少しばかり体調を崩してしまった園長先生(兼 神父様)にエールを贈るためのお絵描き教室。
開始時間が少し遅くなってしまったことも有り、画材はクレヨンに変更したけれど、
みんな、しっかりと園長先生らしさを捉え、楽しく描くことができたようだ。
この日のお絵描きの時間では、嬉しい出来事が二つ有った。
一つは、みんなの絵をグループごとにデジカメで撮影中、
あの、黒の色に自分の思いをぶつけるルオー君が、
カメラに向かって、笑ってピースをして見せてくれたこと!
そして、僕に話しかけて来てくれたことだ。
「ねえ、センセーは、どこから来てんの?・・ヒコーキで来るの?」
「ヒコーキか、いいなあ!・・でも、残念だけど、そんなに遠いところに住んでいないんだよ。
今日は車で来たし、歩いてだって来れるところにいるんだ。
だから・・
君と同じようなところに僕もいるんだよ。」
「ふ~ん、そっかあ!・・あのね、このあと給食の時間なんだ・・。」
「え、え??給食?あ、そうか、お絵描きのあとは、いつもお昼の時間だったね。
Y幼稚園では給食の日とお弁当の日が有るけれど、今日は給食の日なのか。
給食は好きかい?」
「うん、大好き!!」
そう言うルオー君の描いた園長先生の顔の絵は、
やはり、全体的に暗いトーンで描き表わされていたけれども、
この子なりの表現なのだから・・と、僕は何も言えなかった。
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もう一つの嬉しい出来事は、そのお絵描きの時間の最中、
園長先生ご本人が、そっとドアから入って来られたこと。
療養中、膝の調子も良く無いらしいと聞いていたのに、
2階に有るこの教室までの階段をのぼって来られたのだ・・。
年中さんたちのお絵描きしてる姿を見つめながら、
優しい笑顔で「みんな楽しそうですねえ~!」と、そう言って下さった。
それは、園長先生からの 、僕と年中さんたちへ向けての
お返しのエールのように思え、なんだか嬉しかった・・。
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幼稚園の先生たちの手助けを頂きながら、その日のお絵描き教室も無事終了。
幼稚園の裏に有る駐車場にまわり、車に乗り込もうとしていると、
教室の窓から、桃太郎さんみたいな顔をした年中さんが僕を見つけ、
「○○センセー!さようなら~!」と、元気に手を振って見せてくれた。
“センセー”は・・なんだか自分には似合わないな・・と思いながらも、
でも、その元気な声と笑顔が嬉しくて、「おう!また今度ね!」と、僕も笑って手を振ってみせた。
一瞬、春の風が心地よく吹き、同時にフワリと何か懐かしい匂いを運んできた。
それは教室の窓から洩れて来た、あのルオー君が「大好き!」と言っていた
給食の匂いだった。
どういう訳だかその時、もしかしたらルオー君は給食の日が好きというよりも、
お弁当の日が嫌いなのかも知れないなと、そんな思いが浮かんだ。
・・でも、もし、そうだとしたら一体なぜ??・・・・・・・・・
少しの間、そんなことを考えてみたけれど、それはけれども何だか要らぬ詮索のように思え、
「みんな可愛い小さな天使たち!君と同じところにいる僕は幸せだな。」と、そう思いながら、
まだ給食の匂いが漂う駐車場で、僕はゆっくりと車に乗り込んだ。