宇宙に無数にある星ぼしの重さ (質量) は何で決まっているのだろうか?太陽に比べて重い星や軽い星がそれぞれどれくらいあるのだろうか?太陽の何倍まで重い、あるいは、何分の1まで軽い星まで存在するのだろうか?これらは天文学で最も重要な課題の一つである。なぜならば、宇宙に約1000億個あるとされる銀河も、それを構成する要素は、およそ1000億個の星ぼしだからである。現在の宇宙にはさまざまな年齢の星があり、重さにより寿命が異なるため、数が少ないのはもとから少ないのか、寿命が短いのかを区別しなければならない。そのため、この問いに答えるための第一歩は、もともとの星の質量分布 (星が生まれたときに、どの重さの星がどれくらいの数だけ存在したのかという、いわば星の人口統計) を調べることである。このような分布調査を「初期質量関数」という用語で呼んでいる。
初期質量関数は、1950年ごろから、太陽系の近くの古くからある星を数多く調べ、それぞれの星の年齢を逆算して求められていた。最近では重さがもっとも軽い星の数に興味が集まっている。特に、あまりにも軽いために恒星になりそこねた星 (褐色矮星:かっしょくわいせい、太陽質量の約0.08倍未満の天体) は非常に暗く見つけにくいため、1995年になってようやく発見されたばかりである。そのため、褐色矮星も含めた初期質量関数はまだ解明されていない。例えば、太陽のような重さの恒星1個に対し、太陽の半分の重さの星は10個程度あるが、太陽の重さの20分の1しかない褐色矮星が何個あるのか、そうした天体が一般の恒星の数より多いのか少ないのかはよくわかっていない。
褐色矮星は、恒星と異なって安定して水素を燃焼し輝くことはないために、年齢が古くなると暗すぎて見つけることが難しい。しかし、生まれたばかりの褐色矮星は、少し暖かいので熱を放出しており、赤外線波長では比較的明るく輝く。そうした理由で、褐色矮星を含む初期質量関数の決定のためには、「星形成領域の赤外線観測」による研究が行われている。これまでの観測は、太陽系にもっとも近くて調べやすい星形成領域、とくに、軽い星しか生まれていないおうし座やへびつかい座などの「低質量星形成領域」と、重い星も含めて集団で生まれている領域としては太陽系に最も近いオリオン座の「大質量星形成領域」に限られていた。しかし、銀河系を構成するほとんどの星は、重い星と共に集団で生まれた多数の軽い星ぼし、と考えられているので、これまでの観測では「銀河系全体での」星の初期質量分布はわかっていなかった。
そのような重い星を含む星団は、大部分がオリオン座星形成領域の倍以上の距離 (3000光年以上) という遠いところにあるため、その領域にある軽くて暗い星まで見ようとすると大口径望遠鏡が必要となる。また、これらの星ぼしは集団でいるため、遠くからそれらを見分けるには、非常にシャープな画像が必要になる。大草原の小さな家はまだ見つけやすいが、都会の小さな家は大きなビルに隠されて見えないのだ。
私たち、日本・インドの共同研究チームは、この難点を解決すべく、すばる望遠鏡の高感度と高解像度を活かして、「W3 Main」 (ダブリュー3・メイン、以後 W3 メインと記す、注 1) と呼ばれる星形成領域のこれまでにない高感度・高解像度の赤外線観測を行った。W3メインはカシオペア座の方向、距離6000光年 (オリオン領域までの距離の約4倍) にあり、非常に活発で、銀河系で典型的な大質量星形成領域である。観測装置はCISCOと呼ばれる赤外線カメラを用いた。
これまでの大質量星形成領域を広くとらえた画像の中で最も高感度で、最も高解像度である。赤外線は人間の眼には見えない波長であるが、この画像では赤外線の3波長に長波長から順に赤、緑、青色を付けて合成している。一立方光年あたり60個以上の星ぼしがひしめき合っている若い星の集団が存在している。特に、中心左の真っ赤な天体IRS5は、オリオン座星形成領域のトラペジウムのような大質量星の星団が誕生している現場だと言われている。その周辺には、鮮やかな色を示すさまざまな形の星雲が輝いている。また、それらの星雲を隠すフィラメント状の暗黒星雲も印象的である。この領域からは、太陽の20万倍のエネルギーが放出されている。
