超空洞からの贈り物

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4WDの仕組み

2010年01月23日 09時35分36秒 | car
寒冷地や悪路走破などで昔からなくてはならない存在である「4WD(Four-Wheel Drive )」の機構について解説します。4WDはその名の通り「4輪駆動車」という意味であり、一般的な乗用車に装備されている四輪すべてにエンジンの動力を駆動力として分配しています。

 非常に基本的なことですが、どうして4WDが寒冷地(凍結路面)や悪路を得意としているのかを説明します。

 仮に200馬力のエンジンを搭載した自動車があるとしましょう。この自動車が2輪駆動(FF)であった場合、前輪だけにエンジンの駆動力が入力されることになりますので、前輪の左右それぞれに100馬力ずつ分配されることになります。

 さてここで、凍結路面など非常に滑りやすい路面を走行する場面に遭遇したとします。「ラフなアクセル操作をしたり速度を出し過ぎたりすると、スリップ・スピンをするから危険だ!」ということは、理論的に説明できなくても何となくイメージできると思います。

 そもそもスリップに代表される、自動車のコントロールを失う危険な状態というのは、『タイヤのグリップ力(路面をつかむ力)を超えた駆動力や遠心力、慣性力などの外力』がタイヤに加わったときに発生します。

 ここで重要になるのは、タイヤのグリップ力という部分で、これは路面温度(気温)・状態、タイヤ自体の性能によって大きく変化します。

 例えば雪道を運転するとき、乾燥したアスファルトで運転するときよりも明らかに滑りやすい状態であることが分かりますね。この状況をさらに「グリップ力<外力」であることを理論的に説明するために、少しむりやりですが数値を入れてみましょう。

乾燥アスファルト路面における1輪のグリップ限界力:150
雪道における1輪のグリップ限界力:50
アクセル全開時における駆動力:エンジン出力で200馬力


 乾燥アスファルト路面のときが「グリップ限界力:150」ということは、2輪駆動車(FF)の場合は前輪の左右それぞれに100馬力ずつ分散されることになり、

150グリップ-100馬力=50グリップ

 つまりアクセル全開でも50グリップという余裕を残した状態で、まったく問題なく走行できることになりますね。

 ただし直進状態でのグリップ力ですので、この状態でカーブなどを曲がろうと思うと50グリップを超えない横Gが条件だと分かります(超えた時点でスリップ・スピンです)。

 では問題の雪道を考えてみましょう。

 雪道ではグリップ力が50となっていますので、アクセル全開では

50-100=-50グリップ

となりますのでタイヤが空転して発進すらできません。つまりこの状況で走行しようと思うと、アクセルを半分以下にして、グリップ力50を超えないエンジン出力に抑える必要があります。

 さてこの説明だけだと、雪道でスタック(脱出不能)になるようなことってないような気がしませんか? 要はグリップ力を超えないようにアクセル操作を慎重に行えば、空転して進めなくなるようなことはないはずだからです。

 しかし実際には自動車本体の重量(車重)という大きな荷物を動かさなければいけないという問題があります。仮に山道を上っているときに、車を前に進めるために必要な馬力を120馬力だと仮定しましょう。このときに2輪駆動車だと、1輪に加わる駆動力は最低でも60馬力必要だと分かります。

 ですが積雪時における路面のグリップ力が50だとすると、

前に進むための出力は120馬力以上必要(2輪駆動の場合は1輪当たり60馬力必要)
路面グリップは1輪当たり50(2輪駆動の場合は出力100馬力以下)
というどちらの条件も成立しない最悪の状況に陥るケースが発生します。

 非常に極端な例でしたが、実際に雪道を走行しているときに想像以上に路面グリップが低くなっているアイスバーンなどに停車してしまうと、先述したような状況になって前に進めない(スタック)ことになってしまう場合があるのです。最悪の状況では、停車しているだけで車が後退してしまうケースもありえます。

 さてここで活躍するのが4WDです。

 4WDは4輪駆動ですので、エンジンの出力を四輪に分配することになります。つまり先ほどから例として挙げている200馬力の自動車の場合は、出力の200馬力を1輪当たり50馬力ずつに分配することになると分かりますね。

