■国家を私物化する安倍政権の改憲を許すな。自民党案に潜む「罠」<小林節氏>
ハーバー・ビジネス・オンライン 2019.11.24
https://hbol.jp/pc/207060/
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・必要な自衛の措置なら何でもできる
── 憲法改正に向けた安倍政権の動きが活発になっています。
小林節氏(以下、小林):
安倍総理は、憲法9条の1項、2項をそのままにして、憲法に自衛隊を明記するだけだと説明していますが、実は重大なことが隠されています。
昨年3月の自民党大会で決定された改憲の「条文イメージ(たたき台素案)」には、9条の2を加え、「前条の規定は必要な自衛の措置をとることを妨げず」と書かれているのです。
これまでの政府解釈、国会答弁は「必要・最小限の自衛」でした。
安倍政権の改憲案は、この「最小限」という考え方を否定しようとしているのです。
つまり、必要な自衛の措置ならば、何でもできるということです。
極端に言えば、自衛隊は地球の裏側にも行けるということです。
9条の1項、2項が残るから大丈夫だと考えてはいけません。
同レベルの法では新しい条文が優先されます。
9条の2を入れることで、現行の1項、2項は排除されるのです。
自民党は、単なるたたき台だと言っていますが、党大会で憲法改正推進本部長に一任され、総務会でも追認された文書です。それは党議決定なのです。
また、安倍総理は自衛隊を明記することによって、自衛隊に誇りを持たせると述べていますが、自衛隊を条文に書き込むこと自体が憲法になじみません。
憲法に明記されている国家機関は、国会(衆議院・参議院)、内閣、最高裁判所、会計検査院だけです。
それ以外の国家機関は法律によって規定されています。
自衛隊を管理する防衛省も明記されていないのに、自衛隊だけを明記するのは不合理です。
── 改憲4項目には緊急事態条項も入っています。
小林:
非常時には首相に、行政権に加えて立法権、財政権、自治体への命令権を与え、国民には命令に従う義務を課すものです。実際の災害時に必要のない異常な首相独裁体制です。
・逆立ちした自民党の憲法観
── 安倍政権の改憲案は危険ですが、自民党の憲法観自体に大きな問題があります。
小林:
本来、憲法は主権者である国民が権力者を縛るものです。
国家が個人の基本的人権を侵害することがないように制限するルールが、近代立憲主義における憲法なのです。
ところが、自民党の憲法観は逆立ちしたものです。
自民党議員と憲法論議をしていて驚かされることは、「権力を規制する『制限規範』としての憲法もあるが、権力に授権する『授権規範』としての憲法もあり、私は後者を採る」などと公言する者が多いことです。
現行憲法は、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」(99条)と規定していますが、2012年に自民党が出した憲法改正草案は、この規定を尊重義務と擁護義務に分け、「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない」、「国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う」と定めているのです。
つまり、下々の国民がきちんと憲法を尊重しているかどうかを、憲法の擁護者である権力者が監視しなければならないという発想なのです。
また、現行憲法は「すべて国民は、個人として尊重される」(13条)と定めていますが、自民党の草案は「個人」を「人」に書き換えてしまいました。
人間はそれぞれ異なるDNAを持っているので、それぞれ個性があり、異なる好き嫌いを持っています。
だから、意見が異なるのは当然です。
お互いの違いや個性を最大限尊重し合うことが、人権が保障された社会です。
自民党の草案は「個性を持った個人の尊重」という原則を切り捨てようとするものです。
全体主義指向なのです。
・憲法を破壊し続ける安倍政権
── 7年に及ぶ安倍政権で、すでに憲法の理念が踏みにじられてきました。
小林:
安倍総理は当初、憲法96条を改正して改憲発議要件を緩和しようとしました。
法の支配を無視した「裏口入学」です。
その後、96条改正を引っ込めたと思ったら、今度は解釈改憲によって、集団的自衛権行使を容認する安保法制を強行しました。
これは明らかに憲法9条違反です。
2014年に施行された特定秘密保護法は、世界でも稀に見る悪法です。
政府が秘密と決めたものは、それが何であるかも説明せず、永遠に秘密として闇に葬ることができるのです。
政府が何をしたかを、主権者国民がわからなくするものであり、国民の知る権利に対する侵害で国民主権に対する反逆です。
安倍政権はまた、メディアに対して圧力をかけてきました。
総務大臣が「公平性」を欠く放送を繰り返した放送局の電波停止に言及したこともありました。
「使ってはいけない論客」リストが流され、そこに私の名前も載っていたそうです。
メディアが萎縮するのは当然です。
いまや、ほとんどの地上波が政権批判をできなくなっています。
安倍政権は政権におもねる御用メディアを育て、敵対するメディアを潰してきたのです。
表現の自由、報道の自由、国民の知る権利が著しく脅かされているということです。
安倍政権はまた、「働き方改革」と称して高度プロフェッショナル制度などを導入しましたが、実質的には「残業代ゼロ制度」であり、勤労の権利を侵害するものです。
2017年には、安倍総理は野党による臨時国会召集要求を3カ月も拒みました。
そして召集に応じるや、審議をせずに冒頭で解散してしまいました。
これも、「いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば内閣は(臨時国会)の召集を決定しなければならない」と明記した憲法53条に反する暴挙です。
