■『給食は「誰かと一緒に食べる楽しさ」を感じられる時間』
・給食献立の簡易化、黙食…コロナ禍に意識したい2つの食サポート
All About「食生活・栄養知識」平井千里(管理栄養士 / 実践栄養ガイド)
https://allabout.co.jp/gm/gc/489857/
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・献立の簡易化、黙食も……コロナ対策と学校給食
コロナ対策のため、一部の自治体で学校給食が簡易化され、話題になりました。
献立は感染状況に合わせて変更されているようですが、当初は「コッペパンと牛乳だけ」といった非常にシンプルなものもあり、議論を呼びました。
育ち盛りなのに量が足りないのではないか?
栄養素が偏っていてかわいそうだ
給食がないと困る子どもにとっては給食停止よりはよい
など、さまざまな意見があったようです。
コロナ禍において、会食・共食は危険を伴うとされています。
学校によっては、生徒全員分の配膳を教員が1人で担当していることもあると聞きます。
私の本務校である短大でも、学生さんが学校で昼食を食べなくて済むよう、午前・午後の分散登校を行っています。
大切な授業である調理実習などで作った料理についても、友人同士で感想などを語り合いながら試食することも許されず、弁当箱に詰めて持ち帰り、自宅で一人で試食するよう指導されています。
このように学校側は、食事中の生徒間の感染を抑えるために必死です。
そもそも学校給食にはどのようなことが求められているのでしょうか?
給食の歴史と役割、栄養基準、また、コロナ禍に各ご家庭で考えたい対応などを管理栄養士の視点で解説します。
・学校給食の歴史と現在の学校給食法・栄養素量の目安
給食の起こりは、明治22年。
山形県鶴岡市の大督寺というお寺の境内にあった私立忠愛小学校で、生活が苦しい家庭の子どもを対象に、托鉢で集めた食品を使って昼食を提供したことが始まりとされています。
もともとの学校給食は「生活が苦しく、食事を食べられない子どものために」始まった制度でした。
ここから各地の学校で給食の提供が行われるようになり、米軍からの資金援助やユニセフからのミルク寄付などの紆余曲折を経て、昭和29年に「学校給食法」が制定され、現在の給食の原型が出来上がりました。
ここから改良を重ねて、現在の給食に繋がっています。
その最たるところは「栄養素量の考え方」だと思います。
現在の給食で提供すべき栄養素は「1日の望ましい栄養素量の1/3が基本、家庭で摂りづらい栄養素の基準値は40%、50%に設定」とされています。
そのため、平常時は栄養士・管理栄養士たちがこの栄養基準に沿って献立を作り、給食として提供されています。
・「栄養素量を満たせない給食」であれ提供したい……子どもの貧困と現場の思い
簡易給食の献立は、この栄養素の基準を満たせるとは考えにくく、そのために議論がヒートアップした面も大きいでしょう。
正直なところ、1日の食事がコッペパンと牛乳だけの簡易給食1食だけであれば、「栄養素」の面からみると残念と言わざるを得ないと思います。
では、栄養を満たせないくらいなら、給食も各家庭で摂るよう検討するべきなのでしょうか?
