302号教室 4限 授業連絡表
授業科目 現代民俗学講座
学科 史学科
担当教員 高槻彰良
連絡事項 恐ろしい怪談
現代民俗学Ⅰへようこそ、去年民俗学Ⅱを受講した人の顔があちこちに見えて嬉しいね。
民俗学に興味を持ってもらえたかな。
僕の術中にはまったね。
青い提灯の祭りが終わり、深町尚哉(青和大学文学部の学生)神宮寺 勇太 は大学2年(2回生)となった。
相変わらず、高槻がボードに描く絵は謎で、尚哉の後ろに座る 難波要一(尚哉の同級生) - 須賀健太
その隣の 谷村愛美(尚哉の同級生) - 吉田あかり にとっても、理解するには難易度が高い。
鼻を垂らした風邪気味の犬のように見えているのは、「牛の首」らしい。
先生、このコかなり頭の悪い犬ですっ!
難波に、牛の首についてどう思うか高槻が尋ねると
牛の舌なら好きですよ、タン塩。
などと、いかにも彼らしいもっともな返事が返ってくる。
牛の首と言うのはね、この世で最も恐ろしい怪談だと言われているんだ。
そう言うと、高槻は「君だけに話すから」と難波を壇上に呼び寄せようとする。
怖がっているか聞かれて
「怖くないです。」
そう答える難波を横目に、尚哉はどんな話なのか興味津々だ。
高槻が、前に出てきた難波の耳元で何かを話している。
すると難波の顔がどんどん曇り始め、うなだれて教壇を離れて行く。
席に戻ると、頭を抱えてうつむいていた。
その時
ドーンッ!
高槻がマイクを床に落とした音に、皆が驚き女子学生たち数名が悲鳴を上げた。
その様子を見て満足を得たのか、高槻が
難波君の名演技のおかげでうまくいったよ、皆、難波君に拍手っ!
パラパラと拍手が起き、難波はそれに応える仕草をする。
未だ状況が吞み込めない谷村が高槻に尋ねると
「牛の首」と言う怪談は、タイトルだけで中身が無いのだと告げる。
「とても恐ろしい怪談だという評判を楽しむ」のが、この怪談なのだと。
話の内容が判らないからこそ恐怖が増す。と言い、ボードに「怪異」「現象」「解釈」と書き込む。
もし、僕が種明かしをしなければ
君たちは今夜、ただの通行人に恐怖を感じたり
目の前に飛び出した黒猫を不吉だと思って
そこに怪異を感じたかもしれない。
怪異の多くは、人の恐怖や欲望が生み出す
つまり、怪異は人の心を映すとも言えるね。
僕は偽者の怪異には興味がない。
本物の怪異を探しているんだ。
今は高槻の言葉の意味が解り、新しい学年が始まったことに浸る尚哉だったが
時を同じくして黒いフードコートを着た男が、空に突如流れてきた黒雲のように学内に入り込み
生方瑠衣子(高槻の研究室に所属する大学院生) - 岡田結実 に話しかけ
研究室へと近づいていることに、高槻と尚哉はまだ気づいてはいなかった。
オープニング
講義が終わり、尚哉を残して難波たちは帰って行く。
ノートを閉じて尚哉も帰ろうとしたとき、高槻からアルバイトを依頼される。
304 文学部史学科 民俗学考古学専攻 高槻彰良 の研究室
寺内一(謎のフリーカメラマン)-小池徹平 という男が、高槻を訪ねてくる。
高槻がいつもの調子で飲み物をすすめるが、ココアがド甘そうなのを知っている尚哉。
寺内が高槻が飲むものと同じものを頼もうとするのを察し、無理をしないよう伝えるが
是非、それで。と承知のうえで、高槻のオススメココアを選ぶ、嬉しそうな高槻。
あのココアを美味しいという寺内に、尚哉はまるでフードファイターを見るような眼差しになってしまう。
寺内は、高槻のサイト「隣のハナシ」にこのような投稿をしてきたのだ。
投稿者名;寺内一
最近、母親が奥多摩の奇跡の少女にハマってるのですが、
調べてもらえませんか?
