歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪古代ギリシア・ローマ~高校世界史より≫

2023-05-31 19:24:04 | ある高校生の君へ~勉強法のアドバイス
≪古代ギリシア・ローマ~高校世界史より≫
(2023年5月31日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでは、高校世界史において、古代ギリシア・ローマを、どのように記述されているかについて、考えてみたい。
 参考とした世界史の教科書は、次のものである。

〇福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』東京書籍、2016年[2020年版]
〇木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』山川出版社、2016年[2020年版]

 また、前者の高校世界史教科書に準じた英文についても、見ておきたい。
〇本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』講談社、2017年[2018年版]

 補足として、古代ギリシアの哲学者アリストテレスの生涯について、解説しておく。
〇荻野弘之『哲学の饗宴』日本放送出版協会、2003年




【本村凌二ほか『英語で読む高校世界史』(講談社)はこちらから】
本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』講談社






〇本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』講談社、2017年[2018年版]
【目次】

本村凌二『英語で読む高校世界史』
Contents
Introduction to World History
1 Natural Environments: the Stage for World History
2 Position of Japan in East Asia
3 Disease and Epidemic
Part 1 Various Regional Worlds
Prologue
The Humans before Civilization
1 Appearance of the Human Race
2 Formation of Regional Culture
Chapter 1
The Ancient Near East (Orient) and the Eastern Mediterranean World
1 Formation of the Oriental World
2 Deployment of the Oriental World
3 Greek World
4 Hellenistic World
Chapter 2
The Mediterranean World and the West Asia
1 From the City State to the Global Empire
2 Prosperity of the Roman Empire
3 Society of the Late Antiquity and Breaking up
of the Mediterranean World
4 The Mediterranean World and West Asia
World in the 2nd century
Chapter 3
The South Asian World
1 Expansion of the North Indian World
2 Establishment of the Hindu World
Chapter 4
The East Asian World
1 Civilization Growth in East Asia
2 Birth of Chinese Empire
3 World Empire in the East
Chapter 5
Inland Eurasian World
1 Rises and Falls of Horse-riding Nomadic Nations
2 Assimilation of the Steppes into Turkey and Islam
Chapter 6
1 Formation of the Sea Road and Southeast Asia
2 Reorganizaion of Southeast Asian Countries
Chapter 7
The Ancient American World

Part 2 Interconnecting Regional Worlds
Chapter 8
Formation of the Islamic World
1 Establishment of the Islamic World
2 Development of the Islamic World
3 Islamic Civilization
World in the 8th century
Chapter 9
Establishment of European Society
1 The Eastern European World
2 The Middle Ages of the Western Europe
3 Feudal Society and Cities
4 The Catholic Church and the Crusades
5 Culture of Medieval Europe
6 The Middle Ages in Crisis
7 The Renaissance
Chapter 10
Transformation of East Asia and the Mongol Empire
1 East Asia after the Collapse of the Tang Dynasty
2 New Developments during the Song Era ―Advent of Urban Age
3 The Mongolian Empire Ruling over the Eurasian Continent
4 Establishment of the Yuan Dynasty

Part 3 Unification of the World
Chapter 11
Development of the Maritime World
1 Formation of the Three Maritime Worlds
2 Expansion of the Maritime World
3 Connection of Sea and Land; Development of Southeast Asia World
Chapter 12
Prosperity of Empires in the Eurasian Continent
1 Prosperity of Iran and Central Asia
2 The Ottoman Empire; A Strong Power Surrounding
the East Mediterranean
3 The Mughal Empire; Big Power in India
4 The Ming Dynasty and the East Asian World
5 Qing and the World of East Asia
Chapter 13
The Age of Commerce
1 Emergence of Maritime Empire
2 World in the Age of Commerce
World in the 17th century
Chapter 14
Modern Europe
1 Formation of Sovereign States and Religious Reformation
2 Prosperity of the Dutch Republic
and the Up-and-Coming England and France
3 Europe in the 18th Century and the Enlightened Absolute Monarchy
4 Society and Culture in the Early Modern Europe
Chapter 15
Industrialization in the West and the Formation of Nation States
1 Intensified Struggle for Economic Supremacy
2 Industrialization and Social Problems
3 Independence of the United States and Latin American Countries
4 French Revolution and the Vienna System
5 Dream of Social Change; Waves of New Revolutions

Part 4 Unifying and Transforming the World
Chapter 16
Development of Industrial Capitalism and Imperialism
1 Reorganization of the Order in the Western World
2 Economic Development of Europe
and the United States and Changes in Society and Culture
3 Imperialism and World Order
World in the latter half of 19th century
Chapter 17
Reformation in Various Regions in Asia
1 Reform Movements in West Asia
2 Colonization of South Asia and Southeast Asia,
and the Dawn of National Movements
3 Instability of the Qing Dynasty and Alteration of East Asia
Chapter 18
The Age of the World Wars
1 World War I
2 The Versailles System and Reorganization of International Order
3 Europe and the United States after the War
4 Movement of Nation Building in Asia and Africa
5 The Great Depression and Intensifying International Conflicts
6 World War II

Part 5 Establishment of the Global World
Chapter 19
Nation-State System and the Cold War
1 Hegemony of the United States and the Development of the Cold War
2 Independence of the Asian-African Countries and the "Third World"
3 Disturbance of the Postwar Regime
4 Multi-polarization of the World and the Collapse of the U.S.S.R.
Final Chapter
Globalization of Economy and New Regional Order
1 Globalization of Economy and Regional Integration
2 Questions about Globalization and New World Order
3 Life in the 21st Century; Time of Global Issues
The Rises and Falls of Main Nations
Index(English)
Index(Japanese)




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・古代ギリシア・ローマの記述~『世界史B』(東京書籍)より
・古代ギリシア・ローマの記述~『詳説世界史』(山川出版社)より
・英文の記述~本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』(講談社)より
・【補足】アリストテレスの生涯~荻野弘之『哲学の饗宴』より









古代ギリシア・ローマの記述~『世界史B』(東京書籍)より


〇福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』(東京書籍、2016年[2020年版])では、古代ギリシア・ローマの記述は次のようにある。

第1編 さまざまな地域世界
第1章 オリエント世界と東地中海世界
3 ギリシア世界
【ギリシアの古典文明】
ギリシア人はオリエントの先進文明を受けいれつつ、人間中心の考え方にもとづいて合理的な精神をつちかいながら、独自の文明を生みだした。
 ギリシア人の心にはオリンポス12神を中心とする神話の世界が生きていた。人間の姿をした神々はそれぞれが豊かな個性をもち、喜怒哀楽をあらわに人間に働きかけると考えられた。特定の経典はなかったが、現世を肯定する神話の物語は芸術のさまざまな分野に大きな影響を与えた。
 前8世紀のホメロス(Homeros、前8世紀ごろ)をまとめた叙事詩『イーリアス』と『オデュッセイア』には、トロヤ戦争の英雄たちとともに神々が登場する。前700年ごろには、ヘシオドス(Hesiodos、前700ごろ)が神々の系譜をまとめた『神統記』と農耕生活の教訓詩『労働と日々』を著した。前7世紀ごろから個人の心情をうたう叙情詩もつくられ、女流詩人サッフォー(Sappho、前612ごろ~?)やオリンピア讃歌のピンダロス(Pindaros、前518~前438)などがあらわれた。前5世紀のアテネでは、人間の運命などをテーマにした三大悲劇詩人のアイスキュロス(Aischylos、前525~前456)、ソフォクレス(Sophokles、前496ごろ~前406)、エウリピデス(Euripides、前485ごろ~前406ごろ)、現実の社会を風刺した喜劇作家のアリストファネス(Aristophanes、前450ごろ~前385ごろ)らの作品が祝祭日に上演された。
 神々はまた人体美を理想化した彫像としても刻まれ、フェイディアス(Pheidias、前490ごろ~前430ごろ)やプラクシテレス(Praxiteles、前4世紀)らが活躍した。建築でも、神殿が重視され、パルテノン神殿に代表される重厚なドーリア式、優美なイオニア式、繊細なコリント式などの様式で建てられた。
 オリエントの先進文明に接するイオニアのギリシア人の間では、いち早く前6世紀に、世界を合理的な思考によって理解しようとする自然哲学が生まれた。万物の根源を水であるとしたタレス(Thales、前624ごろ~前546ごろ)、万物流転を唱えたヘラクレイトス(Herakleitos、前544ごろ~?)をへて、デモクリトス(Demokritos、前460ごろ~前370ごろ)は万物の根源を原子(アトム)と考えるにいたった。このような自然哲学の潮流から自然科学の思考がめばえている。万物の根源を数とみなしたピタゴラス(Pythagoras、前582ごろ~前497ごろ)は数学の基礎をきずき、病因を究明したヒッポクラテス(Hippokrates、前460ごろ~前375ごろ)は「医学の父」といわれた。弁論術の教導を職業とするソフィスト(Sophist)のなかからプロタゴラス(Protagoras、前485ごろ~前415ごろ)があらわれ、「人間は万物の尺度である」とする相対主義を唱えた。これに反対したソクラテス(Sokrates、前469~前399)は、真理の絶対性と知徳の合一を主張した。弟子のプラトン(Platon、前427~前347)は、イデア論にもとづく理想主義哲学を説き、哲人の指導する理想国家論を唱えた。その弟子アリストテレス(Aristoteles、前384~前322)は、哲学、論理学、政治学、自然哲学などの諸学を集大成し、のちのイスラーム世界の学問や中世ヨーロッパのスコラ学に大きな影響を及ぼしている。
 ギリシア人は、年代記風ではない自由な歴史叙述を行った最初の民族であった。ヘロドトス(Herodotos、前484ごろ~前425ごろ)は、ペルシア戦争の歴史を興味深い物語風に描き、トゥキディデス(Thukydides、前460ごろ~前400ごろ)は、ペロポネソス戦争の歴史を、その因果関係を批判的に考察して教訓的に記述した。

(福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』東京書籍、2016年[2020年版]、42頁~43頁)


