小さな田舎町。
日が暮れてあたりが闇に包まれる頃、ちらほらと赤や青の灯りが見えてくる。
提灯を提げた居酒屋。けばけばしい色の灯りを付けたスナックやバー。
引き戸をあける。
「いらっしゃい!」と店の男が挨拶する。ああやつらか。
三人の男が続いて入ってきた。
「どこにする?」と一人が坐る場所を確認。
「ああ、そこでいいさ」
ちょうど三人が坐る場所が空いていた。そこに胡坐かいて坐った。
「めずらしいね?」と、店のオヤジ。
「何か知らんけどあちこち満員でよ。やっとここでラッキーってこと」と、男がいかにも疲れた風に言う。
「そうかい。なにかあったかな?」くびを少しかしげて。
「何呑む?」と、店のオヤジ。
「とりあえずビールだな」と、男は他の二人を見ながら注文。
二人とも肯いて、それを見た店のオヤジが奥にむかい、
「生、みっつ!」といって引っ込んでいった。
三人は、仕事仕舞ってどこか呑みに行くことにしてここまで来た。
どれほどの時間いるかわからんが、いつもどおり車で来て店の前に止めてある。
ビールがきた。
三人でグラスを持って「カンパーイ!」といって旨そうにごくりと呑んだ。
いつもの通り仕事や女の話でガハガハ言いながらである。
「社長がよう、帰り何かごちゃごちゃ言ってんだ。やってらねえからこっそりづらかった。あ、ハハハ」
「そらおめえ明日、くびだってな、あ、ハハハー」
「もう腹へってるしよお、明日は、あしただな」
「オヤジさん、生三つ!」
「それにしてもこんでるな!」
入り口が開いたとこで、何も言わず男が二人店の中を見回している。
空席がないのを確かめて店を出ようとしたとき、先の三人づれの一人と目があった。
「おお、ここにいたのか!」
「どこもいっぱいでよ」
「おれらもちょっと前に来たとこだ。ここ入れよ狭いけど」
「じゃ、そうすっか」
二人は先の三人連れの中に入り呑み始めた。
みんなこの辺りで働いていて知り合いである。
男五人で大いに盛り上がった。
2、3時間も呑んでいたか。
「ここは狭いし、そろそろでるか?」と、一人が言った。
「そうだな」
「オヤジさん、勘定!」
店のオヤジが伝票片手に
「ずいぶん呑んだな。くるまでないのか?大丈夫か?」
「これくらい、いつもだ。心配ないって」
「それならいいけど。クルマ少ないけど気つけてな!」
「おう」
「またな」
といって、五人は店を出た。
「ああー、まだはええなあー」
「ああ」
「タキいくか?」
二人連れが「どうする?いくか」
何となく下向いたのが、OKと見た。
「よしいくか」
「二台だからどっちが先か勝負だな?」
「やるか?おお」
二台に分乗して、北へ向かう。
午後十時を廻っている。大通りにクルマはほとんどいない。
酔いもあってかふざけながらアクセルペダルを踏み込む。
対向車もたまに一、二台。
前の歩行者・交差する側のクルマに感知して変わる信号機。
昼間でも数えるほど、ましてこの時間ほとんどいない。
百キロは優に超えている。後の車も遅れずに来ている。
「おい、後どうだ?」
「うん?来てる来てる」
そのとき、頭の中で何かがはじけた。
なにがあった?
すごい衝撃を感じたが何が起きたのか、何かが起こったのか?
意識が。