寺内は、新聞記事をコピーしたものを二人に見せる。
内容は、
奥多摩湖で小学生を乗せた遠足のバスが、運転手が運転中における心臓発作が
原因とみられる事故により崖から転落し、小学生ら21人が死亡した。
というものだった。
ニュースでも流れたらしく、悲しい事故であったことを高槻も記憶していた。
このとき、一人だけバスの窓から放り出され奇跡的に助かった
少女:刈谷愛菜(バス転落事故で生き残った奥多摩の奇跡の少女)-粟野咲莉 がおり
そのカラーコピー記事も持参してきていた。
愛菜ちゃんは「奥多摩の奇跡の少女」と呼ばれ、この子に会うと不幸が避けられるとか
悩みが消えると言い出す人が出てきました。
私の母はそういうのを信じやすい性質で、「愛菜さまに助けていただく」と言って通うようになったんです。
これは、母が愛菜さまに頂いたといって神棚に飾っているんです。
(バスから逆さに少女が転落したように見える絵を差し出す。)
これは愛菜さまがバスから放り出された奇跡の瞬間だと、言っています。
毎週のように高価なお菓子やおもちゃを持って、現在は愛菜さまが引っ越した奥多摩まで通っているんです。
先生、奇跡の子なんて実在すると思いますか?
(尚哉は、高槻がいつもの如く立ち上がらないので、二人を交互に見ている。高槻は、何かを思い出しているような顔をしている。)
母が騙されていないか、調べていただけませんか?
分かりました、お引き受けします。
ありがとうございます。
寺内は立ち上がり、礼を述べて帰って行った。
古い団地の中庭
生方が、刈谷愛菜が奥多摩に引っ越す前に住んでいた団地で
聞き取り調査を行っていた。
既に引っ越していった彼女を、冷やかしなのか分からないが
住民たちは「愛菜さま」と呼んでいた。
近所へ彼女に会いたいという人たちが押しかけてきて
迷惑になるからと、ここから引っ越したそうだ。
住民たちによる彼女の印象は、
・可愛くって静かな子だった。
・お母さんが一人で育てていて、ちゃんとしてるカンジ?
・礼儀正しい子だったよ、ねぇ?
・やっぱり他の子と違うんだよねぇ。
生方の報告によれば、
愛菜さまはとてもいい子で、あんまり子どもっぽくない。特別な子だった。
とのことだった。
特別な子。
パソコンで、奥多摩の奇跡の少女について検索していた高槻の手が止まった。
「特別な子」その言葉が、高槻に自身の何かを思い出させたようだ。
尚哉:奥多摩なんですよね、その子の引っ越し先。
生方:信者の人が家を提供してくれたんだって。
尚哉:先生?この相談、楽しいと思って受けてます?
高槻:へっ?
尚哉:寺内さんの話を聞いたときも、一度も「すばらしい」って言わなかったし
(テンション低かったから)俺、断るのかと思ってました。
大丈夫、ちゃんと調べるよ。
やる気がないわけではないが、どうにも気持ちの高揚が見られない。
飲み物のおかわりを作りにデスクを離れて行く足取りも、そう軽いわけではなさそうだ。
警視庁前
佐々倉健司(警視庁捜査一課の刑事・高槻の幼なじみ) - 吉沢悠 に奥多摩駅前から
尚哉が電話を入れている。
高槻が手配した宿に、健司も後から合流するらしい。
ちょっと注意してくれるか、彰良のこと。
今回の件、関わるのが気に入らなくてな。(生方からバスが来ているからと、尚哉が催促される)
わかった、(理由については)後で話す。
どうやら、健司にも高槻が依頼を引き受けたことが引っかかっているようだった。
奥多摩湖を見下ろす高台で
鎌田亮平(バス転落事故の目撃者)-長谷川純 に、高槻ら3人が
事故当時の状況を聞き取りしている。
野鳥観察を趣味としている鎌田が、この場所でバスのクラクションに気づき
下の道を見ると蛇行したバスがガードレールにぶつかり、
そのまま崖下に落ちていったということだった。
あわてて通報しようとしたが、まだ生存者が居るかもしれないと
バスがぶつかって落ちて行った崖へたどり着くと
その下に、愛菜さまが居て立ち上がり、自分の方を振り向いたのだという。
一目見て分かりましたよ、この子は特別な子なんだなぁって。
刈谷親子が引っ越したという奥多摩の家の手前で
高槻ら3人が、高台にある信者が提供したという刈谷親子の現在の住まいを