第1編 さまざまな地域世界
第1章 オリエント世界と東地中海世界
4ヘレニズム世界
【ヘレニズム文明】
 ヘレニズム時代には、ギリシア文明とオリエント文明が融合してヘレニズム文明が生まれた。ギリシア語は共通語(コイネー、Koine)となり、オリエントとギリシアの諸科学がギリシア語で集大成されて発達した。とくに自然科学では、地球の自転と公転を指摘したアリスタルコス(Aristarchos、前310ごろ~前230ごろ)、「ユークリッド幾何学」を大成したエウクレイデス(Eukleides、前300ごろ)、浮体の原理で知られるアルキメデス(Archimedes、前287ごろ~前212)、地球の周囲の長さを計測したエラトステネス(Eratosthenes、前275ごろ~前194)など、すぐれた科学者が輩出した。エジプトのアレクサンドリアには大図書館をそなえたムセイオン(Museion、研究所)がつくられ、学問の中心となった。
 この時代には、ポリスや民族といった旧来の枠をこえて人々が活動したので、世界市民主義(cosmopolitanism、コスモポリタニズム)や個人主義の風潮がめばえた。ゼノン(Zenon、前335ごろ~前263)を祖とするストア派(Stoa)は禁欲を説き、エピクロス(Epikuros、前342ごろ~前271)を祖とするエピクロス派は精神的快楽を唱えたが、いずれも個人の平穏な生き方と心の平静さを求める新しい哲学であった。「ミロのヴィーナス」や「ラオコーン」に代表されるヘレニズム美術は感情や運動の表現にすぐれた躍動的なものであり、ローマやガンダーラの美術に大きな影響を及ぼした。歴史叙述においては、政体循環史観の立場からローマの興隆史を書いたポリビオス(Polybios、前201ごろ~前120ごろ)があげられる。

【ミロのヴィーナス】
・1820年にメロス(ミロ)島で出土した美の女神アフロディテ(ヴィーナス)像。高さ204cm。
【ラオコーン】
・トロヤ戦争の物語に題材をとったヘレニズム彫刻の代表作。躍動的な表現がすぐれている。ローマ出土。高さ184cm。
(福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』東京書籍、2016年[2020年版]、45頁)

ローマ文明について
第2章 地中海世界と西アジア 2 ローマ帝国の繁栄
【ローマの文明】
 ギリシア人は原理や理論を重んじ、思想や芸術にすぐれていたが、ローマ人は実践や実用にすぐれ、法律や土木建築において独創性を発揮した。ローマ人は自由人と奴隷とを区別したが、自由人の間では、ローマ市民権をもつ者ともたざる者の区別があった。ローマ法は、当初はローマ市民権者を対象とする市民法であったが、ローマ市民権にあずからない属州民が増加するにつれて、ヘレニズム思想や各地の慣習法をとりいれて万民法としての性格を強めた。これらの法令や学説は、やがて6世紀のユスティニアヌス帝の命令で『ローマ法大全』にまとめられ、ヨーロッパを近代法にまで影響を与えた。
 ヘレニズム思想はローマ人にもひろく影響を及ぼし、文人政治家キケロ(Cicero, 前106~前43)は『国家論』など膨大な著作を残した。やがてストア派などの実践哲学が衆目を集め、セネカ(Seneca, 前4ごろ~後65)、エピクテトス(Epictetus, 55ごろ~135ごろ)、マルクス=アウレリウス=アントニヌス帝(Marcus Aurelius Antoninus, 在位161~180)などが出た。
 文芸においては、紀元前後のころがラテン文学の黄金時代といわれ、建国叙事詩『アエネイス』を著したウェルギリウス(Vergilius, 前70~前19)、叙情詩人ホラティウス(Horatius,
前65~前8)、恋愛や神話を題材とした詩人オウィディウス(Ovidius, 前43~後17ごろ)などがあらわれた。歴史家では、リウィウス(Livius, 前59~後17)が『ローマ史』を記し、タキトゥス(Tacitus, 55ごろ~120ごろ)は『ゲルマニア』や『年代記』を著した。また、古代の百科全書ともいうべき『博物誌』がプリニウス(Plinius, 23~79)によって書かれている。
 ラテン語は、ローマ字とともに帝国の西半に普及し、後世にいたるまで西ヨーロッパの学問や教会で使われる言語として重視された。帝国の東半ではギリシア語が優勢であり、『対比列伝』を書いたプルタルコス(Plutarchos, 46ごろ~120ごろ)、『地理誌』のストラボン(Strabon,
前64~後21)、『天文学大全』で天動説の体系を説いたプトレマイオス(Ptolemaios, 2世紀)らが出た。
 アーチ構造を用いたローマ人の石積み建築法は、きわめてすぐれたもので、高度な土木建築技術によって、快適な施設をそなえた都市が帝国の各地につくられた。都市の中心には広場があり、市街地には、公衆浴場、円形闘技場(コロッセウム)、万神殿(パンテオン)、劇場などの公共施設や、上水道施設が配置された。
(福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』東京書籍、2016年[2020年版]、52頁~53頁)


古代ギリシア・ローマの記述~『詳説世界史』(山川出版社)より


〇木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』(山川出版社、2016年[2020年版])では、古代ギリシア・ローマの記述は次のようにある。


「第1章 オリエントと地中海世界」
【ギリシアの生活と文化】
 ギリシア人は明るく合理的で人間中心的な文化をうみだし、その独創的な文化遺産はのちのヨーロッパ近代文明の模範となった。ギリシア文化の母体は、市民が対等に議論することができるポリスの精神風土にあった。市民たちは、余暇をアゴラや民会での議論や体育場での訓練などにもちい、公私ともにあらゆる方面にバランスよく能力を発揮することを理想とした。
 ギリシア人の宗教は多神教で、オリンポス(Olympos)12神らの神々は、人間と同じ姿や感情をもつとされた。ギリシアの文学は、そうした神々と人間との関わりをうたったホメロス(Homeros, 前8世紀)やヘシオドス(Hesiodos, 前700頃)の叙事詩から始まった。しかしその一方で論理と議論を重視するギリシア人の気風は、自然現象を神話でなく合理的根拠で説明する科学的態度にあらわれ、前6世紀にはイオニア地方のミレトスを中心にイオニア自然哲学が発達した。万物の根源を水と考えたタレス(Thales, 前624頃~前546頃)や、「ピタゴラスの定理」を発見したピタゴラス(Pythagoras, 前6世紀)が有名である。その後、前5世紀以降文化の中心地となったのは、言論の自由を保障した民主政アテネである。民主政の重要な行事である祭典では悲劇や喜劇のコンテストがもよおされ、これを鑑賞することはアテネ市民の義務でもあった。「三大悲劇詩人」と呼ばれたアイスキュロス(Aischylos, 前525~前456)・ソフォクレス(Sophokles, 前496頃~前406)・エウリピデス(Euripides, 前485頃~前406頃)や、政治や社会問題を題材に取りあげた喜劇作家アリストファネス(Aristophanes, 前450頃~前385頃)が代表的な劇作家である。
 民会や民衆裁判所での弁論が市民生活にとって重要になってくると、ものごとが真理かどうかにかかわらず相手をいかに説得するかを教えるソフィスト(sophist)と呼ばれる職業教師があらわれた。「万物の尺度は人間」と主張したプロタゴラス(Protagoras, 前480頃~前410頃)がその典型である。これに対しソクラテス(Sokrates, 前469頃~前399)は真理の絶対性を説き、よきポリス市民としての生き方を追究したが、民主政には批判的で、市民の誤解と反感をうけて処刑された。彼が始めた哲学を受け継いだプラトン(Platon, 前429頃~前347)は、事象の背後にあるイデア(Idea)こそ永遠不変の実在であるとし、また選ばれた少数の有徳者のみが政治を担当すべきだという理想国家論を説いた。彼の弟子アリストテレス(Aristoteles, 前384~前322)は、経験と観察を重んじ、自然・人文・社会のあらゆる方面に思索をおよぼした。「万学の祖」と呼ばれる彼の学問体系は、のちイスラームの学問やヨーロッパ中世のスコラ哲学に大きな影響を与えた。またヘロドトス(Herodotos, 前484頃~前425頃)やトゥキディデス(Thukydides, 前460頃~前400頃)は、ともに歴史記述の祖と呼ばれ、過去のできごとを神話によってではなく、史料の批判的な探究によって説明した。
 調和と均整の美しさが追求されたのは、建築・美術の領域であった。建築はおもに柱の様式により、ドーリア式・イオニア式・コリント式などに分類される。ペリクレスの企画のもと15年をかけて完成したアテネのパルテノン神殿は、ギリシア建築の均整美と輝きを今に伝えるドーリア式の神殿である。彫刻家フェイディアス(Pheidias, 前5世紀)に代表される彫刻美術は、理想的な人間の肉体美を表現したものであった。

<ギリシアの劇場>
ペロポネソス半島のエピダウロスにある前4世紀建造の大劇場跡。
客席最上階にも舞台からの声がとどくよう音響効果が計算した設計になっている。収容人員1万4000人。

<パルテノン神殿>
アテネのアクロポリスの丘の上に輝く代表的なギリシア建築。
前5世紀後半の建造で、アテネ民主政の最盛期を象徴する。かつては青・赤・黄色などで鮮やかに彩色がほどこされていた。

<ギリシア建築の柱の3様式>
荘厳で力強いドーリア式、優美なイオニア式、華麗なコリント式の柱頭。


ヘレニズム時代にはいるとギリシア文化は東方にも波及し、各地域の文化からも影響をうけて独自の文化がうまれた。これをヘレニズム文化という。この時代にはポリス中心の考え方にかわって、ポリスの枠にとらわれない生き方を理想とする世界市民主義(コスモポリタニズム, cosmopolitanism)の思想が知識人のあいだにうまれた。そこから哲学もポリス政治からの逃避と個人の内面的幸福の追求を説くようになり、精神的快楽を求めるエピクロス(Epikuros, 前342頃~前271頃)のエピクロス派や、禁欲を重視するゼノン(Zenon, 前335~前263)のストア派が盛んになった。
ヘレニズム時代にはとくに自然科学が発達した。エウクレイデス(Eukleides, 前300頃)は今日「ユークリッド幾何学」と呼ばれる平面幾何学を集大成し、また「アルキメデスの原理」で知られるアルキメデス(Archimedes, 前287頃~前212)は、数学・物理学の諸原理を発見した。またコイネー(koine)と呼ばれるギリシア語が共通語となり、エジプトのアレクサンドリアには王立研究所(ムセイオン, Museion)がつくられて自然科学や人文科学が研究された。ギリシア美術の様式は西アジア一帯に広がり、インド・中国・日本にまで影響を与えた。

