歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪雑草のはなし~田中修氏の著作より≫

2022-11-26 19:30:26 | 稲作
≪雑草のはなし~田中修氏の著作より≫
(2022年11月26日投稿)
 

【はじめに】


 水田や畑の草刈りをしていると、雑草を見る。
 夏場の草刈りほど、辛いものはない。稲作は、雑草との闘いでもある。
 どうしても、雑草のことについて知りたくなる。
 雑草の性質をより詳しく調べて、対処したくなる。
 そこで、今回は、雑草についての本を紹介してみることにする。
 田中修氏の次の本がそれである。

〇田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]
 この本を読んで、一番面白かったのは、植物名の由来について述べてある点であった。
 それを中心に、生活に役立つ情報、例えば、花粉症、マジックテープの発見にまつわるエピソードなども、紹介してみたい。
 
【田中修氏のプロフィール】
・1947年(昭和22年)、京都に生まれる。京都大学農学部卒業、同大学院博士課程修了
・スミソニアン研究所(アメリカ)博士研究員
・甲南大学理工学部教授などを経て、現在、同大学特別客員教授
・農学博士 専攻・植物生理学
<主な著書>
・『植物はすごい』(中公新書)
・『ふしぎの植物学』(中公新書)





【田中修『雑草のはなし』(中公新書)はこちらから】
田中修『雑草のはなし』(中公新書)





〇田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]
【目次】
はじめに
第一章 春を彩る雑草たち
第二章 初夏に映える緑の葉っぱ
第三章 夏を賑わす雑草たち
第四章 秋を魅せる花々と葉っぱ
第五章 秋の実りと冬の寒さの中で

参考文献
写真撮影者・提供者一覧
索引




はじめに
第一章 春を彩る雑草たち
・タンポポ(キク科)
・一個のタネが、六カ月で、何個に増えるか?
・日本タンポポを駆逐した犯人は?
・レンゲソウ(マメ科)
・忘れられたレンゲソウ・パワー
・カラスノエンドウ(マメ科)
・音を奏でる実
・オオイヌノフグリ(ゴマノハグサ科)
・たった二本しかないオシベの秘密
・メシベは、なぜ、他の株の花粉をほしがるのか
・ハルジオン(キク科)とヒメジョオン(キク科)
・「ハルジオン」は「ハルジョオン」ではない
・ハルジオンのツボミは恥ずかしがり屋
・ヒメジョオンのツボミはうつむかない
・春の七草
・春に花咲く草花は、夏の暑さの訪れを予知する
・セリ(セリ科)
・ナズナ(アブラナ科)
・ハハコグサ(キク科)
・ハコベ(ナデシコ科)
・コオニタビラコ(キク科)
・スズナ(アブラナ科)とスズシロ(アブラナ科)
・ホトケノザ(シソ科)
・生きる工夫を凝らした花
・ヒメオドリコソウ(シソ科)
・ニワゼキショウ(アヤメ科)
・ハルノノゲシ(キク科)
・トキワハゼ(ゴマノハグサ科)
・シロバナタンポポ(キク科)
・タンポポに肥料を与えたら?
・ツメクサ(ナデシコ科)
・スミレ(スミレ科)
・タネツケバナ(アブラナ科)
【コラム】「小葉」は、小さい葉ではない
【コラム】花の集まった花
【コラム】タンポポの花の開閉運動は誤解された

第二章 初夏に映える緑の葉っぱ
・オオバコ(オオバコ科)
・オシベとメシベのすれ違い
・発芽に必要な光
・ウキクサ(ウキクサ科)
・ウキクサ牧場
・アオウキクサ(ウキクサ科)
・栄養不足で、花が咲く
・ワラビ(コバノイシカグマ科)
・ワラビも有性生殖をする
・スギナ(トクサ科)
・ツクシが見られなくなる日
・スギゴケ(コケ植物蘚類)
・コケにも、オスとメスがある
・カタバミ(カタバミ科)
・開きっぱなしになる花
・クローバー(マメ科)
・背丈を競うクローバー
・カモガヤ(イネ科)
・花粉症の発見
・ノシバ(イネ科)とコウライシバ(イネ科)
・シバのハングリー精神を刺激する
・シロザ(アカザ科)とアカザ(アカザ科)
・温度が変化しないと、発芽しないタネ
・ヤエムグラ(アカネ科)
・スズメノテッポウ(イネ科)
・スズメノカタビラ(イネ科)
・イタドリ(タデ科)

【コラム】期待されるオオバコの「発芽習性」
【コラム】花が咲くと、植物は病気に強くなるのか
【コラム】植物たちの悩み

第三章 夏を賑わす雑草たち
・ツユクサ(ツユクサ科)
・アオバナの活躍
・雑草の運命
・ネジバナ(ラン科)
・ヘクソカズラ(アカネ科)
・ヒルガオ(ヒルガオ科)
・ヒルガオ、ユウガオ、ヨルガオで仲間ではないのは、どれか?
・ツキミソウ(アカバナ科)
・ツキミソウの花は、月の出を待っているか
・ボタンウキクサ(サトイモ科)
・ホテイアオイ(ミズアオイ科)
・水質の浄化に利用できるか
・花の咲く時刻は決まっている
・ヤブガラシ(ブドウ科)
・スベリヒユ(スベリヒユ科)
・ドクダミ(ドクダミ科)
・イヌビエ(イネ科)
【コラム】気孔を接着剤で見る
【コラム】悩ましい「左巻き」と「右巻き」
【コラム】気になる名前
【コラム】「3K」に強い植物

第四章 秋を魅せる花々と葉っぱ
・ヒガンバナ(ヒガンバナ科)
・ヒガンバナはタネをつくらないのか
・葉っぱはどこにあるのか
・セイタカアワダチソウ(キク科)
・暴かれたセイタカアワダチソウの秘密
・ヒメムカシヨモギ(キク科)
・オオアレチノギク(キク科)
・秋の七草
・ハギ(マメ科)
・ススキ(イネ科)
・クズ(マメ科)
・ネザサ(イネ科)
・タケの花
・ササの開花は予告できる
・コニシキソウ(トウダイグサ科)とニシキソウ(トウダイグサ科)
・ヨモギ(キク科)
・ブタクサ(キク科)
・ミズヒキ(タデ科)
・カナムグラ(クワ科)
【コラム】もうヒガンバナとは呼ばれない
【コラム】ササやタケの花は、一生に一度しか見られないか
【コラム】秋に出る「来春の花粉飛散情報」に、根拠はあるか