訪ねに行く。
降りていく人にすれ違う、家の前にはまだ何人もの信者と言われる人が
並んで彼女に会うのを待っている。
生方は、心得たように私の出番ですね。と、先に並んでいた信者に話しかける。
自分は、愛菜さまに会うのが初めてなので、お土産を何も持ってこなかったけれど
大丈夫かと、最後尾の男女に話しかけた。
女性は、自分たちの意思で感謝の気持ちを持ってきただけだから、何もなくても大丈夫だと言い
感謝の気持ちと言うことは、何かいいことがあったのかと生方が聞くと、愛菜さまトークで盛り上がり始める。
男性:私は、愛菜さまに頂いた絵を会社に飾ったところ、急に大きな取引が決まりました。
女性:私は、家族の問題をお話ししたら、すっかり解決して。
高槻が尚哉を見て確認するが、声が歪んだ様子はないという仕草をする。
その二人の話を聞いていた高槻は、何かを思い出し始めた。
高槻の実家で(高槻の回想)
応接室に座る12歳頃の高槻(幼少期:高橋來)、すぐ近くには
高槻清花(高槻の母)-高橋ひとみ がいる。
高槻を訪ねて、現在の刈谷家のように女性たちが悩みを相談に来ていた。
ところでね、天狗様にまたご相談があるの。
それは、あのキリシマ夫人だった。(5話エンディングと6話に登場)
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尚哉:家族の問題に、10歳の女の子がアドバイスをするんですか?
女性:いいえ、愛菜さまはずーっと黙っていらっしゃるの。
その心の中をお母さま (刈谷真紀子:愛菜の母)-矢田亜希子
が読んで「愛菜もすぐに解決すると思っているようです。」って伝えてくださるのよ。
高槻の実家で(再び高槻の回想)
清花が高槻少年の方に手を添え(現在の刈谷真紀子のように振る舞い)
この子に何でも聞いてね。
そう言って微笑んでいた。
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やっと高槻たち3人が、刈谷家に入る番が来た。
玄関口を見渡すと白い靴の他に、汚れた赤い靴が片方だけ残っている。
高槻の記憶によれば、それは寺内が見せたあの絵、
逆さになった愛菜が片方だけ履いていた赤い靴だと思われた。
刈谷真紀子らしき女性の声で呼びこまれ、高槻たちが家に上がると
奥の机で高槻たちに背を向けた少女が、絵を描いている。
そのとき、家で飼っていると思わしき文鳥が、籠の中で鳴き
振り向いた高槻の身体が、ふらつき始める。
尚哉が高槻の身体を支えた。
生方は真紀子に、高槻が鳥が苦手であることを伝え
鳥を別の部屋へ移動してもらえるようお願いする。
いつもならここで倒れ込んでしまう高槻が、なんとか身体を起こして真紀子に
(寺内から)相談を受けていることを明かし、自分が来たことを説明した。
真紀子は、信者と言われる人々が先ほどの文鳥を含め
いろいろと何かを提供してくれていることは事実であるが
こちらからお礼を請求することはないと答えた。
(生方が、愛菜が描いているものを覗き込もうとして軽く嫌がられる。)
ただ、頂いたものは有難く使わせてもらっているという。
当時自分は仕事をしていたが、
事故の後、学校に行けなくなった愛菜と一緒にいるため
仕事を辞めてしまったからだ。
高槻:愛菜ちゃんは、学校へは行っていないんですか。
母親:事故以来、言葉が出なくなってしまって。
ゆっくり休ませて、私がそばにいようと思っています。
尚哉:家を提供してくれた人がいるっていうのは知っているんですが、
どうしてわざわざ奥多摩へ引っ越して来たんですか?
母親:事故現場に近いここで暮らす方が、亡くなった方々へのお弔いにもなりますから。
愛菜がスケッチブックのページを千切り、描いていた絵を高槻に渡す。
そこには、文鳥と逆さになっている高槻らしい人物が描かれていたのだった。
刈谷家を後にして、道を下っていく高槻たち
するとそこに、あの寺内が3人を待っていた。
挨拶を交わす3人。
尚哉が生方に寺内を紹介すると、生方は(研究室を尋ねられたので)会ったことがあると答えた。
寺内:どうしても、しっ・・・来てしまいました。いかがでしたか?