本観測の結果、W3メイン星形成領域において、世界で初めて、「褐色矮星の数は、恒星の数と同じくらいに数多くある」ことが判明した。この結果は、オリオン座星形成領域では、褐色矮星の数は恒星に比べて「減少している」という結果と異なるもので、褐色惑星の多い少ないは、銀河系の中でも領域によって違うのかもしれない。重い星から、褐色のような軽い星までの星の質量の決まり方が銀河系内でも違うならば、宇宙全体ではもっと多様な変化が期待される。いっぽう、褐色矮星まで軽い星を含まない星の初期質量関数は、銀河系内や近傍銀河では普遍的であることが指摘されている。このようなことも踏まえて、今後は、より数多くの遠方の大質量星形成領域の観測を進め、この法則がどれだけ普遍的かどうかを調べる予定である。
初期質量関数は、1950年ごろから、太陽系の近くの古くからある星を数多く調べ、それぞれの星の年齢を逆算して求められていた。最近では重さがもっとも軽い星の数に興味が集まっている。特に、あまりにも軽いために恒星になりそこねた星 (褐色矮星:かっしょくわいせい、太陽質量の約0.08倍未満の天体) は非常に暗く見つけにくいため、1995年になってようやく発見されたばかりである。そのため、褐色矮星も含めた初期質量関数はまだ解明されていない。例えば、太陽のような重さの恒星1個に対し、太陽の半分の重さの星は10個程度あるが、太陽の重さの20分の1しかない褐色矮星が何個あるのか、そうした天体が一般の恒星の数より多いのか少ないのかはよくわかっていない。
褐色矮星は、恒星と異なって安定して水素を燃焼し輝くことはないために、年齢が古くなると暗すぎて見つけることが難しい。しかし、生まれたばかりの褐色矮星は、少し暖かいので熱を放出しており、赤外線波長では比較的明るく輝く。そうした理由で、褐色矮星を含む初期質量関数の決定のためには、「星形成領域の赤外線観測」による研究が行われている。これまでの観測は、太陽系にもっとも近くて調べやすい星形成領域、とくに、軽い星しか生まれていないおうし座やへびつかい座などの「低質量星形成領域」と、重い星も含めて集団で生まれている領域としては太陽系に最も近いオリオン座の「大質量星形成領域」に限られていた。しかし、銀河系を構成するほとんどの星は、重い星と共に集団で生まれた多数の軽い星ぼし、と考えられているので、これまでの観測では「銀河系全体での」星の初期質量分布はわかっていなかった。
そのような重い星を含む星団は、大部分がオリオン座星形成領域の倍以上の距離 (3000光年以上) という遠いところにあるため、その領域にある軽くて暗い星まで見ようとすると大口径望遠鏡が必要となる。また、これらの星ぼしは集団でいるため、遠くからそれらを見分けるには、非常にシャープな画像が必要になる。大草原の小さな家はまだ見つけやすいが、都会の小さな家は大きなビルに隠されて見えないのだ。
私たち、日本・インドの共同研究チームは、この難点を解決すべく、すばる望遠鏡の高感度と高解像度を活かして、「W3 Main」 (ダブリュー3・メイン、以後 W3 メインと記す、注 1) と呼ばれる星形成領域のこれまでにない高感度・高解像度の赤外線観測を行った。W3メインはカシオペア座の方向、距離6000光年 (オリオン領域までの距離の約4倍) にあり、非常に活発で、銀河系で典型的な大質量星形成領域である。観測装置はCISCOと呼ばれる赤外線カメラを用いた。
これまでの大質量星形成領域を広くとらえた画像の中で最も高感度で、最も高解像度である。赤外線は人間の眼には見えない波長であるが、この画像では赤外線の3波長に長波長から順に赤、緑、青色を付けて合成している。一立方光年あたり60個以上の星ぼしがひしめき合っている若い星の集団が存在している。特に、中心左の真っ赤な天体IRS5は、オリオン座星形成領域のトラペジウムのような大質量星の星団が誕生している現場だと言われている。その周辺には、鮮やかな色を示すさまざまな形の星雲が輝いている。また、それらの星雲を隠すフィラメント状の暗黒星雲も印象的である。この領域からは、太陽の20万倍のエネルギーが放出されている。
本観測の結果、W3メイン星形成領域において、世界で初めて、「褐色矮星の数は、恒星の数と同じくらいに数多くある」ことが判明した。この結果は、オリオン座星形成領域では、褐色矮星の数は恒星に比べて「減少している」という結果と異なるもので、褐色惑星の多い少ないは、銀河系の中でも領域によって違うのかもしれない。重い星から、褐色のような軽い星までの星の質量の決まり方が銀河系内でも違うならば、宇宙全体ではもっと多様な変化が期待される。いっぽう、褐色矮星まで軽い星を含まない星の初期質量関数は、銀河系内や近傍銀河では普遍的であることが指摘されている。このようなことも踏まえて、今後は、より数多くの遠方の大質量星形成領域の観測を進め、この法則がどれだけ普遍的かどうかを調べる予定である。