歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の布石~小林覚氏の場合≫

2024-12-22 18:00:26 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~小林覚氏の場合≫
(2024年12月22日)
 

【はじめに】


 今回も引き続き、囲碁の布石について、次の著作を参考にして、考えてみたい。
〇小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年
 著者の小林覚九段といえば、先日のNHK杯の解説者をつとめておられた。
 芝野虎丸九段と羽根直樹九段の対局前の紹介において、「殺し屋とシノギの名手」との評をされていた。
 加えて、芝野九段、羽根九段そして司会の安田明夏さんが囲碁普及に努めておられる姿勢を高く評価されていた。
 何を隠そう、小林覚九段といえば、日本棋院の前理事長という要職にあった棋士である。(現在は、武宮正樹九段の息子さんが理事長に就かれたようであるが)
 今回紹介する布石の本や、他の著作を見る限り、やはり小林覚九段自身、囲碁の普及に尽力された自負のようなものが感じられる。このことは、次のような「はじめてのシリーズ」の著作を拝読しても、思う。
・『はじめての基本手筋』(棋苑図書)
・『はじめての基本定石』(棋苑図書)
・『はじめての基本死活』(棋苑図書)
 
 本書の場合においても、初心者にもわかりやすく解説しようという姿勢がその文章表現からも感じられる。例えば、次のような記述が見られる。

「大場より急場。大場よりも拠点」
 囲碁格言である。
 どんな大場があろうとも、拠点作りのほうが大事。拠点の大事を教えてくれる格言。
 拠点は雨や風から身を守ってくれる自分の家のようなもの。
 ジプシーは夢としては楽しいでしょうが、現実はきびしいはず。
 晴れた日のピクニックとはわけがちがう。
 碁においても同じ。拠点のない石は根なし草、ジプシーを強制される。(96頁)

「孤立無援の戦い」
 自分の信念をまげず、一人だけで戦うのは映画などでは美しい世界。
 しかし、碁においては無謀の世界。碁においては、そんなヒーローは生まれない。
 有利な場所で有利に戦いを進めていってこそ、有利な態勢に持ち込める。
 「有利な場所で戦おう」
 これは碁の戦いにおける大鉄則。(126頁)

 今回は、氏の布石に関する著作に限って、紹介させていただく。


【小林覚(こばやし さとる)氏のプロフィール】
・昭和34年、長野で生まれる。
・昭和41年、木谷実九段に入門。昭和49年入段、昭和62年九段。
・昭和55、56年第4、5期留園杯連続優勝。
・昭和57年第13期新鋭戦優勝。
・昭和62年第2期NEC俊英戦優勝。
・平成2年第3期IBM杯優勝。
・平成2年第15から17期まで、三期連続で小林光一碁聖に挑戦。
・平成6年第19期棋聖戦九段戦優勝。
・平成7年第19期棋聖戦七番勝負で趙治勲棋聖に挑戦。四勝二敗で破り、棋聖位を奪取。
・同年第42回NHK杯戦初優勝。同年第20期碁聖位。
・平成8年第5期竜星戦優勝。

※兄弟は四人とも棋士。小林千寿五段、健二六段、隆之準棋士二段、姉弟の末弟。
<著書>
・『初段の壁を破る発想転換法』(棋苑図書ブックス)
・『はじめての基本手筋』(棋苑図書基本双書)
・『はじめての基本定石』(棋苑図書基本双書)
・『はじめての基本死活』(棋苑図書基本双書)
(機会があれば、今後、これらの著作についても紹介してみたい)





本書の目次は次のようになっている。
【もくじ】
はじめに
第1章 十九路盤布石の基本知識
 1 九路盤と十九路盤のちがい
 2 上級者の十九路盤布石
 3 布石の順番原則
 4 隅の打ちかた
 5 シマリとカカリ

第2章 ヒラキの基本知識
 1 ヒラキの基本は二間と三間
 2 第三線と第四線
 3 二間と三間はちがう
 4 二立三析
 5 大場
 6 割り打ち
 7 割り打ちの例外
 8 拠点の急所・急場
 復習問題
 練習問題1~3

第3章 ヒラキの考えかたの基本
 1 基本定石に学ぶヒラキの基本
  <小目のツケヒキ基本定石><星の三間バサミ基本定石><星の一間トビ基本定石>
 2 目的のちがう二つのヒラキ
 3 拠点確保のヒラキ
  アマの実戦例1~4
 4 陣地拡大のヒラキ
  練習問題1~3

