歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の攻め~藤沢秀行『基本手筋事典』より≫

2024-09-29 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~藤沢秀行『基本手筋事典』より≫
(2024年9月29日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでは、囲碁の攻めについて、次の文献を参考に考えてみたい。
〇藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]

<お断り>
・図のイロハ…は、入力の都合上、abc…に変更させてもらった。

【藤沢秀行氏のプロフィール】
・1925年横浜市に生まれる。
・1934年日本棋院院生になる。1940年入段。
・1948年、青年選手権大会で優勝。その後、首相杯、日本棋院第一位、最高位、名人、プロ十傑戦、囲碁選手権戦、王座、天元などのタイトルを獲得。
・1977年から囲碁界最高のタイトル「棋聖」を六連覇、名誉棋聖の称号を受ける。
・執筆当時、日本棋院棋士・九段、名誉棋聖

<著書>
・「芸の詩」(日本棋院)
・「碁を始めたい人の本」(ごま書房)
・「秀行飛天の譜」(上・下、日本棋院)
・「囲碁発陽論」(解説、平凡社)
・「聶衛平 私の囲碁の道」(監修、岩波書店)




【藤沢秀行『基本手筋事典 上』(日本棋院)はこちらから】



〇藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]
【目次】

<第1部> 攻めの手筋
切断の手筋 アテ
圧迫の手筋 ハサミツケ
封鎖の手筋 カド
形を崩す手筋 コスミ
ようすを見る手筋 ツケ
重くする手筋 アテマクリ
弱点を作る手筋 コスミ
両にらみの手筋 グズミ
根拠を奪う手筋 オキ
石を取る手筋 アテコミ
コウで脅かす手筋 (しゃくる)

<第2部> 守りの手筋
ツギの手筋 アテコミ
進出の手筋 トビダシ
脱出の手筋 カド
形を整える手筋 アテまくり
先手を取る手筋 オリキリ
軽くサバく手筋 ツケ
切り返しの手筋 ハネコミ
両シノギの手筋 アテコミ
根拠を固める手筋 ツキアタリ
ワタリの手筋 オキ
コウでねばる手筋 (コウかキカシか)




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・第1部 攻めの手筋の序文
・切断の手筋:薄い連絡形の例~二間トビの場合
・切断の手筋:キリチガイ~【参考譜1】藤沢秀行vs大平修三
・重くする手筋の例題
・重くする手筋:アテマクリ
・重くする手筋:ノゾキ~【参考譜21】林海峰vs藤沢秀行


【補足】要石かウッテガエシか~平本弥星『囲碁の知・入門編』より
【補足】大ナカ小ナカ~柳澤理志氏
【補足】大ナカ小ナカ~高先生
【補足】大ナカ小ナカ~Tsuruyama Atushi(鶴山淳志八段)
【参考実戦譜】上野梨紗vs安達利昌~NHK杯より
【参考実戦譜】藤沢秀行vs加藤正夫~藤沢秀行『勝負と芸』より






第1部 攻めの手筋の序文


切断の手筋

アテ
・石の連絡を断ち切る手筋。
・大きく二つに割っていけば分断、侵入してきた石の退路を断てば遮断、さまざまな呼びかたはあっても、要は相手の石の連絡を断ち切ることによって、さまざまな利得を生み出そうとするのである。
・ただし、切断はごく基礎的な手段であって、手筋と呼ぶほどの微妙な手順や形を必要としないばあいが多い。
 まず、部分的な手筋を要しない切断の例を二、三挙げ、切断の手筋の準備知識としよう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、14頁)

圧迫の手筋

ハサミツケ
・封鎖より緩やかで、相手の石の一方に退路があるばあいの手法
・必然的に地を固めるが、それ以上に中央の勢力が有効な局面に用いられる。
・ごく基礎的な手筋であって、一般的な定石や布石のなかで多用される。
ふつうは、第三線の石に対して行使され、第四線の石を圧迫しても確定地が大き過ぎて、損になることが多い。

・相手が反撃したときには乱戦。
 シチョウ問題が生ずるケースもあるので、周囲の状況に注意が必要。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、36頁)

封鎖の手筋

カド
・相手の石を封鎖し、包囲するのは、相手の地を限定し、自分の石を外部に働かせようとする全局的観点からの手法である。
・もちろん包囲したことで、逆に自分の弱点をねらわれたり、包囲した外勢がまったく働かなかったりするような形ならば、封鎖の着想そのものを考え直さなければならない。
・包囲するためには、包囲する石より多くの石数を要する。
 手数の差と、外勢の効率をつねに比較する必要もある。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、58頁)

形を崩す手筋

コスミ
・形を崩す手筋とは、多くのばあい相手の形の急所に一撃して、石の働きの効率の悪い愚形に追い込む手法をいう。
 愚形には、アキ三角、陣笠、集四、ダンゴ形など、さまざまな種類があって、そのいずれも石の働きの重複形である。

・ただし、相手の形を崩すことに成功しても、そのため自分の形がより崩れたり、弱点が生じたりしては、なんにもならない。
 また、形を崩したあとの事後処理をどうするか、二、三の例題で説明しておく。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、84頁)

ようすを見る手筋

ツケ
・相手が右に受けるか、左に受けるか、ようすを見て、次の手を決める手筋である。
・まだ形の熟していない時期には、文字通り、ようすを見る手法となるが、石が混んできたときには、多くのばあい、左右の受け手に損得の差が生じ、一方の受けを強制する手段となることも少なくない。

・ただし、継続する手段との連係を誤れば、相手を固めただけ不利。
 手筋を行使する時期と相手の反撃には、十分注意する必要がある。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、111頁)

重くする手筋

アテマクリ
・石の重い、軽いは碁の難解用語の一つだが、簡単にいってしまえば、「重い」とは、石のかたまりが大きく捨てにくい形のこと。
 攻めようとするときには、できることなら重い形にして、フリカワリの可能性を奪い、攻めのレールに乗せてしまいたい。
 ややもすれば、等閑視される手筋だが、技術が向上するにつれて、重要性を増すだろう。

・ただし、重くするつもりで、相手を強化し、厚い形にしては、攻めがきかなくなることに注意。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、133頁)

弱点を作る手筋

コスミ
・弱点を咎める手筋は理解しやすいが、うっかりしがちなのは、その前段階、弱点を作る手筋である。
・弱点を作る目的は、相手の守りを強制して、先手で利を得ることにあるが、その守りが以後の利得を約束するような好形ならば、弱点を作る意味がない。
・補いにくい弱点を作り、あるいは二つの弱点を作って、一方を守らせるようにすれば、のちに手形の支払いを要求する権利が残るわけである。
 まず、ごく基礎的な弱点を作る手筋を列挙してみよう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、151頁)

両にらみの手筋

グズミ
・碁の一手一手は、広い意味での両にらみといっていいかもしれない。
 そのなかでも、一般的な手筋は、「左右同形、中央に手あり」であり、また、両ガラミ、モタレなども、本来なら作戦的な構想だが、やはりこの手筋の一変形と見られる。
・両にらみとは、一つずつ追求しても成功しない相手の弱点を、一度に二つ以上にらんで、一方を実現しようというものである。
 ただし、相手にも両シノギの手筋が伏在しているばあいもあり、慎重を要する。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、170頁)

根拠を奪う手筋

オキ
・上からの攻めが封鎖ならば、下からの攻めが根拠を奪っての追い出しである。
 根拠を奪うことじたい、相手の地を減らし、自分の地を増やす効果を生むケースが多い。
 しかも、追いながら周辺の地を固め、相手が応手を誤ったり、手抜きをしたりすれば、トリカケに行くことも可能である。
・ただし、自分のモヨウに追い込む攻めは、原則として避けなければならない。
 さきに損をしては、以後の攻めで取り戻すのが、たいへん。
 基礎手筋を列挙する。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、194頁)

石を取る手筋

アテコミ
・相手の石を取る有利はいうまでもなく、ましてその石が逃げ出されては困る要めの石なら、たとえ小さくとも取って安全を確保しておけば、あとを強く戦うことができるという目に見えぬ利得がある。

・そして、石を取るばあいには、ポンヌいたり、眼を奪って殺したりするほか、相手が身動きできないようにする石取りの技術が存在する。
 まず、例によって、基礎的な石の取りかたをいくつか簡単に説明しておこう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、220頁)

コウで脅かす手筋

しゃくる
・ヨセのコウ、死活のコウとちがって、中盤のコウは局面打開のために仕掛けられることが多い。
 ただし、いちがいにコウといっても、コウを手段に相手を追い詰めるケースもあれば、コウを手段に追求をかわすケースもあるだろう。
・ここでは、攻めの手筋としてのコウを扱うが、コウはコウダテと一対にして考えなければならず、部分だけでの問題として解決することは、ほとんど不可能。
 それを前提にして、まず基礎的な手筋を二、三掲げる。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、244頁)



切断の手筋:薄い連絡形の例~二間トビの場合


・ごく狭い意味でいう切断の手筋とは、コスミ、ケイマ、一間など、一見して確かそうな連絡形を、手順をくふうして断ち切る手法をいう。
 もっと薄い、間隔の大きな連絡形は、何通りもの切断法があって、問題はその選択。
 周囲の状況によって、切断法選択の巧拙が岐れ、全局の形勢によって、選択の善悪が判定されるのである。

・薄い連絡形の一例として、ここでは二間トビを採り上げ、さまざまな切断法を紹介しながら、切断の成立する条件について、説明する。
 やや抽象的になるのは、お許しをねがう。

【12図】(ツケオサエ)
・黒1、3とツケオサエれば、aとbに断点が生じて、どちらかを切断できることは明白。
・ただし、白cなどとツガれたのち、黒bのキリに白からのシチョウが成立すれば、黒1、3は根本から考え直さなければならない。
※シチョウが悪ければ、白はd、eなど。

【13図】(ツケハネ)
・黒1、3は、白4で5のキリを期待し、黒4、白aとシチョウにトラれても、黒11のアテから切断するねらいである。
・こうしたばあいは、白4から6と裏からつながるのがよく、黒7とキッても、白8、10とフリカワルことができる。
※白bと補って、三角印の黒がコリ形。

【14図】(ツケギリ)
・黒1、3では切断したとはいえ、名ばかり。
・白4、6と裏からつながる手が絶対の強制力を持っており、黒9とキッても、実効は薄い。
※白4では5とアテ、黒4、白aと1子を捨てて打つこともでき、この形が中央にあったとしても、ほとんどこのばあい、異筋の切断となる。

【15図】(ツケヒキ)
・黒1、3のツケヒキは、aのハネダシとbのキリを見合いにする二間トビ切断の基本。
・aと1子を抱えこまれてはものが大きいので、こののち白はa、c、dのうちの一つを選んで、bのキリを許すことになる。
※白2で3とハネても、黒eと受けられて、強化するのみ。

【16図】(ツケツッパリ)
・黒1、3あるいは黒3から1とツッパッて、5ないしaとキルのは、俗筋とされる。
・この形では、白bのノビがほとんどキイているところで、黒aのキリには白bからcとカカえられる形があるし、黒5のキリには白b、黒d、白eとアテ出られても、つまらない。

【17図】(ツケハネ)
・黒1、3は有力な切断法で、このばあいはとくに、白4で5、黒4、白aのとき、黒bとキリ返す筋が光る。
・白4、6と裏からフリカワリを目指し、この形では黒11ののち、cとカケツぐくらいで、十分打てよう。
※黒7でdのキリは、三角印の黒との連係が悪い。

【18図】(ツケギリ)
・黒1、3も、14図同様、白にサバキの主導権を与えて、多くは不成功に終わる。
・いつのばあいでも、白は、4、6と裏から打つ調子が正しく、ことにこの形では、白aのキキがあって、黒bのキリが成立しない。
※逆に、三角印の黒が分断されてしまった。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、17頁~18頁)

切断の手筋:キリチガイ~【参考譜1】藤沢秀行vs大平修三


・キリチガイは、相手に多くのキキを与えるため、ふつうは切断の手段として好ましくない。
 焦点を絞ったねらいというより、総合戦略としての切断に用いられる手法である。

【参考譜1】
 第1期首相杯争奪戦決勝
 黒 藤沢秀行
 白 大平修三
≪棋譜≫参考譜1、21頁

・黒1と準備して、3、5のキリチガイがこの局面では、ぴったり決まった。
・白は数子を捨てるよりない。

【参考図1】(中央に厚み)
・白1とアテ、さらに3、5のアテツギなら、連絡は容易である。
・しかし、黒6に白7は省けず、黒8と中央一帯を地モヨウとしては、白にまったく勝ち目がない。
※実戦では、部分の戦いより、全局の形勢判断が優先するのである。

【参考図2】(フリカワリ)
・実戦では、白1、3と捨てに行き、黒4のモチコミを打たせて、中央の厚みにフリカワッた。
※この方が長丁場の勝負となる。
※白3で6のツギは、黒5、白4、黒aとオサえられ、白3なら黒bで全部死んでしまうのである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、21頁)

重くする手筋の例題


例題【7図】(下ノゾキ)
・黒1のノゾキはいまが時機。
・白2とツガせて、黒3と守れば、次の黒aに迫力が増している。
※白2でbなら、黒cとマガッて進出し、黒2のアテがあるので、dの欠陥がしぜんに解消されるのである。
※重くするねらいと、ようす見とを兼ねた筋だ。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、134頁)

重くする手筋:アテマクリ


【アテマクリ】
・手を入れて守るまえの一仕事。
・後手となっても、相手を重くする効果は意外に大きい。
・黒シチョウ有利が条件である。

【1図】(ポンヌキが厚い)
・黒1と守れば、白2とポンヌいて先手。
※黒の実利、白の勢力というワカレだが、ポンヌキがいかにも厚い。
※しかも、黒1では白aとサガッて、b以下のシボリをねらう筋が残ってイヤミだし、黒1でaなら堅いが、白cとツケる大きな先手ヨセが残る。

【2図】(緩めない)
・といって、黒1、3と逃げ出すのでは、白6、8とキリサガられて、ツブレだ。
・したがって、黒は白6、8の余裕を与えないような、険しい手で細工をしなければならないのである。
・黒1でaのアテは、白2とノビられて、かえって味消しとなる。

【3図】(黒1、手筋)
・黒1のアテマクリ、白2のヌキなら3とアテて、ダンゴにシボッておく。
・黒5の守りが本手で、この形では白もいばれた厚みではないのだ。
※白2で3と抵抗したとき、黒2とツイで、シチョウを見ながら、白a を封ずる筋が成否の鍵である。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、136頁)
<ポイント>
・アテマクリ+アテ=シボリ

重くする手筋:ノゾキ~【参考譜21】林海峰vs藤沢秀行


【ノゾキ】
・形を重くするためには、常用手段のノゾキだが、ノゾキの形のない石を左右から揺さぶり、目的を達することもできる。

【参考譜21】
第13期十段戦挑戦者決定戦
黒 林海峰vs 白 藤沢秀行
≪棋譜≫参考譜21、146頁

・白1に黒2は必然。
・そこで白3とノゾけば、黒4のツギは愚形だし、全体の形も重くなったので、白5と進出のシンを止める攻めが好調である。

【参考図1】(形に溺れる)
・参考譜黒4で1とハイ、白3、黒aならキカシ返して、黒も満足。
・しかし、白2とソワれては、黒3を省けず、白4とハネアゲられて、左辺を広げられた。
※黒1、3は部分的な好形だが、全局的には参考譜のように重い形でがんばるよりない。

【参考図2】(その後)
・参考譜に続いて、黒は1とトビ、白2を誘って、3、5と進出する調子を求めた。
※黒1で2は白a、黒1でbは白c、黒1で3は白dと攻められ、真正直に逃げるのでは、白の注文にはまるのである。
※黒5に、白6、8とハズすのも、攻めの要領。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、146頁)

弱点を作る手筋(151頁~)

弱点を作る手筋の例題


【1図】ツケヒキ 定石 断点を残す
【2図】守りが好形
【3図】ツケツッパリ
【4図】オサエ
【5図】オサエコミ
【6図】出
【7図】デギリ
・黒1、3とデギリ1子を捨てることによって、ダメヅマリを利用する黒5、7の筋が生まれた。
※白4で8のカカエなら、黒4とキッて、隅の2子をトル。
・デギリを打たず、単に黒5では、白6、黒7、白aとサガられ、それからの黒1、3は白8とカカエられる。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、151頁~152頁)

弱点を作る手筋:コスミ


【コスミ】
・ほんのわずかなくふうで相手に弱点を作り、ひいては先手を奪取することができるばあいが、すくなくない。
・白3子をどうトルか。

【原図】黒番

【1図】(後手)
・黒1とオサえれば、2手と3手でセメアイ黒1手勝ち。
※だが、隅の実利が大きいと油断してはならない。
・白2のツケから先手でシメツけられ、白の勢力も無視できない厚さである。
※aに断点が残ってはいるが、ねらうには話の遠い形だろう。

【2図】(シボリ)黒7ツグ
・黒1のマガリは、白2から4、6とシボられて、お荷物を作っただけとなる。
※黒の形が重いので、中央の白を攻める構図はとうてい望めない。
※白4で5とツイでくれれば、黒a、白8、黒6で3子をトリ、いちおうは目的を達成するのだが……。

【3図】(黒1、手筋)
・黒1とコスむ。
・なんのへんてつもないような手に見えるが、白2、4とシメツけられたあとの形は、aに断点が生じて、明らかに成功だ。
・白も6とツイで、1図よりははるかに厚い形。
※とはいえ、中盤で1手の差は想像以上に大きいものなのである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、156頁)

弱点を作る手筋:コスミ~【参考譜22】藤沢秀行vs林海峰


【コスミ】
・相手の弱点を、追求せずににらんでおくだけで以後の進行は有利に展開する。
・右で弱点を守れば、左の守りにもなるのだ。

【参考譜22】
第9期名人戦第2局
黒 藤沢秀行vs白 林海峰

※白1では2とカタをツイて、黒a、白bが本形であった。
・黒2と鎌首を持ち上げられて、中央はいっぺんに薄く、黒4、6と大きく追って好調である。

【参考図1】(ワリコミ)
・白が中央を放置すれば、黒1、3の二段ワリコミで切断する。
・そこで白はaと打ち、白2で5、黒6、白2のシノギを用意した。

【参考図2】(コスミ)
・黒のもう一つのねらいは1のコスミだが、いますぐでは白2、4で上辺のセメアイがうまくいかない。
※しかし、こうしたねらいを持てば、中央の補強が先手となるのだから、その分、中央の黒の厚みが増しているのである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、155頁)

弱点を作る手筋:二段バネ


【二段バネ】
・二段バネは、断点が二つできる危なっかしい形だが、無事に落ち着けば相手の形にもキリとして石が残る。
【原図】白番


【1図】(俗筋)
・白1のハネは当然としても、3とツキアタるのでは、いかにも俗筋だ。
※aに断点は作ったものの、2子の頭をハネられた形で、ダメヅマリ。
※続いて白aのキリは黒bとサガられて、備えが省けず、不利な戦いを避けられない。
※白3でcと戻るのでは、黒4と固められる。

【2図】(白1、3、手筋)
・白1、3と二段にハネダし、黒4なら白5とツイで、これが注文の形である。
・黒6とヒケけば、のちに白aの動き出しがねらいであり、黒6でaのシチョウカカエなら、白6とキリコむ手筋がのちのねらいとなる。
※白はともあれ、こうして形をキメておくところだ。

【3図】(モトキリ)
・二段バネに対する根本的な逆襲は、黒4、6というようなモトキリだが、この形なら、白7とキラれて、好結果は期待できない。
・このあと、しいて図を作れば、黒8以下白21と生き生きの形だが、諸方に弱点のある黒の不利はいうまでもないだろう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、162頁)

両にらみの手筋の例題


 藤沢秀行氏は、『手筋事典』において、両にらみの手筋について、次のように述べている。また、ツケギリの棋譜として、興味深い対局を載せている。

<両にらみの手筋について>
・碁の一手一手は、広い意味での両にらみといっていいかもしれない。
 そのなかでも、一般的な手筋は、「左右同形、中央に手あり」であり、また、両ガラミ、モタレなども、本来なら作戦的な構想だが、やはりこの手筋の一変形と見られる。
・両にらみとは、一つずつ追求しても成功しない相手の弱点を、一度に二つ以上にらんで、一方を実現しようというものである。
 ただし、相手にも両シノギの手筋が伏在しているばあいもあり、慎重を要する。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、170頁)

〇そして、カラミ、モタレ、左右同形について、次のような例題の図を掲載している。
例題【4図】(カラミ)
・黒1と躍り出して左右の攻めを見る。
※これが典型的な両ガラミの形であり、両方の白が無事生還するためには、長期間の苦労が必要だろう。
※黒1でa、白b、黒c、白dなどと、一方をせっせと追って、さきに損をしてからでは、攻めに威力がない。
≪棋譜≫171頁、4図

例題【5図】(モタレ)
・黒1、3とモタレかかって、aのキリとbのオサエを両にらみにする。
※黒1でbやcなどと露骨に追い、白に脱出のめどがついてからでは、遅いのである。
※原理は両ガラミと同じだが、モタレの方は相手に弱点を作りにいく、仕掛けの手筋である。
≪棋譜≫171頁、5図

例題【7図】(左右同形)
・白1は、左右同形中央に手あり、の典型。
・aとbのハネの両にらみである。
・したがって、黒はcとアテ、白d、黒eなどとカケツいで、外部脱出を考えるくらいのものだろう。
※この形は、中国古典『官子譜』にも採録された著名な手筋でもある。

≪棋譜≫171頁、7図

(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、171頁)

両にらみの手筋:ツケギリ~【参考譜26】橋本昌二vs大竹英雄


<ツケギリの実戦譜>
【ツケギリ】
・両にらみの筋を拡大解釈すれば、両ガラミの筋となり、モタレの筋となる。
 より全局的な手筋の運用といえるだろう。

【参考譜26】

≪棋譜≫参考譜26、186頁

第15期NHK杯戦決勝
 白 橋本昌二
 黒 大竹英雄
・黒1とアオリ、白2と逃がしてから、3、5のツケギリで上下をカラミに持ち込んだ。
※黒の配石はすべて働き、ここから局面の主導権を得る。

≪棋譜≫参考図1、186頁

【参考図1】(実戦)

・参考譜に続いて、白1、3はマクリツギの筋だが、黒は形が悪くとも上下を切断して攻めれば、必ずどこかに利が残る。
・白9でaからシボッても、意味がない。

≪棋譜≫参考図2、186頁

【参考図2】(サバキの筋)

・白は前図5で1以下の交換をすませておけば、5のツギから11とオサえる筋に結び付けることができる。
※とはいえ、黒は2で7とノビキリ、上辺の攻めをさきにするからこうはならず、やはり苦しい戦いだ。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、186頁)

石を取る手筋:グルグルマワシ


<第1部> 攻めの手筋
【石を取る手筋】
【グルグルマワシ】(黒番)原図
・最終的にはシチョウの形だが、意外な方面からのシボリを連動させたばあいには、グルグルマワシと呼ばれることがある。

【1図】(イタチ)
・断点を恐れて、黒1とツグのでは、白2が「イタチの腹ヅケ」と呼ばれるセメアイの手筋で勝てない。
※黒aなら白bである。
・したがって、隅のセメアイに勝つためには、黒cとオサえなければならないが、白dのアタリをどう処理するかだ。

【2図】(黒3、手筋)
・白2には、黒3と尻からアテてシボるのである。
・黒5とアテて連絡。
➡このあとの仕上げも重要である。
※黒3で4のツギはむろん白aで3子がトラれるし、黒3でbのアテも、白4、黒c、白dで利得が少ない。
※黒3でcのコウは、一見して無暴(ママ)である。

【3図】(シチョウ)
・白6のツギには、黒7、9でぴったりシチョウである。
※このばあいでも、黒9でうっかり10は白9で逆にアタリとなることに注意。
※グルグルマワシとは、ずいぶん俗な命名だが、この結果を見れば、なるほどと納得がいくはずである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、227頁)

根拠を奪う手筋の例題


 根拠を奪う手筋の例題は、次のような構成になっている。そのうちの一部を紹介しておく。
【1図】ナラビ
【2図】コスミツケ
【3図】ケイマ
【4図】スベリ
【5図】低いウチコミ
【6図】高いウチコミ
【7図】カド
【8図】ツケヒキ
【9図】ツケサガリ
【10図】コスミ
【11図】ツキアタリ

(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、194頁~219頁)

例題【4図】スベリ
・黒1とスベれば、同点に守られた形にくらべて、地の出入りは大きいし、白も根拠の容易にできない姿。
・白2なら黒3から5とノゾくなどして、まとめて攻め上げる効果があるだろう。
※白2で3のツケなら黒2とハネダすし、白2で6なら黒aとサガる。

【5図】低いウチコミ
・黒1とウチコんで、根こそぎエグるきびしい手法もある。
・白2のツケならば、黒3、5とワタッて、地の得は前図より大きい。
※ただし、白は、中央進出の容易な形である。
※白2でaなら、黒3、白5、黒bと分断して、強硬に戦うことになる。

【6図】高いウチコミ
・黒1と第四線にウチコんで、白を愚形に導く軽い手法も考えられる。
・黒5のアテ一本が値打ちで、7とワタり、実利の得とともに、白aのつらいカカエを強制している。
※白2はやや注文にはまった嫌いがあり、b、cなどがまさるであろう。

【7図】カド
・黒1とカドにウチコむ筋も有力。
・白2なら黒3が左右にワタリを見た手筋であるし、白2でaなら黒bで、5図が期待できる。
※黒1では他に3とウチコむ筋もあり、これらの選択はすべて全局の状況によるといわなければならないほど、手広い形である。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、195頁)

石を取る手筋:ツケギリ


<第1部> 攻めの手筋
【石を取る手筋:ツケギリ】
・ダメヅマリの弱点を、オイオトシの原理で追求する手筋。
・常用の筋だが、黒の最強の抵抗に注意しなければならない。
・原図は『活碁新評』より。

【原図】(白番)

