■「ジョブ型雇用」導入すれば、係長にもなれない人が続出する
日経ビジネス 2021.3.19
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00271/031900002/
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ー「日本型雇用が行き詰まっている」ということで雇用を巡る改革の動きは長年続いてきました。
今いわゆる「ジョブ型」を中心とした議論が盛んになっています。
海老原さんはどんなふうにご覧になっているんでしょうか。
海老原嗣生・雇用ジャーナリスト、ニッチモ代表取締役(以下、海老原氏):僕が人材系の仕事に携わるようになったときの初っぱなの議論が「新時代の日本型雇用」でした。
今から30年前くらい、日経連(現在の経団連)が主導したプロジェクトだったんですね。
あのとき問題になっていたのは、1990年代のバブル崩壊で業績が落ち込んで、会社の中のポストがなくなったこと。
定期昇給で給与が上がり続けるという仕組みも終身雇用も難しくなっている中で「日本型でいいのか」という話でした。
・問題は同じなのに、次々と変わるソリューション
ーそれほど今とは変わらない議論だ、と。
海老原氏:昔の資料を探すと、これとまったく同じ言葉がその30年前にもありました。
2000年代になってからも、僕が知っているだけでも小泉改革のときの多様な働き方勉強会、あれのときもまったく同じ議論をしているんですよ。
要するに「ゼネラリストで、終身雇用で、定期昇給で、年功序列という仕組みは大丈夫なの?」と。
今から6~7年前に僕も多少携わったプロジェクトで言えば、政府の規制改革会議と産業競争力会議、日本再興戦略会議、この3つがありました。
3つが並走していて、ここでもゼネラリスト、終身雇用、定期昇給、年功序列で大丈夫なのかという話をしているんですよ。
出発点はいつも一緒で、そのたびに言っていることがちょっと変わっただけ。
僕が最初に議論を傍観したときはどうだったかというと、「新しい時代の雇用は3層に分ける。
まず長く在籍してもらい経営層を目指す人、それから特定のスキルを持ったテクノスペシャリストみたいな人、こういう人は、(労働市場の)市場価値があってどこでも行ける人だと。
そして、短期雇用型のアルバイターみたいな人」という話でした。
具体策はその後のものとは違うけど、議論の入り口は一緒だったんですよ。
小泉(純一郎)首相と安倍(晋三)首相のあたりの10年ぐらいにどんな話をしていたかというと、ホワイトカラーエグゼンプションとか高度プロフェッショナル制の話。そして最近になって出てきたのがジョブ型なんですよ。
結局、出発点は同じなのにソリューションが全部違うということなんですね。
ーそもそも日本型雇用の是非がなぜ議論になるのか。
あらためてお聞かせください。
海老原氏:まず僕が見る限り、日本型の特徴である「無限定」の雇用の仕組みは人を育てる上で、非常にうまくまわってきました。
・日本型雇用、人を育てるには適した仕組み
ーポストを決めて雇用契約を結び、本人の同意がない限り配置転換ができない欧米の「限定」型の雇用に対して、会社が人事権(配置権)を持ち、他の職種、他の地域への異動(転勤)を命じることができる日本は「無限定」型の雇用システムということですね。
海老原氏:新聞記者さんを例に取りましょう。
日経ビジネスは雑誌なのでちょっと違うと思いますけど。
新聞記者さんだと、入社してまず「サツ回り」をやらせるじゃないですか。
県警とか警察を担当するわけですね。
サツ回りで地方に配属すると何がいいかというと、警察を担当していたら記事になるネタが集まります。
つまり自分でまだ記事を取りに行く、探すことができない新人記者にとって警察発表を記事にするというのは最初にやりやすい仕事の仕組みなんです。
(警察幹部への)夜回り取材というのもあります。
記者としての足腰を鍛えるためでもあるし、うまい聞き方を身につける訓練になる。
人にかわいがられるという意味でも夜回りも大切でしょう。
それから地方の何がすごいかというと、その土地の政治、経済、スポーツ、産業……、全部を覚えられる。
そういう基礎を身につけて、今度は東京とか大都市に異動させて難しい仕事をやれるようになっていく仕組みなんです。
そうやって仕事をちょっとずつ難しくするというのは、無限定雇用だからできるわけです。