第4章 有利な場所で戦おう
 1 有利な場所とは?
  アマの実戦例1~2
 2 コスミツケの善悪を覚えよう
  アマの実戦例1~2
 3 有利に戦う二つの目のつけどころ
  アマの実戦例1~3
  練習問題1~2

第5章 有利に戦う二つの急所
 1 有利に戦う二つの急所
 2 連絡と切断の急所
  アマの実戦例1~5
 3 石の強弱を判断しよう
  アマの実戦例1~3
 4 拠点の急所
  アマの実戦例1~3
  練習問題1~2

本書のまとめ




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・第1章 十九路盤布石の基本知識
・第2章 二間ビラキ
・第2章 二立三析~小目のツケヒキ基本定石と二立三析
・第3章 基本定石に学ぶヒラキの基本
<小目のツケヒキ基本定石>
<星の一間トビ基本定石>
<星の三間バサミ基本定石>
・第3章 3拠点確保のヒラキ
・第4章 有利な場所で戦おう
・第5章 有利に戦う二つの急所
・第5章 本書のまとめ
・【補足】小林覚氏の実戦譜(vs武宮正樹)~依田紀基『基本布石事典 上』より
・【補足】小林覚氏の実戦譜(vs趙治勲)~依田紀基『基本布石事典 下』より





第1章 十九路盤布石の基本知識 


【1 九路盤と十九路盤のちがい】
・本書は入門や九路盤を早く卒業したいと考えている人、中級の仲間入りをしたけれど、まだ本格的な布石の勉強をしたことがない人、こんな実力の人が、どうすれば上級の仲間入りをできるのか。
 本書はこのテーマに添って書いた布石の手引書であるという。

・九路盤で実戦を楽しんでいた人は、はじめて十九路盤を体験すると、途方もなく盤上が広がって、どこに打ってよいのか、とまどってしまうのがふつうである。
 また、九路盤は、入門者であろうと、アマ有段者であろうと、プロが打とうが、誰が打っても、すぐ中盤の戦いになったり、終盤になる。

・ところが、十九路盤は広い。九路盤のように、いきなり立ちあがり早々、相手の石が接近したり、接触したりしない。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、10頁~11頁)

【2 上級者の十九路盤布石】
・入門したばかりのとき、九路盤でもどこに打ってよいのかわからなくて、頭がクラクラした経験があるはず。
 でも、案ずるより生むがやすし。
 思いきって実際に打っているうちに、だんだん何となくわかってくる。
 十九路盤布石も、やっぱり同じ。
 実際に自分の指で盤上に石を置く回数がふえるにしたがって、だんだん理解が深まる。
・大人はみな、結果や筋道を考えてから、行動を起こす。
 年少者はまず打ってみる。
 碁の場合は、あまり理屈や筋道ばかりを考えても、結論が出ないゲーム。
 したがって、わからないなりに実際に打つのが、上達の早道であるという。
 実際に打って、指先で覚える。それが早く上達するポイントだとする。

<上級者の布石>1~3図(1-13)
・みなさんも上達すれば、こんな布石が打てるようになる。

(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、12頁~13頁)

【3 布石の順番原則】
・碁は序盤(布石)、中盤、終盤を経て、結局、終局に至り、勝ち負けが決定する。
 序盤、中盤、終盤のうち、本書のテーマは序盤、すなわち布石である。
 布石は、人間の成長過程でいえば、しっかりした骨組の身体作りの段階。
 その出来ぐあいによって、大人になってからの健康度やがんばりかたに影響が出る。
・布石を打つ順番は、つぎのような原則がある。
 「<1>隅の先着。<2>隅のシマリとカカリ。<3>辺のヒラキ。<4>中央への展開。」
・隅➡辺➡中央の順番で打つ理由
 9目の陣地を囲うのに、隅は六個、辺は九個、中央は十二個である。
 隅は石数が一番少なく効率よく陣地を囲えるのがわかる。
 これが隅から打ち始める理由である。
≪棋譜≫(17頁6図)
 (小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、14頁~17頁)

【4 隅の打ちかた】
・実戦で一番よく打たれるのが、星と小目。
 この二つが隅の先着法の基本形で、プロもアマも同じように愛用している。
・その他に、高目、目はずし、三々がある。
※以上、5種類の隅の先着法があるが、星と小目が基本形。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、18頁~19頁)