【1図】(俗筋)
・白1、3とごりごり打ってトレるなら、なによりわかりやすいのだが、黒4のハネに、白5と1子を投じなければ、7のアテが打てない。
・白9と遮断に成功しても、黒10と生きられては、得になっていないだろう。
・黒10では、さきにaとノゾくこともできる。

【2図】(白1・3、手筋)
・白1とツケ、黒2なら3とキリコむ筋がしゃれている。
※黒aなら白b、黒cなら白d、相手の打ちかたで、決まるオイオトシ。
※白1で3はむろん黒1でいけないし、黒2で3なら白2とオサえる。
※また、白3でaは黒3とツガれて、なんにもならない。

【3図】(最強の抵抗)
・黒の最強は2のグズミ。
※aのあたりに黒石があるようなときには、白の手筋をはね返す強手となる。
・このばあいは、白3とサガってよく、黒4、6とハネツいでも、bとハネダすセメアイのたしにはならない。
※黒2で6とコスむ筋も、この形では白3でよい。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、234頁)

石を取る手筋:ハネコミ


【ハネコミ】
・長手順で追いかけるばあいには、手順前後を許さぬ形もある。
・原図は、『発陽論』より。

【原図】白番

【1図】(白1、手筋)
・さきに白1とハネこんで受けかたを確かめておかねばならない。
・黒2なら白3のアテコミが妙着。
※黒aなら白bだし、黒cなら白aでオイオトシだ。
※黒2でdでも白3で、aとbの見合いである。
※白a、黒3をキメてからの1は、黒2でいけない。

【2図】(シチョウ)
・黒2と受けさせ、それから白3、5をキメるのである。
・黒が2、4とダメの窮屈な形になったので、白7とツギ、9とカケれば、あとはぐるぐるまわしのシチョウだ。
※白が3と4の二つを打てば、オイオトシ。
 そのキキを見た白1が手順である。

【3図】(セメアイ)
・前図白9では1とオシ、3、5と突っ切る攻めもあるのだが、黒8とツケられてセメアイ1手負けの筋に入る。
※三角印の黒がない形なら、白7で10とオサえ、黒7、白a、黒b以下、難解。

(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、240頁)

コウで脅かす手筋の例題


【1図】(ツケフクレ)
※コウ材に自信があれば、白1、3のツケフクレなどは、有力な局面打開法。
 部分的な戦いでは、獲得不可能な利益を、全局のコウ材優位を背景にして、もぎ取るのである。

・黒4のアテなら、むろん白5とコウに受け、黒は断点の処置に困っている。

【2図】(二段バネ)
・前図白1、3のツケフクレに、黒が正面衝突を避けて、三角印の黒に退いた形。
・しかしこれでもなおかつ、白1と二段にハネて、強引にコウを仕掛ける筋が残っているのである。
・黒2ならむろん白3でコウ。
※黒2でaとあやまれば、白bでも3でも手抜きでもよい。

【3図】(ハネコミ)
・白1とハネコんで、3とフクれる。
※できあがった形は1図と同じである。
※白がコウに負けないとすれば、黒aのツギなら白bだし、黒bのツギなら白aとアテ、黒c、白dと楽に脱出する。
※白1でbのツケは、このばあい黒1で全滅の危険があるだろう。

その他の例題は次のような構成である。
【4図】カケツギ
【5図】ツケ
【6図】アテ
【7図】手抜き
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、244頁)

コウで脅かす手筋:コウで切断


【コウで切断】
・ふつうでは考えられないねらいが、コウを利用することで生ずる。
・このばあいは左右の黒の切断である。

【原図】白番

【1図】(常識)
・白1とワリコんで、上下切断するねらいもあるそうだが、黒2、4と平易に受けられて、なんにもならない。
※白1でa、黒b、白cも黒2のアテがキイているので、かえってモチコミ。
※また、白1でb、黒a、白dは黒cとカカえられて、これもいけないというのが常識。

【2図】(白1、強手)
・常識ではどうにもならぬ連絡を、強引に打ち破るのが、白1のノゾキである。
・黒2と換わって部分的には損だが、次に白3とハネダして、黒aには白bとキル大コウにつなげるのである。
※黒2でaなら、白はむろん2とツキダし、分断の目的は達している。

【3図】(モチコミ)
・いきなり白1とハネダして、黒2なら白3とフクれる切断の形もないわけでない。
・しかし、黒4とカカえられては明らかにモチコミだし、いったん黒aとコウをトッて、ようすを見てくるかもしれない。
※非常識な前図白1にかぎるのである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、247頁)

コウで脅かす手筋:コウのキキ


【コウのキキ】
・あとではキカないところをキカし、コウ味を残しておくのは常識。
 直接の手にならなければうっかりしがちだが、コウ味利用の外側のキカシもばかにならない利得なのである。

【原図】黒番

【1図】(無策)
・黒1のツギでは白2とノビられて、内部の細工が不可能となった。
※黒aなら白bで、なんの味もない。
※ただし、この形は黒cのオサエが先手。
※上辺より右辺の問題が大きいと見たときには、白2でdとツケておく。
※今度は黒aに白eとトル要領。

【2図】(黒1、手筋)
・さきに黒1とツケて、白の受けかたを見ておくのである。
・白2なら黒3とアテて5とツギ、白6には黒7のオサエがコウ含みのキキとなっている。
※白2で3のサガリなら黒2とハッて、白6、黒4、白a、黒5とツギ、白7には黒bがあるのだ。

【3図】(直接、手)
・前図白6で、1と上辺をがんばるのは、無理。
・黒2とオサえて直接、手になってしまうのである。
・白5、7はセメアイ常用の手筋ではあるが、黒8とカケツいで、コウはまぬかれない。
※また、白1でaなら黒3のオサエが先手。
 黒のキカシは無駄にならない。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、252頁)

コウで脅かす手筋:しゃくる


【しゃくる】
・コウに導く一つの要領は弾力点を発見することだ。
・中盤、なにげないところにコウへの手段がひそんでいるのである。
・原図は、『官子譜』より。

【原図】黒番

【1図】(生き)
・黒1のアテはaのコウアテとの差で大きい。
・当然のように見えるが、白2、4で確実に生きられ、さしたる戦果にはならない。
※白2で4とヌケば、黒2とアテてコウに導くことができるのだから、その弾力点へさきに打つ手がないかと考えてみるのである。

【2図】(黒1、手筋)
・黒1としゃくる。
・白2なら黒3とアテオサえ、これはともあれコウである。
※現実問題としては、白に生きコウが多く、たとえば白a、黒b、白cとハネサガられても、とうてい黒dとトリカケに行く勇気はあるまい。
※しかし、この筋を見ているかどうかでは、大差だろう。

【3図】(セメアイ)
・白2のノビなら黒3とツギ、白4には黒5以下であっさりセメアイ勝ちだ。
※白4で5のオサエは黒4とハイ、白a、黒b、白c、黒dとキカして、eとオサえても、黒fとキッて、周辺がこのままの状態なら白ツブレ。
※シチョウの関係もあるが、黒1の価値には変わりない。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、255頁)

コウで脅かす手筋:ツケフクレ


【ツケフクレ】
・柄のないところへ柄をすげる手筋がコウといってもいいだろう。
・コウ材有利ならば、たいていの構えになぐりこんでいける。

【原図】黒番

【1図】(お荷物)
・いま三角印の黒とウチコみ、三角印の白にワタリを止めたところと見られる。
・続いて黒1、3、あるいは黒1でaなどと中央に逃げ出し、それで十分という局面はめったにない。
※黒1、3なら白4とワタられ、黒aなら白bとワタられて、攻めの対象となってはたいてい不利だ。

【2図】(黒1、3、手筋)
・黒1とツケ、白2なら黒3とコウにフクれて戦うのである。
※白2でaなら黒bとトビダして、その形なら白にぴったりしたワタリがないから、一方的に攻められる心配も薄れる。
※白4でcなら黒はdとハネてあくまでコウに仕掛けるのである。

【3図】(ダンゴ)
・前図黒5では1とツギ、白を低位にワタらせて不満がないようにも見える。
・じっさいこのあと、黒a、白b、黒cとポンヌくことにでもなれば十分だが、黒aには白cがあり、黒d、白b、黒eと2子をトッても、白fで全滅の恐れさえある。
 黒fと逃げるのでは、やはり苦戦。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、262頁)



守りの手筋:形を整える手筋


 第1部の「攻めの手筋」は前章で終わりであるが、第2部の「守りの手筋」の中のある手筋は、攻めとも関連する。例えば、「形を整える手筋」などがそうである。
 「形を整える手筋」の【2図】(三目の真中)などは、「ダメヅマリの三子から一間の距離の中央は、守れば眼形の急所、打たれればウッテガエシを含んだ奪弾力の急所となる」という指摘は、攻守(攻防)を考える場合に、示唆に富む。参考の意味で、第2部の「守りの手筋」の一部の紹介しておきたい。

<第2部> 守りの手筋
【形を整える手筋】
・一着守って相手からの攻めがきかない形にしたうえで、あとを強く戦おうとするのが整形の手筋。
・形を崩す手筋の逆で、この守りの手筋は一般に「形」と呼ばれることが多い。
・ここでは、純然たる守りの「形」ばかりでなく、相手の弱点を衝いて自分の守りにつなげる手筋までを広く扱う。

〇整形の手筋は、石の働きや弾力性、のちのキキなどを総合した急所を発見するかどうかにかかる。
☆基礎的な手筋の例によって、急所の構造を知ってほしい。

【1図】(口)
・白から逆に1の点にノゾかれては、黒の形が崩れ、攻めの対象となる。(先述)
・さきんじて一着黒1と守っておけば、もう二、三手周辺に白が接近してきても、心配のない石になるのである。
※名称はないが、かりに「口の急所」と藤沢秀行氏は呼んでいる。

【2図】(三目の真中)
・ダメヅマリの三子から一間の距離の中央は、守れば眼形の急所、打たれればウッテガエシを含んだ奪弾力の急所となる。
・黒1と守っておけば、aのダメが詰まっても平気な形だから、次にbのハネから、白c、黒dとしてeのキリもねらえるだろう。

【3図】(未然のヌキ)
・相手の攻められないうちに守る、という点では、シチョウアタリのこないまえに、黒1とヌクなども、りっぱな整形手段。
・いつどのような形でシチョウアタリを打たれるかわからないのでは不安だし、黒1とヌイておけば、白a、黒1、白bのワタリを防ぎ、厚い形である。

【4図】(カケツギ)
・キレないところをツグ黒1も、がっちり守ってあとを強く戦う「本手」に属する。
※この守りがなければ、白aのハサミツケがうるさいし、白bのハネも大きい。
※いったん守っておけば、上辺へのヒラキのほか、cのカケ、dのツメなどを自由にねらえるだろう。

【5図】(ハネ)
・三角印の黒にまだ活力があるのだが、ともあれ1とハネて、三角印の白を悪手化しておく。⇒小さいようだが大事な一着。
・上辺に厚みを向け、右辺は白2と守られても、まだ黒aのキキがある。
※黒1のように、相手の石の働きを完全に殺す手はおおむね好手となる。

【6図】(ノゾキ)
・黒1と踏み込んで白2と換わり、3とツッパれば、黒aを防いで白4の守りはやむをえない。
※黒1で単に3は、白1と備えられて、bの進出をにらまれるのである。
※白2でcとコスミダしてくれば黒の注文通り。
 黒d、白e、黒bのオサエが先手で、上辺がさらに厚みを増す。

【7図】(キカシ)
・黒3、5のツケフクレも整形の手筋だが、そのまえに黒1、白2と換わるのが、黒の反撃を封じるための巧妙な手筋になっている。
※白6で7のアテなら、黒6とアテ返し、白a、黒b、白ツギ、黒cの変化を想定すれば、黒1、白2の交換がいかに働いたか、説明を要しないだろう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、328頁~329頁)

形を整える手筋:アテ


<第2部> 守りの手筋【形を整える手筋】
【アテ】
・形ができるかできないかは、ほんのちょっとした手順で決まることもある。
 大技も必要だが、小技も重要である。

【原図】(白番)
【1図】(シボリ)
・白1、3とシボッて5とスベり、左右を打ってしゃれた形。
※とはいえ、中央の黒があまりにも厚く、総合すればやはり黒に分があるだろう。
※白5でaのトビは、黒b、白c、黒dとキリコまれ、eからのシボリをにらまれて、白5とツゲない。

【2図】(大戦争)
・ポンヌキを打たせまいと白3のノビは、黒4とヘソを出られて守りかたがむずかしい。
・白7なら黒8、10のオサエをキカされたあとで、黒12、14と戦われてわけのわからぬ形。
※善悪は周囲の状況しだいだろう。
※白7で14は、黒aのキリが残っていけない。
【3図】(白1、手順)
・シボリのまえに白1のアテを一つキカしておくだけでいい。
・以下、白7までの形は、1図とちがって白も相当である。
※黒は白7のまえにaをキカすチャンスはない。
 黒2でaなら白4とツイで、黒3、白2とポンヌけば、あとどう変化しても打てよう。
<変化図>(図は不掲載)
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、330頁)


【補足】要石かウッテガエシか~平本弥星『囲碁の知・入門編』より


・日本棋院は、ホームページで、無料の段級位認定を行なっているそうだ。
・次の6図は、平成12年7月の第8問(9路盤)である。
 黒番で、A~Dの中に一つだけ黒が勝ちになる正解がある。

【図6】段級位認定・黒番(日本棋院)
≪棋譜≫131頁の図6

【小を捨てて大に就く】
・図7の黒1と打つとウッテガエシで、白二子を取れる。
※隅の一眼と合わせて二眼できるから、黒は生き。
・そう打つと、白は2と黒一子を取る。
・図8の黒1と打てば、白は2とツギ。
※黒は一眼になり、生きがなくなる。
 攻め合いも黒が一手負けで、黒八子は取られる。
☆図7を選んで黒八子を助けるか、図8で黒一子を助けるか。

※『徒然草』に「例えば、碁を打つ人」という話があり、“これも捨てずかれも取ろうとすれば、かれも得ずこれも失うが道理”ということが書かれている。
 兼好は「小を捨てて大に就く」ことをいい、“十の石を捨てて、一つでも大きい石に就くべき”と記した。
・一子と八子の石の数は比較にならない。しかし、ものごとは数量より質ということがある。何が小で何が大か。大小は、必ずしも数だけではない。

・図7に続き、図9の黒3と打てば黒五子は助かる。
・すると白4で、右上の黒二子は連絡を断たれて、取られる。
・この後を続けて打つと、図10が双方最善の進行で、白の4目勝ち。

・図8の白2で黒八子を取られた後は、図11になる。
・黒3とダメを詰めても、攻め合いは白が一手勝ち。
 しかし、右上の黒地が固まる。
・図10は右上が白地であるから、その差は大きい。
・図12が最終形で、黒の1目勝ち。
※この場合は、八子より要石(かなめいし)の一子が大切なのである。


【図7】ウッテガエシ

【図8】黒八子が取られる

【図9】図7に続いて

【図10】白が4目勝ち

【図11】図8に続いて

【図12】黒が1目勝ち

黒 アゲハマ0+取り石1+黒地21=22目
白 アゲハマ8+取り石0+白地13=21目
(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、130頁~133頁)


≪囲碁の攻め~新垣武氏の場合≫

2024-09-22 18:00:06 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~新垣武氏の場合≫
(2024年9月22日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでも、引き続き、囲碁の攻めについて、次の著作を参考に、考えてみたい。
〇新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]
 この著作の特徴は、とりわけ、「第25節 石の取り方」に象徴されるように、石の取り方を攻めの一つとして積極的に説いている点にある。
 例えば、「第25節 石の取り方」において、著者は置碁では白石を囲んで外勢を取る打ち方を勧めている。
※勢力圏に侵入した白をさらに攻めるのであるが、白にすべて生きられては勝てない。
 勝つためには取らねばならない石がある(168頁)という。

【新垣武(あらがき たけし、1956-2022)氏のプロフィール】
・1956年生まれ、沖縄県出身。坂田栄男二十三世本因坊門下。
・1971年入段、1973年二段、1974年三段、1976年四段、1977年五段、1982年六段、
1985年七段、1989年八段、1994年九段。2020年引退。2022年、66歳で死去。
<著書>
・新垣武『実戦に役立つ死活反復トレーニング』NHK出版、2000年


【新垣武『攻めは我にあり』日本棋院はこちらから】



〇新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]
【目次】
まえがき
第1節 行く手を止める
第2節 囲んで取る
第3節 辺の星
第4節 脱出
第5節 低いワタリ
第6節 両ガカリ・ケイマと一間
第7節 地を与えて石を取る
第8節 ケイマ実験
第9節 黒快勝の譜
第10節 攻め優先
第11節 二間高バサミ
第12節 私のお勧め・ケイマ
第13節 私のお勧め・一間トビ
第14節 天王山・一間トビ
第15節 定石の疑問
第16節 若手の挑戦
第17節 守りの七子局
第18節 三々研究モデル
第19節 両ガカリ・ケイマと一間
第20節 両ケイマガカリ
第21節 二つの道
第22節 囲んで取る
第23節 大々ゲイマ
第24節 守りから攻めへ
第25節 石の取り方
第26節 五子局の卒業
第27節 一間バサミ
第28節 白の選択
第29節 両ケイマガカリ補足
第30節 互先・一間とケイマ
第31節 互先・目ハズシ
第32節 互先・攻めへの道程
第33節 アマ五段・四子局

□コラム
 ある思い・パートⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ
あとがき



さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・まえがき
・第5節 低いワタリ~五子局
・第7節 地を与えて石を取る~互先の実戦例
・第10節 攻め優先~五子局
・第19節 両ガカリ・ケイマと一間
・第20節 両ケイマガカリ
・第24節 守りから攻めへ
・第25節 石の取り方~四子局
・第28節 白の選択
・第32節 互先・攻めへの道程~二間高ガカリ
・【補足】実戦死活(二子局より)~新垣武『実戦に役立つ死活反復トレーニング』より







まえがき


・著者は、一間とケイマで攻めることを勧めている。
・置き石は多いほど攻めに持ち込むのが容易であるが、五子局ぐらいからはハサミ、打ち込みという互先実戦でも役立つ打ち方をしないと勝てない。
・従って、実戦例は四、五子局を中心として、互先にも通じる一間とケイマによる攻めの基本を、解説するように努めたという。
・本書を通じて、「石を攻めて取る喜び」を味わってほしいとする。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、3頁~4頁)

5低いワタリ(26頁~30頁)

第5節 低いワタリ


第1譜~第6譜(五子局)

【第1譜】攻めを保留、大場へ
・ここでも隅のケイマガカリに、黒はすべて一間に受ける。
・白5には黒も6と大場を占める。
・白9のヒラキには、すぐA(9, 十六)と打ち込まず、黒10と上辺の星を占めた。
・白B(6, 三)の時、ハサミになっているので、これも攻めを含んだ打ち方である。

【第2譜】攻めの転機
・白1のケイマガカリに、すでに三角印の黒(10, 四)のハサミがあるので、黒2とコスミツケてから、4と一間に受ける。
・白5に黒A(6, 六)と打っても、すぐには封鎖できないので、いったんここは保留し、黒6に回った。
※これも立派な攻めの戦法。

【第3譜】ノゾキのテクニック
・三角印の黒の打ち込みに、白1、3のトビ出しには、黒も2、4と中央へトビ出す。
・白7のノゾキには、黒8、10と逆ノゾキでツギを省略して、黒12のオサエに回る。
・白13と低いワタリとなっては、黒の大成功。

【第5譜】ツケオサエで弱石補強
・下辺の白もワタリ、上辺も三角印の白と手を入れたので、白の弱石は一応無くなった。
・この辺で黒も右下隅の弱石を補強する。
 このためには、黒1、3のツケオサエがしっかりしている。
・黒9まで、これで心配ない。

【2図】白の三々の生死
・黒が右下隅を整形した後、白はこの隅で生きることはできない。
 一例として、白1から黒14まで白死に。
・左上隅は、白1から9までのように、白は小さく生きることができる。
 しかし、黒は10と中央の大場に回れば黒成功。

【第6譜】切り離し
・白が左辺の黒の一等地に、1と打ち込んできた時は、黒2と鉄柱にサガって、左辺でのサバキを封じる。
・白3、5と隅に生きを求めてくれば、黒6と白1の一子を切り離して、十分。
・白13を省くと、黒A(2, 一)で白死。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、26頁~30頁)

第7節 地を与えて石を取る(36頁~39頁)

第7節 地を与えて石を取る


【総譜】

【第1譜】(1-18)穏やかな序盤
〇互先の実戦例。
・序盤は、穏やかで、黒7から白12までは一つの定石であるし、黒13から15も一つの型。
・黒17のカカリに普通は白Aくらいだろうが、白18はいっぱいにがんばった着手。
※このあと、黒が地を稼ぎ、白が攻める展開になる。

【第2譜】(1-17)実利
・白8の時、黒9と下辺に地を作ろうとしたのが問題だった。
・白10から14に対し、黒11から15と、さらに守り続けなければならなくなる。
※これにより白に外勢ができ、当然、このあと白は二つの黒に対して、攻撃を始める。

【第3譜】(1―9)シボリ筋
・白1とハザマを衝くのが、常用の攻め方。
・黒のサバキとして、黒2とカケる手を選んだ。
・そうなれば白3の出から、ほぼ一本道の進行で、白9の抜きとなる。
※黒の中央への進出が止まりつつある。

【第4譜】(1-14)黒を封鎖
・黒1とワタらなければならず、その間に白2、4と黒を封鎖した。
・黒5のアテから、7以降11までを利かして、後手でも黒13のコスミはこの黒が生きるために必要な手。
・白14に回られ、外側の黒も薄い。

【第5譜】(1-24)代償
・黒1と左下方の黒の補強。
・白2には、黒3が省けない。
・黒5は24だったか。
・黒9、11と白一子を取らないと、白2を助ける白12の手が先手。
※その分、必然的に外の白が強くなり、それに隣接する黒の大石が危険になる。

【1図】(生死の急所)
・黒a、白b、黒cの切り取りを打たないと、白dと打たれ、さらに手を抜くと、白1以下で左辺の黒に生きがない。
 かといって、前譜での切り取りは外の黒を生きづらくし、囲まれた代償を払うことになる。

【第6譜】(大石死ぬ)
・黒は1から逃げるが、白16のホリコミまで、黒の大石が取られた。
※その第一の原因は、黒が下辺で地を稼いだこと。
 その結果、白石が外側にきて、戦いが白の有利に進んだのである。
 地を稼げばよいというものではない。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、36頁~39頁)

第10節 攻め優先~五子局


【総譜】(1-77)五子局

<序盤の工夫>
【第1譜】(1-12)
〇本局は級位者の指導碁実戦。
・黒は2カ所で一間受けの後、白7に黒8と二間に受けた。
 珍しい手であるが、工夫が見られる。
・その後、白11と黒の切断をみた時、構わず黒12とケイマで攻めに回ったのは、一法。

(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、50頁)
【第2譜】(1-8)捨て石
・白1から3と隅の黒を分断するが、黒4とサガり、これを捨てる。
・その代償に黒は6から8とケイマで、白を攻める展開になった。
※石を捨てることを覚えれば、もう有段者。
 なお、白1のとき黒2は省けない。省くと―

【1図】(ノゾキに注意)
〇著者はケイマの攻めを、再三勧めているが、
・白1のノゾキにツギを省略して、黒2とケイマの攻めに回るのはいけない。
・白3と白がつながる上に、黒がバラバラになる。
※ノゾキやアタリの時は注意せよ。

【第3譜】(1-14)生きか脱出か
・白1から生きを図る。
・黒6を先手で決めるのを忘れないように(次図参照)。
・白13の時、黒14と目を取った。
※生かさないという意味であるが、黒14ではAと封鎖して、白の生きを催促するのも一法だった。

【2図】(先手最優先)
〇攻めは先手から打つことを肝に銘じてほしい。
・黒1、3と後手から始めると、白4、6で簡単に生きられてしまう。
※前譜の実戦が正着。
 囲んだ石を取る時は、先手で相手の地を狭めていくのが原則。

【第4譜】(1-16)新たな囲み
・黒は4とケイマで、囲みの再構築。
・黒16まで、ついに封鎖。
※黒2で3に切るのは、次図に見るとおり、無理。
※黒10で11から切る4図(次のページ)の厳しい打ち方もある。
※また、黒14で15にツグ手も成立(5図、6図)

【3図】(攻守逆転)
・三角印の白のとき、黒1と切るのは、白2から10と黒一子を制し、立場が逆転してしまう。
※下方の黒五子がまとめて攻められる展開になる。
・ケイマは攻めに適しているが、白6から10のように、アタリがあると囲みが破ける。

【4図】(攻めは切りにあり)
・三角印の白のとき、黒1から3と出切るのも厳しく、黒23までが想定される。
➡左方の白を殺した。自信ができたら実行してほしい。
・途中白12に黒13と控えたが、22の点にオサえると、白を強くして三々に入られる。

【5図】(手筋)
・三角印の白のアテに、黒1とツグ手もあるが、白の手筋に注意せよ。
・続いて、白は2のハネコミから4とアテ。
・このあと、白6から8となっては、白生き。
・黒15、17は次図を防いで、すぐ決めてしまってほしい。

【6図】(ハサミツケ)
・黒2のサガリを決めておかないと、白1のハサミツケが成立。
・勢い黒2のサガリには、白9までの後、黒10に白11とオサえて、コウになる。
※黒はここがコウになってはたまらない。
 黒2で3と後退するようでは大損害。

【第5譜】(1-13)大々ゲイマ
・白1、黒2を交換の後、白3と大々ゲイマ。
・黒は喜んで4から10で簡明かつ十分。
※黒4を7(次図)に打つのも一法だが、この場合は後の打ち方が難しく、問題。
・また、白は11、13のハネツギが必要(8図)

(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、50頁~57頁)
第19節 両ガカリ・ケイマと一間(117頁~126頁)

第19節 両ガカリ・ケイマと一間


【第1譜】(1-3)
☆悩み
・皆さんの悩みの一つは、定石の選び方ではないかと思う。
●下譜は四子局。
・白1のケイマガカリにすぐ黒2とハサみ、白3と一間に高く両ガカリしてきた。
・このあと、どのような定石を選ぶかである。

