歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪2023年 わが家の稲作日誌≫

2023-12-31 18:30:03 | 稲作

【はじめに】


 「2023年 わが家の稲作日誌」として、今年の稲作の主な作業日程を振り返ってみたい。
今年はとりわけ夏が暑く、この高温障害が収穫に如実に現れた年であった。
収穫量が減少したことのみならず、カメムシによる斑点米も例年よりも多かった。
どのような天候の下での稲作であったのか、回顧しておくことにしたい。




執筆項目は次のようになる。


・【はじめに】
・【2023年の稲作行程・日程】
・【2023年の稲作の主な作業日程の写真】







【2023年の稲作行程・日程】


2023年の稲作行程・日程を箇条書きに書き出してみた。

・2023年2月1日(水) 晴 5℃(0~10℃)
  18:30~19:30 JAにて集落座談会
 後日、2月2日 JA資産相談センターより電話

・2023年3月1日(水) 晴 10℃(6~16℃)
  9:00~9:30 稲作の耕作依頼に伺う

・2023年4月3日(月) 晴 12℃(9~16℃)
  9:30~10:00 刈り払い機の混合油を購入 5リットル1430円
  10:00~10:30 そば畑(小作地)の状況確認

・2023年4月4日(火) 晴 17℃(11~21℃)
  9:00~10:00 そば畑の草刈り
  10:00~11:00 田の草刈り
    特に小道・小屋の周りにカラスノエンドウが30センチ以上に繁茂
    11:00の混合油が切れる
  11:00~11:30 自宅周辺、車庫のかしらの草刈り

・2023年4月24日(月) 曇 14℃(6~14℃)
  陽射しなく風があり、好都合な天気
  9:00~12:00 そば畑の草刈り
   最初の2時間は田の草刈り(特に畦の内側を念入りに)
   後の1時間はレーキで草寄せ

・2023年4月28日(金) 晴 21℃(13~24℃)
  9:00~10:00 果樹畑の草刈り
  10:00~11:00 田の草刈り続き 
  11:00~11:40 裏山のタケノコ取り(3本のうち2本は高い所に)

・2023年5月3日(水) 晴 20℃(12~24℃)
  8:50      委託者から電話(今日の夕方か明日畦ぬりをするとのこと)
  9:00~10:00 レーキで草寄せ(畦の上の草を田んぼの中に寄せる)
  10:00~11:00 鎌で畦の斜面の草取り

・2023年5月11日(木) 晴 20℃(8~21℃) 風さわやかに吹く
  9:00~11:00 田の草刈り(進入路と畦の横を中心に)
  11:00~11:30 草寄せと水路そうじ

・2023年5月13日(土) 雨 17℃(14~18℃) 風さわやかに吹く
  10:00~11:20 土地区画組合の監査
  11:30~11:50 田の水入れと溝の泥よけ(水路に石を置き、水量調整)
 ※5月20日過ぎ頃に田植えの予定(土地区画組合の総会26日の前に)

・2023年5月22日(月) 曇 22℃(14~23℃) 
  10:00~10:30 田んぼ 中切りしてある
  上下の田のち、下の田の水が減っており、30分間水入れ
  土嚢袋を2袋新調して、置いてくる

・2023年5月24日(水) 晴 21℃(13~22℃) 
  9:40~11:20  田の水入れ(特に下の田)
 ※前日、叔父の葬儀(11:00~16:30)

・2023年5月25日(木) 晴 21℃(15~25℃) 
  10:00~10:15 県土の職員と建設会社 そば畑の嵩上げ、水路の件で現地で確認
  10:20~10:50 下の田の水入れ

・2023年5月26日(金) 曇 20℃(16~25℃) 
  17:00~19:15 土地区画組合の総会
 ※総会後、明日10時頃から田植えをするとのこと

・2023年5月27日(土) 晴 28℃(17~29℃) むし暑い
  9:00~9:30  昼食の買い出し(寿司、総菜、唐揚げ、サラダ、柏餅)、届ける
  9:40~10:10 田の水調整
  10:20~11:50 田植え
【田植えの写真】


・2023年6月5日(月) 晴 26℃(17~28℃) 
  9:00~11:00  補植(特に下の田、北側の東~畳1枚分、上の田の北側)
   ※まだ苗が余る
    下の田に水をかなり入れる。上の田は真ん中あたりの土が出ている。
    下の田の西側が少し高く、水が行き渡らず

・2023年6月6日(火) 曇のち小雨 22℃(15~23℃) 
  9:00~10:30 畑の草刈り~途中から小雨が降ってくる
  10:30~12:00 田の草刈り(真ん中の畦の斜面と小道以外)
          上下の田の水を調整して入れる

・2023年6月7日(水) 晴 26℃(17~28℃) 
  9:30~11:00 上下の田の水入れ(5本ほど浮き稲を直す)

・2023年6月12日(月) 晴 27℃(19~27℃) 
  8:50~11:50 田の水入れ(特に下の田)
  9:00~9:40 春の耕作代金を支払いに行く 
  10:00~11:50 小作地の草刈り(後半30分はレーキで草寄せ)
  11:50~12:00すぎ 車庫のかしらの草刈り、破竹20本切る


・2023年6月15日(木) 曇 22℃(18~26℃)
  10:00~11:00 昨日雨だったのに、下の田のみ水不足

・2023年6月16日(金) 晴 25℃(17~27℃)
  17:30~19:30 田の水入れ(下の田乾いている)
  (18:30~19:00 土地区画組合の役員会)

・2023年6月18日(金) 曇 24℃(19~28℃)
  8:00~9:20 市の清掃活動

・2023年6月19日(月) 曇 25℃(18~26℃)
  9:30~11:30 第2回目の補植、下の田の水入れ
 ※今年の補植方針~秋の稲刈り(手刈りのこと)を考えて、田の端の列には植えないことにする。

・2023年6月20日(火) 晴 26℃(18~27℃)
  10:00~11:30 水入れ(特に下の田)

・2023年6月23日(金) 晴 26℃(20~27℃)
  10:00~11:00 水入れ(石で調整して帰る)
 (その間に、混合油(5ℓ、共立用刈り払い機)を買いに行く 1430円)
<注意>
 ・苗束を放置すると、イモチ病になるとのこと。
 ・中干しのとき雑草を抜いて回るのがよい(特にノビエとホタルイ)

・2023年6月26日(月) 雨ひどし 23℃(22~26℃)
  10:00~10:30 水を止める
 ※明日で田植えから1カ月、15に分げつしている株もある
  田の隅や畦の脇に雑草が生え始める

・2023年6月27日(火) 晴 29℃(23~32℃)暑い
  9:30~11:30 草刈り(共立、始動スイッチに注意)
   南側と真ん中の畦と小道(開始時は昨日の雨でまだ濡れていた)
   同時水入れ
・2023年6月29日(木) 曇 30℃(24~31℃)
  10:00~11:00 ホームセンターで草刈り鎌とさび止めスプレーを購入
   ➡草刈り鎌を田んぼの中の雑草で試す

・2023年7月5日(水) 雨 24℃(22~28℃)
  9:30~9:45 田の様子見
 ※7月3日 九州の熊本で線状降水帯が発生。水田にも被害あったそうだ。

・2023年7月7日(金) 曇 30℃(~℃)
  9:00~9:30 車庫のかしら 草刈り 蒸し暑く、風なく辛い
  9:30~11:30 田んぼの残り半分 草刈り
  (機械の進入路、北側と東側の畦と法面)

・2023年7月18日(火) 曇時々晴 31℃(25~34℃)
  10:30~11:00 田んぼの様子見

・2023年7月20日(木) 晴 28℃(23~29℃)
  11:00~11:30 田んぼの水入れ(水路の石で調整)
 ※中国地方 梅雨明けのニュース

・2023年7月23日(月) 晴 34℃(25~34℃)
  9:00~10:30 小作地A草刈り
 10:30~12:00 小作地B草刈り(混合油を車に積んでいて、入れ足す)

・2023年7月27日(木) 晴 34℃(25~34℃)
  10:30~11:00 田の水調整(下の田は水十分だが、上は乾いている)
  上の田に「クサネム(草合歓)」が生えている
 ※クサネムについて
・マメ科クサネム屬の一年草。
 学名:Aeschynomene indica L. 英名:indian jointvetch
・葉は羽状複葉で、和名も葉がネムノキに似ていることに由来する。
 ネムノキと同じように、暗くなると小葉を閉じるという。
【クサネムの写真】




・2023年8月2日(水) 晴 35℃(26~36℃)
  10:30~11:00 田の水入れ(特に下の田んぼ)

・2023年8月3日(木) 晴 36℃(26~37℃)
  9:00~11:30 猛暑の中、草刈り
 (途中、3回休憩~今までで一番辛く感じる、水筒のお茶、塩飴持参)


・2023年8月7日(月) 曇時々晴 32℃(27~32℃)
  9:00~12:00 田の草刈り、田の中の草取り(クサネム20本)
 ※昨日まで36~37℃のうだるような猛暑日

・2023年8月8日(月) 曇 34℃(28~35℃)
  10:30~11:00 田の様子見(上の田の一部が乾く)
 昨日の草刈りの草が水路につまっていたので除去

・2023年8月21日(月) 晴 34℃(26~34℃)
  9:20~10:20 JAにて水路管理会の払戻金の振込手続き
  11:00~11:30 田の様子見、ほぼ出穂終了(写真撮影)
【出穂の写真】


・2023年8月31日(木) 曇(午後雨) 30℃(25~33℃)
  9:30~10:00 田の様子見~生育順調か?
  ※畦の草が伸びてスゴイ勢い。ヒエ~上の田の南側の畦近くに。あとクサネム。

・2023年9月4日(月) 晴 30℃(25~31℃)
  9:00~12:00 草刈り(共立の刈払い機)小道と進入路は残る。
 ※刈り方を工夫~中央の畦は、田の方から畦に向けて、南側から刈り上げる。
         それから畦の上を刈る手順で。

・2023年9月13日(水) 晴 29℃(24~33℃)
  10:30~11:00 クサネム10本(特に上の田の北側)を鎌で刈る

・2023年9月19日(火) 晴 30℃(22~31℃)
  9:00~11:30 草刈り~小道と道路わきと北側の法面
 ※小道の先は、クズが道をおおう

・2023年9月29日(金) 晴 28℃(19~29℃)
  10:30~11:00 田の様子見~今週はずっと雨が降り、草刈りが不可。

・2023年10月2日(月) 晴 25℃(14~25℃)
  9:30~10:00 道路の脇と車庫のかしら 草刈り
  10:00~12:00 田んぼの中央の畦、東側・南側の畦 草刈り
 ※特に中央の畦には、メヒシバが繁茂

・2023年10月9日(月) 晴 25℃(14~25℃)
  7:50 委託者に稲刈りの件で電話~明日は雨なので、明後日は会合があるので、
   10月12日(木)~14日(土)の3日間のうちに稲刈りを予定

・2023年10月11日(水) 晴 21℃(14~22℃)
  8:30~10:30 地区の企業説明会(9:00~9:30 事務局長の説明)
 14:00~17:00 田の四隅を手刈りと雑草抜き(クサムネとヒエ)
 ※上の田の小屋の陰となっている一区画は、生育が悪い(日照不足)

・2023年10月12日(木) 晴 22℃(12~23℃)
  9:30~11:30 草刈り~畦の内側(特に中央の畦)と草寄せ 

・2023年10月13日(金) 晴 21℃(13~22℃)
  9:00~9:40 お昼の寿司、惣菜、お菓子などを買い出し
  10:00~11:00 四隅の手刈りをもう少し(特に上の田の北側)
  11:00~12:15 コンバインにて稲刈り
  ※16日(月)ではなく、17日(火)か18日(水)にお米の搬入予定
   だいたい、夏の高温のため、去年よりも収穫量が少ない傾向にあるとのこと

<手刈りの注意点>
・正方形でなく長方形に刈る
・とくに上の田の北側、ブロック壁のあるところ
・下の田の小屋の隅

【稲刈りの写真】



・2023年10月16日(月) 晴 21℃(13~24℃)
  9:30~11:00 米の冷蔵庫の掃除(水タンクが満杯であった)

・2023年10月18日(月) 晴 17℃(12~25℃)
  9:10~9:50 お米の搬入 11袋と20キロ
<去年よりも収穫量少なかった理由>
・夏の高温障害、お盆の頃の出穂期に雨が降り続いたこと、9月の日照不足か?
・クサネムの雑草が多かった。

・2023年10月19日(木) 晴 23℃(15~25℃)
  9:30~10:00 新米の端数20キロを精米に行く

・2023年10月24日(火) 晴 20℃(11~22℃)
  17:20 電話で秋の耕作代を尋ねる 

・2023年10月25日(水) 晴 18℃(11~23℃)
  9:00~9:40 秋の耕作代の支払い クズ米代 

・2023年11月1日(水) 晴 19℃(15~24℃)
  9:20~10:15 父親の知り合いに新米5キロを届ける 



≪雑草のはなし~田中修氏の著作より≫

2022-11-26 19:30:26 | 稲作
≪雑草のはなし~田中修氏の著作より≫
(2022年11月26日投稿)
 

【はじめに】


 水田や畑の草刈りをしていると、雑草を見る。
 夏場の草刈りほど、辛いものはない。稲作は、雑草との闘いでもある。
 どうしても、雑草のことについて知りたくなる。
 雑草の性質をより詳しく調べて、対処したくなる。
 そこで、今回は、雑草についての本を紹介してみることにする。
 田中修氏の次の本がそれである。

〇田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]
 この本を読んで、一番面白かったのは、植物名の由来について述べてある点であった。
 それを中心に、生活に役立つ情報、例えば、花粉症、マジックテープの発見にまつわるエピソードなども、紹介してみたい。
 
【田中修氏のプロフィール】
・1947年(昭和22年)、京都に生まれる。京都大学農学部卒業、同大学院博士課程修了
・スミソニアン研究所(アメリカ)博士研究員
・甲南大学理工学部教授などを経て、現在、同大学特別客員教授
・農学博士 専攻・植物生理学
<主な著書>
・『植物はすごい』(中公新書)
・『ふしぎの植物学』(中公新書)





【田中修『雑草のはなし』(中公新書)はこちらから】
田中修『雑草のはなし』(中公新書)





〇田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]
【目次】
はじめに
第一章 春を彩る雑草たち
第二章 初夏に映える緑の葉っぱ
第三章 夏を賑わす雑草たち
第四章 秋を魅せる花々と葉っぱ
第五章 秋の実りと冬の寒さの中で

参考文献
写真撮影者・提供者一覧
索引




はじめに
第一章 春を彩る雑草たち
・タンポポ(キク科)
・一個のタネが、六カ月で、何個に増えるか?
・日本タンポポを駆逐した犯人は?
・レンゲソウ(マメ科)
・忘れられたレンゲソウ・パワー
・カラスノエンドウ(マメ科)
・音を奏でる実
・オオイヌノフグリ(ゴマノハグサ科)
・たった二本しかないオシベの秘密
・メシベは、なぜ、他の株の花粉をほしがるのか
・ハルジオン(キク科)とヒメジョオン(キク科)
・「ハルジオン」は「ハルジョオン」ではない
・ハルジオンのツボミは恥ずかしがり屋
・ヒメジョオンのツボミはうつむかない
・春の七草
・春に花咲く草花は、夏の暑さの訪れを予知する
・セリ(セリ科)
・ナズナ(アブラナ科)
・ハハコグサ(キク科)
・ハコベ(ナデシコ科)
・コオニタビラコ(キク科)
・スズナ(アブラナ科)とスズシロ(アブラナ科)
・ホトケノザ(シソ科)
・生きる工夫を凝らした花
・ヒメオドリコソウ(シソ科)
・ニワゼキショウ(アヤメ科)
・ハルノノゲシ(キク科)
・トキワハゼ(ゴマノハグサ科)
・シロバナタンポポ(キク科)
・タンポポに肥料を与えたら?
・ツメクサ(ナデシコ科)
・スミレ(スミレ科)
・タネツケバナ(アブラナ科)
【コラム】「小葉」は、小さい葉ではない
【コラム】花の集まった花
【コラム】タンポポの花の開閉運動は誤解された

第二章 初夏に映える緑の葉っぱ
・オオバコ(オオバコ科)
・オシベとメシベのすれ違い
・発芽に必要な光
・ウキクサ(ウキクサ科)
・ウキクサ牧場
・アオウキクサ(ウキクサ科)
・栄養不足で、花が咲く
・ワラビ(コバノイシカグマ科)
・ワラビも有性生殖をする
・スギナ(トクサ科)
・ツクシが見られなくなる日
・スギゴケ(コケ植物蘚類)
・コケにも、オスとメスがある
・カタバミ(カタバミ科)
・開きっぱなしになる花
・クローバー(マメ科)
・背丈を競うクローバー
・カモガヤ(イネ科)
・花粉症の発見
・ノシバ(イネ科)とコウライシバ(イネ科)
・シバのハングリー精神を刺激する
・シロザ(アカザ科)とアカザ(アカザ科)
・温度が変化しないと、発芽しないタネ
・ヤエムグラ(アカネ科)
・スズメノテッポウ(イネ科)
・スズメノカタビラ(イネ科)
・イタドリ(タデ科)

【コラム】期待されるオオバコの「発芽習性」
【コラム】花が咲くと、植物は病気に強くなるのか
【コラム】植物たちの悩み

第三章 夏を賑わす雑草たち
・ツユクサ(ツユクサ科)
・アオバナの活躍
・雑草の運命
・ネジバナ(ラン科)
・ヘクソカズラ(アカネ科)
・ヒルガオ(ヒルガオ科)
・ヒルガオ、ユウガオ、ヨルガオで仲間ではないのは、どれか?
・ツキミソウ(アカバナ科)
・ツキミソウの花は、月の出を待っているか
・ボタンウキクサ(サトイモ科)
・ホテイアオイ(ミズアオイ科)
・水質の浄化に利用できるか
・花の咲く時刻は決まっている
・ヤブガラシ(ブドウ科)
・スベリヒユ(スベリヒユ科)
・ドクダミ(ドクダミ科)
・イヌビエ(イネ科)
【コラム】気孔を接着剤で見る
【コラム】悩ましい「左巻き」と「右巻き」
【コラム】気になる名前
【コラム】「3K」に強い植物

第四章 秋を魅せる花々と葉っぱ
・ヒガンバナ(ヒガンバナ科)
・ヒガンバナはタネをつくらないのか
・葉っぱはどこにあるのか
・セイタカアワダチソウ(キク科)
・暴かれたセイタカアワダチソウの秘密
・ヒメムカシヨモギ(キク科)
・オオアレチノギク(キク科)
・秋の七草
・ハギ(マメ科)
・ススキ(イネ科)
・クズ(マメ科)
・ネザサ(イネ科)
・タケの花
・ササの開花は予告できる
・コニシキソウ(トウダイグサ科)とニシキソウ(トウダイグサ科)
・ヨモギ(キク科)
・ブタクサ(キク科)
・ミズヒキ(タデ科)
・カナムグラ(クワ科)
【コラム】もうヒガンバナとは呼ばれない
【コラム】ササやタケの花は、一生に一度しか見られないか
【コラム】秋に出る「来春の花粉飛散情報」に、根拠はあるか

第五章 秋の実りと冬の寒さの中で
・オナモミ(キク科)
・「ひっつき虫」が生んだ、ふしぎな商品
・夜の長さを正確にはかる葉っぱ
・オナモミを有名にした実験
・フウセンカズラ(ムクロジ科)
・ヒメクグ(カヤツリグサ科)
・メヒシバ(イネ科)とオヒシバ(イネ科)
・ヒカゲイノコズチ(ヒユ科)とヒナタイノコズチ(ヒユ科)
・エノコログサ(イネ科)とアキノエノコログサ(イネ科)
・イヌタデ(タデ科)
・寒さがなければ発芽しないタネ
・オニノゲシ(キク科)
・スイバ(タデ科)とギシギシ(タデ科)
・ロゼットとは?
・ドクムギ(イネ科)
・寒さを受けて、春化する
・イタリアンライグラス(イネ科)とトールフェスク(イネ科)
・一年中青々した芝生の秘密
【コラム】タネの個数
【コラム】冬の甘さは、身を守る

参考文献
写真撮影者・提供者一覧
索引




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・植物名の由来
・春の七草
・秋の七草
・三大民間薬
・三大花粉症
・「ひっつき虫」が生んだ、ふしぎな商品
・寒さを受けて、春化する






植物名の由来


タンポポ(キク科)


「第一章 春を彩る雑草たち」より
〇タンポポ(キク科)の名の由来
・葉のまわりには、ギザギザの深い切れ込みがある。
 このギザギザの様子から、何が連想されるだろうか。
 このギザギザをライオンの歯に見立てて、この植物の英名は、「ライオンの歯(dandelion)」
である。

・日本語のタンポポという名の由来には、いくつかの説がある。
 その中で、もっとも心をひかれるのは、「タンポンポン」という音に基づくものである。
 タンポポの花をつけている花茎を切り出すと、中はストローのように空洞である。
 その花茎の小さな断片の両端にいくつかの切れ込みを入れ、水につける。少し時間が経つと、両端の切れ込みが反り返り、鼓(つづみ)のような形になる。
 その姿から、「タンポンポン、タンポンポン」という、鼓の音が聞えてくるようであり、「タンポポという名が生まれた」といわれる。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、2頁)

スミレ(スミレ科)


・スミレは、春を代表する草花である。
 3月から5月にかけて、葉っぱの間から、花茎を出し、1本に1個のかわいい花をつける。
 花の色は、濃い紫色が印象的である。この花の色は、アントシアニンという色素によるものである。
・花は5枚の花びらからなり、上に2枚、その横下に2枚、一番下に唇形の1枚を配している。
 この花の形が、大工さんの使う墨壺(すみつぼ)に似ており、「墨入れ」の意味から「スミレ」という名前になったという。

・春が終わってもツボミはできるが、初夏を過ぎてできたツボミはほとんど開かない。
 これは、ホトケノザの項で紹介した閉鎖花といわれる花で、ツボミの中で自分のオシベとメシベで受粉、受精をしてタネをつくる。確実に子孫を残すための特別の花である。
・タネには、ホトケノザで紹介したのと同じアリの好物エライオソームがついており、アリがこのタネを運ぶ。
 アリがタネを選ぶからであろうか、「どこから、タネがきたのか」とふしぎに思うほど、突然、石垣の間とか、コンクリートの割れ目などの思いがけない場所に育ち、花が咲く。

※栽培品種として、色がさまざまの三色スミレ(パンジー)やビオラがある。
 「ビオラ」は、スミレの学名である。
 これらはヨーロッパ原産の野生スミレが改良されたものである。
 近年では、これらの栽培品種は、冬に、春のように花を咲かせる。
 冬の花壇に並んで植えられ、黄色、紫色、白色、紅色、オレンジ色などの多彩な花を咲かせている。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、46頁~47頁)

スギナ(トクサ科)


・河原や土手、畑や空き地などによく生える雑草であるスギナは、花を咲かせない。
 私たちがシダ植物と思っているシダとは姿が異なるので、シダ植物と思いにくいが、スギナはシダ植物である。
 だから、タネができず、タネの代わりに胞子で増える。胞子をつくるのは、地下茎から出るツクシである。

