セレンディピティ日記

読んでいる本、見たドラマなどからちょっと脱線して思いついたことを記録します。

映画鑑賞ノート:周防正行(監督)『終の信託』

2012-11-02 23:44:32 | 文化

しばらく書き込んでいなかったので何か書かなくてはと思ってはいた。3冊の当事者の記録本を読んだ航空母艦信濃について書こうと思ってみても、自宅の庭の改修に時間と意欲をとられてなかなか書く気になれなかった。ようやく自宅の庭の改修に一区切りつけたので書くことにした。航空母艦信濃は後日にして今日見たばかりの映画『終の信託』の旬の感想を書こう。

見た映画館はミッドランドシネマ名古屋空港だ。この映画館でも中日本興業の株主優待券がつかえる。これでここは2回目だ。ミッドランドシネマ名古屋空港でも株主優待券が使えることは知っていたが最近まで来る気がしなかった。というのは名古屋空港といえば小牧市と思い自宅からかなり距離があると思い込んでいた。『アイアン・スカイ』という映画がどうしても見たかったのでカーナビをたよりに車で出かけた。そしたら春日井市で自宅から30分でつくところにあった。これなら時間的にも交通費的にも名古屋駅前よりずっと早く安くつく。そんなわけで今日は迷わずミッドランドシネマ名古屋空港を選んだわけだ。

面白いといえば『アイアン・スカイ』が断トツに面白いが、今日書くのは見てホヤホヤの『終の信託』だ。

主人公は病院につとめる40代の内科の女医だ。喘息を患う男性の患者から信頼を寄せられ幼いころに満州にいて妹の死ぬ現場をみた話を聞かされる。銃弾を腹に受けた妹に母親は子守唄を聴かせる。それは苦しみから逃れる永遠の眠りを迎えさせるものだ。これがこのドラマの伏線だ。また男性患者はチューブづけでは生きたくないと女医に話していた。

ある日男は路上で倒れ心肺停止状態で女医の病院へ救急車で搬送された。持っていたものはこの病院院の診察券のみなのでこの病院へ搬送されたのだ。男は病院での女医の緊急処置で弱いながらも呼吸は回復したが長時間の呼吸停止で脳の損傷が疑われて植物状態に近いものと女医は判断した(と検事に主張)。人工呼吸器をつけて意識のない状態は続いたあと女医は男性を安楽死させようと男性の妻に人工呼吸器を外すことを奨める。これは男性が以前に妻は親の介護から自分の介護と介護ばかりの人生でかわいそうだが自分では何も決められない人間だから女医が主導して欲しい旨のことを言っていたせいもあるだろう。女医は妻に息子と娘さんを呼んで相談してくださいといったのだが、家族の集まったその時はすでにあたかも人工呼吸器を外すことが決まっていて息子や娘はそれつまり男性の死に立ち会うために集まったかのような雰囲気だ。女医からも妻や息子娘からもこの状況になんの異議もでない。たぶんこれが問題になるポイントの一つだが、女医の方はこの方がやりやすいと考えていたかもしれない。人工呼吸器を外したとたん男は苦しみ暴れだす。これは脳死ではなかった証拠と検事はみなすことになる。女医は男性に鎮静剤を投与するがその量は看護師が驚くほど多量だった。安楽死させるための鎮静剤投与とみなされる量だ。男は人工呼吸器を外したから死んだのではなく鎮静剤の大量投与で死んだのだ。

僕が受ける印象では、女医は男が脳死状態ではないと思ったから早く楽にしてやらねばと安楽死させたのだと思う。以前男から人は死にかけて視力が無くなっても聴力はまだ残っていると話したのを聞いた女医は男が自分や家族の声を聞きながら早く楽にしてくれと考えていると思ったのではないか。

これは医療ドラマのようでも検察ドラマのようでもあるけどどちらも違うだろう。医療ドラマにしては女医の医療からの逸脱があるし女医は他の患者からも信頼されているようだが医療技術にはみていて疑問がのこる。これでは医療ドラマにならない。法廷場面がでてこないので法廷ドラマではないが検察ドラマにしては検事が嫌なキャラクターた。演技がうまいということだが、検事ドラマにはならない。つまるところ恋愛はないが男と女の人間ドラマというしかない。

