…想定外といいまくりそう…