ぶんやさんち

ぶんやさんの記録

『イミタチオ・クリスチ』について(改訂・増補)

2017-04-02 14:10:27 | 雑文
『イミタチオ・クリスチ』について(改訂・増補)

『イミタチオ・クリスチ(De Imitatione Christi)』(「キリストにならいて」)は、中世のヨーロッパにおける修道者たちの生活が生々しく描かれており、キリスト者の生き方についての最高レベルの修養書であるとされている。中世以後今日までキリスト教における敬虔主義の伝統を形作ってきたと言われている。現在では各国語に翻訳され、聖書に次いで全世界で読まれている。
夏目漱石はロンドンに留学したとき、ロンドンに到着して約2ヶ月程たった頃、1901年1月2日に、この本の小型英訳本『Of The Imitation of Chirist 』 と出会い、この本のあちらこちらに英語で時には日本語で感想を書き込みをしながら読んだという。その箇所が40カ所に及ぶといわれている。ここから「漱石とキリスト教」というような論文も発表されているほどである。見方によっては、だから漱石のキリスト教理解は入信にまで至らなかったということもできるかも知れない。
この本をどう読み、どう理解するかということは各人の信仰のあり方によるであろう。極端に言うと、この書を表表紙から裏表紙まで完全に読まなくても、少なくともこの書が私たちにとっての貴重な遺産であることだけは確かである。2000年を超えるキリスト教史におけるこの貴重な資産を知らないままで、人生を終えてしまったら、あまりにもモッタイナイ。

著者問題
本書はもともとラテン語の著書で修道士トマス・ア・ケンピ(Thomas a Kempis)によって書かれたと長く信じられてきた。しかし、このトマス原著者説にはいろいろ疑問があり、今も決定的な結論に到達していない。岩波文庫版の翻訳者による解題によると「本書の著者がだれかについては、古くからいろいろ論争があり、ある研究者によれば35人の名があげられ、ある人は200人以上の名をあげている」という。この議論は専門家に任せるほかはない。この著者問題は教皇庁の裁決を求めることとなり、1638年、カトリック教会当局はジョバンニ・ジェルセン(13世紀イタリアのベネディクト修道院長)を著者として認定した。しかし、この問題はそれでは未だ解決せず、議論は続いた。20世紀になり、イタリア派が鉾を収めたため、トマス著者説に軍配があがり、1921年、トマスの生誕地ケンペンでトマス像が建てられた。
ところがその時、突如として青天の霹靂ともいうべき歴史的事件が勃発した。ドイツのリューベック市立図書館において、かつて共同生活の兄弟会の所蔵であった『イミタチオ』の写本2冊が発見されたのである。この写本の発見により、またまた激しい論争が起こった。この写本の発見により、トマスは原著書を筆写したのであり、もともとの原著はトマスの属する修道院の創立者ヘーラルト・ホロート(Gerard Groote)とその後継者ローレンス・ラードウェンスによるものであるとされた。その結果、『イミタチオ・クリスチ』の原書者はヘーラルト・ホロートであるとされた。ホロートは1384年オランダに黒死病が大流行した際、友人を見舞いそれで感染し、享年44才で逝去したとされている。
なお、トマス説の根拠の一つとされた、1441年のトマス自筆原稿の末尾にある「ツウォレ付近の聖アグネス山にて修道士トマス・ア・ケンピスの手によりて終了完成される」という署名は、必ずしも著作のことではなく、編集または筆写のことと解釈されている。
ホロートは本書を中世オランダ方言で書き、それを後にトマスがラテン語に翻訳編集したものだと思われる。
岩波訳では従来のトマス原著者説を取り、由木先生はホロート著者説を取っている。その場合に、写本の違いがあり、巻、部、章、節等に細かい違いが出ている。

岩波版(トマス版)では、全体が4巻に分けられている。
第1巻 霊の生活に役立つ誡め(第1章〜第25章)
第2巻 内なることに関する勧め(第1章〜第12章)
第3巻 内面的な慰めについて(第1章〜第59章)
第4巻 祭壇の秘蹟について(第1章〜第18章)

由木版(ホロート版)
第1巻 霊的生活のために有用な勧め(第1章〜第25章)
第2巻 内的なものについての勧め
  第1部 内的対話について(第1章〜第12章)
  第2部 忠実な魂へのキリストの内的な語りかけについて(第13章〜第34章)
  第3部 内的慰めについて(第35章〜第60章)
第3巻 聖餐にあずかる者への敬虔な勧め(第1章〜第18章)

註:第2巻の部分がトマス版の写本とホロート版の写本との違いが顕著に見られる。

私は、先輩である由木先生に敬意を表して由木先生の翻訳に従って、現代文化を試みることとする。

※ なお、この文章は2010年2月にブログ「ぶんやさんち」に掲載した私の文章を補うものである。

http://blog.goo.ne.jp/jybunya/e/bb11faa61aec7c29242141b9d62a8a5e

最新の画像もっと見る