
「そういえば、日本人は猿や犬を食べないわね。中国や韓国、インドや東南アジアの人々が食べるのに不思議だわね。向こうに旅行にいくとびっくりするわね」
どうやら、何にでも疑問に持つヒメの遺伝子は、母親譲りのようだ。
「大山咋(オオヤマクイ)神を祀っている、比叡山、元は日枝山の麓の日吉大社では、猿は神の使いよね」
マルちゃんは大津市の仕事もしたことがあるようだ。
「そういえば、前に、幼名を日吉丸といった豊臣秀吉は、この日吉大社につながりがあることもあって、猿と呼ばれた、というような話があったなあ」
カントクはよく覚えていた。
「三輪山の麓の大神大社は、『大神(おおかみ)』と書いて、『おおみわ』と読ませるのが不思議だったけど、犬の先祖は『狼(おおかみ)』よね」
奈良を舞台にした推理小説を書いているヒメは奈良をよく知っている。
「山に住む狼は、山頂に降り立った祖先霊=大神を運ぶ動物だから、『大神』と言われるようになった、というのを聞いたことがあるなあ」
カントクも乗ってきた。
「天理市にある石上神宮では、鶏が神の使いになっていたわよ」
マルちゃんは全国で仕事をしているので、各地の神社には詳しい。奈良県の葛城生まれであったが、高木は狼や鶏など考えてもいなかった。
「675年、天武天皇は4月から9月の間、牛、馬、犬、サル、鶏を食べることを禁止している。牛と馬は農作業に欠かせないからわかるが、犬とサル、鶏を食べることを禁じているのは、これらの動物が神の使いと考えられていたからではないかな。ヒナちゃんは、当然、知っていたと思うけどね」
専門家だけあって、長老は詳しい。
「桃太郎の家来が、犬とサルと雉なのも、関係ありそうだわね」
ヒメの母上は、ヒメと同じで、いろんなものを結びつけてくる。
「強い鬼、祖先霊に守られた王と戦うために、桃太郎は犬とサルと雉に、自分の祖先霊を運ばせて、一緒になって戦った、ということなのね」
ヒメの推理のテンポは早い。
「神社の入り口に鳥居が置かれているのは、ここに祖先霊を運ぶ鳥が留まる場所と考えられていたからだと思います。問題は、猿がなぜ神の使いになるのか、ずっと謎でしたが、播磨国風土記でその謎が解けたんです」
ヒナちゃんは出雲生まれだが、播磨国風土記から多くのヒントをえていたようだ。高木は、これまで1地方の播磨国風土記なんて気にも留めていなかったけど、播磨国風土記は古代史の謎を解く鍵になるかも知れない、と思うようになってきた。
「なるほど。猿の顔が赤くなることから、猿が霊(ひ)の世界の動物とされた、というわけなんだな」
カントクも納得したようだ。
「緋色は火の色ではなく、霊(ひ)の色、霊界の色だったというわけね」
ヒメの母上にとって、これからはスカーレットは、血の色のイメージになりそうである。
「古墳から丹が大量に発見されるのは、王の死体が血の上に置かれ、血を降りかけられた、ということだと思います」
ヒナちゃんの推理には無理がない。高木も同じ事を考えていた。
「鹿や猪の血で、稲を発芽させ、育てる、という発想と同じ、赤色は再生の意味があるということね。カグツチの血や死体から多くの神が生まれた、という神話と同じだなあ」
ヒメは推理小説の新しい発想を考えついた時の、いつもの顔をしている。
「死体を治める棺を『ひつぎ』というのは、『霊(ひ)を継ぐ入れ物』というヒナちゃんの説は、棺の中に丹が撒かれていた、ということで納得できたね」
カントクはいつも女性の意見には真っ先に同調するが、今回は心底、納得したようだ。
「しかし、そうなると、女性の生理が忌み嫌われた、というのはどうなるのかしら?」
ヒメの母上は、ヒメと同じで突っ込みが鋭い。
※文章や図、筆者撮影の写真の転載はご自由に(出典記載希望)。
※日向勤著『スサノオ・大国主の日国―霊の国の古代史』(梓書院)参照
※参考ブログ:邪馬台国探偵団(http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/)
霊の国:スサノオ・大国主命の研究(http://blogs.yahoo.co.jp/hinafkinn/)
霊(ひ)の国の古事記論(http://hinakoku.blog100.fc2.com/)
帆人の古代史メモ(http://blog.livedoor.jp/hohito/)
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