【第2譜】(1-11)ツケノビの一手
・黒1とツケる一手と覚えてほしい。
※この定石選択で黒がよい。
・白は2とハネ、黒3のノビに白4のノビ。
※ツケノビ定石の定型。
・三角印の白が一間と高いので、黒5の二丁ツギ(タケフ)の守りは、この一手。
・次に黒Aのオサエが地と根拠に関して大きく、白は6とケイマにスベって、それを防ぐとともに、自らの根拠を得る。
・このとき、黒7、9とオサえつけるのが、この定石の眼目で、先に三角印の黒とハサんだ石と関連して、強力な厚みを作る。
・このあと、白10に黒11と展開するぐらいで、黒十分。
※途中、白8で9に二段バネするのは無理手。
 しっかりとがめなければならない。(4図以降参照のこと)
※定石は双方五分の分かれのはずであるが、このようにどちらか、この場合は白の、悪い進行を定石とした例は他にもたくさんあるという。

【4図】(シボリ形)
・第2譜の黒7、つまり三角印の黒とマゲたあと、白1の二段バネは無理手。
・これをとがめるには、黒2、4のアテから6とカケる形に持っていく。
・白9の切りが入っても、構わない。
・黒10とアテて……

【5図】(鉄壁)白5ツグ(1の左)
・白1の抜きに黒2とノビて、二子にして捨てる手筋で、4とシボリ。
・さらに黒6の鼻ヅケが打てれば満点。
・以下、黒10とカケて、白が外に出るのを阻む。
・白13は低位であり、黒の外勢は鉄壁。
・黒16で勝負あり。



【第1譜】(1-6)押しあげ対策
・黒がツケノび、三角印の白、黒のあと、白A(18, 三)でなく、1と押しあげた時は、黒2と隅をオサえる。
・白3には黒4、白5には黒5とケイマして十分。
※黒4の時、白B(14, 五)からの出切りは心配ない。

【第2譜】(1-6)ケイマ攻め発見
・白1とカカリ。
※この時、黒は3に受けては落第。
・白を攻めるには、黒2が肝要。
・白3に黒4、白5を交換して、次に黒6のケイマ攻めが強烈。
※これを発見できれば、相当な実力。

【第3譜】(1-15)ケイマの威力
・黒1とカケた前譜に続き、黒の外からの圧迫に白2から6はやむを得ない。
・さらに黒7と外からのすばらしいケイマ。
・白8、10と出ても、黒9、11と切り離す。
・この後、白12と動いても、黒13、15で取れている。

【第4譜】(1-15)新展開
・白1、3と逃げても、黒2、4とゆるみシチョウで取れている。
・次に白は7、9の切りから戦うが、黒は14までを先手で決めることができる。
※この後、黒が要石の三角印の黒を引っ張り出して、右辺での戦いが始まる。

【第5譜】(1-6)要石
・黒1と要石の三角印の黒を引っ張り出すと、白は大石を生きなければならない。
・そのためには、白2から6を打たねばならないので、自然と周りの黒が丈夫になる。
・この後、黒は右下隅の弱点をAと補強して、上辺の白の攻めをみる。

【第6譜】(1-18)攻めの準備
・まず黒1と補強し、白2には黒3と白一子をゲタで取る。
・白4には外回りのボウシのケイマで、黒5と封鎖して、攻めの準備は完了。
・右下隅の折衝の後、上辺黒11以下に、白14から18と一応生きた。

【1図】(読み切り)
・上辺の白は一応生き形であるが、黒3がくると、黒5と打ち込みに白6が省けないので、白14までコウになる。
※長い手数であるが、囲んだら失敗してもいいから取りにいってほしいという。

【第7譜】(1-18)コウ立て準備
・前図の手順で、三角印の黒と白を決めたあと、コウ立てを読み切れないので、すぐ黒9とはいかず1と強化した。
・白2から8まで、この白は黒に二手打たれると死にそう。
※黒に立派なコウ立てができた。
・黒9からコウ決行。

【第8譜】(1-25)コウ争い 白4コウ取る(1の右)黒7〃白10〃黒13〃白16〃
※コウ立て十分な状況を作って、コウ争いを始めると、楽しいこと請け合いという。
・左辺の白にコウ材はあるが、とりあえず中央の白に黒5以下、コウ立てした。
・黒17に白は18とコウを解消し、戦いが下辺に移る。

【第9譜】(1-12)コウ移し 白9コウ取る(1)
・白は上辺のコウを解消したかわりに、下辺にコウが移った。
※今後のコウも白は負けると大変。
黒は負けても致命傷にならない。
・黒は左辺の白に10、12と連打できた。
※本局はコウで一局を制した例である。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、117頁~126頁)

第20節 両ケイマガカリ(133頁~142頁)

第20節 両ケイマガカリ


〇両ケイマガカリ
【第1譜】(1-8)簡明・コスミ
・白1のケイマガカリに黒2とハサみ、白3と両ケイマガカリされたときの打ち方。
・この場合、黒4のコスミから、以下、黒8の一間トビが簡明かつお勧め。

【第2譜】(1-10)ケイマ
〇第1譜の続き
・白1とケイマし、黒2、4に白は手を省けないだろう。
・白7、9の動き出しに、黒8、10とケイマで封鎖。
※白は中で生きなければならない。
 攻めのケイマの黒6、8、10を身に付けてほしい。

【第3譜】(1-7)後手生き
・白は中で生きるために、1、3のツケヒキを打たなければならない。
・黒は2、4と受けるだけで、何も難しいことはない。
※すっかり外勢が強固になった。
・白は7を省けないので、後手生き。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、133頁、140頁~142頁)


第24節 守りから攻めへ


【総譜】

<守りの布石>
【第1譜(1-6)】守りの布石
・著者は特に黒には積極的な攻めを勧めているが、黒がハサミを打たず積極的に攻めないと、下譜から始まって第2譜までのような布石がよくできる。
うっかり攻めを忘れて、こうなったという場合もあるだろう。
・双方守っているので、お互い急な攻めはないが、何とか今からでも攻め形に持っていってもらいたい。

【第2譜(1-6)】攻めの考え方
・そのためには、白からAやBに打たれた時の黒の考え方を心得ておかなければならない。
・逆に黒からCの打ち込みは攻めの立場からどうなのか、また黒からDのツケは……。
 どれも実戦で頻繁に現れる形を採り上げたという。

【第3譜(1-9)】打ち込み
・白からの1はよくある打ち込みの形である。
・黒2とツケて中へトビ出す手を妨げ、白9まで定石の進行。
※ここで黒にとって重要なことは、黒Aと付き合わないこと。
 先手を取って要点に回ってほしい。

【第4譜(1-5)】ツケ
・上辺で先手を取った黒は、要点といえば黒1のツケなどがある。
※黒が先手で外勢を築くのに有効。
・黒5のあと、白にはAとツグ手と、Bとカカえる手がある。
☆それぞれについて、その後の進行をみておこう。

【1図】(白ツギ)
・白が1のツギの時は、黒2のカカエ。
・白3のアテのワタリに、黒4と抜いて外勢を得る。
・白はしっかりワタるために、もう一手白5が必要。
・この後、右辺に呼応して、黒6、8と外から打って、中央に大勢力を築き、満足できる。

【第5譜(1-4)】白カカエ
・白2のツギでなく、1とカカえた時は、黒2と切りアテて、白3の抜きになる。
・次に、黒はコウを恐れず、4とアテる一手と覚えよ。
※白はコウに負けると、ひどい形になるので、ここではツギが普通。

【2図】(コウ材作り)
・もしも白がコウを始めるには、まずコウ材作りをしなければならない。
・そのためには、白1、3と切り違うなどの準備をし、白5のアテからコウが始まる。
※白はコウに勝つため、右上隅は損をすることになる。

【3図】(コウ争い)
・まず黒1の抜きは当然。
・白は2以下ここに用意したコウ立てを使う。
・そして白16のコウ取りまでとなって、右上隅の黒地がすっかり固まった。
※コウ争いは続くが、たとえ黒はコウに負けてもよい。

【第6譜(1-10)】外勢
・コウを避けて、白1のツギなら、黒2と白一子をカカえ、白3に黒4と白一子を抜く。
・この後、黒10まで黒は外勢を作って十分。
※ただし、この厚みを作った以上、白Aの打ち込みは許してはいけない。

【4図】(取り方)
・白1の打ち込みを許さないということは、白が生きを図っても、全部取るということ。
・黒2のサガリから黒4、6で外へは出さない。
・白7には黒8で隅を防ぐ。
・以下、黒22まで取り方を確認してほしい。



【第1譜(1-5)】白のトビ
・白Aの打ち込みでなく、1、3のトビで守った時は、黒も各々2、4と受けておいて、お互い様という所。
・ただし、黒2や4を打ったからには、白Aや5の打ち込みを楽々生かすような勝手を許してはいけない。

【第2譜(1-13)】白を捕獲
・黒1とコスミツケて、白のサバキを封じる。
※白6で7なら黒6で、白を隅に小さく生かして、黒十分。
・白8に黒9のオキが機敏。
※これで11は次図のようにコウとなる。
・黒13まで、白には二眼を作る広さはなく、脱出も不可能。

【1図】(白コウねばり)
・三角印の白のハネに、黒1とすぐオサえると、白2と急所にカケツがれる。
・黒3とアテても、白4とコウにがんばってくる。
※コウ材は白の方が多い。
※だから、2の点が双方の急所で、死んでいる石をコウにしては、黒いけない。

【2図】(打ち込み)
・三角印の白とトンだとき、黒aでなく、1と打ち込むのは、いかがなものか。
・答えは、定石どおり、黒13までとなったとしても、中で生きても閉じ込められて、黒最悪。
※白からいろいろと利きを見られ、他への影響も抱えている。

【3図】(利き)
・黒が中に閉じ込められると、白からいろいろと利きをみられる。
・たとえば、白1、3の形から、上方では白5、7が利くので、白9、11と安々と隅に入られてしまう。
※また、白aも利くので、左下隅も入られ易い形。

【4図】(切りからの戦い)
・前図黒13では、せめて1の切りから戦いを起こさないと、黒の五分の進行は期待できない。
・白2のノゾキに、構わず黒3とノビて戦う。
※隅は白に譲るほかない。
・黒9に……

【5図】(五分の戦い)
・白も1と一子を逃げるが、逃げ合いながら、上方を白に譲り、黒は10と下方につながる。
・しかし、封鎖した白は案外と強く、白11とツケ、13のフクラミから白17まで、コウ争いが始まる。これで五分の進行。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、159頁~167頁)

第25節 石の取り方~四子局


【第1譜】(1-11)取って勝つ
●著者は置碁では白石を囲んで外勢を取る打ち方を勧めている。
※勢力圏に侵入した白をさらに攻めるのであるが、白にすべて生きられては勝てない。
 勝つためには取らねばならない石がある。
 序盤から進めてみよう。


【第2譜】(1-11)両ケイマガカリ
※白のケイマガカリに、黒は3か所で一間に受けたが、左下隅に両ケイマガカリが生じた。
・黒1のコスミから黒11のケイマまでの簡明策で十分。

【第3譜】(1-8)白を囲む
※左方の黒がこれだけ厚くなると、右下隅の白をなんとかしなければならない。
・白1とスベリ、3と構えるぐらいだろう。
※黒は外から白を囲むように打つ。
・黒4のケイマはその基本。
・白5から黒8まで、左方が固まる。

【第4譜】(1-12)中央に勢力
・次に白1と上辺に打ち込んだが、ここでも黒2と上からツケて、白を封鎖しにいくことを忘れないでほしい。
・白11の後手生きに、黒12と中央の大勢力の構築に向かう。

【第5譜】(1-10)中央侵入
・白1、黒2と替わると、中央の黒地が大きくなりそうなので、白3、黒4のあと、白は侵入を図る。
・黒6、8は必要。
※ケイマと一間を使い、囲む。
・黒10をA(9, 十一)のケイマなら、次図のように簡単に取れていた。

【1図】(ケイマ)
・三角印の白の時、黒1とケイマに打てば、白に眼形がなく、話は簡単だった。
・黒9は白の目を取る急所。
※石を取る時は、一着で結果が一転する。
 囲んだ石はねらって、取るための読みの力をつけてほしい。

【第6譜】(1-15)勝負所
・白は1から生きを図る。
・以下、黒14にここを手抜きして、白15と三々に回った。
※黒にとっては、ここからが問題。
 実戦では、白15の大きな所に回られたうえに、中央の白を取りそこねてしまった。

≪棋譜≫172頁、第7譜

【第7譜】(1-12)認識
・囲んだ白石のどれかを取らないと勝てないという認識が黒に無いと、黒1から5のあと、黒7から11と地を囲いにいった。
・白も12と守り、このままヨセ合うと、白勝ち。
※実はこの後、黒から中央か下辺の白を取る手がある。

≪棋譜≫172頁、第8譜

【第8譜】(1-10)ねらい
・黒が白の下辺や中央へのねらいをもって、1から3と進めた時、白は4の悪手を打ってしまった。
※いよいよ黒が白を取りに出る時である。
 どちらか好きな方を取ればよい。そうすれば黒の勝ち。

≪棋譜≫173頁、2図

【2図】(中央の白を取る方法)
※以下にみる実戦の進行でも、白に生きはないが、ここでは読みの勉強のため、もう一つの手順を示す。
・白4までは実戦と同じであるが、黒5のホウリ込みの手順もある。
・白地を狭める手筋で、黒9まで白は一眼。

≪棋譜≫173頁、3図

【3図】(下辺白を取る方法1)
※中央への攻めとは別に、下辺の白に目を向けるのもある。
 黒先手なら下辺の白石は取れる。
・黒1以下は中手で取る方法。
・黒1のハサミツケは急所で、黒11のサガリまで、白は一眼の死に形。
※応用の利く方法である。

【4図】(下辺白を取る方法2)
・黒1が急所であることは、前図と同じ。
・白2には黒3とアテ込んで、ワタリをみる。
・黒5の切りからシボリ形にもっていき、この後どう打っても、白に生きはない。
※詰碁を別に勉強するより、実戦で急所を覚えてほしい。

【第9譜】(1-10)実戦の進行
・まず黒1の白のスペースを狭めた。
・黒3は殺しの急所。
・続いて、黒5、7に中手をねらう。
※黒5あるいは9で10の点にホウリ込めば殺せた。
・黒9ではセキになり、さらに下辺も生きられ、黒負けになった。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、168頁~174頁)

第28節 白の選択(183頁~188頁)

第28節 白の選択


〇白の応手A、B
【第1譜】白の応手A、B
・白のケイマガカリに、黒は全て一間に受け、黒8と攻めの態勢を作った時、白の応手としては、Aの一間トビまたはBの守りがよく打たれる。
・白のAとBについて、黒の立場から黒が攻め続けるための打ち方をみていこう。

【第2譜】(1)三角印の白への打ち方
・前譜の白A、三角印の白の局面では、右下の石数は3対2で黒が少ない。
・すぐにケイマで黒AまたはBと攻めるのは、黒にも切断が残り、後の戦いが不利になる。
・まず黒1とコスみ、次に黒CまたはDのケイマを見合いにする。

【第3譜】(1-8)上方への攻め
・白が1と下方を守れば、黒はただちに上方の三角印の白の二子への攻めに回る。
・黒2を利かし、白を重くしてから、4のケイマ。
・黒8までピッタリと白を囲むと、白は生きる守りの手が必要になる。

【第4譜】(1-14)タイミング
・白1と守った時、ここは黒2と上辺の三角印の白の一子の攻めに転戦するタイミング。
・攻めの常套手段、黒2のコスミツケから始める。
・黒4、6と外から一間で攻め、14とケイマでアオる。
※黒の攻めは絶好調。



【第1譜】(1-8)下方への攻め
・白が1と上方に着手すれば、黒は白の守らなかった下辺の白一子へ、2とケイマでカケ。
・続いて、黒4のケイマ以下、8と簡単に外勢を作れる。
・この後、白A(5, 十五)のような手は次図に示すように心配ない。

【1図】(ハザマは心配無用・1)
・白1のハザマに、黒は上方を大切にしたいので、2とツギ。
・辺の方は切りを入れた白5を盤側に押しつけるように打てば、何とかなるもの。
・この場合も、黒12まで白を取れる。
※ハザマには手は無いということ。


【第1譜】(1-9)白Bへの打ち方
・最初の局面で、白B、三角印の白なら三角印の黒の二子への直接の攻めではないので、黒
1で四角印の白の攻めに回る。
・白2に黒3の一間トビが大切。
・黒5と白6を決める。
・黒7に白8を待って、黒9とつながれば、黒成功。
※白Aは恐くない。

【1図】(ハザマは心配無用・2)
・白1のハザマには、重要な方、この場合は上方の白の攻めをみているので、黒2とツギ。
・白3、5の出切りには、以下黒8のツケを用意。
・白9には、黒10と切り込み、白13ツギにも黒18まで、白は助かる余地がない。

【第2譜】(1-7)ボウシ対策
・前譜に続く、白1のボウシには、彼我の力関係から見て、黒2とケイマで戦えるところ。
・白3の動き出しには、黒4とオサえ、白5の切り違いに黒6とアテ。
※黒の次の一手はかなりのヨミを必要とするだろう。

【第3譜】(1-13)突き出し
・ここは、黒1と突き出すのが正解。
・白2と切られても黒3と逃げて、黒は何も取られないので、黒1が成立する。
・以下、黒13と一子を抜いたところで、この戦いにそろそろ黒の勝ちが見えてくることだろう。

【第4譜】(1-16)白13ツグ(10)先手決め
・白1には黒2、4と先手で決めてから、黒6とオサエ。
※戦いにおいては、先手を探して、それを有効に利用してほしい。
・黒10のホウリ込み、黒12のアテも絶対先手。
・黒16まで、大きな白が取れた。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、183頁~188頁)

第32節 互先・攻めへの道程(206頁~210頁)

第32節 互先・攻めへの道程~二間高ガカリ


〇二間高ガカリ
・本書のテーマは、置き石必勝法で、互先必勝法ではない。
 互先必勝法というのは、現段階では存在しないはずで、もしあれば著者も知りたいものだという。
・置碁必勝のために、著者が勧める方法は、「ケイマと一間で白石を囲んで取る」ということ。
 その基本的精神は、「攻め」という一語に尽きる。
 これを実践するためには、基本的に石は高く打ってほしい。

・本局は、著者の指導碁。
 黒はアマチュア高段者。
・置き石のない場合には、互先必勝法なるものはないが、著者の置碁必勝法における基本的な考え方を応用することができる。
 黒でも白でも、序盤からできるだけ、これを応用できるように心掛けて、打ち進めていくのである。
・互先では、お互いに一手ごとに均衡を保って打ち進めていくので、すぐには一方的な攻めのパターンはできない。
 
【第1譜】(1-13)二間高ガカリ
・第1譜、黒3の小目に白8の二間高ガカリから、黒13までほぼ定石どおりの進行。
※ここでは、まだ「囲み形」も「囲まれ形」の気配も現れていない。

【第2譜】(1-15)大場
・白1から9と、上辺の形を決めたあと、黒は白の上方の勢力を考慮して、10とこの隅を固めるのが、大切。
・白11から白15まで、大場を打ち合った。
※この段階では、まだ形勢にも大差ない。
 黒の次の一手が重要。

【第3譜】(1-13)白10(1) 打ち込み
・実戦では、黒1と打ち込み。
・そして、黒3とハネ込み、白4と下から受け、6と黒一子をカカえた。
・以下、黒11と白一子をシチョウに取れば黒よしというのが定石。
・白12に黒13では、A(17, 十)と受ける手があった。

【第4譜】(1-10)競り合い
・三角印の白に三角印の黒とすぐ抜いてくれたので、白は1と黒を分断。
・黒2の攻めを兼ねた守りと、白3のトビを交換したあと、黒4のトビ出しは仕方のないところ。
・白5以下黒10まで、連絡と分断の絡んだ競り合い。

【第5譜】(1-11)黒を分断
・白1の利かしに黒2と反発したが、白3とハズして、目標は黒の分断。
・以下、黒8と上辺は黒が少し得をしたが、その間に白7から9を利かして、11と、黒の上下の連絡を絶った。
※黒五子は逃げなければならない。

【第6譜】(1-7)白の攻め
・黒1から逃げるが、白2から4、6とケイマと一間で攻める要領は、置き石の有無を問わない。
※黒は一手でも手を抜くと取られてしまう。
・黒7と弱石を逃げている間に、三角印の黒の六子が大きく白の囲みに包まれてしまった。

【第7譜】(1-15)大儲け
※白は「取れない時は他で大儲けをする」という打ち方をする。
・ここでは、まず白1の急所から9まで、攻めの効果で下辺と隅が固まった。
・実戦では、白11に黒12と守ったため、コウになり、コウ材不足で、黒の投了となった。

【1図】(皮肉)
〇碁とは皮肉なもの。生きようとすると死に、攻めると生きるもの。
 すなわち、自らの危機をシノぐために、相手の攻めに出るのである。
・ここでは、三角印の白(12, 十四)の時、黒1から5を決め、黒7から13と攻めて、シノぐ例を示した。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、206頁~210頁)

【補足】実戦死活(二子局)~新垣武『実戦に役立つ死活反復トレーニング』より


 新垣武氏は、2子局(1-63)の棋譜を掲げて、左下隅の死活について、次のような実戦死活問題を出している。

≪棋譜≫2子局(1-63)、208頁

【基本図45~48】
【基本図45】(1-28)
・2子局
・互先、2子局、3子局は、囲めるのは50手以降が多い。
・囲碁の上達の基本は、囲んだ石を取りに行くこと。
 失敗をおそれて取りに行かないのでは、上達は望めない。

【基本図46】(29-49)
・三々で生きるのは、小さい生き方。
・白39から48までが、この形での大きい生き方。
・但し、白49はよくばり。
※A(16, 二)とツイで、しっかり生きるところ。
 黒取りに行く。
(新垣武『実戦に役立つ死活反復トレーニング』日本放送出版協会、2000年、200頁)

【基本図47】(50-57)
・こんどは白の番。
・黒54では、A(17, 十八)で生きだった。
※この形も大きくコウが正解。
(睡眠薬の代わりに、ゆっくり反復トレーニングしてほしい。)
(新垣武『実戦に役立つ死活反復トレーニング』日本放送出版協会、2000年、204頁)

【基本図48】(57-63)
・黒の地の中に、57と入ってきた。
・三角印の黒(6, 十五)がいいところにある。
※これがないと、白を取りにいけない。
 実戦でこの形は活用してほしいという。


≪棋譜≫問題1、209頁

【問題1】黒番
・取り方四通り。皆さんの取り方の好みはどちらでしょう。

≪棋譜≫問題1の解答の一つ、210頁

<問題1の解答>4通りの一つ。
【正解図1】
・まず1とスベリ、白2に黒3、白4に黒5まで。

≪棋譜≫問題3、209頁

【問題3】黒番
・実戦ではこの形が多い。
 これは殺す方法は一つ。なんとかクリアしてほしい。三角印の白が問題。

≪棋譜≫問題3の正解図、211頁

<問題3の解答>
【正解図】
・黒1が正しい。
・白2は黒3以下、ゆるめずに一歩一歩の9まで死。

≪棋譜≫問題3の失敗図、211頁

【失敗図】
・黒1は失敗。
・白2が三角印の白の石とツナガるか生きるための好手。
・a、bが見合い。
(新垣武『実戦に役立つ死活反復トレーニング』日本放送出版協会、2000年、196頁~211頁)



≪囲碁の攻め~牛窪義高氏の場合≫

2024-09-15 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~牛窪義高氏の場合≫
(2024年9月15日投稿)

【はじめに】


 今回も引き続き、囲碁の攻めについて、次の著作をもとに、考えてみたい。
〇牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]
 牛窪義高氏は、囲碁の“言語化”に優れている棋士という印象を受けた。 
 例えば、有名な実戦訓<攻撃は最大の防御なり>とは、よく言われるが、“色即是空”をもじって、“攻即是守”という。
そして、囲碁戦略の一番の要諦は、ここにあるという(82頁)。
 その他にも、次のような表現がこの著作に散見される。
・「無くても有る」…禅的発想(76頁)
・一種玄妙の世界を作り出すことができるのも、碁の醍醐味の一つ(78頁)
・名工・左甚五郎が、361路の大地に至芸をふるい、最後の槌音を響かせた…そんな感じの一手(156頁)

 また、この著作の特徴として、往年の囲碁棋士の名局を取り上げていることが挙げられる。

【牛窪義高(うしくぼ よしたか)氏のプロフィール】
・昭和22年5月24日生。高知県出身。
・窪内秀知九段門下。
・昭和34年院生。38年入段、40年二段、41年三段、42年四段、43年五段、45年六段、
 47年七段、49年八段、52年九段。
・大手合優勝2回。
・著書に「碁の戦術」「やさしいヨセの練習帳」(共にマイナビ)がある。



【牛窪義高『碁は戦略』(マイナビ)はこちらから】



〇牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]
【目次】
テーマ1 戦う場所の問題
テーマ2 厚みを生かす
テーマ3 腰伸びをとがめる
テーマ4 攻めの要諦
テーマ5 攻即是守
テーマ6 息が切れる
テーマ7 一路の違い
テーマ8 大きな手とは?
テーマ9 切りかえ
テーマ10 部分と全体
テーマ11 タイミング
テーマ12 返し技
テーマ13 反発と気合い
テーマ14 打たずの戦術
テーマ15 相手を迷わせる
テーマ16 大模様の消し方
テーマ17 機略<ハザマトビ>
テーマ18 形勢判断
テーマ19 上達と勝利へのポイント



さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はしがき~アマチュアの上達と勝利へのポイント
・テーマ3 腰伸びをとがめる
・テーマ4 攻めの要諦




はしがき~アマチュアの上達と勝利へのポイント


【アマチュアの上達と勝利へのポイント】
①ヨミの訓練
②棋理の学習

①ヨミの力をつけるためには、詰碁に取り組むこと。
②棋理の習得には、常に疑問を持つことが大切。
※つきつめて一つだけ挙げれば、①ヨミの訓練に尽きるという。
➡ところが、ヨミの訓練は、詰碁などで独り黙々と地道に力をつけていかなければならない。
(アマチュアがヨミの壁を突破するには至難の業)

②棋理の学習は容易だという。
➡ごく当たり前のことを(そうでないと一般的な棋理にならない)、基本原則として、いくつか勉強すればよいから。
※棋理の習得は、またヨミに筋道をつけるものである。
 (ヨミの訓練にも役立つ)

※前著『碁の戦術』と本著『碁は戦略』は、ともに棋理について、分かりやすく説明した本。
➡アマの碁とプロの碁を対比させながら、学習の手伝いをしたもの。
➡前著が部分的な棋理を取り扱った
 本著は、全局的なテーマを対象にしたものが多い。
(後者がやや程度の高い意味があるという)
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、3頁~4頁、339頁)

テーマ3 腰伸びをとがめる


【テーマ図】白1に、あなたならどう打つ?
・著者の指導碁から(六子局)
・白は、丸印の白の一団が治まっていない。
 なんとか手を打たなければと、白1の二間トビすると、黒はノータイムで2にツケてきた。
 左辺に侵入されては大変、と…

〇腰の伸びたときがチャンス
【4図】
・白1の二間トビには、決然、黒2のツケ!
※周囲の強力な援軍を、無用の長物で終わらせないためにも、ここは白を強引に切っていくところ。


【5図】
・白3には、むろん黒4!
・白5に黒6ノビとなって、黒4の一子はつかまらない。
➡白困窮の図となった。
・4図黒2に対して……

【6図】
・白3なら、黒4から6で、これも白お手上げの形。


【7図】
・なお、黒2にツケるのもあるが(白aには黒b切りで、やはり白困る)、2よりcツケのほうが筋が良さそう。

【8図】
・二間にトブと切られる恐れがある…それなら、なぜ白1と一間にトバなかったのか、となるが、こういう「普通の手」を打つと、黒も2トビと「普通の手」で応じて、白はいつまでも重苦しい。
※弱石をかかえていると、早く治まりたいという気持ちから、どうしても腰が伸びる、すなわち「普通でない手」を打つ。
 攻める側は、そこを突かなければならない。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、41頁~44頁)




〇次のような例もある。
【25図】よくある形
・いま、三角印の白とケイマにあおってきたところ。
 ここで、いきなり黒aとツケコシて、戦いを挑むのは、いかにも無理。

【26図】
・黒1トビから3と構えて(白2はこんなもの)、aのツケコシをねらうのも一策。
・あるいは三角印の白ケイマの間隙に乗じたサバキとして、次図のような打ち方も、ときには面白いだろう。

【27図】黒1、3の連携プレー
・すなわち、黒1、白2と換わって、黒3のツケ。
・白4に、黒5の切り違い!


