花火の宇宙が消滅したあと、硝煙くすぶる一面の葦原は
雄大に沈思する大河を撫で渡ってきた涼風にさざらと揺れ、
見上げれば、数千光年の銀河の群れ、恒星、大三角、プレアデスを、
水墨の薄く延ばされた雲が時折僕の目から遮断した。
深更、虚空から切断しておいた、消滅した花火宇宙たちを
タロットのように並べて、眠る。


『―まあ、まあ、まあ、すると、大暗黒の隅の隅に眩く輝いている
小さな花火の傘の中の黄、青、赤、白の光というのは、
すべて「存在」へ向ってのびあがっている大暗黒の溜息ですの?
―そうです。いってみれば、大暗黒の中に停っている《もの以前》を
誘惑するひそかな力に充ちた蠱惑者でしたが、この現在の誘惑も
また成功せず、大暗黒の隅の隅の小さな花火の傘は、
ただただ自己の中へ落ち込自己刑罰の《重力者》としての世界を
ただただ示して見せたに過ぎません。』
(埴谷雄高 『死霊』)
雄大に沈思する大河を撫で渡ってきた涼風にさざらと揺れ、
見上げれば、数千光年の銀河の群れ、恒星、大三角、プレアデスを、
水墨の薄く延ばされた雲が時折僕の目から遮断した。
深更、虚空から切断しておいた、消滅した花火宇宙たちを
タロットのように並べて、眠る。
























『―まあ、まあ、まあ、すると、大暗黒の隅の隅に眩く輝いている
小さな花火の傘の中の黄、青、赤、白の光というのは、
すべて「存在」へ向ってのびあがっている大暗黒の溜息ですの?
―そうです。いってみれば、大暗黒の中に停っている《もの以前》を
誘惑するひそかな力に充ちた蠱惑者でしたが、この現在の誘惑も
また成功せず、大暗黒の隅の隅の小さな花火の傘は、
ただただ自己の中へ落ち込自己刑罰の《重力者》としての世界を
ただただ示して見せたに過ぎません。』
(埴谷雄高 『死霊』)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます