ぶんやさんち

ぶんやさんの記録

断想:大斎節第5主日の旧約聖書

2017-03-31 07:03:36 | 説教
断想:大斎節第5主日の旧約聖書(2017.4.2) 
枯れた骨  エゼキエル37:1~14

<テキスト>
1 主の手がわたしの上に臨んだ。わたしは主の霊によって連れ出され、ある谷の真ん中に降ろされた。そこは骨でいっぱいであった。
2 主はわたしに、その周囲を行き巡らせた。見ると、谷の上には非常に多くの骨があり、また見ると、それらは甚だしく枯れていた。
3 そのとき、主はわたしに言われた。「人の子よ、これらの骨は生き返ることができるか。」わたしは答えた。「主なる神よ、あなたのみがご存じです。」
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4 そこで、主はわたしに言われた。「これらの骨に向かって預言し、彼らに言いなさい。枯れた骨よ、主の言葉を聞け。
5 これらの骨に向かって、主なる神はこう言われる。見よ、わたしはお前たちの中に霊を吹き込む。すると、お前たちは生き返る。
6 わたしは、お前たちの上に筋をおき、肉を付け、皮膚で覆い、霊を吹き込む。すると、お前たちは生き返る。そして、お前たちはわたしが主であることを知るようになる。」
7 わたしは命じられたように預言した。わたしが預言していると、音がした。見よ、カタカタと音を立てて、骨と骨とが近づいた。
8 わたしが見ていると、見よ、それらの骨の上に筋と肉が生じ、皮膚がその上をすっかり覆った。しかし、その中に霊はなかった。
9 主はわたしに言われた。「霊に預言せよ。人の子よ、預言して霊に言いなさい。主なる神はこう言われる。霊よ、四方から吹き来れ。霊よ、これらの殺されたものの上に吹きつけよ。そうすれば彼らは生き返る。」
10 わたしは命じられたように預言した。すると、霊が彼らの中に入り、彼らは生き返って自分の足で立った。彼らは非常に大きな集団となった。
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11 主はわたしに言われた。「人の子よ、これらの骨はイスラエルの全家である。彼らは言っている。『我々の骨は枯れた。我々の望みはうせ、我々は滅びる』と。
12 それゆえ、預言して彼らに語りなさい。主なる神はこう言われる。わたしはお前たちの墓を開く。わが民よ、わたしはお前たちを墓から引き上げ、イスラエルの地へ連れて行く。
13 わたしが墓を開いて、お前たちを墓から引き上げるとき、わが民よ、お前たちはわたしが主であることを知るようになる。
14 また、わたしがお前たちの中に霊を吹き込むと、お前たちは生きる。わたしはお前たちを自分の土地に住まわせる。そのとき、お前たちは主であるわたしがこれを語り、行ったことを知るようになる」と主は言われる。


1. 大斎節第5主日
大斎節第5主日で取り上げられているテーマは、十字架を飛び越えて「復活」である。私たちにとってもちろん十字架は大切だし、十字架無しにはキリスト教を語れない。しかし、その十字架も復活無しではただ単なる残酷物語であり、一人の男の悲劇的な死にすぎない。復活があってこそ、十字架に意味がある。それで受難週に先立って復活が取り上げられる。福音書ではラザロの復活物語が取り上げられている。
旧約聖書においては復活というテーマはまれである。基本的には人間は死んだら終わりというのが旧約聖書における基本的な考えである。もちろん、後期になってからは復活ということもないわけではないが、むしろそれは終末論との関係における復活であってイエスの復活とは無関係である。その点でエゼキエル書における「枯れた骨の谷」のイメージは重要である。

2.エゼキエル書について
エゼキエルはバビロン捕囚の中から出てきた預言者で、その預言の内容はバビロン捕囚からの解放である。つまり、ヤハウェの歴史においてイスラエル民が捕囚のままで終わることはない。必ずそこから回復される。その意味では、イザヤやエレミヤとはかなり雰囲気が異なる。それを「黙示的」という人もいるが、むしろ「予言的要素」(「預言」ではない)が強いと思われる。その意味では預言者エゼキエルにとっても未だ経験していない「未来」のことである。そのなかで本日取り上げられている「枯れた骨の谷」の出来事はエゼキエルの予言の典型だと思われる。
今日の個所では4節から10節までが括弧に入れられているが、実はここが重要である。この部分がいわゆる「幻」の部分である。エゼキエルの予言は「枯れた骨」に向かって語る言葉である。枯れた骨とは「聞く能力」というより「生きる能力」を失った存在、それに向かって語れ、という。実はバビロンにおけるイスラエルの民の生活実態はどのようなものであったのだろうか。私たちが普通考えるような悲劇的な惨めな生活ではなかったようである。その点では、紀元前8世紀のアッシリアによる北のイスラエルの捕囚とはかなり趣が異なる。
バビロンではかなりの自由が認められ、民族共同体も存在できた。そこでは宗教も自治も認められていたようである。従って、イスラエル史そのものの見直し、編成もできたし、律法それ自体の編集も可能であった。ただ、独自の神殿がないということが制限といえば制限であった。それだけに、「祖国への神殿」への想いが強くなったらしい。しかし、それも2代目、3代目になると薄れ、バビロンでの生活が安定してしたようである。そこに現れたのが預言者エゼキエルで、いわばエゼキエルはナショナリズムのリーダー的役割を果たしたのであろうと思われる。

