ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート

「神話探偵団~スサノオ・大国主を捜そう!」を、「ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート」に変更します。雛元昌弘

神話探偵団73 播磨のスサノオ

2009-11-07 15:13:09 | 歴史小説
射楯兵主神社の茅の輪くぐり(播磨国総社)


「ボクちゃん、今日の予定を説明してくれない」 ヒメの指令はいつも素早い。そして、何故か、いつも準備しているボク。なぜこんな役割になったのか、と思いながら、高木はいそいそとスケジュールと地図のコピーを配った。
「まず、スケジュールですが、スサノオの痕跡を追って、射楯(いたて)大神と兵主(ひょうず)大神を祀る射楯(いたて)兵主神社、通称・播磨国総社からスタートします。射楯大神はスサノオの子の五十猛(いたける)命とされ、兵主大神は大国主の別名で、伊和大明神とも言われています。続いて、ヒメの実家の白国の裏山の広峰山に登り、スサノオを祀る牛頭(ごず)天王社総本宮の広峯神社を見学します。
 その後、高砂・加古川に移動し、大国主と少彦名が造った「石の宝殿」と天皇の石棺材として有名な竜山石の石切場、天皇の即位式に使われる「高御座(たかみくら)」と同じ名前の「高御位山」の麓の高御位山神社、ヤマトタケルが生まれたという伝説があり、その母の景行天皇の正妃、針間伊那毘能大郎女(はいまのいなびのおおいらつめ)が葬られたという日岡山、縁結びの謡曲「高砂」で有名な高砂神社などを回ります。そして、帰りに新羅(しら)国ゆかりの白国神社を見て、ヒメの実家に向かいます」

「13日のスケジュールも説明しておいてよ」
「翌日は、大国主デーになります。まず、東に向かい、奥津島比売命が大国主の子の阿治志貴高日子根 (あじすきたかひこね)神=を産んだ地とされる、西脇市の「袁布(をふ)山」あたりの「古奈為(こない)神社」を訪ねます。この阿治志貴高日子根神は、古事記によれば迦毛大御神と呼ばれています。続いて、阿治志貴高日子根神が神宮を造ったと言われる神前郡の「新次(にいすき)神社」を訪ねます。
昼食は、姫路に帰り、生姜醤油で食べる「姫路おでん」とします。午後は西に向かい、大国主の子の伊勢都比古命・伊勢都比売命ゆかりの地の「伊勢神社」を見て、宍粟市の播磨国一宮、大国主・少彦名・下照姫を祀る伊和神社を見ます。たつの市に引き返して、「野見宿禰の墓」、発生期の前方後円墳や珍しい中方双方古墳のある「養久山古墳群」、画文帯環状乳三神三獣鏡が発見された3世紀中頃の「綾部山三九号墳」、三角縁神獣鏡5面が発掘された3世紀後半の前方後方墳の「権現山五一号墳」、阿蘇山凝灰岩の舟型石棺の蓋が発掘された雛山など、揖保川流域の古墳群を見ます。せっかくですから、軽く「揖保の糸」のソーメン流しを食べてはどうでしょうか。
最後は、大国主・火明命親子の伝説ゆかりの日女道(ひめじ)丘、姫路城に立ち寄り、ヒメの実家の白国に向かいます。この白国は、播磨国風土記では、大国主と日女道丘神が契りを交わした場所とされています。」

「ずいぶんと盛りだくさんね。14日は、どうなるの?」
「14日は、岡山県赤磐市に移動し、スサノオの十柄剣が祀られていたとされる石上布都(ふつ)御魂神社を見ます。せっかくですから、ヒメが構想中の『桃太郎殺人事件』の取材を兼ねて吉備津神社と楯築古墳・造山古墳、温羅(うら)伝説の鬼城に寄り道してはどうでしょうか。最後は、広島県の福山市に移動し、スサノオの蘇民将来で有名な素盞嗚神社を見ます。ここがゴールで、ヒメとカントクは新幹線の福山駅で乗車して下さい。ヒナちゃんと長老は車で出雲に向かいます。」
「ありがとう。さすが、東都大学出のボクちゃんの仕事は完璧だわ。姫路出身者よりもよく知っているじゃない」
「ホームページで調べるだけで、歴史、地理、所用時間、施設案内、名物料理などはまずわかりますね」 
「そうすると、現地に行って調べなくても、小説ぐらい書けちゃうじゃない?」
「テーマによると思いますよ。ホームページの情報はまばらで穴が一杯ありますから、実際に現地に行って調べないと、絶対にわからないことってありますね」
「そうよね。私とカントクなんて気まぐれだから、盛り上がってきたら、そのまま一緒に出雲に行くって言い出すよね。現地で考える、っていうのは大事だと思うなあ。では、ボクちゃんの大船に乗って、さあ、出発!」
またしても、ヒメの「右向け、左」の性格を見逃していたか。何度も振り回されていながら、いつまでたっても「気まぐれ、天の邪鬼」人間の行動パターンが高木には理解できないのである。
「おいおい、勝手に共犯者にしないでくれよ」 カントクは一応、口では異議を申し立てているが、目は完全に「それ面白いかも」というイタズラ坊主の輝きを見せていた。
駅前広場の駐車場に向かいながら、「長老と車は、多分、誰かのお古のレトロなポンコツ車ではないか」と高木は予想していた。やっぱり、そこには年代物の初代のオデッセイが待っていた。日本のミニバンの草分けで、7人乗りでセダン並みの走行性能を持っている。長老の行動パターンなら、高木にも多少は読める。相性というものであろう。
最初は、姫路城の東南にある播磨国総社に向かった。姫路城前の地下駐車場に車を停め、西門から本殿に向かった。
「ここは、正月には必ず参拝するのよ。参道は前に進めない位の人出なんだから」 ヒメは懐かしそうに説明した。
「しかし、ヒメの実家は白国神社の氏子ですよね?」 高木は、今回、秘かにヒメのこと全てを聞いてみようと思っていた。
「そうなんだけど、母の実家がこの近くで、こちらの方が従兄弟達が多いので、いつも遊びにきていたのよね。正月は2つの神社をはしごしてたことになるね」
「それって、本当の狙いはお年玉のはしごじゃないの?」 マルちゃんがいつものように突っ込む。
「ところで、ヒメはその時、射楯大神と兵主大神、あるいは五十猛命と大国主にお参りする、という意識はあったの?」 カントクはやはり、神にこだわっている。
「そうねえ。誰が祀られていたかなんて、考えてもいなかったよね。ただ、あこがれの男の子のことを祈っていただけかな。」
「そこが、日本人の面白いところなんだね。キリスト教徒やイスラム教と、仏教徒などは、神や仏を具体的にイメージしているよね。しかし、ほとんどの日本人は神社に詣って、そこに祀られている神のことをそんなには考えていない」
「最近まで、射楯兵主神社という正式な名前を知らなくて、ずっと総社(そうしゃ)と呼んでいたから、意識しなかったのかも知れない。播磨中の神々がここには祀られている、と教えられてきたからね」 あまりこだわらないヒメであった。
「ここには、正月には『茅の輪』が飾られていて、それを潜って参拝すると病気にならない、って言われていて、高校受験や大学受験の前には、試験当日に風邪を引きませんように、と祈りながら、『茅の輪』を潜ったことを思い出すなあ」 懐かしそうにヒメは話しながら、西門に向かい、総社御門の上に面白いものが展示してあるので見学しよう、と提案した。

(日南虎男:ネタモトは日向勤氏の『スサノオ・大国主の日国―霊の国の古代史』梓書院刊です)

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コメント (3)
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