ついに愛犬が息を引き取った、というか引き取っていた。
2月2日は大分市内でも朝から雪が舞うほど寒い一日。
そっと胸に手を当てると、微かな温もりに大きく上下する痩せた身体…不謹慎にもその生命力に驚きながら小さく声をかけた。
「それじゃあ行くよ」
折しもこの日は私立高校の入学試験だった。普段よりも少し早い朝支度で家族みんな慌ただしく出掛けて行った。
そしてその夜。帰宅してすぐに様子を見に行く…既に冷たかった。
その顔は眠っているようにヤスラカニ見えた。
翌日市内のペット霊園にて荼毘を行った。丁寧にお経をあげて頂き、別れの言葉をかけて火葬された。
「きれいに焼けていますよ…」
白い犬だった。もちろん皆そうだろうけど真っ白な骨だった。
足の速い犬で、その体はまるで飛んでいるように視えた。ドッグフードしか与えず犬が肥満になるなんてことが信じられないほど華奢な身体だったが、脚の骨は随分と立派だった。
女の子なのでピンク色の紙製骨壷に入れてもらった。自宅の庭には兄弟犬のお骨の一部が埋まっている。その隣に埋めてやろう…
「お前の母親の名前はチビ。ミッキーショップに飼われていた雑種だ。兄の名前はQ。病気で死んだけど賢くて毛並みが綺麗な茶色の犬だったことは覚えているだろう?はやく天国に行ってみんなと遊ぶがいい、サヨウナラ」
その晩はお客との飲み事で随分と遅くなったがムスメと豆まきをした。
酒の後押しもあり、全然恥ずかしさを忘れてしまったオヤジに付き合わされながらムスメも庭にたくさん豆をまいた。
「オニハソト、フクハウチ…フクハウチ」
今年の恵方は北北西ということらしい。
「我が家から見た約北北西方向にある高校に進路を取ればイインダヨナ!!」
などと酔ったオヤジの話し等聞くほどムスメも付き合いがいいわけでもなく
「近所迷惑やろ!!」
などと随分母親みたいな口を利くようになった。
『そうだよ、今日からオマエが正真正銘の長女となったんだ。』