【5 シマリとカカリ】
・隅に先着したあと、もう一手打って隅を固めるのを、シマリという。
①隅の先着
②シマリとカカリ
 隅を固めるシマリは布石の立ちあがり早々に打つのがふつう。
 隅のシマリが大きい。となれば、そのシマリを妨害するカカリもまた大きい。
 シマリとカカリは同じ価値がある。
・シマリには、小ゲイマジマリ、一間ジマリ、大ゲイマジマリなどがある。
・カカリには、小ゲイマガカリ、一間高ガカリなどがある。
※小目、高目、目はずしは、もう一手かけてシマれば、隅が陣地として固まる。
 ところが、星の場合は、隅の陣地が固まらない。
 三手かけて、ようやく隅は陣地確定。隅を確保しにくいという短所のかわり、辺に早く展開できるという長所がある。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、20頁~24頁)

第2章 二間ビラキ


【二間と三間はちがう】
・二間ビラキは確実に連絡。
・三間ビラキは敵が間に入ってくる余地を残している。
➡二間ビラキと三間ビラキは、こんなちがいがある。
 このちがいを認識するのが大事。
 
【2図】(二間ビラキ:切断は無理)
・二間ビラキの切断は無理。
※ほぼ確実に連絡しているのが、二間ビラキの長所。
・たとえば、黒1、3と切断しようとしても、白4、6。
➡黒石を取ることができる。

【3図】(三間ビラキ:切断される可能性あり)
・三間ビラキは黒1と間に入ってこられる。
・一応、切断される可能性があるのが、三間ビラキ。
※白はaとか、bとか戦うことになる。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、32頁~33頁)

第2章 二立三析


二立三析(にりつさんせき)は、ヒラキの基本形を教えてくれる囲碁用語のひとつである。
二立とは二つ立った形。三析とは三間ビラキのことである。

二立三析のヒラキの形はどのようなものか?
【小目のツケヒキ基本定石と二立三析】
≪棋譜≫(36頁の1図、2図)
棋譜再生
・黒(16三)の小目から、黒1と相手の石にツケて3とヒク形からできる変化を、ツケヒキ定石と呼ぶ。
※プロアマを問わず、実戦で一番多く打たれる定石である。
・黒5のとき、白6と三間にヒラいて、定石は一段落する。
※白2(17六)と白4(16六)が「二立」の形である。そして白6の三間ビラキが「三析」。
 この白の形を二立三析という。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、36頁~37頁)

第3章 基本定石に学ぶヒラキの基本


1 基本定石に学ぶヒラキの基本
二間と三間はヒラキの基本形である。
一体、どこまでヒラけるのか。なぜ、二間だったり三間だったりするのか。
ヒラキの基本を理解するのは大切である。

そこで、基本定石ではどんなヒラキかたをするのか。
基本定石を通して、ヒラキの基本を紹介しておく。

小目のツケヒキ基本定石


【小目のツケヒキ基本定石:堅ツギの二立三析の場合】
≪棋譜≫(76頁の1図、2図)
棋譜再生
・黒(16三)の小目から、黒1、3をツケヒキ定石と呼んでいる。
・つぎに白A(16六、白2の左)の堅ツギか、白B(16七)のカケツギか。
・ついで、白4の堅ツギの場合、白6の三間ビラキして、定石が一段落する。ここは、「二立三析」で、三間ビラキがヒラキの基本形である。
(なお、白C(16十、白6の左)の三間ビラキでもよい)

【二立三析の連絡の証明】
≪棋譜≫(77頁の3図、4図)
棋譜再生
☆二立の場合、三間ビラキが正しいのは、黒1と間を割ってきても白2で連絡しているからである。

※白の「二立」(二つの白石が中央に向かって並んでいる)のとき、白のヒラキは、「三析」(三間ビラキ)が基本形である。三間ビラキしても連係、連絡をしっかり確保しているからである。

【小目のツケヒキ基本定石:カケツギの場合】
≪棋譜≫(79頁の9図)
棋譜再生
・白1のカケツギも基本定石の一型である。
 この場合は、白3までヒラける。
 白1と白3の二子の形を大々ゲイマという。大々ゲイマは連絡形である。

【カケツギの場合の連絡の証明】
≪棋譜≫(79頁の10図)
棋譜再生
・黒1は白2で連絡確保である。

ただし、敵が接近してくると事情がかわる。
【黒が迫ってきた場合】
≪棋譜≫(80頁の12図)
棋譜再生
・黒が迫ってくると、事情がかわる。こんどは黒からの打ち込みが成立する。
・白としては、2とトンで守ることになる。
※白2と絶対に守る必要はなく、ほかに打ちたいところがあれば、白2を手抜きすればよい。ただ、黒の打ち込みが成立する。
【黒の打ち込みが成立】
≪棋譜≫(81頁の13図、14図、15図)
棋譜再生
・そのときは、黒1の打ち込みが成立する。黒1は急所である。白は黒1を覚悟しさえすればよい。
・白2、4には黒5である。
・ついで、白6は黒7、9である。黒9まで拠点をエグられるのは痛い。
※相手が接近してきたときは、前図白2の守りは常に好手になる。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、76頁~81頁)

