唯物論者

唯物論の再構築

利潤率低下vs生産性向上

2010-11-06 03:41:00 | 資本論の見直し
利潤率低下法則の概要

 旧来のマルクス経済学では、大多数の貧者による生産と少数の富者による消費の間の需給ギャップに恐慌の原因を求めてきた。この需給ギャップが、利潤率低下法則として資本全体に作用し、資本全体の急激な再編、つまり恐慌を引き起こすとした。
 利潤率低下法則は、資本の再生産過程の機械化が進むと利潤率が低下することを指す。単純に以下の利潤率の式からその理屈を示すことができる。

   利潤率=剰余生産物量/(必要生産物量+不変資本価値量)
利潤率の式の分母に機械などの不変資本がある。分母が大きくなれば式の値、つまり利潤率は小さくなるというのが利潤率低下法則のシンプルな理屈である。ここでの利潤率の式は、分母が大多数の貧者による商品生産量、分子が少数の富者による商品消費量、として理解されている。したがって利潤率を上げようとするなら、生産性向上で剰余生産物を増やし、労賃や機械などにかかる必要経費を減らせば良いわけである。



利潤率低下法則への一般的反論

 このことから、分母に負けず劣らず分子が大きくなれば、利潤率は低下しない。つまり剰余生産物量の増大速度が不変資本価値量の増大速度を上回るように生産性が向上するなら、利潤率低下法則は成立しない、とするポール・スウィージーらの反論も成立する。つぼを得た反論であるが、打ち出の小槌のように生産性を向上できる前提に難がある。それが可能であるなら、とっくに人類の理想社会が地球上に実現していても良さそうでもある。この反論に対する反論は、随時増大可能な分母に対し、分子の上限値が必要生産物総量として総人口数に即した固定値になる点をついている。反論に対する反論の趣旨は、利潤率の上限値を表す以下の式により示される。


   利潤率=剰余生産物量/(必要生産物量+不変資本価値量)

       <剰余生産物量/不変資本価値量

       <生産物総量/不変資本価値量 =利潤率上限

 生産物総量を規定する商品総需要は、社会的多数者の商品購買力、つまり労賃に規定されている。したがって先の利潤率の式では労賃減少が利潤率を増大するのに対し、上記の式では労賃減少が利潤率上限を引き下げるのを示している。いわゆるデフレスパイラルである。とはいえそれでも富者が労賃増大を阻害しない限り、先の反論は有効である。また商品需要は、貧者の商品購買力だけではもともと不足しており、不足分の商品需要を富者が負担するのは不可欠である。そして商品需要の穴埋めを可能にするような富者の消費能力増大も可能である。(「過剰供給vs必要生産量」を参照)。そもそも利潤率の低下は、利潤の減少と同義ではない。したがって需要増大が伴わずに商品生産の無駄が発生して利潤率が減少したとしても、利潤量が減少するわけではない。(「過剰供給vs利潤減少」を参照)
 つまり利潤率低下から過剰生産恐慌に到る理屈は、利潤率低下法則の成否以前に、すでに成立していない。




利潤率低下法則への簡単な反論

 上記の旧来行われて来た一般的反論とは別に、不変資本の基本的性質から、不変資本増加により利潤率は減少どころか増大する、とするユーリウス・ヴォルフの反論がある。この反論の趣旨は、式の分母の不変資本価値量を上限値に置き換える以下の式で示される。


   利潤率=剰余生産物量/(必要生産物量+不変資本価値量)

       =剰余生産物量/(必要生産物量+不変資本作成に要する労働力の必要生産物量)

       >剰余生産物量/(必要生産物量+不変資本導入以前の不変資本が実行する作業に対応する 労働力の必要生産物量)

       =剰余生産物量/不変資本導入以前の総必要生産物量

       =以前の利潤率

富者が生産工程に機械を導入する動機は、基本的に工程の合理化による労働力の削減である。したがって機械導入後の総労働力量と機械作成に要する労働力量の合計は、機械導入以前の総労働力量より小さくならなければならない。つまり利潤率低下法則と正反対に、不変資本が増えるほど利潤が増大するという利潤率増大法則が成立する。利潤率低下法則の問題は、利潤率の式の分母の不変資本量が増大すると、分母に並存する必要生産物量がもっと減少することのおそらくは意図的な看過である。ちなみに前出の利潤率や利潤率の上限値を表す式を、不変資本価値量の代わりに必要生産物量に置き換えると、労賃上昇が利潤率や利潤率の上限値を低下させるという凡庸な法則が得られる。

 一般にシスモンディの過少消費恐慌論は、恐慌が示す好況局面からの急激な景気悪化に即応していないものとして否定されている。この点ではマルクスの利潤率低下からの過剰生産恐慌論も大差は無い。ただし恐慌は資本主義の仕組み自体にその発生の根拠をもつ、というマルクスが得たはずの直観までもが否定されるわけではない。(「過剰供給vs恐慌」を参照)
(2010/11/16 ※2015/07/04 ホームページから移動)


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資本論の再構成
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