伊佐子のPetit Diary

何についても何の素養もない伊佐子の手前勝手な言いたい放題

BENTベント その4 京都劇場

2016年08月14日 | 演劇・ミュージカル

しつこくも、
オリンピックで中断した「BENT」の続きです。





とにかく、本ならば、自分の気に入ったフレーズで
そのページをとめて、いくらでもそれを読み返して、
何度も嬉しい気分に浸っていられる。


だけど、お芝居はいったん始まるともう止まらない。
途中でそこで停止させてリプレイ、なんて出来ない。
最後まで突っ走る。


そのスピードについていけない。
こんなに早い展開だとは思わなかった。

劇というものに慣れてないから、びっくりした。
あんまりびっくりして記憶が飛んだ。



どうやら私は、原作の戯曲を読むスピードがゆっくりで、
じっくりと自分なりのスピードで読んでいたようだ。


だから、劇の内容が全然頭に入ってない。

あそこ、13歳の少女を死姦した、その話をどう、
蔵之介氏が切り出したか、とかいうのがもう分からない。



京都公演は、8月6日の昼と夜、
そして次の日の日曜にもう一度昼公演がある。



もう二度と見られないだろう。
この芝居、もう二度と。

でも、もう一度だけ、チャンスがある。

確認したい。しておきたい。
何としても演技を覚えておきたい。


そう思って、次の日の日曜の公演、
それに行こうと決めた。
決めてしまった。

そうして、2回、「ベント」を見たのだ。
2回、見てしまった。




日曜の朝、早い時間にお使いに行ったついでに
セブンイレブンで前売りを買おうとしたが、
すでに森ノ宮(大阪)オンリーになってる。


10時に京都劇場の事務所があくことが分かったので、
10時過ぎに電話して、当日券が出るかを聞いた。
出るという。
開演の1時間前、12時から売り出すというので、
当日券を狙うことにした。



ものすごく早い時間に昼ごはんの支度をし、
自分はさっと済ませ、
母の分を全部机の上に並べ、食後の薬とそれを飲む水も用意し、
並べておいたから時間が来たら食べてくれと言って、
そそくさと家を出た。

なんてひどい奴。




なんで、こんなにまでして夢中になってたんだろう。
なんでこんなに必死だったんだろう。



私にはいろいろな宝がある。
目に見える、高価なものとは全然違う。

そんなものは何も持ってない。
でも、見えないもので、心の中で、大事と思って来て、
大切にしているものがいくつもある。

ずっと昔から、そういうのをひとつずつ、
心の中に養って来て、少しずつ増えていって、
大事にしてきたものがいくつもある。

そうしたら、びんぼーでも、気持ちは豊かになれる。
いくつも持っていたら、気持ちが豊かになれる気がした。
そう思ったからだ。

そういう、心の中のものが、私の宝だ。

多分、「ベント」というお芝居も、きっと
そういう私の宝の一つだったんだろう。多分。






気温は37度。

京都駅は相変わらず外国人が多い。
何語を喋ってるか分からないアジア人、
それに金髪系の西洋人が多い。

何でこんな暑い時にわざわざ京都に来るんだろう。
オリンピックにも行かずに。



早く着きすぎて、誰もいない。
劇場の入り口も封鎖してある。
窓口らしきものがあるが、そこで発売するのかしら。


適当に駅の地下などへ行って時間をつぶし、
もう一度劇場に戻ってみたら、ひとり、若い女性が
先の窓口らしきところにいた。
彼女にここで当日券が出るのか聞いてみたら、
そうだと思うという返事。

で、待つことにした。
そのうちまた女性が来て、そういう人たちが増えて来て、
ちょっと話を聞いてみると「蔵さん」とか呼んでいるので、
やっぱり蔵之介氏のファンたちなのかと思う。


時間が来て、S席をゲットした。8800円。
昨日の席とほとんど変わらない、前の方のちょうど良い加減の席。
やっと安心。



あと1時間。
おやつなんか買ってまた腹ごしらえ、
お土産に赤福を買ったり。
劇場に戻ってみると、やっぱり若い女性ばかりの群れ。

ちょっとおばさん率多い。
男性率もほんのちょっと高め。

私の横の席は、一人で来ていた、演劇好きらしい男性だった。
やっぱりほぼ満員。

当日券出ても満員になるのね。



で、自分に言い聞かせる。
確認事項、分かってるな。
こことあそこ、しっかり見て、チェックするんだよ。
気を抜いちゃ、だめよ。





この劇、ほんとは前半も結構長くて、
ネタバレでは省略してしまったけれど、
前半に出て来る役者さんたちがとてもいい。

みんな少しずつの出番だけど、圧倒的な存在感。


女装したグレタ役の人、とてもいい声、素敵な歌。

歌の時はマイクが入って、大きな声だけれど、
お芝居の時は、マイク入れてないのかな?
劇って、肉声でやるものなのかな?