【28図】
・白6にカカエるのは、黒7、9で、丸印の黒と白の交換がちょうど働いてくる。
➡これは白いけない。

【29図】
・白6の引きがやむを得ず、そこで黒7カカエが一法。
・次いで白8、黒9から、

【30図】
・白10が必然。
・一子を抜いて、右上を荒らした黒、こんどは11にハネ、こちらのサバキにかかる。
・白12の切りには、……

【31図】
・黒13とアテ、白14抜きに、

【32図】
・黒15から17ツギ。
※すでに右上で得をしているので、少々の石は捨てる要領。

【33図】黒7、9も一型
・29図白6のとき、黒7と引くのもある。
・白も8に引き(aのシチョウは黒有利)、黒9ノビまで。
※この形、黒は三角印の黒の一子の動き出しをみて、白としては、なかなかうるさいところ。
 黒は、白のケイマの薄みに小技をふるい、一クセつけることに成功した。

(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、53頁~56頁)

テーマ4 攻めの要諦


【派手な攻め方】
【24図】<黒>立徹・<白>丈和
〇もう一例、古碁をお目にかけよう。
・三角印の白を照準に、黒1。
・白2トビ……これも中央の黒を攻める気分。
・黒3と変則のカカリ。
※いい感じの手。隅の白に迫りつつ、はるかに三角印の白をにらんでいる。

【25図】こういう攻め方もある
・白4と逃げたのに対し、黒は5のカケを利かして、7の急所へ。
・白8を待って、黒9から11の肩と、目を見張るばかりのダイナミックな攻め。
 実に見ごたえがある。
※24図黒3、25図黒5、11と、できるだけ包囲網を大きく、遠巻きに攻めている点に注意せよ。

(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、71頁~72頁)

テーマ5 攻即是守


【1図】必争のポイント(急場)を逃す―黒1
・アマ高段者同士の実戦で、黒1と構えたところ。
 丸印の黒の星から、三角印の黒と辺にヒラいた形は、黒1によって確かにキリっとし、好形になる。
 しかし、それは<局部の要点>に過ぎず、<全局の要点>は、また別にある…

【2図】
・黒1には、白2から4を利かし、6のトビ。
 これで黒窮する(実戦では白はこう打たなかったが…)。
※ご覧のように、丸印の白は強化され、逆に上の黒は棒石になった。
 また、丸印の白の一団が強くなると、白は平気でaの打ち込みや、bの三々などをねらうことができる。
 つまり、黒1と守った手自体が、効果の薄いものになる。

【3図】正解
・黒1と、先制攻撃!
 これにより、丸印の黒の一団は安定し、逆に丸印の白は弱体化する。

【4図】黒好調
・白は2とツキアタり、黒3に、白4トビぐらいのもの。
・黒は5のケイマと、攻めを続行。
※こうなると、丸印の黒はまったく心配がなくなったうえに、右方・三角印の黒の友軍とともに、黒は大きな地模様さえ形成する勢いである。
 白は、まだ左の一団が治まっていないので、黒模様に飛び込むわけにもいかない。
※黒3から5と肉薄しておけば、白がシノぐ調子で、中央の黒はさらに強化されるはず。
 そうなると、黒aなどの守りを省略して、このまま黒地となる可能性も出てくる。

※2図と4図、よく見比べてほしい。
 2図は、黒1と守ったようでも、たいした守りになっていない。
 それに対して、4図は、黒aと守らなくても、黒3や5が十分にその役目を果たしているし、最終的には黒aを省いて、大きな地がまとまる期待も持てる。
 両図の差は、天地雲泥というべきである。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、73頁~75頁)

「無くても有る」…禅的発想


【5図】
〇置碁でよくできる形。

【6図】
・黒1と、隅を守っても白2と打ち込まれるし(ただちに打つかどうかはともかく)、
【7図】
・黒1とこちらを守っても、白2と、三々侵入の余地がある。
※要するに、黒は、右上一帯を一手で地にするような手はない、ということである。
 考え方を180度転換させて、<白を攻める>ことを主眼としてみよう。

【8図】
・黒1のコスミツケ。
・白2はやむを得ない。
・そこで黒3のハサミ!
※黒1、白2の交換によって、白は重たくなった、つまり、黒は攻めの目標を大きくした。

【9図】
・白は、4のトビなどと、すぐ動くことになるだろう。
・これには、黒5の二間トビといった要領。
※この形、白からのねらいであるaの打ち込みやbの三々は、依然として残っている。
 黒は、上を直接守るというような手を全然打っていないので、それは当然。
 しかし、白は三子がまだ治まっていないので(=大きな負担)、ここで白aに打ち込んだり、bと三々に侵入するわけにはいかない。
 すなわち、黒はa、bの二つとも、これで守っていることになるし、極端にいえば、守りの手を二手連打できた理屈。
 実際には打たれていないのに、そこに打たれたのと同じような効果が認められる。
 いわば、石が無くても有る――禅問答のようなことになったが、攻撃を旨とすることによって、そういった一種玄妙の世界を作り出すことができるのも、碁の醍醐味の一つだろう。

・9図に続いて、

【10図】
・白6トビなら、調子で黒7と、自然に守ることができる。
※黒7は、上辺の守備にとどまらず、白四子への“攻めの意思”も強いことに注意せよ。
 やはり白は、続いてaと三々を襲ったりはできない。(黒bのサガリで白四子が著しく弱化)。
 黒はここでも、実際には隅を守っていないのに、守ったのと同じような状況を作り出している。

【11図】

<守る手>には、欠点が多い


・四子以上置いた置碁でも、手数が進むにつれて、いつの間にか黒のほうが攻められるといった珍現象が、よく起こる。
 五つも六つも置かれると、白が攻勢に立つということは常識では考えられない。ところが、その“非常識”が、現実にはよくある。まさに珍現象。強い上手にかかって、苦い体験を持つ読者も多いだろう。

・なぜ、そういう理不尽なことが起こるのか?
 ズバリいって、それは、黒が自陣の守りを優先させたから。
 まず自陣の守備を固めて、それから攻めよう、そういう作戦を立てたから。
(作戦を立てたというよりも、置碁の場合、黒はどうしても萎縮してしまい、つい、守りを固めるほうに目が行くということもあるだろう)

・それはともかく、ここで、守りに偏した手の欠点を、三つ挙げてみる。
①一手では守りきれないので、手段の余地を残す、ないし、味が悪い。
②完全に守るためには、手数を要するので、一手あたりの価値は存外小さい。
③相手に手を渡す(=守ると後手を引く)
【12図】

(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、73頁~81頁)

置碁はとくに速攻が肝要


・結局、碁というものは、守ろうとしても守りきれるものではない、といえる。
 なぜなら、ある局部を完全に守ろうとすれば、三手も四手もかかるし、そのたびに後手を引いたのでは、他方面で弱石を作って、守勢に陥り、あげくのはてに、三手、四手と費やした確定地にも悪影響が及ぶからである。
 このような悲劇的光景を、よく見かける。
・要は、着手の優先権を、第一番に「攻め」に置くこと。
 これに尽きる。
 上手との力の差、技術の差がある置碁において、このことはとくに大切。
 上手にいったん攻勢に立たれると、下手側はシノギに難渋し、まずその碁は勝ち目がないと知るべき。
 守りに偏した手の欠点を、先に三つ挙げた。

<攻める手のメリット>
 その裏返しとして、攻める手のメリットをまとめると、次のようになる。
①攻撃することによって自然にできた地は、味が良く、手段の余地を残さないことが多い。
②相手に迫っていれば、守る手自体、不要となることもある。きわめて効率が良い。
 (前掲・4図のようなケース)
③攻めているかぎり、先手を堅持できるので(主導権)、相手の作戦の幅を狭くできる。

〇有名な実戦訓<攻撃は最大の防御なり>。これはまさに真実。
 “色即是空”をもじれば、“攻即是守”。囲碁戦略の一番の要諦は、ここにあるという。

・攻めと守りに関して、次のようなことも重要。
 アマチュアの人は一般に、攻めるときはムキになり、なにがなんでも取ってしまおうといった、非常に無理な打ち方をすることが多い。その大きな原因は、「先に守る」ことにある。
・守る手というのは、当然、得な手に違いない。
 その得な手を先に打ち、それから攻めて、なおかつ得を収めようとすると、敵石を取ってしまうような大戦果をあげないと、攻めの効果が出ないということになりがち。
 そうではなく、守りを省略して先に攻め、その効果は、攻める調子で自陣が固まる程度でいいと、このぐらいの小欲で処するほうが本筋であり、成功率も高いといえる。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、81頁~82頁)

守った手が駄着化


【13図】黒1は緩着。どう打つべきか?
〇院生の対局から。
・黒1は、右辺がなんとなく薄いとみて、こうオサエたのであろう。一見、大きそうだが…。
【14図】
・黒1に対し、白は2、4、6と決めた。黒7まで。
※丸印の白の一団が治まっていないので、白としてはこんなもの。
 ところで、黒が、3、5、7と受けた形は、黒1のオサエが、不急の一手となっていないだろうか?

【15図】黒1、3が正解―先に攻める
・黒1のノゾキから3と、先に攻めてみる。

【16図】白10となれば、黒aはいそがない
・白は、やはり4、6、8と上から利かすぐらいのもの。
・黒9に、白10と形について、これではほぼ治まり形となった。

※さて、ここで黒はaにオサエるだろうか?
 5、7、9に石がきた現在、黒aの守りは不要。また、黒aとオサエても、右下の白にそれほど響くわけでもない。
 すなわち、黒aは単なるヨセの手である。
 白bのスベリとの出入りは、かなりの大きさとはいえ、中盤に打つ手でないのは、はっきりしている。

・白10に続いて、例えば左辺黒11など、より値打ちのある積極的な手を繰り出して、局面をリードしていくべきだろう。
・14図黒1と、先に<守りの手>を打ったため、あとでそれが不急の駄着になった。銘ずべき反省点である。



〇最後に、専門家の実戦例を一つ。
【17図】<黒>橋本宇太郎・<白>苑田勇一
文字通りの“攻即是守”ではなく、更に高級な意味を含んだ例であるという。
・まず、白1のコスミ!
※黒の根拠を脅かしつつ、白は右辺の大模様侵略の機をうかがっている。

【18図】実戦
・黒2に、白3と裂いたのは当然。
・次いで黒4のオサエ。こう治まった手が、下方の白陣へ臨む手がかりともなっている。
・白は上辺に転じ、5と割っていった。
※三角印の黒二子の動静を見ながら、白はやはり黒の大模様を注視。
 あくまで「攻め」をめぐって、局面が動いている。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、73頁~86頁)


テーマ8 大きな手とは?


着手決定の基準 攻め→守り→大小


・実戦で、岐路に立ったとき、どういう考えで、<次の一手>を決めるか。
 その基準(優先順位)が、次の3つである。
①攻め
②守り
③局部の大小関係

①まず、相手の弱石をとらえ、それに対する攻めを考えること。これが第一である。
②次に、その裏返しとして、自陣を点検し、弱石があれば補強すること。
③三番目に、自他ともに弱石がない場合…そのときに初めて、局部の大小関係に注目すること。

・実戦において、迷いはつきものであるが、攻め→守り→局部の大小関係と、原則としてこの優先順位で処していけば、総じて適切な方向に石が行き、マチガイの少ない、活気に満ちた碁を打つことができるはずである、と著者はいう。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、125頁)

局部の大小関係に注目するケース


・局部の大小関係に注目するケースとは、例えば、こういう局面である。
【26図】弱石なく、平和な局面…大ヨセの感覚で
・ご覧のとおり、双方、弱石がない。
・従って、ここで黒aのオサエは、有力な一案。
・他に、黒bと肩を突いて、消しにいくのもあり(これも局部の大)、このほうが点数が上かもしれないが、少なくとも、黒aのオサエは、この場合、叱られない手といえる。

☆26図は、両者安定の局面であったが、反対に、双方弱石を抱えているときは、どうするか?
➡その場合も、原則として<攻め>を第一義としてほしい。
※つねに、積極果敢な姿勢を持つこと。それが勝利への近道だから。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、126頁)

テーマ9切りかえ~<厚み>が<薄み>に変わった


【2図~8図】
<厚み>が<薄み>に変わった
【10図】黒、上が弱く、下が強くなった
〇8図白21のスベリまでの局面。
※7図白1とボウシした段階では、上の丸印の黒は確かに厚みであり、攻めに活用すべき外勢だった。
 しかし、それから20手進んだ本図では、丸印の黒の11子は、もはや厚みとは認定しがたくなっている。
 中央にもう少し白石が加わると完全に攻守逆転し、丸印の黒の一団が白の標的になりかねない。

・反面、三角印の黒の一団は非常に強くなっている。
 白に三々侵入を許し、その代償として、ここに相当な厚みを得たわけである。

※要するに、7図白1のボウシから20手進むうちに、社会情勢が大変化して、かつての厚みは薄みと化し、逆に、薄みが厚みに変わったのである。
 7図黒2とツケたときから、時代は移り世の中が変わった…そう認識して、

【11図】正解
・黒1と、こちらから打つ
※これが、「時代の変化」に柔軟に対応した、正しい石の方向である。
 次いで、
【12図】事態の変化に即応して…黒1、3、5
・白は2ぐらいのもの。
・そこで、黒3とオシ、白4に黒5のケイマ
※過去にとらわれることなく、現時点の状況にマッチさせた、正しい石運びである。
 黒1、3、5を打つことによって、
①丸印の黒の一団の不安が解消した
②中央から右辺へ、大勢力圏を構築
③三角印の黒の堅陣が光ってきた(白をまだ攻めている)
※このように、黒には「いいこと」が三つも重なった。
 前掲9図の“難戦模様”に比し、本図は、黒が快勝を収めそうである。

執着を離れ、発想を切りかえる


【13図】
・最初に、黒の<次の一手>(1図)を問われた人は、それまでの流れを知らないので、固定観念のようなものを持つことなく、冷静に局面を観察して、正しい方向(12図黒1ないしその近辺)に、眼が行きやすかったかもしれない。
・本局の当事者=黒のX氏も、実戦を離れた<次の一手問題>であれば、おそらく12図黒1、3と、この方向に石を持っていったことと思う。
・ところが、【13図】白1のボウシされたとき、上の丸印の黒を厚みと認識して、黒2とこちらにツケ、白を厚みの方に追い込もうとした。
※実戦では、この作戦・方針から、一つの流れが生じ、その流れに乗っているうちに、いつのまにか「上の丸印の黒は厚み」という考えが、一種の固定観念として定着してしまい、機に臨んで応変の戦略を描く柔軟性をなくしたといえるだろう。
 強い石が弱くなったり、弱い石が強くなったり、事態は常に流動的である。
 その変化の相を敏感にとらえ発想を切りかえて的確に対処することは、専門家にとっても時にむずかしいテーマとなる、と著者は解説している。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、129頁~138頁)

プロの実戦から~大竹英雄VS加藤正夫


大竹英雄VS加藤正夫
≪棋譜≫(1-50)138頁、大竹英雄VS加藤正夫

【14図】<黒>大竹英雄・<白>加藤正夫
・右下の応接・黒17まで。
※実利対外勢のワカレ
・白はここに蓄えた力をバックに、18とハサみ、攻勢に出た。
・黒19コスミに、白20トビ。
※左辺の二連星とも呼応した、スケールの大きな攻めの構想。

【15図】白、次の一手は?
・続いて、黒21のトビに、白は22を利かして、24トビ。
・黒もまた25とトビ。
〇さて、ここで白はどう打ったか?
 碁の流れは、白の攻め…。
 その流れに沿って、さらに急攻を企てるか。それとも…
≪棋譜≫140頁、16図

【16図】実戦―渋さが光る
・加藤名人は、ここで白1と守りについた。
※なかなか打てない手…思いもよらなかった、という人も多いのでは?
 しかし、よく考えてみると、状況の変化に対応した、素晴らしい一手であることがわかる。
※ちょっと前まで、右下の丸印の白の一団は強い石で、攻勢の基盤となっていた。
 ところが、数手進んで、丸印の黒のトビがくると、丸印の白は弱体化し、少し薄くなった。
 そこで、白1とガッチリ打って補強し、白aのツメや、白bのボウシなど、色々な含みを見る。
➡まことに、<攻・防>両面によく心配りされた、輝く名手、と著者はいう。

【17図】黒ありがたい
・ハサんだ石を攻めるという、これまでの一連の流れに安易に乗ると、つい、白1のケイマから3とトビと、こういう打ち方をしがち。
・黒は4とトビ。
➡白、どうもまずいようだ。
※白は、1、3といたずらに腰を伸ばしただけで、丸印の白の一団がそれほど強化されたわけでもなく、従って、上の黒への攻めも、多くを期待できなくなった。
※白の打ち方は一本調子であり、直接的に攻めようとしている。
 それがかえって、迫力を欠くことになっている。

【18図】実戦
・16図以降の進行。
・中央・黒39にトンだとき、白40の肩から46まで、今度はこちらを補強した。
・黒47のスベリに、白50のボウシ!➡満を持した強打

※本局は立ち上がから、「黒の実利/白の勢力」という骨格が決まり、碁の大きな流れとして、白の攻めがポイントになった。
 しかし、白は決して一本調子で攻めることなく、黒の動きに応じて、自軍をよく点検・整備し、慎重に打ち進めている。
 流れに乗りっぱなしでなく、ときどき岸にあがり、流れを冷静に観察している、そんな感じだろうかという。

※前回のテーマで、着手の決定の基準(優先順位)を
①攻め ②守り ③局部の大小関係とし、「攻め」の重要性を強調したが、これを補足する意味で、今回のテーマ=切りかえを著者は選んだという。 
・取るものを取り、あとをシノいで打つという実利先行作戦は、本質的に非常にむずかしいので、とくにアマチュアの人は攻め本位の作戦をとるのが得策である。
 この考えから、先の基準を示したが、攻めを重視するあまり、勢いのおもむくまま、どんどん行き過ぎてもいけない。今回述べたかったのは、これである、と著者はいう。
・「攻め」を第一義としながらも、彼我の強弱の変化によく注意して、ときに自陣を整備・補強すること、また、総じて100手を過ぎたあたりから、局部の大小関係、つまり<ヨセ>が大きな比重を占めるようになること。
 このへんの切りかえをうまく行うことも、勝利への大切な要素であるとする。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、138頁~143頁)

テーマ10 部分と全体~プロの実戦から 藤沢秀行VS石田芳夫


<黒>藤沢秀行VS<白>石田芳夫
【7図】
・黒1のトビに、白2のノビ。
 黒、次の一手は?

【8図】英断
・黒3!
※「さすがに…」と、話題になった手である。
 こう打つと、目前、白aの出がある―黒bは白cに切られて苦しい―
・黒の対策は?

【9図】
・白4(実戦ではこう打たなかった)には、黒5と応じ、白6にも、黒7にノビよう、という意図である。

※三角印の黒二子を放棄した損は小さくないものの、スケールの大きな黒模様を構成しつつ、7の剣先が左辺の白模様を消すという、一石二鳥の働きをしている点、上の損を差し引いても、十分にオツリがくる図となっている。

【10図】黒1、3は凡庸
・白2のとき、出切りに備える手としては、黒3のケイマが形(定石型)であり、例の<部分の最善>といえる。
・しかし、白4とケイマに出られては、黒の右辺の構えは影の薄いものになる。

※8図黒3のオサエは、一見常識外れの手ではあるが、9図と10図を比較すれば、大局的見地からの素晴らしい英断(真の最善)であることが分かる。

※10図黒3のような、石の姿・形、あるいは手筋といったものに明るいことは、碁の強さの大切な要件であり、それなりに評価されるが、それにも増して重要なのは、“大局を見る眼”である。
 対局中、少なくとも3回ぐらいは背筋を伸ばし、姿勢を正して、盤上全体を大きく視野に収める習慣をつけると良いという。
 そこから、全体にマッチする妙計も生まれる。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、148頁~150頁)

テーマ10部分と全体~「呉清源布石」


〇「呉清源布石」の教材として、呉先生が採用された局面である。

【16図】白番
・いま、三角印の黒に打ち込んだ。
 白の、19路四方を視野に収めた構想は如何。

【17図】失敗Ⅰ
・白1トビ…19路四方ならぬ、10路四方ぐらいしか視野に収めていない打ち方である。
・白1と逃げた以上、黒2に白3トビもやむを得ない。
・以下、黒6までを想定。

※黒にとって、2、4、6は、白の右方の厚みの消しになっている。
 同時に、まだ左の三子への攻めも見ている。
 ―一子を逃げたため、白は全体が崩れた。
 なお、白5のナラビは、黒aのオキを防いだものである。

【18図】失敗Ⅱ
・白1とコスんで、三角印の黒を攻めたいという人もいるだろう。
 しかし、黒2のツケから10トビまで(相場の進行)となって、とても攻めがきくような石ではなく、逆に左の白のほうが不安である。
 前図同様、右の厚みも消えて、白サッパリ。

≪棋譜≫19~21図
【19図】正解
・呉先生推奨の手は、白1のケイマ。
 この際、三角印の白の一子を献上しようというもの。
・黒2のコスミに続いて、

【20図】
・白3のツケから、5のツキアタリも利かし、一転7のオサエ。
 これも、先手(権利)である。

【21図】芸術の香気
・黒8、10の受けを待って、今度は下辺に転じ、11の大ゲイマ。
 こう五線に打った手に、なんともいえない味がある。
 名工・左甚五郎が、361路の大地に至芸をふるい、最後の槌音を響かせた…そんな感じの一手であろうかという。

<碁の調和>
・これは呉先生の言葉で、非常に深い意味がある。
 本図も、白の全軍が相和した、一つの調和的世界だろうという。
 
【22図】
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、153頁~156頁)

テーマ11 タイミング


〇弱点が一つになったときが“いいタイミング”
 <黒>呉清源VS<白>坂田栄男
【14図】
・この局面―右上方面の黒陣へ、白はどういう“策”で臨んだのだろうか?
【15図】
・丸印の黒の構えに対して、白としては、
aの打ち込み、bのカカリ、cの三々、dの肩ツキなど、さまざまな作戦が考えられる。
・ところが、白の次の一手は、a~dのいずれでもなかった。
≪棋譜≫16~18図
【16図】
・白1と、中央からの「消し」…黒2の受けに、白3の打ち込み!
※黒2と、ここに石がくると、15図白bのカカリは、“ない手”になった。
(攻められるだけで、苦しい)
 また、15図a、dなども消えたことは、もちろんである。
 つまり、16図黒2と受けたとたんに、黒の弱点は三々だけになった。
 そこで、白3と飛び込んだのが、まさにグッド・タイミングというわけである。
【17図】
【18図】
・黒14までとなれば、三角印の白と黒の交換が、白にとって最高の利かしとなっている。
※黒は相当なコリ形で、上辺にできた地も、わずかなものである。
・先に16図白3と三々に入り、18図黒14までとなったあと、
【19図】
・白1に打っても、黒aとは絶対に受けてくれない。
・黒2ツケ、あるいはbコスミなどと反発される。
※16図白1、3の理想的なタイミングを、よく味わってほしいという。
【20図】実戦
〇なお、実戦では、17図白7のとき、
・黒8とツギ、白9に黒10のツメとなった。
※黒8は、いわゆる定石にない手であるが、この際の好手である。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、163頁~165頁)