第五章 秋の実りと冬の寒さの中で
・オナモミ(キク科)
・「ひっつき虫」が生んだ、ふしぎな商品
・夜の長さを正確にはかる葉っぱ
・オナモミを有名にした実験
・フウセンカズラ(ムクロジ科)
・ヒメクグ(カヤツリグサ科)
・メヒシバ(イネ科)とオヒシバ(イネ科)
・ヒカゲイノコズチ(ヒユ科)とヒナタイノコズチ(ヒユ科)
・エノコログサ(イネ科)とアキノエノコログサ(イネ科)
・イヌタデ(タデ科)
・寒さがなければ発芽しないタネ
・オニノゲシ(キク科)
・スイバ(タデ科)とギシギシ(タデ科)
・ロゼットとは?
・ドクムギ(イネ科)
・寒さを受けて、春化する
・イタリアンライグラス(イネ科)とトールフェスク(イネ科)
・一年中青々した芝生の秘密
【コラム】タネの個数
【コラム】冬の甘さは、身を守る

参考文献
写真撮影者・提供者一覧
索引




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・植物名の由来
・春の七草
・秋の七草
・三大民間薬
・三大花粉症
・「ひっつき虫」が生んだ、ふしぎな商品
・寒さを受けて、春化する






植物名の由来


タンポポ(キク科)


「第一章 春を彩る雑草たち」より
〇タンポポ(キク科)の名の由来
・葉のまわりには、ギザギザの深い切れ込みがある。
 このギザギザの様子から、何が連想されるだろうか。
 このギザギザをライオンの歯に見立てて、この植物の英名は、「ライオンの歯(dandelion)」
である。

・日本語のタンポポという名の由来には、いくつかの説がある。
 その中で、もっとも心をひかれるのは、「タンポンポン」という音に基づくものである。
 タンポポの花をつけている花茎を切り出すと、中はストローのように空洞である。
 その花茎の小さな断片の両端にいくつかの切れ込みを入れ、水につける。少し時間が経つと、両端の切れ込みが反り返り、鼓(つづみ)のような形になる。
 その姿から、「タンポンポン、タンポンポン」という、鼓の音が聞えてくるようであり、「タンポポという名が生まれた」といわれる。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、2頁)

スミレ(スミレ科)


・スミレは、春を代表する草花である。
 3月から5月にかけて、葉っぱの間から、花茎を出し、1本に1個のかわいい花をつける。
 花の色は、濃い紫色が印象的である。この花の色は、アントシアニンという色素によるものである。
・花は5枚の花びらからなり、上に2枚、その横下に2枚、一番下に唇形の1枚を配している。
 この花の形が、大工さんの使う墨壺(すみつぼ)に似ており、「墨入れ」の意味から「スミレ」という名前になったという。

・春が終わってもツボミはできるが、初夏を過ぎてできたツボミはほとんど開かない。
 これは、ホトケノザの項で紹介した閉鎖花といわれる花で、ツボミの中で自分のオシベとメシベで受粉、受精をしてタネをつくる。確実に子孫を残すための特別の花である。
・タネには、ホトケノザで紹介したのと同じアリの好物エライオソームがついており、アリがこのタネを運ぶ。
 アリがタネを選ぶからであろうか、「どこから、タネがきたのか」とふしぎに思うほど、突然、石垣の間とか、コンクリートの割れ目などの思いがけない場所に育ち、花が咲く。

※栽培品種として、色がさまざまの三色スミレ(パンジー)やビオラがある。
 「ビオラ」は、スミレの学名である。
 これらはヨーロッパ原産の野生スミレが改良されたものである。
 近年では、これらの栽培品種は、冬に、春のように花を咲かせる。
 冬の花壇に並んで植えられ、黄色、紫色、白色、紅色、オレンジ色などの多彩な花を咲かせている。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、46頁~47頁)

スギナ(トクサ科)


・河原や土手、畑や空き地などによく生える雑草であるスギナは、花を咲かせない。
 私たちがシダ植物と思っているシダとは姿が異なるので、シダ植物と思いにくいが、スギナはシダ植物である。
 だから、タネができず、タネの代わりに胞子で増える。胞子をつくるのは、地下茎から出るツクシである。

・ツクシは、スギナの地下茎についているので、「付く子」とか、土を突くように出てくるので「突く子」という説がある。
 ツクシの姿が、筆の先端に似ているので、漢字では、「土筆」と書かれる。
 
・昔から、「ツクシ誰の子、スギナの子」といわれる。
 しかし、「ツクシがスギナの子」と知る若い人は少ない。
 スギナの生育地がどんどん減ってきて、ツクシを見る機会がないからであろう。
 その気になって探さないと、春にツクシを見るのは、今ではそんなに簡単なことではなくなっている。
(ほんとうに、「ツクシは、スギナの子か」と問われると、ちょっと困るそうだ。
 地下茎から出てくるのだから、子供ではなく、兄弟というほうが正しいかもしれない。しかし、同じように地下茎から出るタケノコを「タケの子」というのだから、「ツクシは、スギナの子」でいいのだろうという)
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、65頁~66頁)

ヤエムグラ(アカネ科)


・春になって発芽するものもあるが、多くは秋に芽生えて、冬を越す。
 6~8枚の細長い葉が茎の一つの節を輪のように取り囲んで生える。その特徴的な姿から、この植物は、すぐに見つけられる。6~8枚の葉が一つの節から広がった姿は、勲章のようであり、昔、子供が胸に飾って遊んだので、「勲章花」の名もある。
・「ムグラ(葎)」は、よく茂っている様子を表す語である。
 だから、幾重にも重なって成長するという意味で、「八重ムグラ」といわれたり、一つの節から6~8枚の葉がでていることから、「八重」といわれたりする。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、84頁~85頁)

スズメノテッポウ(イネ科)


・水田や湿地の雑草であるが、都会では、湿った道端に生える。
 春に、緑色の多くの花を、長さ約5センチメートル、幅5ミリメートルくらいの円柱状につける。これが褐色に見えるのは、オシベの色のためである。
 多くのタネをつける代表的な雑草で、大きい株では、約4万個のタネをつける。
・「スズメ」は、小さいサイズを意味している。
 スズメノテッポウの名は、花をつけた円柱を鉄砲に見立てている。
 同じ植物だが、これを槍(やり)に見立てれば「ズズメノヤリ」、枕に見立てれば「スズメノマクラ」と呼ばれることもある。
 ただ、「ズズメノヤリ」というイグサ科の植物は、別に存在するそうだ。