<「ミロのヴィーナス」>
エーゲ海のミロス(ミロ)島から出土した、美と愛の女神アフロディテ(英語でヴィーナス)像。女性の理想美を表現したヘレニズム彫刻の代表的作品。高さ214cm。

(木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』山川出版社、2016年[2020年版]、36頁~40頁)


ギリシア文化一覧表(※はヘレニズム文化)  
【文学】  
ホメロス 『イリアス』『オデュッセイア』
ヘシオドス 『神統記』『労働と日々』
アナクレオン 叙情詩人
ピンダロス 叙情詩人
サッフォー 女性叙情詩人
アイスキュロス 悲劇『アガメムノン』
ソフォクレス 悲劇『オイディプス王』
エウリピデス 悲劇『メデイア』
アリストファネス 喜劇『女の平和』『女の議会』
   
【哲学・自然科学】  
タレス イオニア学派の祖
ピタゴラス 「ピタゴラスの定理」を発見
ヘラクレイトス 「万物は流転する」と説く
デモクリトス 原子論
ヒッポクラテス 西洋医学の祖
プロタゴラス ソフィスト。普遍的真理を否定
ソクラテス 西洋哲学の祖。知徳合一を説く
プラトン イデア論を説く。『国家』
アリストテレス 万学の祖。『政治学』
※エピクロス 精神的快楽主義。エピクロス派の祖。
※ゼノン 精神的禁欲主義。ストア派の祖。
※エラトステネス 地球の円周を計測
※アリスタルコス 太陽中心説
※エウクレイデス 「ユークリッド幾何学」の創始者
※アルキメデス 「アルキメデスの原理」を発見
   
【彫刻美術】  
フェイディアス パルテノン神殿のアテナ女神像
プラクシテレス ヘルメス神像
※「ミロのヴィーナス」 ヘレニズム彫刻。作者不詳
※「ラオコーン」 ヘレニズム彫刻
   
【歴史】  
ヘロドトス 『歴史』。ペルシア戦争史
トゥキディデス 『歴史』。ペロポネソス戦争史
(木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』山川出版社、2016年[2020年版]、39頁)


【ローマの生活と文化】
 ローマ人は高度な精神文化ではギリシアの模倣に終わったが、ギリシアから学んだ知識を帝国支配に応用する実用的文化においては、すぐれた能力をみせた。ローマ帝国の文化的意義は、その支配をとおして地中海世界のすみずみにギリシア・ローマの古典文化を広めたことにある。たとえばローマ字は今日ヨーロッパの大多数の言語でももちいられているし、ローマ人の話したラテン語は、近代にいたるまで教会や学術の国際的な公用語であった。
 ローマの実用的文化が典型的にあらわれるのは、土木・建築技術である。都市には浴場・凱旋門・闘技場が建設され、道路や水道橋もつくられた。コロッセウム(Colosseum, 円形闘技場)・パンテオン(Pantheon, 万神殿)・アッピア街道など今日に残る遺物も多い。都市ローマには100万人もの人々が住み、そこに享楽的な都市文化が花開いた。「パンと見世物」を楽しみに生きていた都市下層民は、有力政治家が恩恵として配給する穀物をあてに生活し、闘技場での見世物に歓声をあげた。
 国家支配の実用的手段として後世にもっとも大きな影響を与えたローマの文化遺産は、ローマ法である。ローマがさまざまな習慣をもつ多くの民族を支配するようになると、万人が従う普遍的な法律の必要が生じた。十二表法を起源とするローマ法は、はじめローマ市民だけに適用されていたが、やがてヘレニズム思想の影響をうけて、帝国に住むすべての人民に適用される万民法に成長した。6世紀に東ローマ帝国のユスティニアヌス大帝がトリボニアヌス(Tribonianus, ?~542頃)ら法学者を集めて編纂させた『ローマ法大全』がその集大成である。ローマ法は中世・近世・近代へと受け継がれ、今日のわれわれの生活にも深い影響をおよぼしている。また現在もちいられているグレゴリウス暦は、カエサルが制定したユリウス暦からつくられたものである。
 精神文化では、ローマ人はギリシア人の独創性をこえられなかった。アウグストゥス時代はラテン文学の黄金期といわれるが、ウェルギリウス(Vergilius, 前70~前19)らの作品にはギリシア文学の影響が強い。散文ではカエサルの『ガリア戦記』が名文とされた。ギリシアに始まった弁論術はローマでも発達し、すぐれた弁論家キケロ(Cicero, 前106~前43)をうみだした。歴史記述の分野ではリウィウス(Livius, 前59頃~後17頃)やタキトゥス(Tacitus, 55頃~120頃)が有名であるが、政体循環史観で知られるポリビオス(Polybios, 前200頃~前120頃)、ギリシア・ローマの英雄的人物の生涯を描いたプルタルコス(Plutarchos, 46頃~120頃)、当時知られていた全世界の地誌を記述したストラボン(Strabon, 前64頃~後21頃)のようなギリシア人による歴史書・地理誌も重要である。
 哲学の分野ではとくにストア派哲学の影響が強く、その代表者であるセネカ(Seneca,
前4頃~後65)やエピクテトス(Epiktetos, 55頃~135頃)の説く道徳哲学は上流階層に広まった。皇帝マルクス=アウレリウス=アントニヌスはストア派哲学者としても有名である。自然科学では、プリニウス(Plinius, 23頃~79)が百科全書的な知識の集大成である『博物誌』を書いた。またプトレマイオス(Ptolemaios, 生没年不詳)のとなえた天動説は、のちイスラーム世界を経て中世ヨーロッパに伝わり、長く西欧人の宇宙観を支配した。
 ローマ人の宗教はギリシア人同様多神教であった。帝政期の民衆のあいだにはミトラ教やマニ教など東方から伝わった神秘的宗教が流行したが、そのなかで最終的に国家宗教の地位を獲得したのがキリスト教である。ローマ帝政末期には、エウセビオス(Eusebios, 260頃~339)やアウグスティヌス(Augustinus, 354~430)らの教父と呼ばれるキリスト教思想家たちが、正統教義の確立につとめ、のちの神学の発展に貢献した。

<ローマ時代の水道橋>
前1世紀末頃建設されたガール水道橋(南フランス)。全長270m、高さ50mの石造。
ローマの土木技術の高い水準を示す好例である。

<コロッセウム>
古代ローマ最大の円形闘技場で、80年に完成した。剣闘士をたたかわせるなどの見世物がおこなわれた。高さ48.5m、周囲527m。

※ギリシア・ローマの古典文化
 ギリシア・ローマの古典文化は、近世・近代のヨーロッパ人により古典中の古典として尊重された。そこでギリシア・ローマ時代は「古典古代」とも呼ばれる。
(木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』山川出版社、2016年[2020年版]、49頁~51頁)


ローマ文化一覧表  
【文学】  
ウェルギリウス 『アエネイス』(ローマ建国叙事詩)
ホラティウス 『叙情詩集』
オウィディウス 『転身譜』『恋の技法』
   
【歴史・地理】  
ポリビオス 『歴史』
リウィウス 『ローマ建国史』
カエサル 『ガリア戦記』(ラテン散文の名文)
タキトゥス 『年代記』『ゲルマニア』
プルタルコス 『対比列伝』(『英雄伝』)
ストラボン 『地理誌』
   
【哲学・思想】  
キケロ 弁論家。『国家論』
セネカ ストア派哲学者。『幸福論』
エピクテトス ストア派哲学者
マルクス=アウレリウス=アントニヌス ストア派哲学者。『自省録』
ルクレティウス エピクロス派の影響をうけた詩人・
哲学者。『物体の本性』
   
【自然科学】  
プリニウス 『博物誌』(自然科学の集大成)
プトレマイオス 天動説を説く。『天文学大全』
   
【キリスト教思想】  
『新約聖書』(『福音書』『使徒行伝』など)  
エウセビオス 教父。『教会史』『年代記』
アウグスティヌス 教父。『告白録』『神の国』
   
【法学】  
トリボニアヌス 『ローマ法大全』(編纂)
(木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』山川出版社、2016年[2020年版]、51頁)

英文の記述~本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』(講談社)より


〇本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』(講談社、2017年[2018年版])では、古代ギリシア・ローマの記述は次のようにある。

①【ギリシア文明】 Classical Civilization of Greece
The Greeks created an original civilization, accepting the advanced civilization of the
Orient and cultivating the rational spirit based on a human-centered view. In the minds of the Greeks, the belief in the world of the mythology centered on the 12 Olympian Gods
was alive. They thought that each god had a human personality in their image, influencing
emotionally the people. Although they had no scripture, the tales of mythology that
affirmed this world had great influence on various fields of art.
The gods and goddesses appeared along with the heroes of the Trojan War in the epics
Iliad and Odyssey, which were arranged by Homer in the 8th century BC. In about 700 BC,
Hesiod wrote the Theogony about the genealogy of the gods, and the didactic poetry of
peasant life, Works and Days.
Lyrical poetries with individual feelings represented began to appear around the 7th
century BC. Since then, a poetess Sappho, Pindar, a hymnist of Olympia, etc. wrote their
works. In Athens in the 5th century BC, there appeared the three major poets of tragedy
(Aeschylus, Sophocles and Euripides) about the fate of men and women, and the comedy
satirist Aristophanes. Their works were staged on public holidays.
Gods and goddesses were carved as statues which represent the idealized human beauty
as well; Pheidias and Praxiteles were active in this field. People put much value on temples, which were constructed in the heavy Doric style (typified by the Parthenon), in the graceful
Ionic style, or in the delicate Corinthian style.
Among the Greeks in Ionia, who were in contact with the advanced civilizations of the
Orient, the natural philosophy for understanding the world by rational thinking came out
in the 6th century BC. Thales described the water as the source of everything, Heraclitus taught that everything flows and nothing stands still, and then Democritus considered that the origin of the universe could be atoms.
The idea of natural science came from the movement of this natural philosophy.
Pythagoras described the source of everything as numbers, built the base of mathematics,
and Hippocrates, who studied the causes of diseases, was called the “father of medicine”.
In the Athens of the democratic period, people began to turn their eyes to the human beings and society rather than the nature.
Protagoras appeared out of the Sophists, who were teaching the rhetoric, and he
advocated the relativism, saying “Man is a measure of everything”. Socrates opposed
the relativism, insisting on the absoluteness of truth and the unification of knowledge
and virtue. His disciple, Plato, expounded the philosophy based on idealism, advocating
a theory of the idealistic state led by a philosopher. One of his disciples, Aristotle,
systematized various studies such as philosophy, logic, politics, and natural science, etc.,
and he had great influence on Islamic scholarship and Scholasticism of medieval Europe
later.
The Greeks were the first people who tried to describe history, not in chronological style
but in free style. Herodotus wrote a history of the Persian Wars as an interesting tale, and
Thucydides didactically described a history of the Peloponnesian War, considering the
relationship of its causes and effects.
(本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』講談社、2017年[2018年版]、33頁~34頁)