・ツクシは、スギナの地下茎についているので、「付く子」とか、土を突くように出てくるので「突く子」という説がある。
 ツクシの姿が、筆の先端に似ているので、漢字では、「土筆」と書かれる。
 
・昔から、「ツクシ誰の子、スギナの子」といわれる。
 しかし、「ツクシがスギナの子」と知る若い人は少ない。
 スギナの生育地がどんどん減ってきて、ツクシを見る機会がないからであろう。
 その気になって探さないと、春にツクシを見るのは、今ではそんなに簡単なことではなくなっている。
(ほんとうに、「ツクシは、スギナの子か」と問われると、ちょっと困るそうだ。
 地下茎から出てくるのだから、子供ではなく、兄弟というほうが正しいかもしれない。しかし、同じように地下茎から出るタケノコを「タケの子」というのだから、「ツクシは、スギナの子」でいいのだろうという)
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、65頁~66頁)

ヤエムグラ(アカネ科)


・春になって発芽するものもあるが、多くは秋に芽生えて、冬を越す。
 6~8枚の細長い葉が茎の一つの節を輪のように取り囲んで生える。その特徴的な姿から、この植物は、すぐに見つけられる。6~8枚の葉が一つの節から広がった姿は、勲章のようであり、昔、子供が胸に飾って遊んだので、「勲章花」の名もある。
・「ムグラ(葎)」は、よく茂っている様子を表す語である。
 だから、幾重にも重なって成長するという意味で、「八重ムグラ」といわれたり、一つの節から6~8枚の葉がでていることから、「八重」といわれたりする。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、84頁~85頁)

スズメノテッポウ(イネ科)


・水田や湿地の雑草であるが、都会では、湿った道端に生える。
 春に、緑色の多くの花を、長さ約5センチメートル、幅5ミリメートルくらいの円柱状につける。これが褐色に見えるのは、オシベの色のためである。
 多くのタネをつける代表的な雑草で、大きい株では、約4万個のタネをつける。
・「スズメ」は、小さいサイズを意味している。
 スズメノテッポウの名は、花をつけた円柱を鉄砲に見立てている。
 同じ植物だが、これを槍(やり)に見立てれば「ズズメノヤリ」、枕に見立てれば「スズメノマクラ」と呼ばれることもある。
 ただ、「ズズメノヤリ」というイグサ科の植物は、別に存在するそうだ。

※イネ科の植物はほとんどがイネと同じような葉っぱを持つから、花が咲き、タネが実るまで、植物名はわからないものが多いそうだ。
 結実すれば、特徴のあるものが多く、わかりやすい。スズメノテッポウはその代表例である。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、84頁~85頁)

スズメノカタビラ(イネ科)


・タネは秋に発芽し、線のように細い葉っぱが展開して冬を越し、春から初夏に開花する。
 葉っぱはシバとよく似た姿なので、ゴルフ場の芝生の中に生えると、外観上、シバとこの植物の区別はむつかしい。
 ところが、この植物は育つとかなり大きい株になり、花を咲かせて、芝生の見栄えが悪くなる。だから、シバをきれいに栽培している庭やゴルフ場では、やっかいな雑草である。

・先述したように、「スズメ」は、小さいサイズを意味している。
 「カタビラ(帷子)」は「ひとえもの」といわれる「裏地のない衣服」の意味である。
 この植物の穂の形を「カタビラ」に見立てているのだろう。

※植物名を飾る「カラス」という語は、「スズメ」より少し大きい場合に使われる。
 スズメノカタビラに対して、もう少し大きいカラスノカタビラがある。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、86頁~87頁)

ヒガンバナ(ヒガンバナ科)


・ヒガンバナは、中国から渡来して、野や畑の畦で育っている。
 秋の彼岸の頃、ツボミをつけた茎が、土の中からまっすぐ伸びだし、真っ赤な花を咲かせる。
 近年、同じ仲間の園芸品種のネリネが、「ダイヤモンド・リリー」の名で人気を高めており、ヒガンバナの球根も通信販売で売られるようになっているそうだ。

・この植物の学名は、「リコリス・ラジアータ」である。
 「リコリス」は、「ギリシャ神話に登場する美しい海の女神『リコリス』に由来する」と言われる。(また、ローマ時代の女優の名に因むとの説もある。)
 「ラジアータ」は「放射状」という意味である。花が完全に開いたとき、花が放射状に大きく広がっている様子に因んでいる。
・英名では、「red spider lily」である。
 赤い(レッド)クモ(スパイダー)が足を広げているユリ(リリー)のような印象があるのだろう。

・日本では、この植物は多くの呼び名を持つ。 
 地方ごとに、「ソウシキバナ」「ハカバナ」「ユウレイバナ」「シビトバナ」「カジバナ」などと呼ばれている。
 呼び名の数は、「日本全国で数百もある」とか「1000種を超える」ともいわれる。
 しかし、秋のお彼岸にご先祖様のお墓参りに趣を添えてくれる花と考えれば、天上に咲く赤い花を意味する「マンジュシャゲ(曼珠沙華)」がもっともふさわしい別名であろう。

・燃えるように見える赤い花に因んで、子供たちに「家に持ち帰ったら、火事がおこる」ということもある。
 「カジバナ」と呼ばれる所以でもあろうが、子供がこの植物に触るのを戒める言い伝えであろうという。
 なぜなら、この球根には、毒が含まれているからである。
※毒の名は、この植物の学名「リコリス」に因んで、「リコリン」というかわいい名前である。
 名前はかわいくても、毒であるから、ネズミやモグラはこの球根を避ける。
 だから、昔から人間はこの植物を田や畑の畦や、墓のまわりに植えたという。
 ネズミやモグラがこの毒を嫌い、荒らさないからである。
※「ハカバナ」「シビトバナ」「ユウレイバナ」と呼ばれるのは、お墓のまわりにあるために、気色悪い印象を持たれるからである。

※この球根には、毒も含まれるが、栄養分が蓄えられている。
 毒は水に溶けるので、すりつぶしてさらしたり煮たりしたら、取り除かれるそうだ。
 救荒作物として、飢饉の際の飢えを救ってきた歴史があるという。
 しかし、毒性はかなり強いので、どのくらいさらしたり煮たりしたら安全に食べられるのかについての定説は見当たらない。
(食糧の十分ある今の時代に、無理をして、これを食べる必要はないであろう)

・ヒガンバナの呼び名に、「ハミズハナミズ」というのがある。
 何のことかと思われるだろうが、「葉は花を見ず、花は葉を見ず」の略である。
 ヒガンバナでは、葉と花が出会うことがないということを意味している。
 「出会うことがないので、お互いが思いあい、花は葉を思い、葉は花を思う」という意味から、「相思華」と書かれることもある。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、118頁~125頁)

セイタカアワダチソウ(キク科)


・セイタカアワダチソウは、春から夏にかけて、スラリと背丈を伸ばし、高さは2メートルを超えることもある。
 初秋から、黄色い花を多く咲かせる。晩秋には、白い綿毛が泡だつように見える。
 だから、「背高泡立ち草」といわれる。
 冬には、茎はなく、葉が地表にへばりつくような姿で、寒さをしのぎ、太陽の光を浴びている。
・英名は、「トールゴールデンロッド」である。
 さしずめ、「背の高い(tall)金(golden)のムチや竿(さお rod)」という意味であろう。
 美しい黄色の花を咲かせる背の高い様子を形容したのか、あるいは、昔、この茎はムチや釣竿(つりざお)としてほんとうに使われたのだろうか、と著者は記す。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、125頁~126頁)

エノコログサ(イネ科)とアキノエノコログサ(イネ科)


・オナモミ、フウセンカズラは、特徴のある印象的な実をつけるが、毛むくじゃらのような、こっけいな姿の穂をつける代表は、エノコログサである。
 道端に直立した茎がポツンと生え、風に揺れている姿が印象的である。
 穂がまっすぐなものがエノコログサだが、穂が少し湾曲しているアキノエノコログサや、穂が金色に輝くキンエノコログサを総称して、「エノコログサ」といわれることが多い。
・特徴的な穂が、イヌの子(エノコロ)の尾に似ていることもあり、「狗尾草」と書かれる。
・国が変われば見立てるものも変わる。
 英語では、フォックステール・グラス(foxtail grass)とキツネ(fox)の尾(tail)にたとえられる草(grass)である。
・ネコジャラシという呼び名は、「穂でネコを遊ばせるとじゃれる」という意味だろう。
 「ケムシグサ」という名もあるが、「ケムシ」のような穂の見かけそのままである。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、159頁~160頁)

イヌタデ(タデ科)


・「タデ食う虫も好き好き」といわれる。
 「タデのように辛くおいしくないものでも、好き好んで食べる虫がいる」という意味である。
 しかし、「タデ」という植物はない。
 この言い伝えのタデは、刺身のつまになり、日本料理を彩る素材となる芽タデをさす。

・試みに、刺身についている赤い芽タデを食べると、とても辛い。
 この特有の辛味を持つ芽タデは、イヌタデの仲間で、ヤナギタデの発芽したばかりの芽生えである。
 イヌタデは辛くないので刺身のつまに役立たない。
 そのため「イヌビエ」で紹介したように、「無駄な」、「役に立たない」という意味の語である「イヌ」がつけられているそうだ。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、160頁~161頁)



春の七草


・「せりなずな御形(ごぎょう)はこべら仏の座 すずなすずしろこれぞ七草」という歌がある。
 この歌は、「誰に詠まれたかは、不明」といわれることもあるが、ふつうには、南北朝時代の「四辻の左大臣」、四辻善成(よつじよしなり)のものとされる。
・ここに詠まれた、セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロが春の七草である。
 百人一首に出てくる、平安時代の光孝(こうこう)天皇の「君がため春の野に出(いで)て若菜摘む わが衣手(ころもで)に雪は降りつつ」の歌にある「若菜」は、この春の七草をさしている。

・春、暖かくなれば、多くの植物が発芽する。
 そして、春の七草は、それぞれが春を感じさせる象徴的な草花である。
 この二つのイメージが重なり、春の七草というと、いかにも春に発芽して成長し花を咲かせる植物のような印象がある。
 しかし、春の七草は、春に発芽する植物ではない。
 秋に発芽し、冬に若葉を茂らす植物である。
 真冬の真っ只中のお正月の七日、若葉を摘み取って、七草粥(ななくさがゆ)にして、春の七草を食する。
 ということは、お正月には、七草の若葉がもう育っていなければならない。
 春に発芽していては間に合わない。春の七草が活躍するのは、他の植物が活躍しない冬なのである。春の七草は、冬の寒さに強くて、寒さの中で成長する植物なのである。
(春の七草は、夏に茂る植物たちの緑の陰で、暑さに弱いので枯れていく。春の七草以外にも、春に花咲いているオオイヌノフグリやカラスノエンドウなども、夏に姿を消す。暑さに弱い植物は、意外と多い)
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、25頁~27頁)

セリ(セリ科)


・田の畦や湿地に自生するが、最近は、水田で野菜として栽培される。
 一般的には、秋早くに親株が植えられ、冬の田一面に、きれいな緑の若葉が茂る。
 この若葉の成長が、「競り合う」ように背丈を伸ばす印象から、「競り(せり)」といわれる。
 こうして茂った茎と葉を収穫して、冬の野菜として食される。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、29頁~30頁)

ナズナ(アブラナ科)


・春、白色の小さな花を咲かせる。
 花びらは、4枚が十字形に並んでいる。根元を切ると、ゴボウのような香りがするといわれる。
・ナズナの名は、「撫(な)ぜたいほどかわいい」という気持ちを込めて、「撫菜(なぜな)」と呼ばれ、そこから変化したといわれる。
 また、夏に枯れてなくなるので、「夏無(なつな)」といい、それが変化したともいわれたりする。

・この植物は、昔から日本中に分布しているので、地方ごとの呼び名がある。
 ペンペングサやシャミセングサなどである。
 「平たい逆三角形の果実を三味線のバチにたとえて、ペンペングサやシャミセングサという」説が有力である。
(土地が荒れた様子を「ペンペングサが生える」といい、どこにでも生える草という印象が強い。「ペンペングサが生える」といわれている間はまだいいが、「ペンペングサも生えぬ土地」と表現されると、もうどうしようもないすっかり荒れ果てた土地である)
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、30頁)

ハハコグサ(キク科)


・春の七草の歌では、ゴギョウと詠まれる植物であり、オギョウともいう。
 4~6月に開花し、あざやかな黄色の小さい粒々のような花が密に集まって咲く。
・名前の由来は、いろいろいわれるが、別名の「ほうこぐさ」に基づく説がある。
 茎も葉も白い細かい毛に覆われており、「ほうけた」ように見えるので、「ほうこぐさ」といわれ、これが転じて、「ハハコグサ」になったという。
 しかし、「ほうこぐさ」といわれたのは、江戸時代である。
 それに対し、平安時代前期の文徳(もんとく)天皇の事績を記述した『文徳実録』では、この植物は「母子」と呼ばれたり、「母子草」と記されているという。
 だから、昔から、この名はあったのだろう、と著者はいう。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、30頁~31頁)

ハコベ(ナデシコ科)


・春の七草では、ハコベラといわれるが、ふつう「ハコベ」と呼ばれる。
 葉は、卵形でやわらかく、表面にうぶ毛はなく、つやがある。
 茎には、なぜか、片側だけに毛が生えている。
・小鳥やひよこの餌に利用されるので、「ヒヨコグサ」という名もある。
 英名も、「chick(ひよこ)weed(クサ)」である。
・花は、春に咲くが、日当たりのよい場所では、真冬に咲くこともある。
 白色の花びらは5枚だが、1枚の花びらの中央が基部近くまで深く裂けているので、一見、花びらが10枚のように見える。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、32頁)

コオニタビラコ(キク科)


・春の七草に詠まれるホトケノザは、コオニタビラコのことである。
 葉が田んぼに放射状に平らにはびこるから、「田平子」となった。
 葉はタンポポに似るが、ギザギザの切れ込みが丸みを帯びている。茎や葉を切ると、白い液が出る。
・春に、高さ約10センチメートルの花柄を出し、1本の花茎に2個以上の花が咲く。
 花は頭状花で、黄色の小さな舌状花だけからなる。
 近年、コオニタビラコの分布は、田んぼのある田園に限られており、至るところで見られるのは、「オニタビラコ」である。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、33頁)

スズナ(アブラナ科)とスズシロ(アブラナ科)


〇スズナは、カブ(蕪)のことである。
 カブラ、カブラナ、アオナなどの別名がある。
 栽培品種として、京都名産の「千枚漬け」に使われる「聖護院(しょうごいん)カブラ」や、「すぐき漬け」に使われるスグキナなどがよく知られている。
※与謝蕪村は、住んでいた大坂天王寺がカブの産地であったため、「俳号を蕪村とした」という。
 この話で有名なカブは、「天王寺カブラ」である。

〇スズシロは、ダイコンのことである。
 古来、オオネ(大根)などの別名がある。
・江戸時代から昭和の初期まで全盛をきわめ、「ダイコンの練馬、練馬のダイコン」といわれた練馬ダイコンが栽培品種として有名である。
 あまりに有名なので、「大根役者」といわれるのを嫌う役者は、練馬(現在の東京都練馬区)に住まなかったという。
・根の長さが1メートルを超え、長さ世界一のダイコンといわれる岐阜県の特産、「守口(もりぐち)ダイコン」もよく知られている。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、34頁)



秋の七草


・秋の七草は、奈良時代、山上憶良(やまのうえのおくら)によって詠まれた二つの歌に基づく。
〇一つは、「秋の野に 咲きたる花を指(および)折り かき数ふれば七種(ななくさ)の花」
 (『万葉集』巻八)
〇これに続いて二つ目の歌が、「萩の花尾花(おばな)葛花(くずばな)瞿麦(なでしこ 撫子)の花 女郎花(おみなえし)また藤袴(ふじばかま)朝顔の花」

⇒後者のほうは、短歌の五・七・五・七・七から考えると、えらく字余りと思われるかもしれないが、五・七・七・五・七・七を繰り返す旋頭歌(せどうか)という和歌の一種である。

※ここで詠まれたハギはヤマハギ、オバナはススキ、アサガオはキキョウのことをさしている。
 ハギ(マメ科)、ススキ(イネ科)、クズ(マメ科)、ナデシコ(ナデシコ科)、オミナエシ(オミナエシ科)、フジバカマ(キク科)、キキョウ(キキョウ科)が、秋の七草である。

〇春の七草が食用なのに対して、秋の七草は、眺めて楽しんだり、歌に詠んだりするのに使われる植物である。
 春の七草に比べて、目立つ植物が多い。
 ここでは、秋を代表する雑草であるヤマハギ、ススキ、クズを紹介しておく。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、130頁~131頁)

ハギ(マメ科)


・「ハギ」という名は、ハギの仲間が古い株から芽を出すので、「生え芽(はえぎ)」という語から転じて「ハギ」となったといわれる。
 マメ科の植物であるから、根には根粒菌が住み、空気中の窒素を取りこんでくれるので、痩せた土地でもよく育つ。
 古くから日本各地に自生している植物である。
 『万葉集』では、ウメやサクラより多くの歌に詠まれている。
・しかし、「ハギ」という名前の植物はない。
 紫紅色の美しい花を咲かせるミヤギノハギ、花の白いシラハギ、葉が丸いマルバハギなどの「ハギ」の仲間の植物を総称して「ハギ」という。
 「サクラ」という名前の植物はなく、ソメイヨシノやオオシマザクラなどの「サクラ」の仲間を総称して、「サクラ」というのと同じである。
 といっても、秋の七草の「ハギ」といえば、「ヤマハギ」をさすそうだ。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、131頁~132頁)

ススキ(イネ科)


・ススキは、日本の秋を代表する雑草である。
 春に芽を出し、「スクスク伸びる草」から「ススキ」という名になったといわれるほど、よく育つ。(ただ、この名の由来はほんとうかどうかわからない、という)
 乾燥、強光、高温の「3K」に強いC4植物であるだけに、他の雑草が生えにくいような荒地にも生える。
・秋には、背丈が1、2メートルにも育つ。
 穂をつけ、中秋の名月に月見だんごと並んだ姿は、秋を象徴する絵や写真となる。
 風になびく穂が、けものの尾に見えることから、秋の七草では「尾花」といわれる。
 (穂が枯れたものは、「枯れ尾花」といわれる)
 昔は、ススキを刈って屋根を葺き、かやぶきの屋根にしたので、ススキのことを「カヤ」と呼ぶこともある。

・近年、ススキの姿が身のまわりでめっきり減ってきた。
 古都奈良で、約250年間続いてきた歴史ある伝統行事が存続の危機に立たされている。
 新春の風物詩、若草山(わかくさやま)の山焼きである。
 広大な面積の草地に火が燃え広がり、夜空に山が赤く染まる壮大な一大イベントである。
 主役は、燃え広がるシバと燃えあがるススキである。枯れたシバやススキを焼くことによって、春の草の発芽や、新芽の成長を促す効果も期待されている。
 ところが、近年、ススキが減少しているために、火が勢いよく燃えあがらないという。
 また、成人の日の前日に行われるのだが、温暖化の影響か、正月にススキなどの草が枯れきっていないことも燃え広がらない一因という。

※本来、春日大社、興福寺、東大寺の領地の境界をはっきりさせるために、草木を焼くのが、この行事の起源である。しかし、この行事を続けるためには、焼くためのススキをわざわざ育てなくてはならなくなっている。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、133頁~134頁)

クズ(マメ科)


・クズは、野原の隅、川の土手など草や木がある日当たりのよいところなら、どこにでも生える。
 ツルを伸ばして成長する植物なので、ツルを意味する「カズラ」をつけて、「クズカズラ」ともいわれる。
・葉は、3枚の小葉からなり、1枚の小葉は、手のひらほどに大きい。
 葉の裏は白くてよく目立つのが、特徴の一つである。
 このツルの伸び方はすさまじい。
 「1日に25センチメートル伸びた」とか「1年に850メートルも伸びた」とかいわれる。
 (どのように測定された記録かは気になるが、クズの成長が他の植物に比べてすさまじいことだけは、たしかである、と著者はコメントしている)

<クズの根>
※地上部の春から初夏にかけてのものすごく速い成長は、土の中に隠れた根の栄養のおかげである。
 地上部の茎がそんなに太くないのは、根が成長を支えているから、太くなる必要がないことや、ツル性のため直立する必要がないからだろう。
 茎を太くする栄養を、ツルを伸ばすことに使っている。
 
・クズの根は、サツマイモの食用部である塊根(かいこん)の太さに似ており、直径10~20センチメートルである。長いものでは、全長が3メートルを超える。
 ここには、多くの栄養が蓄えられている。
(ふつうの植物は自分で光合成をして栄養をつくりながら成長するので、急激に成長することはできない。)
これに対して、たとえば、私たちの食べるタケノコは、光合成をする「モウソウチク」と根でつながっており、栄養をもらうので成長が速い。
クズも根から栄養が供給されるので、茎の成長が速いのである。

☆「こんなに葉や茎の成長の目立つ雑草が、秋の趣を大切にする秋の七草になぜ選ばれたのだろうか」と、ふしぎに思う人がいるかもしれない。
 しかし、秋に咲くクズの花を見たら、納得できるだろう。
 クズには、白い花を咲かせる変わり者もいるが、ふつうには秋に、紅紫色の花が房のようになって咲く。
 その上品な趣は、秋の七草にふさわしい気品を漂わせている。
 
<クズの根のデンプン>
〇根にあるデンプンは、私たちの食べ物となっている。
 葛湯(くずゆ)、葛餅、葛まんじゅう、葛切り、肉や魚のあんかけや吸い物に使われる葛粉である。
 薬効にすぐれているので、おなかをこわしたり、風邪を引いたときに、葛湯を飲んだ経験のある人も多いはず。

・しかし、クズがいくら旺盛な成長をするといっても、栽培されているわけではないので、収穫できる葛粉の量には限りがある。
 また、根を掘り出す労力はたいへんなものであり、葛粉の価格はどうしても高くなる。

 さらに、掘り出した根を細かく切って、水につけ、白いデンプンを集めて、それを乾燥させるという手順をへて、やっと葛粉は手に入る。手間がかかる。
(そのため、最近の葛餅、葛まんじゅうなどには、小麦粉とか、ジャガイモのデンプンが使われている)

<クズの名の由来など>
※葛粉の最高級品は、奈良県吉野郡で産する吉野葛である。
 「クズ」という名も、クズの産地、吉野郡国栖(くず)の地名に由来するともいわれる。

<葛根湯>
 根を煎じたものは、葛根湯(かっこんとう)として、風邪による発汗、解熱によく効く漢方薬として使われる。
 葛根湯のエキスは、痛みや炎症を抑える作用も知られている。

・このように、クズは、葛粉の材料となり、漢方薬にも使われる価値の高い植物である。
 だから、手入れが行き届いていない場所に、うっそうと茂る植物を「これがクズだ」と教えられると、驚かれるかもしれない。

