ぶんやさんち

ぶんやさんの記録

「国語」としてのヘブライ語の成立

2009-02-04 16:51:18 | ときのまにまに
先日(1月30日)このブログでご紹介した水村美苗さんが、ヘブライ語について次のように述べています。聖書学を専門にしている者たちにとってはいわば常識になっていることですが、非常に美しい言葉でヘブライ語の歴史についてまとめておられるのでメモしておきます。ただ、ここで水村さんが「国語」という言葉で言い表している内容は非常に深いということだけは付け加えておくべきでしょう。

≪へブライ語は、まさに自分たちの国を思う心でもって、不死鳥のように蘇った言葉である。旧約聖書の歴史から判断して、紀元前13世紀にはすでに「書き言葉」をもっていたらしいが、紀元前6世紀にバビロニアに敗れ、さらには2世紀にローマ帝国を相手取った反乱が失敗に終わり、さまざまな形で延々と続いたユダヤ民族の離散―――ディアスポラ。それによってヘブライ語は聖典にある「書き言葉」として残っただけで、実際の「話し言葉」としては2000年近く概ね死に絶えていた。復興運動が始まったのは、19世紀末のシオニズム以来である。それから半世紀後の1948年、パレスチナにおけるイスラエルの建国を境いに、世界中から集まってきたユダヤ人がヘブライ語を学び、不自由を忍んでそれを自分たちの言葉とするうちに、次世代のイスラエル人の母語となっていった。そして、その過程で、それまで宗教儀式の言葉でしかなかったヘブライ語が、近代的な言葉へと姿を変えていった。今、イスラエルはヘブライ語とアラビア語双方を公用語と制定しているが、象徴的にはヘブライ語が「国語」である。半世紀まえは話す人がいなかった言葉が、今、「国語」となってしまったのである。≫(『日本語が亡びるとき』46頁)

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