演劇に慣れてない私は、そんなことを思った。

グレタさんは、ドイツ人の名前を言う時、
はっきりと発音して分かりやすくて、とってもうまい。
新納慎也という人で、「真田丸」で豊臣秀次の役だったとか。



マックスのおじさん、フレディを演じる藤木さんも存在感があった。
彼が語る、マックスの家庭でのいろいろな軋轢から、
マックスが複雑な事情を抱えた人であることが分かる。


そしてルディの中島歩さん、戯曲どおりの、かわいくてかわいくて、
マックスに尽くして尽くして、優しくて、でも一人では生きていけなくて、
妖精のような人だった。
(彼も弾丸セリフだったんだけど)
前半最後のあたりで二人で歌を歌いだす、あのほんの幸せなひと時は、
切なくて忘れられない瞬間だった。



本当に、良くできた戯曲なのだ。
そうして、束の間幸せな時間が、急転してむざんな現実へと
転換していくのだ…


後半、もう最後の方、マックスとホルストが
相変わらず石を運びながら、
ここから出られるのかな、
いつか帰れるよ、
出なくちゃ、
ホルスト、一緒に帰ろう…、


そう会話を交わしたその直後、
親衛隊大尉がやって来る。


ほんとに良くできた戯曲なのだ…




フレディおじさん(隠れゲイ)が、マックスに、
ルディを愛してるのか、と聞いた時、
マックスは、愛?といって、せせら笑うのだけど、
でも(彼に)責任があるから、と言うのだけれど、
それが最後のマックスの独白に、繋がっていくのだ…


あと、後半の親衛隊の人たち、
日本人が親衛隊の軍服を着こなすのはかなりむづかしいと思うが、
俳優さんたちはやはり演技で圧倒する。
悪役だけど、うーん、と演技に唸ってしまう。





少女の話、そこは少しずつ、少しずつ、言うのを嫌がって、
はぐらかそうとしては、でも
やがて自分から、訥々と語り始めてた。

少女を、あの子、天使だ、俺を助けてくれた…
というセリフ、戯曲を読んだ時は、いやだった。
なんか、生理的に。

だけど、蔵之介さんは、ちっともいやみでなく、
熱に浮かされたような感じで、すっと言ってた。淡々と。
そこは見事だった。


それから俺は腐ってる(戯曲では俺はクズだ)
と言って、慟哭するんだが、
その慟哭も、とても静かで、
こずるく立ち回ることも平気で、鬼畜なこともする、
でも複雑な内面を抱えたマックスをとても良く理解できた。



蔵之介さんの演技は、とても品があった。

もともと金持ちの坊ちゃんという設定もあり、
どんなに自暴自棄になっても気品が失われない。
抑えた、抑えた演技で過剰なことをしない。
過酷な運命に意地でも生き抜こうとする
非情な面も持ち合わせた男をいや味なく表現していた。

後半坊主頭になるから、前半はカツラだったのね。




腐ってるというマックスを、違う、
と断言するホルストも素敵だった。



ホルストは、理想的な人物で、
どんな時でも人間性を失わない、
ある意味、とてもファンタジーなキャラクターだと思う。

それを演じた北村有起哉さんという人は、
脚本が良くできてることもあるけど、
それをごく普通の人として、
本当に普通の人の反応をして、
とくに特別にすごい突出している人としてでもなく、

どこにでもこういう人は絶対いるんだ、
という確信を見ている人に与える、
とても素敵な演技だった。



その二人のエアセックスの場面、
露骨な言葉の応酬だけど、
やっぱり品格が失われていない。

どうしようもなく互いを求めてしまう、
そんな切迫感が感じ取れて、切なくて、格調さえあった。




戯曲を読んだ時、私はこの場面で涙を流した…

露骨なのに、美しかった。
美しいと思ったのだった。
「動いてるのが分かるか」
この露骨なセリフが美しいと思ったのだ。



見ているのは、殆ど女の人。
男の人の生理なんて私にもわからない。

そんな女性たちの前で、どうどうと演じ切る、
男の性をどうどうと表現する。
男たちはやっぱり美しかった。
ボーズ頭なのに。

二人は熱演というよりは、名演だった。



淀川長治が、
「私はこれまでに映画や芝居でどれだけのラヴ・シーンを
見て来たかは数えきれないが、「BENT」のラヴ・シーン
くらい痛ましく悲しく美しく強烈なラヴ・シーンに
接したことはなかった」
と書いていた。