<クズの英名>
・クズは、その力強い繁殖力を見込まれて、堤防などの決壊を防ぐための土壌を保全する植物としてアメリカに行った。
 ところが、その力をもてあまして雑草化し、嫌われ者の「帰化植物」となっている。
 アメリカでは、「Kudzu vine」と呼ばれている。
 vineはツルであり、さしずめ「クズカズラ」である。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、134頁~137頁)



三大民間薬


「第三章 夏を賑わす雑草たち」では、三大民間薬について述べている。
【三大民間薬】
①ドクダミ(ドクダミ科)
②センブリ(リンドウ科)
③ゲンノショウコ(フウロソウ科)

①ドクダミ(ドクダミ科)
・「十薬(じゅうやく)」~「十種の薬の効能がある」といわれる
 ⇒葉と茎の乾燥したものを煎じると、利尿、便通、駆虫、高血圧予防

②センブリ(リンドウ科)
・「湯の中で千度振り出してもまだ苦い」というのが名の由来である。
 ⇒その苦い成分が胃腸薬などの原料となっている。

③ゲンノショウコ(フウロソウ科)
・葉や茎の乾燥したものを煎じて飲むと、下痢止めの効果がすぐに現れることから、「現の証拠」の名があるという。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、115頁)


レンゲソウとカラスノエンドウ~根粒菌


田中修『雑草のはなし』(中公新書、2007年[2018年版])においても、レンゲソウ(マメ科)とカラスノエンドウ(マメ科)の根粒菌について解説している。
・根に根粒菌がつくのは、マメ科の植物の特徴である。この植物の根をそうっと引き抜くと、小さなコブのような粒々がいっぱいついている。この粒々の中には、根粒菌が暮らしている。
・根粒菌は、空気を窒素肥料にかえて、この植物(レンゲソウとカラスノエンドウ)に供給し、成長に役立つ。
 だから、カラスノエンドウは、レンゲソウと同じように、この植物の葉や茎を緑のまま土の中にすき込んでしまうと、土を肥やす働きがある。
⇒栽培植物の肥料となるので、「緑肥」と呼ばれる。
 つまり、痩せた土地では、根粒菌に肥料をつくってもらう。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、13頁)

【参考】
 You Tubeでも、「但馬の田舎暮らし どんぐ屋」さんは、「【緑肥】レンゲ草の花が満開になりました【稲作】」(2022年5月10日付)において、この根粒菌について言及している。
 すなわち、根粒菌に空気中の窒素を吸収して、根に蓄える。そのレンゲ草のパワーについて解説している。合鴨農法を行う田んぼにレンゲ草の種まきしたものが、5月初めに満開になった様子を動画にして伝えている。レンゲ草を、有機栽培の救世主としてみている。

タネツケバナ(アブラナ科)


・秋、稲刈りの終わったあとの水田に発芽し、群生して育つ植物であり、スズメノテッポウとともに、稲刈り後の田んぼや湿った道端などに生育するもっとも代表的な雑草である。
 10月頃に発芽し、小さい芽生えが冬を越し、春には、背丈が10~20センチメートルになり、小さな白い花を咲かせる。
 アブラナ科の植物であり、花びらは4枚、オシベは6本である。
・花が咲いたあと、細長い実ができ、中にタネが並んでいる。
 実は何本もでき、莢のような果実の中にタネを数個含んでいる。
(だから、多くのタネをつけるという意味で「タネツケバナ」と著者は思っていたが、そうではないという。田植えの準備に種籾(たねもみ)を水につける頃に花を咲かすので、「タネツケバナ(種漬花)」といわれる。)
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、47頁)

メヒシバ(イネ科)とオヒシバ(イネ科)


・メヒシバは、「畑の雑草の女王」と呼ばれることもある。
 しかし、畑に限らず都会の道端や空き地など、どこにでも生きる雑草である。
 弥生時代の遺跡からタネが出土したこともあり、日本には大昔から生息していたと考えらえる。
 それを裏づけるように、日本各地に独特の呼び名がある。
 「メシバ」「スモウトリグサ」などである。
(ただし、人や地方によって「スモウトリグサ」は、スミレであったり、オオバコであったり、メヒシバ、オヒシバであったりするようだ)
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、155頁~156頁)

ドクムギ(イネ科)


・ドクムギは、川の土手などに生えるイネ科の植物である。
 「イネ科の植物は、実ができるまで名前はわからない」といわれる。
 その通り、葉が茂っていてもよほどの専門化でないと、この植物を識別できないそうだ。
 実ができれば、その形は、ムギの仲間に似ている。実がムギに似ているから、名に「ムギ」がつくのだが、毒はこの植物自身がつくるものではない。だから、こんな名前がつくのはかわいそうである。その毒は、この草についたカビの毒であるという。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、167頁)

三大花粉症


「カモガヤ(イネ科)」の項目では、三大花粉症について述べている。

【カモガヤ(イネ科)】


・もともとは、「オーチャードグラス」という名で栽培される牧草である。
 英名は、「おんどりの足(cocks-foot)」である。
 このおんどり(cock)がカモ(duck)とまちがえられて、日本では、「カモガヤ」になったという。
 だから、ほんとうは、「オンドリガヤ」かもしれない、と田中修氏は記している。

・「カヤ(ガヤ)」は、かやぶきの屋根を葺(ふ)くのに用いる草に使う言葉である。
 だから、昔、この草を刈って、かやぶきの屋根にしたのであろうか。あるいは、かやぶきに使われると思われたのかもしれないという。

・牧草としては、北海道や東北の一部、九州の標高の高い冷涼地などで栽培されている。
 栽培地を飛びだすと、川の土手や野原、空き地や道端で野生化する。タネでも増えるし、株の状態でも広がる。
・初夏にできたタネは、春に発芽するが、秋にも発芽するものもあるらしい。
 冬を越した株からも春には、芽生えが成長する。
 ふつうには、草丈は50センチメートルくらいになるが、大きく育つと、1メートルを超えることもある。
(私も、そば畑で、2022年の春に見たことがある。)

【花粉症の発見】


・カモガヤは、初夏に穂のように多くの花を咲かせる。
 だから、群落のようになって育つ場所では、多くの花粉が飛ぶ。これらの花粉は、花粉症の原因となる。

・世界で最初の花粉症の症状は、1819年、イギリスで報告された。
 農民が、牧草を刈り取って少し乾かしたあと、その乾(ほ)し草(枯れ草)に触れると、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみの症状が現れ、発熱を伴うことがあった。
 この症状は、「ヘイ・フィーバー(乾草熱、あるいは、枯草(こそう)熱)と名づけられた。
(「ヘイ(hay)」は乾し草、あるいは、枯れ草を意味し、「フィーバー(fever)」は熱である)

・この枯草熱の原因が研究され、カモガヤを中心とするイネ科牧草の花粉が花粉症の原因となることがわかった。
 今日でも、ヨーロッパでは、この植物を含めたイネ科牧草による花粉症が中心であり、花粉症は、英語で「ヘイ・フィーバー」であるという。

・日本では、現在多くの人々を苦しめているスギ花粉症は、1960年代に入って、栃木県ではじめて見いだされ、その後急速に全国に拡大していった。
 牧草カモガヤが元凶となるイネ花粉症も知られており、近年、花粉をつくらないカモガヤが開発されているそうだ。また、ヨモギやブタクサが原因となるキク科花粉症も広がりを見せている。

・スギ花粉症、イネ科花粉症、キク科花粉症が、「三大花粉症」である。
 世界的には、これらの三大花粉症が地理的に三つに分かれているという。
 つまり、ヨーロッパのイネ科花粉症、アメリカのブタクサ花粉症、日本のスギ花粉症である。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、78頁~79頁)

【ヨモギ(キク科)とブタクサ(キク科)】


【ヨモギ(キク科)】
・春に摘むヨモギの葉は、若くて初々しい春の香りを漂わせる。この葉は、ヨモギ餅(草餅)の材料である。
 (特徴的な香りは、シネオールと呼ばれる成分などによるものらしい。この香りのおかげで、葉っぱはよく知られている)
・しかし、ヨモギの花はあまり知られていない。
 花は秋に咲く。背丈は1メートル近くに成長して、たくましい。
・ヨモギが飛ばす花粉が、ブタクサの花粉とともに、9月初旬からの秋の花粉症の元凶である。
 日本のスギ花粉症、ヨーロッパのイネ科牧草による花粉症とともに、世界三大花粉症の一つであるという。
・ヨモギの名前は、「よく燃える」という意味の「善燃木」に由来する。
 葉の裏側が白っぽく見える。これは、細かい毛が密に生えているからである。葉を乾燥させ、この毛だけを集めたものが、お灸に使うモグサである。

【ブタクサ(キク科)】


・道端、空き地など、どこにでも生える植物である。背の高さは、成長のよい場合、1メートルにもなり、群落をつくりながら繁殖する。
(葉の形は、ヨモギの葉に似ているが、葉の切れ込みは、ヨモギの葉より細やかである。
 また、ヨモギの葉が節ごとに1枚ずつ違う方向に生えるのに対して、ブタクサの茎の下方の葉は、一つの節に2枚が向かい合うように生えている)
 夏から秋に、小さな頭状花を長い穂のように咲かせる。
 長い穂状に目立つのは、雄花である。この花にできる花粉は、風に吹き飛ばされ、ヨモギなどの花粉とともに、秋の花粉症の主役となる。
・日本に来たのは明治時代だが、第二次世界大戦後に急速に分布を拡大した。
 そのため、戦後、連合国最高司令官として日本に来たマッカーサーの「置き土産」といわれることもあるそうだ。
 名前の由来は、英名の「ブタの草(hogweed)」に由来する。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、142頁~143頁)



【コラム】秋に出る「来春の花粉飛散情報」に、根拠はあるか


「【コラム】秋に出る「来春の花粉飛散情報」に、根拠はあるか」においては、花粉飛散情報について解説している。

・毎年、秋に「来年の春は、スギ花粉が少ない」とか、「来春、スギ花粉の飛散量が多い」などの予報が出る。秋に出る来春の花粉飛散予想に、根拠はあるのだろうか。
 スギの木が花粉をつくるためには、多くのエネルギーがいる。
 だから、毎年、花粉が多く飛ぶわけではない。多く飛ばない年が続くと、勢いをためた木が大量の花粉をつくると予想できる。だから、春に飛ぶ花粉の量は、過去の飛散状況から、ある程度、推測できる。
・また、スギの花粉をつくる雄花のツボミは、夏にできる。
 夏から秋までの温度が高いほど多くのツボミができることがわかっている。
 だから、夏から秋までの温度を過去と比較すると、つくられる雄花の数は、ある程度、予想できる。それをもとに、飛ぶ花粉量も推測できる。

※しかし、多くの国民を苦しめる花粉の飛散予想がこんないい加減な推測に基づいて、秋に出されるわけではない。秋の予想には、きちんとした根拠が二つあるそうだ。
①一つ目は、何本かのスギの木を選んで、夏につくられる雄花の数を、実際に調べる。
②二つ目は、秋にそれらのツボミの成長を、実際に調べる。
もし、秋にそれらのツボミが成長していなければ、春に多くの花が咲かず飛ぶ花粉量は少ない。
 逆に、たくさんの雄花が成長していると、春に、多くの花粉が飛ぶことが予想される。
 秋から、雄花は成長をやめる。
 だから、調査は秋までで、予報が出される。
 予報が当たったかどうかは、春に飛ぶ量でわかるが、実際に、ツボミの数や成長の度合いを調べているのだから、多くの場合、当たっているそうだ。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、143頁)



「ひっつき虫」が生んだ、ふしぎな商品


「第五章 秋の実りと冬の寒さの中で」の「「ひっつき虫」が生んだ、ふしぎな商品」(148頁~150頁)には、興味深いことが述べられている。

〇オナモミ(キク科)
・オナモミは、数十年前、野原や空き地、川の土手などにいっぱい生えていた。
 オナモミは、大きな葉っぱが目立つ、大型の植物である。
 秋に実る実は、マメ粒よりひとまわり大きい虫のような格好である。
 この実には、多くのトゲがある。衣服などに投げつけると、よくくっつく。
 だから、その実は「ひっつき虫」と呼ばれた。
(私たちの衣服や動物のからだにくっついて移動するタネの代表である)

・さて、「ひっつき虫」が生んだ、ふしぎな商品がある。
 衣料品や靴、バッグ、ベルト、シートの装着などに使われる、ザラザラの布のようなものがある。
 二つの面を軽く貼り合わせるだけで、ピタッとくっつく。かなり強く引っ張らないと、はがれない。ひっつけたり離したり、何度でもできる。

☆しかし、一見しただけでは、ひっつくしくみがわからない。
 「なぜ、強くひっつくのだろうか」というふしぎである。
 だから、名前は、「マジックファスナー」とか「マジックテープ」とかいわれる。

〇1978年3月22日、「マジックテープ」を商標登録し、日本ではじめて、生産、販売したのは、(株)クラレである。
 系列会社クラレファスニング(株)のホームページによると、
 「このマジックのタネは、1948年、植物たちのタネをヒントに生まれた」という。
 スイスのジョルジュ・デ・メストラルが、犬とともに野に出たとき、自分の服や愛犬の毛に、取り払えないほど、しつこくひっついている実に気づいた。野生ゴボウの実であった。

 「なぜ、この実は、これほど頑固にひっつくのか」とふしぎに思い、彼はその実の形態を顕微鏡で観察した。
 その結果、この実にはたくさんのトゲがあり、その先端が釣り針のようにかぎ状に曲がっていることに気づいた。
 人間の衣服や動物の毛に接触すると、トゲの先が釣り針のように引っかかる。そのために、いったん引っかかるとはがれにくい。
 この発見をきっかけに、その構造を真似て、貼り合わせるだけで、強くひっつくマジックファスナーやマジックテープが生まれたそうだ。

〇この発見は、野生ゴボウの実の観察がきっかけであった。
 しかし、日本では、野生ゴボウの実はあまり知られていないことや、「ひっつき虫」になるオナモミの実が同じ構造をしていることがわかった。
 そのため、日本では、「マジックファスナーは、オナモミの実がひっつくことがヒントになって生まれた」といわれるようになったらしい。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、148頁~150頁)

夜の長さを正確にはかる葉っぱ


「第五章 秋の実りと冬の寒さの中で」の「夜の長さを正確にはかる葉っぱ」(150頁~152頁)
入力せよ

(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、150頁~152頁)


寒さを受けて、春化する


「第五章 秋の実りと冬の寒さの中で」の「寒さを受けて、春化する」(168頁~170頁)

・ドクムギは、秋に発芽して、冬の寒さをムギと同じようにロゼット状態で過ごす。
 冬は寒くて、そんなに成長しないのだから、無理に秋に発芽せずに、春に発芽すればいいのにと思われるかもしれない。
 しかし、この草の場合、ロゼットの葉は、冬の寒さをしのいでいるだけではないそうだ。
 冬の寒さを感じて、成長してから花を咲かせる準備をしているのである。
 「どうしてそんなことがわかるのか」と思われるかもしれない。
 「もしも冬の寒さに出会わなければ、どうなるか」という疑問を持ってほしいという。
 この植物を冬の寒さにあわせないように、冬も暖かい条件で育てればよい。あるいは、春になってから、タネをまけばよい。

☆実際に、次のような実験をした結果がある。
 春になって、暖かいところで発芽させるのだから、ドクムギのタネは発芽する。
 発芽すれば、暖かい春なのだから、どんどん成長する。秋にタネがまかれて発芽し、冬の寒さを受けて育ってきたドクムギと、そんなに違いはないぐらいに成長する。
(「やっぱり無理に秋に発芽せずに、春に発芽すればいいのに」と思われるかもしれない)
 
※しかし、やがて、花を咲かせる初夏になって、ふしぎなことがおこるらしい。
 この植物が花を咲かせる季節、初夏になると、冬の寒さを感じて育ってきたドクムギは、ツボミをつけて花を咲かせる。
 ところが、春に暖かくなってタネをまき、冬の寒さを感じさせずに育てたドクムギは、ツボミをつけない。
 ⇒冬の寒さを感じなかった植物は、いつまで経っても花を咲かせることがないのである。

〇この植物は成長したあと、花を咲かせるために冬の寒さを感じることが必要である。
 「幼いときに冬の寒さに出会ったという体験を、成長して花を咲かせるときまで覚えている」という言い方ができる、と著者はいう。
 つまり、植物には、幼いときの出来事を記憶する能力がある。

※春にタネをまいて、初夏に、秋にまいた場合と同様に、花を咲かせることもできる。
 そのためには、春にタネをまく前に、少し芽を出したタネに冷蔵庫などで一定期間の低温を与えておく。この一定期間の低温を与えることを、春化処理(バーナリゼーション)と呼ぶ。

〇自然の中では、多くの植物が、冬を越すときに、春化処理を受けている。
・コムギ、オオムギ、ライムギ、ダイコンなどは、秋に発芽し、若い芽生えが冬を越して春化処理を受け、翌年の晩春または初夏に結実する。
・また、タマネギ、キャベツなどは、春に発芽し、成長した茎や葉が冬を越して春化処理を受け、翌年に開花結実する。
・スミレ、サクラソウ、ナデシコなどの春咲きの多年生植物は、花咲く前の冬、自然の中で、春化処理を受けている。

☆もしこれらの植物に寒さを感じさせないと、どうなるのだろうか。
 テンサイ(甜菜)とも呼ばれるサトウダイコンで、41カ月間、実験された記録があるそうだ。
 この植物の地上部はロゼット状態で、根は太さ10センチメートルくらい、長さは30センチメートルくらいである。
 これが、冬の寒さで、“春化”されると、春に茎が2メートルくらいに伸びて花をつける。

※ところが、寒さを感じさせなければ、“春化”されないので、いつまでも花が咲かない。
 地上部の茎は伸びず、根が成長を続けて、太さが人間の胴より太く、長さが2メートル以上になった。
 春化処理を必要とする植物が“春化”されないなければ、花咲くことなく、成長を続けるのである。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、168頁~170頁)


≪イネの“ひみつ”~田中修『植物のひみつ』より≫

2022-10-31 18:56:26 | 稲作
≪イネの“ひみつ”~田中修『植物のひみつ』より≫
(2022年10月31日投稿)

【はじめに】


 ようやく、わが家の稲作も終えたので、今回のブログでは、次の稲作関連の本を紹介してみたい。
〇田中修『植物のひみつ 身近なみどりの“すごい”能力』中公新書、2018年
 この本は、目次を見てもわかるように、イネに特化した本ではない。10話のうちの一つ「第四話 イネの“ひみつ”」と題して、イネ・お米について、解説している。今回は、その第四話のみを取り上げる。著者は、プロフィールにもあるように、植物学を専門としている。

・植物は、「自分の花粉を自分のメシベについてタネをつくる」ということを望んでいないと著者は説く。そのようにして、子どもをつくると、自分と同じような性質の子どもばかりが生まれる。もしそうなら、いろいろな環境の中で生きていけないからだという。
 しかし、栽培されるイネは、「自分の花粉を自分のメシベにつけてタネをつくる」という性質をもっている。 なぜなら、人間がイネを栽培する過程で、その性質を身につけた品種を育ててきたからである、と田中氏は説明している。

・アジアを中心に、世界人口の約半数の人々が、お米を主食としている。
 2017年では、地球の総人口は国連の統計で約76億人であるから、その約半分の約38億人がお米を主食としていることになる。世界的に多くの人々を養っているお米であるが、日本のお米には、深刻な悩みがあるという。その一つは、現在栽培されているイネの品種の数が少ないことであるそうだ。おいしさを求めて、コシヒカリの性質が引き継がれた品種ばかりが栽培されている。それは、人気のあるお米の品種がコシヒカリの子孫に当たる品種である。そのため、コシヒカリと性質がよく似ている。
①同じ性質の品種ばかりが栽培されていると、もし何かの天候異変がおこり、その異変に弱い性質をもつ品種の不作がおこると、その性質をもつ品種はすべて、不作になるから。
②また、ある病気が流行り、その病気に弱い性質をもつ品種が病気にかかると、その性質をもつ品種はすべて、病気にかかる。
同じ性質をもつ品種ばかり栽培することは、そのようなリスクをはらんでいる。
日本中で、よく似た性質のお米ばかりが栽培されることは、天候異変や病気の流行の可能性を考えると、よくないと田中修氏は主張している。

・イネは、ハチやチョウなどの虫ではなく、風に花粉を運んでもらう植物なのである。そのため、ハチやチョウに目だつ必要がないので、花びらをもっていないのである、と田中氏は説明している。

植物学者らしい見解と主張が随所にみられ、教えられることが多かったので、その内容を紹介してみたい。

【田中修氏のプロフィール】
・1947年(昭和22年)、京都に生まれる。京都大学農学部卒業、同大学院博士課程修了
・スミソニアン研究所(アメリカ)博士研究員
・甲南大学理工学部教授などを経て、現在、同大学特別客員教授
・農学博士 専攻・植物生理学
<主な著書>
・『植物はすごい』(中公新書)
・『ふしぎの植物学』(中公新書)




【田中修『植物のひみつ』(中公新書)はこちらから】
田中修『植物のひみつ』(中公新書)






〇田中修『植物のひみつ 身近なみどりの“すごい”能力』中公新書、2018年

【目次】
はじめに
第一話 ウメの“ひみつ”
第二話 アブラナの“ひみつ”
第三話 タンポポの“ひみつ”
第四話 イネの“ひみつ”
第五話 アジサイの“ひみつ”
第六話 ヒマワリの“ひみつ”
第七話 ジャガイモの“ひみつ”
第八話 キクの“ひみつ”
第九話 イチョウの“ひみつ”
第一0話 バナナの“ひみつ”

おわりに
参考文献




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


【「第四話 イネの“ひみつ」の項目】
・ジャポニカ米とインディカ米
・なぜ、田植え前の田んぼに、レンゲソウが植えられるのか?
・なぜ、イネは水田で育てられるのか?
・なぜ、イネの成長はそろっているのか?
・イネの花って、どんな花?
・稲刈りのあとの緑の植物は?
・おいしいお米を求めて
・品種数の減少が深刻!
・イネの悩みとは、知られていないこと!






「第四話 イネの“ひみつ」の項目


「第四話 イネの“ひみつ”」(77頁~108頁)

【「第四話 イネの“ひみつ」の項目】
・ジャポニカ米とインディカ米
・なぜ、田植え前の田んぼに、レンゲソウが植えられるのか?
・なぜ、イネは水田で育てられるのか?
・なぜ、イネの成長はそろっているのか?
・イネの花って、どんな花?
・稲刈りのあとの緑の植物は?
・おいしいお米を求めて
・品種数の減少が深刻!
・イネの悩みとは、知られていないこと!

【「第四話 イネの“ひみつ」の項目】


【「第四話 イネの“ひみつ」の項目】
・ジャポニカ米とインディカ米
・なぜ、田植え前の田んぼに、レンゲソウが植えられるのか?
・なぜ、イネは水田で育てられるのか?
・なぜ、イネの成長はそろっているのか?
・イネの花って、どんな花?
・稲刈りのあとの緑の植物は?
・おいしいお米を求めて
・品種数の減少が深刻!
・イネの悩みとは、知られていないこと!