2016年に導入されたマイナンバー制度は、国民のプライバシーを国が管理するものであり、憲法13条のプライバシー権を侵害するものです。
・専守防衛の能力を高めよ
── 参議院では、憲法改正の発議に必要な3分の2に足りていません。
小林:
決して安心してはいけません。
自民党が、改憲派の野党議員を一本釣りすることなど容易なことです。
自民党は、世論調査を頻繁にやっており、国民投票に踏み切るタイミングをうかがっています。
いま、国際情勢が悪化する中で、改憲賛成がじわじわ増えています。
安倍政権は北方領土交渉で成果を上げることができませんでしたが、ロシアによる四島不法占拠に反発している国民も少なくありません。
また、尖閣諸島などでの中国の行動に対する国民の警戒感も高まりつつあります。
さらに、北朝鮮がミサイルを発射し、韓国との関係もこじれています。
こうした厳しい国際情勢の中で、「日本に軍隊がなく、国防の意思をきちんと示さないから、外国から舐められているんだ」と考える人が増えています。
国際情勢が厳しくなる中で、左派の平和主義が説得力を持ちにくくなってきているのも確かです。
安倍政権による改憲を阻止するためには、専守防衛によってわが国の安全保障を維持できることを明確に示すことが重要です。
わが国には、世界有数の経済力と技術力があります。
その力によって、9条の範囲内で「専守防衛」の能力を高めることができます。
「万が一にも日本に手を出せば、致命傷を負う」と他国が考えるように、日本は専守防衛に集中すべきです。
その上で、わが国は海外では軍事力の不行使に徹し、対立する諸国間の仲裁と人道復興支援に邁進すべきです。
安倍政権による改憲を批判する人の中には、非武装中立を信奉し、自衛隊廃止を説く人もいます。
しかし、いまはその議論をしているときではありません。
まず、安倍政権の改憲を阻止し、それからその議論をすればいい話です。
国際情勢の悪化に伴って、改憲賛成がさらに増えてくる可能性もあります。
賛成が過半数を超え、その状態が続くと判断すれば、国民投票に自信を持って、安倍政権は一気に動くでしょう。
決して油断はできません。(聞き手・構成 坪内隆彦)
・小林節(こばやしせつ)
法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院のロ客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在。
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国家を私物化する安倍政権の改憲を許すな。自民党案に潜む「罠」<小林節氏>
ハーバー・ビジネス・オンライン 2019.11.24
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■自民党の憲法草案を丁寧に読んでみてビックリ、問題は9条以外の部分だった。
2016年10月23日 杉江義浩(ジャーナリスト)
http://ysugie.com/archives/5353
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はじめに言っておきますが、僕は憲法9条擁護派でもなければ、憲法を改正することに断固反対する考えもありません。
どうせ改正するなら、まともな憲法にしたいと、強く願う国民の一人です。9条に関しては、中学生時代から疑問がありました。
「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」と書かれているのに、中学生の頭で考えたら「自衛隊があるやんけ、思いっきり戦力やん?」と頭を悩ませたものです。
その時先生はどう説明したか忘れましたが、中学生の僕には納得がいかなかった気がします。
なのでちゃんと保有する戦力(自衛隊でも軍でも構わないが)について、スムースに理解できるような文面に書き改めてもらうのは、結構なことだと思います。
それにしても。それにしても、と僕は声を大にして指摘しておきたいのです。
現在の自民党が提示している憲法改正草案は、読めば読むほど基本的人権を軽視した、危険極まりない、お粗末なものでした。
この草案は、民主党政権時代に、野党となっていた自民党が、こともあろうに極右団体の日本青年社に作らせたものです。
まともな政治家や憲法学者が草案を作ったなら、ここまで酷くはならなかったでしょう。
このあたりの経緯は、坂井万利代さんが書かれた「自民党は何故、野党になったときカルト(愛国)化したのか?」に詳しく書かれています。
みなさんも是非とも時間を作って、自民党の憲法改正草案をざっと読んでみてください。
再び中学時代の日本国憲法に関する授業の話に戻りますが、戦後の日本国憲法の三大原則とは、「国民主権」「平和主義」「基本的人権の尊重」だと教わりました。
テストにも出ました。
日本国憲法とは実に良い原則を持った憲法だと感動したものです。
これらの原則が大きく揺るがされようとしている、驚くべき草案が、極右団体日本青年社に作らせた自民党草案なのです。
まず、戦後から今まで守ってきた象徴天皇の表現を書き換え、
“天皇は、日本国の元首であり、”
と国における地位として「元首」という立場を与えています。象徴天皇というお立場だけで何の問題もなかったのに、これでは「国民主権」の意味が失われ、元首と臣民という関係が発生します。大日本帝国の再来です。
「平和主義」については、「第1章 天皇」に続く「第二章 安全保障」と新設された章の中に、カッコ付きでわずかに4行述べられているだけです。
元々はここは「第二章 戦争の放棄」という章でした。