例えば経済紙に記者として入ったので「僕は経済しかやりません」とかじゃなくて、何でもやらせられるから簡単な仕事から難易度を上げられる。
腕が立ってきたら、ひとつ上の仕事をやらせて、だんだん難しいものに対応できるよう成長するわけです。
つまり何も知らない若者が入ってきて、10年で育てるみたいな意味では非常にうまくできた仕組みだと思うんです。
最初の給与は安くて、能力アップに応じてちょっとずつ上がっていくけど、まだ修業期間だからあんまり差はつけない。
こういうボトムアップ期には日本型雇用は非常に向いているんですよ。
ボトムアップ期については、「新卒一括採用しか入り口がない」ととかくいわれる問題がありますが、ただ、若者は昔から3年で3割転職しているので、これもそんなに大きな問題とは思っていません。
就職氷河期のようなことが起きない限りは。
・本当のジョブ型なら、本人の同意なく残業や転勤はさせられない
ー若手を育てるにはいい仕組みだと。
海老原氏:問題は、例えば35歳以降くらいで能力が上がって、課長とか部長になる人と、それ以外の人に分かれてからなんですね。
能力がアップして課長、部長になった人は給与が上がる。
それは当然です。
でも日本型雇用だと、職能主義といって、ポストの数に関係なく昇級・昇給できる仕組みをとっているから、平社員のまま止まっている人も給与が上がるんですよ。
これがおかしい。
会社員生活の前半戦のことはあんまり問題じゃなくて、後半戦に右肩上がりの賃金カーブが続いていくので、経済成長が止まると厳しくなる。
それで「どうしたらいいの? いろいろな仕組みを入れなきゃね」というのが、ずっと議論のテーマなわけです。
ー欧米を見習ってジョブ型を導入すれば解決するんでしょうか。
海老原氏:まず言っておきたいのは、ジョブ型にするなら無限定雇用をやめないといけない。
ージョブ型にしたのに会社の都合で仕事の内容が違うポストに異動させたり転勤させたりするのは理屈に合わないというわけですね。
では欧米のジョブ型のように限定型の雇用にすると何が起こるんでしょうか。
海老原氏:まず平社員のままだと給与が上がるということはなくなります。
ジョブ型ですから。その代わり限定型になるので、本人が同意しない滅私奉公的な残業はなくなります。
それから会社が勝手に異動を命じることもできません。
つまり人事権を企業から取り上げることになるわけです。
給与は上がらないけれども、残業は発生しませんし、異動もない。
欧米型、いや、正確には「欧米のノンエリート型」にするというのはそういうことです。
ー欧米でも将来経営層を目指すようなエリート社員は残業も転勤もいとわず猛烈に働きますが、ノンエリートはジョブ型で限定型の雇用だから、原則として、定時に仕事が終わって、転勤もない。
そのやり方を日本の企業に入れて果たしてフィットするのか、ということなんですね。
海老原氏:そうです。
でも残業も人事異動もさせられないなんて、日本の企業は嫌なわけじゃないですか。
働く側からするとどうなのかというと、雇用保障が弱くなるんですよ。
ジョブ型で1つのポストでしか働かないわけだから、不況とか会社の方針転換などで、そのポストがなくなったら雇用継続する道理はない。
そんな先行きまで労働者に提示したら、「クビになるのは嫌だから異動があってもいい」という話になるんですよ。
結局、企業も働く方も捨てるものを捨てられないからこうなっている。
・実は労使とも今の方が居心地がいい
ー労使とも既得権があるから話が進まない、そういうことなんですか。
海老原氏:まず経営側が分かってない。
分かっているのは労務の相当詳しい人間だけ。
それ以外の経営側の人は、ジョブ型で必要になるジョブディスクリプション(職務定義書、JD)を書くと欧米型になるみたいに思っているし、職種別採用をすると欧米型になると思い込んでいるだけで、なぜ欧米型のノンエリートなら給与が上がらなくて、なぜ社員が早く帰れるか突き詰めて考えてない。
出世も昇進もなくなって、給与が安くなる。
一方で、負荷のある仕事がなくなるし、早く帰れることができる。
こういう話がセットになっていることを知らないんですよ。
それから、職種別採用をすると、その職種に詳しい人がその仕事しかやらないから早く帰れるんじゃないかとか思っている。
でもエンジニアなんて今でもエンジニア採用で入っているわけなんですよ。
でも早く帰れてますか?