高槻:宗教でもないようですし、お礼も皆さん自主的に渡しているようですよ。
寺内:そうですか、ありがとうございました。
ところで先生は、愛菜さまを可哀想だと思いますか?
高槻:なせ、そんなことを。
寺内:僕なら「幸せだろうな」って思うからです。
尚哉:幸せ?
寺内:特別な存在になるなんて、最高じゃないですか。
それを聞いた高槻は、少し悲しい・・・いや寂しい顔をしていたのだった。
高槻が予約した宿で(奥多摩温泉 玉翠楼)
予約した和室2部屋。生方は一人で片方の部屋へ入っていく。
もう片方の部屋に入る高槻と尚哉。
ザ・(田舎の)旅館といった佇まいだ。
ここで尚哉は高槻に、真紀子の言葉が1か所だけ歪んでいたことを伝える。
どうしてわざわざ奥多摩にって聞いたときだよね。
引っ越した理由が(供養とは)別にあるってことですよね。
でもまぁ、(宗教がらみでもないし)もう解決かぁ。
旅館の避難経路案内図には「貸切風呂予約できます。」と書かれている。
あ、貸切風呂があるってよ。
折角来たんだから、美味しいもの食べて温泉入らなきゃね。
あ、男二人で貸切風呂で温泉ってことは、あれですよね。
そうですよね、そりゃ貸切でないと。そんな顔をする尚哉だった。
貸切露天風呂にて
岩風呂で身体を伸ばし、気持ちよさそうにする尚哉。
こうなってからは、健ちゃん以外の人とお風呂に入るのは初めてだよ。
そう言って、尚哉に背中を向けて見せる高槻。
改めてその傷を見つめる尚哉、子どもが背中にこの傷を負わされたことを考えると、胸が痛む。
隠さなくてもいいのは、いいもんだね。そう言ってくれるのが救いのような気がする。
愛菜ちゃんを見てると、自分の子どもの頃を思い出すんだ。
遠い目をして、昔のことを思い出しているふうだった。
風呂上がりの牛乳を(高槻はビール)、浴衣姿で3人が楽しんでいると
駆けつけた健司がやってくる。
背中越しに、行方不明者が発見されたニュースがテレビから流れてきた。
健司は気にかけていたらしく、振り返って速報の画面を見つめる。
埼玉県内で下校途中に行方不明になっていた高校一年生
「橋詰誠(ハシヅメマコト)」君【16歳】が無事に保護されたらしい。
健司によると、埼玉県警は山狩りまでして熱心に捜索していたそうだ。
しかし、その字幕スーパーを見て高槻の視線は画面に釘付けとなった。
【速報】
行方不明の男子高校生を京都市内鞍馬で保護
部屋に戻って、川の字に布団を並べた3人。
健司が電気を消そうとしたとき、高槻は思い出したようにそれを止める。
ちょっと待って
深町君、僕、愛菜ちゃんの家で「寺内さんがお母さんを心配している」って言ったよね。
寺内さんは、さっき何か言いかけてやめた。
健司:それが何だ。
どうしてもの後は、「心配で来てしまった」って言うのが自然だよね。
でもなぜか言わなかった。
それにあの人、研究室に来たときも「心配している」って言葉、一度も使ってなかった気がする。
どぉ~してだろ。
高槻には、それがどうも気にかかっているようだ。
寺内一の自宅?
アパートと言うよりは、入り口横の鱗を思わせる大きめな4枚の型板ガラスの窓が
事務所と言った風情の古いビルの1階。
いや、むしろ隠れ家と言った方が相応しい。
戻ってきた寺内は、奥へと向かう
暗幕を引くと真ん中にはベッド、そして壁三面にまるでストーカーを思わせる
高槻をメインにその周辺の人物が映り込んだ写真やスライドが
部屋を埋め尽くしている。
その中には、高槻のスクラップブックにあった、あの記事の写しも貼りだされていた。
記事を指でなぞる寺内。うっとりと思いつめるような顔のまま、ベットに身体を預ける。
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旅館の和室で既に眠る二人に背を向け、気持ちを鎮めようとする高槻。
しかし、何か分からない不安に気持ちが高ぶっているのか
その眼はまた青く光るのであった。
シーズン2 第1話終了