すなわち「戦争の放棄」が格下げされ、代わりに「安全保障」が天皇に続く大事な概念として、格上げして述べられています。
安全保障は大切ですが、軍が活動する範囲が問題です。
自民党案では、国防軍が活動する範囲について、
“国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、”
と、外国での戦争への参加にまで広げています。
第9条を改正するのには僕は賛成だと言いましたが、ここまで積極的に海外へ出て行くように、国防軍を憲法で定めるのは「平和主義」から離れて行くような気がします。
と、ここまで述べてきて言うのも何ですが、僕はこの二つはどうでもいいくらいに思っているのです。
これから述べる「基本的人権の尊重」を真っ向から否定する、国民の自由や権利を制限することのできるように書き換えられた条文の恐ろしさに比べたら、それほど反対する大きな理由にはならないからです。
僕が発見した恐ろしい条文とは、「第3章 国民の権利及び義務」の中に出てきます。
人権を軽視する恐ろしい表現は、微妙な言い回しに出てきます。
国民に対して、現行憲法も自民党草案も、「生命、自由及び幸福追求の権利」については、基本的に侵してはならないと定めています。
ところが、例外規定が全く異なるのです。
現行憲法では、
“第十二条 ・・・常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う
第十三条 ・・・生命、自由及び幸福追求の権利については、公共の福祉に反しない限り”
と、なっています。
「公共の福祉」とは、「他のみなさんの幸せ」と言う意味であり、個人の自由や権利は、他の皆さんの幸せを害さない限り、尊重されると言う趣旨です。
それはそうですよね。
いくら憲法で権利や自由が保障されているとはいえ、他人に迷惑をかけるような自由は、認められなくて当然です。
ところが自民党の憲法改正草案では、「公共の福祉」という文言が、全て「公益と公の秩序」に置き換えられています。
自民党草案では、
“第十二条 ・・・常に公益及び公の秩序に反してはならない
第十三条 ・・・生命、自由及び幸福追求の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り”
「公益」とは何なのか。
代表的なものは「国益」です。
「公の秩序」とは何なのか。
簡単にいえば「公権力による秩序」すなわち警察権です。
つまり、国益に反するような生命、自由及び幸福追求の権利は認めませんよ。
その時は警察官が取り締まりますよ。という意味になります。
国益とは何なのか。
例えば国が戦争に巻き込まれたとしましょう。
その時は戦争に勝つことが国益となり、国民は全身全霊で戦争に取り組むのが国益を守ることになります。
その時に戦争に協力しなかったり、それでなくとも戦争に役立たない表現活動をしたりする自由は、公益に反するとして厳しく制限されます。
幸福追求の権利も制限されます。
娯楽に興じていては逮捕されます。贅沢は敵だ、の世界です。
戦争が始まらなくても、国会前に集まって反戦デモを行おうとすれば、公の秩序を乱したとして、一斉に検挙されるでしょう。
第二次世界大戦の前夜と同じ、表現の自由のない、ファシズムの世の中の再来です。
「公益及び公の秩序」は、第二十一条(表現の自由)にも書き加えられています。
“第二十一条 集会及び結社言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。”
に続いて自民党案では、
“第二十一条 2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。”
と、付け加えられています。
すなわち国益に反する内容と認められたら、それをネットやテレビで発言することも、本にして出版することも、反戦歌を歌うことも禁止されるのです。
ボブ・ディランがノーベル賞を取る時代に、何と時代錯誤な条文でしょうか。
表現の自由は、国益にそうものしか認められない。
としたらマスコミも大本営発表をそのまま伝えなければならないので、その本来の機能を失うでしょう。
ネットの書き込みでも検閲が行われ、反日、と認定されたら削除されてしまうでしょう。
だから僕は自由と基本的人権に関わる部分で、それを制限する文言として「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に置き換える案だけは、認めるわけにはいかないのです。
これが自民党草案の最も注目すべきポイントだと思います。
・杉江義浩(すぎえよしひろ)
1960年3月15日東京都渋谷区生まれ。大阪府立千里高校、神戸大学文学部心理学専攻卒。「NHKスペシャル」「天才てれびくん」をはじめ、数々の番組に携わる。1994年「週刊こどもニュース」では池上彰とともに番組を立ち上げ、その後8年間にわたり、総合ディレクター、企画ディレクターを担当。2002年から真剣10代しゃべり場」のプロデューサーおよび「ピタゴラスイッチ」「からだであそぼ」などを担当。2008年よりNHKインターナショナルにて、国連CPO10、APEC、IMF世銀総会等の国際会議においてホストブロードキャスター業務を担当。2017年4月にはNHK文化・福祉番組部にて「Hey! Say! JUMPの昭和にジャンプ」を担当するなど、制作現場の業務も再開している。著書に、「ニュース、みてますか? -プロの『知的視点』が2時間で身につく」- (ワニブックスPLUS新書)。
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自民党の憲法草案を丁寧に読んでみてビックリ、問題は9条以外の部分だった。
2016年10月23日 杉江義浩(ジャーナリスト)
http://ysugie.com/archives/5353