多角形の部屋
信者の女性が、教祖である冷川を「ダイショウ様」と呼び食事を運んでくる。
お母さんは?
母親のことを尋ねても、「ダイショウ様にお母さまはいらっしゃいません。」と
答えるだけだ。
教祖さまと呼ばれていても、好きなものが食べさせてもらえるわけではない。
肉には毒がいっぱいだからという理由で、希望しても出してもらえないのだ。
仕方なく、お気に入りらしい万華鏡を覗いて眺めている。
その様子を見て驚く三角康介(みかど こうすけ) - 志尊淳
あれ(万華鏡)は、誕生日にお母さんから買ってもらったものです。
大人の冷川理人(ひやかわ りひと) - 岡田将生 がそう説明する。
あのカレイドスコープを覗いているときだけが、自分にとって唯一の安らぎの時間だったという。
あの多角形の部屋の中で、信者にお祓いをする冷川少年。
すると信者は身体が軽くなったと言って喜び、疲れた冷川をよそに
信者の女性が次々と、悩みを持ち込む信者を呼び込もうとする。
疲れるから嫌だと言っても、冷川少年を自分たちの運命と呼び
運命と言うのは共鳴して、強い力で自分たちを引き上げるもので
この人は自分の運命だと、直感で分かるものだと言うのだ。
冷川に、皆がアナタを信じているのだから力を尽くせと強要する信者。
大人の冷川は、その頃の辛さを思い出し涙ぐむ。
母を探して助けを求める冷川少年に、母さえも
アナタはもう私の子どもではない、神の子なのだからと突き放される。
それを眺めていた石黒哲哉(いしぐろ てつや) - 筒井道隆
思い出しました、全て。
自分が何をされ、何をして、何を思っていたのか。
僕は、苦しかったのかもしれない。
だから壊した、僕が予め壊されていたから。
これ、どうしたの?
呪いですよ。
冷川少年の前に、めずらしい生き物を見せるかのように、目から黒い液体を流している信者の男を連れてくる石黒。
呪い?
呪いをかけられた信者を触る冷川少年を止めようとする女性信者。
へぇ、どうやるの?
穢れを集めるんです。簡単ですよ、アナタなら。
おやめなさい、誰か。誰か来てちょうだいっ!
部屋を出て、人を呼ぼうとする女性信者。
呪ってやるっ!
倒れる男性。
呪ってやる。
すると、部屋の中で身の回りの世話をしていた女性信者の目から黒い液体が流れだす。
呪ってやるっ!
部屋を出て、三角形のらせん階段を降りて行く冷川少年。
すると、教会内で次々と互いを殺し合う殺人や自殺が起こり
信者たちは血を流して倒れていく。
その中に、母親を見つけて駆け寄る冷川。
すると後ろから、丸い石板のようなもので男性信者に母親が殴られてしまう。
母親の血が、冷川少年の顔に飛び散る。
冷川少年は、手にしていた万華鏡を落とし、叫び声をあげる。
それを見る大人の冷川と康介。
その騒ぎに紛れ、石黒は万華鏡を持ち出して逃げるのだった。
人々が死に絶えた教会で、声を震わせる大人の冷川。
僕がやったんだ、お母さんも。僕が殺した。
徐々に透明になっていく冷川の姿。
その場に取り残された康介は、冷川の名前を呼び彼を探し回る。
これまでの自分の悲しみ・冷川の悲しみを共有した康介。
冷川さん、行っちゃだめですっ!
戻ってきてくださいっ!
その時、半澤が冷川少年を食堂で見つけた声が聞こえた。
慌てて食堂へ駆け出す康介。
食堂に座り込んでいた冷川少年の横に座り
一人で話し始める。
俺さ、子どもの頃から「何で自分は他とは違うんだろう」ってずっと思ってた。
「こんな変な力がなければ、どんなに良かったか」って。
でも、もしかしたら。もしかしたらさ、
「こんな俺たちでも何かできることがあるかもしれない」って
今は思うんだ。
そう言って泣き出す康介。
それを教えてくれたのは、アナタなんだよ、冷川さん。
すると、少年の彼からは見えないはずの康介の方を見る。
俺を見つけてくれて、ありがとう。
冷川少年に、今の気持ちを伝える康介。
冷川に手を差し出し
肉、食べたくないですか?
肉、食べたいっ!
じゃ、行きましょう。
これは・・・運命?
そう、運命。
俺と一緒にいれば、怖くないですよ。
頷いて康介の手を取る冷川少年。
すると、壊れていた万華鏡が回りだし模様が動き始める。
穢れの貯金箱とされたビルの外では、応援に駆け付けた警察官たちが、黒づくめの男たちを取り押さえている。
夜が明けた。
手を取り合ってビルの一室で倒れている冷川と康介。
康介は手に持った万華鏡を、冷川に返す。
あの禍々しい赤い紐は消え、扉の前には非浦英莉可(ひうら えりか) - 平手友梨奈
が倒れている。
近寄って、彼女の手を取る康介。
英莉可の意識が戻る。
ありがとう。
康介の礼に、首を振る英莉可。
これまで自分が行ってきたことの恐ろしさに、苦しみと後悔が蘇る。
ありがとう。
病院にて
容体が回復した半澤冴子(はんざわ さえこ) - 桜井ユキ、
半澤日路輝(はんざわ ひろき) - 滝藤賢一もベッドの傍で安心する。
一方、実家に帰った康介。
朝ご飯を、母:則子(みかど のりこ) - 和久井映見 と食べながら
これまで母に気づかれていなかった、自分の能力のことを話したらしい。
分かった。
へ?
分かったって言ったの。
え、でも俺、霊が見えるんだよ。
死んだ人が見えるんだよ。
さっきも聞いた。
(普通にご飯食べてるけど)気味悪くないの?
まさか。びっくりしたけど、アンタはたまたま他人より目が良かった。
それだけのことでしょ!
・・・何よ。
いや。
ご飯冷めちゃうよ。
あぁ、分かった。いただきますっ!
どうやら、意外にもカミングアウトはすんなりといったらしい。
オフィスの打ち合わせデスクで、万華鏡を前に置き
康介と交わしたあの契約書を眺める冷川。
思い出し笑いをした後、契約書を破り捨てる。
高校生活をおくる英莉可。
ふと、制服の左腕を肘までまくり上げる。
窓の外を眺めては、穏やかな日常を確かめているようだ。
初めて冷川に見つけられたスクランブル交差点に差し掛かる康介。
気配に気づいて眼鏡を外すと、信号機の前でロングコートを着た女性の霊を見つける。
以前はあんなに恐ろしく感じたのに、今はそんな気にはならない。
交差点の向こうには冷川がいる。
彼の元へ近寄る康介。
制服の左腕をまくり上げていた英莉可。
彼女の左腕には、あの赤い紐がまだ血管のようにまとわりついていた。
彼女は急いで袖を戻した。
エンディング