 この200馬力の4WD車であれば、2輪駆動車だとスタックしてしまったら……

前に進むためには、出力は120馬力以上必要
路面グリップは1輪当たり50
という条件でも問題なく走破できることが分かりますね。

 このように、4WDは四輪自動車において最も理想的な駆動方式といっても過言ではない、非常に安定した走行性能を実現することが可能です。

 悪路走破性だけではなく、ハイパワーマシンでも4WDを採用することがあります。これは1輪当たりに分配される馬力を抑え、余すところなくハイパワーを走行性能として活用することを目的としています(日産GTRやランボルギーニなど)。

 冬季になるとスタッドレスタイヤを装着する方も多くいらっしゃると思いますが、これは雪道などにおけるタイヤの限界グリップ力を向上させることを目的としています。

 4WDは限界グリップ力を高めることはできませんが、各駆動輪に分配される駆動力を低く抑えることで限界グリップ力を超えないようにします。スタッドレスタイヤを装着することは、限界グリップ力を高めることが可能になりますので、2輪駆動・4輪駆動を問わず非常に有効な手段だと分かりますね。

 さてここまで4WDのメリットを説明してきましたが、デメリットもあります。もしデメリットがなければ、ほとんどの車で採用されているのですが……。

 まず1つ目は、

「4WDという機構を追加する=部品点数が増えてしまう」

ことによるコスト増加です。

 参考までに同じ車種・同じグレード・装備における「FF:4WD」での販売価格を 国産車で比較してみます。例えばある自動車を購入するにあたり、ベースが2輪駆動である仕様から4WDにアップグレードするとしたら、平均額で20万円ほど必要になります。

 2つ目は、

「部品点数が増える=車重の増加」

による燃費の悪化と乗り心地の悪化です。


 特に最近では燃費向上のために車重をいかに軽くできるかが非常に大きなポイントとなっていますので、4WDを装備することは完全に時代に逆行することになります。乗り心地の悪化に関しては、同じ車種で2輪駆動と4輪駆動を乗り比べないとあまり気にならないかもしれませんね。

 3つ目は、

「動力伝達部の増加=抵抗増加+騒音増加」

による燃費の悪化・パワーロス、騒音増加です。

 エンジンの動力をいかにロスなくタイヤに伝えられるかが燃費に直結しますので、動力伝達経路をシンプルにし、できるだけ抵抗(伝達ロス)を減らすことが重要です。その点4WDですと、エンジンの動力を四輪に分配するための伝達経路が必要となり、必然的に抵抗が増えてしまいます。ただしハイパワーマシンの場合は燃費をあまり重視していませんので、抵抗が増えてもあり余るエンジンパワーによって十分に補えますのであまり問題にはなりません。

 騒音に関しては、静粛性を求める方にとっては大きなマイナスポイントとなります。

 このように、4WDには自動車としての理想的な走行性能を得られる代わりに、失う代償も相応にあるということが分かりますね。

 もちろん開発者達が、黙ってこれらのデメリットを見過ごしているはずはありません。

 4WDのメリットを十分に生かしつつ、デメリットをできるだけ少なくするための工夫はいまでも繰り返し行われています。それらの工夫は構造・作動の違いにより数種類に分類できます。ここでは代表的な3つの4WDシステムを紹介いたします。*それぞれの名称は各メーカーによって異なります。

【フルタイム式】
 その名の通り、常に全輪に駆動力を分配する4WDシステムです。自動車は走行状況によって1つ1つのタイヤの回転速度が異なります。

 以前にもディファレンシャルの回(第5回)で説明したことがありますが、旋回時における左右輪には回転速度差が発生し、この回転差を吸収するためにディファレンシャルが備わっていると説明しました。

 前後輪においても同様に、さまざまな要素が絡み合って回転速度差が発生します。つまり前後輪の回転差を吸収するためにはやはりディファレンシャルが必要となりますので、「センターデフ」と呼ばれる部品を備えています。

 いうまでもなく全輪が駆動輪となりますので、

前輪用ディファレンシャル
後輪用ディファレンシャル
前後輪回転吸収用 センターデフ
という1台の自動車に3つのディファレンシャルを備えていることになります。

 すべての駆動輪が部品を介して連結していますので、仮にどこかのタイヤが空転してしまうと、エンジンの動力が空転しているタイヤにすべて集約してしまいます。これではせっかく4WDであっても、まったく役に立たないことになってしまいますので、一般的にはセンターデフに「直結機構(センターデフロック)」を備えさせています。この直結機構は運転席から専用レバーなどで操作可能となっていますので、必要なときだけ操作することで脱出が容易になります。