星の一間トビ基本定石


【星の一間トビ基本定石】
≪棋譜≫(82頁の1図、2図)
棋譜再生
・星に対するカカリは白1が基本形である。
・黒2を一間受けとか、一間トビとかいう。
※黒2からできる定石を「星の一間トビ定石」とか「一間受け定石」とか呼ぶ。
(黒2とA(14三、黒2の一路下)は、実戦ではしばしば打たれる定石である)
・白3、黒4のあと、白5の二間ビラキで一段落である。
※先のツケヒキ基本定石の場合、三間ビラキが基本のヒラキであるが、星の一間トビ基本定石の場合、白1と一子なので二間ビラキが基本形になる。

ところが、三間ビラキは間を割られてしまう。
【三間ビラキの場合は間を割られる】
≪棋譜≫(83頁の3図)
棋譜再生
・白1の三間ビラキは、黒2と間を割られる。
・つぎに白3のトビは黒4と分断される。
※「連絡した石は強い。分断された石は弱くなる」。
これが連絡と切断の基本的な判断である。
※どこにヒラくかが大事なのは、敵に分断させないためである。

前図の白5の二間ビラキは、自分の連絡を確かめつつ、かつ自分の根拠を作っている。その手抜きは悪い。
二間ビラキを手抜きすると、黒に迫られる。
【黒に迫られると、根拠がない】
≪棋譜≫(83頁の4図)
棋譜再生
・黒1に迫られると、白に根拠がなくなる。

また、白の大々(だいだい)ゲイマのヒラキも定石である。
【大々ゲイマの定石】
≪棋譜≫(83頁の5図)
棋譜再生
・白1のヒラキも定石である。
・白(17六)と白1の大々ゲイマも連絡している。

【大々ゲイマの連絡の証明の一例】
≪棋譜≫(84頁の6図、7図)
棋譜再生
・白二子(17六、16十)の大々ゲイマは、目一杯がんばったヒラキかたで、ギリギリの形である。
※これ以上、間があくと、確実に相手に分断される。

☆連絡の証明の一例は次のようになる。
・黒1に対しては、白のツケがよい手である。つまり白2が好手。
⇒大々ゲイマの白二子は、白2で連絡できる。
・黒3は白4としっかりツナぐのが大切である。
・黒5は白6である。
⇒これで白は連絡している。

大々ゲイマは連絡の限界である。つまりギリギリの連絡形である。
というのは、これ以上のヒラキは確実に分断されるからである。

たとえば、大々ゲイマよりもう一路広くヒラいた場合を考えてみよう。
【ヒラキの限界を越えている:分断】

≪棋譜≫(87頁の14図)入力
棋譜再生
・白1とヒラくのは、黒2あたりに割られ、たちまち分断されてしまう。
・黒2のつぎに、白3は黒4と分断される。
※ヒラくときは常に連絡を考えておくのが大切である。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、82頁~87頁)

星の三間バサミ基本定石


星の一間トビ基本定石と星の三間バサミ基本定石を比較してみよう。
まず、一間トビ定石のほうを図示する。

【一間トビ基本定石】
≪棋譜≫(88頁の1図)
棋譜再生
・黒2の一間トビ基本定石の場合、白3とスベったら、白5の二間ビラキがヒラキの基本形である。

ほかに、上図の白3(18四)のスベリを打たず、次図のように大々ゲイマにヒラくのも定石である。
【一間トビ定石:大々ゲイマ】
≪棋譜≫(88頁の2図)
棋譜再生
・白のヒラキは大々ゲイマが限度。
 これ以上広くヒラくのは分断されてしまう。

一方、黒は一間トビでなく、ハサミも考えられる。
上図の一間トビでは、白に右辺に拠点を持たれる。黒がそれをイヤがるとき、挟撃する。

【星の三間バサミ基本定石】
≪棋譜≫(89頁の3図、4図、5図)
棋譜再生
・黒2は白1から三路離れているので、三間バサミという。
※黒2がA(16十、黒2の左)なら、三間高バサミである。
・黒2の三間バサミに対する白の打ちかたは、B(17三、三々という)かC(14三)がふつうである。
・白が三々に入ってきたとき、黒4、6とつづく。
・そして白7から黒12までで基本定石完了である。
 ここで一段落する。