テーマ14 打たずの戦術~見合いの考え方


【見合いの考え方】
・「打たずの戦術」というテーマで、二つの実戦例をあげたが、いわゆる見合いというものに着目すれば、この戦術はいっそう光彩を放ち、面白くなる。
・黒Aと打てば、白Bに打たれる。逆に黒Bと打てば、白Aに打たれる――
 これが見合いの関係であるが、黒としては、A・Bにはあえて打たず、他方面の好所=Cを占め、A・Bのところは、反対に黒のほうから見合いにする。
 これが見合いの考え方であり、序盤・中盤・終盤にいたるまで、非常に応用範囲の広いものである。
・AまたはB、どちらを選ぼうかと迷う――
 迷うぐらいだから、A・Bはいずれ劣らぬ好点のはずであるが、それらを見合いとしてとらえれば、あわてて一方に打ったり、迷ったりする必要はない。
 悠々と第三の好所=Cを占めて、「さあ、どういらっしゃいますか」と、相手に手を渡してほしい。
 A・Bは見合いだから、相手が先着しても、片方は打てるわけである。

・<分からないときは手を抜け>という実戦訓も、見合いの考え方に一脈通じている。
 投げやりで、無責任な響きがあるが、実は深い意味のあることばである。

・さて、見合いの考え方をうまく活用した棋士として、まっさきにあがる名前は、明治期の巨峰・本因坊秀栄。
 かつて、本因坊秀哉は、「秀栄に対すると、打ちたいところがたいてい見合いになっていて、いつも迷わされた」と語っていたそうだ。
 以下、秀栄の“見合いの名局”を鑑賞してみよう。

【6図】<黒>田村保寿・<白>本因坊秀栄
※黒の田村保寿は、のちの本因坊秀哉その人。
・立ち上がり早々次の白の手に注目。
・もっとも常識的な手といえば、白aのシマリ。
 しかし、白aには、黒bのヒラキが見え見え。
・しからば、白aを撤回して、bに先着?
➡そういう発想は落第
☆秀栄はどう打ったのだろうか?
【7~12図】
【7図】秀栄の青写真は?
・白1―秀栄はこのカカリから持っていった。
・黒2の大ゲイマに、白3といきなり三々へ!
☆どういう構図を描いたのだろうか?
【8図】
・黒4は当然。
・次いで白5から黒12まで、定石型。
※ここで、白a(5, 十四)のトビが、左上隅の三角印の白をバックにして、一級品の好点であることに注意。
【9図】白13から、aと15が見合い
・ところが、白は右下隅13。
➡これは特級品ともいうべきシマリ。
・こう打つと、右辺白15が、一級品のヒラキ=必争点となることは、6図で述べた通り。(右下隅が小ゲイマジマリ、大ゲイマジマリにかかわらず)
・白は、13とシマることによって、左右の一級品を見合いにしたわけである。
・黒は、白a(5, 十四)を嫌って、14と手を加え、白15のヒラキとなった。
※左下隅の定石を打って、白aという好点を作り、それとの嚙み合わせで、シマリとヒラキ(白13、15)を打った……実にうまいもの。
・続いて、黒16のカカリ。
※白はここでも、「見合い作戦」を繰り出す。

【10図】
・白17のコスミツケから19の大ゲイマ。
※通常、こういう打ち方は悪いとされている。
 なぜなら、……

【11図】左辺と右辺が見合い
・黒1(局面によってはa(3, 十))という、“二立三析”の好形を与えるからである。
※ただし、本局では、左下の丸印の黒の厚みが強大で、白から打ち込みをねらうわけにはいかない。
 こういう場合は、黒1を打たせてもいいのである。
※そして、もし黒が1と左辺の大場を占めれば、白は右上の2のヒラキヅメを打とうという作戦。
※要するに、10図白17、19によって、白は左辺への打ち込みと右上のヒラキヅメを見合いにしたわけである。
 白に手を渡され、若き本因坊秀哉の迷っている様子が、目に見えるよう。

【12図】白、間然するところなし
・思案のすえ、黒は20のヒラキヅメを選んだ。
・白21とトンだのは、利かしの気分。
・黒22トビを待って、白は予定通り23と二間に迫り、三角印の黒二子の挟撃に回ることができた。
※黒が左を打てば、右(黒が右を打てば、左)。
 まさに格調高い名曲の調べで、白はごく自然に主導権を得ている。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、209頁~215頁)

「三手」を考える


・<黒>石井千治 <白>本因坊秀栄
 本局にも秀栄の至芸を見ることができる。
≪棋譜≫216頁、13~19図、石井千治VS秀栄

【13図】白番 <黒>石井千治 <白>本因坊秀栄
・手番の白…目につく大場は、右辺と上辺、さてどちらにしようか、と迷いそう。
 ところが、秀栄の着眼はまた別にあった。
【14図】白1から、右辺と上辺が見合い
・白1のオシ!
※左辺の模様を盛り上げる意味で、黒a(8, 十六)のカケが相当な手、という判断のもとに打たれた手。
 白1は、黒aを防ぎつつ、右辺と上辺の大場を見合いにしている。
・実戦では、黒2のワリ打ちから4、6と、黒が右辺を打ったので、白7と上辺へ。
※このあと、上辺と下辺がまた見合いになっている。
 すなわち、次いで黒b(7, 三)なら、……
【15図】
・白1から3と下辺を占めて、模様で対抗する碁になる。
・14図白7につづいて、……
【16図】黒8なら→白15
・黒は8と打ち込み、下辺を荒らしにきた。
・以下、黒14と中央へ逸出。
・それならと、白は15のヒラキヅメ。
※まことに悠揚迫らぬ石運び。
 さらに、白はここでも<見合い>を考えている。
・すなわち、黒16、18から、17図~18図の応接を経て、……
【17図】
【18図】
【19図】黒も打ち回しているが…
・黒36のトビまで、白陣の一角を破られたので、「今度は私の番」と、白37に打ち込み、黒陣を荒らしにいった。
※黒が打ち込めば、白も打ち込む。やはり見合いの関係になっていたわけである。
 14図黒2から19図黒36まで、黒に方々を十分に打たせているが、白はその都度、見合いの箇所を占めて、決して遅れていない。
 よく「三手考えよ」というが、このような打ち方が最高の模範である。
 AとB、どちらにしようかと迷って、いたずらに時を過ごすことなく、もう一つ・Cに着目して、AとBを見合いにする…碁の極意であるという。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、216頁~219頁)

テーマ17 機略<ハザマトビ>


 藤沢秀行VS半田道玄

<白>藤沢秀行VS<黒>半田道玄
【23図】
・黒1の二間高バサミに、白2と三々へ。
・以下の応接は基本定石である。
(黒21でa(14, 十四)のノビが多いが、譜のカケツギも一策)
・黒25まで一気呵成に進んだところで、白の妙計は?

≪棋譜≫24~29図
【24図】嘆賞
・白1のボウシ!
 これぞ名手…通常のハザマトビ=a(11, 十二)の地点から、一路進んでいるので、いわば“ハザマ二間トビ”とでも呼べるだろう。
※丸印の白の二子との間を、黒に割らせようという点で、着意は普通のハザマトビと同じ。

【25図】
・白1トビの凡策は、黒の意中を行くもの。
・白2の大ゲイマぐらいから大きく攻められ、難戦必至となる。
 さて、24図以降も、実に見ごたえがある。

【26図】白、サバキに出る
・黒は2にツケて、白二子を“いっぱいの形”で取りにいった。
・一転、白3のハネから5、7の二段バネが冴えている。
 ヨミ筋は?
【27図】
・黒8、10のアテツギは、やむを得ない。
・そこで白11切り。
(続いて黒a(17, 十三)と逃げ出せば、どうなるか―それを考えてほしい)

【28図】
・実戦は、黒12にマガり、白13抜きとなった。
※ここで、白a(17, 十五)の切りがあることに注意が必要。

【29図】快打成功
・結局、黒14切りに白15のスベリとなった。
※黒の鋭鋒をかわした、白の鮮やかな太刀サバキ…見事というほかない。
 三角印の白と黒の交換が、ぴりっとワサビの利いた、文字通りいい利かしになっている。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、263頁~266頁)

テーマ18 形勢判断~四子局


四子局
〇四子局の布陣は40目強(281頁)
【総譜】1譜~16譜(1-197手)(284頁~334頁)
≪棋譜≫334頁、総譜

(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、284頁~334頁)

【6譜】6譜(1-63手)(313頁)
・黒60のトビは緩着。
※右下隅に、白a(16, 十七)と打たれると眼がなくなる……その心配によるものか(いま検討した丸印の黒と白の交換をもし打っていなければ、白も少し眼が心配になり、黒60の点数が上がる)
・譜の形なら、白は黒60にそれほど脅威を感じることなく、左上、61、63のハネツギに回ることができた。これが非常に大きい。

左上は、出入り17目
左上を、白がハネツいだ図(白61、63)と逆に黒が61にサガった図と比較して、実際に算定してみる。

【10図】
・白がハネツげば、1のハサミツケが権利となる。
 白a(5, 四)の出を含みにしているので、黒b(3, 一)と遮ることはできない。

【11図】
・黒2、4と、これが相場。
・後に、黒a(1, 二)、白b(2, 一)で、×印はダメ。

(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、314頁)

【8譜】8譜(1-79手)(317頁)
・黒70と、あまり実を期待できないところに石が行き、反面、白は71から73コスミと、出入りの大きな要点(実質の手)に回っている。
・黒74、76は権利。
・続く黒78オサエは、やむを得ないところ。
・一転、白79サガリ。
※これがまた大きな手。

【16図】
・逆に、黒1、3とハネツがれると、白地は大幅に減る。
※黒a(2, 十)のハサミツケが、権利となるから。

【17図】
・白2、4ぐらいのもの。
・次いで黒5がうまく、以下、

【18図】
・白10まで、黒先手。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、318頁)

【19図】
・白が1とサガった図とを比べてほしい。
・白1から、さらに白a(2, 六)とトビコむ図を考慮すると、前図との出入りは16目前後にもなる。

【9譜】9譜(80-87手)(319頁)
・白のサガリに、黒a(2, 七)と受けるのはシャクということで、黒80のボウシ。これは不問とする。
・黒82も、80への応援をかねて、まあまあの手であるが、大きさからいえば、上辺・黒b(12, 二)のサガリのほうが上だろう。
・白83、85は、81にともなう権利である。
・続く白87のケイマは、左上の黒への攻めを見つつ、80の一子もにらんでいる。
・これに対して……
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、319頁)

【10譜】10譜(88-101手)(320頁)
・白99まで。
※黒はともかく先手で完全な生きを確保したが、感じのいい打ち方ではない。
 左上の黒は、いざとなれば、黒a(1, 六)から符号順に、黒e(1, 二)で生きがある。
・従って、黒92では、単に100とトンでいたかった。
※実戦は白を厚くさせて、少しマイナス点がつく。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、320頁)

黒のリードは10目に


【20図】
・さて、黒100トビに白101と打ったところで、4回目の形勢判断を行う。
・第3回の形勢判断(黒28目リード)から、50手進んだが、その間、黒には実質に乏しい手が散見され、また、損な交換もあった。
・反対に、白のほうは、7譜61、63のハネツギ、8譜73のコスミ、79のサガリなど、実のある手に恵まれた。
・当然の帰結として、形勢もそうとう接近したはず。

〇白101の時点におけるそれぞれの地の目数(試算値)は次のようになる。
【黒地】
・右上方面=32目
・左上方面=5目
・下辺左=10目
・右下隅=7目

【白地】
・上辺=12目
・左辺一帯=19目
・下辺右=8目
・右辺=5目
➡黒地総計「54目」、白地総計「44目」
 その差・10目と縮まった。
 第3回の形勢判断から、白は18目も追い込んだわけである。
 なお、中央一帯は、この段階では、双方ゼロと見なす。
 力関係が、ほぼ互角と見られるから。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、321頁~322頁)



≪囲碁の攻め~苑田勇一氏の場合≫

2024-09-08 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~苑田勇一氏の場合≫
(2024年9月8日投稿)

【はじめに】


 今回も、引き続き、囲碁の攻めについて、次の著作を参考に考えてみたい。
〇苑田勇一『NHK囲碁シリーズ 苑田勇一流基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]

さて、先週の「囲碁フォーカス」では、攻めは相手の石を取りにいくこととは限らず、方向を意識して、上手に逃がすことがテーマの一つであった。
 今週の本日(9月8日)のポイントの一つは、強い石(眼形や根拠のある石)には響かないので、近づかないことが攻めの鉄則であるという。
 これらの考え方は、今回紹介する苑田勇一九段は、「生きている石の近くは小さい。
 逆に、生きていない石の近くは大きい」そして、「攻めることは追いかけて逃がすこと」と、その要点を指摘しておられる。
 苑田勇一氏の独特の囲碁の攻めの考え方が、本書を通して、学べる。
例えば、
・生きている石の近くは小さい。
 逆に、生きていない石の近くは大きい(10頁)
・攻めることは追いかけて逃がすこと(38頁、112頁、160頁)
・美人は追わず(120頁、137頁)
※美人を追いかけて逃げられたら、プライドが許さないだろうから、1回も攻めずに逃がす方がいいという意味の著者の造語か。弱そうで魅力的な石は追わないのがいいとする。)
・サバキはナナメに石を使う(158頁、160頁)
・ナナメは眼形が多く、弾力がある格好(162頁)
・攻めるコツは、相手の石をタテにすること。強いほうは、石をタテヨコに使うようにする。強い立場のほうが、ナナメに石を使ってはいけない(161頁、162頁)
 
 ちなみに、佐々木柊真氏(野狐9段)は、次のYou Tubeにおいて、
「【囲碁】ツケの使い道」(2022年5月6日付)
 「私の碁の根本を作った超良著」と、この苑田勇一九段の著書を絶賛している。

【苑田勇一氏のプロフィール】
・1952(昭和27)年生まれ。大阪出身。小川正治七段門下。
・大手合優勝6回。関西棋院第1位3回。
・1983年、1988年棋聖戦最高棋士決定戦決勝進出。
・1986年、1988年天元戦、1998年棋聖戦挑戦者。
・趣味はワイン



【苑田勇一『基本戦略』(日本放送出版協会)はこちらから】






〇苑田勇一『NHK囲碁シリーズ 苑田勇一流基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]
【目次】
1章 「生きている石」の近くは小さい
     大場は簡単にわかる
     「3つめの眼」を作らない
     「生きている石」はよりかためる
     「攻めること」は逃がすこと
2章 「囲う」「囲わせる」
     「囲う」と地は減る
     「囲わせる」と地は増える
     地を作らせない努力
3章 攻めず守らず
     攻めず守らず
     「攻めること」は逃がすこと
     攻める方向
     強いところは厳しく
     大事な方向
     強い石を刺激する
     石数の多いところで戦う
     特訓講座
4章 「サバキ」「競り合い」「幅」
     サバキはナナメ
     競り合い
     幅の考え方
5章 「三々と隅」大特訓
6章 とっておきの秘策




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


〇第1章 「生きている石」の近くは小さい
・THEME 大場は簡単にわかる~一間高ガカリ定石より
・THEME 「生きている石」はよりかためる
〇3章 攻めず守らず
・THEME「攻めること」は逃がすこと
・THEME攻める方向
・THEME強いところは厳しく

〇4章 「サバキ」「競り合い」「幅」
・THEMEサバキはナナメ
・THEME競り合い~三連星の布石より

〇5章 「三々と隅」大特訓
・三々入りの場合

・【補足】利き筋~星の定石(小ゲイマガカリ・二間高バサミ)より
・【補足】利きと味消し~You Tube囲碁学校より
・【補足】苑田勇一氏の実戦譜~片岡聡『布石 これだけはいけない』より
・【補足】苑田勇一九段の実戦譜~第14期天元戦第4局より






第1章 「生きている石」の近くは小さい


・この章では、碁の考え方、戦略をわかりやすく解説している。
・最も意識してほしいのは、石の効率であるという。
⇒石の効率を簡単に表現したものが、次の大切な考え方。
〇「生きている石の近くは小さい」
〇「生きていない石の近くは大きい」
この点、実例をあげて説明している。

THEME 大場は簡単にわかる~一間高ガカリ定石より


【1譜:一間高ガカリのひとつの形】
≪棋譜≫9頁、テーマ図

・黒は3とすぐ一間高ガカリ、白18までとなるひとつの形が出来上がった。
☆一段落したら、白黒それぞれ出来上がった姿が、生きているのか、まだ生きていないのかをまず確認すること。
【A図:右上の白は楽々生きている】


・右上の白は、三角印の黒(11, 二)(11, 四)(12, 六)などと囲まれ黒1とマゲられても、白2で楽々生きている。

【質問図1】
≪棋譜≫(10頁)

・黒番である。次の一手はどこであろうか。
※ヒントは、「生きている石の近くは小さい、生きていない石の近くは大きい」である。

【ポイント図1】
≪棋譜≫(10頁)

・黒21と星下に構えるのが、いい手。
※右上の白は生きているので、なるべく遠くに。
 近くが小さいということは、遠くが大きい。
※21よりA(4, 十)は「生きている石に近い」ので、よくない。
【2譜:白も生きている石(右上)に近寄らない】
≪棋譜≫(11頁)

・白も生きている石(右上)に近寄らず、左下に白22とカカリ。
・白26のヒラキまで、よくできる形。

【B図:右上の黒の死活~まだ生きていない】
≪棋譜≫(11頁)

※右上の黒はまだ生きていない。
・白1と迫られると7まで、とたんに眼がなくなり危ない。

【3譜:右下で黒は右上に声援を送る】
≪棋譜≫(11頁)

・黒27のカカリから31のヒラキまで、右上の黒に声援を送るのは、理にかなっている。
※生きていない石の近くは大きいから。
(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、7頁~11頁)


THEME 「生きている石」はよりかためる


「第1章 「生きている石」の近くは小さい」

【質問図1】
≪棋譜≫(25頁)

・白2の高目に、黒3とカカリ。
・白が4、6とツケ引いて、ひとつの形が出来上がった。
・白8ではa(11, 三)と一路広くヒラクのもあるが、著者のおすすめは、8と狭くヒラいておいて、しっかり生きておくものである。
☆右上の形が生きているか、生きていないかをよく見極めて、次の黒の手を考えよ。
 AからHの8か所のうちから、選べ。

【ポイント図1】
≪棋譜≫(26頁)


・答えはHの黒1、目外(もくはず)し。
※右上の白は生きている。生きている石の近くは小さい。すなわち生きている石の遠くは大きい。
 ⇒AからHで、一番遠いのがH。
※「近い」「遠い」は、碁盤の目にそって考える。
 まっすぐに、また直角に折れる(ななめには見ないこと)

【質問図2】
≪棋譜≫(27頁)

☆少し配置を変えてみる。
・黒が一間にハサんできた。次の白はどう対応するのがいいだろうか。
※目のつけどころは、やはり右上の形。

【ポイント図2】
≪棋譜≫(27頁)

※右上の黒はしっかり生きている。生きている石はもっと生かしてあげればいい。
⇒生きている石の近くは小さいという考えにも通じるが、生きている石をより生かすという考え方である。








(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、7頁~11頁)


【THEME 「攻めること」は逃すこと】


THEME 「攻めること」は逃すこと


「第1章 「生きている石」の近くは小さい」

【質問図1】
☆白が三角印の白と二間高にハサんできた。
 黒はどう応じるか。応用編である。



【1図】
・黒1のトビをまず頭に浮かべる人が多いのではないだろうか。
・白2の受けには、黒3とボウシして、黒の生きている石のほうに追いやるのは、いい調子だが、……。
・その前に白2と受けられると、黒からaと両ガカリする可能性をなくしていて、先に損をしている。


【2図】
・白4のケイマにも黒5とボウシしていくと……。
・白6まで、方向はいいのだが、黒も薄く心配。
※もっと厳しい、いい手がある。


【ポイント図1】
・黒1と肩にカケる手が厳しい。
※ aのハザマがあいていて心配に思うかもしれないが、右辺は黒の強いところ。
戦いは不利ではない。



変化図として、
①白aのハザマ
②白bの押しを考えている

【3図】
・白が2とハザマをついてきたら、黒は3とカケて5とノビを決める。
・白はオサえ込まれたらたまらないので、6とケイマはまず絶対。
・そこで黒7とオサえれば、黒は連絡できる。
※白a出の対策は、5図で説明する。


【4図】
・3図の白4で1と出てきたら、黒2とオサエ込んで十分。



【5図】
・白1には黒4とソウのが筋。
・aの出とbの切りを見合いにしている。


【6図】
・3図の白4で1、3と出切ってきたら、単に黒4と出るのがいい手。
・白は5とカカえるくらいだから、黒は6と一子を切っていいだろう。
・白が7と抜いて、黒は先手を取った。




【7図】
・黒の肩つきに、白2と押すのはどうだろうか。
・白2、4は車の後押しで悪形。
・黒は喜んで、3、5とノビていればいい。
・黒5となると、右下の白が弱くなったのがわかる。
・白6の守りは省けないだろう。



【8図】
・7図の白6で1のケイマでは、黒10まで、白は閉じ込められて苦しい。



【9図】
・黒7は「千両マガリ」。
・白8のハネにも黒9から13までぐいぐい押す。
・3つほど押したら黒15とケイマ。
・白は16と連絡した。
※みなさんは、攻めることは石を取ることと思っていないだろうか。
 攻めることは逃がすこと
と覚えてほしいという。
※白16まで、全局をよく見渡してほしい。
 白はつながったが、地はほとんどない。
 堅い壁も、右上の黒が強いので、何も働くところがない。
 それに比べて、黒はのびのびと、中央に立派な壁を築き、全局にプラスの影響を与えている。



【10図】
・続いて黒17と肩をつき、19とトンで、厚みと左下を連絡させるようにする。
※生きていない石どうしがつながると、効率のよい地模様が出来上がる。

(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、33頁~39頁)





【1譜】
・では、次の図。
・白4のコスミには、黒5で白6とオサエと換わってから、黒7とコスむのがいい手。
・黒は13と右下にカカった。
※右下の黒はまだ生きていないので、右辺は大きい。
 生きていない石の近くは大きい、のだった。
≪棋譜≫40頁、1~2譜

【2譜】
・白16のコスミにも、直接はあいさつせず、黒17と右上の白に迫る。
※黒はAと小さいところを打っていないのがうまい。
 右上の白は生きていない石。だから、近くは大きい。
≪棋譜≫40頁、E図

【E図】
・白16でE図の白1とヒラいたら、黒2と三々を占めて、安定する。
・黒はaを省いて、もっと大きいところに手が回っているのが、「石の効率がよく」、しゃれている。
(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、39頁~40頁)


【質問図2】
・白1と二間高バサミしてきた。
 黒の次の一手は?
・質問図1とは、右上の形が変わっている。

≪棋譜≫43頁、ポイント図、11~13図
【ポイント図2】
・黒は2とオサえて生き、まず自分の安全をはかる。
・白3のヒラキは、白は所帯を持つために絶対。
・右上の黒はしっかり生きたので……。

【11図】
・黒4と肩をついて、8までノビるのが、よい。
・白は右下が弱くなったので、9と守った。

【12図】
・黒10のマガリから16まで、ぐぐっと押し、18とケイマにカケて、白19と連絡させ、つながらせた。
※攻めることは逃がすこと。

【13図】
・壁を作ったあとは、反対側から左下の星とつながるように、黒20の肩から22とトビ。
※生きていない石を連絡して、石の効率を上げる。

(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、41頁~43頁)

3章 攻めず守らず


・石を取ること、攻めることが好き、という人は多いだろう。
 しかし、石を取ることと、攻めることは全く別のことだと著者はいう。
・攻めるとは、むしろ「追いかけて逃がすこと」なのだとする。
 得をする攻めを心がけて、石の方向を見極めてほしい。
(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、87頁)

3章 攻めず守らず

THEME 攻めず守らず


☆四子局を使って、「攻める」ことについて説明している。
・白が5と上辺を占めたら、黒は6と反対側の下辺に向かう。
・白7と迫ってくるのは、置碁には必ずといっていいほど、よく登場する。
☆どう受けていいのか、困っている人は、多いのではないだろうか。
 黒はどう対応するか。

【質問図1】

【1図】
・怖いからといって、黒1と隅を守るのは、白2のノゾキから荒らされてよくない。
※守るとかえっていじめられ、眼がなくなってくる。

【2図】
・黒1のコスミもよく見かけるが、白2とヒラかせ、楽をさせては失敗。

【3図】
・黒1と一間とハサむのは、厳しい手。しかし、おすすめしない。
・白は2のトビから、4とカケてくるだろう。
・黒7から白12まで黒は低位に追いやられた。
※攻めると自分の石も危なくなる。
 厳しく攻めると、反動で自分にもはね返ってくる。

【4図】
・では、黒1の二間バサミはどうだろうか。
 これも、ものの本いはよく出てくるが……。
・白が2、4とトブと、黒も囲まれては大変だから、3、5とトンで逃げる。

【5図】
・続いて、白が6とカカって8となると、三角印の黒が囲まれて弱くなる。
 黒よくない。これもおすすめではない。
※攻めると反動で、自分の石が危なくなる。
 攻めるのは得策ではない。

【ポイント図1】
・黒1と三間にゆるくハサむのが、いい。
※白に二間にヒラかせないけれど、Aと一間に狭くヒラく余裕、逃げ道は作ってあげる。
 白はつらいけれど、ヒラくことができる。
※攻めず守らずがいい。
 三角印の黒と白の真ん中でもある。力関係のセンターはいいところである。

【1譜】
・白2とトンできたら、黒3とまずコスミツケ。
・3は大切な手で、Aのノゾキを緩和した。
・黒5、7とツケノビてモタれ、右辺の白の攻めを見せる。
※上辺の白は三間幅で強いので、かためてもいい。
※白8でBのノビは、Cの出から切りが狙えるときの手である。
・三角印の黒があるので、白8とコスんではずす。

【2譜】
・黒9のツケから黒13とツイで、しっかり隅を守る。
※三角印の黒があるので、白Aはこわくない。

【6図】
・このあと、白1の打ち込みには、黒2の上ツケでいいだろう。
・黒14まで連絡できているのが長所。
※白aとワタる手があるが、地にならず小さい。
 石の効率が悪いといえる。