原作があるらしいが僕は読んでいないけど、周防監督がどの部分を取り上げてどこを省くかで苦労したと思う。取り上げた構成でドラマ内容が変わってくると思う。他の監督あるいはテレビの連続ドラマなら取り上げて膨らませたと推測できることがある。

一つは男の死後3年以上経ってから告発されて検察庁に呼ばれたことだ。誰が告発したのかははっきりでてこなかった。僕がぼんやり聞き漏らしたかもしれないけど。だた検事との最初のやりとりで検事が「東大出で病院の医科長(だったと思うけど)ではやっかみも受けるでしょう」と言うと、女医は「それがこの件になんの関係があります」とぶっきらぼうに答えた。この検事の言葉は病院関係者の内部告発を暗示している。女医の反応は誰が告発者なのかに無関心なのかそれとも病院関係者以外のたとえば家族が告発者であることを知っていて、ただ東大出を皮肉っぽく持ち出されて不愉快になったようにみえる。僕が監督ならこの告発の経過を映像にするけど。原作は読んでないけど、僕が作ると法廷ドラマになっちゃうかも。ところで47歳の東大出の女医が医科長では出世していると言えない気がするな。以前名古屋市では病院関係者の人事異動は不定期によくあったけど常勤の医師はすぐ医科長という気がしていた。これは僕の勘違いかもしれない。でも47歳の東大医学部出でなら東大教授ならずとも医科大教授も割といる気がするからやっかみを受けるほど出世していないとおもう。

二つ目は男が毎日つけていた闘病日記だ。ドラマのはじめの方で男が闘病日記をつけているというはなしがでてきた。検事が言うには安楽死が認められるケースとして最高裁が認めたものは3つある。その3つを僕は聞き漏らした。やっぱり役人やめて良かった。その任に耐えらぬほどぼけて来たかも。えっ?もっとやめた方がいい人がいっぱいいるって。えっと話しはもどって、いずれにしても安楽死は本人の生前の意思(リビングウイル)がはっきり確認できるか、家族が本人なら希望するはずだからという承認が必要だ。僕はドラマの常としてこの闘病日記が決定的な場面にでてくるはずだと思って見ていたがとうとう場面ではでてこなくて映画の最後尾のその後のはなしの文章で、闘病日記が出てきて女医を信頼して総てを任せる旨の記述によりリビングウイルが認められて、安楽死が認められて懲役4年だが執行猶予がついたとある。無罪でないのは院長も副院長も男は回復可能と証言しているからだろう。

病院長の証言から女医の医療技術は怪しくみえるが、僕は最初の方からこの女医の技倆に疑問を持った。男の病気は喘息だ。それも中程度から重いものに移行しつつあるそうだ。でも喘息は症状であって病名ではないのではないか?喘息の原因はなんだろう?それが重要ではないのか。居住環境が喘息を重くしているらしいので転居を奨めるが拒否される。確かに工場地帯に住んでいるみたいだ。しかし女医は居住環境を主原因とみていないようだ。工場の廃棄物が主原因なら転居が最大の治療法だ。いや転居しなければ治らないともいえる。主原因を確かめてそれが居住環境なら絶対に死にたくないなら転居しなさいというべきだ。でも女医は主原因をつかんでもいないしつかもうとしていないように見える。これでは薮医者だよ。原作では違った書き方をしているかもしれないけど。

ところで僕がこの映画を見に行く気になった理由の一つは、予告編やポスターにでているシーンが名古屋市役所の本庁舎の地階に見えたからだ。ちなみに地階らしい場面は最後の方だがそれ以前の検察庁の内部には名古屋市役所本庁舎らしいところが多々見えた。そして映画終了のクレジットに目をこらしてみると撮影協力に名古屋市役所と名古屋市上下水道局の文字が見えた。