【語句】
the 12 Olympian Gods オリンポス12神
Homer ホメロス
Hesiod ヘシオドス
Sappho サッフォー
Pindar ピンダロス
Aeschylus アイスキュロス
Sophocles ソフォクレス
Euripides エウリピデス
Pheidias  フェイディアス
Praxiteles プラクシテレス
the Parthenon パルテノン神殿
the natural philosophy 自然哲学
Thales ターレス
Heraclitus ヘラクレイトス
Democritus デモクリトス
Pythagoras ピタゴラス
Hippocrates ヒッポクラテス
Protagoras プロタゴラス
the Sophists ソフィスト
Socrates ソクラテス
Plato プラトン
Aristotle アリストテレス
Herodotus ヘロドトス
Thucydides トゥキディデス

②【ヘレニズム文明】Hellenistic Civilization

■Hellenistic Civilization
During the Hellenistic period, Greek and Oriental civilization were blended together,
and the Hellenistic civilization was born. Greek became a common language (the Koine),
and various sciences of the Orient and Greece were compiled in Greek, and further
developed. Particularly in the field of natural sciences, many great scientists emerged
one by one, such as Aristarchus who pointed out that the earth is rotating on its axis and
revolving around the sun, Euclid who accomplished “Euclidean geometry”, Archimedes
who is known for the principle of floating bodies, and Eratosthenes who measured the
length around the earth, etc.
The Museum (a research institute) with the great library was founded in Alexandria of
Egypt, and became the center of learning.
During this period, since people worked actively beyond the traditional citizens of
polis or the ethnic groups, the tide of cosmopolitanism (the principle of the world citizen) or
individualism grew.
The Stoics, followers of a philosophy founded by Zenon, advocated an ascetic life, and
the Epicureans founded by Epicurus advised people to live with mental pleasure. Both
of them were new philosophies to seek a peaceful way of life or a peace of mind for the
individuals.
The Hellenistic arts, represented by Venus of Milo and Laocoon, were filled with
dynamism of excellent expressions of emotion and movement. These arts went on to
give great influence on the Roman arts or the Gandharan arts. In the field of the historical
description, Polybius, who wrote a history of the rise of Rome from the historical view of
circular regimes, was remarkable.
(本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』講談社、2017年[2018年版]、36頁)
【語句】
the Koine コイネー
Aristarchus アリスタルコス
Euclid エウクレイデス
Archimedes アルキメデス
cosmopolitanism 世界市民主義
individualism 個人主義
The Stoics ストア派
the Epicureans エピクロス派
Polybius ポリビオス

③【ローマの文明】Roman Civilization
■Roman Civilization
Although the Greeks, respecting the principle and theory, were excellent thinkers and
artists, the Roman were good at practical activity and demonstrated originally in law,
technology and construction. The Romans distinguished between the freeman and the
slave, and there were people with or without Roman citizenship among freemen. Originally
the Roman law was “jus civile” (civil law) for people with Roman citizenship. Gradually
population increased there, people began adopting the local customs and the Hellenistic
thoughts, and the Roman law came to be “jus gentium” for all people in the Empire. These
regulations and theories were soon organized as the Corpus Juris Civilis under the emperor Justinian in the 6th century, and have affected even the modern law of Europe and others.
Hellenistic thoughts also widely affected the Romans, and the literary politician Cicero
wrote vast works such as On the Republic. Then practical philosophy, or ethics, of the
Stoics, etc. attracted public attention. Seneca, Epictetus, and the emperor Marcus Aurelius,
etc. were prominent Stoics.
In literature, the times of the emperor Augustus is called the golden age of Latin
literature, there appeared Vergil who wrote the epic poem of Roman foundation Aeneis,
lyrical poet Horace, and romantic poet Ovid dealing with mythology and love affairs. As
historians, Livy described the History of Rome, and Tacitus wrote Germania and Annals.
Then Pliny wrote the Natural History, which should be called an ancient encyclopedia.
Latin spread with the Roman alphabet through the western half of the Empire, and it
was thought as important as the language was used also for learning and church in western Europe in later ages. Greek was dominant language in the eastern half of the Empire, and there appeared Plutarch who wrote the Parallel Lives, Strabo of Geography and Ptolemy of the geocentric theory and others.
The Roman building techniques using arch structures was extremely outstanding; cities
with comfortable facilities were built throughout the Empire with advanced technology.
There were forums at the city center, and in urban area lay the public facilities such as
public bath houses, amphitheaters, circuses, pantheons, and theaters, as well as a water
supply and drainage.
(本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』講談社、2017年[2018年版]、43頁)

【語句】
“jus civile” 市民法
“jus gentium” 万民法
the Corpus Juris Civilis ローマ法大全
Cicero キケロ
the Stoics ストア派
Vergil ウェルギリウス
Horace ホラティウス
Ovid オウィディウス
Livy リウィウス
Tacitus タキトゥス 
Plutarch プルタルコス
Strabo ストラボン
Ptolemy プトレマイオス




【補足】アリストテレスの生涯~荻野弘之『哲学の饗宴』より


アリストテレスの生涯を簡単にみておこう。
〇荻野弘之『哲学の饗宴 ソクラテス・プラトン・アリストテレス』日本放送出版協会、2003年
 この本の「第8章 万学の祖とその時代~アリストテレス哲学の体系」で、次のように紹介されている。

 前6世紀以来の古代ギリシア哲学の歩みは、アリストテレスによって古典的完成の域にもたらされることになった。
・アリストテレスは、ギリシアの北方マケドニア地方のカルキディケ半島にあるスタゲイロスという町に生まれた(前384年)。
 ソクラテスの死後すでに15年ほど経っている。
 早世した父ニコマコスは、マケドニアの宮廷に仕える医者である。こうした家庭環境が後になって、生物学、特に動物学への強い関心を養う下地になったのであろう。

・17歳でアテナイに上京し、プラトンの開いた学園アカデメイアに入学(前367年)。
 当時プラトンは60歳。長編『国家』を書き上げた後、弟子たちとともに、イデア論をめぐる論理的問題に取り組んでいた時期にあたる。
 アカデメイアでは約20年間を過ごす。

・生涯独身だったプラトンが80歳で亡くなると(前347年、アリストテレスは37歳)、学園ではプラトンの甥が後継者となり、第二代学頭に就任した。
 このとき、アリストテレスは、友人クセノクラテス(前396~314)とともに、学園を去って小アジアのアッソスに移住する。
 この地で結婚し、父と同名のニコマコスという男子が生まれる。
 やがて、友人のテオフラストスの故郷レスボス島に移住し、その地で集中的に生物学の研究に取り組んだ。

・やがて故郷のマケドニアのフィリッポス王に招かれて、当時13歳の皇太子(後のアレクサンドロス大王)の家庭教師に就任(前342年、42歳)。
 約3年間にわたり、教授する。
 カイロネイアの戦いに勝利したマケドニアは、全ギリシアの覇権を確立したが(前338年)、フィリッポス王が暗殺されると、アレクサンドロスが弱冠20歳で即位する(前336年)。

※このアレクサンドロス大王こそは、やがて全ギリシアを支配し、インダス河にいたるオリエント世界全体を含む世界帝国を建設し、ギリシアの文物が世界を席巻する新しいヘレニズム時代の幕を開けることになるのである。

・ほどなくアテナイに戻り、マケドニア宮廷の支援のもとで、町の東郊リュケイオンの地に学園を創設した(前335年、49歳)。
 リュケイオンでは、午前中は教室から出て学園の中庭を散歩しながら弟子たちと専門的な問題について検討し、午後は比較的一般向きの講義を行った。
 アリストテレス自身は舌がもつれて、あまり話がうまくなかった。そのためもあってか、彼は綿密な講義草稿を準備し、これが今日アリストテレスの「著作」として伝えられる内容の相当部分を占めることになるそうだ。

・さて、東方遠征中のアレクサンドロス大王急死の知らせが届くと、アテナイの町では一斉に激しい反マケドニア暴動が蜂起した(前323年、61歳)。
 アリストテレスは、マケドニア政府との親しい関係のゆえに、自分の身にも危険が及びそうだと察知すると、(ソクラテス裁判に続いて)「アテナイに再び哲学を冒瀆させないために」という言葉を残して、学園を弟子のテオフラストスに委ね、自らはエイボイア島カルキスに亡命する。
 そして、翌年、亡命先で62歳の生涯を終えた。

※アリストテレスの生涯は、三分される。
①マケドニアで過ごした幼少期を除けば、17歳から37歳まで、約20年に及ぶアカデメイアにおける修業時代
②その後、12年間にわたってギリシアの各地を遍歴した時代
③そして50歳以降、約12年に及ぶアテナイのリュケイオンで学頭として、教育・研究生活をしていた時期

※アリストテレスは、13世紀以降には、文字どおり「哲学者の代名詞」となった。
・ダンテの『神曲』地獄編(第4歌132行)では、キリスト教以前の哲学者たちの中で、最高位を占める者として描かれる。
・また、ラファエロの大作『アテネの学堂』(バチカン「署名の間」)では、画面中央にプラトンの右側に立ち、鬚をたくわえ青い上着を纏って右手を突き出し、大地を示唆している姿で描かれている。

(荻野弘之『哲学の饗宴』日本放送出版協会、2003年、186頁~189頁、193頁)




≪【参考書の紹介】本村凌二『英語で読む高校世界史』≫

2023-05-12 18:35:18 | ある高校生の君へ~勉強法のアドバイス
≪【参考書の紹介】本村凌二『英語で読む高校世界史』≫
(2023年5月12日投稿)
 