(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、88頁~92頁)

質問図3


【質問図3】
・一見、ぬるいような黒1の「攻めず守らず」がいい手だと説明した。
・白が2とヒラいてきたときの対応を考えてみよう。

【ポイント図3】
・三角印の白は狭いので、少しつらい手。
・黒は3とコスミツケておくのがよく、白4と立たせて、黒5とモタレ攻めするのが調子。

【1図】
・白8のコスミから黒13まで、前に出てきた形。
・三角印の黒のおかげで、白aの狙いがなくなっている。

【2図】
・黒15も大切な「交通整理」。
・黒19まで下辺が盛り上がって、黒好調。
(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、97頁~98頁)

3章 攻めず守らず

「攻めること」は逃がすこと


【質問図1】
・右辺で黒と白がにらみ合っている。
・黒番である。三角印の白を攻めたくなるが……。どうしたらいいのだろうか。

【1図】
・黒1とコスんで攻める、という人がほとんどでは。
※1は白を攻めている。攻めるのはよくない。
・白は2と付けてサバいてくる。
・黒5と白をあおって、攻めを続行したくなる。

【2図】
・白は10と肩をついて、強い石をかためながら、さばいていくのが得策。
・黒は13と逃げたが、まだ治まっていない。
※追いかけたら逃げるのは、人間関係でも、碁でも同じ。
・白は10でaなど弱い石を攻めるのはよくない。
・白14まで白は左辺、下辺のどちらからも真ん中の黒を狙っていける。
※どこが大きいのか、判断できることが重要。

【3図】
・1図の黒3で1と押しても、白6まで白がいいだろう。

【4図】
・黒1のトビは白2のツケから連絡される手があるので、よくない。

【5図】
・黒1も白8まで、やはり白は連絡できる。

【6図】
・白10とコスむのがいい形。
・11の切りを狙いながら、頭を出す。
・白18とトビ出して、白よし。

【7図】
・2図では、a(白10)がよいと説明した。
・白1、3では、左辺の白模様に追い込んでよくない。
・白5とハサんでも、模様のできるところが見あたらない。
※得がない攻めはいけない。続いて黒bのカカリも厳しい。

【ポイント図1】
・黒1と弱い石の三角印の白は攻めないのが、いい。
※弱い石を見ると攻めたくなるのが人情かもしれないが、そこをぐっとこらえて、反対側へ向かう。
・白2と押してきたら、黒3とトビ。
・黒7とマガって、なるべく右辺の石から遠ざかる。
・黒9まで、下辺が黒っぽくなった。
※白2は三角印の白を弱くして、マイナスなのである。

【8図】
・ポイント図1白2で、2とツケてくるのも無理。
・三角印の黒がaにあったら、白bの出がみえみえで、とても3の強手は打てない。

【9図】
・黒7、9は両方とも種石。断固として逃げる。
・黒13とポンと抜けば、黒がいいだろう。

【10図】
〇白は抜いた形をよく見てほしい。
 上辺に向かう黒は、厚くていい形。
※攻めなければさばかれない。

【11図】
・白2とトンできたらどうするか。
※考え方は同じ。攻めてはいけない。
・黒3と押して、右辺の白にはさわらないようにする。
・黒5と自分の用心は大切。

【12図】
・上辺に黒が構えているので、白を追い込まないようにする。
・黒9まで、黒は好調。

【13図】
・11図の黒3を3とトブのもある。下辺を大切にする打ち方で有力。
・白は4、6とトンで逃げた。
※下辺を大切にするときには、下辺と反対に向かい、上辺を大切にするときには、下辺に向かう。
 反対に進むのがコツ。

【14図】
・黒7から9と下辺に根を下ろし、黒好調。
※のちに黒aの打ち込みも狙っている。
(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、105頁~111頁)

THEME 強い石を刺激する


【1譜】
・攻めの方向を考えていく。
≪棋譜≫136頁、質問図1

【質問図1】
・白22のトビまで、よくできる形になる。
 次の黒の手が問題。
【1図】
・黒1、3と白を攻めたくなる人が多い。
・しかし、白2から8まで、弱かった石が強くなってしまう。
※「美人は追わず」というのを思い出してほしい。
 弱そうで魅力的な石は「追わず」
【2図】
・黒1と芯を止めて攻めるのは、白2、6と逃げられ、上辺の黒のほうがかえって弱くなってしまう。

≪棋譜≫138頁、ポイント図1

【ポイント図1】
・白の強いほうの石に働きかけながら、まずは自分の弱い石の強化をする。
・黒23とトンで、25と大きく構える。

【2譜】
・白26、28のトビには、黒27、29と大きく包囲することができる。
※右下の星と連絡できれば、黒よし。
【3譜】
・黒は31と白をおびやかしながら、右下隅をかためていく。
・黒37のノゾキもいいタイミング。
➡中央の黒が厚くなった。

【7図】
・ポイント図1の白24で、上辺は無視して、1と逃げるかもしれない。
・黒2ツケが狙い。
※ツケて上辺の白をかためながら、自分を強化する。
・黒8までの姿は大変厚い。
※黒はaにあると、だぶっている感じがする。
 こう厚くなると、bから攻めていきやすくなる。

【8図】
・2譜の黒27で黒1と攻めるのは、方向違い。
・白8までトバれると、真ん中の黒のほうが薄くなり、失敗。

【9図】
・ポイント図1の黒25で黒1も悪くはないが、黒3まで白を封鎖できないので、少しぬるいかもしれない。

【10図】
・白aのトビでは重いので、白は動かず、白1、3と守るのが好手。
※右上の黒はしっかり生きている。
 生きている石の近くは小さい。

≪棋譜≫142頁、11~12図

【11図】
・白が1と二間に一歩進めれば、黒は2と止める。
・白3とトンだときがチャンス。
・黒4から決めていくのが、うまい。

【12図】
・黒8と出て、10と戻るのが肝要。
・黒12とノゾいて、14とトンで、黒が好調。
※白はまだまだ治まっていない。
 生きていなくて、石数が多いところが大きい。
(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、136頁~142頁)

4章 「サバキ」「競り合い」「幅」
〇サバキはナナメ

4章 「サバキ」「競り合い」「幅」


〇サバキはナナメ
・石の強弱は、石数を数えればある程度わかる。
 石数の差が3つ以上あるときに、弱いほうの立場はサバくことになる。
・サバくコツは、ツケて、石を斜めに使うことである。
 反対に強い立場のほうは、石をタテヨコに使う。

〇「競り合い」はお互いに生きていない石が接触したときにでき、碁の骨格が決まるので、理解しておくのは、大変大事である。

〇「幅」は文字どおり、石の間が何路かを数えればわかる。
・3路以下なら狭い、4路以上なら広いというのが目安。
 幅の概念はすべての考えに共通して加える。
(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、157頁)


【THEME サバキはナナメ】


【質問図1】
☆右辺の黒模様に白が三角印の白と打ち込んで、黒が三角印の黒と鉄柱に受けた場面。
 白番で考えてほしい。
 三角印の白をどう動いたらいいのだろうか。



【1譜】
・白1と一間にトンで逃げるのを、考えた人は多いのではないだろうか。
 1だと黒2とノゾかれて重くなり、よくない。
※黒のノゾキは、白にサバかせず眼形を奪う好手である。
※攻めるコツは、相手の石をタテにすることである。
 右上方面は黒石が圧倒的に多いところであるので、工夫が必要。



【質問図2】
☆質問図1の答えを説明する前に、もうひとつ質問する。
 黒は右上の白をどう攻めるか?
※攻めは直接働きかけるだけではない。
 どう利用するか、どう利益をあげるかが問題である。



【ポイント図1】
・黒4と左上から手をつけ、右上には直接攻めないのがいい。
※左下の黒はまだ生きていない。
 また三角印の黒には幅があるので、左辺を大切にすることを考える。



【2譜】
・上辺の白は眼があり強いので、黒16からツケていく。
・黒20とケイマして、白21と連絡させる。
※攻めることは逃がすこと。
・黒22まで、幅のある左辺の生きていない石が模様になってきた。
※白は右辺から上辺に連絡しただけで、まったく実がついていない。
 黒大成功。
 白は三角印のトビではうまくなかった。
☆では、白はどうしたらよかったのだろうか?

【ポイント図2】
・白1とツケるのがよいだろう。
※ツケはお互いに強くなりましょう、という意味のある手である。
 立場が弱いほうがツケることになる。
※立場が弱いかどうかは、石数を数えて判断する。
 3つ以上少ないと、まず弱いといってよいだろう。


【1図】
・黒2のハネに白3と引くのは、重くよくない。
※まずツケて、そのあとサバキはナナメに石を使う。
 反対に考えれば、黒は三角印の黒も狭く幅がないから、黒は強い立場。
 なのに2はナナメに石を使っている。
※強いほうは、石をタテヨコに使うようにするのがコツ。



【2図】
・1図の白3では1とハネて、石をナナメにつかうのがいい手。
※強いほうは、黒2とツイでタテヨコに使えば、相手がナナメに使いにくくなる。



【3図】
・白3と隅に入り込むのも好手。
・黒が厚くなったので、白9のトビは絶好点。



【4図】
・3図の黒6で1とオサえるのは、白2と切られてよくない。
・白10まで、白がサバいた形。


【5図】
・3図の白3で1とツグのは重くよくない。
・黒4とツケるのが厳しく、黒8まで白がたいへん。


【6図】
※ナナメは眼形が多く、弾力がある格好。
 強い立場のほうがナナメに石を使ってはいけない。
・黒1のハネ(ママ、切りか?)だと白4、6と上から下からとアテられ利かされたあと……。


【7図】
・白10まで、白は簡単にさばかれてしまった。
※自分がナナメに石を使うと、相手もナナメになるので、強い立場、石が多いほうはナナメにしてはいけない。



【8図】
・黒1とハネるのも、ナナメでよくない。
・白8でaとツグと重くなり、捨てられなくなり、さばけなくなる。
※4、6、三角印の白は取られてもいい。
 何もなければ、右上の黒は一手で地になっているはずだったので、地にするスピードが遅くなり効率を悪くしている働きがある。

※攻められたときの眼の足しになれば、十分な成果。
 三角印の黒はまだはっきりと生きていないので、生きていない石の近くは大きいという鉄則を思い出してもらえば、自然に白8とトブことが浮かんでくるだろう。



【9図】
・黒としては1と、石をタテヨコに使うのがいい。
・黒5が少し、すましすぎ。


【10図】
・黒1と切って行きたい。
・白6まで、白は二子は取られたけれど、2と気持ちよくたたいたことに満足。
※黒白、どちらもうまくやっている図。


(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、158頁~163頁)

【質問図3】
☆形を変えてみよう。白番。
 三角印の白と打ち込んだ石をどうするかが問題。
※タテかナナメか、今まで説明したことをよく思い出してほしい。
 


【11図】
・白1の一間トビに逃げるのでは、重い発想。
・黒2とタテに石を使われると、また白は3とトバざるをえない。
・黒4のトビが絶好で、三角印の白も生きていないので、白が苦しい展開となる。



【ポイント図3】
・上辺は黒が6つ、白が1つ。
※白が打っても2つで差が四子もあるので、さばく場面ということがわかる。
 生きていなくて石数が多いところが大きい。

・白1とツケて、3、5、7とナナメに使う。
・黒8のアテに10にツイではいけない。
※ツグとタテに石を使うことになり、さばけなくなる。
 サバキとは、端の石を捨てることでもある。

・黒が10と抜いたので、左上の黒は生きた。
※生きた時点でそのまわりの土地の価値が暴落する。
・右上の黒はまだ生きていないので、右辺の弱い石から動き、白11と右上方面に向かう。



【12図】
・前図黒4では1とアテるのが正着。
・白に2、6と石をタテヨコに使わせているから。
・白12まで白は生きた。
(黒aとノゾいてきても、白b、黒c、白d)
※生きている石のまわりは小さいので、ゆめゆめeとツイではいけない。
 石数が多く、お互いに生きていないところをさがして、黒13と上辺の白の生きている石からなるべく遠くに打ち込む。



(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、164頁~166頁)

以上で、【THEME サバキはナナメ】は終わり。
 次は【THEME 競り合い】
4章 「サバキ」「競り合い」「幅」

THEME競り合い~三連星の布石より


【テーマ図】三連星の布石(1—41)

【質問図1】
・競り合いは、お互いに生きていない石が接触したときにでき、碁の骨格が決まるので、考え方を知っておくのは、大変重要。
・黒は三連星、白は二連星の布石。
・白が12と押してきた。
☆黒番である。どう応じるか。
 ヒントは、白にある欠陥を狙うこと。



【ポイント図1】
・白の欠陥を狙って、まず黒13と出て、15と切る。
・15、17と断点がふたつあるときは、価値の小さいほうから、切るのがコツ。
・黒19が、「競り場」。
※石どうしがぶつかりあっているところで、重要な急所にあたる。
・黒21のノビに対しては、Aと押したくなるかもしれない。
※黒Bとハネられたとき、白Cと切ることができないなら、Aと押して競り合ってはよくない。
 白Cだと、黒Dに切られて、白のほうが取られてしまう。
 かといって、Cで白Eとオサえるのでは、「競り負け」していることになる。
 Eのオサエは最初から考える必要はない。

・競り負けするときには、最初から22と「ごめんなさい」としておくほうがいい。



【1譜】
・黒23も競り場。
※三角印の白も、三角印の黒も生きていなくて、石数が多いので、価値が高いところ。
 三角印の白は、四角印の黒(14, 二)を取り切っていないので、まだしっかり生きたとはいえない。
※黒23に対して、けんかして負けるのなら、白はAとあやまるのも、立派な手。
※白28でBにハネていたら、迷わず黒は28に切る。
・黒29にカカったのは、四角印の黒(14, 二)を利用しようと考えている。





【2譜】
・白が30と守ってから、31と押すのが大切な手順。
※30がきたことによって、三角印の黒がほぼ動けなくなり、上辺の白は生きた。
 生きたら、どんどん地にさせるのがいい。
・黒は33と三々に入って、41まで稼いだ。




【質問図2】
・手順を少し戻す。
 黒がAとマガらず、1とカカってきたら、白はどう打つか?


≪棋譜≫172頁、ポイント、1~3図



【ポイント図2】
※生きていない石のそばは大きい。
・競り場、白2が急所。
・黒3のヒラキには応じず、白4と急所に一撃するのが厳しい。



【1図】
・黒が5と断点を守り、7と封鎖してきたら、白は8のハネから、10と切るのが手筋。


【2図】
・黒11と切ると、白12のホウリ込みがうまい筋で、黒は12を抜くことができない。


【3図】黒21ツグ(白16)
・右上の黒も取れそうだが、白16の割り込みから、18と切って丸めるのも筋で、26と黒はシチョウにかわって、つぶれてしまった。
※生きていない石のそばが大きい。





【4図】
・白としては、2譜の白30で、1とマガるのが好手。
・白3まで競り勝っており、両者うまく打っているといえるだろう。
※なお、三角印の黒で1と押すのは、aとノビられて、上辺への狙いがなくなり、よくない。
 押したくないときには、bとケイマにはずすのがコツ。



(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、167頁~172頁)




5章 「三々と隅」大特訓


【質問図8】
・黒が一間に受けているときの三々入り。


【ポイント図8-1】
・黒2、4とオサえると、黒8までが、よくある形。
 さてこのまま白が手を抜くと……?

【ポイント図8-2】
・コウになる手段が残る。

(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、204頁)

【補足】利き筋~星の定石(小ゲイマガカリ・二間高バサミ)より


・利き筋などについては、私のような素人のわかりにくい分野である。
 幸い、You Tubeにおいて、利き筋について要領よく簡潔に解説している動画がある。
〇小林さんちの囲碁
 「【囲碁】利き筋って何?」(2021年8月1日付)
 この動画では、小林孝之三段(NHK学園専任講師、日本棋院準棋士)が、星の定石(小ゲイマガカリ・二間高バサミ)を題材に利き筋について解説しておられる。
 利き筋=先手と捉えられるとする。

・利き筋=先手になるうる箇所として、次の9通りの利き筋があるとする。
図でいえば、△印が利き筋になる。
①3の九
②2の十
③3の十
④4の十
⑤5の十
⑥3の十一
⑦2の十一
⑧4の十一
⑨3の十二
≪棋譜≫利き筋、You Tubeより


⑨3の十二の場合が利き筋であることの証明~シチョウ
≪棋譜≫利き筋、シチョウ


〇星・小ゲイマガカリ10二間高バサミについて
 この定石は、石田芳夫『基本定石事典(下)』(日本棋院)に次のようにある。
【6図】(定型)
続き
≪棋譜≫石田、定石下、387頁

・白1とここで出てくるのは、黒2、4と切って、白の形に傷を作る。
・白9と抵抗すれば、黒10から16まで、白を封鎖して、右辺にa、b、c、dの利き味を見る。
※この型は黒が十分で、白1は最近見られなくなった。
(石田芳夫『基本定石事典(下)』日本棋院、1996年、387頁)

・【補足】利きと味消し~You Tube囲碁学校より
〇石倉昇九段「戦いの極意 第6巻 味を残す打ち方」(2018年7月23日付)
〇小林覚九段「さわやか開眼コース 第3巻 利きと味」(2017年10月23日付)
〇佐々木柊真氏「【囲碁】「利かし」と「味消し」」(2021年9月15日付)

【補足】苑田勇一氏の実戦譜~片岡聡『布石 これだけはいけない』より


・次の著作の「第3章 石の効率と働き」の「緩急をつける<研究局6>」(118頁~131頁)において、苑田勇一氏の実戦譜が載っている。
〇片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]

【研究局6】
 黒 片岡聡
 白 苑田勇一

≪棋譜≫118頁、片岡VS苑田

【第1譜】(1—19)あっさり
・白10のハサミまでは、黒白立場は違うが、研究局3とまったく同じ進行。
・著者は両ガカリではなく、あっさりと三々にフリカワる黒11を選んだ。
※「どう打っても一局」の場面

【第2譜】(20)細分化狙い
・白は20のカカリ。
※白(14, 三)でなく、こちら側のカカリは、局面細分化の狙いがある。
 局面を細分化して、コミに物を言わせようという手法。
(白(14, 三)との善悪はいえない)
※著書では、ここをテーマ局面としている。
➡白のカカリを迎え、きわめて常識的な応接でよい。
 中国流のこの部分にカカえられたときは、対応は決まったようなもの
・定法通り、黒21とコスミツケて、黒23と受けておく。
(黒21は白(18, 四)の拒否に他ならない)
・白24とヒラかせても、黒(17, 十一)の存在で寸のつまった二間ビラキ。
※白22と立たせてはいるが、まだまだ攻めの狙える石。
 攻めが狙えるということを言い換えれば、黒の右下一帯が地になりやすいともいえる。
※なお、黒23と受けておけば、碁の推移によっては、黒(6, 二)も有力な狙いになる。

【第3譜】(21—26)狙い含み
・白24に黒25のトビ。
※これでは右下一帯の完全な守りには、なっていない。
 ただし、白に圧力をかける手には、なっている。
※加えて、右下を一手で守り切る適当な手が見当たらない。 
 それなら、いっそうのこと黒25とトンで、二間ビラキの白への攻めと、ある狙いをテンビンにかける。
※黒25に白は白26と打って、二間ビラキを補強した。
 ここでテーマ場面としている。黒25と打ったからには、ただ右下を守る気にはなれない。
➡黒25とトンだ手には、複合的な狙いがあった。
 ひとつは、白の二間ビラキへの攻め。そして、もうひとつは、黒27への打ち込み。
※白が白26と二間ビラキを強化したので、黒27ともうひとつの狙いを決行するのは、必然の帰結。
※黒25は、以上の狙いだけでなく、場合によっては、右下を丸々地にする手に化ける可能性もある。
➡このように、狙いが複合的な手ほど、効率がいいといえる。

【第4譜】(27—31)
・白28に黒29、白30に黒31は、ともに大事な手。
※黒が利かされたと見るのは、誤り。
 こう受けて、「自動的に」右下が固まった、地になったと見るべきである。
 これも、黒27で白6を攻めに出た効果。
※攻めは「押して引く」「引いてまた押す」という緩急が大切。
 攻めっぱなしで、あとに何も残らない、という攻めであってはならない。
 黒29、31と「引い」たお陰で、右下が強化され、そこそこの黒地がついている。

【第5譜】(32—39)25目確定
・白は34のコスミツケでワタリを防ぎ、白36から逆襲に転じた。
※今度は黒が黒27をサバく番であるが、生きた碁とは、こういうもの。
※この間、黒は右下に約25目の地を確定させている。
 白が一子を強化するために、それだけの資本を投下したということ。
 サバキに回るのは、やむを得ない。

【第6譜】(40—53)治まる
・黒41から45まで、下辺で世帯を構えることができた。
※左下の白は、まだ確定地とはいえない。
 ただし、手をつけていくためには、黒一団の強化も必要。
・それが、黒47のハネから黒49、そして53。
※これは黒一団の単なる強化だけでなく、上辺の白をも意識している。
 中央が強くなれば、黒(6, 二)や黒(6, 五)が狙いやすくなる。
※単一の働きしかしない手というのは、そうそうない。
 要はその働きを、打ち手が認識しているかどうかである。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、118頁~131頁)

【補足】苑田勇一九段の実戦譜~第14期天元戦第4局より


・次のYou Tube(囲碁学校)において、苑田勇一九段は、第14期天元戦(1988年)をみずから振り返っておられる。
〇苑田勇一九段「苑田勇一 飛天流名局選」(2015年12月24日付)

・とりわけ第14期天元戦第4局(黒番・趙治勲九段との対局)は、苑田勇一九段の棋風である「西の宇宙流」(中央を志向する独創的な棋風)といわれるだけあって、スケールの大きさが現れた好局であったようだ。詳しくは、「苑田勇一 飛天流名局選」とりわけ、22分~35分あたりをご覧いただきたい。
・ちなみに、囲碁棋譜.COMより70手までの棋譜を添えておく。

【第14期天元戦第4局】
1988年12月21日
 黒 趙治勲
 白 苑田勇一
〇白のスケールの大きさ
・白54手目のボウシ(8, 八)、70手目の白(12, 五)のケイマ
208手 白半目勝ち
【棋譜】(1-70)

(囲碁棋譜.COM 趙治勲対苑田勇一 第14期天元戦第4局)






≪囲碁の攻め~中野寛也氏の場合≫

2024-09-01 18:00:15 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~中野寛也氏の場合≫
(2024年9月1日投稿)

【はじめに】


 今日、9月1日(日)の「囲碁フォーカス」で、柳澤理志先生も、攻めについて語っておられた。攻めは相手の石を取りにいくこととは限らず、方向を意識して、上手に逃がすことだと。なるほどと思った。
 今回も、次の著作を参考にして、囲碁の攻めについて考えてみたい。
〇中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年
 中野寛也氏は、プロフィールおよびコラムにおいても、書いておられたように、碁を始めた昭和53年ごろ、当時加藤正夫先生が五冠王で、活躍されていた。力でねじ伏せて大石を取ってしまう加藤先生の力強さに憧れたという。「殺し屋加藤」という異名であったことは、よく知られている。
(“殺し屋”とは随分ぶっそうな異名だが、中野氏本人もコラムに書いておられたように、加藤先生は優しく穏やかな人柄であったそうだ。また、吉原由香里さんも、師匠の加藤先生は優しい人であったと、「囲碁フォーカス」で涙ぐみながら偲んでおられた。)
 なお、本日のNHK杯テレビ囲碁トーナメント(2回戦)は、芝野虎丸名人と小池芳弘七段との対局で、解説は三村智保九段であった。その解説の中で、芝野名人は、大石を積極的に取りにいく“令和の殺し屋”であると、三村九段は形容されていた。それほど、大石を取りにいくことは難しいのである。
 だから、中野氏も、これまで紹介した著者と同じく、攻めにおいて、「石を取ること」を勧めていない。その代わり、次のように、いみじくも述べている。
 囲碁を始めたときに、誰でも最初に考えるであろうことが、「相手の石を取りたい」ということである。石を取ったら有利、取られたら不利と思いがちである。
ところが、上達してくるにしたがって、いらない石は捨てるという考え方を身につけるようになる。強くなることで、より大切な石を重視できるようになる。
捨てるべき石は小さいうちに捨てるのがよく、そして、捨ててもいい石とそうでない石の見極めも大事なポイントである、と。(189頁)

 中野氏は、攻めのポイントとして、次のような点を挙げている。
〇石の強弱の判断(73頁、173頁、182頁)
・自分の石が強いか弱いかの判断によって、着手は変わってくる。簡単に言えば、強い石=生きている石、弱い石=生きていない石となる。
・相手に一方的に攻められると、ただ逃げるだけのダメ手を何手も打たされ、形勢を損じやすくなる。そうならないためにも、相手に攻められる前に、弱い石には備えが必要。
・逆に、自分の石が相手の石よりも強い時には、相手の石を分断して強く攻めることもできる。
・相手に封鎖されてしまうと、その石の生き死にを心配しなくてはいけなくなる。
 多くの場合、無理に生きるためにもがくことは、周囲にさまざまな悪影響を与える。
 だから、眼のない石は中央の広い方に頭を出していくというのが基本。

〇要石とカス石の判断(65頁)
・要石とは、助けるか、あるいは取ることによって、石の連絡に関わる石。
 カス石とは、お互いの石の強さには関係のない石で、助けても取られても、周囲にあまり影響のない石のこと。
➡その判断のさいには、石の眼のあるなしが、一つの大きなポイント。

〇石の方向(81頁)
・石の方向は、ある意味では石の強い弱いに、直接関係する部分だといってしまっても、いい。追いかけ方ひとつで、相手に楽をさせたり、苦しめることができたりと、展開が大きく変わってくるので、方向の見極め方は、とても大切。
・また、攻めの方向としては、相手を分断して、カラミ攻めを狙うべきところや、自分の石の安全を確かめるためにしっかりと連絡しながら相手を攻めること。