※イネ科の植物はほとんどがイネと同じような葉っぱを持つから、花が咲き、タネが実るまで、植物名はわからないものが多いそうだ。
 結実すれば、特徴のあるものが多く、わかりやすい。スズメノテッポウはその代表例である。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、84頁~85頁)

スズメノカタビラ(イネ科)


・タネは秋に発芽し、線のように細い葉っぱが展開して冬を越し、春から初夏に開花する。
 葉っぱはシバとよく似た姿なので、ゴルフ場の芝生の中に生えると、外観上、シバとこの植物の区別はむつかしい。
 ところが、この植物は育つとかなり大きい株になり、花を咲かせて、芝生の見栄えが悪くなる。だから、シバをきれいに栽培している庭やゴルフ場では、やっかいな雑草である。

・先述したように、「スズメ」は、小さいサイズを意味している。
 「カタビラ(帷子)」は「ひとえもの」といわれる「裏地のない衣服」の意味である。
 この植物の穂の形を「カタビラ」に見立てているのだろう。

※植物名を飾る「カラス」という語は、「スズメ」より少し大きい場合に使われる。
 スズメノカタビラに対して、もう少し大きいカラスノカタビラがある。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、86頁~87頁)

ヒガンバナ(ヒガンバナ科)


・ヒガンバナは、中国から渡来して、野や畑の畦で育っている。
 秋の彼岸の頃、ツボミをつけた茎が、土の中からまっすぐ伸びだし、真っ赤な花を咲かせる。
 近年、同じ仲間の園芸品種のネリネが、「ダイヤモンド・リリー」の名で人気を高めており、ヒガンバナの球根も通信販売で売られるようになっているそうだ。

・この植物の学名は、「リコリス・ラジアータ」である。
 「リコリス」は、「ギリシャ神話に登場する美しい海の女神『リコリス』に由来する」と言われる。(また、ローマ時代の女優の名に因むとの説もある。)
 「ラジアータ」は「放射状」という意味である。花が完全に開いたとき、花が放射状に大きく広がっている様子に因んでいる。
・英名では、「red spider lily」である。
 赤い(レッド)クモ(スパイダー)が足を広げているユリ(リリー)のような印象があるのだろう。

・日本では、この植物は多くの呼び名を持つ。 
 地方ごとに、「ソウシキバナ」「ハカバナ」「ユウレイバナ」「シビトバナ」「カジバナ」などと呼ばれている。
 呼び名の数は、「日本全国で数百もある」とか「1000種を超える」ともいわれる。
 しかし、秋のお彼岸にご先祖様のお墓参りに趣を添えてくれる花と考えれば、天上に咲く赤い花を意味する「マンジュシャゲ(曼珠沙華)」がもっともふさわしい別名であろう。

・燃えるように見える赤い花に因んで、子供たちに「家に持ち帰ったら、火事がおこる」ということもある。
 「カジバナ」と呼ばれる所以でもあろうが、子供がこの植物に触るのを戒める言い伝えであろうという。
 なぜなら、この球根には、毒が含まれているからである。
※毒の名は、この植物の学名「リコリス」に因んで、「リコリン」というかわいい名前である。
 名前はかわいくても、毒であるから、ネズミやモグラはこの球根を避ける。
 だから、昔から人間はこの植物を田や畑の畦や、墓のまわりに植えたという。
 ネズミやモグラがこの毒を嫌い、荒らさないからである。
※「ハカバナ」「シビトバナ」「ユウレイバナ」と呼ばれるのは、お墓のまわりにあるために、気色悪い印象を持たれるからである。

※この球根には、毒も含まれるが、栄養分が蓄えられている。
 毒は水に溶けるので、すりつぶしてさらしたり煮たりしたら、取り除かれるそうだ。
 救荒作物として、飢饉の際の飢えを救ってきた歴史があるという。
 しかし、毒性はかなり強いので、どのくらいさらしたり煮たりしたら安全に食べられるのかについての定説は見当たらない。
(食糧の十分ある今の時代に、無理をして、これを食べる必要はないであろう)

・ヒガンバナの呼び名に、「ハミズハナミズ」というのがある。
 何のことかと思われるだろうが、「葉は花を見ず、花は葉を見ず」の略である。
 ヒガンバナでは、葉と花が出会うことがないということを意味している。
 「出会うことがないので、お互いが思いあい、花は葉を思い、葉は花を思う」という意味から、「相思華」と書かれることもある。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、118頁~125頁)

セイタカアワダチソウ(キク科)


・セイタカアワダチソウは、春から夏にかけて、スラリと背丈を伸ばし、高さは2メートルを超えることもある。
 初秋から、黄色い花を多く咲かせる。晩秋には、白い綿毛が泡だつように見える。
 だから、「背高泡立ち草」といわれる。
 冬には、茎はなく、葉が地表にへばりつくような姿で、寒さをしのぎ、太陽の光を浴びている。
・英名は、「トールゴールデンロッド」である。
 さしずめ、「背の高い(tall)金(golden)のムチや竿(さお rod)」という意味であろう。
 美しい黄色の花を咲かせる背の高い様子を形容したのか、あるいは、昔、この茎はムチや釣竿(つりざお)としてほんとうに使われたのだろうか、と著者は記す。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、125頁~126頁)

エノコログサ(イネ科)とアキノエノコログサ(イネ科)


・オナモミ、フウセンカズラは、特徴のある印象的な実をつけるが、毛むくじゃらのような、こっけいな姿の穂をつける代表は、エノコログサである。
 道端に直立した茎がポツンと生え、風に揺れている姿が印象的である。
 穂がまっすぐなものがエノコログサだが、穂が少し湾曲しているアキノエノコログサや、穂が金色に輝くキンエノコログサを総称して、「エノコログサ」といわれることが多い。
・特徴的な穂が、イヌの子(エノコロ)の尾に似ていることもあり、「狗尾草」と書かれる。
・国が変われば見立てるものも変わる。
 英語では、フォックステール・グラス(foxtail grass)とキツネ(fox)の尾(tail)にたとえられる草(grass)である。
・ネコジャラシという呼び名は、「穂でネコを遊ばせるとじゃれる」という意味だろう。
 「ケムシグサ」という名もあるが、「ケムシ」のような穂の見かけそのままである。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、159頁~160頁)

イヌタデ(タデ科)


・「タデ食う虫も好き好き」といわれる。
 「タデのように辛くおいしくないものでも、好き好んで食べる虫がいる」という意味である。
 しかし、「タデ」という植物はない。
 この言い伝えのタデは、刺身のつまになり、日本料理を彩る素材となる芽タデをさす。

