〔太宰 治の「失敗園」(『津軽通信』:新朝文庫)を真似て。〕
わが仕事場の横には、わずかばかりの面積の畑があるのだ。
私はここに、秩序も無く何やらかやら一ぱい植えたが、
一見するに、すべて失敗の様子である。
それら恥ずかしき身なりの野菜たちが小声で囁き、私はそれを速記する。
その声が、事実、聞こえるのである・・・。では。
だいこん
「一生懸命、育ってみたつもりだ・・。
だが、ここの主人は気に入らぬそうだ。
なんでも、俺達の身はかたくて、煮物にしても
食えぬらしい・・。何が悲しいって、だからと言って
見捨てられ、こうしていつまでも収穫されずに
いることほど惨めな事はないではないか。」
はくさい
「だいこんさん、何やらぶつぶつ言ってらっしゃるけれど、
それは仕方ございませんわね。自業自得の怨み事なんて、
馬鹿の言うことよ。わたくしは、まあ上品に
謙虚な気持ちで育ったものだから、お味の方もとっても
良くて、ご主人様のお気に入りですの。」
しゅんぎく
「はくさいの奴、気取りやがって。だいたい、あいつらは
広い場所に、ゆっくりと育つことができたから
良かっただけのことじゃねえか。おいら達を見ろ!
狭い所にぎゅうぎゅう詰めで、大きくなろうにも
互いが邪魔になって仕方がねえやい!」
えんどう豆
「つ、蔓をからませる支柱がないの・・。
何にすがって生きればいいの?・・・」
にんにく
「耐え忍びなさい。この畑の主人には、何を言っても始まらん。
私も、周りのはびこる雑草どもを、どうにかしてほしいと、
思ってはおるが、じっと耐え忍いでいるのだよ・・。
あ~、“にんにく”とは、もしかしたら“忍に苦”と書くのかしらん?」
カリフラワー
「ワタシのこと・・イヤラシイ目つきで見るのよ、ここの主人!
白くふっくらと膨らんだこの私。そりゃあ魅力的に見えるのは
わかるけど、だからって、あの目つきには我慢できないの!
欲望丸出しっていう感じだわ!」
ブロッコリー
「ヘヘヘ、すんませんなあ。ワテも、あんたのこと、
そんな目つきで見とりましたわ・・」
こねぎ
「シャキッと真直ぐしたくても、ここは北風が強くていけません。
何を考えて、こんな畑のど真ん中に、か細いわたしを植えなさったのか?」
ほうれん草
「私も大きくなれません・・。
先日ここのお嬢様が私を見て、『これ、草?』って
ご主人様にお尋ねになられましたの・・。
ご主人様は『ハハハ!』と愉快そうにお笑いになって・・。
わたくし・・自滅したい、そう願っております・・。」
ピーマン
「こんなはずじゃ無かったんだ!秋には俺の務めは終るはずだったのだ!
けれども、どういうワケだか、次から次ぎに実がなっちまってよ・・・。
強欲なここの主人は、まだまだ俺に働かせるつもりらしい。
けっ!何が自然愛好家だ!こんな馬鹿げた、不自然な話があるかってんだい!」
きゃべつ
「みなさんのお話を聞いて・・
なんだかワタシ、
生きてく自信がなりました・・・」
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