現在の日本では「子どもの貧困」が問題視されています。
「子どもの貧困率」という考え方がありますが、これは「相対的貧困の状態にある18歳未満の子どもの割合」を指します。
「国民を可処分所得の順に並べ、その真ん中の人の半分以下しか所得がない状態を相対的貧困と呼び、親子2人世帯の場合は月額およそ14万円以下(公的給付含む)の所得しかない」家庭に暮らす子どもの割合です(日本財団)。
子どもの貧困率は、1980年代から上昇をはじめ、現在は7人に1人が相対的貧困状態にあると言われています。
こういった貧困状態にある子どもの中に、食事も満足に摂れない子どもがいることは容易に想像できます。
「生活が苦しく、食事を摂れない子どものために」始まった給食です。
現在の学校給食に携わる栄養士・管理栄養士も思いは同じ。
困っている子どもに何か食べさせてあげたいという気持ちは強いのです。
「感染対策と学校給食の両立ができるか不安だ」という声もあるかもしれませんが、できる限りの感染対策と、子どもたちに食べさせてあげたいという気持ちの折衷案で生まれたものが、今回の「簡易給食」だったと私は思うのです。
・コロナ禍の子どもの食体験……家庭でサポートしたい2つのこと
現在、各学校では教員が全員分を配膳する、アクリル板で囲われた机で給食を食べる、全員が同一方向を向いて食べる……など様々な対策を施したうえで、学校給食を黙食しています。
実は、私自身、短大内でこのような対応を始めた後、学内で学生さんに食事を食べてもらったことがあります。
かなり良い献立だったので、学生さんたちは大喜びでしたが、こちらから指示したわけでもないのにお互いに2m以上の距離を取り、素直に黙食をしていました。
その姿を見ていると、悪いのはコロナがあって私にはどうすることもできないのですが、なぜか申し訳なくて、情けなくつらい気持ちになったことを覚えています。
これを思うと、黙食をする上に、さらに簡易給食で献立も寂しいものとなれば、教室で給食を見守る教員の皆さんは切ない気持ちを抱えておられると思います。
しかしこれが、今、学校でできる精いっぱいであることも事実なのです。
そこで、各ご家庭でもできる範囲のサポートをお願いしたいのです。
自宅でできるサポートには、大きく2つあります。
・不足する栄養の補給
1つ目は、簡易給食だけでは不足してしまう分の栄養の補給です。
通常時以上に、給食の献立表を確認し、不足している栄養素を補うような食事を家庭で工夫していただければと思います。
冒頭の「コッペパン」と「牛乳」のみの給食の場合、炭水化物とカルシウムは通常の給食と同じように摂取できています。
不足している栄養素の中でも、特に子どもの成長に必要なたんぱく質とビタミン類を補いやすいメニューを食べさせる、というようなざっくりした考え方で大丈夫です。
もちろん、保護者の皆さんも忙しいと思いますので、すべて手作りである必要はありません。
冷凍食品やスーパーなどで購入したお惣菜なども上手に組み合わせてOKです。
保護者の皆さんにも負担がかからない方法でなければ、長引くコロナ禍を乗り切れません。
・食事中に限らない子どもとのコミュニケーション
そして2つ目は、食事中のコミュニケーションです。
給食は「誰かと一緒に食べる楽しさ」を感じられる時間でもありますが、これも現在の給食では満足に実施することができません。
また、給食中に限らず、学校内の友達や教員たちとのコミュニケーションにも平常時より制限があります。
家庭内感染も気になるところではありますが、食事中はもちろん、通常よりも会話を多くしたり、一緒に散歩に出かけたり、コミュニケーションをとる時間を多くするように配慮してください。
子どもに限らず、大人も我慢の多い現状です。
今の状況しか知らない子どもたちにとっては、この現状は「当たり前」なのかもしれません。
しかし、健全な心身の育成のためには、コロナ禍の現状は望ましいものではありません。
家庭の中だけでも、望ましい状況に近づけるよう、工夫していきたいものです。
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給食献立の簡易化、黙食…コロナ禍に意識したい2つの食サポート
All About「食生活・栄養知識」平井千里(管理栄養士 / 実践栄養ガイド)
https://allabout.co.jp/gm/gc/489857/
■私語禁止の「黙食」で給食が苦痛に…教員も悩む「食育はそれでいいの?」
AERA(アエラ)2019/03/01
https://dot.asahi.com/aera/2019022700030.html?page=1
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楽しいはずの給食の時間が苦痛だという子どもたちがいる。