上記の項目について、それぞれ簡単にその内容をまとめてみる。

ジャポニカ米とインディカ米


「第四話 イネの“ひみつ」の項目である「ジャポニカ米とインディカ米」には、次のような内容が述べられている。

・イネの原産地は、中国南部の雲南や東南アジアとされている。
 世界的には、約9割がアジアで栽培されている。
 人口が多い中国やインドなどが、お米の主要生産国となっている。
・日本列島には、イネは縄文時代の後期に朝鮮半島か中国から伝えられ、日本の全域で栽培されてきた。
(気温が低いために栽培が不可能と思われた北海道でも、明治時代には、栽培されるようになった)

<イネの語源について>
・イネという言葉の語源は定かではなく、いろいろな説がある。
 その中の一つに、イネは、「命の根」という語を短縮したものだというものがある。
 遠い昔から、イネがつくりだすお米が、人間の空腹を満たし、命を守り続けてきた。
 そのため、真偽は別にして、もっともふさわしい説のように思う、と田中修氏はいう。

<イネの学名について>
・イネの学名は、「オリザ・サティバ(Oryza sativa)」である。
・イネはイネ科イネ属の植物である。
 属名の「オリザ」はラテン語で、「イネ」を意味する。
 イネの種小名は「サティバ」であり、これは「栽培されている」を意味する。

<インディカ米とジャポニカ米>
〇お米には、インディカ米とジャポニカ米がよく知られている。
・インディカ米は、粒が細長く、炊いても粘り気が出ず、冷えるとパサパサになる。
 ジャポニカ米より粒が長いので、「ロング・ライス」といわれたり、タイが原産地と考えられて、「タイ米」といわれたりする。
・ジャポニカ米は、日本人がふつうに食べるお米である。
 粒がぽっくりと丸く短く、炊くと粘り気がある。
 この粘り気が、食べたときに「にちゃにちゃ」とした食感になる。
 アメリカ人は、この食感を「スティッキー(sticky)」という語で表現し、嫌うこともある。
(「スティッキー」は、「くっつく」や「べとべとする」などの意味)

・多くの日本人は、インディカ米よりジャポニカ米を好んで食べる。
 でも、ジャポニカ米がインディカ米より、お米として質的にすぐれているということはない。
 日本人がジャポニカ米をよく食べ、インディカ米をあまり食べないのは、単にお米の食感の好き嫌いによるものである、と田中修氏は説明している。

※この第四話では、イネの果実に、「お米」という語句を使う、と著者は断っている。
 多くの読者が、「この語は『米』でいいのではないか」と思われるかもしれないが、著者は、子どものころから、「お米」を「米」と呼ぶ捨てのようにしたことはないという。
 お米は、昔から、私たちの空腹を満たし、健康を守ってきてくれた。「お米」の「お」には、ただ丁寧に、あるいは、上品に表現するという意味だけでなく、お米に対する感謝の気持ちが込められ、敬いの気持ちがこもっているとする。
 そのため、穀物の名前として「コメ」を使うことがあっても、多くの場合は「お米」をつかったという。
(田中修『植物のひみつ』中公新書、2018年、78頁~80頁)

なぜ、田植え前の田んぼに、レンゲソウが植えられるのか?


「第四話 イネの“ひみつ」の項目である「なぜ、田植え前の田んぼに、レンゲソウが植えられるのか?」には、次のような内容が述べられている。

・6、70年前には、田植え前の田んぼでは、卵形の小さな葉っぱをつけた茎が地面を這うように、レンゲソウが育っていた。
 花が咲くと、畑一面が紫色に染まり、その美しさは、春の田園風景の象徴でもあった。
 
☆「なぜ、田植え前の田んぼに、レンゲソウが育っているのか」という、素朴な“ふしぎ”が抱かれることがあった。
 この“ふしぎ”を解くためには、植物たちの“ひみつ”を知らなければならないそうだ。

・レンゲソウは、タンポポのように、勝手に生える雑草ではない。
 田植えをする田んぼに、前の年の秋にタネをわざわざまかれて、栽培される植物なのである。
 育ったレンゲソウの葉っぱや茎は、田植えの前に土が耕されるとき、そのまま田んぼの中にすき込まれてしまう。
・この植物は、わざわざタネをまいて栽培され、きれいな花が咲いている時期、あるいは、そのあとにタネがつくられる時期に、土の中にすき込まれてしまう。
 それを知れば、「なぜ、せっかく育ってきたのに、土にすき込まれるのか」や、
 「レンゲソウは、何のために栽培されているのか」などの疑問が浮上する。

<レンゲソウの根粒菌>
〇実は、レンゲソウには、すばらしい“ひみつ”の性質がある、と田中氏はいう。
・元気に育つレンゲソウの根を土からそおっと引き抜くと、根に小さな粒々がたくさんついている。
 この粒々は、根にできる粒という意味で、「根粒」といわれる。
 その粒の中には、「根粒菌」という菌が住んでいる。この根粒菌が、すばらしい“ひみつ”の能力をもっている。

※植物が栽培されるときに必要とされる三大肥料は、窒素、リン酸、カリウムである。
・その中でも、窒素肥料は特に重要であるといわれる。
 窒素は、葉っぱや茎、根などを形成するために必要であり、植物が生きていくために必要なタンパク質の成分だからである。
・また、窒素は、光合成のための光を吸収する緑の色素であるクロロフィルや、親の形や性質なども子どもに伝えていくための遺伝子にも含まれる成分だからである。
⇒だから、窒素は、それらの物質をつくるのに必要なものであり、植物が成長するには、必要不可欠な物質である。
 そのため、私たちは植物を栽培するときには、窒素肥料を与えなければならない。

〇さて、レンゲソウをはじめとするマメ科植物の根に暮らす根粒菌は、空気中の窒素を窒素肥料に変える能力をもっている。
・レンゲソウは、根粒菌がつくった窒素肥料を利用する。
 そのため、土に窒素肥料が与えられなくても、レンゲソウのからだには、窒素が多く含まれる。
 空気中の窒素を窒素肥料に変える能力をもつ根粒菌を根に住まわせていることが、レンゲソウの“ひみつ”なのである。

・これが田植えの前に土の中にすき込まれると、緑の葉っぱや茎に含まれていた窒素肥料の成分が土壌に溶け込み、土壌を肥やし、緑肥となる。
 ⇒そのため、レンゲソウは、緑肥作物とよばれる。

※このように、レンゲソウは、緑肥作物として、田植えをする田んぼにタネがまかれて、栽培されていた。

<近年の傾向>
・ところが、近年、レンゲソウ畑が減ってきた。
 化学肥料が普及してきたことが一因であるが、大きな理由は、田植えの機械化が進み、小さなイネの苗を機械で植えるようになり、田植えの時期が早くなったことらしい。
・田植えが機械化される以前の田植えでは、レンゲソウの花の時期が終わるころに、大きく育ったイネの苗を手で植えていた。
 ところが、機械では、大きく育った苗は植えにくいので、小さな苗が植えられるのである。
・田植えの時期が早まると、レンゲソウが育つ期間が短くなる。
 すると、レンゲソウのからだが大きくなる前にすき込まなければならないので、栽培してもあまり役立たなくなった。

<レンゲソウ~プラスアルファの役に立つ性質>
・しかし近年、レンゲソウは、土壌を肥やすだけではなく、プラスアルファの役に立つ性質をもつことがわかりつつあるという。
・レンゲソウの葉っぱや茎が土にすき込まれて分解されると、酪酸(らくさん)やプロピオン酸などという物質が生じるそうだ。これらは、雑草の発芽や成長を抑える効果をもつとされる。
・だから、レンゲソウを緑肥とした畑や田んぼでは、化学肥料を使わずに土壌が肥沃になり、雑草が育ちにくくなるようだ。
⇒レンゲソウが春の畑に復活する日がくるかもしれないという。
(田中修『植物のひみつ』中公新書、2018年、80頁~84頁)

なぜ、イネは水田で育てられるのか?


「第四話 イネの“ひみつ」の項目である「なぜ、イネは水田で育てられるのか?」には、次のような内容が述べられている。

・春の田植えで植えられたあと、イネは水田で育てられる。
 「なぜ、イネは水の中で育てられるのか」という“ふしぎ”が興味深く抱かれる。
 イネには、水の中で育てられると、四つの“ひみつ”の恩恵があるという。

①水には、土に比べて温まりにくく、いったん温まると冷めにくいという性質があるということ。
 ⇒水田で育てば、イネは夜も温かさが保たれた中にいられる。暑い地域が原産地と考えられるイネにとって、これは望ましい環境である。

②水中で育つイネは、水の不足に悩む必要がないこと。
・ふつうの土壌に育つ植物は、常に水不足に悩んでいるらしい。
 ⇒そのために、栽培植物には「水やり」をする。そうしないとすぐに枯れてしまう。
 しかし、自然の中で、栽培されずに生きている雑草は、「水やり」をされなくても育っている。
・だから、「ふつうの土壌に育つ植物たちは、ほんとうに、水の不足に悩んでいるのか」との疑問が生じる。
 これは、容易に確かめることができる。
 雑草が育っている野原などで、日当たりのよい場所を区切り、毎日、一つの区画だけに水やりをする。すると、その区画に育つ雑草は、水をもらえない区画の雑草に比べて、成長が確実によくなる。
 
③水の中には、多くの養分が豊富に含まれていること。
・水田には、水が流れ込んでくる。その途上で、水には養分が溶け込んでいる。そのため、水田で育つイネは、流れ込んでくる水の十分な養分を吸収することができる。
⇒このように、水の中は、イネにとって、恵まれた環境である。
 
④「連作障害」が防げること。
・「連作」という語がある。これは、同じ場所に、同じ種類の作物を2年以上連続して栽培することである。多くの植物は、連作されることを嫌がる。連作すると、生育は悪く、病気にかかることが多くならからである。
・連作した場合、うまく収穫できるまでに植物が成長したとしても、収穫量は前年に比べて少なくなる。これらは、「連作障害」といわれる現象である。

<連作障害の三つの原因>
①病原菌や害虫によるもの。
・毎年、同じ場所に同じ作物を栽培していると、その種類の植物に感染する病原菌や害虫がそのあたりに集まってくる。そのため、連作される植物が、病気になりやすくなったり、害虫の被害を受けたりする。
②植物の排泄物によるもの。
・植物は、からだの中で不要になった物質を、根から排泄物として土壌に放出していることがある。連作すると、それらが土壌に蓄積してくる。すると、植物の成長に害を与えはじめる。
③土壌から同じ養分が吸収されるために、特定の養分が少なくなることによるもの。
・「三大肥料」といわれる窒素、リン酸、カリウムの他に、カルシウム、マグネシウム、鉄、硫黄などが植物の成長には必要である。
⇒これらは、肥料として与えられる場合が多い。
 しかし、これ以外に、モリブデン、マンガン、ホウ素、亜鉛、銅などが、ごく微量だが、植物の成長に必要である。

※必要な量はそれぞれの植物によって異なるが、連作すると、ある特定の養分が不足することが考えられる。
・これら三つの連作障害の原因は、水田で栽培されることで除去される。
 水が流れ込んで出ていくことで、病原菌や排泄物が流し出されたり、養分が補給されたりするからである。
 水田で育てば、こんなにすごい恩恵があるのであるから、他の植物たちも「水の中で育ちたい」と思う、と田中氏は考えている。

<水の中で育つための特別のしくみ~レンコンとイネの共通点>
※ただ、水の中で育つためには、そのための特別のしくみをもたなければならない。
・「どのような、しくみなのか」との疑問が生まれる。
⇒そのしくみをもつ代表は、レンコンであるようだ。
・レンコンは、泥水の中で育っているが、呼吸をするために穴をもっている。あの穴に、地上部の葉っぱから空気が送られている。
・実は、イネもレンコンとまったく同じしくみをもっている。
 イネの根には、顕微鏡で見なければならないが、レンコンと同じように小さな穴が開いており、隙間がある。正確には、イネは根の中に隙間をつくる能力をもっている。
というのは、イネは、水田では、その能力を発揮して、根の中に隙間をつくる。
 しかし、同じイネを水田でなく畑で育てると、その根には、水田で育つイネの根にできるような大きな隙間はつくられない。
イネは、置かれた環境に合わせて、生き方を変える能力をもっている。


<中干しが必要な理由>
☆しかし、水がいっぱい満ちている水田で育っていると、困ったこともあるそうだ。
・イネは、水を探し求める必要がないので、水を吸うための根を強く張りめぐらせない。そのため、水田で栽培されているイネの根の成長は、貧弱になる。
・根には、水が不足すると水を求めて根を張りめぐらせるという、“ハングリー精神”といえるような性質がある。
 だから、田植えのあと、水をいっぱい与えられて、ハングリー精神を刺激されずに育ったイネの根は貧弱である。
⇒もしそのままだと、秋に実る、垂れ下がるほどの重い穂を支えることができない。イネは倒れてしまう。イネは倒れると、実りも悪く、収穫もしにくくなる。

・そこで、イネの根を強くたくましくするために、イネに試練が課せられる。
 夏の水田を見てほしい。
 田んぼに張られていた水は、抜かれている。水田の水が抜かれるだけでなく、田んぼの土壌は乾燥させられている。ひどい場合には、乾燥した土壌の表面にひび割れがおこっている。
(イネは水田で育つことがよく知られているので、この様子を見て、勘違いする人がいる。
 「イネに水もやらずに、ほったらかしにしている」とか、「ひどいことをする」と腹を立てる人までいる。
 でも、それはとんでもない誤解である。)
・水田の水を抜き、田んぼの土壌を乾燥させるのは、水が不足すると水を求めて根を張りめぐらせるという、イネのハングリー精神を刺激しているのである。
⇒そうしてこそ、秋に垂れ下がる重いお米を支えられるほどに根を張り、強いからだになることができる。

・土壌の表面のひび割れも、無駄にはなっていない。ひび割れて土に隙間ができることで、この隙間から、地中の根に酸素が与えられる。それは、根が活発に伸びるのに役に立つのである。
 こうして、イネは、秋の実りを迎える。
⇒イネの栽培におけるこの過程は、「中干し」とよばれる。
 この過程を経てこそ、秋に垂れ下がるほどの重いお米を支えるからだができあがる。だから、中干しは、イネの栽培の大切な一つの過程なのである。
(田中修『植物のひみつ』中公新書、2018年、84頁~89頁)

なぜ、イネの成長はそろっているのか?


「第四話 イネの“ひみつ」の項目である「なぜ、イネの成長はそろっているのか?」には、次のような内容が述べられている。

・日本人には、「田園風景」という言葉から思い浮かぶ景色がある。
 そこには、山や畑があり、一面の水田が広がっている。この風景の中にある水田には、イネがみごとに同じような背丈に成長している。イネは、そろって成長するように栽培されている。
・このように栽培されるためには、いろいろな工夫がなされている。
「どのような工夫がなされているのだろうか」とか、「成長をそろえることは、何の役に立つのだろうか」との“ふしぎ”が浮かんでくる。
・近年のイネの栽培では、田植えをせずに田んぼにイネのタネを直接まく「直播(じかま)き」という方法が多く試みられている。
 しかし、日本の伝統的な稲作では、苗代(なわしろ)で育てた苗を水田に植える「田植え」という方法が行われてきた。
 
<イネの苗の成長をそろえるための工夫>
①イネの苗の成長をそろえるための最初の工夫は、田植えで植える苗を育てるためのタネを選別すること。
・その方法は、少し塩を含んだ水にタネを浸すのである。栄養の詰まっていないタネは浮かぶ。
 発芽したあとの苗がよく育つタネは、栄養を十分に含んでいるので、重い。
 そのため、少し塩を含んだ水に浸すと沈む。そこで、沈んだタネだけが、苗代で苗を育てるために用いられる。
②イネの苗の成長をそろえるための2つ目の工夫は、苗代で育てること。
・発芽した芽生えは苗代で育つが、ここで芽生えの成長に差が生じることがある。
 極端に成長が遅れるような苗は、田植えには使われない。だから、田植えでは、同じように元気に成長した苗が植えられることになる。
 
<田植えをして植える理由>
☆「なぜ、わざわざ田植えをして植えるのか」との疑問がもたれる。
①これは、確実に決められた本数の苗が田んぼでそろって成長するためである。
 田植えでは、苗代で育った苗の中から、同じように成長した元気な苗を、たとえば、一箇所に3本ずつをセットにして植えられる。そうすれば、確実に3本の苗を育てることができる。
 
※もし苗を植える代わりにタネをまけば、すべてが発芽し、それらの苗が、同じように成長するとは限らない。発芽しないタネがあったり、極端に成長が遅れる苗などが混じっていたりする。田植えをすることによって、そうなることを避けている。

②もう一つ大きな理由がある。
・同じように成長した苗を選んで植えることができれば、田植えが終わったあとの水田では、苗の成長がきちんとそろう。このように成長すれば、すべての株がいっせいに花が咲き、それらはいっせいに受粉し、いっせいにイネが実る。そうすると、いっせいに株を刈り取ることができる。
・稲刈りは、一面の田んぼでいっせいに行われる。
 もし未熟なものと成熟したものが混じっていると、未熟なものは食べられないから、いっせいに刈り取ることはできない。
 稲刈りで、いっせいに成熟した穂を刈り取るためには、イネは成長をそろえることが大切。
 そのために、田植えが行われている。

※田植えでは、もう一つ、気をつけられていることがある。
・同じような間隔を置いた場所に、苗が植えられることである。
 これは、苗が成長したときに、過密にならないようにするためである。
⇒「過密にすると、何が困るのか」との疑問があるかもしれない。
・植物の栽培では、ある一定の面積では、収穫できる量に限度がある。
 多くの収穫量を得ようとして、一定の面積に多くの株を植えても、収穫量は増えないということである。
 多くの株が密に植えられると、それぞれの株が、養分や光の奪い合いの競争をしなければならない。その結果、競争に負けた株は、成長が遅れたり、成長することができずに枯れたりしてしまう。
 また、健全に育つはずの株が、無理な競争で、ヒョロヒョロと背丈が高くなりすぎたりしてしまう。
⇒だから、田植えでは、田んぼの面積に応じて適切な株数が植えられている。

<間引きについて>
・ダイコンやシュンギクなどのタネをまくとき、多すぎると思うほどのタネをまくことを知っている人もいる。
 そのようなタネのまき方をすることはあるが、その場合には、出てきた芽生えの中から、何日かごとに、成長のよくないものを抜き取っていく。
⇒これは、「間引き」とよばれる作業である。
・間引きすることで、適切な株の数に調節している。間引きされた芽生えは、食べられる。
 だから、多くのタネをまくのは、間引きして食べながら、元気な苗を選んで育てるという栽培法なのである。
(田中修『植物のひみつ』中公新書、2018年、89頁~92頁)

イネの花って、どんな花?


「第四話 イネの“ひみつ」の項目である「イネの花って、どんな花?」には、次のような内容が述べられている。
・イネの花は、タネをつくるために咲く。イネのタネは、お米である。
 田んぼにお米が実っているのを見かけることはある。
 ところが、イネの花を見かけることはあまりない。
だから、イネの花を思い浮かべることができる人は少ない。
☆そこで、「イネの花って、どんな花なのか」という“ふしぎ”が浮かぶ。
 イネは、花の存在を“ひみつ”にしているわけではないが、なぜか、イネの花はよく知られていない。

<植物が属するグループとしての「科」>
※花を咲かせる植物には、いろいろな種類がある。
・植物は、その特徴から、よく似たもの同士として「科」という仲間のグループに分けられる。
 多くの植物が属するグループには、よく知られているものとして、バラ科、キク科、マメ科などがある。
⇒バラ科の植物には、ウメやモモ、サクラやリンゴなどがある。
 キク科の植物には、タンポポ、ヒマワリ、コスモスなどがある。
 マメ科の植物には、ダイズやエンドウ、ラッカセイやインゲンマメなどがある。
 これらの多くは、美しくきれいな、観賞できるような花を咲かせる。
※これらの花には、花びら(花弁)がある。

<バラ科などの花とイネの花の違い~イネの花には花びらがない>
・これらの花とイネの花の大きな違いは、イネの花には花びらがないことである。
 美しくきれいな花びらの役割は、花粉を運んでもらうために、ハチやチョウなどの虫を誘い込むことである。
・イネの花に花びらがないということは、ハチやチョウに花粉の移動を託さないことである。

<イネの花粉の移動>
☆では、「イネは、花粉の移動をどうするのか」との疑問が浮かぶ。
⇒イネは、ハチやチョウなどの虫ではなく、風に花粉を運んでもらう植物なのである。
 そのため、ハチやチョウに目だつ必要がないので、花びらをもっていないのである、と田中氏は説明している。

・イネでは、5ミリメートルぐらいの小さな花が穂のように密に並んで咲く。
 一つの花には、6本のオシベと1本のメシベがある。
 開花している時間は短く、多くの品種で、午前中の2時間くらいである。
 ⇒「そのような性質なら、花粉がつきにくいので、お米ができにくいのではないか」との思いが浮かぶ。
オシベにできる花粉の移動を風に託しているだけでは、イネは不安なのであろう。
 そこで、イネは風に託すだけではなく、開花するときに自分の花粉が自分のメシベについて、タネ(お米)ができるという性質をもち合わせている。

※本来、植物は、「自分の花粉を自分のメシベについてタネをつくる」ということを望んでいないらしい。
 そのようにして、子どもをつくると、自分と同じような性質の子どもばかりが生まれる。
 もしそうなら、いろいろな環境の中で生きていけない。
 しかし、栽培されるイネは、「自分の花粉を自分のメシベにつけてタネをつくる」という性質をもっている。
 なぜなら、人間がイネを栽培する過程で、その性質を身につけた品種を育ててきたからである、と田中氏は説明している。
 花が咲けば、ほぼ確実にお米が実るからである。その結果、イネは、栽培をする私たちに都合のよい作物になっているという。
(田中修『植物のひみつ』中公新書、2018年、92頁~95頁)

稲刈りのあとの緑の植物は?