・試みに、刺身についている赤い芽タデを食べると、とても辛い。
 この特有の辛味を持つ芽タデは、イヌタデの仲間で、ヤナギタデの発芽したばかりの芽生えである。
 イヌタデは辛くないので刺身のつまに役立たない。
 そのため「イヌビエ」で紹介したように、「無駄な」、「役に立たない」という意味の語である「イヌ」がつけられているそうだ。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、160頁~161頁)



春の七草


・「せりなずな御形(ごぎょう)はこべら仏の座 すずなすずしろこれぞ七草」という歌がある。
 この歌は、「誰に詠まれたかは、不明」といわれることもあるが、ふつうには、南北朝時代の「四辻の左大臣」、四辻善成(よつじよしなり)のものとされる。
・ここに詠まれた、セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロが春の七草である。
 百人一首に出てくる、平安時代の光孝(こうこう)天皇の「君がため春の野に出(いで)て若菜摘む わが衣手(ころもで)に雪は降りつつ」の歌にある「若菜」は、この春の七草をさしている。

・春、暖かくなれば、多くの植物が発芽する。
 そして、春の七草は、それぞれが春を感じさせる象徴的な草花である。
 この二つのイメージが重なり、春の七草というと、いかにも春に発芽して成長し花を咲かせる植物のような印象がある。
 しかし、春の七草は、春に発芽する植物ではない。
 秋に発芽し、冬に若葉を茂らす植物である。
 真冬の真っ只中のお正月の七日、若葉を摘み取って、七草粥(ななくさがゆ)にして、春の七草を食する。
 ということは、お正月には、七草の若葉がもう育っていなければならない。
 春に発芽していては間に合わない。春の七草が活躍するのは、他の植物が活躍しない冬なのである。春の七草は、冬の寒さに強くて、寒さの中で成長する植物なのである。
(春の七草は、夏に茂る植物たちの緑の陰で、暑さに弱いので枯れていく。春の七草以外にも、春に花咲いているオオイヌノフグリやカラスノエンドウなども、夏に姿を消す。暑さに弱い植物は、意外と多い)
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、25頁~27頁)

セリ(セリ科)


・田の畦や湿地に自生するが、最近は、水田で野菜として栽培される。
 一般的には、秋早くに親株が植えられ、冬の田一面に、きれいな緑の若葉が茂る。
 この若葉の成長が、「競り合う」ように背丈を伸ばす印象から、「競り(せり)」といわれる。
 こうして茂った茎と葉を収穫して、冬の野菜として食される。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、29頁~30頁)

ナズナ(アブラナ科)


・春、白色の小さな花を咲かせる。
 花びらは、4枚が十字形に並んでいる。根元を切ると、ゴボウのような香りがするといわれる。
・ナズナの名は、「撫(な)ぜたいほどかわいい」という気持ちを込めて、「撫菜(なぜな)」と呼ばれ、そこから変化したといわれる。
 また、夏に枯れてなくなるので、「夏無(なつな)」といい、それが変化したともいわれたりする。

・この植物は、昔から日本中に分布しているので、地方ごとの呼び名がある。
 ペンペングサやシャミセングサなどである。
 「平たい逆三角形の果実を三味線のバチにたとえて、ペンペングサやシャミセングサという」説が有力である。
(土地が荒れた様子を「ペンペングサが生える」といい、どこにでも生える草という印象が強い。「ペンペングサが生える」といわれている間はまだいいが、「ペンペングサも生えぬ土地」と表現されると、もうどうしようもないすっかり荒れ果てた土地である)
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、30頁)

ハハコグサ(キク科)


・春の七草の歌では、ゴギョウと詠まれる植物であり、オギョウともいう。
 4~6月に開花し、あざやかな黄色の小さい粒々のような花が密に集まって咲く。
・名前の由来は、いろいろいわれるが、別名の「ほうこぐさ」に基づく説がある。
 茎も葉も白い細かい毛に覆われており、「ほうけた」ように見えるので、「ほうこぐさ」といわれ、これが転じて、「ハハコグサ」になったという。
 しかし、「ほうこぐさ」といわれたのは、江戸時代である。
 それに対し、平安時代前期の文徳(もんとく)天皇の事績を記述した『文徳実録』では、この植物は「母子」と呼ばれたり、「母子草」と記されているという。
 だから、昔から、この名はあったのだろう、と著者はいう。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、30頁~31頁)

ハコベ(ナデシコ科)


・春の七草では、ハコベラといわれるが、ふつう「ハコベ」と呼ばれる。
 葉は、卵形でやわらかく、表面にうぶ毛はなく、つやがある。
 茎には、なぜか、片側だけに毛が生えている。
・小鳥やひよこの餌に利用されるので、「ヒヨコグサ」という名もある。
 英名も、「chick(ひよこ)weed(クサ)」である。
・花は、春に咲くが、日当たりのよい場所では、真冬に咲くこともある。
 白色の花びらは5枚だが、1枚の花びらの中央が基部近くまで深く裂けているので、一見、花びらが10枚のように見える。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、32頁)

コオニタビラコ(キク科)


・春の七草に詠まれるホトケノザは、コオニタビラコのことである。
 葉が田んぼに放射状に平らにはびこるから、「田平子」となった。
 葉はタンポポに似るが、ギザギザの切れ込みが丸みを帯びている。茎や葉を切ると、白い液が出る。
・春に、高さ約10センチメートルの花柄を出し、1本の花茎に2個以上の花が咲く。
 花は頭状花で、黄色の小さな舌状花だけからなる。
 近年、コオニタビラコの分布は、田んぼのある田園に限られており、至るところで見られるのは、「オニタビラコ」である。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、33頁)

スズナ(アブラナ科)とスズシロ(アブラナ科)


〇スズナは、カブ(蕪)のことである。
 カブラ、カブラナ、アオナなどの別名がある。
 栽培品種として、京都名産の「千枚漬け」に使われる「聖護院(しょうごいん)カブラ」や、「すぐき漬け」に使われるスグキナなどがよく知られている。
※与謝蕪村は、住んでいた大坂天王寺がカブの産地であったため、「俳号を蕪村とした」という。
 この話で有名なカブは、「天王寺カブラ」である。

〇スズシロは、ダイコンのことである。
 古来、オオネ(大根)などの別名がある。
・江戸時代から昭和の初期まで全盛をきわめ、「ダイコンの練馬、練馬のダイコン」といわれた練馬ダイコンが栽培品種として有名である。
 あまりに有名なので、「大根役者」といわれるのを嫌う役者は、練馬(現在の東京都練馬区)に住まなかったという。
・根の長さが1メートルを超え、長さ世界一のダイコンといわれる岐阜県の特産、「守口(もりぐち)ダイコン」もよく知られている。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、34頁)