3.ドライボーンのイメージ
ここに描かれている「枯れた骨の谷」のイメージは、殺伐とした情景である。そのイメージは陰惨とか、残酷とかのイメージをはるかに超えて「生命」というイメージから最も遠く離れた情景である。この殺伐とした情景から見れば、「死」は生命と隣り合わせであるとさえ思う。ここに描かれている枯れた骨は「生命」を連想させる「死」とは全く無関係である。完全に生命というものと切り離された情景は、「死」をさえも連想させない。それが預言者エゼキエルが見た「枯れた骨の谷」のイメージである。
「それらは甚だしく枯れていた」(エゼキエル書37:2)と聖書は語る。その情景はわたしには、大震災直後の長田地区の風景と重なる。焼け跡は「黒」ではなかった。私が神戸を訪れたのは震災後1週間たっていたが、そこには煙すら立っていなかった。もはや燃えるべきものは全て燃えつくし、煙すら立たない。ただ、真っ白な残骸だけがむなしく重なり合っていた。「消火」という作業がなされないで、燃えるがままに燃やした火事の後とはこういうものなのかということを思い知らされた。かつて賑やかに営まれていた人間の生活の匂いは全くかき消されていた。
さて、このような「枯れた骨の谷」を見せて、主は預言者エゼキエルに質問する。「これらの骨は生き返ることができるか」(同3)。預言者は「主なる神よ、あなたのみがご存知です」としか答えられない。これはもはや答えではない。「そんなこと知るものか」という投げやりな啖呵である。しかし、神は預言者エゼキエルに「これらの骨に向かって預言せよ」と命じる。

4. 「イスラエルの全家」
さて、この枯れた骨とは「イスラエルの全家」(11)であると言われる。イスラエルは「枯れた骨」のようになっていた。一つの民族あるいは国家が「枯れた骨」のようになるということは、一体どういう状況を意味しているのだろうか。国家としての生命力が失われ、希望がない状況、国内では弱肉強食が当然のこととなり、国民は「自分のこと」だけを求め、心ある人々は外国に逃げ出すような状況であろう。夫婦が分離し、親子が対立し、家庭というものが崩壊する。愛とか信頼という言葉が意味を失い、金だけが力となる。「殺伐」とはそういう状況である。預言者たちも「見放す」状況、「語る気がしない」、「語っても無意味」という状況である。それでも、神は彼らに語れ、といわれる。預言者が語ることによって「神の霊」が彼らの中に吹き込まれる。
預言者は神の命令に従って、無意味とは思いながらも、枯れた骨に向かって、神の言葉を語りかけた。「すると、霊が彼らの中に入り、彼らは生き返って自分の足で立った」(10)。これはまさしく復活の預言である。旧約聖書の中で「復活のメッセージ」は珍しい。「生き返る」という言葉はエゼキエル書にしか出てこない。この文脈では「生き返った」という言葉が用いられているが、単に死体が蘇生したのではない。土で形づくられた人形に「鼻から命の息を吹き入れられて」、「人はこうして生きるものとなった」(創世記2:7)という人間創造の再現である。
この個所を読みながら、「生命」ということについて考えさせられた。生命とは神の霊の働きである。神の霊が働いているところに、生命がある。それは動物的な命ではない。いくら、動物的な命があっても、神の霊が働かないところ、それは「枯れた骨」である。

5.枯れた骨の谷
今の人間社会を見ていて、「枯れた骨の谷」と重なって見える。これが人間社会か。わずかのお金を手に入れるために、集団で暴力をふるう。あるいは自分の欲望を満たすために、平気で弱い者の生命を奪う。これが人間の社会か。自分たちの生命財産を守るためにと称して、平気で他国民の頭上に爆弾を落とす。何かよく分からないが、よその国にまで出かけて、そこで普通に生活している人間を暴力的に拉致し、強制的に働かせる。こういう社会は、まるで「枯れた骨の谷」そのものである。ここで何を語れというのだろうか。何を語っても無意味としか思えない。
しかし、神は預言者に向かって、これらの枯れた骨に向かって語れと命じられる。教会がこの社会の中に存在している限り、教会は復活の主、つまり生命の主を語る責任と使命とがある。

デューク・エイセスの名演奏で「ドライボーン」
https://www.youtube.com/watch?v=lXkw78JId9o


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