〇形の急所(126頁)
・石の配置が複雑な状態で行われる戦いにおいては、「形の急所」が、打つ手を選ぶ時の方針の一つになる。
・よく、プロが、「ここはこう打つ一手」といういい方をするが、それは手を読んで判断している場合よりも、形の急所を知っていて、それを指摘している場合が多い。
格言にもあるように、「二目の頭は見ずハネよ」や、「急所のノゾキ」などにあたる筋を大切。

〇「碁は切断にあり」(142頁)
・碁は陣地を囲うゲームであるが、石と石との戦いでもあり、その戦いは石を切ることによって始まることが多いからである。石を切るというのは簡単なことのようであるが、相手もそれなりに注意して守っていることがほとんどであるから、時にはテクニックが必要。
・まず、相手の連絡に不備があるのかどうか、そこを見極めることができるかどうかが、大きなポイント。

〇捨て石の活用(189頁)
・捨てるべき石は小さいうちに捨てるのがよく、そして、捨ててもいい石とそうでない石の見極めも大事なポイント。
 助けると重くなってしまい、全体を攻められてしまうような時には、早く見切りをつけ、小さいうちに捨て石として活用すべきである。

〇仕掛けのタイミング(214頁)
・戦いの醍醐味の1つに仕掛けのタイミングがある。
 主導権を握ることのできる局面を見極め、また、相手の弱点をつき、よい攻めの方法を見つけてほしい。

〇根拠を奪う(238頁)
・相手の石の根拠を奪い、完全には生きていない状況に追い込むことで、攻めをより厳しくすることができる。
・根拠を奪うための最初のポイントは、相手の守りの不備を見つけることができるかどうか。

【中野寛也(なかの・ひろなり)氏のプロフィール】
・1969年広島県生まれ。島村俊廣九段門下。
・1985年入段、1997年九段。
・日本棋院中部総本部所属。
・1995年第10期NEC杯俊英トーナメント優勝、第51期本因坊戦リーグ入り。
 第38、39期王冠。
・2000年第38期十段挑戦。2010年第19期竜星戦準優勝、通算700勝達成。
・激しく戦う棋風で活躍中。
※趣味はゴルフ、読書。

<プロフィール補足>
「コラム 戦い王子のひとりごと ②戦いに目覚めたきっかけ」
・著者が碁を始めた昭和53年ごろ、当時加藤正夫先生が五冠王で、「殺し屋加藤」という異名で活躍されていた。
 地の計算で勝つ石田芳夫コンピュータ先生も活躍されていたが、著者は力でねじ伏せて大石を取ってしまう加藤先生の力強さに憧れたという。
・そのせいか、少年時代は碁とは戦って勝つものだと思い込んでいた。
 ところが院生になってみると、ただのチャンバラでは通用しない。
 皆、地のバランスや計算もしっかりしているので、乱闘派の著者も自然に勝負を意識して、バランスを重視するようになったそうだ。
・地元広島の呉に後援会ができ、島村俊廣先生の内弟子として、お世話になれたのも、後援会の方々のお蔭であったという。
 その後、島村導弘先生、羽根泰正先生、山城宏先生の親切な指導もあり、子供ながらプロにならなければという気持ちが強くなった。
・とはいえ、どんな局面でも最短で最強の手を選びたいという気持ちは変わらない。
 著者は、囲碁は石を使った格闘技だと思っている。
(子供のころから、ボクシングやプロレスが大好きで、昔はアントニオ猪木の大ファン)
・著者の尊敬する加藤先生の棋風も、普段の優しく穏やかな人柄とは正反対である。
 先生は著者が深夜までかかって負けた対局後も、さりげなく「ちょっと行こうか」と声をかけてくれて、お話をしてもらった。先生と話していると、負けて重い気持ちが薄れていくのを感じた。この気持ちが今でも戦い続けられる原動力で、著者の財産でもあるという。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、96頁)



【中野寛也『戦いの“碁力”』(NHK出版)はこちらから】


〇中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年
1章 打って良い時悪い時
 軽率なアテに注意
 生ノゾキの隣に急所あり
 切って厳しく攻めよ
 弱い石の連絡に敏感になる
 ツケは強い石を狙え
 腕試し問題①~⑤

2章 見分ける力をつける
 要の石を見逃すな
 石の強弱を見抜け
 戦うべき方向を読む
 押すか引くかを決断せよ
 腕試し問題①~④

3章 パンチ力をつける
 定石でシチョウを生かす
 ゲタシチョウの威力
 形の急所をつけ
 弱点をついて根拠を奪え
 戦いの勝機は切断にあり
 攻めの着点をさがせ
 腕試し問題①~⑥

4章 攻めを生む防御力
 弱い石を作るな
 封鎖をされるな
 捨て石で大胆に動け
 手入れで力をためろ
 腕試し問題①~④

5章 戦闘力をみがく
 弱い石の狙い方
 間合いを図って切れ
 包囲網を広く敷け
 根拠を奪う攻め
 腕試し問題①~④
 
【コラム】戦い王子のひとりごと
①碁を始めた時
②戦いに目覚めたきっかけ
③失敗談
④海外での経験、なぜ行くか
⑤テレビ講座を経験して




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


1章 打って良い時悪い時
 軽率なアテに注意
 生ノゾキの隣に急所あり
 切って厳しく攻めよ
 弱い石の連絡に敏感になる
 ツケは強い石を狙え

2章 見分ける力をつける
 要の石を見逃すな
 石の強弱を見抜け
 戦うべき方向を読む
 押すか引くかを決断せよ

3章 パンチ力をつける
 定石でシチョウを生かす
 ゲタシチョウの威力
 形の急所をつけ
 弱点をついて根拠を奪え
 戦いの勝機は切断にあり
 攻めの着点をさがせ

4章 攻めを生む防御力
 弱い石を作るな
 封鎖をされるな
 捨て石で大胆に動け
 手入れで力をためろ
 腕試し問題①~④

5章 戦闘力をみがく
 弱い石の狙い方
 間合いを図って切れ
 包囲網を広く敷け
 根拠を奪う攻め

・【補足】石の強弱に注意~山下敬吾『基本手筋事典』より
・【補足】ツケギリと両にらみ~藤沢秀行『基本手筋事典』より
・【補足】中野寛也氏の実戦譜~片岡聡『布石 これだけはいけない』より






はじめに


・本書に興味を持った人は、「戦わなくても碁は楽しい」あるいは「戦いはちょっと苦手」などと思っているのではないかと推測する。
 でもあと少し強くなるためには、戦う力も必要と感じているのではないだろうか。
 そんな人に、読後「戦うことが怖くなくなった」「碁が一層面白くなった」と思ってもらえたら幸いだという。
 逆に戦いが好きな人にはもうワンステップとなればと願っている。
➡著者なりの上達法のエッセンスをギュッと詰め込んでみたという。

・碁は何度対局しても同じ局面にはなかなか出会えない。
 しかし、それが醍醐味でもある。
 だから、図を記憶しようとするより、考え方をつかみ、本書で学んだことを実戦のさまざまな場面で応用してほしいという。

※なお、本書はNHK囲碁講座で、2011年4月から9月まで放送された「中野寛也の戦いの“碁力”」の内容と、新たに復習問題とコラムを付して、再構成したものであると断っている。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、2頁~3頁)

1章 打って良い時悪い時


・“碁力”は、“戦いが楽しくなる棋力”という意味の造語であるという。
 本書では、戦いというテーマを通して、囲碁の基礎知識や基本の手筋を紹介している。
・まず、基本の考え方。そして、戦いでよく使う基本手筋。最後に、それを応用した、戦いの中での攻めと守りの実戦を示す。
・1章は、基本の考え方として、決断力を養う。
 戦いでよく打つ場面が出てくる、アテ、ノゾキ、切り、連絡、ツケについて、代表的な局面をテーマ図にしている。
 周囲の石の状況をしっかり観察して、打つべきか否かを決断してほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、9頁)

軽率なアテに注意


・石を取るぞとアタリをかけるのが、「アテ」
 すぐにアタリを打ちたくなるが、打って良い時と悪い時がある。
 アテて良い時の例としては、相手を切るよりも、アタリのほうが勝る場合。
 アテて悪い時の例としては、いくつもあるが、簡単に言えば、いろいろな利きをなくす味消しの悪手となるアテを取り上げる。
(もちろん、周囲の状況によっては、部分的には同じ手でも、いい手になったり、悪い手になったりすることがある)

・大事なことは、状況に応じた対処ができるかどうかということ。
 そういう力をつけながら、アテていいか悪いかを、しっかり見極めてほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、9頁)

1章 打って良い時悪い時

生ノゾキの隣に急所あり


・テーマは「ノゾキ」
 ノゾいて良いところと悪いところの見極めは難しい。
 いわゆる生ノゾキといわれる悪手の隣が、急所のノゾキとなる好手である場合が多い。
 また、ノゾいてはいけない時もあるが、それは相手を強化してしまうことで、周囲の自分の石にリスクが生じてしまう時である。

・悪いノゾキを打ってしまってから、これは悪手だったと後悔しても、時すでに遅し。 
 だから、ノゾキを打つ前にしっかり判断して、それから着手するのが、大切なポイント。

・碁には、良い手よりも悪い手のほうがたくさんあるものである。
 多くの人が知らず知らずのうちに生ノゾキの悪手を打っているケースが多い。
 注意が肝心。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、17頁)


【テーマ図3】(黒番・先手を取るノゾキ)
・目下の急務は、上辺の黒二子を安定させること。
 右上の白の弱点をうまくつきながら、すんなり黒を治まってしまう。
 そんな進行を目指したいもの。黒はどこに目をつけるか?

【1図】(正しいノゾキ)
・この場合も、黒1とナナメからノゾくのが正解。
・黒1に、もし白aのツギなら、黒はbと頭を出して、すっかり余裕のある形になった。
※これは、黒の理想の手順といっていい。


【2図】(黒の注文)
・黒1のノゾキには、白も2とコスミツケて、切り違いを防いで連絡するくらいの相場。
・これなら黒も3と、もうひとつノゾキを利かし、白4のツギに黒5と中央に進出して、これも不満のない形。

【3図】(これは生ノゾキ)
・初心者の人が、つい打ってしまうのが、黒1の生ノゾキ。
・今度は白2とツガれ、黒3とサガった時に、白aとは打ってもらえず、上から封鎖してくるだろう。
・黒3が先手にならないのが、生ノゾキの弱点。



【4図】(生ノゾキの弱点)
・黒1、白2の時に、黒3とトブのは、白4と打って、全体の眼を狙う好手がある。
・白4に黒aは白b。黒bは白a。
※黒1はaにあるほうがいい。


【5図】(ダメヅマリは怖い)
・黒1、白2に黒3と打って、先手を取るのも悪手。
・白4に黒5と打って、白を攻めようとしても、この場合は白6とコスミツケる好手がある。
・黒7に白8のワリ込みが手筋で、白12まで。
※黒は要の三子を取られて、ひどい形になった。
 黒の失敗は明らか。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、17頁~25頁)

切って厳しく攻めよ


・戦いの好きな人なら、誰でも興味を持つのが、「切り」
 しかし、その切りにも、切って良い時と悪い時がある。
・たとえば、
①シチョウ関係の見極めは大切。
 もちろん、切った石がシチョウで取られるようではいけない。
②また、味方の連絡がしっかりできていないような状況でも、切ってはいけない。

・テーマ図1で取り上げた両ノゾキは、実戦では相手の石を切断する時に使うケースが多い。
 このような場面はすでに接近戦になっているので、決断力とともに、ある程度先を読む力が必要。

※切って仕掛けていく時には、自分の石の連絡はできているかなど、細心の注意をはらって決行しなければならない。

【テーマ図1】(黒番・切りは成立するか)
・上辺で競り合いが始まっている。
 白石の連絡には、どこか不備がありそうだ。
 黒から白の石を切っていく手段が成立するのだろうか。
 黒はどこに目をつけるべきか、考えてみよう。


【1図】(両ノゾキ)
・aとbを狙う、黒1の両ノゾキが目につく。

【2図】(白の反撃)
・しかし、黒1には、白2とこちらをツイでくる。
・黒3から5と切った時に…。

【3図】(ツケ切り)
・白6の反撃を食らうと、黒はまずい。
・黒7と下をハネれば普通だが、ここで白8の切りが好手。


【4図】(黒取られ)
・黒9に白10が決め手。
・続いて、黒aなら白b、黒cなら白aである。
 黒9でbなら白aである。
※1図黒1は失敗する。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、26頁)



【テーマ図3】(黒番・捨て石を使って攻める)
・上辺黒41のケイマに白が42と逃げたところ。
 ここは上辺の白三子と右辺の白の間を割って攻めたいところ。
 ただし、平凡に間を割ればいいのか?
 そこを考えてみよ。

<ポイント>
・ツケオサエ定石 石田(上)336頁

【1図】(手を抜かれる)
・すぐに浮かぶのは、黒1から3の押しだろう。
・しかし、この場合は黒3に手抜きで、白4と整形されそう。
※こうなると、上辺の白四子は好形で、それほど厳しい攻めは利きそうにない。
 問題は右辺であるが…。

【2図】(チャンスを逃した)
・黒5は二目の頭をハネる急所であるが、白6と受けられて、意外にたいしたことはない。
・右下の白は強く、右辺の幅は狭いので、白12、14くらいまでで、ワタられてしまう。
 黒はチャンスを逃した。



【3図】(切り)
・黒1と切る。
 この発想がひらめいた人は鋭い。
 白に変化の余地を与えず、攻めようというのである。
・黒1に白が手抜きをすると、黒aのノビで、三角印の白二子を取り込むことができるから、これは黒の大戦果である。

【4図】(二子にして捨てる)
・黒1の切りには、白2とアテる一手。
・黒3と二子にして捨てるのが手筋。
・白4で二子は取られてしまうが、黒5の切りが黒の読み筋。
 この石が取れるわけではないが…。


【5図】(強烈な攻め)
・白6と逃げた時に、黒7とこちらからアテ、さらに白8にも黒9がアタリ。
※ここで先手を取れることが1図との違い。
・白10に黒11から13と、上辺の白に襲いかかる。
※白は相当に危ない形で、黒成功。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、34頁)

弱い石の連絡に敏感になる


・連絡するかどうかの見極め方であるが、まずは治まっていない2つの石が連絡するのは、とても大きいということを、実感してほしい。
・その逆に、連絡しなくてもいい場合は、どちらか一方、あるいは両方の石が生きている場合である。
 特に両方の石が生きている場合は、連絡する手は無駄になる。
 また、弱い石同士を連絡しようとすると、まとめて危なくなってしまう場合もあるので、注意すること。
・連絡しなくてもいいのに、連絡に手をかけることは、ほとんど1手パスになってしまう。

※連絡は碁の中でもとても大切な要素で、生き死にもからんでくる。
 連絡の基本さえ頭にあれば、さまざまな場面で応用できる。
 ぜひその感覚をつかんでほしい。

【テーマ図2】(黒番・連絡か切りか)
・右上黒21、23は実戦にもよく現れるサバキのテクニック。
・白26のツギに対し、黒Aの連絡か、黒Bの切りか。
 次の一手はどちらを選ぶか?


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、38頁)

【テーマ図3】(黒番・連絡かツギか)
・右上隅で三々定石が出来上がったあと、白が28から動き出してきた局面。
・白28は、この定石後の狙いの一つであるが、黒29、31が正しい応手。
・ただし、白32のアテに対して、しっかり受けなければならない。
※黒は素直にツグか、それとも連絡を図るか。
 ここは重要な分岐点である。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、39頁)
【1~2図】

【3図】

1章 打って良い時悪い時

ツケは強い石を狙え


・ツケは接近戦の中では非常に重要になってくるテクニック。
・ツケの目的はいろいろある。
 自分の石を強化するため
 相手を凝り形にしたりするため
 また、ツケによって相手を封鎖するような時は、ツケてよい場面である

・ツケてはいけない時は、攻めるべき石を強化してしまうような方向が違うツケ。
・むしろ攻めたい石がある時は、その反対側の石にツケていく。
 これをモタレ攻めという。
 実戦でも好手になることが多い。
 攻めたい石に直接ツケるのは、悪手になることが多い。
※今回のテーマ図を参考にして、いろいろな場面で、ツケの良し悪しを見極めてほしい。

【テーマ図2】(黒番・相手を凝らせる)
・黒31のカカリに、白は32とハサんできた。
※ここは黒の作戦の分岐点。
 白は上辺に向けて強い厚みがある。 
 強い石はいくら強くしてもいい。
 そう考えると、次の手がみえてくる。

【2図】
【3図】(正解)
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、45頁)


2章 見分ける力をつける


〇2章は、囲碁では大事な目のつけどころをテーマにしている。
・それは、「石の力を見極める」ということ。
 石には、要となる石がある。その逆に、捨ててもいい石ができることもある。
 また、石は、強くもなるし、弱くなってしまうこともある。
・この石の強弱に直接関係する部分に、石の良い方向と悪い方向がある。
 戦いの中では、その分岐点が必ず何度かあらわれる。
 そして、周囲の自分の石と相手の石の状況を把握して、押す(攻め)か、引く(守り)かを見分ける力がつけば、“碁力”もステップアップである。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、64頁)

要の石を見逃すな


・要石とカス石の見分け方は大切。
・要石とは、助けるか、あるいは取ることによって、石の連絡に関わる石。
 カス石とは、お互いの石の強さには関係のない石で、助けても取られても、周囲にあまり影響のない石のこと。

・本項では、その石がはたして要石なのか、それともカス石なのか、クイズ感覚で挑戦してもらう。
・その判断のさいには、石の眼のあるなしが、一つの大きなポイント。
 例えば、眼のない石同士がその石を取ることで連絡することになれば、それは要石。
 逆に、生きている石から地をふやすだけのヨセのような石は、カス石。
 そのあたりを注意しながら、チャレンジしてみてほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、65頁)


【テーマ図4】(白番・石を捨てる勇気)
・黒が白の形のキズをついて、黒27と出てきたところ。
 白としては、何かあいさつをする必要があるが、ここで急所の一手は白Aとオサえる手だろうか。白Bと緩める手だろうか。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、71頁)

【1図】(バラバラになる)
・黒の出に白1(A)とオサえられてしまうと、黒2と切られる。
・隅の白は9から11でなんとか生きるが、黒12と二間にツメられると、7とトンだ中央の白五子が浮き上がって、一方的に攻められそうである。


≪棋譜≫72頁、2図
【2図】(緩める手が正解)
・白1(B)と緩める手が正解。
・黒2には、白3から5とどんどんノビて、白7までとなる。
・三角印の白二子は、ほとんど取られた格好であるが、これはカス石。
※代わりに、白は三角印の黒一子を制しながら、上辺に20目以上の白地を増やせた。
 白優勢である。


2章 見分ける力をつける

石の強弱を見抜け


・自分の石が強いか弱いかの判断によって、着手は変わってくる。
 簡単に言えば、
強い石=生きている石
 弱い石=生きていない石となる。
※とはいえ、実戦ではその見極めがなかなか難しい。

・相手に一方的に攻められると、ただ逃げるだけのダメ手を何手も打たされ、形勢を損じやすくなる。
 そうならないためにも、相手に攻められる前に、弱い石には備えが必要。

・逆に、自分の石が相手の石よりも強い時には、相手の石を分断して強く攻めることもできる。
 そんな時は穏やかな手よりも、厳しくいく手を選択すべきである。
 強い石はどれか、弱い石はどれか。
 そのあたりを注意したら、自然と判断力もついてくる。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、73頁)

【テーマ図2】(黒番・攻める意識)~中国流の布石より


・白36の三々入りは、黒の星に対する白の常とう手段。
・黒37のオサエは当然であるが、白38のハネに対して黒はAとBのどちらのオサエか?
 それぞれ、その後の進行を考えよ。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、76頁)

2章 見分ける力をつける

戦うべき方向を読む


・石の方向は、ある意味では石の強い弱いに、直接関係する部分だといってしまっても、いいかもしれない。
・追いかけ方ひとつで、相手に楽をさせたり、苦しめることができたりと、展開が大きく変わってくるので、方向の見極め方は、とても大切。
・また、攻めの方向としては、相手を分断して、カラミ攻めを狙うべきところや、自分の石の安全を確かめるためにしっかりと連絡しながら相手を攻める図を紹介している。

・これらは応用が利くテーマ図だと思うので、ぜひ活用してほしいという。
 一局の碁の中では、いい方向と悪い方向への分岐点が必ず何度かある。
 だから実戦では、そんな時に手が止まるかどうかが、ポイントになる。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、81頁)


【テーマ図3】(白番・攻めか守りか)
・黒35とツメてきたところ。
 迫られた右上の白二子はこのまま放置することはできない。
 白Aに打って生きを図るのが賢明か。
 それとも中央の方に打って、逆に黒を攻めることを考えるか?


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、86頁)

【1図】(失敗)入力せよ

【4図】(カラミ攻め)
・正解は白1のトビ。
・続いて、黒2、4には、白5とカケて、三角印の黒二子を攻める。
※黒は三角印の黒をサバいてくるが、白は先手を取って再び右上の黒四子を攻める展開になる。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、86頁~87頁)

2章 見分ける力をつける

押すか引くかを決断せよ


・「押す」とは、攻めを目指して強く打つこと。前に出る手のことをいう。
 反対に、「引く」とは、攻める前に守りを固めること。文字通りに、いったんは後ろに下がる手のことをいう。

・今回のテーマである、「押すか引くか」とは、攻めと守りの両方が考えられるような場面で、はたしてどちらにいくべきかを見分けるものである。
 やはり周囲の力関係によって、定石後の打ち方もさまざまに変わってくるので、そんな時にどう考えて選択するのかを見極めてほしい。
 自分の石もしっかりしていないと、相手の石を攻めることはできない。
 本章で勉強した味方の石は連絡しているのかいないのか、そして強い石なのか弱い石なのか、周囲の状況をよく把握して決断すれば、取り組みやすい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、88頁)

<ポイント>
・自分の石もしっかりしていないと、相手の石を攻めることはできない。

【テーマ図2】(白番・構想を立て直す)~打ち込み対策
・黒33の打ち込みから黒35のスベリは、狙いのある手筋。
・ここで白の次の一手は、白Aのオサエ(押す手)か。白Bと上の線を止める手(引く手)か?

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、91頁)
入力せよ
【1図】
【2図】
【3図】

3章 パンチ力をつける


・3章は、戦いで役立つテクニック(手筋)を紹介している。
 まずは、戦いの基本手筋である、シチョウとゲタ、そしてこの2つの合わせ技。
 本章で一番気をつけてほしいところは、様々な場面で「石の急所」が見つけられるかどうか。
石の急所とは、文字通り石の形の要点。
 形の急所を知ることで、攻めの威力や幅も増していく。
・また、相手の根拠を奪う手筋や、分断するための切断の手筋も覚えていこう。
・テーマ図では、それぞれの場面で気持ちのいいパンチを繰り出せる局面を用意したので、自分ならこの局面でどう打つのかと考えながら、チャレンジしてみよう。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、106頁)

 定石でシチョウを生かす


・「シチョウ」は、基本的な石の取り方であるが、高段者になっても、毎回のように使う大切な手筋。
 特に戦いになると、プロでもシチョウ関係には細心の注意を払う。
・シチョウに慣れるには、簡単な詰碁をやるのがお勧め。
 シチョウ詰碁を盤に並べてみるのも、自然に碁盤に石の形が残る訓練になる。
 頭の中で追いかけている石の残像が、盤上に浮かんでくるようになれば、しめたもの。
・シチョウを覚えたら、次に覚えたいゲタである。
 実戦では、シチョウで取れる石でも、あえてゲタで取る場合もある。
 シチョウには常にシチョウアタリの心配がつきまとうから、憂いのないゲタで取りきっておく方がよいということがよくある。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、107頁)

ゲタシチョウの威力


・ゲタシチョウというのは、ゲタとシチョウを組み合わせた取り方で、著者の造語だという。
・ゲタシチョウは、シチョウの仲間であるが、ゲタからのシチョウのほうがより複雑な読みを必要とする場合が多くなる。
 ゲタにする場所を見つけるのが難しかったり、捨て石を使って相手の石をダンゴにしたりするケースもあり、少し難易度が上がる。

・また、ゲタシチョウに取る手を見つけて相手の石を取ることができる時はいいのだが、反対に、取られそうな時は注意が必要。
 逃げる前にしっかり読むことが大切。
 取られたことに気がつかずに逃げていくと、ドンドン取られる石が増えて大損。
 すぐに皆さんの対局でもお役にたてていただけるだろう。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、119頁)

【テーマ図2】(黒番・カケてシボる)~シボリのテクニック
≪棋譜≫122頁、テーマ図

〇カケてシボるテクニックは痛快。
・右上隅で、星の定石から変化した接近戦が始まっている。
・白の要石は白14、20の二子であるが、この石を取ることができれば、黒大成功。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、122頁)

【1図】(シチョウは不利)
≪棋譜≫122頁、1図

・黒1、3と追いかけるシチョウで取れれば簡単なのだが、これは白4、6と逃げられる。
※左下の三角印の白にぶるかることを確認してほしい。

≪棋譜≫123頁、2~3図

【2図】(ゲタの手筋)
〇シチョウに追えないときは、カケてシボるテクニックを思い出してほしい。
・まず、黒1のカケから入る。
【3図】(シチョウ完成) 白6ツグ(2の右)
・白2のアタリに黒3のアテ返しが手筋。
※この手が一目で浮かぶようになれば、しめたもの。
・白4の抜きに、黒5がアタリ。
・白6とツイだ時に、黒7から9で見事にシチョウが完成した。
※まずはゲタにかけてからシチョウに追い込む。
 その流れがわかってきたであろう。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、122頁~123頁)
<ポイント>
・カケてシボる。星の定石から変化。接近戦