「第四話 イネの“ひみつ」の項目である「稲刈りのあとの緑の植物は?」には、次のような内容が述べられている。
・秋の稲刈りでは、イネは穂とともに地上部を刈り取られる。
 刈り取られて残されたイネの切り株は、そのまま生涯を終えるような印象がある。
 しかし、稲刈りのすんだ田んぼに残されたイネの株は、多くの場合、生涯をそのまま終えるものではない。
・秋晴れの暖かい日が続けば、穂が刈り取られたイネの株から、芽が出て、葉っぱが伸びだしてくる。切り株から、再び芽が出てくる。

<ひこばえ、分けつ>
☆「いったい、これらは何だろうか」との“ふしぎ”が感じられる。
 刈り取られたイネが見せる“ひみつ”の姿かもしれない。
 これらの芽生えは、「ひこばえ」とよばれる。
 「ひこ」とは「孫」のことである。「ひこばえ」は、孫が生えてきたという意味である。
 稲刈りで刈り取られた穂が、株から出た「子ども」とみなすと、そのあとに出てきた芽生えは、「孫」ということである。秋であるから、ひこばえには、葉っぱや茎だけでなく、新しい穂ができていることもある。
・稲刈りで、刈り取られたあとに残る切り株が、芽を出してくる。
 これらの芽は、稲刈りがされるときにすでにつくられている場合もある。
 もし芽がつくられていなかったとしても、イネには、「分(ぶん)けつ」、あるいは、「分げつ」とよばれる能力がある。
 分けつは、茎の根元から新しい芽が出て、新しい茎が生まれることである。
⇒この能力は、田植えのあと、春から秋の成長の過程でも見られる。
 田植えのときに、3本の苗が植えられたとしても、秋には、株の状態になり、20本くらいの穂が出ている。これは、分けつの結果、穂が生まれたのである。
・稲刈りのすんだ田んぼに、ひこばえがきれいに生えそろうと、イネが二期作でもう一度栽培されているかのように勘違いされる場合がある。
 二期作とは、一年に同じ場所に2回、同じ作物を収穫することである。
・ひこばえとは、新しい芽から出てくるものが多いが、すでに花が咲き実る準備をしていた穂が伸びだしてくるものもある。

・イネは、私たち人間に、食糧としてのお米を収穫させてくれる。やがて、冬が来れば、イネの株は確実に枯れる。稲刈りから枯れるまでのわずかの間に、イネは、自然の中をともに生きる小鳥やシカなどの動物に食べものを賄っている。
 ひこばえは、そのための姿なのかもしれない、という。
 イネは、“生きる力”を、自然の中でともに生きる生き物に役に立つように使っていることになるようだ。
(田中修『植物のひみつ』中公新書、2018年、95頁~97頁)

おいしいお米を求めて


「第四話 イネの“ひみつ」の項目である「おいしいお米を求めて」には、次のような内容が述べられている。
・古くから、お米は、私たちの空腹を満たしてきた。
 しかし、現在は、空腹を満たすだけでなく、おいしさが求められるようになっている。
 実際に、「おいしい」といわれるお米に人気があり、多くのおいしいお米の品種がつくられている。

☆「おいしいお米とは、どのような性質をもっているのか」との“ふしぎ”が浮かぶ。
 おいしいので人気となったお米の代表は、コシヒカリである。
 「はぜ、コシヒカリはおいしいのか」との疑問に対する“ひみつ”が明らかにされている。
・たとえば、日本穀物検定協会の食味テストは、次のような6項目で評価される。
①「香り」
②白さやつや、形などの「外観」
③甘みやうまみの「味」
④ありすぎてもなさすぎても減点になる「粘り」
⑤適度な「硬さ」
⑥全体的な印象の「総合評価」

<おいしいお米とアミロース量の関係>
※お米の味は、このような多くの項目で決まってくるものである。
 しかし、この食味テストで、特においしい「特A」という最高の評価が得られるお米に共通なのは、「アミロース」という成分の割合が低いということである。
〇お米には多くのデンプンが含まれるが、デンプンにはアミロースとアミロペクチンという2つのタイプがある。
 このアミロースの含まれる量が、お米の味に大きく影響するのである。
・日本人の多くが「おいしい」と表現するもち米は、アミロースをいっさい含んでいない。
 それに対して、25年ほど前のお米が不作だった年に、細長いインディカ米を緊急に輸入して、不足分を補う対策がとられた。
 しかし、そのときに輸入されたお米は、パサパサしていて、人気がなかった。このお米は、アミロースを約30%も含んでいたからである。
・「コシヒカリはおいしい」と人気になりはじめたころのコシヒカリ以外のお米は、アミロースを20~22%含んでいた。
 コシヒカリは、アミロースを約17%しか含んでなかった。
 このアミロース量のわずかの違いが、私たちが「おいしさ」を感じる大切な“ひみつ”になっているという。
〇だから、おいしいお米をつくるには、アミロースの少ない品種を育てることである。
 「アミロースの含まれる量が少ないお米をつくったら、ほんとうにおいしいのか」と疑問に思われるかもしれない。
 でも、実際にアミロースの含まれる量を少なくしたお米がつくられ、「おいしい」と評価されてきている。

<北海道のお米の評価>
・ひと昔前の北海道のお米は、「あまりおいしくない」といわれていた。
 日本中のお米の生産量を増やすために、北海道のような寒い地域でも栽培できるような品種が育成されてきた。そのため、味は二の次だった。
ふつう、お米が散らばって落ちていれば、鳥はそれらのお米をついばみながら歩くものである。
 ところが、当時の北海道のお米は、ばらまかれていても「鳥はそれらをついばまずに、またいで通る」と揶揄されて、「鳥またぎ米」といわれていたそうだ。
・しかし、近年は、北海道のお米は、品種改良されて、「おいしいお米」と人気がある。
 毎年、日本穀物検定協会が、お米の「食味ランキング」を発表する。
 北海道産の「ゆめぴかり」や「ななつぼし」は、5段階の最高評価である「特A」を獲得している。

<品種改良と「特A」評価>
※北海道だけでなく、各地で品種改良が進められている。
 2018年の2月に、日本穀物検定協会が、その前の年に収穫されたお米の食味調査の結果を発表した。43銘柄が「特A」という評価を受けた。
その中には、近年開発された、次のような興味深い名前のものが入っている。
・青森県の「青天の霹靂(へきれき)」
・山形県の「つや姫」
・栃木県の「とちぎの星」
・福井県の「ハナエチゼン」
・滋賀県の「みずかがみ」
・高知県の「にこまる」
・佐賀県の「夢しずく」
・熊本県の「森のくまさん」

・新しい時代を生きるお米の品種が、各都道府県で、次々に開発されている。
 この理由は、消費者においしいお米が求められているからである。同時に、将来の温暖化に耐える品種が育成されているそうだ。
 お米は、日本だけでなく、世界人口の約半数の人の主食になっている。今後、懸念される温暖化に打ち克つ品種が育成されなければならない、と田中氏は強調している。
(田中修『植物のひみつ』中公新書、2018年、97頁~100頁)

品種数の減少が深刻!


「第四話 イネの“ひみつ」の項目である「品種数の減少が深刻!」には、次のような内容が述べられている。
・国際連合(国連)は、毎年「国際年」と称して、世界的な規模で取り組むべき課題を決め、それを解決するために、啓発活動を行っている。
 たとえば、植物に関するものでは、2010年は「国際生物多様性年」、2011年は「国際森林年」として、植物の存在の大切さを広く知らしめた。
・また、2004年は「国際コメ年」、2013年は「国際キヌア(キノア)年」、2016年は「国際マメ年」と定められた。食糧としてのコメ、キヌア、マメの啓蒙と増産を目指してのものであったそうだ。

※キヌアというのは、日本ではあまりなじみがないが、近年、知られるようになってきた。
 これは、南米アンデス山脈に生育するヒユ科の植物である。
 トウモロコシほどの背丈に育ち、先端部の穂に、直径数ミリメートルの多くの実を結実する。
 古代インカ帝国では、「母なる穀物」とよばれ、人々の健康を支えてきた。

・国連は、人口の増加を支える食糧としての植物の大切さを世界の人々に訴えてきている。
 近年、世界の人口は毎年1億人弱ほど増加している。しかし、増加する人口に見合うほど、穀物の生産量は増えない。穀物の生産に適した栽培地の面積が限られていることが大きな原因である。そのため、食糧不足はますます深刻な問題になってきている。

<2004年の「国際コメ年」>
〇国連の食糧農業機関(FAO)は、2004年を「国際コメ年」と定めた。
 お米の増産を世界的に奨励し、食糧としての重要性を啓発した。
 この年、国連の広報活動のおかげで、地球上でどのくらいの人が、お米を主食としているかが、認知された。
・アジアを中心に、世界人口の約半数の人々が、お米を主食としている。
 2017年では、地球の総人口は国連の統計で約76億人であるから、その約半分の約38億人がお米を主食としていることになる。

<日本のお米の悩み>
・世界的に多くの人々を養っているお米であるが、日本のお米には、深刻な悩みがあるという。
 その一つは、現在栽培されているイネの品種の数が少ないことである。

☆「なぜ、品種の数が少ないのか」という“ふしぎ”が浮かぶ。
⇒これは、おいしい品種が求められ、その象徴であるコシヒカリがあまりにも人気が高すぎることが原因であるようだ。
・人気の高さは、この品種が栽培される面積の大きさでわかる。
 2016年のコシヒカリの作付け面積は、全国で栽培されるすべてのイネの約36パーセントを占めた。
 2番目に多い品種が、「ひとめぼれ」。作付け面積は10パーセント以下。
 コシヒカリが、突出しての第1位である。

・コシヒカリの作付け面積が約36パーセントもあることはすごいことだが、もっとすごいのは、コシヒカリの作付け面積第1位の座が、数十年間も変わることなく維持されていることである。
イネは常に品種改良されているから、ふつうには、何年かが経過すれば、他の新しい品種が出てきて、順位が入れ替わるものらしい。ところが、コシヒカリの場合は、その人気が継続している。
・コシヒカリに次いで多く栽培されているのは、年によって変化するが、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、あきたこまち、ななつぼしなどである。
(これらは、コシヒカリが生まれて以後に、新しく開発された品種であるが、コシヒカリを追い越すことができていない)

☆それだけではなく、これらの品種は、もう一つの深刻な問題を抱えているようだ。
 それは、これらがコシヒカリの子孫に当たる品種であるということである。
 そのため、コシヒカリと性質がよく似ている。
・おいしさを求めて、コシヒカリの性質が引き継がれた品種ばかりが栽培されているのである。
 そのために、日本で栽培されるイネの品種の数が少なくなっている。

☆ここで「なぜ品種の数が少ないことが問題なのか」という疑問がおこる。
※イネだけではないが、作物では、多くの品種が栽培されることが望まれる、と田中氏は主張している。
 その理由について、次のように述べている。
①同じ性質の品種ばかりが栽培されていると、もし何かの天候異変がおこり、その異変に弱い性質をもつ品種の不作がおこると、その性質をもつ品種はすべて、不作になるから。
②また、ある病気が流行り、その病気に弱い性質をもつ品種が病気にかかると、その性質をもつ品種はすべて、病気にかかる。
同じ性質をもつ品種ばかり栽培することは、そのようなリスクをはらんでいる。

・日本中で、よく似た性質のお米ばかりが栽培されることは、天候異変や病気の流行の可能性を考えると、よくないそうだ。
 異なった性質の品種が数多く栽培されていれば、そのようときに救われる。
 そのため、それぞれの地域の風土にあった品種が栽培され、各地域で栽培される品種が異なっていることが望まれる、と主張している。
※栽培される品種が減ってきていることに加えて、お米には、もう一つの深刻な悩みがあるそうだ。
 お米は、日本では、古くから、多くの人にほぼ毎日食べられてきている。
 だから、お米のことはよく知られているように思われがちだが、そうではないという。
(田中修『植物のひみつ』中公新書、2018年、100頁~104頁)

イネの悩みとは、知られていないこと!


「第四話 イネの“ひみつ」の項目である「イネの悩みとは、知られていないこと!」には、次のような内容が述べられている。
・お米は、長い間、私たちの食生活の中心にあり、主食として空腹を満たし、健康を守り支えてきた。
 しかし、知られていないことが多くあるらしい。
 この点で、顕著な例を2つだけ紹介している。
①お餅をつくるのに使うお米である「もち米」について
・このもち米という言葉はよく知られているが、漢字がほとんど知られていない。
 多くの場合、「餅米」という、誤った字が書かれる。
 お餅に使われる「餅」という字は、「うすくて平たい」を意味する文字である。
 ⇒だから、ついて伸ばしてお餅になったときに使われるものである。
 (お餅になる前のもち米に、「餅」を使うのは正しくない)
・すると、「もち米」は、どのような字なのか?
 正解は、「糯米」である。
⇒この「糯」という字は、「しっとりとした粘り気のある」という意味を含み、もち米の性質をそのまま表わしている。
・もち米に対し、ふつうの食事のときに食べるお米の名前は、何か?
 そのお米は、「うるち」、あるいは「うるち米」という。
 ところが、この「うるち」という漢字を書ける人は少ない。
 うるちは、「粳」と書かれる。
 この字は、「硬くてしっかりしている」という意味を含み、うるち米の性質を表している。

②お米についてよく知られていない2つ目の例は、「無洗米」について
・近年、このお米は、市販されており、利用が広がっている。
 炊く前に水で洗う必要がないので、ひと手間省ける便利なお米である。
 しかし、多くの人々には、誤解されている。
⇒その特徴から、「一人暮らしの人が、少しのお米を洗わなくても食べられるお米」とか、「冬の寒い日、冷たい水に手をつけなくてもよいお米」とか、「洗い方を知らない人でも、炊けるお米」などの印象がもたれている。
(多くの人に、「無洗米は、不精な人が手抜きのために使うお米」と考えられているようだ)
・それ以上に、「無洗米はおいしくない」という印象がある。
 無洗米は洗う必要がないために、「すでに水洗いされたお米が乾かされたものだろう」と想像される。「水を使って洗ったあとに乾かされたお米が、おいしいはずがない」という観念がその理由になっているようだ。

・ところが、そうではない。
 無洗米を試食した多くの人は、「おいしい」という感想をもつ。
 その通りで、無洗米の大きな特徴は、おいしいことであるという。なぜなら、無洗米は、水を使って洗ったあとで乾かしたお米ではないから。

☆「水を使わずに、どのようにして洗うのか」との“ふしぎ”が浮かぶ。
 これは、炊く前にお米を洗う理由を誤解していることから浮かぶ“ふしぎ”でもある
・お米を洗うのは、お米が汚れているからではない。
 お米の表面をうっすらと覆っているぬかをとるためである。
(「お米を洗う」という表現が使われるが、ぬかや汚れを洗い落とすのではなく、ぬかを取り除くために、「お米を研ぐ」というのが正しい表現といわれる)

※玄米は精米機に入れられて、ぬかや胚芽(はいが)が取り除かれ、精白米になる。 
 ところが、精白米の表面には、まだうっすらと「肌ぬか」とよばれるぬかが残っているそうだ。肌ぬかはおいしくないので、食べる前に洗い落とさなければならない。そのために、炊く前にお米をやさしくかきまぜながら、水洗いする。
・無洗米は、水を使わずに、肌ぬかの性質をたくみに利用して、この肌ぬかを取り除いたものである。
 たとえば、お米を金属製の筒に入れ、お米が壁面にぶつかるように筒内を高速で攪拌するそうだ。
 すると、お米の肌ぬかが壁面につく。その肌ぬかに次々とお米が当たり、お米の表面の肌ぬかが壁面の肌ぬかについて剝がされる。これは、肌ぬかの粘着性が高く、肌ぬか同士がくっつくという性質をたくみに利用しているそうだ。
⇒この方法でできる無洗米は、水洗いよりもきれいに肌ぬかがとれる。だから、おいしいという。
 また、精白米の表面には、おいしさのもととなる「うまみ層」がある。
 水で洗うと、このうまみ層が壊れたりするそうだ。
 粘着力で肌ぬかをとると、うまみ層が傷つかずにそのまま残る。だから、おいしくなる、と田中氏は説明している。

<お米の研ぎ汁は、富栄養化の原因に>
〇無洗米は、おいしいだけでなく、「環境にやさしい」といわれるお米である。
 なぜなら、無洗米には、水洗いの必要がないからである。お米を洗うときに(正確には、お米を研ぐときに)、多くの水が使われる。
 そのときにでる研ぎ汁は、池や沼、湖に流れ込み、富栄養化の原因となる。
 なぜなら、研ぎ汁には多くのリンが含まれるから。
 リンは、窒素、カリウムとともに、池や沼、湖の富栄養化をもたらすものである。
 だから、リンを含む水を流すことのない無洗米は、環境にやさしい、と田中氏は説く。
(田中修『植物のひみつ』中公新書、2018年、104頁~108頁)


≪2022年度 わが家の稲作日誌≫

2022-10-29 19:36:52 | 稲作
≪2022年度 わが家の稲作日誌≫
(2022年10月29日投稿)

【はじめに】


 「2022年度 わが家の稲作日誌」として、今年度の稲作の主な作業日程を振り返ってみたい。合わせて、今年がどのような天候の下での稲作であったのか、回顧しておくことにしたい。
 今年は、地区の集落委員を務めたので、『農業共済新聞』を購読することになり、参照すべき記事がいくつか掲載されていた。
 また、農業関係では、次のような書籍を読んだので、関心のあるところをまとめておいた。
〇近正宏光『コメとの嘘と真実』角川SSC新書、2013年
〇田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]
〇田中修『植物のひみつ 身近なみどりの“すごい”能力』中公新書、2018年
時に紹介してみたい。




執筆項目は次のようになる。


・【はじめに】
・【2022年の稲作行程・日程】
・【2022年の稲作の主な作業日程の写真】
・【一口メモ:「地球温暖化影響調査レポート」】(『農業共済新聞』(2022年10月1週号より)







【2022年の稲作行程・日程】


2022年の稲作行程・日程を箇条書きに書き出してみた。

・2022年3月8日(火) 晴 11℃(0~12℃)
  9:00~9:30 春耕作の依頼に伺う

・2022年3月23日(水) 曇 9℃(2~10℃)
  10:00~11:00 永小作の相談に伺う
 
・2022年4月21日(木) 曇 夕方から雨 18℃(10~21℃)
  9:00~11:30 草刈り 
   前々日、コロナワクチン第3回目接種で、昨日は少し肩が痛かったが、今日は何とか回復。曇り空で、直射日光がなく、草刈りには良い。
・草刈りそのものは2時間で混合油が切れる。
(小道と小屋の周辺の草刈りは後日)

【メモ】
・久しぶりに刈り払い機のエンジンをかけるも、最初、なかなか始動せず。
(混合油も、次回は購入しないと足りない)
・畦の内側を優先的に草刈りし、次に畦の上、そして畦の外側という順序で、草刈りを進めて行く。
・雑草としては、カラスノエンドウ、クローバー、スミレ、タンポポが多い。
 とくにカラスノエンドウが、畦と田んぼの中に繁茂しすぎ、手古摺る。
・中央の畦には、モグラの穴が数カ所あり。

【草刈り前の写真】
2022年4月21日の写真




なぜ、田植え前の田んぼに、レンゲソウが植えられるのか?


田中修『植物のひみつ 身近なみどりの“すごい”能力』(中公新書、2018年)の「第四話 イネの“ひみつ」の項目である「なぜ、田植え前の田んぼに、レンゲソウが植えられるのか?」には、次のような内容が述べられている。

・6、70年前には、田植え前の田んぼでは、卵形の小さな葉っぱをつけた茎が地面を這うように、レンゲソウが育っていた。
 花が咲くと、畑一面が紫色に染まり、その美しさは、春の田園風景の象徴でもあった。
 
☆「なぜ、田植え前の田んぼに、レンゲソウが育っているのか」という、素朴な“ふしぎ”が抱かれることがあった。
 この“ふしぎ”を解くためには、植物たちの“ひみつ”を知らなければならないそうだ。

・レンゲソウは、タンポポのように、勝手に生える雑草ではない。
 田植えをする田んぼに、前の年の秋にタネをわざわざまかれて、栽培される植物なのである。
 育ったレンゲソウの葉っぱや茎は、田植えの前に土が耕されるとき、そのまま田んぼの中にすき込まれてしまう。
・この植物は、わざわざタネをまいて栽培され、きれいな花が咲いている時期、あるいは、そのあとにタネがつくられる時期に、土の中にすき込まれてしまう。
 それを知れば、「なぜ、せっかく育ってきたのに、土にすき込まれるのか」や、
 「レンゲソウは、何のために栽培されているのか」などの疑問が浮上する。

<レンゲソウの根粒菌>
〇実は、レンゲソウには、すばらしい“ひみつ”の性質がある、と田中氏はいう。
・元気に育つレンゲソウの根を土からそおっと引き抜くと、根に小さな粒々がたくさんついている。
 この粒々は、根にできる粒という意味で、「根粒」といわれる。
 その粒の中には、「根粒菌」という菌が住んでいる。この根粒菌が、すばらしい“ひみつ”の能力をもっている。

※植物が栽培されるときに必要とされる三大肥料は、窒素、リン酸、カリウムである。
・その中でも、窒素肥料は特に重要であるといわれる。
 窒素は、葉っぱや茎、根などを形成するために必要であり、植物が生きていくために必要なタンパク質の成分だからである。
・また、窒素は、光合成のための光を吸収する緑の色素であるクロロフィルや、親の形や性質なども子どもに伝えていくための遺伝子にも含まれる成分だからである。
⇒だから、窒素は、それらの物質をつくるのに必要なものであり、植物が成長するには、必要不可欠な物質である。
 そのため、私たちは植物を栽培するときには、窒素肥料を与えなければならない。

〇さて、レンゲソウをはじめとするマメ科植物の根に暮らす根粒菌は、空気中の窒素を窒素肥料に変える能力をもっている。
・レンゲソウは、根粒菌がつくった窒素肥料を利用する。
 そのため、土に窒素肥料が与えられなくても、レンゲソウのからだには、窒素が多く含まれる。
 空気中の窒素を窒素肥料に変える能力をもつ根粒菌を根に住まわせていることが、レンゲソウの“ひみつ”なのである。

・これが田植えの前に土の中にすき込まれると、緑の葉っぱや茎に含まれていた窒素肥料の成分が土壌に溶け込み、土壌を肥やし、緑肥となる。
 ⇒そのため、レンゲソウは、緑肥作物とよばれる。

※このように、レンゲソウは、緑肥作物として、田植えをする田んぼにタネがまかれて、栽培されていた。

<近年の傾向>
・ところが、近年、レンゲソウ畑が減ってきた。
 化学肥料が普及してきたことが一因であるが、大きな理由は、田植えの機械化が進み、小さなイネの苗を機械で植えるようになり、田植えの時期が早くなったことらしい。
・田植えが機械化される以前の田植えでは、レンゲソウの花の時期が終わるころに、大きく育ったイネの苗を手で植えていた。
 ところが、機械では、大きく育った苗は植えにくいので、小さな苗が植えられるのである。
・田植えの時期が早まると、レンゲソウが育つ期間が短くなる。
 すると、レンゲソウのからだが大きくなる前にすき込まなければならないので、栽培してもあまり役立たなくなった。

<レンゲソウ~プラスアルファの役に立つ性質>
・しかし近年、レンゲソウは、土壌を肥やすだけではなく、プラスアルファの役に立つ性質をもつことがわかりつつあるという。
・レンゲソウの葉っぱや茎が土にすき込まれて分解されると、酪酸(らくさん)やプロピオン酸などという物質が生じるそうだ。これらは、雑草の発芽や成長を抑える効果をもつとされる。
・だから、レンゲソウを緑肥とした畑や田んぼでは、化学肥料を使わずに土壌が肥沃になり、雑草が育ちにくくなるようだ。
⇒レンゲソウが春の畑に復活する日がくるかもしれないという。
(田中修『植物のひみつ』中公新書、2018年、80頁~84頁)


レンゲソウとカラスノエンドウ~根粒菌の働き


田中修『雑草のはなし』(中公新書、2007年[2018年版])においても、レンゲソウ(マメ科)とカラスノエンドウ(マメ科)の根粒菌について解説している。
・根に根粒菌がつくのは、マメ科の植物の特徴である。この植物の根をそうっと引き抜くと、小さなコブのような粒々がいっぱいついている。この粒々の中には、根粒菌が暮らしている。
・根粒菌は、空気を窒素肥料にかえて、この植物(レンゲソウとカラスノエンドウ)に供給し、成長に役立つ。
 だから、カラスノエンドウは、レンゲソウと同じように、この植物の葉や茎を緑のまま土の中にすき込んでしまうと、土を肥やす働きがある。
⇒栽培植物の肥料となるので、「緑肥」と呼ばれる。
 つまり、痩せた土地では、根粒菌に肥料をつくってもらう。
(田中修『雑草のはなし』中公新書、2007年[2018年版]、13頁)

