この「冷夏」観測にいち早く反応したのが、小麦や砂糖といった先物を取り扱うコモディティ市場である。14日には742ドルであったCMEの小麦先物は、19日には795ドルと7%も急騰した。

 2021年の11月には、山崎製パンをはじめとした大手パン各社が、コロナ禍による小麦生産コストや海運運賃の上昇を受け、こぞって値上げを行っていた。そんな中、22年が冷夏となってしまえば、メーカーは再度の値上げに踏み切らざるを得なくなる可能性がある。

●小麦価格はどう決まる?

 日本で消費される小麦の約83%は米国やカナダからの輸入品に頼っている状況であるが、このような輸入小麦はメーカーが直接買い付けるのではなく、いったん政府が買い付けたうえで、政府がメーカーへ売り渡す構図となっている。

 07年までは年に1回のみ、この売渡価格を変更していたが、それ以降は相場急変による実態と価格のかい離を抑えるため、半年に1回価格を改定することとなっている。直近の価格改定は21年10月に発表されたもので、輸入小麦の政府売渡価格は1トンあたり6万1820円となり、21年4月と比較して19%も上昇した。21年4月も前期比で5.5%値上がりしていたことから、この一年だけで小麦の価格は4分の1も上がったことになる。

 次の価格改定は22年の4月、その次のタイミングは22年の10月だ。そのため、仮に今年が噴火の影響を受けて冷夏となった場合、小麦粉やパン、パスタといった食料品の価格は今年の秋口から冬ごろから上昇してくる可能性が高い。

●1993年の大冷夏で価格はどう推移した?

 冷夏と聞いて1993年の大冷夏を思い出す読者の方もいるだろう。この年はいわゆる「平成の米騒動」と呼ばれた年だ。91年から92年にかけて発生したエルニーニョ現象の余波で、93年に記録的な冷夏に見舞われた日本は深刻な米不足に陥ることとなった。

 この時、政府はタイや米国から急きょ、米を輸入する措置をとった。その結果、「学校給食などでタイ米を食べた」といった体験談も語られるなど、平成の一大事件の中にも冷夏は登場してくるものである。

 そんな93年の冷夏における小麦の価格であるが、先物市場における93年の価格推移をみると、年初と変わっておらず、一見その影響は軽微にも見える。

 しかし、先物市場は冷夏を“先取り”する性質がある。実のところ、93年の冷夏については、91年から92年にかけて発生したエルニーニョ現象によってある程度あらかじめ想定がついていたイベントでもある。先物市場は将来の価格変動要因を織り込んで売買動向が変化するため、実際の冷夏到来に先立つ91年の春から92年の夏にかけて小麦先物の価格は大きく上昇していたのだ。

 エルニーニョ現象が発生する前の当時の小麦先物の価格は272ドルだった。そこからピークの440ドルへと、なんと小麦先物の価格は61%も上昇したのである。

 エルニーニョ現象のように中長期にわたって観測・予測が可能な気象イベントとは異なり、今回の噴火は突発的に発生したもので、さらにその影響も未だ未知数だ。そのため、今後も噴煙や気象予報の動向によって価格変動の激しい相場になってくる可能性がある。

●冷夏でなくても値上げは続く?

 ここまでは冷夏について取り上げたが、冷夏が無かったとしても、値上げイベントがひしめいており油断ならない。仮に冷夏とならなかった場合でもさまざまな製品が値上げをせざるを得なくなる可能性がある。

 その最大の要因が「円安」だ。世界各国の中央銀行がコロナ禍における大規模な金融緩和政策をとった反動で、今度は急速な利上げが観測されている。 特に小麦輸入量の多くを占める米国が金融引き締め取り上げに積極的となっており、これが足元の円安をけん引している。

 足元のドル円価格は114円近辺で推移しているが、直近の小麦における政府売渡価格のドル円レートは111円で想定されている。そのため、次回の価格改定では為替面でも3%程度の上振れが想定されるだろう。

 これまで長らくデフレ経済といわれてきた日本においても、最新の企業物価指数は前年比で8.5%も上昇している。企業側がコスト削減などで吸収しきれない分は、消費者の物価にも転嫁されてくることになる。2022年は昨年にも増して、値上げに注意を払う必要がありそうだ。(古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士)」(原文ママ)