経理とかITも職種別採用で入社したときからずっと経理をやっている人が多い。
でも早く帰れないんですよ。
そんなもの、いわゆる職種別採用をやっても解決しない。
ここでJDの話になるわけです。
欧米だとJDに仕事が明確に書かれているから、あれこれ余計なことは頼まれない、と。
でもね、欧米のジョブディスクリプションを見れば、実際にはもう細かいタスクなんて書いてない。
昔はタスクが書いてあって、このタスクをやれば帰れるという仕組みだったけど、今はそうじゃない。
周囲の仕事も手伝うとか、規定にない場合は上司の判断に委ねるとか、書いてあるんですよ。
で、もう明確に規定などできなくなっている。
その結果、何が起きているか。
今度は人事コンサルタントがそれを見て、タスクではなく、責任とか理念とか職責とかが書いてある、いわゆる「グーグル型」に変えようみたいなことを言っているわけです。
それって日本の職責グレードとか役割給とあんまり変わらないじゃないと僕は思うんですね。
・キャリアの後半では昇給しにくくなる
ータスクだと具体的な感じがしますけど、職責とか言われると、あいまいな印象がありますね。
海老原氏:「ミッション」とかになるわけなんですよ。
ミッションとかコンピテンシーってそんなに変わるものではないし、何より、それを決めても職場に審判員がいて、「あなた職責違反です!」って四六時中ジャッジしない限り霧消します。
だから日本じゃ職責も役割も大してうまくいってません。
こんなような話をずっとやっているんですよ。
「ジョブ型って本当に何なの?」って考えていけば、これは企業の人事権が弱くなるということ。
それが1つ目の結論なんですよ。
2つ目はポストで人を雇うということ。
欧米の企業は上から下までポストの数がまず決まっている。
それは経営計画で全部決まっているんですよ。
「あれ、人が余っちゃった」となったら、「さよなら」になる。
ポスト数が先に決まっていて、人が足りなければ採りなさい、余っていたらさよならって、ポストで決まるわけです。
つまり上へ行くのも横に行くのも、ポストがなかったら行けない仕組みなんです。
ジョブ型というのは、ポストで人を雇う仕組みなので、さっきも言ったように会社が一方的に異動を命じる人事権はなくなります。
労働者側から考えたら、いくら頑張ってもポストが空いていなければ、上に行けなくなるんですよ。
例えば入社3年目くらいの若手で、アソシエイトからシニアに上がれる力があっても、シニアの席が空いていなかったら、1個も上がらないわけなんです。
これまで日本企業ではポストが空いていなくても職能等級では上がることができた。
いや、下位等級には「ポスト数」なんて定員概念はほぼなかった。
3級だったのが4級までは、2年くらいまあまあ頑張ればみんないけて、給与も上がった。
そんな制度だったのが、ジョブ型だとポストが空いていなければ上がらなくなっちゃう。
一般企業だと課長になれない人って、今、54%ぐらいいる。
その54%のうちほとんどが係長職能等級まではいっているんですよ。
係長の職能等級なんていくらでも奮発していいわけ。
でもジョブ型だと物理的な「係」の数しか係長のポストはないわけですから、係長にもなれない人がたくさん出る。
だからジョブ型にしたら、キャリアの後半では給与ってなかなか上がらなくなるんですよ。
海老原嗣生(えびはら・つぐお)氏
ニッチモ代表取締役、政府労働政策審議会人材開発分科会委員、中央大学大学院戦略経営研究科客員教授
1964年東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計などに携わる。その後、リクルートワークス研究所にて雑誌「Works」編集長を務め、2008年にHRコンサルティング会社ニッチモを立ち上げる。『エンゼルバンクードラゴン桜外伝ー』(漫画雑誌「モーニング」連載、テレビ朝日系でドラマ化)の主人公、海老沢康生のモデルでもある。人材・経営誌「HRmics」編集長、リクルートキャリア フェロー(特別研究員)。『「AIで仕事がなくなる論」のウソ』(イースト・プレス)、『人事の成り立ち』(白桃書房)など著書多数。
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「ジョブ型雇用」導入すれば、係長にもなれない人が続出する
雇用ジャーナリスト海老原嗣生氏が読み解く「脱・日本型雇用」議論の真実
日経ビジネス 2021.3.19
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00271/031900002/
■企業の外国人幹部、30年に2倍の20万人 政府が新目標
日本経済新聞 2021年6月21日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA179AB0X10C21A6000000/?n_cid=SNSTW001&n_tw=1624283742
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政府は海外の企業経営者や経営幹部らの国内受け入れを増やし、2030年に約20万人にする目標を決めた。
19年実績の9.5万人の約2倍に増やす。
地方活性化も視野に外資系企業の誘致を促し、東京以外に拠点を置く企業の数を26年に1万社と16年の4200社の2倍強に引き上げる。
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企業の外国人幹部、30年に2倍の20万人 政府が新目標
日本経済新聞 2021年6月21日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA179AB0X10C21A6000000/?n_cid=SNSTW001&n_tw=1624283742
■日本企業はなぜ「お雇い外国人」に高額報酬を払うのか
Newsweek(ニューズウィーク)2018年6月21日 松野弘(千葉大学客員教授)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2018/06/post-10436.php
■ソニーや三井不動産も実質外資 乗っ取られた日本企業35社
「アベノミクスは円安や官製相場によって株高をつくり出しましたが、その副作用で日本の優良企業は海外ハゲタカの餌食になっているのです」
日刊ゲンダイ(2017/08/04)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/210737
■オリンパスが祖業売却へ “物言う株主”の破壊力
「19年にアクティビスト(物言う株主)ファンドといわれる米バリューアクト・キャピタルから社外取締役2人を受け入れ」
週刊エコノミスト 2021年11月22日
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20211130/se1/00m/020/048000c
■「物言う株主」三井金属、屈辱的な“過激な株主提案”受ける…全取締役の退陣、告発窓口の設置
exciteニュース 2019年6月18日 Business Journal
https://www.excite.co.jp/news/article/Bizjournal_mixi201906_post-15740/
■「物言う株主」存在感高まる 新型コロナ禍で
・狙われやすい日本「ターゲットになっているのが日本」「制度上、株主提案がしやすい」
SankeiBiz 2020.7.9
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/200709/eca2007090500002-n1.htm