【参考】
 You Tubeでも、「但馬の田舎暮らし どんぐ屋」さんは、「【緑肥】レンゲ草の花が満開になりました【稲作】」(2022年5月10日付)において、この根粒菌について言及している。
 すなわち、根粒菌に空気中の窒素を吸収して、根に蓄える。そのレンゲ草のパワーについて解説している。合鴨農法を行う田んぼにレンゲ草の種まきしたものが、5月初めに満開になった様子を動画にして伝えている。レンゲ草を、有機栽培の救世主としてみている。



・2022年4月25日(月) 晴 26℃(13~27℃)
  9:00~10:00 草刈り 小道と小屋の周辺
   直射日光が当たり、朝から暑い!
   小屋の周辺などはカラスノエンドウが長く伸びていて苦戦。
  10:00~11:30 車庫の周辺の草刈り、裏山のタケノコ取り(10本収穫)

・2022年4月27日(水) 曇 18℃(18~19℃)
  10:00~11:00 土地区画整理事業の安全祈願祭に参列
   昨日の大雨が何とか上がり、無事につつがなく執り行われ、安堵する

・2022年4月28日(木) 晴 18℃(11~19℃)
     畦塗りをし終えたとの連絡あり

・2022年5月2日(月) 晴 18℃(6~19℃)
  10:00~10:40 荒おこしをしておられる 私は畦の草寄せ作業

【作業の様子】
2022年5月2日の作業の様子


・2022年5月9日(月) 曇 15℃(13~17℃)
  9:00~11:30 草刈りと水入れの準備作業
   曇りで肌寒いくらいの天候
   (昨晩19時から神社委員会が開かれ、年間行事の役割分担が決まる)
   2時間ほど草刈り。伸びた草は再び十数センチになっていた。
   進入路の草刈りは小石が飛ぶので注意が必要
   残り30分で、水入れに備えて、水止め用の袋を新しいものに交換
   ちょうど作業が終了した頃、雨がポツリポツリと降ってくる。

・2022年5月10日(火) 晴 17℃(10~19℃)
  9:30草刈り用の混合油 安達石油にて購入 ゼノア25:1(5ℓ 1430円)
  (去年より300円値上がり、やはり世界情勢が影響か)

・2022年5月11日(水) 雨後曇 22℃(14~24℃)
  18:10 委託者より、水を貯めてよいと電話。明日、水を入れること。

・2022年5月20日(金) 晴 24℃(15~24℃)
  18:15~19:00 土地区画整理組合の役員会
  ・委託者より、明日5月21日(土)午前中に代かきを行う予定といわれる
   (下の田んぼは水が多いので、水路の石を取り、水を止めておくように)
  ・そして、5月25日(水)か26日(木)のいずれかに、田植えを行う予定とのこと。
  19:10 役員会の帰りに、田んぼに寄り、下の田の水を止める。
      (下の田の水に鴨が2羽泳いでいた)

・2022年5月21日(土) 曇 20℃(17~24℃)
  10:00 天気予報によれば、中国地方の梅雨入りは若干例年より早く、6月3日頃になるかもしれないという。

・2022年5月23日(月) 晴 25℃(16~26℃)
  10:00~10:30 県用地部の人と地権者で測量のための立会
  11:00~11:40 立会の田畑の草刈り

・2022年5月24日(火) 晴 25℃(12~28℃)
  12:30 委託者より電話。明日、田植えを9:30か10:00から行う予定。
  (下の田の水が少し多かったので、調整しておいたとのこと)

・2022年5月25日(水) 晴 28℃(15~29℃)
   9:00~ 9:20 お弁当(寿司、惣菜、お菓子など)買い出し
   9:30~11:00 田植え
   ※田植え機はGPS付きの新車を購入されたとのこと。
    (古い田植え機は15~16年間使ったので、買い替え時だったらしい)
  11:00~11:30 NOSAIの広報配布

【稲作の写真】


・2022年5月26日(木) 曇 25℃(18~28℃)
  17:00~19:20 土地区画整理組合の総会(監事報告)

・2022年5月27日(金) 快晴 25℃(18~27℃)
   9:30~12:00 田んぼの作業
   ・上の田と下の田に水入れ(1時間ずつ)
   ・四隅など手植え(2時間半で終わらず)
   ・また機械で植えた苗で倒れているものを直す。
   (今年は本数を少なく植えてあるかもしれない。1本の所もある)

・2022年5月28日(土) 晴 25℃(17~27℃)
   9:00~10:00 水入れ(不足分のみ)
   
・2022年5月29日(日) 晴 28℃(17~29℃)
9:00~10:30 上下の田の半分以上、土が出て、水が乾いている。
   なお、ホームセンターで刈払い機のサビ止めスプレーを購入

・2022年5月30日(月) 曇 26℃(16~25℃)
   9:00~10:00 裏山で竹を切る
   (1本高い所にあり苦戦。屋根の上に先端が倒れる)

・2022年5月31日(火) 雨 22℃(18~24℃)
  今朝、雨が降ったので、田の水入れせず

・2022年6月1日(水) 曇のち晴 26℃(14~27℃)
   9:30~10:30 水入れ、苗の補植と倒れた苗の修正
   (2日間曇のち雨で水入れしないと、上下の田とも表土が出ていた)
  10:30~11:30 庭木の剪定

・2022年6月2日(木) 晴 25℃(16~27℃)
   9:30~10:30 水入れ

・2022年6月3日(金) 晴 25℃(16~27℃)
   9:30~10:30 水入れ
   ・残りの肥料と除草剤を撒く。小屋の周辺の草取り。

・2022年6月4日(土) 晴 22℃(17~23℃)
   9:30~10:30 水入れ 
   ・畦の上で、シマヘビが日向ぼっこ(水路に逃げ、とぐろ巻く)
  10:30~12:30 妹と庭木の剪定 

・2022年6月5日(日) 曇のち雨 22℃(17~23℃)
   9:00~10:10 地区の神社清掃

・2022年6月8日(水) 曇 22℃(13~23℃)
   9:30~10:30 水入れ(3日間雨だったので、水入れ不要)

・2022年6月9日(水) 晴 22℃(14~23℃)
   9:30~10:30 水入れ(水路に石を置き水調整)
  10:30~12:00 再び妹と庭木の剪定

・2022年6月10日(金) 晴 22℃(17~25℃)
   9:00~ 9:40 春耕作代支払いに行く

・2022年6月13日(月) 晴 21℃(16~22℃)風があり比較的快適な日
   9:00~11:00 草刈り 久しぶりの草刈りで長い草は十数センチに伸びている。
   (但し、南面は残す)
  11:00~11:30 今度の日曜6月19日が市の清掃活動の日なので道路脇の草刈り

・2022年6月14日(火) 雨 19℃(17~21℃)
  11:00 中国地方 梅雨入り

・2022年6月16日(木) 晴 20℃(18~27℃)
   9:30~10:30 第3回遅ればせながら手植え
   かなり足がはまる。下の田に機械油が浮いている。バケツに入れて捨てる。
  ※北側の人の田には、藻が大量に発生している。温度や富栄養化が原因か。

・2022年6月17日(金) 晴 28℃(18~29℃)
   9:00~10:30 草刈り(南面)
   朝から暑い。小道には葛のツルが伸びている。
  10:30~11:00 道路脇の草刈り(仕上げ)

・2022年6月19日(日) 晴 28℃(21~29℃)
   8:00~ 9:00 市の清掃活動

・2022年6月24日(日) 曇 29℃(28~30℃)
  10:00~11:00 中干し開始(分けつが進み、茎の数が約15本になる)
   最高気温30℃前後の日が1週間続き、雨がほとんど降らず(昨日は34℃まで上がり、夜も28℃の熱帯夜)
  ※上の田は藻は生えていなかったが、下の田には藻がひどく生え黄色になっている。
   特に小屋の北がひどい。北側の人の田も東側が以前から藻がひどい)
  ・下の田の畦(西側)に機械油が浮いている。
<ポイント>
  ・中干しの開始時期は、田植えの約1カ月後(または出穂の約1カ月前)が目安
  ・田面に軽く亀裂が生じる程度(概ね5~7日間)
  ・中干しの後の水管理は間断灌水が理想的。
 


中干しが必要な理由


 田中修『植物のひみつ 身近なみどりの“すごい”能力』(中公新書、2018年)には、中干しがなぜ必要なのかについても、解説している。
「第四話 イネの“ひみつ」の項目である「なぜ、イネは水田で育てられるのか?」には、次のような内容が述べられている。

・春の田植えで植えられたあと、イネは水田で育てられる。
 「なぜ、イネは水の中で育てられるのか」という“ふしぎ”が興味深く抱かれる。
 イネには、水の中で育てられると、四つの“ひみつ”の恩恵があるという。

①水には、土に比べて温まりにくく、いったん温まると冷めにくいという性質があるということ。
 ⇒水田で育てば、イネは夜も温かさが保たれた中にいられる。暑い地域が原産地と考えられるイネにとって、これは望ましい環境である。

②水中で育つイネは、水の不足に悩む必要がないこと。
・ふつうの土壌に育つ植物は、常に水不足に悩んでいるらしい。
 ⇒そのために、栽培植物には「水やり」をする。そうしないとすぐに枯れてしまう。
 しかし、自然の中で、栽培されずに生きている雑草は、「水やり」をされなくても育っている。
・だから、「ふつうの土壌に育つ植物たちは、ほんとうに、水の不足に悩んでいるのか」との疑問が生じる。
 これは、容易に確かめることができる。
 雑草が育っている野原などで、日当たりのよい場所を区切り、毎日、一つの区画だけに水やりをする。すると、その区画に育つ雑草は、水をもらえない区画の雑草に比べて、成長が確実によくなる。
 
③水の中には、多くの養分が豊富に含まれていること。
・水田には、水が流れ込んでくる。その途上で、水には養分が溶け込んでいる。そのため、水田で育つイネは、流れ込んでくる水の十分な養分を吸収することができる。
⇒このように、水の中は、イネにとって、恵まれた環境である。
 
④「連作障害」が防げること。
・「連作」という語がある。これは、同じ場所に、同じ種類の作物を2年以上連続して栽培することである。多くの植物は、連作されることを嫌がる。連作すると、生育は悪く、病気にかかることが多くならからである。
・連作した場合、うまく収穫できるまでに植物が成長したとしても、収穫量は前年に比べて少なくなる。これらは、「連作障害」といわれる現象である。

<連作障害の三つの原因>
①病原菌や害虫によるもの。
・毎年、同じ場所に同じ作物を栽培していると、その種類の植物に感染する病原菌や害虫がそのあたりに集まってくる。そのため、連作される植物が、病気になりやすくなったり、害虫の被害を受けたりする。
②植物の排泄物によるもの。
・植物は、からだの中で不要になった物質を、根から排泄物として土壌に放出していることがある。連作すると、それらが土壌に蓄積してくる。すると、植物の成長に害を与えはじめる。
③土壌から同じ養分が吸収されるために、特定の養分が少なくなることによるもの。
・「三大肥料」といわれる窒素、リン酸、カリウムの他に、カルシウム、マグネシウム、鉄、硫黄などが植物の成長には必要である。
⇒これらは、肥料として与えられる場合が多い。
 しかし、これ以外に、モリブデン、マンガン、ホウ素、亜鉛、銅などが、ごく微量だが、植物の成長に必要である。

※必要な量はそれぞれの植物によって異なるが、連作すると、ある特定の養分が不足することが考えられる。
・これら三つの連作障害の原因は、水田で栽培されることで除去される。
 水が流れ込んで出ていくことで、病原菌や排泄物が流し出されたり、養分が補給されたりするからである。
 水田で育てば、こんなにすごい恩恵があるのであるから、他の植物たちも「水の中で育ちたい」と思う、と田中氏は考えている。

<水の中で育つための特別のしくみ~レンコンとイネの共通点>
※ただ、水の中で育つためには、そのための特別のしくみをもたなければならない。
・「どのような、しくみなのか」との疑問が生まれる。
⇒そのしくみをもつ代表は、レンコンであるようだ。
・レンコンは、泥水の中で育っているが、呼吸をするために穴をもっている。あの穴に、地上部の葉っぱから空気が送られている。
・実は、イネもレンコンとまったく同じしくみをもっている。
 イネの根には、顕微鏡で見なければならないが、レンコンと同じように小さな穴が開いており、隙間がある。正確には、イネは根の中に隙間をつくる能力をもっている。
というのは、イネは、水田では、その能力を発揮して、根の中に隙間をつくる。
 しかし、同じイネを水田でなく畑で育てると、その根には、水田で育つイネの根にできるような大きな隙間はつくられない。
イネは、置かれた環境に合わせて、生き方を変える能力をもっている。

<中干しが必要な理由>
☆しかし、水がいっぱい満ちている水田で育っていると、困ったこともあるそうだ。
・イネは、水を探し求める必要がないので、水を吸うための根を強く張りめぐらせない。そのため、水田で栽培されているイネの根の成長は、貧弱になる。
・根には、水が不足すると水を求めて根を張りめぐらせるという、“ハングリー精神”といえるような性質がある。
 だから、田植えのあと、水をいっぱい与えられて、ハングリー精神を刺激されずに育ったイネの根は貧弱である。
⇒もしそのままだと、秋に実る、垂れ下がるほどの重い穂を支えることができない。イネは倒れてしまう。イネは倒れると、実りも悪く、収穫もしにくくなる。

・そこで、イネの根を強くたくましくするために、イネに試練が課せられる。
 夏の水田を見てほしい。
 田んぼに張られていた水は、抜かれている。水田の水が抜かれるだけでなく、田んぼの土壌は乾燥させられている。ひどい場合には、乾燥した土壌の表面にひび割れがおこっている。
(イネは水田で育つことがよく知られているので、この様子を見て、勘違いする人がいる。
 「イネに水もやらずに、ほったらかしにしている」とか、「ひどいことをする」と腹を立てる人までいる。
 でも、それはとんでもない誤解である。)
・水田の水を抜き、田んぼの土壌を乾燥させるのは、水が不足すると水を求めて根を張りめぐらせるという、イネのハングリー精神を刺激しているのである。
⇒そうしてこそ、秋に垂れ下がる重いお米を支えられるほどに根を張り、強いからだになることができる。

・土壌の表面のひび割れも、無駄にはなっていない。ひび割れて土に隙間ができることで、この隙間から、地中の根に酸素が与えられる。それは、根が活発に伸びるのに役に立つのである。
 こうして、イネは、秋の実りを迎える。
⇒イネの栽培におけるこの過程は、「中干し」とよばれる。
 この過程を経てこそ、秋に垂れ下がるほどの重いお米を支えるからだができあがる。だから、中干しは、イネの栽培の大切な一つの過程なのである。
(田中修『植物のひみつ』中公新書、2018年、84頁~89頁)

・2022年6月27日(月) 曇 32℃(24~33℃)
   9:30~10:30 役員会議(工事見積書の提出、持ち帰り再検討)
  11:00~11:30 中干しの様子見(昨日、一昨日の雨も干上がっている)

・2022年6月28日(火) 晴 32℃(26~35℃)
   9:00~10:30 そば畑(公田)の草刈り
  11:00 中国地方 梅雨明け発表 14日の梅雨期間は最短で、梅雨明けは最も早い
  (季節現象であるため、後日検討され期日が変更となる場合もあり)

・2022年6月30日(木) 晴 32℃(24~33℃)
   9:30~10:00 田んぼの様子見~中干し順調
 ※北側の人の田は藻が黄色くなっている。中干ししていない。

・2022年7月2日(土) 晴 35℃(24~36℃)
  台風4号の接近で明日から雨が降るという。

【一口メモ:半夏生について】
・半夏生は「はんげしょう」と読み、節分や土用などと同じような、雑節のうちのひとつ。
・半夏生は、夏至(6月21日頃)から数えて11日目の7月2日頃から七夕(7月7日)頃までの5日間をいう。
・田植えは半夏生に入る前に終わるものとされ、この頃から梅雨が明ける。「半夏生」は気候の変わり目として、農作業の大切な目安とされる。

・半夏生の呼び名の由来には、2つの説があるようだ。
①漢方薬に使われる半夏というサトイモ科のカラスビシャクが生える頃だからという説。
②ドクダミ科のハンゲショウという植物が、ちょうどこの時期に花をつけるからという説。

・半夏生の時期はちょうど田植えが終わる頃とされた。
田植えを終えた稲や畑の作物が「タコの足のようにしっかり根を張って豊作になるように。」と願いを込めて、農家の人々が神様にタコをお供えした。
これに由来して、半夏生の時期にはタコを食べる習わしが生まれたと言われている。
この風習は関西地方を中心に昔から根付いている。半夏生にタコを食べる地域だけではない。香川県ではうどん、福井県ではサバ、長野県でも芋汁などを食べる。

・2022年7月3日(日) 晴のち雷雨 32℃(25~32℃)
  午後2時前から雷雨。中干し以来、初めてまとまった慈雨となる。

【一口メモ:稲妻について】
・稲妻は、「稲の夫(つま)」の意味から生まれた語であるといわれる。
 古代、稲の結実時期に雷が多いことから、雷光が稲を実らせるという信仰があった。
・日本には、古来、「稲と雷とが交わることで稲穂が実る」と考えられていた。
雷が稲を妊娠させると考えられていた。昔、雷が多いと豊作になることが多いため、「雷光が稲に当たると稲が妊娠して子を宿す」という考え方があった。
・稲妻の「つま」は、古くは夫婦や恋人が互いに相手を呼ぶ言葉で、男女関係なく「妻」「夫」ともに「つま」といった。雷光が稲を実らせるという信仰から、元来は「稲の夫」の意味である。
(しかし、現代では「つま」に「妻」が用いられるため、「稲妻」になった)
・語源的に考えれば、「稲妻」と「雷」の違いは、「稲妻」が「光」であり、「雷」が「音」である。
・気象学的には、実際に雷が多いときは、降水量や日照、気温など、稲の生育に良い条件がそろうようだ。
 昔から「雷の多い年は豊作になる」との言い伝えには、根拠があることが証明されているらしい。
 雷が空中で放電することにより空気中の窒素が分解され、それが雨と混じり、地中に溶け込むことで、その土地は栄養分が豊かになるからとされる。窒素は肥料の3要素の一つで、これが成長を促す。つまり窒素の増加により豊作となるようだ。
(雷の放電によって、N2はO2と化合して、各種の窒素化合物(NOやNO2など)となり、これが雨水によって硝酸(HNO3)となる。硝酸は植物の成長に欠かせない。)

※ただし、窒素過多には注意したほうがよいともいわれる。
たとえば、近正宏光氏は『コメとの嘘と真実』において、有機栽培について説明した項目で、
・肥料に関しては有機肥料といえど最小限しか与えない。
 肥料には窒素分が多く存在し、これが投与過多になるとタンパク質含量が上がってしまい、コメがまずくなると述べている。
また、「アイガモ農法米」について記した箇所で、次のようなことを述べている。
食物としてのコメにとって窒素過多はご法度。当たり前だが、アイガモは田んぼの中で糞をする。これは「未完熟の肥料」。彼らは自然の行為として排泄を行い、タイミングも自然に任せて行う。結果、気を抜くと、肥料の投与量も時期もコントロールを失った、窒素過多のコメが実る場合もあり得る。
※同様の理論で、鯉などを使った栽培法もあるが、消費者がこうむるデメリットも同様。有機米にイメージとしての付加価値ではなく、「おいしさ」「安全性」を求めるのであれば、他の選択肢も検討しなければならない場合があると、近正氏はコメントしている。

(近正宏光『コメとの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、146頁~147頁、151頁~152頁)

・2022年7月6日(水) 曇 30℃(25~32℃)
  9:30~10:00 中干し終了
   昨日、台風4号が本土長崎で温帯低気圧に変わり、四国を通過したが、こちらはほとんど風雨なし。
   中干しを終了して、水を入れる
   (良い加減に田んぼの土が乾き、ヒビが入っている)
  14:00~15:00 土地区画役員会 入札

・2022年7月7日(木) 晴 30℃(24~30℃)
  9:00~10:40 田んぼの畦を草刈り(15センチくらい伸びている)
       (但し、北側斜面と小道、小屋周辺は残る)
  14:00~15:00  県の用地部 契約成立(口座と実印)

・2022年7月8日(木) 曇一時雨 28℃(24~29℃)
  9:30~10:00 田んぼの様子見
   (下の田には十分水が溜まっていたが、上の田の北側は少し水不足。用水路の水を石で調節し水を入れる)
   共立の刈払い機の調子を見る。小屋に去年購入した土嚢袋あり
   (後日、残りの草刈りと水止め用の袋を作り、交換すること)

・2022年7月11日(月) 曇 30℃(24~33℃)
  9:10~9:20  御礼の品を届ける
  9:20~10:00 田んぼの様子見
   (上・下の田んぼに水が十分溜まっていたので、水尻の石、板を外し流す)

・2022年7月12日(火) 曇 26℃(24~27℃)
  9:00~10:00  委託者にお礼 代替地の件で相談
・2022年7月13日(水) 曇 28℃(23~29℃)
  9:00~11:00 草刈り
   気温はまあまあだが、無風で蒸し暑い。
   北側・東側の法面と小道(田の畔をもう一度、伸びた草のみ)
   小道脇は、例年通り、葛が繁茂(上部のみ刈る)
   共立製の新しい方の刈払機で今年初めて草刈り
   (グリップハンド方式を忘れていた。気を抜いた時、キックバックに注意)
  ※向こう1週間は雨予報で、梅雨が戻ったような天気(戻り梅雨か)。
来週7月23日から晴になるとのこと。

・2022年7月20日(水) 晴 30℃(23~30℃)
  10:30~11:00 田んぼの様子見(上の田の北側が少し水不足)
  ※1週間ぶりに晴れ。昨日は県内に大雨警報が出るほどに雨が降る。

・2022年7月26日(火) 晴 30℃(25~31℃)
  9:30~10:30  公田の草刈り・立て札
   開始後、30分過ぎ、アシナガバチに左手の人差し指のつけ根を刺される
  (北寄りの畑との境西側にて)
   途中で切り上げ、自宅でムヒS2a(ステロイド成分入り)を塗る
   (夕方、少し腫れがひどい)
  <注意>黒いゴム手袋をはめていたが、やはり黒い色に攻撃的になったか。

・2022年8月1日(月) 晴 33℃(28~37℃)
  9:00~10:30 草刈り
   今夏、一番の暑さか、午後には37℃記録。
畦と進入路のみとりあえず草刈り
  10:30 車庫のかしら草刈り(土嚢袋にひっかけ、チップソーが歪み、回転がぶれる)

・2022年8月2日(火) 晴 33℃(26~36℃)
  10:00~11:00 ホームセンターにてチップソーを購入

・2022年8月3日(水) 晴 31℃(27~33℃)
  9:00~11:30 草刈り(共立の刈払機にて)
   最初の1時間は日差しがきつく、熱中症に注意する
   後半は少し曇り、風も時折吹く。それでもきつい。
   北側の畦と小屋周辺と、小道の草刈り終了。~キックバックに注意

・2022年8月9日(火) 晴 33℃(26~35℃)
  10:00~11:00 刈込鋏にて小屋に生えた雑草を刈る(カヤやツタが主)
   田んぼの水は十分。上の田の畦付近に1本出穂していた!

