https://www.buzzfeed.com/jp/satoruishido/20170629?utm_term=.mfv39zmZO#.naMdyPmEnより転載
なぜ声をあげた障害者がバッシングを受けるのか?バニラ・エア問題、本当の争点はどこにある
歩けない人はバニラ・エアに乗れなかった。「合理的配慮」とは何か?「誰かが声をあげないと変わらない」
「誰かが声をあげないと変わらなかった問題」
格安航空会社(LCC)のバニラ・エアが、車いすの乗客に自力でタラップを上がらせる対応をとり、謝罪した問題。インターネット上では、バニラ・エアの対応を批判した車いすの男性を「クレーマー」などと非難する声もある。
男性のやり方に問題があったのか? 車いす利用者からは「誰かが声をあげないと変わらなかった問題」との声があがる。
経緯を振り返る
バニラ・エアの対応を批判したのは、下半身不随で車いすで生活するバリアフリー研究所代表の木島英登さん。木島さんのサイトや報道によると、このような経緯があった。
木島さんは6月5日、奄美大島から関西空港へ向かう、バニラ・エアの飛行機に乗ろうとしたところ、空港職員に止められた。
奄美空港では、飛行機に搭乗するためには、滑走路から階段を使わなければならない。車いすの木島さんは、5人いた同行者に協力を仰いで、車いすごと担いでもらって搭乗しようとした。そこを空港職員に制止された。
そこで、木島さんは車いすを降りて、腕の力を使ってタラップを一段、一段登って搭乗することになった。
今後のために、奄美空港の責任者に確認しました。「歩けない人単独は完全NG」。「車いすを担ぐのはNG」。
「同行者のお手伝いのもと、階段昇降をできるならOK」とのこと。
木島さんはこの対応を批判し「できる範囲で配慮をする。搭乗を断るのだけは止めて欲しいです」と訴えた。
バニラ・エアは対応に問題があったと認めて謝罪。以後は階段昇降機の導入などを決めた。
奄美空港
木島さんへの批判
木島さんが「クレーマー」と言われるのは、車いすでの搭乗をバニラ・エアに連絡していなかったからだ。バニラ・エア側は、車いすの利用客に事前に連絡するよう求めていた。
この「ルール」を守らなかったのは木島さんなのに、なぜ航空会社が一方的に非難されるのか、というのが批判する側の言い分だ。
それでは、事前連絡していれば、どうなっていたのか?
毎日新聞によるとバニラ・エアは「関空-奄美線では、自力で歩けない車椅子のお客さまから事前に連絡があった際には搭乗をお断りしていた」と答えている。
つまり、木島さんはたとえ事前連絡をしていたとしても、そもそも飛行機に乗れなかったのだ。
先天性の身体障害があり、義足と車いすで生活する女性が、匿名を条件に、BuzzFeed Newsの取材に答えた。
この女性も、別の車いす利用者から、「関空ー奄美間で搭乗を断られた」と、聞いたことがあるという。
「マナーとして、事前に連絡が必要だというのもわかります。しかし、今回のケースで本当に問題なのは事前の連絡をして交渉したところで、搭乗できない可能性が高かったことです。拒否される可能性が高いとわかっていて、事前連絡する人はいませんよね」
女性は、木島さんが今回のような形で声を上げたのは「それ以外になかったからだ」と考える。そうしなければ、車いす利用者がバニラ・エアに乗れるようにはならない、というのが女性の考えだ。
「これは誰かが声をあげないと変わらないケースです。今回も実際に、木島さんが声をあげたことで、やっとやっとバニラ・エア側も対応をした。そして、アシストストレッチャーを導入しました」
バニラ・エアは奄美空港でアシストストレッチャー(座った状態で運ぶ担架)を14日から使用、階段昇降機も29日から導入する。(朝日新聞)
やる気になれば、対策を取ることができた。
「私は今回の木島さんの行動は勇気あるものだったと思います。なんで声をあげた当事者に批判が集まるのかまったくわかりません」
他でいけば?