【はじめに】


 知り合いの高校生は、英語が苦手で、世界史嫌いだそうだ。
 親御さんから成績を上げるには、どうすればよいのでしょうと相談された。返答に窮した。
 私は、高校教師でも予備校講師でもない。私と世界史との関わりといえば、大学時代に文学部の史学科に籍をおいたぐらいである。
 先ほどの質問に対する回答としては、まず、興味をもって高校の世界史教科書をきちんと読み通すことが挙げられる。
 ただ、これだけでは、工夫と“芸”が足りないので、その世界史教科書を英語で読んでみたらどうかということを、ここに提案しておきたい。

 今回のブログでは、そのための参考書を紹介したい。
〇本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』講談社、2017年[2018年版]、384ページ、アマゾンで1980円
 
 高校の世界史教科書として、代表的なものとしては、次の2種類あるようだ。
〇山川出版社
〇東京書籍
何十年ぶりかに高校の世界史の教科書を注文し取りよせてみた。
〇山川出版社
・木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』山川出版社、2016年[2020年版]
〇東京書籍
・福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』東京書籍、2016年[2020年版]

今回紹介するのは、東京書籍の方の英語版である。
(なお、山川出版社の教科書の英文版には、次のものがある。
〇橋場弦ほか『英文詳説世界史 WORLD HISTORY for High School』山川出版社、2019年、
 459ページ、アマゾンで2970円)

英語版の方は最初から読み進めていくと、途中で挫折するのが目に見えるので、自分の興味のあるところから読んでみるのがよかろう。
目次は書籍の見取図である。著者あるいは編者の意図や構想が如実に反映されているのが目次である。
 だから、日本語・英語の目次を省略せず、面倒でも逐一掲載することにした。

今回は、環境問題、気候変動について焦点をあててみる。
この問題については、次の著作においても言及されている。
〇浜林正夫『世界史再入門 歴史のながれと日本の位置を見直す』講談社学術文庫、2008年[2012年版]
〇斎藤幸平『人新世の「資本論」』集英社新書、2020年[2021年版]
(上記の書籍については、後日、本格的に紹介してみたい)

なお、次回以降、私の関心にしたがって、次のようなテーマを取り上げてみることにする。
どうして、これらのテーマに私が興味をもったのか、そのきっかけも付言しておく。
〇古代ギリシアの文化~ルーヴル美術館で「ミロのヴィーナス」を見たこと
〇ルネサンス~ルーヴル美術館で「モナ・リザ」を見たこと
〇中国の諸子百家の時代~大河ドラマ「青天を衝け」で渋沢栄一に興味をもち、『論語と算盤』を読んだこと
〇中国文化史(前近代)~石川九楊『中国書史』を読んだこと
〇フランス通史~パリ旅行を通して、フランス史(とくにフランス革命とナポレオン)に興味をもったこと



【本村凌二ほか『英語で読む高校世界史』講談社はこちらから】
本村凌二ほか『英語で読む高校世界史』講談社





〇本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』講談社、2017年[2018年版]
【目次】

本村凌二『英語で読む高校世界史』
Contents
Introduction to World History
1 Natural Environments: the Stage for World History
2 Position of Japan in East Asia
3 Disease and Epidemic
Part 1 Various Regional Worlds
Prologue
The Humans before Civilization
1 Appearance of the Human Race
2 Formation of Regional Culture
Chapter 1
The Ancient Near East (Orient) and the Eastern Mediterranean World
1 Formation of the Oriental World
2 Deployment of the Oriental World
3 Greek World
4 Hellenistic World
Chapter 2
The Mediterranean World and the West Asia
1 From the City State to the Global Empire
2 Prosperity of the Roman Empire
3 Society of the Late Antiquity and Breaking up
of the Mediterranean World
4 The Mediterranean World and West Asia
World in the 2nd century
Chapter 3
The South Asian World
1 Expansion of the North Indian World
2 Establishment of the Hindu World
Chapter 4
The East Asian World
1 Civilization Growth in East Asia
2 Birth of Chinese Empire
3 World Empire in the East
Chapter 5
Inland Eurasian World
1 Rises and Falls of Horse-riding Nomadic Nations
2 Assimilation of the Steppes into Turkey and Islam
Chapter 6
1 Formation of the Sea Road and Southeast Asia
2 Reorganizaion of Southeast Asian Countries
Chapter 7
The Ancient American World

Part 2 Interconnecting Regional Worlds
Chapter 8
Formation of the Islamic World
1 Establishment of the Islamic World
2 Development of the Islamic World
3 Islamic Civilization
World in the 8th century
Chapter 9
Establishment of European Society
1 The Eastern European World
2 The Middle Ages of the Western Europe
3 Feudal Society and Cities
4 The Catholic Church and the Crusades
5 Culture of Medieval Europe
6 The Middle Ages in Crisis
7 The Renaissance
Chapter 10
Transformation of East Asia and the Mongol Empire
1 East Asia after the Collapse of the Tang Dynasty
2 New Developments during the Song Era ―Advent of Urban Age
3 The Mongolian Empire Ruling over the Eurasian Continent
4 Establishment of the Yuan Dynasty

Part 3 Unification of the World
Chapter 11
Development of the Maritime World
1 Formation of the Three Maritime Worlds
2 Expansion of the Maritime World
3 Connection of Sea and Land; Development of Southeast Asia World
Chapter 12
Prosperity of Empires in the Eurasian Continent
1 Prosperity of Iran and Central Asia
2 The Ottoman Empire; A Strong Power Surrounding
the East Mediterranean
3 The Mughal Empire; Big Power in India
4 The Ming Dynasty and the East Asian World
5 Qing and the World of East Asia
Chapter 13
The Age of Commerce
1 Emergence of Maritime Empire
2 World in the Age of Commerce
World in the 17th century
Chapter 14
Modern Europe
1 Formation of Sovereign States and Religious Reformation
2 Prosperity of the Dutch Republic
and the Up-and-Coming England and France
3 Europe in the 18th Century and the Enlightened Absolute Monarchy
4 Society and Culture in the Early Modern Europe
Chapter 15
Industrialization in the West and the Formation of Nation States
1 Intensified Struggle for Economic Supremacy
2 Industrialization and Social Problems
3 Independence of the United States and Latin American Countries
4 French Revolution and the Vienna System
5 Dream of Social Change; Waves of New Revolutions

Part 4 Unifying and Transforming the World
Chapter 16
Development of Industrial Capitalism and Imperialism
1 Reorganization of the Order in the Western World
2 Economic Development of Europe
and the United States and Changes in Society and Culture
3 Imperialism and World Order
World in the latter half of 19th century
Chapter 17
Reformation in Various Regions in Asia
1 Reform Movements in West Asia
2 Colonization of South Asia and Southeast Asia,
and the Dawn of National Movements
3 Instability of the Qing Dynasty and Alteration of East Asia
Chapter 18
The Age of the World Wars
1 World War I
2 The Versailles System and Reorganization of International Order
3 Europe and the United States after the War
4 Movement of Nation Building in Asia and Africa
5 The Great Depression and Intensifying International Conflicts
6 World War II

Part 5 Establishment of the Global World
Chapter 19
Nation-State System and the Cold War
1 Hegemony of the United States and the Development of the Cold War
2 Independence of the Asian-African Countries and the "Third World"
3 Disturbance of the Postwar Regime
4 Multi-polarization of the World and the Collapse of the U.S.S.R.
Final Chapter
Globalization of Economy and New Regional Order
1 Globalization of Economy and Regional Integration
2 Questions about Globalization and New World Order
3 Life in the 21st Century; Time of Global Issues
The Rises and Falls of Main Nations
Index(English)
Index(Japanese)




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はじめに
・本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』(講談社)の目次
・英語版「高校世界史教科書」の刊行にあたって
・福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』(東京書籍)の目次と環境問題の記述
・木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』(山川出版社)の目次と環境問題の記述
・環境問題(Environmental Issues)~地球温暖化
・浜林正夫『世界史再入門』における環境問題への言及
・斎藤幸平『人新世の「資本論」』における環境問題への提言







英語版「高校世界史教科書」の刊行にあたって



On the Publication of an English Translation
of a High School Text for World History
The World-Class “World History as the Culture”

Nowadays, more and more Japanese people have opportunity to go abroad, while the num-
ber of foreigners who visit in Japan is gradually increasing. We meet foreign people on busi-
ness or for social purpose frequently. At that time, we often want to bring up sophisticated
topics. In the global era, World History, the accumulation of experiences of human beings,
seems to be a basis of the culture. Therefore, if we learn World History in English, the international language, we can deal with topics of all ages and countries…

Precisely, learning highschool-level World History, we can acquire indispensable educa-
tion for international society. Hence, not only high school or university students, but also
business persons or diplomats must be active in every aspect of the global community with
the English translation of high school text for World History.
In addition to this, it is important that Japanese textbooks for World History are edited
from the impartial viewpoint. Contents of them are not slanted and improved constantly by
outcomes of historical science. In other words, Japanese textbooks for World History are
reading of high quality. It is regrettable, however, that foreigners do not know the level of
them. Thus, translating a textbook into English to spread it all over the world seems to be extremely meaningful…


≪対訳≫
われわれ日本人が外国を訪れるだけでなく、海外から来日する人々も増えてきました。
仕事上でも社交上でも、外国人と接する機会がしばしばあります。そのようなとき、
いささかでも教養のある話ができればと思うことがあります。地球規模で人々が交わ
るグローバルな時代の教養となると、その根幹にあるのは人類の経験としての世界史
ではないでしょうか。しかも、その基本的な知識を国際言語としての英語で理解して
おけば、古今東西の様々な話題に対応できるわけです。
(中略)
そもそも「高校世界史」程度の知識を身につけておけば、国際社会にあって活動する
には必要にして十分な教養になるはずです。高校生・大学生ばかりではなく、企業人
や外交関係者などもまた、世界史の英訳テキストが座右にあれば、国際舞台の表でも
裏でも絆を深めることができるのではないでしょうか。
それとともに、日本の世界史教科書は実に公平な立場で記述されていることも忘れ
てはなりません。自国の歴史や特定の時代に大きく偏ることなく、歴史学の新しい成
果をも盛り込んだ日本の教科書は、非常にハイレベルで読みやすい、世界でも類のな
い良質なテキストなのです。しかし、これらの基本的な事実が海外に知られていない
ことは残念でなりません。「世界史」教科書を英訳し広く世界に読んでもらうという
のは、とても意義深いことと思います。
(下略)
(本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』講談社、2017年[2018年版]、2頁~3頁)

