スカパーJSATは、4月1日に衛星を使った企業向けのネットワークサービス「ExBird」をスタートさせた。災害対策やブロードバンドデバイドに最適なExBirdの成り立ち
スカパーJSATはアジア最大の衛星通信事業者で、12機の通信衛星を放送と通信の分野で幅広い事業を手がけている。2008年10月にスカイパーフェクト・コミュニケーションズ、JSAT、宇宙通信の3社が合併してスカパーJSATが誕生した。
一般的には「2010年FIFAワールドカップを全64試合ハイビジョン生中継!!」といった多チャンネル有料放送のほうがよく知られているが、「JSATの母体にあたる日本通信衛星やサテライトジャパンは、1985年の通信自由化でスタートしているので、実は法人向けの衛星通信サービスの方が歴史が古いんですよ」(スカパーJSAT 衛星事業本部 法人事業部長 松本祟良氏)という。2009年は民間通信衛星が打ち上げられて、ちょうど20年経ったということで、衛星事業でもいくつかの新しい試みをスタートさせている。そのうち1つが、「ExBird」だ。
ExBirdは企業向けの衛星通信サービス。衛星通信は予備校のサテライト授業などがよく知られているが、災害対策や僻地でのインターネット接続にも最適だ。「スカパーは放送なので受信するだけですが、ExBirdは双方向で通信します。通常の衛星通信は大型のパラボラが必要でしたが、ExBirdは小型のアンテナが使え、免許の管理も含め、運用・管理は弊社が一括でやらせていただきます」(衛星事業本部 法人事業部 アシスタントマネージャー 第1法人事業チーム 竹林寛格氏)という特徴を持っている。
もともとこうした衛星通信サービスは以前から手がけていたが、通信速度が100kbpsと低速だったり、ニーズに応じてばらばらの展開だったという。そこで、低速からブロードバンドまで幅広くメニューを整理し、しかもお手頃な料金で衛星通信を使ってもらおうと考えたのがExBirdだという。
「技術的な進歩で、低速から高速まで単一のハードウェアプラットフォームでカバーできるようになりました」(松本氏)ということで、メガビットクラスのサービスも用意する。また、僻地への接続や災害対策、インターネット接続、音声通話などにニーズによってサービスをまとめた。ちなみに電力や交通などミッションクリティカルなインフラ会社で用いられる「EsBird」という耐障害性を高めたサービスも持っている。
確かに昨今BCP(事業継続計画)は大きな課題となっているので、価格的にリーズナブルであれば、企業でもDR用途に導入を検討したいところ。しかし、降雨の影響や遅延、障害対策など、導入前に不安を感じるところもあるかもしれない。これに対してはどうなのだろうか?
まず降雨に関しては、ずばり影響があるという。「いわゆるCバンドは雨にも強いですが、われわれが使っているKuバンドは電磁波の特性として雨の影響は避けがたいんです。とはいえ、一般的な降雨であればかなり通信のマージンがとってあるので、問題ありません。台風やゲリラ豪雨が多い地域は、より口径の広いアンテナをお勧めします」(松本氏)とのこと。また、雪に対しても融雪付きのアンテナが用意しており、トータルで99.8%の程度の可用性を目指しているという。
また、赤道上空から3万6000km離れている静止衛星との通信においては、やはり遅延も大きい。これは衛星通信の宿命といえる。そこで、遅延を小さくするために、スカパーJSATのハブ局を経由せず、通信衛星を介してダイレクトに対向のVSAT局と通信するシングルホップのサービスが用意されている。これにより伝送遅延を、衛星を2回経由するダブルホップの半分にあたる0.6~0.7秒程度に短縮することができる。遅延に敏感な音声プランは、このシングルタイプを採用している。もちろん、ユーザー側でWAN高速化装置などを導入すれば、遅延の影響を最小限に食い止めることが可能だし、カスタムオーダープランでは帯域保証も用意している。
アンテナや機器の障害に関しては、そもそもがスカパーJSAT側の保守や運用になるため、トラブルでつながらない場合は、オンサイトでの交換になるという。アンテナの設置も含め、ここらへんの体制は、長年衛星ビジネスをやってきた同社の得意とするところ。今後は推奨会社を設け、保守を委託する体制も構築していくという。
既存のサービスは、ガス会社のパイプライン流量監視や放射能のモニタリング、離島や山岳地の通信、自治体の災害時に備えた物流のバックアップ回線、音声ホットラインなど、実に幅広い用途で用いられている。「朱鷺(とき)の監視を行なうために山間部にカメラを設置し、ソーラーパネルでアンテナに給電しているお客さんもいますね」(竹林氏)ということ。今後は「既存のお客様を新しいサービスに移行するほか、まったく新しいお客さまにも勧めたい」(松本氏)と新規顧客の開拓を推進していく。