秋の七草


・秋の七草は、奈良時代、山上憶良(やまのうえのおくら)によって詠まれた二つの歌に基づく。
〇一つは、「秋の野に 咲きたる花を指(および)折り かき数ふれば七種(ななくさ)の花」
 (『万葉集』巻八)
〇これに続いて二つ目の歌が、「萩の花尾花(おばな)葛花(くずばな)瞿麦(なでしこ 撫子)の花 女郎花(おみなえし)また藤袴(ふじばかま)朝顔の花」

⇒後者のほうは、短歌の五・七・五・七・七から考えると、えらく字余りと思われるかもしれないが、五・七・七・五・七・七を繰り返す旋頭歌(せどうか)という和歌の一種である。

※ここで詠まれたハギはヤマハギ、オバナはススキ、アサガオはキキョウのことをさしている。
 ハギ(マメ科)、ススキ(イネ科)、クズ(マメ科)、ナデシコ(ナデシコ科)、オミナエシ(オミナエシ科)、フジバカマ(キク科)、キキョウ(キキョウ科)が、秋の七草である。

〇春の七草が食用なのに対して、秋の七草は、眺めて楽しんだり、歌に詠んだりするのに使われる植物である。
 春の七草に比べて、目立つ植物が多い。
 ここでは、秋を代表する雑草であるヤマハギ、ススキ、クズを紹介しておく。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、130頁~131頁)

ハギ(マメ科)


・「ハギ」という名は、ハギの仲間が古い株から芽を出すので、「生え芽(はえぎ)」という語から転じて「ハギ」となったといわれる。
 マメ科の植物であるから、根には根粒菌が住み、空気中の窒素を取りこんでくれるので、痩せた土地でもよく育つ。
 古くから日本各地に自生している植物である。
 『万葉集』では、ウメやサクラより多くの歌に詠まれている。
・しかし、「ハギ」という名前の植物はない。
 紫紅色の美しい花を咲かせるミヤギノハギ、花の白いシラハギ、葉が丸いマルバハギなどの「ハギ」の仲間の植物を総称して「ハギ」という。
 「サクラ」という名前の植物はなく、ソメイヨシノやオオシマザクラなどの「サクラ」の仲間を総称して、「サクラ」というのと同じである。
 といっても、秋の七草の「ハギ」といえば、「ヤマハギ」をさすそうだ。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、131頁~132頁)

ススキ(イネ科)


・ススキは、日本の秋を代表する雑草である。
 春に芽を出し、「スクスク伸びる草」から「ススキ」という名になったといわれるほど、よく育つ。(ただ、この名の由来はほんとうかどうかわからない、という)
 乾燥、強光、高温の「3K」に強いC4植物であるだけに、他の雑草が生えにくいような荒地にも生える。
・秋には、背丈が1、2メートルにも育つ。
 穂をつけ、中秋の名月に月見だんごと並んだ姿は、秋を象徴する絵や写真となる。
 風になびく穂が、けものの尾に見えることから、秋の七草では「尾花」といわれる。
 (穂が枯れたものは、「枯れ尾花」といわれる)
 昔は、ススキを刈って屋根を葺き、かやぶきの屋根にしたので、ススキのことを「カヤ」と呼ぶこともある。

・近年、ススキの姿が身のまわりでめっきり減ってきた。
 古都奈良で、約250年間続いてきた歴史ある伝統行事が存続の危機に立たされている。
 新春の風物詩、若草山(わかくさやま)の山焼きである。
 広大な面積の草地に火が燃え広がり、夜空に山が赤く染まる壮大な一大イベントである。
 主役は、燃え広がるシバと燃えあがるススキである。枯れたシバやススキを焼くことによって、春の草の発芽や、新芽の成長を促す効果も期待されている。
 ところが、近年、ススキが減少しているために、火が勢いよく燃えあがらないという。
 また、成人の日の前日に行われるのだが、温暖化の影響か、正月にススキなどの草が枯れきっていないことも燃え広がらない一因という。

※本来、春日大社、興福寺、東大寺の領地の境界をはっきりさせるために、草木を焼くのが、この行事の起源である。しかし、この行事を続けるためには、焼くためのススキをわざわざ育てなくてはならなくなっている。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、133頁~134頁)

クズ(マメ科)


・クズは、野原の隅、川の土手など草や木がある日当たりのよいところなら、どこにでも生える。
 ツルを伸ばして成長する植物なので、ツルを意味する「カズラ」をつけて、「クズカズラ」ともいわれる。
・葉は、3枚の小葉からなり、1枚の小葉は、手のひらほどに大きい。
 葉の裏は白くてよく目立つのが、特徴の一つである。
 このツルの伸び方はすさまじい。
 「1日に25センチメートル伸びた」とか「1年に850メートルも伸びた」とかいわれる。
 (どのように測定された記録かは気になるが、クズの成長が他の植物に比べてすさまじいことだけは、たしかである、と著者はコメントしている)

<クズの根>
※地上部の春から初夏にかけてのものすごく速い成長は、土の中に隠れた根の栄養のおかげである。
 地上部の茎がそんなに太くないのは、根が成長を支えているから、太くなる必要がないことや、ツル性のため直立する必要がないからだろう。
 茎を太くする栄養を、ツルを伸ばすことに使っている。
 
・クズの根は、サツマイモの食用部である塊根(かいこん)の太さに似ており、直径10~20センチメートルである。長いものでは、全長が3メートルを超える。
 ここには、多くの栄養が蓄えられている。
(ふつうの植物は自分で光合成をして栄養をつくりながら成長するので、急激に成長することはできない。)
これに対して、たとえば、私たちの食べるタケノコは、光合成をする「モウソウチク」と根でつながっており、栄養をもらうので成長が速い。
クズも根から栄養が供給されるので、茎の成長が速いのである。

☆「こんなに葉や茎の成長の目立つ雑草が、秋の趣を大切にする秋の七草になぜ選ばれたのだろうか」と、ふしぎに思う人がいるかもしれない。
 しかし、秋に咲くクズの花を見たら、納得できるだろう。
 クズには、白い花を咲かせる変わり者もいるが、ふつうには秋に、紅紫色の花が房のようになって咲く。
 その上品な趣は、秋の七草にふさわしい気品を漂わせている。
 
<クズの根のデンプン>
〇根にあるデンプンは、私たちの食べ物となっている。
 葛湯(くずゆ)、葛餅、葛まんじゅう、葛切り、肉や魚のあんかけや吸い物に使われる葛粉である。
 薬効にすぐれているので、おなかをこわしたり、風邪を引いたときに、葛湯を飲んだ経験のある人も多いはず。