 ただしすべての4WDシステムでいえることですが、センターデフロック状態での前後の回転差は、タイヤと路面の間での強制的なスリップによって吸収されます。従って、4輪駆動での走行は滑りやすい路面であることが前提となります。4輪駆動のまま乾いた舗装路などを高速走行すると、タイヤが路面でスリップする際の摩擦力が大きいために、駆動系を破損する可能性がありますので注意が必要です。

【パートタイム式】
 パートタイム式とは、普段は2輪駆動で走行し、4WDとして走行したいときにのみ手動(レバーやスイッチ)で切り替えるセンターデフを備えていない4WDシステムのことです。このシステムでは通常路面走行時における不要な燃費の悪化などを防ぐために、普段は2輪駆動として走行することで自動車としての使い勝手を向上させています。

 ただし切り替えを手動で行わなければいけないことやセンターデフを備えていないことなど、デメリットを持ち合わせています。

【スタンバイ式】
 スタンバイ式はパートタイム式を進化させたシステムで、最近の4WDシステムにおける主流といえるでしょう。この方式は、普段は2輪駆動で走行し、悪路などで駆動輪が空転してしまうような状況になると、自動的に残りの2輪に駆動力を分配するシステムです。基本的に4輪駆動に特化したシステムではありませんので、センターデフは備わっていません。

 必要なときだけ4WDになるという点ではパートタイム式と何ら変わりはありませんが、手動で行う切り替え操作を面倒と感じたり、4輪駆動状態(直結状態)に気が付かないまま通常路面で連続高速走行をするなどで、車を壊すトラブルも少なくなかったことから、このスタンバイ式が考案されました。

 スタンバイ式といっても非常に多くの種類があり、各社独自のシステム&名称があり、その中で最も基本的な構造として認識されているのは、ビスカスカップリング方式です。

 ビスカスカップリング方式はディファレンシャルの回の「ビスカスLSD」の項で説明した構造に非常に似ていますが、ディファレンシャルとは違って大きな駆動力を伝達する必要がありますので、流体抵抗のみでは十分な駆動力を伝達することができません。

 そこでスタンバイ式のビスカスカップリング方式では、密閉容器の中に多板クラッチとシリコン樹脂を封入した物をエンジン搭載位置の反対側にあるデフの前に配置します。前後輪に回転差が生じると、空転によって発生する熱でシリコンが膨張することで多板クラッチが圧着され、エンジンからの動力が伝達されるという方法です。

 この方式ですと、どの程度の熱でクラッチの圧着を始めるかなどの基本設計さえ定まれば、余分な機構が不要となり、非常にシンプルな構造になります。さらに実際の使い勝手としてもレスポンスや効きが非常に良いことから、ユーザーからの評価は非常に高い方式です。ただしこの方式は特定のメーカーが所有している技術であるため、導入するにはパテント料を払う必要があります。各社は、収益確保のためにこの方式に頼らない独自の技術を開発していきました。

 すべてを紹介すると、きっととてつもない量になりますので、今回はこの辺りで割愛します。

 いまではABS用に装備されている車輪速センサーを用い、駆動輪の空転を検知したら電子制御式クラッチを作動させることで動力伝達を行う方式などが登場しています。もちろん回転差に応じてクラッチの伝達トルクを変動させていますので、限りなく自然なつながり具合に調整されます。

 このように、4WDシステムにおいても昨今の環境問題のメスが入っています。必要でないときは使わず、必要な場合も伝達ロスをできるだけ少なくする、システム自体を軽量にして燃費悪化を防ぐなど、まだまだ発展途上のジャンルといえます。

 4WDは自動車の性能向上に大きく寄与しますので、可能な限り装備したいものです。ただし装備するかどうかを検討するにあたって最も懸念されるのはやはり「燃費とコスト」であることは間違いありません。できるだけ重量増にならず、さらには導入に必要なコストをできるだけ下げる新たな電子制御技術が少しでも早く実現することを期待しています。

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