さて、娘のための動物園行きも終わり、「やれやれ・・」とホッとしていたところ、次の日曜の午後、今度はカミさんが「桜島か何処かへドライブがてらで行って、温泉にでも入りたい」と言ってきた。
カミさんは、今月に入ってから我が家の財政難を救うためにパートに通い始めた。
慣れない職場での仕事と緊張で、気分転換が必要なのだろう。
「温泉にでも・・」と言われて、「さも有りなん!苦労をかけてスマン、スマン!
温泉でもどこでも行きたい所に連れて行ってやる!」と素直にそう思った。
と言うのはウソで、カミさんが働き始め、ここのところ何となく肩身の狭い思いをしていた僕は、「桜島に連れて行ってやることで、少しは夫の威厳を保てるだろう」という、実に卑怯な、夫とは思えない浅ましい魂胆から、そう考えたのだった。
その日は快晴で、錦江湾(きんこうわん)を滑るフェリーの上で潮風を受けていると、もうそれだけで気分が良く、僕の全身にまとわりついていた日頃の憂さというものが、どんどんと風に飛ばされて行くように思えた。
(おっと、いけね!これはカミさんのための桜島行きなわけで、
自分の事など、どうでも良いのであった)
娘も気分爽快な様子で、「フェリーに乗せてくれて、ありがとう!」などと、
周りを気にせず大きな声で言って来たので恥ずかしかったのだけれど、
夫の威厳の方はともかくも、父親としての威厳の方はこれで保つことができたワケで、しめしめなのだ。
桜島に着いてからは、何せ急なことだったので、温泉に入る以外に
他に計画してたことが有ったワケでも無く、「さあ、どうしましょ?」と言う
ことになった。
取りあえず、港近くに有る物産館や、ドライブがてらで土産物店などを冷やかし程度に見て廻ったが、県外の人ならともかく、鹿児島の人間である自分らが見ても、特別興味を引くような物など有りませんわいな。
いや、一つだけ思わず「う~む・・」と唸ってしまった土産物が。
それは小さな袋に入れらた桜島の灰、一袋100円なるもの。
横には、こぶし大ほどの溶岩が置かれて有り、これもまた一個100円で売られていた・・。
ここは桜島なのだ。溶岩なんて普通に石ころのようにゴロゴロ転がってるし、
足下は灰だらけ。車が走るともうもうと舞い上がるほど。
それが商品として、ちゃっかりしっかり売られている・・。
商魂逞しいというか、なんと言うか。
そうこうしている内に、目的の温泉旅館に着いた。
ホントならここに一泊でもして、ゆっくりとくつろぐことができれば
いいのだろうけど、いろんな意味で今日のところはそんな余裕は無いし、
日帰り温泉で我慢我慢。
僕は温泉に入るよりも、周りの散策がしたかったので、
一人でその界隈を車で走ってみることにした。
すると、ちょっと走った所に“林芙美子文学碑”と書いてある看板が有ったので、
とりあえずそこに寄ってみることに。
文学碑と芙美子像、そして小さな土産物店が有るだけの所だったが、
そこからの展望は中々良かった。
だだっ広い駐車場の背後には、今活動を活発にしている南岳がでんとそびえている。
「もし今、噴煙を上げたら迫力有るだろな~」と思いながら、自販機で缶コーヒーを買い、ちょうど飲み終えた時だった。
何か異様な気配を南岳の方に感じ、振り向くと・・。
南岳の噴火だ!いつの間にかモクモクと噴煙を上げていた。
桜島が、まるでこちらの思いに応えてくれたようなタイミングだったので、それはそれで嬉しかったのだけれど、形を変える噴煙をじっと見ていると、「迫力有るだろな~」なんてものじゃなく、オソロシさみたいな物を感じて腰が引けてしまった・・。
こわごわと写真を撮り終え、しばらくすると「今、温泉から上がった」という
カミさんから連絡があったので、すぐに迎えに行った。
(桜島が噴火している最中に、その足下で温泉に入っていたというのも、
今思うと、これもオソロシイ話だな~)
その後は展望台の有る場所まで足を運び、そこで一息つき、
時間も来たので、またフェリー乗り場まで。
帰りのフェリーで、うどんを食べ(この、うどんがまたウマイのだ)
しばらくまた海を眺め、潮風にあたっているうちに、潮の香りがそう思わせたのか、突如、俄然!魚の刺身が食べたくなってしまった!(単純でスミマセン・・)
「よし、今夜の晩飯のおかずは刺身で決まりだな」と勝手に決め、
フェリーを降りた後すぐに市場に寄り、鯵を買い求め家へ帰った。
このあと、皮肉なことが起きた!
さて、そろそろ鯵を刺身に捌こうかという時、友人から携帯に電話が。
何事ぞ?と思って出てみると、多少コーフン気味の声で、
「今、家にいるのか?いるんだったら、釣れたての鯵を持ってってやるぞ!」と言ってきた。
「ナヌ~??鯵だと~~!・・実はさっき買ってきたところだったんだよ~」
「それはやめて、こっちを食え!こっちの方が新鮮だから!!」
実はこの友人、生意気にも小さな船を持っていて、シーズンになると
仕事上でのお客様の接待を兼ねて、錦江湾のど真ん中当たりまで
魚釣りに出かける。
今日の釣果は、かなりのものだったと見え、お裾分けしてやろうと、
電話をして来てくれたのだった。
しばらくして持って来てくれた鯵は、確かに新鮮そのものだった!
色鮮やかで、買って来た物とは比べようもないほど。今の時期にしては型も大きい。
写真では白っぽく見えるけど、目玉の部分もまだきれいに澄んでいた。
少しでも新鮮なうちにと、早速刺身にして食卓へ。
今日の桜島の光景を思い浮かべながら、その桜島が鎮座する錦江湾の捕れたての新鮮な鯵の刺身をいただく!
いや~、ついつい晩酌も進み、日頃の憂さをすかっり忘れ気分転換できた、実に良い一日だった。
(あれ、確かカミさんのための休日だったよな?・・ま、いいか。)
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