3章 パンチ力をつける

形の急所をつけ


・石の配置が複雑な状態で行われる戦いにおいては、「形の急所」が、打つ手を選ぶ時の方針の一つになる。

・よく、プロが、「ここはこう打つ一手」といういい方をするが、それは手を読んで判断している場合よりも、形の急所を知っていて、それを指摘している場合が多い。

・本項では、格言にもあるように、「二目の頭は見ずハネよ」や、「急所のノゾキ」などにあたる筋を集めてみたという。
 よい形を覚えて、自然に急所に石がいくようになってほしい。
・形の急所を知って、それを実戦で使いこなせたら気持ちがよいはず。
 コツはよい形をたくさん見て感じること、悪い形とも比較して、その差が感じられるようになれば会得したのも同じである。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、126頁)
入力せよ
【テーマ図2】(黒番・急所のノゾキで攻める)
・白28とトンで、上辺の白が中央に進出したところ。
※ここでまた、「形の急所」として覚えてほしいところがある。
・黒は自身の安定を図りながら、白の形を崩してほしい。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、130頁)

【1図】(急所を逃す)
・黒1のシマリは大場だが、白はすかさず白2に打ち、白6までと形を整えてくる。
※上辺の白はすっかり安定した。
 一方、左上の黒五子はまだ眼がなく、次に白aと打たれると、黒は生きるのに四苦八苦。

【2図】(効率が悪い)
・黒1は急所を外しており、白2とカカられた時に、決め手がない。
・黒3には白4とさらに手を抜かれ、黒5と切っても、上辺で三手もかけては、効率が悪い。

【3図】(急所のノゾキ)
・黒1がまさしく形の急所。
※こういう手は読みではなく、形で覚えてしまおう。
 次に黒aと切られては大きいので、白は2やbなどと受けることになるが、黒はそれから黒3のシマリに回るのが、好手順。
➡こうなれば、黒十分の展開。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、130頁~131頁)

弱点をついて根拠を奪え


・眼を取るというと、石を取る、イコール殺すという考えが浮かぶかもしれない。
 しかし、プロの実戦では、相手の石を取って勝つというケースは、意外に多くない。
・プロが考える攻めとは、相手の石の根拠を奪うことによって、その石に逃げてもらうこと。
 そして、弱い石に逃げてもらうことによって、その周囲や全局でポイントを稼ぎ、その効果を勝ちに結びつけようということ。
・今回のテーマ図2では、実戦でもよく出てくる二間ビラキの石の根拠を奪う場面を、ポイントにしてみたという。
 攻撃は最大の防御という言葉もあるが、相手の根拠を奪いながら攻めることが、自軍の石を強化することにもつながるので、その辺りも見てもらいたい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、134頁)

【テーマ図2】(黒番・根拠を奪うテクニック)~二間ビラキの場合
・白26とトンで、上辺の白が頭を出したところだが、この白には弱点がある。
・黒から攻めるとしたら、どこに打つか。
 白の根拠を厳しくエグって、攻める手がある。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、137頁)

【1図】(危険な筋)
・黒1とコスみ、白2に黒3、5と一歩ずつ出ていく手も考えられる。
・白6に黒7と内を切り込む手筋で、外側の白を切り離すことに成功した。
・しかし、この場合は白にも12から16の反撃があり、ダメヅマリの黒も危険。


【2図】(足が遅い)
・黒1とスソからエグるのは白6となって、白の形に余裕がある。

【3図】(コンビネーション)
・黒1、3が形を崩すコンビネーション。
・白4、6には黒5、7と応じて、白の眼を奪うことに成功する。

【4図】(黒成功)
・黒1に白2と下から受ければ、黒3から9まで。
※上下の白を切り離せる。

【5図】(黒に不満あり)
※本図はテーマ図2とは、似て非なる形。
・4図同様に、黒1から白8までとなっても、黒aには白bと出られて、止まらない。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、137頁~138頁)


3章 戦いの勝機は切断にあり(142頁~149頁)

戦いの勝機は切断にあり


・「碁は切断にあり」といった人がいる。
 碁は陣地を囲うゲームであるが、石と石との戦いでもあり、その戦いは石を切ることによって始まることが多いからである。
・本項のテーマ図では、連絡しているように見える相手の弱点をついて分断してしまう打ち方を取り上げた。
 石を切るというのは簡単なことのようであるが、相手もそれなりに注意して守っていることがほとんどであるから、時にはテクニックが必要。
・まず、相手の連絡に不備があるのかどうか、そこを見極めることができるかどうかが、大きなポイント。
 単純な切りではなく、手筋を使うときにはある程度先を読む力も必要になってくるので、その辺りも注意してほしい。



攻めの着点をさがせ


・本項のテーマ図は、著者や著者の息子、娘の実戦から題材を取り上げたという。
・いずれのテーマ図も、やや局面が広くて難しい感じを受けるかもしれないが、難しいと思った人はまず正解手を見て、雰囲気をつかんでほしいとする。

・一口に攻めの急所といっても、大きな攻めや、部分的な攻めなど、いろいろあるが、今回は次の3つのパターンを用意したという。
①包囲する攻めの急所
②弱点を補いながらの攻め
③肺ふをえぐるような攻め

・実戦では、周囲の力関係の見極めができて、初めて攻めの着点が決まる。
 失敗図との比較で違いがわかると思うので、その差を感じながら、このような手もあるのだなあと感じてもらい、正しい感覚を身につける力になれば、幸いであるという。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、150頁)

【テーマ図1】(白番・壁を攻める着想)~著者の実戦から
・著者の実戦から取り上げた。
・黒は右上に厚みを築いたようだが、この厚みは本物とはいえない。
 白としては、この壁をそっくりそのまま攻める構想を立てたいところ。
≪棋譜≫150頁、テーマ図

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、150頁)

≪棋譜≫151頁、1図

【1図】(網を破られる)

・白1からaの切断を狙うのは、やや疑問。
・黒2のブツカリで守られると、次に黒bのハネやcの反撃などを狙われ、白のほうが持て余す。
※白1では次の狙いがなく、黒への攻めとしては中途半端。

≪棋譜≫152頁、3図

【3図】(敵の急所はわが急所)
・この場合、白1と打つのが、絶好の攻め。
・黒2のケイマなら、さらに白3とカケが、ぴったりした手になる。

≪棋譜≫152頁、5図

【5図】(白十分)
・1図のように、黒1のブツカリなら、白2とかぶせる。
・黒3とハネるくらいだが、黒を内側に封鎖して、攻めの効果は十分。
・右上の攻めはこれで満足して、白4のカケから白20までとなれば、白の手広い局面になった。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、150頁~152頁)

4章 攻めを生む防御力


・4章は、「攻められた時にどう受けるか」がテーマ。
 攻めと守りは表裏一体のもの。
 碁は碁盤全体に常時攻めと守りの機会が織り交ざっているので、細かい注意が必要。
・自分がどう打つかということだけではなく、相手はどうくるだろうかと予測することも、大切な要素。

・守ることは力をためることでもある。
 正しく守っている石からは厳しく攻めることができる。
 また、守るだけでなく、時には石を捨てることで、有利な状況を作り出すこともできる。
・感覚として、守りの呼吸をつかんでほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、172頁)

弱い石を作るな


・本項のテーマは、「弱い石を作らない」
・弱い石とは何だろうか?
 基本的には、眼がなく、攻められる可能性のある石のことである。
 自分の石が強いのか弱いのかを判断することが、まず最初の一歩。
 自分の石が強ければ手抜きしてもよいのだが、弱いと判断した場合にどう手入れするのかが、大事なポイントになる。
 手の入れ方にもいろいろあるが、なぜそこを守るのかということを考えてほしい。

・「弱い石から動け」という格言がある。
 これは弱い石を強化するためには、そこから動けということを表している。

・相手の石を攻めるためには、まず自分の石を攻められないようにするバランスが大切なので、そこに注意してほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、173頁)
【テーマ図2】(黒番・弱い石から動け)
・白1と、右辺をツメてきたところ。
※この手は白の陣地を広げると同時に、ある狙いを持っている。
 黒は右辺の白地を大きいとみて、消しにいくか。それとも何かほかの手を打つか。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、176頁)
入力せよ
【1図】
【2~3図】
【4~5図】
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、176頁~178頁)

4章 攻めを生む防御力

封鎖をされるな


・本項のテーマは、「封鎖をされない」である。
・相手に封鎖されてしまうと、その石の生き死にを心配しなくてはいけなくなる。
・封鎖をされても、死ななければいい? いえ、そうではない。
 多くの場合、無理に生きるためにもがくことは、周囲にさまざまな悪影響を与える。
 だから、眼のない石は中央の広い方に頭を出していくというのが基本。
・今回は、少し方向を間違えてしまうと、相手に封鎖されて苦しくなってしまうケースを集めてみたという。
 封鎖をされる寸前の状態とは、どのようなものかを見極めてほしい。
・なんとなく危機感がない状態でも、相手に打たれると急に脱出できなくなることは、多々あるので、あらかじめ察知する感覚が重要。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、182頁)


【テーマ図2】(黒番・逃げる時は広いほうへ)
・白1とツイだところ。
・黒には2つの懸案がある。
 1つは左上の黒が生きているのかということ。
 もう1つは上辺の黒の安定度。
 この2つを考えて、次の手を選んでほしい。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、185頁)

入力せよ
【1~3図】
【5図】
【6図】
【7図】

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、185頁~188頁)

 捨て石で大胆に動け


・囲碁を始めたときに、誰でも最初に考えるであろうことが、「相手の石を取りたい」ということ。
 石を取ったら有利、取られたら不利と思いがち。
・ところが、上達してくるにしたがって、いらない石は捨てるという考え方を身につけるようになる。
 強くなることで、より大切な石を重視できるようになるということ。
・捨てるべき石は小さいうちに捨てるのがよく、そして、捨ててもいい石とそうでない石の見極めも大事なポイント。
 助けると重くなってしまい、全体を攻められてしまうような時には、早く見切りをつけ、小さいうちに捨て石として活用すべきである。
 助けて重くなった図と、捨てて可能性を広げる打ち方との差を感じてほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、189頁)


【テーマ図3】(黒番・捨て石の連続技)
・白1とノゾいてきたところ。
※この手は黒一子を切り離そうとしているだけではなく、黒三子をまとめて攻める狙いを持っている。
 黒は大胆な構想で、白の狙いを逆用してほしい。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、195頁)
入力せよ
【1図】
【2~3図】

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、195頁~196頁)

手入れで力をためろ


・手入れとは、危険な部分や弱い部分を前もって補強しておく手のこと。
実際に戦いを始める前に、1回力をためる、それが手入れ。
・手入れについては、それが本当に必要なのかどうか、そして必要だとすれば、どう手を戻すのかがポイント。
 本項は、全体的に布石の段階での手入れが、必要な場面を用意したそうだ。

・実戦では、戦いの最中に手を入れるというのは、スピードで遅れてしまうような気がして打ちにくいものである。
 しかし、相手からの攻めが厳しい場合は、きちんと備えておくことが、後から強い反撃に出られることにつながる。
 攻める前には、多少の我慢が必要なこともあろう。

・ある程度読みの力も必要になってくるが、この感覚を身につけてほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、197頁)

【テーマ図1】(白番・万全な形で戦いを待つ)~トビマガリ対策
・黒1と白二子に狙いをつけてきたところ。
※左辺の白が弱い石であることはわかるだろう。
 そこで、手を入れるとしたら、どう形を整えるのがいいか、考えよ。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、197頁)
入力せよ
【1~2図】
【3図】
【4図】


<ポイント>
aトビ、bツケコシ、c両ノゾキ 
 反撃狙い スソから攻め、石の強弱の変化(頁)


入力せよ
コラム

5章 戦闘力をみがく


・最終章は、「戦いを楽しむ」というテーマで、攻める力の総仕上げ。
 テーマ図では、実戦に現れそうなさまざまな場面を用意したという。
 戦いの醍醐味の1つに仕掛けのタイミングがある。
 主導権を握ることのできる局面を見極め、また、相手の弱点をつき、よい攻めの方法を見つけてほしい。
・今までやってきたことの総まとめとして、とらえてもらえればありがたい。
 攻めが必要な時は攻め、守りが必要な時は備えという判断を常に正しくしてもらいたい。
 この1冊をマスターすれば、戦いの“碁力”も、ジャンプアップしていることだろう。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、214頁)

弱い石の狙い方


・本項のテーマは、「弱い石を見つける」
・根拠のない石が弱い石だから、実戦では、相手の石が強いのか、弱いのかを判断できるようになることが、まずは大切な第一歩。
・そして、布石の段階からどのように相手の弱い石を見つけるのか、また見つけたらどう攻めるのかが、次のポイント。
 その際の判断材料としては、周囲にあるお互いの石の強弱や力関係の見極めなど、ここまで本書で学んできたことが、判断をする際のベースになる。
・また、相手の立場になって、次にどう打ちたいかを考えてみるのも、着手を決める大きなヒントになるかもしれない。
 次の一手で石の強弱が変わる、その一歩手前の状態を敏感に察知することが大事。
 チャレンジしてみてほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、215頁)

攻めるは守りなり
【テーマ図1】(黒番・攻めるは守りなり)
・白1と左辺を守ったところ。
※白には弱そうな石が二つあるが、本当に弱い石はどれだろうか。
 具体的には、A、B、C。あなたなら、どちらに目をつけるか?




(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、215頁)
入力せよ
【1図】
【2図】
【4図】
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、215頁~217頁)

間合いを図って切れ


・本項のテーマは、「石を切って攻める」。
 石を切るのは、戦いに持ち込むための大切な手段であるが、時と場合に応じていろいろなケースがある。
 本項では、断点を直接切るという部分的な話ではなく、大きな戦いとして石を分断して攻めるということを考えてみよう。

・テーマ図は2つだが、どちらも布石が終わって、中盤の入り口という局面、どこから戦端を開くかを、考えてほしい場面を用意したという。
・正解の仕掛けに気がつくかどうかは、まず周りの石の強弱の判断と読みが大切。
 味方の石が強い時は厳しく切り込んでいく手も成立するし、そうでない時は無理な仕掛けにならないように自重すべきで、そのバランスに注意することが大切。
 線を切って攻める呼吸を感じてほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、223頁)


【テーマ図1】(黒番・線を切って戦う)~著者の実戦より
・著者の実戦で、白1とトンできたところ。
 白1は左辺と右上の黒模様を意識した手であるが、少々危険な意味もある。
 黒は積極的に戦いに持ち込んでほしい。
≪棋譜≫223頁、テーマ図

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、223頁)

≪棋譜≫227頁、4~8図

【4図】(線を切る)
・著者が実戦で打ったのは、黒1の打ち込み。
・白2の押しには、黒3のノゾキを利かして、白4のツギに黒5。
・白6にも黒7とコスミ出して、まずは上辺の白のラインを切ることに成功。


【5図】(実戦)
〇実戦の進行をご覧いただこう。
・白は8にツケてサバキを狙う。
・黒9、11に白12とアテ返して、白14とアテるのは形作りの手筋であるが、この場面が黒にとってのチャンス。


【6図】(実戦続き1)
・5図白14のアテに、なんと著者は黒15と切って、大きなコウを仕掛けた。
・普通なら天下コウと言われるほど大きなコウで、黒が無理な打ち方であるが、この碁では、黒17のコウダテが利くのが、黒の自慢。


【7図】(実戦続き2)
・黒19とコウを取り返せば、今度は白にコウダテがないので、黒はこのコウに勝つことができる。
・白は20のツケをコウダテにしたが、黒はかまわず、黒21とコウを解消してしまう。

【8図】(実戦続き3)
※黒がコウを解消し、白は左上の黒二子を取り込んで、大きなフリカワリになったが、右上の黒地が大きくなり、黒に不満がない。
・黒25までの進行は、黒の積極策が成功したといえる。



(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、223頁~227頁)



【テーマ図2】(黒番・切りのテクニック)
・白1とハッて、三角印の白と連絡しているつもりのようだが、本当にそうだろうか?
 白の甘い読みをとがめる強手を出して、有利に戦いを始めてほしい。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、228頁)

【1図】(これなら一局)
・本来なら、白は1のトビが無難だった。
・これなら、黒も2のコスミツケを利かすくらい。
・白も3とハネ一本から白5のコスミツケを利かし、白7のトビに回れば、一応シノいでいる格好。


【2図】(平凡)
・黒1とハネるのは、白aのマゲもあるが、仮に白2のコスミツケでも、単に黒3とノビたのと同じことになる。


【3図】(外切り)
・続いて、黒1には白2、4とポン抜き、黒3、5と打てば、白aには符号順に黒hと石塔シボリの筋で、攻め合い勝ちで、三角印の白二子は取れるが、ポン抜きの損が大きく、黒不満。

【4図】(内切り)
・黒1も白2から6(aも有力)までと生きられ、三角印の白は切り離したが、白b、黒c、白dの味も残って、黒不満。


【5図】(鮮やかな切断)
・黒の正解は、1のケイマ。
※切断の筋はこれが最善。
・黒1に白2なら、黒3とブツカリ、白4には黒5とハッて、完全に白を分断している。
※切って攻めるという目標は、完全に達成した。



【6図】(これも切断)
・黒1のケイマに、白2のオサエなら、黒3と一回押してから、黒5とサガリ。
・白6のワリ込みなら、黒7、9でやはり、きれいに白を分断している。
※黒1のケイマが切断の急所だった。










(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、228頁~230頁)

包囲網を広く敷け


・本項のテーマは、「包囲して攻める」。
・包囲というのは、文字通り包み込んで攻めること。
 地図を見るような感覚で碁盤を見て、広い視野でとらえる攻めの呼吸を感じてほしい。
・本項では、壁を攻めることも考える。
 包囲しての壁攻めと、包囲してカラミ攻めというケースを示したが、実戦ではまったく同じ局面ができるというわけではないので、石の流れを感じて、その感覚をいろいろな局面で応用してほしい。

・周囲の味方の石がしっかりしていることを確認して、包み込んで攻めるというのがどういうことなのか、出来上がった図の雰囲気をみて、「なるほど」と思ってもらえれば十分である。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、232頁)

【テーマ図1】(黒番・壁を重くして攻める)~壁を包囲する攻め
・上辺に白の壁があるが、この壁は厚みと呼ぶには、ちょっと頼りない形をしている。
 黒としては、この壁を攻めてしまいたい。
 それには、まずこの壁を重い形にすることを考える。




(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、232頁)
<ポイント>
・ノゾキが急所の攻め
・二間の薄みをつく(234頁)

入力せよ
【3図】
【4~5図】

根拠を奪う攻め


・最後は、「根拠を脅かす」がテーマ。
 まずは、相手の石の根拠を奪い、完全には生きていない状況に追い込むことで、攻めをより厳しくすることができる。
・根拠を奪うための最初のポイントは、相手の守りの不備を見つけることができるかどうか。
 相手の弱い形に対して敏感になるほど、チャンスをものにする可能性も高くなる。
・「このような形ではこのような攻め方がある」
 この呼吸を覚えてもらえば、実戦でも必ず応用が利くようになる。

・根拠を奪う攻めだけではなく、戦い全体に通じることだが、相手の形を見ただけで、その弱点がピンとくるようになってもらえば、本当にありがたいという。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、238頁)


【テーマ図1】(黒番・急所はどこか)~本手も必要
・上辺の白が黒に包囲されているが、白はこの石は大丈夫とみて、下辺を囲ってきた。
 しかし、本当にこの白は大丈夫なのだろうか。
 白の安易な判断をとがめてほしい。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、238頁)

入力せよ
【1図】(本手)
【2~3図】
【4図】
【5図】

【6図】(カド)

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、238頁~241頁)

【補足】石の強弱に注意~山下敬吾『基本手筋事典』より


第4章 形を崩す 第5型 
【第4章 形を崩す 第5型(黒番)】
・形を崩すのと形を整えることは、表裏の関係にある。
 黒が急所を衝くか、白が守るか。
 一手の差で石の強弱が入れ替わる。
※原図は「活碁新評」所載

≪棋譜≫117頁、問題図


≪棋譜≫117頁、1図

【1図】(正解)
・黒1のノゾキが、白の断点をねらった、形を崩す手筋。
・白2と守れば、黒3とトンで、攻めの態勢が整う。
※白は眼形を失い、弱い石になる。
※白番なら、1と守るのが、相場。
 一手の価値があり、強い石となる。

≪棋譜≫117頁、2図

【2図】(変化)
・黒1に白2が手強い抵抗手段だが、この場合は黒3のサガリが強手。
※黒aの躍り出しとbのツケが見合い。
黒bのツケに白cのツギなら、黒dの切りが成立。
 攻め合いは白が勝てない。

≪棋譜≫117頁、3図

【3図】
・白が1図のように攻められるのを嫌うなら、白2のツケも考えられる。
・黒は3のハネ出しから、手順に9まで手厚く封鎖して十分の形。
※なお、黒3で6の下ハネは、白5とノビられて、生きても大損。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、117頁)

【補足】ツケギリと両にらみ~藤沢秀行『基本手筋事典』より


 藤沢秀行氏は、『手筋事典』において、両にらみの手筋について、次のように述べている。また、ツケギリの棋譜として、興味深い対局を載せている。

<両にらみの手筋について>
・碁の一手一手は、広い意味での両にらみといっていいかもしれない。
 そのなかでも、一般的な手筋は、「左右同形、中央に手あり」であり、また、両ガラミ、モタレなども、本来なら作戦的な構想だが、やはりこの手筋の一変形と見られる。
・両にらみとは、一つずつ追求しても成功しない相手の弱点を、一度に二つ以上にらんで、一方を実現しようというものである。
 ただし、相手にも両シノギの手筋が伏在しているばあいもあり、慎重を要する。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、170頁)
〇そして、カラミ、モタレ、左右同形について、次のような図を掲載している。
【4図】(カラミ)
・黒1と躍り出して左右の攻めを見る。
※これが典型的な両ガラミの形であり、両方の白が無事生還するためには、長期間の苦労が必要だろう。
※黒1でa、白b、黒c、白dなどと、一方をせっせと追って、さきに損をしてからでは、攻めに威力がない。
≪棋譜≫171頁、4図


【5図】(モタレ)
・黒1、3とモタレかかって、aのキリとbのオサエを両にらみにする。
※黒1でbやcなどと露骨に追い、白に脱出のめどがついてからでは、遅いのである。
※原理は両ガラミと同じだが、モタレの方は相手に弱点を作りにいく、仕掛けの手筋である。
≪棋譜≫171頁、5図


【7図】(左右同形)
・白1は、左右同形中央に手あり、の典型。
・aとbのハネの両にらみである。
・したがって、黒はcとアテ、白d、黒eなどとカケツいで、外部脱出を考えるくらいのものだろう。
※この形は、中国古典『官子譜』にも採録された著名な手筋でもある。
≪棋譜≫171頁、7図

(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、171頁)

<ツケギリの実戦譜>
【ツケギリ】
・両にらみの筋を拡大解釈すれば、両ガラミの筋となり、モタレの筋となる。
 より全局的な手筋の運用といえるだろう。

【参考譜26】
≪棋譜≫参考譜26、186頁

第15期NHK杯戦決勝
 白 橋本昌二
 黒 大竹英雄
・黒1とアオリ、白2と逃がしてから、3、5のツケギリで上下をカラミに持ち込んだ。
※黒の配石はすべて働き、ここから局面の主導権を得る。

≪棋譜≫参考図1、186頁

【参考図1】(実戦)
・参考譜に続いて、白1、3はマクリツギの筋だが、黒は形が悪くとも上下を切断して攻めれば、必ずどこかに利が残る。
・白9でaからシボッても、意味がない。

≪棋譜≫参考図2、186頁

【参考図2】(サバキの筋)

・白は前図5で1以下の交換をすませておけば、5のツギから11とオサえる筋に結び付けることができる。
※とはいえ、黒は2で7とノビキリ、上辺の攻めをさきにするからこうはならず、やはり苦しい戦いだ。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、186頁)

【補足】中野寛也氏の実戦譜~片岡聡『布石 これだけはいけない』より


・次の著作の「第4章 石の方向の流れ」の「気合というもの<研究局12>」(196頁~205頁)において、中野寛也氏の実戦譜が載っている。
〇片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]

【研究局12】
 黒 片岡聡
 白 中野寛也
・タスキ小目から、ひと隅を黒5とシマリ。
・白は両三々から白6のカカリ。
・黒7で打つ手はいくらでもあるが、このカカリは一種の工夫。
・白8のカケから12までは、こちらの注文の拒否。
※注文通り打って悪いというのではなく、拒否したい気分になった、ということ。
 また、こちらの趣向に対し、趣向し返したいという反発もあったかもしれないという。
・黒13に当然ながら、白も14と反発してきた。
・黒15、17は必然。
・白18のアテを利かされても、この形は隅の白がまだ生きていないのが、黒の自慢。
・白20、22で間に合わせ、やむなく白は24のスベリ。
・黒25とトンで、少なくとも黒互角以上の戦い。

※白12の次の一手をテーマ図としている。
 実戦は、手抜きを咎める黒13と打った。
 打つ場所は、下辺、それも右下隅しか考えられない場面。
 黒7に手を抜いた白の趣向に対し、それを咎めるには、黒13に限る、と著者は解説している。

≪棋譜≫196頁、片岡VS中野

〇変化図として、参考となる図を紹介しておこう。

≪棋譜≫201頁、3図

【3図】(これだけはいけない)
※黒13で、黒1と打つのは、いけない。
 下辺から目をそらすのだけは、いけない。
・黒1、3は大場ではあっても、完全なソッポ。
・白4と受けられると、最初の黒の趣向、三角印の黒が悪手になってしまう。

≪棋譜≫203頁、7図

【7図】(シチョウ)
※黒13で黒1のケイマでも、いけない。
・白2に黒3とオサえられなければ、黒不満。
・しかし、白4と切られて困る。
・黒5、7で黒aのとき、見合えればいいのだが、白8とワタられ、黒aのシチョウが成立しない。

≪棋譜≫203頁、8図

【8図】(白やれる戦い)
・ということで、白のツケ切りに対しては、黒1とノビ、戦っていかざるを得ない。
・しかし、隅の白はすでに生きており、白4にノビられては、実戦とくらべても、黒の苦しい戦い。

≪棋譜≫205頁、10図

【10図】黒6コウ取る(1の右)
・実戦の白18でこの白1のカカエのとき、黒2の切り返しは、ひとつの手筋。
・しかし、このケースでは、白5と切られて、黒が持て余す。
※捨てるには、三角印の黒は大きい。
 手筋も、時と場所をわきまえるべきである。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、196頁~205頁)