淀川さんもホモだったんだけどね。
だけど古くから多くの映画を見て来た方のこの意見は
説得力があるわ。




二人の石運びのシーンは、一番面白かった。
本物の石を使っていると思うけど、
そんなに重くはない。
だけどえんえんとやっていればやっぱり
それなりに(演技とはいえ)疲れて来るだろう。


えんえんと、えんえんと続く石運び。
それを二人が、意味のない会話をしながら、
だんだんと消耗していく、

はじめからよれよれしているけど、
それは演技だろうと思うけど、
だんだんほんとに疲れて来てるんじゃないか、と、
演技かほんとなのか分からなくなって来る。

サイコーに面白い。




最後のあたり、クライマックス。
ホルストが将校に目をつけられる場面。
ホルストの受ける仕打ちを、
将校が良く見ておけ、とマックスに言う。

横を向いて、舞台端から、
行われることをただただ見つめつづけるだけのマックス。


この場面、映画なら絶対カットバックで、
いたぶられるホルストと見ているマックスの反応を交互で映すはず。


舞台は演技者全員がそこいにる。
蔵之介さんはひたすら、その場面をじっと動かず見ている。
そういうとこが演劇の醍醐味なんだろう。

私は自分で勝手にカットバックして、
マックスとホルストを交互に見る。




そして最後、マックスがホルストの死体を抱き上げるシーン、
これは、死体の設定だけど、役者の北村さんは生きてる。
それをどうやって死体らしく担ぎ上げるのかなと思っていたのだが、
とても素晴らしく演出してあった。


そしてマックスは、その死体を抱きしめながら、
ぶつぶつと、とても長い間語り始める…

このシーンが、一番感動的なのだけど。

観客は皆泣いてた。
すすり泣きが聞こえてた。2回とも。


この時、マックスは初めてホルストの体を触り、
抱きしめるのだ…




そして、俺、お前のこと好きみたいだ…
という言葉から独白が始まるんだが、

私は原作の分かるか?お前を愛してる、
というストレートな言葉が好きだったので、
ちょっと1回目に見た時はがっかりした。


だけどそのあと、
あいつのことも愛してたみたいだ、あのダンサー。妬くなよ、
あいつも愛してたみたいだ、あの工場で働いていた…
妬くなよ、…
お前のことは離さない…


そう言って、彼は愛から逃げていたけれど
実は本当はとても人を愛していたことを、そうやって
気づき始める。

はじめて彼は、そこで自分が人を愛せる人間であることに気づく。

ルディのことも、愛と言われてせせら笑っていたのに、
もう名前も思い出せないのに、
その告白が切なくて切なくて、


それらのセリフで、そういう意味あいを持たせたのかと
2回目で気づくことが出来た。



とても素敵なお芝居なのだ。


今回の演出の森新太郎という人は、初めてこの本を読んだ時は、
自分でも訳が分からなくなるくらいに泣けて泣けて仕方がなかった、
と言っている。

やっぱりそれくらいのインパクトがある。


蔵之介さんは、最後はお前らふたりようやったよ、生きたよ!
と思えるような舞台にしたい、
とチラシのインタビューに書いてあった。

私の解釈は間違ってなかったと思う。

彼らは生き抜いたのだ。信念に従って。



芝居が終わって、もちろんスタオベがたくさん起こって、
すぐ前の人が立ち上がるものだから、
俳優さんが見えなくて、私も立ち上がって拍手をした。
となりの男の人も立ち上がってた。

京都で最後だったから、蔵之介さんから何かひとこと
あるかなと思っていたけど、何もなかったので、
少しがっかりしたけれど。




いっぱいいいセリフがあった。

本当に、どれも心に焼き付けておきたい、
いいセリフばかりなのだ。


だからこれは私の宝なんだろう。


2回見たけれど、良かった。
2回見て良かった。

記憶に焼きつけることが出来て、良かった。

ポスターをスマホで撮っている人が何人もいて、羨ましかった。


http://www.parco-play.com/web/program/bent2016/

福岡で8/16日、
http://fukuoka-civichall.jp/event/%ef%bd%90%ef%bd%81%ef%bd%92%ef%bd%83%ef%bd%8f%e3%80%80%ef%bd%90%ef%bd%92%ef%bd%8f%ef%bd%84%ef%bd%95%ef%bd%83%ef%bd%85%e3%80%80%e3%80%8c%ef%bd%82%ef%bd%85%ef%bd%8e%ef%bd%94%e3%80%8d/
大阪の森ノ宮で19日~21日までまだあるので
関西の方はぜひ…
http://www.piloti-hall.jp/kouen/kouen_details.php?kc=201603160001

https://www.youtube.com/watch?v=m2DUjj6a2j0




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