・しかし、クズがいくら旺盛な成長をするといっても、栽培されているわけではないので、収穫できる葛粉の量には限りがある。
 また、根を掘り出す労力はたいへんなものであり、葛粉の価格はどうしても高くなる。

 さらに、掘り出した根を細かく切って、水につけ、白いデンプンを集めて、それを乾燥させるという手順をへて、やっと葛粉は手に入る。手間がかかる。
(そのため、最近の葛餅、葛まんじゅうなどには、小麦粉とか、ジャガイモのデンプンが使われている)

<クズの名の由来など>
※葛粉の最高級品は、奈良県吉野郡で産する吉野葛である。
 「クズ」という名も、クズの産地、吉野郡国栖(くず)の地名に由来するともいわれる。

<葛根湯>
 根を煎じたものは、葛根湯(かっこんとう)として、風邪による発汗、解熱によく効く漢方薬として使われる。
 葛根湯のエキスは、痛みや炎症を抑える作用も知られている。

・このように、クズは、葛粉の材料となり、漢方薬にも使われる価値の高い植物である。
 だから、手入れが行き届いていない場所に、うっそうと茂る植物を「これがクズだ」と教えられると、驚かれるかもしれない。

<クズの英名>
・クズは、その力強い繁殖力を見込まれて、堤防などの決壊を防ぐための土壌を保全する植物としてアメリカに行った。
 ところが、その力をもてあまして雑草化し、嫌われ者の「帰化植物」となっている。
 アメリカでは、「Kudzu vine」と呼ばれている。
 vineはツルであり、さしずめ「クズカズラ」である。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、134頁~137頁)



三大民間薬


「第三章 夏を賑わす雑草たち」では、三大民間薬について述べている。
【三大民間薬】
①ドクダミ(ドクダミ科)
②センブリ(リンドウ科)
③ゲンノショウコ(フウロソウ科)

①ドクダミ(ドクダミ科)
・「十薬(じゅうやく)」~「十種の薬の効能がある」といわれる
 ⇒葉と茎の乾燥したものを煎じると、利尿、便通、駆虫、高血圧予防

②センブリ(リンドウ科)
・「湯の中で千度振り出してもまだ苦い」というのが名の由来である。
 ⇒その苦い成分が胃腸薬などの原料となっている。

③ゲンノショウコ(フウロソウ科)
・葉や茎の乾燥したものを煎じて飲むと、下痢止めの効果がすぐに現れることから、「現の証拠」の名があるという。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、115頁)


レンゲソウとカラスノエンドウ~根粒菌


田中修『雑草のはなし』(中公新書、2007年[2018年版])においても、レンゲソウ(マメ科)とカラスノエンドウ(マメ科)の根粒菌について解説している。
・根に根粒菌がつくのは、マメ科の植物の特徴である。この植物の根をそうっと引き抜くと、小さなコブのような粒々がいっぱいついている。この粒々の中には、根粒菌が暮らしている。
・根粒菌は、空気を窒素肥料にかえて、この植物(レンゲソウとカラスノエンドウ)に供給し、成長に役立つ。
 だから、カラスノエンドウは、レンゲソウと同じように、この植物の葉や茎を緑のまま土の中にすき込んでしまうと、土を肥やす働きがある。
⇒栽培植物の肥料となるので、「緑肥」と呼ばれる。
 つまり、痩せた土地では、根粒菌に肥料をつくってもらう。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、13頁)

【参考】
 You Tubeでも、「但馬の田舎暮らし どんぐ屋」さんは、「【緑肥】レンゲ草の花が満開になりました【稲作】」(2022年5月10日付)において、この根粒菌について言及している。
 すなわち、根粒菌に空気中の窒素を吸収して、根に蓄える。そのレンゲ草のパワーについて解説している。合鴨農法を行う田んぼにレンゲ草の種まきしたものが、5月初めに満開になった様子を動画にして伝えている。レンゲ草を、有機栽培の救世主としてみている。

タネツケバナ(アブラナ科)


・秋、稲刈りの終わったあとの水田に発芽し、群生して育つ植物であり、スズメノテッポウとともに、稲刈り後の田んぼや湿った道端などに生育するもっとも代表的な雑草である。
 10月頃に発芽し、小さい芽生えが冬を越し、春には、背丈が10~20センチメートルになり、小さな白い花を咲かせる。
 アブラナ科の植物であり、花びらは4枚、オシベは6本である。
・花が咲いたあと、細長い実ができ、中にタネが並んでいる。
 実は何本もでき、莢のような果実の中にタネを数個含んでいる。
(だから、多くのタネをつけるという意味で「タネツケバナ」と著者は思っていたが、そうではないという。田植えの準備に種籾(たねもみ)を水につける頃に花を咲かすので、「タネツケバナ(種漬花)」といわれる。)
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、47頁)

メヒシバ(イネ科)とオヒシバ(イネ科)


・メヒシバは、「畑の雑草の女王」と呼ばれることもある。
 しかし、畑に限らず都会の道端や空き地など、どこにでも生きる雑草である。
 弥生時代の遺跡からタネが出土したこともあり、日本には大昔から生息していたと考えらえる。
 それを裏づけるように、日本各地に独特の呼び名がある。
 「メシバ」「スモウトリグサ」などである。
(ただし、人や地方によって「スモウトリグサ」は、スミレであったり、オオバコであったり、メヒシバ、オヒシバであったりするようだ)
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、155頁~156頁)

ドクムギ(イネ科)


・ドクムギは、川の土手などに生えるイネ科の植物である。
 「イネ科の植物は、実ができるまで名前はわからない」といわれる。
 その通り、葉が茂っていてもよほどの専門化でないと、この植物を識別できないそうだ。
 実ができれば、その形は、ムギの仲間に似ている。実がムギに似ているから、名に「ムギ」がつくのだが、毒はこの植物自身がつくるものではない。だから、こんな名前がつくのはかわいそうである。その毒は、この草についたカビの毒であるという。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、167頁)

三大花粉症


「カモガヤ(イネ科)」の項目では、三大花粉症について述べている。

【カモガヤ(イネ科)】


・もともとは、「オーチャードグラス」という名で栽培される牧草である。
 英名は、「おんどりの足(cocks-foot)」である。
 このおんどり(cock)がカモ(duck)とまちがえられて、日本では、「カモガヤ」になったという。
 だから、ほんとうは、「オンドリガヤ」かもしれない、と田中修氏は記している。