※なお、下略の部分では、本書(『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』講談社)は、『世界史B』(東京書籍 2012年版)を底本としたことを断っている。
 2012年版であって、最新版ではないことに注意が必要である。

福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』(東京書籍)の目次と環境問題の記述




〇福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』東京書籍、2016年[2020年版]
【目次】
福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』
目次
世界史のとびら
1 自然環境、世界史の舞台
2 東アジアでの日本の位置
3 病気と伝染病
第1編 さまざまな地域世界
序章 文明以前の人類
1 人類の登場
2 地域文化の形成
第1章 オリエント世界と東地中海世界
1 オリエント世界の成立
2 オリエント世界の展開
3 ギリシア世界
4 ヘレニズム世界
第2章 地中海世界と西アジア
1 都市国家から世界帝国へ
2 ローマ帝国の繁栄
3 古代末期の社会と地中海世界の解体
4 地中海世界と西アジア
2世紀の世界
第3章 南アジア世界
1 南アジアにおける文明の成立と国家形成
2 インド世界の形成
第4章 東アジア世界
1 東アジアにめばえた文明
2 中華帝国の誕生
3 東方の世界帝国
第5章 中央ユーラシア世界
1 騎馬遊牧民国家の興亡
2 草原地帯のトルコ化とイスラーム化
第6章 東南アジア世界
1 海の道の形成と東南アジア
2 東南アジア諸国家の再編成
第7章 アフリカ、オセアニア、古アメリカの地域世界
1 アフリカ
2 オセアニア
3 古アメリカ
■時間軸からみる諸地域世界 ビザンティウム▶コンスタンティノープル▶イスタンブル

第2編 広域世界の形成と交流
第8章 イスラーム世界の形成
1 イスラーム世界の成立
2 イスラーム世界の発展
3 イスラーム文明
8世紀の世界
第9章 ヨーロッパ世界の形成
1 東ヨーロッパ世界
2 西ヨーロッパ中世世界の成立
3 西ヨーロッパ世界の成熟
4 中世ヨーロッパ文化
5 中世的世界の動揺
6 ルネサンス
第10章 東アジア世界の変容とモンゴル帝国
1 唐の崩壊後の東アジア
2 宋代の新展開―都市の時代のおとずれ
3 ユーラシア大陸をおおうモンゴル帝国
4 元朝の成立

第11章 海域世界の発展と東南アジア
1 三つの海域世界の成立
2 海と陸の結合―東南アジア世界の発展
■空間軸からみる諸地域世界 マルコ=ポーロと『世界の記述』の時代

第3編 一体化する世界
第12章 大交易時代
1 アジア交易世界の再編と活況
2 海洋帝国の出現
3 大交易時代の世界
第13章 ユーラシア諸帝国の繁栄
1 イランと中央アジアの繁栄
2 東地中海の強国―オスマン帝国
3 インドの大国―ムガル帝国
4 明と東アジア世界
5 清と東アジア世界
17世紀の世界
第14章 近世のヨーロッパ
1 主権国家群の形成と宗教改革
2 オランダの繁栄と英仏の追いあげ
3 18世紀のヨーロッパと啓蒙専制国家
4 近世ヨーロッパの社会と文化
第15章 欧米における工業化と国民国家の形成
1 激化する経済覇権抗争
2 工業化による経済成長と社会問題の発生
3 合衆国とラテンアメリカ諸国の独立
4 フランス革命とウィーン体制
5 自由主義の台頭と新しい革命の波
■資料から読み解く歴史の世界 歴史研究への挑戦

第4編 地球世界の形成と課題
第16章 産業資本主義の発展と帝国主義
1 イギリスの覇権とヨーロッパ諸国
2 南北アメリカの発展
3 第2次産業革命と社会生活の変化
4 植民地獲得競争と動揺する世界秩序
第17章 アジア諸地域の変革運動
1 西アジアの改革運動
2 南アジア・東南アジアの植民地化と民族運動の黎明
3 清の動揺と変貌する東アジア
19世紀後半の世界
第18章 世界戦争の時代
1 第一次世界大戦
2 ヴェルサイユ体制と国際秩序の再編
3 大戦後の合衆国とヨーロッパ
4 アジア・アフリカでの国家形成の動き
5 世界恐慌と国際対立の激化
6 第二次世界大戦

第19章 戦後世界秩序の形成
1 冷戦の形成と展開
2 植民地の独立と世界政治
3 東アジアの「熱い戦争」と経済発展
4 合衆国の覇権の動揺と再編
第20章 情報革命と世界経済の一体化
1 情報革命とグローバル化
2 冷戦の終結と新たな世界秩序
3 21世紀の地球的課題と地域世界
■資料を活用して探究する地球世界の課題 難民を生みださない世界のために
さくいん

(福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』東京書籍、2016年[2020年版]、4頁~6頁)





「はじめに」の「世界史を学び、世界の歴史から学ぶ」において、次のように述べている。
〇この教科書は、人類の登場から現在へと歴史が展開してきた大きな筋道を描いている。
 その筋道には、出来事や人物、あるいは事物や作品などが多く出てくるが、これらについて知ることは、みなさんの将来にとって基礎的な教養として役立つ。
・現在、私たちは異なる文化をもち、異なる思考や行動の作法をもった人たちとも共生していく必要にせまられている。そのときに、人と社会の多様性を理解し、それを将来に向けてプラスに生かしていく道を探るには、世界の歴史をふまえることが、考える手がかりとして重要である。
・歴史を知る必要があるからといって、歴史を形づくった諸々について、やみくもに覚えることが大事なのではない。歴史を知ることを通じて考えることが大切なのである。
 現在でも、視野を広げれば、世界における貧富の格差はきびしいものがあり、世界の歴史を学べば、人類は物不足の長い時代を経験してきたことがわかる。
 歴史を知ることを通じて、筋道立てて論理的に考える作法を身につけたい。

・この筋道を成り立たせてきた出来事や、生産と流通の展開、時代や地域による生活のちがい、あるいは登場する人物の生き方など、多くの事柄に接することを通じて、広い視野のもとに、みなさんのいまについてみつめ直し、考えることを、著者たちは期待している。
・調べ考える手がかりは、この教科書では「深める」という項目でも、例示してある。
 「時間軸からみる諸地域世界」、「空間軸からみる諸地域世界」、また「資料から読み解く歴史の世界」や「資料を活用して探究する地球世界の課題」という項目でも例示されている。
 

〇全体の筋道は、時代順に四つの編にくくられている。各編では、次のようなことが説明されている。
・第1編は、異なる自然環境のなかで、いくつかの地域世界が独自の文明を形成していたこと。
・第2編は、ユーラシア大陸とその周辺を中心に、陸路と海路の双方を通じた地域間の交流関係をネットワーク化し、広域世界が形成され、それらの広域世界同士の関係が展開したこと。
・第3編は、アジアにおける広大な海域を舞台とした活発な交易と、ユーラシア諸帝国の繁栄に対して、ヨーロッパ諸国がこれを追う形で、アジアの交易世界に参入すると同時に南北アメリカへの植民地開拓をすすめ、世界の一体化への動きがすすんだこと。
・第4編は、工業化と技術革新、そして帝国主義の展開のもとに、世界各地が密接に連関した地球世界が形成されるものの、他方では、地球上の貧富の格差の拡大や戦争の頻発、環境破壊の深刻化が生じたこと。

※未来の地球世界が豊かな可能性をもてるか否かは、そうした課題が解決できるか否かにかかっている。
(福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』東京書籍、2016年[2020年版]、2頁~3頁)

木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』(山川出版社)の目次と環境問題の記述




〇木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』山川出版社、2016年[2020年版]

【目次】
世界史への扉① 気候変動と私たち人類の生活
世界史への扉② 漂流民のみた世界
世界史への扉③ 砂糖からみた世界の歴史

序章 先史の世界
第Ⅰ部 第Ⅰ部概観
第1章 オリエントと地中海世界
1 古代オリエント世界
2 ギリシア世界
3 ローマ世界
第2章 アジア・アメリカの古代文明
1 インドの古典文明
2 東南アジアの諸文明
3 中国の古典文明
4 南北アメリカ文明
第3章 内陸アジア世界・東アジア世界の形成
1 草原の遊牧民とオアシスの定住民
2 北方民族の活動と中国の分裂
3 東アジア文化圏の形成
第Ⅰ部 まとめ
主題学習Ⅰ 時間軸からみる諸地域世界

第Ⅱ部 第Ⅱ部概観
第4章 イスラーム世界の形成と発展
1 イスラーム世界の形成
2 イスラーム世界の発展
3 インド・東南アジア・アフリカのイスラーム化
4 イスラーム文明の発展
第5章 ヨーロッパ世界の形成と発展
1 西ヨーロッパ世界の成立
2 東ヨーロッパ世界の成立
3 西ヨーロッパ中世世界の変容
4 西ヨーロッパの中世文化
第6章 内陸アジア世界・東アジア世界の展開
1 トルコ化とイスラーム化の進展
2 東アジア諸地域の自立化
3 モンゴルの大帝国
第Ⅱ部 まとめ
主題学習Ⅱ 空間軸からみる諸地域世界

第Ⅲ部 第Ⅲ部概観
第7章 アジア諸地域の繁栄
1 東アジア世界の動向
2 清代の中国と隣接諸地域
3 トルコ・イラン世界の展開
4 ムガル帝国の興隆と東南アジア交易の発展
第8章 近世ヨーロッパ世界の形成
1 ヨーロッパ世界の拡大
2 ルネサンス
3 宗教改革
4 ヨーロッパ諸国の抗争と主権国家体制の形成
第9章 近世ヨーロッパ世界の展開
1 重商主義と啓蒙専制主義
2 ヨーロッパ諸国の海外進出
3 17~18世紀ヨーロッパの文化と社会
第10章 近代ヨーロッパ・アメリカ世界の成立
1 産業革命
2 アメリカ独立革命
3 フランス革命とナポレオン
第11章 欧米における近代国民国家の発展
1 ウィーン体制の成立
2 ヨーロッパの再編と新統一国家の誕生
3 南北アメリカの発展
4 19世紀欧米の文化
第12章 アジア諸地域の動揺
1 オスマン帝国支配の動揺と西アジア地域の変容
2 南アジア・東南アジアの植民地化
3 東アジアの激動
第Ⅲ部 まとめ
主題学習Ⅲ 資料から読みとく歴史の世界