・2022年8月18日(木) 晴 28℃(23~30℃)
  10:30~11:00 田んぼの様子見~7割方出穂
   ここ2~3日、県内に大雨警報が出るほど雨が降る。
   7割方出穂が進んでいる。ただし、ヒエも勢いよく、下の田は稲よりも背丈が高く生長している。

・2022年8月29日(月) 晴 28℃(19~29℃)
  8:15~8:30 ゼノアの刈払機のチップソー付け替え
  (ゼノアはソケットレンチ13ミリで、共立は19ミリ)
  8:50~10:00 畦を中心に草刈り(小道と法面以外)※くよすの煙浴びる
  10:50~10:20 車庫のかしらの草刈り
  <注意>
  10:30帰宅すると胸のあたり痛くて苦しい。シャワーを浴び、休んでいると元に戻る

・2022年9月2日(金) 雨 25℃(20~26℃)
  9:15~9:45 ポンプ場の固定資産税を支払いに行く(水路管理会の会計として)
  10:00~10:30 水止め
  (南側水路入口を土嚢袋で塞ぎ、北側の土嚢袋を取り除く)
  ※昨日、9月1日 梅雨明けを気象庁が修正
   (中国地方、6月28日頃を7月26日頃に。平年は7月19日頃)
  ※来週9月6日には台風11号が通過予定、注意せよ。
【一口メモ】
・天候経過を事後的に検証し、7月半ばの天候不順を梅雨に含めるべきだと判断したようだ。
(7月半ばの天候不順は偏西風の蛇行に伴い、上空の寒気や前線などの影響で曇りや雨の日が予想外に10日間ほど続いた)
・梅雨明けと当初判断した6月下旬から7月初めにかけては、勢力の強い太平洋高気圧とチベット高気圧で二重に覆われ、極端な暑さが続いたという。

・2022年9月7日(水) 晴 26℃(19~27℃)
  9:00~11:00 草刈り(北側、東側の畦の法面と小道、8月29日の残り)
  昨日の台風11号の強風が心配であったが、田んぼにはさほど影響なく安心する。
  (家では庭に裏山の太い古竹が落ちて来て大変だったが)
  今日は、台風一過で、よく晴れてよい天気。
  
・2022年9月13日(火) 晴 26℃(24~29℃)
  10:30~11:00 田んぼの様子見~ヒエ、雑草を除去すること

【稲の生長の様子(9月13日)】


・2022年9月20日(火) 曇 26℃(18~22℃)
  10:30~11:00 田んぼの様子見
昨日、台風14号が通過したが、幸いに稲の倒伏は免れる
(しかし、水道みちの近くで、4枚ほど倒伏した田んぼがある)
※台風14号は、940hPaで鹿児島県では建設中のクレーンが倒れるほどの強風で心配したが、こちらを通過する時には、970hPaになっていた。

・2022年9月26日(月) 晴 26℃(18~28℃)
  9:00~11:00 田んぼの草刈り(北側の法面以外)
  11:00~11:30 車庫のかしらの草刈り

・2022年10月2日(日) 晴 25℃(15~27℃)
  9:00~10:20  神社そうじ(本殿横の道祖神を中心に)

・2022年10月3日(月) 晴 27℃(18~29℃)
  9:00~10:00 田んぼの草刈り(コンバインの進入路と北側の法面)
10:00~11:30 田んぼのヒエ・雑草取り
(20ℓの紙袋を片手に鋏でヒエを切っていく。足元を稲束にとられバランスを崩す) 
   今年は上の田にタウコギ(キク科センダングサ属)がよく生えていた。
   中には1メートル近いものもあり、その周辺の稲が弱っていた。

【一口メモ:雑草タウコギ】
・センダングサの仲間で、水田などに生える。
・タウゴキ(田五加木)の名前は、樹木のウコギ(五加木)の葉に良く似ることに由来するが、余り似ていないそうだ。
・民間では、健胃や鎮咳、ことに明治37~38年頃に結核の特効薬として評判になったが、実際にはそれほどの効能がなかったらしく、ブームもすぐに去った。
・タウコギは養分や光競合によって稲を減収させるだけでなく、木化した茎が収穫時にコンバインに絡み付くなど、収穫作業時の障害も大きな問題となっているようだ。

〇田中修『雑草のはなし』中公新書

・2022年10月6日(木) 曇 19℃(16~21℃)
  10:30~11:00 ホームセンターにて米袋購入

・2022年10月8日(土) 晴 19℃(14~21℃)
  18:45 委託者から電話~明日夕方から雨だが、明日それまでに稲刈りをしてはどうかとのこと。晴れになる11日(火)か12日(水)にしてもらう。

・2022年10月11日(火) 曇 18℃(13~19℃)
  9:30~11:30 四隅と手植えした畦際の稲を手刈り~上の田の北側はよく実っていた。(ただし、手刈りは、下の田の畔際は時間足りず)

【手刈りした稲の写真(上の田の北側)】


・2022年10月11日(火) 曇 18℃(11~19℃)
  16:45 委託者より電話 明日午前10時~11時の間で稲刈りを始めるとのこと
   (朝早くはまだ露がおりているから、10時半ぐらいから)

・2022年10月12日(水) 曇のち晴 20℃(11~21℃)
  8:30~9:30 買い出し(昼ごはん寿司など)
  9:15     昼ごはんと米袋(16枚)を届ける
  10:00~10:30 手刈りの残り(下の田の畦際)
  10:30~10:30 コンバインで刈ってもらう
  ※四隅の手刈りの面積が足りず(特に上の田の東側と北側)⇒3条×3メートル(8株分)
  ※コンバインで刈る時、特に上の田の畔側 バック時に注意
  ※下の田の東側は雑草ホタルイが繁茂して、絡み付く

【一口メモ:雑草ホタルイ】
・ホタルイは細長い草で、畦際に異常に生えるようだ。
・You Tubeでは、ホタルイ対策としてバサグラン粒剤を散布している人がいた。
・ホタルイは、中干のときに芽が出て、発芽適温は30℃。タネの寿命は20年だという。

【写真:コンバインでの稲刈りの様子】



・2022年10月14日(金) 晴 22℃(12~24℃)
  16:30~17:00 米用冷蔵庫の掃除
   
・2022年10月15日(土) 晴 20℃(13~24℃)
  9:30 委託者より電話 お米ができあがったので、今日搬入したいとのこと
  11:30~12:00 お米搬入、お茶を出す
   
・2022年10月19日(水) 曇 17℃(12~19℃)
  8:40~9:30 秋の耕作代金(刈取、乾燥)を支払いに行く
   
・2022年10月20日(木) 晴 17℃(9~20℃)
  7:30~8:10 祭りの幟おろし(総代4名と委員2名)
  9:00~10:30 公田(そば畑)の草刈り
  10:30~11:00 刈取後の藁を均一にならす

・2022年10月27日(木) 曇 15℃(8~20℃)
  9:30~9:45 そば畑の小作料を支払いに行く

・2022年10月28日(金) 晴 19℃(8~20℃)
  10:00~13:30 父の同僚で友人のお宅に新米を届けに行く
   お昼(出前のお寿司)をいただき歓談(農業や囲碁[結城聡氏の本]、息子さんの話題)、お土産まで頂いて帰宅



【一口メモ:「地球温暖化影響調査レポート」】


〇『農業共済新聞』(2022年10月1週号)によれば、農林水産省は、9月16日、2021年の「地球温暖化影響調査レポート」を公表した。

※地球温暖化による影響は、極端な高温や低温、大雨、干ばつなどの気象現象となり、農業生産に深刻な影響を与えている。
 農林水産省は、2050年までに、農林水産業からの温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す「みどりの食料システム戦略」を推進、環境負荷低減を促すそうだ。
 同時に温暖化がもたらす影響に対処する適応策を推進し、農業生産の安定確保に努めている。

「地球温暖化影響調査レポート」の概要では、
・水稲では、例年と同様に出穂期以降の高温による白未熟粒や胴割れ粒の発生が報告された。ほかに、登熟不良などの報告が増加した。
 一方で、高温耐性品種の作付け拡大など適応策の取り組みも広がっているそうだ。
・温室効果ガスの排出を削減する緩和策と合わせ、農作物の安定生産、安定供給を可能とし、生産現場で取り組みやすい適応策の普及が求められるという。



・「地球温暖化影響調査レポート」によれば、具体的には、2021年は年平均気温が平年と比べて、0.61度高く、1898年の統計開始以来で3番目に高い値となった。
・水稲では、別表にあるように、「白未熟粒の発生」が31県から報告された。
・「胴割れ粒の発生」は14県、「粒の充実不足」は13県。
・「登熟不良」は10県で、11年以降で最多だった。
⇒いずれも出穂期(7月)以降の高温が主な原因とされた。
・「虫害の発生」は18県である。カメムシ類やニカメイチュウ、スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)など。
・適応策では、水管理の徹底を22県が実施。
 適期移植・収穫、肥培管理、追肥など栽培技術の徹底も報告された。
・高温耐性品種の作付けは、35府県から報告があった。
・作付面積は、前年比5.1%(7775ヘクタール)増の16万999ヘクタールで、主食用作付面積に占める割合は同1.2ポイント増の12.4%となった。
 西日本を中心に普及が進む「きぬむすめ」が2万2432ヘクタールで最も多かったそうだ。(『農業共済新聞』2022年10月1週号)

【表:水稲の主な影響の発生状況】






≪近正宏光『コメの嘘と真実』を読んで≫

2022-07-10 18:01:06 | 稲作
≪近正宏光『コメの嘘と真実』を読んで≫
(2022年7月10日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでは、次の本を参照して、再び、おコメについて考えてみたい。
〇近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年
 本書は、ある農業生産法人が新規就農するに際して、いかなる過程を経て、経営を安定させるに至ったかを克明に記録した書である。それとともに、日本のコメ作りの現状と問題点を浮き彫りにした書であるともいえる。

著者の近正宏光氏は、コメの付加価値を高めることが大切だと力説している。
 そのために、越後ファームという農業生産法人は、慣行栽培から特別栽培、さらに有機栽培へとステップアップを図ったという。同時に、今摺り米や雪室米など、鮮度にこだわったコメの販売にも取り組んできたそうだ(108頁)。
 とりわけ、日本の有機農業研究の第一人者と言われる、農学博士の西村和雄先生(京都大学フィールド科学研究センター)に有機栽培の指導を仰ぎ、真摯に取り組んでいる姿勢は、尊敬に値する(45頁、74頁など)。
 私のような兼業農家で、慣行栽培(もしくは特別栽培)をし続けた者には、とても想定しえなかった問題点をあぶり出したという意味において、本書は学ぶところの多い書であった。
(ただ、TPP(環太平洋経済連携協定)問題に関して、章立てを見てもわかるように、著者は賛成の立場を明確にしているなど、私と意見を異にする主張も、随所に見られる)

 例によって、私の関心にそって、本書の内容を紹介してみたい。



【近正宏光『コメの嘘と真実』(角川SSC新書)はこちらから】
近正宏光『コメの嘘と真実』(角川SSC新書)





〇近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年
【目次】
はじめに
序章 新規就農に2年、就農したらもっと大変!
第一章 まともに作るほどバカを見る農業の実態
第二章 農業政策を転換しないととんでもないことになる!
第三章 “売れる”農家にならなければ生き残れない
第四章 私たちはTPPに賛成です!!
第五章 日本農業の道しるべ~明日への打開策~
第六章 惑わされないための「コメ用語」
    慣行栽培米/特別栽培米/有機栽培米/自然農法米/アイガモ農法米
    魚沼(新潟県)産コシヒカリ/仁多米/森のくまさん/ゆめぴりか/つや姫
    玄米/金芽米/今摺り米/雪室米/天日干し米/
    米・食味鑑定士、お米マイスター、ごはんソムリエ
おわりに




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・「はじめに」
・農業生産法人・越後ファームについて
・減反政策と日本のコメ
・TPP問題に関連して
・日本の農業の知恵と工夫~雑草対策の一例
・有機栽培について
・「コメ用語」の解説~第六章
  慣行栽培米/特別栽培米/有機栽培米/自然農法米/アイガモ農法米
  魚沼(新潟県)産コシヒカリ/仁多米/
  玄米/今摺り米/雪室米






「はじめに」


「はじめに」(3頁~5頁)によれば、著者・近正宏光氏が農業に従事するきっかけとなったのは、勤務先の不動産会社の社長から、2004年に言い渡されたことによるそうだ。
(不動産会社は、日廣商事といい、新宿を拠点に貸しビル・別荘地開発といった事業を展開する)その社長は、経済評論家の講演に参加して、「これからは『食糧安保』の時代だ」との言説に共感した。
・そこで、新潟出身の著者にコメを作ることを命じ、近正氏が農業生産法人・越後ファームを立ち上げた。その道のりはとても険しく、茨の道だった。コメ作りに関して、ずぶの素人であった著者は、それでも、2012年には、有機JAS認証を受け、“期待のルーキー”として理想を高く持っている。

近正氏の主張は次のようなものである。
・戦後、日本のコメを守るために構築されてきたルールやシステムは、消費者を守るシステムではなく、「おいしくて安全なコメを食べる」ことの阻害要件でしかないとする。
・TPP交渉参加問題で、格別に高い関税がかけられる保護すべきコメにスポットを当てる。

・農業従事者、消費者、農協、お役所が、「コメのいま」を見つめ直し、やり直さなければ、「日本のコメ」は終わってしまうという危機感を持っている。
 “コメ作り”の当事者となったからこそ知り得た、嘘と真実を、一人でも多くに伝えたくて、著者は筆をとったという。21世紀のコメ作り、さらにはこれからの日本農業の進むべき道を考え、日本の「誇るべきコメ」再生のきっかけになれば幸いとする。
(近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、3頁~5頁)

農業生産法人・越後ファームについて


・農業生産法人・越後ファームは、新潟県の阿賀町に農場と加工施設を持ち、営業・販売の拠点を置く会社である。
・2004年、日廣商事の社長から、「コメを自分たちで作り自力で売る」ようにとの指令のもとに、2006年に立ち上げた会社。
・伊勢丹新宿本店をはじめ全国の百貨店で商品を販売しており、2013年には、米穀販売の直営店を日本橋三越本店に出店。
・京都大学農学博士の西村和雄先生に技術指導を仰ぐ。

・新潟県東蒲原(かんばら)郡阿賀(あが)町は、日本の中山間地(ちゅうさんかんち、平野の外縁部から山間地を指す農業用語)に位置する。
・法人として新規就農する際、立ちはだかるのが、「農地法」と「農業委員会」
⇒農地の売買、贈与、貸借などには農地法第3条に基づき、「農業委員会」の許可が必要になる。
※農業委員会とは、各市町村に置かれている行政委員会。委員は農家から選出された人などを中心に構成。
※農地法第3条により、農地の売買や貸し借りを行う場合は、農業委員会または県知事の許可が必要となる。

・農業生産法人・越後ファームは、最初、農政局の担当者にかけ合い、阿賀町農業委員会、新潟県庁、農政局の各担当者と、話し合いの場を設け、農業生産法人設立へ向けた申請案を提示。
⇒2006年、新規就農が公的に承認。農業生産法人として名乗ることが可能になる。

・2006年3月、「農業生産法人・越後ファーム」を設立したが、村社会の閉鎖性に苦しめられ、借り受けたのは3反の中山間地域の田んぼ
(ちなみに1反は約0.1ヘクタール(1000㎡)、10反で1町歩(1ヘクタール)となる)
 それでも2年目には1町歩(10反)、3年目には2町歩と、年を重ねるごとに、農地面積は1年ごとにほぼ倍増するペースで拡大。

☆【中山間地域の苦労】
・棚田ばかりの中山間地域は、平地に比べ、作物を育てるのに倍以上の労力が必要とされる。
⇒例えば、あぜの雑草除去にしても、平地であれば機械で難なく刈り取ることができる。
 しかし、隣接する田んぼと高低差のある棚田のあぜは、急斜面のいわゆる“のり面”である。
 (阿賀町では、大人の背丈を軽く超えるのり面も珍しくない)
 急斜面の雑草除去だけでも大変な作業
・山の斜面に作られた田んぼが点在している中山間地域では、移動にも時間がかかる。
※高齢化の進んだ中山間地域では、耕作放棄地が増える一方
・越後ファームは、「非効率」を絵に描いたような土地に就農。裏を返せば、新参者が就農するには、そのような中山間地域しかなかった。

・最初、3反の田んぼから20俵のコメを収穫。
 収穫期に合わせ、精米もできる乾燥工場も造る。しかし、コメを売る販路が見つからず、余ったコメは本社の社員に配るしかなかったようだ。
・2年目の2007年、作地面積は1町歩に増え、70俵のコメを収穫。農協に卸すことをしない選択肢をとったため、作ったコメを泣く泣く白鳥のエサにすることに。
(葛藤の末、阿賀野市の瓢湖に飛来する白鳥の飼料に寄付)
※中山間地でコメ農業を営んでいくためには、高付加価値の付いた競争力のあるコメを売っていかなければ、農業経営など覚束ないこと、そして販路を開拓しなければ越後ファームの未来はないことを、認識し直す。

☆【中山間地のデメリットは実は武器になる】
・越後ファームの究極の目標は、「越後ファームをブランド」にすることだという。
・ただ、営農において、効率的なコメ作りが可能な平地には到底かなわない。
⇒日本の農産地は、「平地農業地域」と「中山間農業地域」の2つに大別される。
・中山間農業地域とは、平野の外縁部から山間地を指す。
・山地の多い日本では、このような中山間地域が国土面積の65%を占めている。
 しかも、中山間農業地域は、日本全体の耕地面積の43%、総農家数の43%、農業産出額の39%、農業集落数の52%を占める。
※平地に比べ効率の悪さなど不利な点が多いにもかかわらず、食糧需給に多大な貢献を果たしている。
※「顧客満足」を考えた場合、「平地」と同じ手法で争っても、価格競争で勝てるわけもない。
 だから、「中山間地」のデメリットをメリットに変えるような工夫が必要。
⇒・おいしいコメ作りには冷たく、澄んだ水が欠かせない。
 ・幸いにして越後ファームのある阿賀町には、きれいな雪解け水、湧き水に恵まれている。
 ・さらに阿賀町には、スギのような針葉樹ではなく、ブナの原生林など広葉樹の多い山地である。
(土壌には、散った落葉によって栄養が蓄えられている)
※冷たくきれいな水と自然のままに豊かな土壌という、この2つは、平地にはない中山間地域ならではのメリットといえる。
⇒このメリットを生かしたコメは顧客満足につながる。
(価格が少々高くなっても、消費者は「安全でおいしいコメ」を選んでくれるはず)
(近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、12頁~30頁、48頁~51頁、83頁~85頁)

西村和雄先生


西村和雄先生
・京都大学農学博士、日本の有機農業研究の第一人者と言われる、京都大学フィールド科学研究センター
・越後ファームが有機栽培の指導を仰いでいる
・「慣行栽培から有機栽培に転換すれば少なくとも2割から3割、収量が落ちる
 つまり、減反をするくらいなら、日本の農家すべてを有機栽培すればいい。
 そうすれば自然に収量は落ちるし、おいしい米が増える。
 そのうえ、化学肥料や農薬も減るので環境にもいい
 ⇒近正宏光氏も、西村和雄先生の意見にまったく賛成であるという。
(近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、45頁)

減反政策と日本のコメ


 「第一章 まともに作るほどバカを見る農業の実態」の「減反政策が日本のコメをダメにした」(42頁~46頁)には、次のようなことが述べられている。

・一般的に水田1反当たりから収穫できるコメの量は9俵程度(1俵60kg)と言われている
・ただ、これはあくまでも平均値
 同じ1反でも10俵とれるところもあれば、7俵しかとれないところもある。
⇒減反と言われたコメ農家はどうするか。
 当然、10俵とれる田んぼは温存。7俵しかとれない田んぼを減反分に回す。
⇒当時の政治家や官僚は、「1反減らせばこれくらい減るだろう」という目算を立てていたが、机上の空論。
 耕地面積は予定どおり減っても、蓋を開けたら収穫量は計算より多かった。
(このような矛盾をはらんだまま、国の減反政策は続いてきた)

(近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、42頁~43頁)

TPP問題に関連して


「第四章 私たちはTPPに賛成です!!」の「世界との経営規模の違いをどう克服していくか?」(105頁~108頁)には次のようなことが述べられている。

・世界のコメの生産量は約4億5000万トンあるといわれている。
 そのうちタイ米のような長粒種(インディカタイプ)の占める割合は9割に及ぶ。
 日本米のような短粒種(ジャポニカタイプ)は1割しかない。
・これから先、世界市場でも注目されていくのは、中国のコメになることは間違いないらしい。
 現在、中国のコメ生産量は世界第1位で、全世界の3割にあたる量のコメを生産している。
(そのほとんどを自国で消費している)
・日本のコメが生き残るためには、他国には作れないようなコメ、質の高いコメを作っていくほかない。

・日本の農家1戸当たりの経営農地面積の平均は、1.4ヘクタールといわれている。
 農地の多い北海道は平均20ヘクタールと全国平均を大きく上回っている。
 しかし、アメリカは170ヘクタール、オーストラリアの3000ヘクタールと比べると、さすがの北海道も足元にも及ばない。

・農地の大きさ、規模の面で考えれば、国土の狭い日本が広大な農地を持つ海外と渡り合うのは不可能である。
(日本の平均農業地域の農地をいくら集約・大型化しても、アメリカやオーストラリアには勝てない)
しかし、戦い方がある。これはマーケティング論の問題だという。
 つまり、顧客が何を望んでいるのかを徹底的に考え、自分のできることをそこに当てはめていく。
(顧客のことも考えず、殻に閉じこもった商売や好き勝手な商売をしているようでは、お客は離れていくだけ)

・大量生産と渡り合っていくためには、オリジナリティの創出が最も重要なポイントとなる。
 小さいものは小さいなりの、かゆいところに手の届く付加価値を付けていけばいい。
 作り方、売り方に個性を際立たせていくことで、大手や大量生産に負けない商品を生み出していくことはできる。

 例えば、有機栽培を手取りの除草で付加価値を付ける。
(これはとても大変な作業であるが、手取りで除草するなど、アメリカやオーストラリアの広大な農地では到底できない)

・どんな農地であろうとも、どんな環境にあろうとも、打つ手はきっとある。
 非効率きわまりない中山間地域での営農を続けている越後ファームは、コメの付加価値を高めるために、慣行栽培から特別栽培、さらに有機栽培へとステップアップを図っている。
 それと同時に、今摺り米や雪室米(後述)など、鮮度にこだわったコメの販売にも取り組んでいる。
〇この先、コメ農家に必要とされるのは、その付加価値をしっかりと説明できる営業力を持つことが大切だと、近正宏光氏は主張している。
 付加価値と営業力の2つがそろわないと大手に太刀打ちできない。少数精鋭で営業力を高めていけば、きっと道は開けるという。
(近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、104頁~108頁)