・「カヤ(ガヤ)」は、かやぶきの屋根を葺(ふ)くのに用いる草に使う言葉である。
 だから、昔、この草を刈って、かやぶきの屋根にしたのであろうか。あるいは、かやぶきに使われると思われたのかもしれないという。

・牧草としては、北海道や東北の一部、九州の標高の高い冷涼地などで栽培されている。
 栽培地を飛びだすと、川の土手や野原、空き地や道端で野生化する。タネでも増えるし、株の状態でも広がる。
・初夏にできたタネは、春に発芽するが、秋にも発芽するものもあるらしい。
 冬を越した株からも春には、芽生えが成長する。
 ふつうには、草丈は50センチメートルくらいになるが、大きく育つと、1メートルを超えることもある。
(私も、そば畑で、2022年の春に見たことがある。)

【花粉症の発見】


・カモガヤは、初夏に穂のように多くの花を咲かせる。
 だから、群落のようになって育つ場所では、多くの花粉が飛ぶ。これらの花粉は、花粉症の原因となる。

・世界で最初の花粉症の症状は、1819年、イギリスで報告された。
 農民が、牧草を刈り取って少し乾かしたあと、その乾(ほ)し草(枯れ草)に触れると、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみの症状が現れ、発熱を伴うことがあった。
 この症状は、「ヘイ・フィーバー(乾草熱、あるいは、枯草(こそう)熱)と名づけられた。
(「ヘイ(hay)」は乾し草、あるいは、枯れ草を意味し、「フィーバー(fever)」は熱である)

・この枯草熱の原因が研究され、カモガヤを中心とするイネ科牧草の花粉が花粉症の原因となることがわかった。
 今日でも、ヨーロッパでは、この植物を含めたイネ科牧草による花粉症が中心であり、花粉症は、英語で「ヘイ・フィーバー」であるという。

・日本では、現在多くの人々を苦しめているスギ花粉症は、1960年代に入って、栃木県ではじめて見いだされ、その後急速に全国に拡大していった。
 牧草カモガヤが元凶となるイネ花粉症も知られており、近年、花粉をつくらないカモガヤが開発されているそうだ。また、ヨモギやブタクサが原因となるキク科花粉症も広がりを見せている。

・スギ花粉症、イネ科花粉症、キク科花粉症が、「三大花粉症」である。
 世界的には、これらの三大花粉症が地理的に三つに分かれているという。
 つまり、ヨーロッパのイネ科花粉症、アメリカのブタクサ花粉症、日本のスギ花粉症である。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、78頁~79頁)

【ヨモギ(キク科)とブタクサ(キク科)】


【ヨモギ(キク科)】
・春に摘むヨモギの葉は、若くて初々しい春の香りを漂わせる。この葉は、ヨモギ餅(草餅)の材料である。
 (特徴的な香りは、シネオールと呼ばれる成分などによるものらしい。この香りのおかげで、葉っぱはよく知られている)
・しかし、ヨモギの花はあまり知られていない。
 花は秋に咲く。背丈は1メートル近くに成長して、たくましい。
・ヨモギが飛ばす花粉が、ブタクサの花粉とともに、9月初旬からの秋の花粉症の元凶である。
 日本のスギ花粉症、ヨーロッパのイネ科牧草による花粉症とともに、世界三大花粉症の一つであるという。
・ヨモギの名前は、「よく燃える」という意味の「善燃木」に由来する。
 葉の裏側が白っぽく見える。これは、細かい毛が密に生えているからである。葉を乾燥させ、この毛だけを集めたものが、お灸に使うモグサである。

【ブタクサ(キク科)】


・道端、空き地など、どこにでも生える植物である。背の高さは、成長のよい場合、1メートルにもなり、群落をつくりながら繁殖する。
(葉の形は、ヨモギの葉に似ているが、葉の切れ込みは、ヨモギの葉より細やかである。
 また、ヨモギの葉が節ごとに1枚ずつ違う方向に生えるのに対して、ブタクサの茎の下方の葉は、一つの節に2枚が向かい合うように生えている)
 夏から秋に、小さな頭状花を長い穂のように咲かせる。
 長い穂状に目立つのは、雄花である。この花にできる花粉は、風に吹き飛ばされ、ヨモギなどの花粉とともに、秋の花粉症の主役となる。
・日本に来たのは明治時代だが、第二次世界大戦後に急速に分布を拡大した。
 そのため、戦後、連合国最高司令官として日本に来たマッカーサーの「置き土産」といわれることもあるそうだ。
 名前の由来は、英名の「ブタの草(hogweed)」に由来する。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、142頁~143頁)



【コラム】秋に出る「来春の花粉飛散情報」に、根拠はあるか


「【コラム】秋に出る「来春の花粉飛散情報」に、根拠はあるか」においては、花粉飛散情報について解説している。

・毎年、秋に「来年の春は、スギ花粉が少ない」とか、「来春、スギ花粉の飛散量が多い」などの予報が出る。秋に出る来春の花粉飛散予想に、根拠はあるのだろうか。
 スギの木が花粉をつくるためには、多くのエネルギーがいる。
 だから、毎年、花粉が多く飛ぶわけではない。多く飛ばない年が続くと、勢いをためた木が大量の花粉をつくると予想できる。だから、春に飛ぶ花粉の量は、過去の飛散状況から、ある程度、推測できる。
・また、スギの花粉をつくる雄花のツボミは、夏にできる。
 夏から秋までの温度が高いほど多くのツボミができることがわかっている。
 だから、夏から秋までの温度を過去と比較すると、つくられる雄花の数は、ある程度、予想できる。それをもとに、飛ぶ花粉量も推測できる。

※しかし、多くの国民を苦しめる花粉の飛散予想がこんないい加減な推測に基づいて、秋に出されるわけではない。秋の予想には、きちんとした根拠が二つあるそうだ。
①一つ目は、何本かのスギの木を選んで、夏につくられる雄花の数を、実際に調べる。
②二つ目は、秋にそれらのツボミの成長を、実際に調べる。
もし、秋にそれらのツボミが成長していなければ、春に多くの花が咲かず飛ぶ花粉量は少ない。
 逆に、たくさんの雄花が成長していると、春に、多くの花粉が飛ぶことが予想される。
 秋から、雄花は成長をやめる。
 だから、調査は秋までで、予報が出される。
 予報が当たったかどうかは、春に飛ぶ量でわかるが、実際に、ツボミの数や成長の度合いを調べているのだから、多くの場合、当たっているそうだ。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、143頁)