第Ⅳ部 第Ⅳ部概観
第13章 帝国主義とアジアの民族運動
1 帝国主義と列強の展開
2 世界分割と列強対立
3 アジア諸国の改革と民族運動
第14章 二つの世界大戦
1 第一次世界大戦とロシア革命
2 ヴェルサイユ体制下の欧米諸国
3 アジア・アフリカ地域の民族運動
4 世界恐慌とファシズム諸国の侵略
5 第二次世界大戦
第15章 冷戦と第三世界の独立
1 戦後世界秩序の形成とアジア諸地域の独立
2 米ソ冷戦の激化と西欧・日本の経済復興
3 第三世界の台頭と米・ソの歩み寄り
4 石油危機と世界経済の再編
第16章 現在の世界
1 社会主義世界の変容とグローバリゼーションの進展
2 途上国の民主化と独裁政権の動揺
3 地域紛争の激化と深刻化する貧困
4 現代文明の諸相
第Ⅳ部 第Ⅳ部まとめ
主題学習Ⅳ 資料を活用して探究する地球世界の課題

世界史年表
索引
世界の自然・世界の気候区(表見返し)
現代の世界(裏見返し)




「世界史を学ぶみなさんへ」と題して、編者は次のようなことを述べている。
〇日本史と世界史では世界の見方がちがってくること
・日本史では、日本と直接交流があったり、影響を与えてきた、東アジアの諸地域と欧米諸国の動向が取りあげられてきた。(つまり、日本という窓からみえる世界を扱ってきた)
・一方、世界史では、世界の諸地域の主要な歴史の流れをそれ自体として広くみる。
 なかには、日本とあまり関係がないような地域や時代も登場する。
(しかし、そうした地域や時代の歴史も、日本の歴史とどのような違いや共通点があるのか、また、違いや共通点はなぜ生じたのかを知るためには、欠かせないとする)

※世界史の学習をつうじて、当然だと思っていた事柄や考えが、地域や時代によってはけっしてそうではないこともわかる。そして日本の歴史の特色も深く理解できるようになる。

〇目次の内容について
・第Ⅰ部・第Ⅱ部では、世界の諸地域間の交流がまだ限られていた古代から中世までの時期が取り扱われる。
 この時代に、言語や宗教を共通の基盤として、社会・経済制度や生活様式などの独自の文化的枠組みをもつ地域世界が形成された。 
 こうした文化的枠組みは、地域世界が外部の新しい思想・技術・芸術、政治・経済制度などと接触した場合でも、そこからなにを取り入れるかを選択するフィルターとして機能したり、触媒のような役割をはたしてきた。
 こうした文化的枠組みも変化するが、その変化の速度は政治的変動や技術の進展よりゆっくりしたものなので、特徴をもった社会が形づくられる。

・第III部・第IV部では、近世以降を対象とする。
 各地域間の人・もの・情報の移動をとおした交流が密度を増し、諸地域世界が多用で複雑なネットワークで結ばれ、各地域の内部構造も変容をせまられる状況(世界の一体化)、それに続くグローバル化の過程を扱う。
 ただし、世界の一体化といっても、各地域が対等に結ばれるということではない。
 とくに19世紀以降では、近代工業や科学技術の力を背景に、世界の一体化を推進した欧米先進国が、世界諸地域間の結びつきを支配・従属関係につくりかえて、地域間格差を強めるようになる。
(その結果、各地域社会の人々の生活もゆるがされ、ときには文化的枠組み自体が破壊されることもあった)

※世界史では、世界の諸地域の文化的枠組みがどのように形成され、変化してきたのか、また世界の諸地域の関係が現在のようになったのはなぜか、という大きな問いを掲げながら、諸地域や時代の具体的な展開を学んでいく。
 執筆者の願いとしては、世界の歴史を振り返り、そこに生きた人々の幸せ、喜び、悲しみ、怒りを思い浮かべながら、これから生きていく地球世界での課題を見出し、その解決の手がかりをつかみ、自信をもって未来に踏み出してほしいという。
(木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』山川出版社、2016年[2020年版]、1頁)



「世界史への扉」では、世界史を学ぶことの大切さ、面白さを知ってもらうための例が紹介されている。地球温暖化、気候変動の問題として、次のような例を挙げている。

【世界史への扉① 気候変動と私たち人類の生活】
≪自然環境の変化と人類≫
 20世紀後半から世界の気温は一貫して上昇している。近年、世界各地で増加している集中豪雨や洪水、干ばつなどの異常気象の多発も、その影響によるものではないかといわれ、テレビや新聞でも地球温暖化をめぐる議論やその対策がたびたび報じられている。 
 気温は年によって、また地域によってかなり変動があるのは当然だが、現在とくに問題になっているのは、地球全体の気温上昇のはやさである。なぜなら、気温の変化も、それが長期間にゆるやかにおこるものもあれば、私たち人類も含めて、多くの動植物はこれまでそれに適応してきたからである。
 人類の歴史のなかで、気候の変動や、それがもたらす環境の変化に人々がどのように対応し、乗り越えてきたかを調べてみれば、現在の気候変動がもたらす問題の深刻さもより正確に理解できるであろう。

≪夏がこない年と小氷期≫
 今からおよそ200年前の1816年は、ヨーロッパやアメリカでは夏になっても気温があがらず、アメリカ合衆国東部では6月に雪が降った。そのため、この年は「夏がこない年」と呼ばれ、深刻な不作が広がり、イギリス・フランスなど各地でパンが値あがりして、貧しい人々は飢えに苦しんだ。
 この冷夏の原因は、1815年におこった、大西洋地域からはるか遠く離れたインドネシアのタンボラ火山の大爆発であった。爆発によって大量の火山灰や火山ガスが大気圏に拡散し、日射量を減少させ、農産物に被害を与えた。また、1883年の同じインドネシアにあるクラカタウ火山の爆発も、数年にわたって北半球の各地域に不作をもたらしたと考えられている。
 このような火山噴火にともなう短期的な気温変化だけでなく、温暖期と寒冷期の交替という大規模で長期にわたる気候変動もあり、それはさらに人類に大きな影響を与えた。気候変動の例をヨーロッパでみてみると、中世は温暖期で、近世から19世紀半ばまでは寒冷期であったことが知られている。近世の寒冷期(小氷期[しょうひょうき]とも呼ばれる)には、たとえばイギリスのテムズ川は17世紀には10回、18世紀には部分氷結を含め8回も凍り、人びとが氷上で遊んだり、露店がならんだこともあったほどである。
<「テムズ川の氷上市」(1683~84年)>~この冬は、テムズ川が3カ月も凍結し、氷の厚さは30cm近くにもなり、多くの見物人を集めた。
(木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』山川出版社、2016年[2020年版]、1頁、4頁~5頁)



「第16章 現在の世界」の「4 現代文明の諸相」には次のようにある。
【環境保護と生活スタイルの変容】
 科学技術の発展は、世界の各地で急速な経済成長による生活水準の向上をうみだすとともに、医療の発達にもたすけられて、人口の急増もうみだした。20世紀初めには約16億人であった世界の人口は2014年には70億4000万人と、約4.4倍に拡大した。このような人口拡大はおもに途上国で顕著であったため、飢餓などの食料問題や資源問題を発生させた。
 また、先進国における急速な重工業化は、都市の過密や大気・河川の汚染、有害廃棄物などの深刻な環境破壊をうみだした。その結果、1960年以降に環境保護や公害反対の運動が活発になり、それぞれの先進国ごとに大気や河川の汚染を規制する法律が制定されたり、環境保護を担当する省庁が設置された。70年代にはいると、環境保護に関して政府や運動の国際的連携がはかられるようになり、72年にはスウェーデンのストックホルムで国連人間環境会議が開催され、国連環境計画が発足した。73年の石油危機後の経済停滞で、環境への関心は一時後退したが、85年にオゾン=ホールが発見されるなど、地球温暖化の危険が指摘されるようになった。これをうけて92年にはブラジルのリオデジャネイロで「環境と開発に関する国連会議」(地球サミット)が開催され、各国が二酸化炭素の排出量を減少させる必要性で合意し、97年の地球温暖化に関する京都議定書でその目標値が設定された。
 このような環境保護運動の進展は、人間と自然の共生を重視するエコロジーの思想や文化を定着させ、他方、高度経済成長による人口の都市集中は、消費者運動をはじめとする新しい市民運動の登場もうみだした。さらに、男女平等をめざすフェミニズムの定着によって日本では「ワーク=ライフ=バランス」など、仕事と家庭の両立可能な社会の構築を求める声も高まっている。
 また、先進国が一様に少子高齢化の傾向を示すなかで、発展途上国から労働者を受け入れる動きも広がり、人権や民族の違いをこえて「多文化共生」をめざす新しい生活スタイルの創造も求められている。
(木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』山川出版社、2016年[2020年版]、411頁~413頁)



【現代思想・文化の特徴】
 (前略)
 また、1960年代から70年代にかけて先進国を中心に台頭した人種平等や男女平等、環境保護などを求める運動は、近代社会が「人種平等」を掲げながら、実際には人種や性の差別を許容していた現実を明らかにし、近代を根本的に批判するポスト=モダニズムの思想が台頭した。さらに、ソ連邦の解体は、マルクス主義の影響力の低下をまねくとともに、巨額の財政赤字をうみだす「大きな政府」論に対する疑問も加わり、20世紀末には市場における自由競争を重視する新自由主義への関心が高まった。しかし、世界規模での自由競争が推奨された結果、国内外で膨大な所得格差が発生したり、投機的な活動が深刻な経済危機をうみだした。これに対して、人間社会におけるなんらかの共同性の回復や福祉国家の役割を見直す動きも出てきている。また、地球規模の環境の危機に直面して、近代以来の社会の「進歩」に対する疑いの感情も発生した。これをうけて、さまざまな集団間の共存を求める「多文化主義」や、環境との共生を求める新しい思想や生活スタイルが模索されるようになっている。
(木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』山川出版社、2016年[2020年版]、414頁)



