そうこうしているうちに 月日の流れは早く 修行期間は半年を残すのみ
三郎と彼女は 次第に 喫茶店で逢っても お互いの目をみつめるだけ
会話は 次第に少なくなっていった
目で会話していたようなものであった 別れの日が近づいてきていた
12月の或る夜 いつものように 彼女の家を訪れた三郎
そこで目にした光景は なんともいえないものであった
彼女が泣きじゃくっていたのである その前には母親が厳しい顔を
三郎は 母親から告げられた あなたがこの地にとどまるのならば
一緒にさせてあげましょう でも 北の大地に帰るのならば 一緒には出来ないと
母親は いまさら 見知らぬ土地で 暮らしていく気はなかったのである
彼女は 母一人娘一人 板挟みになって どうしようもなかったのであった
突然 雪降る中 素足のまま 外へ飛び出した彼女
三郎は あとを夢中で追った 彼女は雪の中 泣き崩れていたのだった
三郎は 彼女の名前を呼ぶのみしか 抱きしめるしか方法がなかった
どう 母親を説得しても とうとう受け入れてくれなかった
一年したら 迎えに来ると 言い残して北の大地に戻って行った三郎であった
半年後 彼女は東京のいとこの会社へ行ってしまった
想い出多き 弘前におれなかったのだという
一年後 母親を問い詰めても とうとう連絡先は教えてくれなかった
彼女は 三郎が北の大地に帰って行った時に すでに決心していたと云う
一緒には なれないと そんなことを露知らず 三郎は懸命に仕事に精をだしていたのだった 一年後 迎えに行ったつもりが 逆に傷心を抱いて 北の大地に戻って行った三郎であった
それから 数十年 風の便りに 彼女は東京で結婚し 息子が小学3年のときに 息子を置いて
離婚したそうな そんな噂が耳にはいってきた三郎
甘ずっぱくも ほろ苦い三郎の 「カルピスの味」であった
完