「ひっつき虫」が生んだ、ふしぎな商品


「第五章 秋の実りと冬の寒さの中で」の「「ひっつき虫」が生んだ、ふしぎな商品」(148頁~150頁)には、興味深いことが述べられている。

〇オナモミ(キク科)
・オナモミは、数十年前、野原や空き地、川の土手などにいっぱい生えていた。
 オナモミは、大きな葉っぱが目立つ、大型の植物である。
 秋に実る実は、マメ粒よりひとまわり大きい虫のような格好である。
 この実には、多くのトゲがある。衣服などに投げつけると、よくくっつく。
 だから、その実は「ひっつき虫」と呼ばれた。
(私たちの衣服や動物のからだにくっついて移動するタネの代表である)

・さて、「ひっつき虫」が生んだ、ふしぎな商品がある。
 衣料品や靴、バッグ、ベルト、シートの装着などに使われる、ザラザラの布のようなものがある。
 二つの面を軽く貼り合わせるだけで、ピタッとくっつく。かなり強く引っ張らないと、はがれない。ひっつけたり離したり、何度でもできる。

☆しかし、一見しただけでは、ひっつくしくみがわからない。
 「なぜ、強くひっつくのだろうか」というふしぎである。
 だから、名前は、「マジックファスナー」とか「マジックテープ」とかいわれる。

〇1978年3月22日、「マジックテープ」を商標登録し、日本ではじめて、生産、販売したのは、(株)クラレである。
 系列会社クラレファスニング(株)のホームページによると、
 「このマジックのタネは、1948年、植物たちのタネをヒントに生まれた」という。
 スイスのジョルジュ・デ・メストラルが、犬とともに野に出たとき、自分の服や愛犬の毛に、取り払えないほど、しつこくひっついている実に気づいた。野生ゴボウの実であった。

 「なぜ、この実は、これほど頑固にひっつくのか」とふしぎに思い、彼はその実の形態を顕微鏡で観察した。
 その結果、この実にはたくさんのトゲがあり、その先端が釣り針のようにかぎ状に曲がっていることに気づいた。
 人間の衣服や動物の毛に接触すると、トゲの先が釣り針のように引っかかる。そのために、いったん引っかかるとはがれにくい。
 この発見をきっかけに、その構造を真似て、貼り合わせるだけで、強くひっつくマジックファスナーやマジックテープが生まれたそうだ。

〇この発見は、野生ゴボウの実の観察がきっかけであった。
 しかし、日本では、野生ゴボウの実はあまり知られていないことや、「ひっつき虫」になるオナモミの実が同じ構造をしていることがわかった。
 そのため、日本では、「マジックファスナーは、オナモミの実がひっつくことがヒントになって生まれた」といわれるようになったらしい。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、148頁~150頁)

夜の長さを正確にはかる葉っぱ


「第五章 秋の実りと冬の寒さの中で」の「夜の長さを正確にはかる葉っぱ」(150頁~152頁)
入力せよ

(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、150頁~152頁)


寒さを受けて、春化する


「第五章 秋の実りと冬の寒さの中で」の「寒さを受けて、春化する」(168頁~170頁)

・ドクムギは、秋に発芽して、冬の寒さをムギと同じようにロゼット状態で過ごす。
 冬は寒くて、そんなに成長しないのだから、無理に秋に発芽せずに、春に発芽すればいいのにと思われるかもしれない。
 しかし、この草の場合、ロゼットの葉は、冬の寒さをしのいでいるだけではないそうだ。
 冬の寒さを感じて、成長してから花を咲かせる準備をしているのである。
 「どうしてそんなことがわかるのか」と思われるかもしれない。
 「もしも冬の寒さに出会わなければ、どうなるか」という疑問を持ってほしいという。
 この植物を冬の寒さにあわせないように、冬も暖かい条件で育てればよい。あるいは、春になってから、タネをまけばよい。

☆実際に、次のような実験をした結果がある。
 春になって、暖かいところで発芽させるのだから、ドクムギのタネは発芽する。
 発芽すれば、暖かい春なのだから、どんどん成長する。秋にタネがまかれて発芽し、冬の寒さを受けて育ってきたドクムギと、そんなに違いはないぐらいに成長する。
(「やっぱり無理に秋に発芽せずに、春に発芽すればいいのに」と思われるかもしれない)
 
※しかし、やがて、花を咲かせる初夏になって、ふしぎなことがおこるらしい。
 この植物が花を咲かせる季節、初夏になると、冬の寒さを感じて育ってきたドクムギは、ツボミをつけて花を咲かせる。
 ところが、春に暖かくなってタネをまき、冬の寒さを感じさせずに育てたドクムギは、ツボミをつけない。
 ⇒冬の寒さを感じなかった植物は、いつまで経っても花を咲かせることがないのである。

〇この植物は成長したあと、花を咲かせるために冬の寒さを感じることが必要である。
 「幼いときに冬の寒さに出会ったという体験を、成長して花を咲かせるときまで覚えている」という言い方ができる、と著者はいう。
 つまり、植物には、幼いときの出来事を記憶する能力がある。

※春にタネをまいて、初夏に、秋にまいた場合と同様に、花を咲かせることもできる。
 そのためには、春にタネをまく前に、少し芽を出したタネに冷蔵庫などで一定期間の低温を与えておく。この一定期間の低温を与えることを、春化処理(バーナリゼーション)と呼ぶ。

〇自然の中では、多くの植物が、冬を越すときに、春化処理を受けている。
・コムギ、オオムギ、ライムギ、ダイコンなどは、秋に発芽し、若い芽生えが冬を越して春化処理を受け、翌年の晩春または初夏に結実する。
・また、タマネギ、キャベツなどは、春に発芽し、成長した茎や葉が冬を越して春化処理を受け、翌年に開花結実する。
・スミレ、サクラソウ、ナデシコなどの春咲きの多年生植物は、花咲く前の冬、自然の中で、春化処理を受けている。

☆もしこれらの植物に寒さを感じさせないと、どうなるのだろうか。
 テンサイ(甜菜)とも呼ばれるサトウダイコンで、41カ月間、実験された記録があるそうだ。
 この植物の地上部はロゼット状態で、根は太さ10センチメートルくらい、長さは30センチメートルくらいである。
 これが、冬の寒さで、“春化”されると、春に茎が2メートルくらいに伸びて花をつける。

※ところが、寒さを感じさせなければ、“春化”されないので、いつまでも花が咲かない。
 地上部の茎は伸びず、根が成長を続けて、太さが人間の胴より太く、長さが2メートル以上になった。
 春化処理を必要とする植物が“春化”されないなければ、花咲くことなく、成長を続けるのである。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、168頁~170頁)