背景には時間優先で余裕がなく、「黙食」をさせざるを得ない学校の実情がある。
給食を苦痛にするものに「食べる時間の短さ」がある。
日本スポーツ振興センターの食生活実態調査(10年度)によると、小中学生が給食を残す理由の3位は「時間が短い」。
他業種を経て教職に就いた40代の女性が、小学校の現場でカルチャーショックを受けたのは、時間優先で楽しさが排除された給食風景だった。
「もぐもぐタイムといって、20分のうち頭半分ほどは黙って食べないといけないんです。おしゃべりしたり、ふざけたりすると、給食の時間内に児童が食べ終えられないからです。全然楽しそうでなくて、食育に逆行しているような気が……」
記者が今回の特集を組むきっかけとなったのも「黙食」だ。
アエラ18年12月10日号の学校特集「不自由が9割」で取り上げた学校では時間内に収めるため全員が前を向いて食べねばならず、私語は禁じられていた。
食べることの好きな小学1年生の女児が、おいしいものを食べると「おいしいね」と言ってしまい、初めての食べものを見ると「これ何?」と聞いてしまう。
そうすると先生にシーッと注意されてしまうため「給食の時間が怖い」と泣いたというエピソードがあった。
これに対し「子どもの主体性を尊重すべきだ」「忍耐力よりも、会話を楽しみながら食事するスキルのほうがグローバル時代には大事では」など多くの反響があった。
しかし黙食は、やり方や程度に多少の違いはあれど、実施している学校や教員は少なくない。
自身、もぐもぐタイムを一時期導入したことがあるという小学校教員の20代の女性は言う。
「あと5分でも食べる時間が余分にあったら……と思いますが、カリキュラムがぎゅうぎゅうで調整の余地がありません」
4時間目の授業が延びたり、配膳に手間取ったりすると、食べる時間は圧迫される。
とりわけ小学校の低学年は手がかかる。
時間内に食べさせるタイムマネジメントは教員にとっても負担で、30代の男性教員は自身が落ち着いて食べる暇はないと言う。
「小学校の先生はみんな食べるのがすごい速いと思いますよ」
タイムスケジュール優先の黙食によって、「おいしいね」のひと言が発せられないことに危機感をあらわにする人もいる。
「さくらしんまち保育園」の園長・小嶋泰輔さん(43)だ。
「そのひと言が食事を共にしている人との間に共感を生み、感謝の気持ちにもつながる。『おいしいね』が言えるかどうかは大きな問題です」
同園では園児がランチタイム内の好きな時間に、好きな量、好きなおかずを選んで食べられる、セミバイキング形式のユニークな給食を実施している。
そんなに自由にさせて大丈夫?
取材に訪れると、ランチタイム開始を告げる軽快な音楽が流れ、おなかの空いた子からトレーを持ち並び始めた。
「サラダにエビ入っている? ぼくのには入れないで」と交渉する男の子。
保育士の籠山(かごやま)人志さん(32)は皿からエビを除きながら、「1個くらい食べてみる?」と声をかける。5人で食卓につくのがルール。
好きな友だちを誘いおしゃべりしながら給食を楽しみ、食べ終えると園児は食器を所定の場所に片付ける。
しかしそこに「残飯入れ」はない。
食べ残す子がほとんどいないからだ。
小嶋さんは言う。
「食べたい量を自分で選んでいるので残さないんです。小さな子どもでも、自身が選択したことについては全うしようとする責任感が働きます」
好き嫌いも放置しているわけではない。
例えばトマトの嫌いな子の近くに、食べている子たちがいれば、保育士はトマトの会話を盛り上げながら食べ、おいしい雰囲気を作り出す。
すると、つられて「ひと口食べてみようかな」となる。
そこからスモールステップを踏む。
友だちの影響力は大きく、集団で食べるからこそできる偏食解消法だ。
「人が最もおいしく感じるのは空腹で楽しいとき。食べる時間を自由にしているのは、小学校と違い登園時間に2時間近くの開きがあるからです。一律の時間に押し込んで食べさせようとしても、おなかが空いていない子には苦痛でしかありません。楽しく食べる環境をいかに作るかがとても大事です」(小嶋さん)
「おいしい」は幸福感のベースになり、豊かなコミュニケーションを生む。
栄養や調理など、給食では「食事の質」については手厚く議論がされてきたが、「食べる時間のあり方」については後回しにされてきた。
大事にすべきものは何か。
丁寧に考えていくことが必要だろう。(編集部・石田かおる)
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私語禁止の「黙食」で給食が苦痛に…教員も悩む「食育はそれでいいの?」
AERA(アエラ)2019/03/01
https://dot.asahi.com/aera/2019022700030.html?page=1