インターネット上には、格安LCCのバニラ・エア以外の航空会社を使って、奄美に行けばいいではないかという声も上がっていた。
女性はこう反論する。
「他の航空会社があるからそれを使えという声もありますね。しかし、なんで車いすを使っているというだけの理由で、LCCを使うという当たり前の選択肢が排除されないといけないのでしょうか?」
社会には、車いすに限らず、障害者に対してまだ合理性に欠ける対応があること。それが現実であり、本当の問題だという。
スーパー銭湯で……
女性は自身の体験談も語ってくれた。女性が訪れた、東京都内のスーパー銭湯でこんなことがあった。
そのスーパー銭湯には「車いすの方は介助者なしで入浴してはいけない」という規則があった。
しかし、女性は「義足をつかって自分で歩けるので……」と断り、一人で入場した。この時点で何も言われなかったが、 義足を外して、はうように身体を動かし、入浴を楽しんでいたところスタッフが飛んできた。
スタッフはこう告げた。「衛生的ではないので、入浴をお断りします。返金しますので」
女性は淡々とした口調で話す。
「唖然として、その時は何も言えませんでした。でも、しばらくして運営する会社におかしいのではないか、と訴えました。断られる合理的な理由がないからです。悔しいなぁと思いました」
「だいぶ時間があいてから、謝罪してもらえましたが、この社会には車いすを使っている、身体障害があるというだけの理由で、選択肢から排除されることがたくさんある」
「それは合理的な理由がない、と誰かが言わないと泣き寝入りっていうケースはたくさんあるということです」
「合理的配慮」とはなにか?
2016年4月に施行された、障害者差別解消法には「合理的配慮」という言葉がある。内閣府のパンフレットから引用しよう。
障害がある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること。
女性は、「歩けない人は搭乗させない」という対応には合理的配慮が欠けているという。
女性は、それは違うという。
「そもそもバニラ・エアが、障害者差別解消法に定められた合理的配慮をしていなかったこと。これが最大の問題です。声をあげた当事者に向かってバッシングがいくのはおかしい」
声をあげた当事者へのバッシングでは、本当の問題は見えてこない。
バズフィード・ジャパン ニュース記者
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<追記 2017.6.29>===========================
バニラ・エアが燃えている。しかし、木島さんも燃えている。 - ハフィントンポスト
一連のバニラ・エアの対応も批判を浴びているが、木島さんが航空会社に事前連絡していなかったことも相俟って、ネットユーザーからは木島さんに対しても「クレーマーだ」「プロ障害者だ」との批判が相次いでいる。
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まず、木島さんが事前連絡をしていた場合、どうなっていたのか。バニラ・エアは適切な対応を取り、木島さんは滞りなく搭乗することができていたのだろうか。答えは、NOである。毎日新聞の取材に、バニラ・エアは「関空-奄美線では、自力で歩けない車椅子のお客さまから事前に連絡があった際には搭乗をお断りしていた」と回答している。何のことはない。事前連絡をしたところで、結局は乗れないのだ。
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では、事前連絡しようがしまいが「自力で歩けない人は搭乗できない」というルールを掲げている航空会社に予約し、無理にでも乗ろうとする行為は、はたして「クレーマー」に当たるのだろうか。もしも、そのルールに客観的な正当性が認められるのなら、木島さんはクレーマーとのそしりを免れないだろう。しかし、バニラ・エアが掲げる「自力で歩けない人は搭乗できない」というルールには、はたして客観的な正当性があるのだろうか。
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2016年4月に障害者差別解消法が施行されて1年以上が経過した。これによって、障害の有無にかかわらず、すべての人が適切なサービスを受けられることが法律で保障されることとなった。もちろん、この法律が施行されたらといって、障害者の要求がすべて通るわけではない。あくまで「合理的配慮の範囲内で」という前提がある。
たとえば、「飛行機のサイズが小さすぎて私の車椅子を搭載できないなら、新しい機体を購入してほしい」という要求をしたとする。これは、あまりに莫大な予算を必要としてしまうため、「合理的配慮の範囲を超える」と見なされてしまうだろう。しかし、木島さんが搭乗するためには、ストレッチャーさえ準備されていれば問題なかった。
実際にバニラ・エアは木島さんとのトラブルから二週間以内にストレッチャーを導入していることを考えれば、予算的にも、手続き的にも、そう準備に負担がかかるものではないことが窺える。つまり、バニラ・エアは合理的配慮の範囲内であるストレッチャーさえ用意していなかったのだ。これは、明らかに障害者差別解消法に反する状況だったと言える。
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「スムーズに」奄美諸島へ行くことだけを考えれば、あえて設備が整っていないバニラ・エアを選ばず、別の航空会社を利用するという方法もあったと思う。しかし、それではバニラ・エアが違法状態であり、企業として無自覚の差別を行なっていることを放置し続けることとなる。木島さんのクレームは、そうした状況に一石を投じた、とても意味のあるものだったと感じている。そのクレームは法律に照らし合わせて考えても、いたって真っ当なもの~