ぶんやさんち

ぶんやさんの記録

M.エンデ作「道しるべの伝説」

2007-12-18 09:37:41 | 雑文
「道しるべの伝説」はこの短編集「自由の牢獄」の最後を飾るにふさわしい作品である。この作品を読みながら、昨年のクリスマスイブで取り上げた「神の道化師」(トミー・デ・パオラ作、ゆあさ ふみえ訳)を思い出した。
道化師にせよ、奇術師にせよ、閉塞された庶民の生活をに密着したところで、「人間離れした技能」と話術によって、「驚きの世界(ワンダーランド)」見せ(ショウ)、平凡で退屈な日常性を少し破り、庶民の心に「ひとときの開放感」を与える仕事である。基本的なところで、宗教家と共通するところがある。エンデ自身は奇術師を「芸術家」と呼ぶ。この作品にはエンデの「宗教観」が描かれている、とわたしは読む。題名となった「道しるべ」について、作中で主人公に以下のように説明させている。
「道しるべとは、それだけでは一片の板であり、値打ちもない。雨風にさらされ、朽ちているかも知れない。道しるべはそこに書かれたことを自分では読めず、読めたとしても、何か分からないだろう。それに、道しるべはそれが指し示すところへは決して自分では行けない。それどころか、道しるべの意義とは、それが立つところに留まることにあるのだ。それはどこでもいい。たっだ一個所をのぞけばどこだって適所なのだ。その例外とは、それが指ししめすところである。そして、道しるべはそれが指ししめすところに立たないからこそ、そこへ通じる道をさがす人びとの役に立つのだ。」
この言葉は噛みしめれば噛みしめるほど味わい深い。もう一つ、文脈なしに、言葉だけを引用しておこう。
「世間を騙していた間、ヒエロニムスは信じられていた。しかし、彼の唯一の真実は詐欺とされた。」
(なお、本書については本ブログの12月8日付の記事を参照のこと)

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