日本の農業の知恵と工夫~雑草対策の一例


「第四章 私たちはTPPに賛成です!!」の「知恵と工夫を取り戻せ!」(109頁~111頁)には次のようなことが述べられている。

・かつて化学肥料や農薬がなかった時代、日本の農業は各農家の知恵と工夫によって害虫や病気と闘ってきた。
 ところが農業技術の進歩と機械化によって、化学肥料や農薬、機械に頼る人が増えた。
 (だから、先人たちの血と汗の結晶である貴重な知恵は過去の異物として葬り去られた)

・化学肥料や農薬に依存した慣行栽培は、作り手が楽をしようと思えば、いくらでも楽のできる栽培法だといわれる。
 ⇒そんな楽な環境が整ったために、週末だけ農業に携わるような兼業農家が増えていき、また農村の高齢化を招いた。
 その一方で、有機栽培は、先人たちの知恵がなければやっていけない農法である。

〇全国各地の有機篤農家のなかには、卓越した知恵と技術でコメを育てている人たちがいる。
 たとえば、千葉のある篤農家がコナギという雑草をどのように除草しているかを紹介している。
 つまり農薬はもちろん、機械も使わず、手もほとんど使わないようだ。
・コナギとは水田に生える雑草の一種で、5月くらいに発芽する
 コナギは水温が17℃前後になると発芽するそうだ
 ⇒千葉の篤農家はその性質を逆手に取った農法を実践
・代掻き(田植えの前に水を入れて、塊になった土を砕く作業)したのち、水田の水温が17℃前後になると、コナギがむくむくと発芽を始める
⇒すると、この篤農家は、そこでいったん水田の水をすべて抜く
 発芽しかけのコナギも一緒に流してしまう
・水が抜けたら再び水を張り、また水を抜く
・こういった作業を3回ほど繰り返すと、コナギの多くは除去できるそうだ
(残ったわずかな量のコナギは、機械除草や手作業で抜いていく)

※これは代掻きの時期に水温がちょうど17℃くらいになる千葉だからできる農法である
(他の地域ではなかなかこの方法は実践できない)
 こういった手法をそれぞれの地域が自然環境に合った形で見いだすことこそ、農家の生きる知恵と言えると、近光氏は捉えている。
(近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、109頁~111頁)

有機栽培について


「第四章 私たちはTPPに賛成です!!」の「デメリットをメリットに変える」(111頁~115頁)には次のようなことが述べられている。

・「デメリットをメリットに変える」、これこそ、越後ファームが創立からずっとテーマにしてきたことそうだ。
(越後ファームには、TPPは逆境ではなく、またとない“チャンス”と思っている)
 越後ファームは中山間地域という非効率な環境を嘆き苦しみ絶望したからこそ、そのデメリットを逆手にとって、中山間地域だからできる有機栽培に挑戦してきたという。
 有機栽培だからといって必ずしもおいしいコメができるとは限らない。
 だからこそ、「おいしい有機米にするにはどうしたらいいのか」を顧問の西村和雄先生の指示を仰ぎながら、そのやり方を追求してきた。

・越後ファームがやってきたのは「問題→工夫→結果→改善」の繰り返しであるという。
 ビジネスの世界でよく言われる「PDCA」のサイクルにも似ている。
つまり、
●予定を立て(Plan)
●実行し(Do)
●振り返り(Check)
●改善する(Action)

・小さな目標の積み重ねが大きな目標の達成につながる。PDCAのサイクルをスパイラルアップしていくことが全体のスキルアップにつながる。それはビジネスも農業も同じだという。

〇越後ファームが中山間地である阿賀町で有機農法を続けることのメリットは「おいしいコメができる」だけではないと主張している。
・西村和雄先生によれば、1反の田んぼに1cmの水を張ると、それは期間内に100トンの水を保水したのと同様の効果があるそうだ。
⇒越後ファームが中山間地域で営農し、棚田を維持し続けることによって、川の氾濫や土壌の浸食、崩壊を未然に防ぎ、上流から下流まですべての自然の生態系を守っていることになる。
つまり、過疎化が進んでいる日本の中山間地域は日本の生態系を守る重要な存在だとする。

〇さらに中山間地域で有機農法に取り組む環境的利点はもう一つあるという。
 それは、農薬や化学肥料を使わないので、きれいな水がそのまま下流に送れるということである。上流で農薬を使わなければ、それは下流域の農作物を守ることにもなり、川そのものの生態系を守ることにもつながる。
(農薬の空中散布などで慣行栽培農家と有機栽培農家がぶつかり合うのはよく聞く話であるが、水田に引く水自体が農薬に汚染されていたら有機栽培農家は他から水を引くしかなくなる)

※生活排水に汚染されていない雪解け水、湧き水の豊富な阿賀町は、平地農業地域よりも有機栽培に適している。
 中山間地域はデメリットばかりでなく、多くのメリットも秘めている。
・TPP参加となった場合、中山間農業地域は有機栽培などの高度な栽培技術と高付加価値化を推進していけばよいし、平地農業地域は農地集約による大規模化、さらにそのための法整備を進めて行けばいいとする。
 どんな土地でも、適地適作、知恵と工夫を凝らせばおいしいコメは作ることができるので、TPPを恐れることはないという。地形や気象の変化に富んだ日本は、その特色を生かした農業をしていけばいいと近正氏は主張している。
(近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、111頁~115頁)


「コメ用語」の解説~第六章


「第六章 惑わされないための「コメ用語」」には、次のような用語が解説されている。
    慣行栽培米/特別栽培米/有機栽培米/自然農法米/アイガモ農法米
    魚沼(新潟県)産コシヒカリ/仁多米/森のくまさん/ゆめぴりか/つや姫
    玄米/金芽米/今摺り米/雪室米/天日干し米/
米・食味鑑定士、お米マイスター、ごはんソムリエ
(近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、137頁~172頁)

このうち、慣行栽培米/特別栽培米/有機栽培米/自然農法米/アイガモ農法米/魚沼(新潟県)産コシヒカリ/仁多米/玄米/今摺り米/雪室米について、要約しておこう。

慣行栽培米


・一般的に出回っているコメは、ほぼこのカテゴリーに属する。
 都道府県ごとに行政によって決められた基準に準じて、農薬を散布し化学肥料を投与する栽培法。
・都道府県の農林水産部管轄である「農業技術改良センター」より栽培暦という冊子を渡され、農薬の散布時期や回数、肥料の投与回数・時期の指導も行われる。
 これと農協の指導を遵守すれば、原則として県の求める線は満たす食味と安全性を実現したコメができ上がる。そしてコメは農協が買い取る。
※すべてガイドラインがあるわけで、差異化を求めて深く考え人と違うコメを作る、ということが次第にできなくなっていく

※もちろん慣行栽培米にもおいしいものはある。
 コメ作りに適した自然環境に恵まれているのは必須条件であるが、水質と水管理に配慮し、かつ稲の状態をきちんと観察し、窒素過多を避けながら栽培するような、良心的な農家もいる
(窒素過多の稲は葉の色が収穫時期にもまだ鮮やかな緑色のままになる)
 ただ、兼業農家が主流の現状では、毎日の観察・管理は難しいと近正氏はいう。

・また、窒素過多(化学肥料大量投入)の理由は減反政策にもあるようだ。
 米の供給過剰を抑制すべく1970年に政府が施行した制度で、耕作面積削減(3割減目標)と補助金をセットにしたものであるが、これが災いを招いた。
 多くの農家は耕作面積の削減に応じたが、収穫量は現状維持を目指した。狭くなった耕作面積あたりの収穫量を向上しようとするため、肥料を大量投入するようになってしまった。

・余談だが、化学肥料には亜硝酸態窒素(硝酸態窒素)がとりわけ多く含まれると言われている。これは動物に毒性を持つ成分で、コメにはその影響はないと言われているが、野菜や果物はそうではないそうだ。
(海外ではこれに対する規制があるが、日本には取り締まるものがまだないという)
(近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、139頁~142頁)

特別栽培米


・慣行栽培における農薬・化学肥料の投与量を共に50%以下に抑えて栽培したコメを指す。
・2001年に農林水産省のガイドラインが改訂され、表示販売できるようになったカテゴリー。
 慣行栽培と有機栽培の中間に位置するものと考えて差し支えない。
 コメ農家は田んぼに特別栽培である看板を出し、また「使用農薬名」「農薬使用量」「農薬使用回数」といった栽培履歴のチェックを受ける。

※越後ファームが米作農業に携わって、どうしても有機化できない場所というものもあるそうだ。 どれだけ丁寧に接してもどうしても虫がわく、雑草を取り除けない場所がある。
 ただ、そうした場所でも特別栽培なら可能だったりするという。ベストではないがベター、それが特別栽培である。
 越後ファームでは、特別栽培を3カテゴリーに分類している。
①農業・化学肥料の使用量を慣行栽培の50%以下に抑えたもの
②農薬8割減・化学肥料不使用
③農薬・化学肥料不使用(※有機JAS認証を受けるには2年間の転換期間が必要)
百貨店などの現在の主力は①の、通常の特別栽培米であるそうだ。
 (手間や技能は慣行栽培より要するが、収量は落ちず、より安全で手間がかかっている分おいしいという付加価値が生じる)

(近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、142頁~145頁)

有機栽培米


・農薬・化学肥料不使用・有機肥料投与が有機栽培の定義
・有機栽培は真面目に取り組むほどに手間がかかり、収量も落ちる、難度の高い栽培法
(越後ファームの実績では慣行栽培の約50%まで収量が落ちるという)
・コメ農家全体の0.2%しか有機栽培に取り組んでいないというのが現状
・だから、一般的な家庭で買い求めるコメの価格が1kg当たり400円程度と仮定した場合、有機栽培米は、その2~3倍以上である。

・雑草対策として、種籾を撒く前に田んぼに深めに水を張る。これを「深水」という。
 光を遮断し光合成を妨げることで雑草、特にヒエの芽が出ないようにする。
 米作における主な雑草はヒエやコナギになるが、ヒエはこれでほぼシャットアウトできる。
 コナギに関しては新潟県の気候条件だと、深水くらいでは排除できない。ひたすら手と機械で除草するという。
・肥料に関しては有機肥料といえど最小限しか与えない。
 肥料には窒素分が多く存在し、これが投与過多になるとタンパク質含量が上がってしまい、コメがまずくなる。
・有機栽培には肥料の投与量には規制がない。
 越後ファームは篤農家と意見交換を行うと、肥料過多の田んぼがあるという。
 アイガモ農法や鯉農法のようにそもそも栽培法に問題が生じやすい場合、単純に肥料を与えすぎている場合などがあるが、共通するのは窒素過多らしい。
 また、肥料に問題がある場合というのは、肥料が「完熟」していないケースがある。有機肥料の多くは牛糞、豚糞、鶏糞などであるが、いずれも取り扱いが難しいようだ。
(近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、145頁~148頁)

自然農法米


・肥料も農薬も一切使用しないコメの栽培法。有機栽培のカテゴリーで最高難易度のもの。
・越後ファームは、顧問の西村和雄先生の指導のもとに自然農法に適した場所探しから始めたそうだ。
〇「東南に開けていて日照時間が長いこと」
〇「山の湧き水がそのまま引き込め、掛け流しができること」
〇「花崗岩質の風化土壌」
(土に関しては、ようは痩せた劣悪な土であることらしい。そのような環境だからこそ、稲は必死になって養分を吸おうとし、たくましく育つという)
・稲の植え方は「尺角植(しゃっかくうえ)」を行う。
 通常21cm間隔の株間を30cmに広げて手植えをする。
 1本1本の稲に養分が行きわたるようになることはもちろんだが、こうすることで稲に変化が起きてくるようだ。
 通常の稲は直立しているが(多収量型:穂数型)、自然農法を続けると開帳してくる(少収量型:穂重型)
⇒これはより多くの太陽光を得て、同じく養分である窒素を雷や生物窒素固定(生物が空気中の遊離窒素を取り込み、窒素化合物を作る現象)から得るための、稲本来のたくましい姿だという。茎も当然太くなる。

・雑草と虫対策が有機栽培と同様に重要であるが、やはり深水にし光合成遮断と虫の排除を行う。そして水量の安定を図る。
 この自然農法では水の掛け流しが原則で、この安定化がなかなか骨の折れる作業とのこと。
(植物の生育上どうしても発生するガスや汚れを常に流し出し、同時に養分に満ちた水を常に流し入れる)
・その後はひたすら雑草を手で排除していく。
 稲が雑草より背が高くなるまで、その田んぼで稲が支配的な存在になるまではこの作業を怠ると、栄養不足のまずいコメになってしまうらしい。
※稲が十分育つ8月になると、根を切ることを避けて、もう雑草を取りに田んぼに入ることもなくなる。

※自然農法は、「誰がどのようにどれだけ手をかけて育てたか」が重要になる。
 ちなみにこの栽培法だと、慣行栽培と比べて、収穫量が50%以下にまで落ちる。
 上手に育てれば格別な味わいと安全性を実現するが、その膨大な手間と技能習熟、そして生産性の面から、自然農法米が市場に多く出回ることは現実的ではないと、近正氏はコメントしている。
(近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、148頁~150頁)

アイガモ農法米


・有機栽培の一つの方法で、アイガモの愛らしさや自然の摂理に則った印象もあって一時期注目と人気を集めた。しかし、この農法にも注意点がある。
〇アイガモ農法は次のようなものである。
・田んぼに苗を植え水を張る。
 そこでコガモを放す。アイガモは稲を食べる習性がない。
 稲の間をヨチヨチと泳ぎ回ることで水がにごり、まだ芽を出していない雑草の光合成を妨げる。そしてアイガモは虫をついばむので、稲作の大敵である除草・虫対策(もっとも益虫も食べてしまうが)を人間に成り代わって行ってくれる。
※この際、農家が注力するのが、野犬やイタチ、カラスやトンビといったアイガモにとっての天敵からアイガモを守ること。防護ネットを使ったり、工夫と設備投資を行う。

・肝心のコメはどうか。
 食物としてのコメにとって窒素過多はご法度。当たり前だが、アイガモは田んぼの中で糞をする。これは「未完熟の肥料」。彼らは自然の行為として排泄を行い、タイミングも自然に任せて行う。結果、気を抜くと、肥料の投与量も時期もコントロールを失った、窒素過多のコメが実る場合もあり得る。
※同様の理論で、鯉などを使った栽培法もあるが、消費者がこうむるデメリットも同様。有機米にイメージとしての付加価値ではなく、「おいしさ」「安全性」を求めるのであれば、他の選択肢も検討しなければならない場合があると、近正氏はコメントしている。
(近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、151頁~152頁)

魚沼(新潟県)産コシヒカリ


・魚沼産コシヒカリは日本で一番有名な「産地ブランド」になっている。
・魚沼は、かつて旧・塩沢町を本拠に隣接する旧・六日町・大和町などをいわゆる「南魚沼」、旧・十日町・川西町などを「中魚沼」、それより北を「北魚沼」と呼んでいた。
塩沢を中心とした南魚沼で高い評価を得た「コシヒカリ」。次いで追随した中魚沼を含め「魚沼」の名と「コシヒカリ」の名を一気に最高位に高めた。
(北魚沼についても「魚沼」の名で呼ぶ場合はその一角に数えられている)
・かつての「南魚沼」は、典型的なすり鉢状の盆地で、昼夜の温度差が10℃以上あり、冬は豪雪、そしてピュアな伏流水に恵まれた、コシヒカリ栽培に最適な自然環境を誇っていた。
(ただ、現在の「魚沼」は市町村合併が進み、すべてがそのような環境下にあるわけではないようだ)
(近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、152頁~154頁)

【補足】:「魚沼産コシヒカリ定期便」


・『農業共済新聞』によれば、株式会社さくらファーム湯沢は、新潟県湯沢町土樽で、水稲「コシヒカリ」12ヘクタールを経営。
・直販する米の5割ほどを、毎月定量を配送する「魚沼産コシヒカリ定期便」として、個人向けに出荷している。
 価格は精米1キロ680円を基本とする
(契約期間や支払い方法に応じた割引を設定)
・中山間地に位置するさくらファーム湯沢が管理する水田は、1筆5~20アールの区画が基本で、最大でも30アール規模。
 大半が10アールほどの大きさの水田で、54馬力のトラクターでの作業が限界という。
※ふぞろいな区画や傾斜地が多く、合筆できない圃場が多い。
(ここ数年の圃場の筆数は、230~250筆で推移)

・近年は新潟県でも高温の影響が出ているが、湯沢町は高冷地で暑さの影響を受けにくく、1等米の割合が高いそうだ。
・ただ、作業性などの条件が劣るため、平野部と比べ、10アール当たりの平均収量は60キロ以上の開きがある。
(単価は一律のため、JAへの系統出荷は生産量の半分に抑え、直販を収益拡大の軸に据える考えらしい)
(『農業共済新聞』2022年7月6日付 第3416号より)

仁多米


・島根県仁多(にた)郡で作られているコシヒカリ。
・1998年の全国米食味ランキング(日本穀物検定協会主催)で特Aに選ばれる。
 「西の魚沼」と呼ばれるまでの産地ブランド化を達成。
・標高300~500mの中山間地にある。
 昼夜の温度差(日較差といい登熟期にこれが大きいほどよい)は魚沼以上。
 冬には雪が降り積もり、斐伊(ひい)川という素晴らしい川が流れ、環境面ではコシヒカリ栽培に最も適した条件を備える場所。
・さらに仁多牛というブランド牛の飼育がそもそも米作りとセットで行われていた。牛糞を肥料に米を育て、牛は稲藁(いねわら)を食べ育つ、という循環が成立していた。
・行政と農協がリーダーシップをとり全体のレベル向上を図っている産地。
(近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、155頁~156頁)

【補足】:島根県安来市のどじょう米


・『農業共済新聞』によれば、島根県安来市宇賀荘地区にある農業組合法人ファーム宇賀荘は、水稲117ヘクタール、大豆75ヘクタールを栽培。
⇒法人設立当初から環境にやさしい農法に取り組む。
・水稲は、ドジョウを放流し、化学農薬と化学肥料を使わない「どじょう米」を栽培。
⇒本年度(2022年度)の出荷時期までに有機JAS認証取得を目指す。
※どじょう米の有機JAS認証取得は以前から目指していたが、乾燥調製が外部委託で、ほかの米と交ざるため認証は取得できなかったようだ。
⇒ところが、今年の春、念願だった有機JAS認証に適した乾燥調製施設が、県の補助を受け完成。
(施設は、鉄骨平屋で400平方メートル、乾燥機は4基で、最大40トンの玄米を貯蔵できる)

※現在、有機JAS米として「きぬむすめ」「ヒノヒカリ」の2品種を10ヘクタール栽培しているという。
⇒今後は農薬・化学肥料を慣行の5割減にする特別栽培米を有機JAS米に順次変更し、将来は栽培面積を25ヘクタールまで拡大する予定。
(『農業共済新聞』2022年7月6日付、第3416号より)

玄米


・白米とは、コメの組織の「胚乳」の部分を指し、その表面に残存する肌糠が残るコメが普通の精白米。コメを研ぐのは肌糠を落とすためである。
・無洗米は、その肌糠までをあらかじめ除去し、コメを研ぐ(洗米する)必要のないコメ
・胚芽米は、その胚乳に「胚芽」が付いた状態のコメ
・「玄米」は、胚芽米の表面の糠層を取らずにおいた状態のコメ

〇玄米食は、昨今の健康ブームもあり、広く一般に浸透している。
 白米より栄養素が豊富で歯ざわりも変化に富み、また味わいも複雑である
 
※近正氏は、おかずを受け止め、口中調味を促進する白米を好むという。栄養素はおかずからとれるし、玄米は消化が悪いので、より咀嚼しなくてはならないかららしい。時には玄米を食べたくなるときもあるが、その際は有機栽培か自然農法のコメだそうだ)
・糠層や胚芽に残留農薬が含まれやすいと言われるなか、検査を行いクリアしているといえども、田んぼに立つ人間としては、稲の病気や虫に対する絶大な効果を目の当たりにしている以上、検査結果をどうしても信用できないという。
 成人はともかく、子供には食べさせたくないと、近正氏は思っている。
(近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、160頁~161頁)

今摺り米


・今摺り米とは、玄米で保管・流通されるコメと異なり、籾のままで保管し、受注時に籾摺り・検査・精米を瞬時に行う方法で、鮮度管理に最適な方法と言われている。
・JAS法(日本農林規格)では、農産物検査によるコメの等級検査を受けなければ、産地や年産、品種を表示して販売してはならないという規定がある。
 一般的に農家は農協に集荷してもらう時点で検査を受け、等級に見合う価格で集荷してもらう。この等級検査は玄米の状態でしかできないことから、農家は収穫したコメ全量を籾を外し、玄米にして乾燥した状態で農協に出す。従って、農協など一般のコメは、この農産物検査を収穫時期に一括して受ける習慣にあるため、そこから1年間のコメの流通は、玄米で行われる。
・越後ファームは、百貨店などから受注する日まで籾で保管し、受注後に籾摺り・検査・精米を一括して実施し、出荷するそうだ。
(近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、163頁~165頁)

雪室米


・コメは生きている。特に籾は来年用の種籾として使用できるもの。それゆえ呼吸する籾を元気なまま貯蔵するには、その呼吸数を抑制する効果の高い低温貯蔵は有効である。

・機械低温貯蔵は、確かに効果を発揮するが、貯蔵庫内部を、例えば15℃に設定しても、実際には14℃に下がったり、16℃に上昇したりと、ある範囲で乱高下を繰り返す。
また、8m前後もある背丈の高い貯蔵庫では、床付近と天井付近で若干の温度差が発生してしまう。冷たい空気は下へ、温かい空気は上へと進む摂理によるものである。
⇒そこで雪室貯蔵庫に変えることで、そうした温度ムラはほとんど防止できる。

・越後ファームは、2012年から、この雪室貯蔵庫に取り組んでいるという。
 最もコメの劣化が進む2月から7月の間を雪室に貯蔵することで、今摺り貯蔵に加え、さらに鮮度管理効果を高めることに挑戦している。

・雪室は、2月、大量に降り積もった汚れのない雪を雪貯蔵庫に入れ、そこの貯蔵庫で冷やされた冷たい空気をコメ貯蔵庫に送り込みコメを低温貯蔵しようとするシステム。
特殊な設計で建てられた貯蔵庫は、雪も半年以上溶けず、コメの低温貯蔵も完璧に担保されるに日本が誇る技術である。
・雪室貯蔵庫は、自然エネルギーの有効活用事例である。
 コメどころに豪雪地帯はたくさんある。雪国で暮らす人々にとって、雪は生活の敵でもある。
 しかし発想の逆転が重要で、中越地震時の危機管理対策への反省からも、鮮度管理可能な利雪事業の根幹をなす雪室貯蔵は、豪雪地帯のコメ農業者の知恵であり、新しい付加価値への挑戦でもあると、近正氏は考えている。
(近正宏光『コメの嘘と真実』角川SSC新書、2013年、165頁~167頁)