・また「第IV部のまとめ」として、次のように述べている。
 第IV部では、近代後期の帝国主義時代に始まる地球世界の形成期から、第一次世界大戦を画期として、地球世界が成立する現代の時代を学んできた。
 そして、「地球世界の課題」として、やはり環境問題、地球温暖化について触れている。
【地球世界の課題】
 20世紀後半には、生産力や軍事力によっては解決できない地球全体、人類全体に関わる深刻な問題が出現してきた。地球温暖化、産業化、開発がもたらす環境汚染や森林の減少などの環境問題、エネルギー資源・鉱物資源の枯渇と新エネルギーの開発、人口の増減の地域的不均衡や生活水準・人権などの地域的格差の拡大などは、現代社会が直接的、あるいは間接的につくり出した問題であり、人類が協同し、連帯しなければ対応することができない性格をもっている。

そして、「考えてみよう」では、英語の重要性についても取り上げている。
・グローバル化の結果、英語は英語圏の公用語だけではなく、国際共通語となってきている。私たちの日常生活で使われる日用品や電気機器なども、英語表記のものが多い。身のまわりの道具や器具の名称に日本語ではなく英語表記が広まり出したのはいつ頃からか、またなぜそうなってきたかを考えてみようという。
(木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』山川出版社、2016年[2020年版]、415頁~416頁)


環境問題(Environmental Issues)~地球温暖化


環境問題 Environmental Issues
In the 20th century, when scientific civilization evolved greatly, the environmental
destruction it caused has become a serious issue. Factory smoke and exhaust from
automobiles have produced air pollution, caused acid rain and have even killed forests.
The destruction of the ozone layer by chlorofluorocarbons has had a big impact on the
ecological system. A large evolution of greenhouse gas like CO2 is believed to have given
rise to global warming and led to climate change and rise in sea levels. Desertification
and the decrease of forests are becoming serious issues as well. These problems create
environmental refugees in some areas.
In order to cope with environmental problems, the United Nations Conference on
Environment and Development (the “Earth Summit”) was held in Rio de Janeiro of Brazil in 1992, where Agenda 21 and the Rio Declaration on Environment and Development were
adopted. These were the action plans not only for each government in the world, but also
private organizations and individuals. In the third Session of the Conference of the Parties
to United Nations Framework Convention on Climate Change (COP3) in 1997, the Kyoto
Protocol (Kyoto Protocol to the United Nations Framework Convention on Climate Change) was adopted. The target figure for each country was set for the reduction of greenhouse gas
in agreement. U.S. President Bush parted from the Kyoto Protocol in 2001, but Russia
joined and it became effective in 2005. At the 15th Conference of the Parties (COP15) held
in Denmark in 2009, the Kyoto Protocol was extended and target figure was lowered. An
attempt to formulate a framework that included the United States and China ended in vain.
This process shows that there is a possibility to solve environmental issues through
negotiations and adjustment bargaining among countries, each of which has its own
sovereignty and national interest, but at the same time, also shows the difficulty. So how the efforts by corporations, NGOs and individuals can be linked to these adjustment among
nations is called into question.
(本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』講談社、2017年[2018年版]、346頁)

【語句】次の語句は本文中に併記されている。
・the environmental destruction 環境破壊
・acid rain 酸性雨
・The destruction of the ozone layer オゾン層の破壊
・chlorofluorocarbons フロン
・greenhouse gas 温室効果ガス
・global warming 地球温暖化
・Desertification 砂漠化
・国連環境開発会議(地球サミット) the United Nations Conference on Environment and Development (the “Earth Summit”)
・Agenda 21 アジェンダ21計画
・the Rio Declaration リオ宣言
・the Conference of the Parties to United Nations Framework Convention on Climate Change (COP3)  気候変動枠組条約締約国会議(COP3)
・the Kyoto Protocol 京都議定書

〇福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』東京書籍、2016年[2020年版]において、対応する箇所は次の部分である。
英文の方は、2012年版を底本としているので、若干異なる。
 すなわち、「At the 15th Conference of the Parties (COP15) held…」以降の部分が異なる。
 ただ、「This process shows that…」からは、「この協定をめぐる交渉過程は~」に対応しているようだ。


【環境問題】
 20世紀には科学技術が発展したが、それが生みだした環境破壊が大きな問題となった。工場や自動車の排気ガスによる大気汚染は、酸性雨をもたらして森林を破壊し、また、フロンにおるオゾン層の破壊が生態系に大きな影響を与えている。二酸化炭素などの温室効果ガスの大量発生は、地球温暖化をまねき、気候変動や海水面の上昇をもたらすとされ、砂漠化や森林の減少も大きな問題となっており、環境難民も生まれている。
 環境問題に対処すべく、1992年にブラジルのリオデジャネイロで国連環境開発会議(地球サミット)が開催され、国、民間機関、個人がとるべき行動をまとめたアジェンダ21計画とリオ宣言が採択された。また、97年の第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)は、京都議定書を採択して温室効果ガスの排出を削減するための数値目標を定めた。アメリカ合衆国のブッシュ(子)(G.W.Bush、在職2001~09)大統領が2001年に京都議定書からの離脱を表明したが、この議定書はロシアが加わって05年に発効した。その後、合衆国と中国を加えた枠組みの形成が模索された。15年にパリで開催された第21回会議(COP21)では、196の国と地域がパリ協定に合意した(16年発効)が、合衆国は2017年に誕生したトランプ政権が同協定からの離脱を表明した。この協定をめぐる交渉過程は、国家間の交渉と調整による環境問題解決の可能性と困難さを示している。今後、企業、NGO、個人の取り組みが問われている。
(福井憲彦、本村凌二ほか『世界史B』東京書籍、2016年[2020年版]、428頁~429頁)

なお、本村凌二ほか『英語で読む高校世界史』の結末部分の次の箇所は、日本語の方は削除されている。一応、紹介しておく。

〇Prospect for the 21st Century
In the globalized modern world where mainly economic integration is advancing,
many problems are interconnected on a global or regional scale. Thus corporations and
individuals, as well as nations, must cope with the problems based on global or regional
cooperation.
The global or regional integration strategy works to prevail the values of democracy and
freedom, and permanent standard. But there are movements that oppose it and support to
respect each region’s originality.
The 21st century might become a turning point in world history. Based on past history,
how can you be involved in the sustainable growth of the world or region as citizens of the
earth(地球市民)? This is the biggest question.
(本村凌二ほか『英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY』講談社、2017年[2018年版]、349頁)


浜林正夫『世界史再入門』における環境問題への言及


浜林正夫『世界史再入門 歴史のながれと日本の位置を見直す』(講談社学術文庫、2008年[2012年版])においても、「第8章 21世紀はどういう世紀か」の「第9節 21世紀の課題」において、環境問題、地球温暖化、気候変動について言及している。

【第9節 21世紀の課題】
〇今後の大きな課題は、地球環境問題であると著者もいう。
 国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPPC)」は、2050年には2000年にくらべCO2排出量を50~80パーセント削減しなければならないと指摘している。
 しかし、取り組みがもっとも遅れているのはアメリカ、もっともすすんでいるのはEU諸国で、日本は排出量規制の目標を経団連の自主性に委ねており、政府のリーダーシップが問われている。
 なお、京都議定書は軍事的な必要による排出量には触れていないという大きな問題点を残していることも見逃してはならないという。
(浜林正夫『世界史再入門』講談社学術文庫、2008年[2012年版]、304頁)

斎藤幸平『人新世の「資本論」』における環境問題への提言


斎藤幸平『人新世の「資本論」』集英社新書、2020年[2021年版]においても、環境問題、地球温暖化、気候変動について、正面から取り上げている。

<「人新世」という用語について>
・人類の経済活動が地球に与えた影響があまりに大きいため、ノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェンは、地質学的に見て、地球は新たな年代に突入したと言い、それを「人新世(ひとしんせい)」(Anthropocene)と名付けた。人間たちの活動の痕跡が、地球の表面を覆いつくした年代という意味である、と斎藤氏は説明している。
(斎藤幸平『人新世の「資本論」』集英社新書、2020年[2021年版]、4頁)

・本書は、そのマルクスの『資本論』を折々に参照しながら、「人新世」における資本と社会と自然の絡み合いを分析していくとする。
(もちろん、これまでのマルクス主義の焼き直しをするつもりは毛頭ないという。)
 150年ほど眠っていたマルクスの思想のまったく新しい面を「発掘」し、展開する。
 この「人新世の『資本論』」は、気候危機の時代に、より良い社会を作り出すための想像力を解放してくれるそうだ。
(斎藤幸平『人新世の「資本論」』集英社新書、2020年[2021年版]、6頁~7頁)

<▶外部を使いつくした「人新世」>
・人類の経済活動が全地球を覆ってしまった「人新世」とは、収奪と転嫁を行うための外部が消尽した時代である。
 資本は、石油、土壌養分、レアメタルなど、むしり取れるものはむしり取ってきた。
 この「採取主義」(extractivism)は地球に甚大な負荷をかけている。
 ところが、資本が利潤を得るための「安価な労働力」のフロンティアが消滅したように、採取と転嫁を行うための「安価な自然」という外部もついになくなりつつある。

 資本主義がどれだけうまく回っているように見えても、究極的には、地球は有限である。
外部化の余地がなくなった結果、採取主義の拡張がもたらす否定的帰結は、ついに先進国へと回帰するようになる。
 ここには、資本の力では克服できない限界が存在する。
 資本は無限の価値増殖を目指すが、地球は有限である。外部を使いつくすと、今までのやり方はうまくいかなくなる。危機が始まる。これが「人新世」の危機の本質である、という。
 その最たる例こそ、今まさに進行している気候変動だとする。
 (日本のスーパー台風やオーストラリアの山火事など、その被害が先進国でも可視化されるようになっている。)
 気候変動対策の時間切れが迫るなか、果たして私たちはなにをなすべきなのか、と問いかけている。
(斎藤幸平『人新世の「資本論」』集英社新書、2020年[2021年版]、36頁~37頁)

・このように、斎藤幸平先生は、「人新世(ひとしんせい)」(Anthropocene)を、人間たちの活動の痕跡が、地球の表面を覆いつくした年代という意味で用い、その「人新世」の危機の本質を気候変動と捉えている。その最たる例として、日本のスーパー台風やオーストラリアの山火事を挙げている。

☆【補足】IPCCに対する斎藤幸平先生の批判
 IPCCについて、「第二章 気候ケインズ主義の限界」の「▶ IPCCの「知的お遊び」」(93頁~94頁)において、IPCCのモデルは経済成長を前提としており、「経済成長の罠」にはまってしまっている、と斎藤幸平先生は批判している。