前図の白1と黒2のとき、白が両ガカリした場合を考えてみよう。
【白の両ガカリにはコスミが簡明】
≪棋譜≫(90頁~91頁の6図、7図、8図)
棋譜再生
・白(17六)と白1、両方からカカっているので、両ガカリと呼ぶ。
・白1に対して、黒は中央のほうに出るのが大切な打ちかたである。つまり、中央方面に出て、封鎖されないようにするのが大事である。
※白1に、黒A(14四)やB(16六)と打って中央に出る打ちかたもあるが、著者は、黒2のコスミが簡明であるのですすめている。
・黒2のコスミで中央に首を出して、白を分断する。
・白はふつう白3と三々に打ってくる。
・それに対して、黒4は右辺を拡大したいときの打ちかたである。
・白5に黒6とトンで、右辺を拡大するという考えを継続していく。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、88頁~91頁)

第3章 3拠点確保のヒラキ


【3拠点確保のヒラキ】
・ヒラキには、拠点確保と陣地拡大。 
 性格のちがう二つのヒラキがある。
 いずれも布石においては大切であるが、著者は拠点確保のヒラキをしっかり理解することが大事であると考えている。

【1図】(二間ビラキの一手)
・黒2の二間ビラキは、黒▲との連絡と最低限の拠点を確保して、この一手。
・黒2で……

【2図】(拠点なし)
・黒2などは、白3が好点。
※黒は根なし草になる。
・黒4と中央に逃げるのでは、失敗。

<アマの実戦例1>
【アマの実戦例1】
・白1、黒2となったのは、アマ中級者の実戦例。
・黒2の絶好点によって、白三子は拠点がなくなり、中央に逃走せざるをえない。

【1図】(盤中で一番大きい白1)
・ここは白1と拠点を確保する一手。
※盤中で一番大きいところ。
 拠点、つまり自分の家がないと、存分に戦えない。

【2図】(中級者の実戦)
・白1、黒2となったのが、アマ中級者同士の実戦進行。
・白三子は拠点がなくなったので、黒3と逃げ出さざるをえなくなり、黒4、6まで進行した。
※この結果、白は下辺と上辺に拠点のない石が出現。
 黒は拠点のない一団がどこにもない。
 となれば、黒成功の布石と判断できる。

※その発端は、白1。
 白1は一級の陣地拡大のヒラキ。にもかかわらず、白が布石に失敗したのは、白1に原因がある。
 「大場より急場。大場よりも拠点」
 囲碁格言である。
 どんな大場があろうとも、拠点作りのほうが大事。拠点の大事を教えてくれる格言。
 拠点は雨や風から身を守ってくれる自分の家のようなもの。
 ジプシーは夢としては楽しいでしょうが、現実はきびしいはず。
 晴れた日のピクニックとはわけがちがう。
 碁においても同じ。拠点のない石は根なし草、ジプシーを強制される。

【3図】(拠点確保の一手)
・したがって、ここは白1の拠点確保の一手。
・黒2の受けなら白3。
※下辺の白三子、上辺の白一子。いずれの拠点も確保した。
 白は2図とはまるで状況がちがい、好調の布石。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、94頁~97頁)

第4章 有利な場所で戦おう


【有利な場所とは?】
・「孤立無援の戦い」
 自分の信念をまげず、一人だけで戦うのは映画などでは美しい世界。
 しかし、碁においては無謀の世界。碁においては、そんなヒーローは生まれない。
 有利な場所で有利に戦いを進めていってこそ、有利な態勢に持ち込める。
 「有利な場所で戦おう」
 これは碁の戦いにおける大鉄則。
 にもかかわらず、盤上においては、かなり無謀な戦いを挑んでいるのが、みなさんの現実。
(この点に関しては、級位者ばかりでなく、有段者もまた、同じことがいえるかもしれない)
・まずは有利な場所、不利な場所。戦う前に判断する目のつけどころから。

【1図】(立派な布石)
・白12につづいて、

【2図】(中級者の実戦)
・白6までは申し分のない布石。
(プロとまったく同じ)

【3図】(不利な場所で戦う黒1)
・ところが、ここらかはアマ級位者。
・黒は1と下辺になぐり込んだ。何たることか!
※陣地が大きくなりかけると、黒1などとなぐり込みたくなるのが、アマの通例であるが、戦いの鉄則違反。

【4図】(下辺は一番不利な場所)
※有利か不利か、彼我の力関係を判断する簡便な方法は、石数を数えること。
下辺は白△から数えても三子。黒1と打った時点で「三対一」であるから、黒が圧倒的な不利な場所。
 盤上を見渡して、黒が一番不利な場所が下辺。
 逆に白から見れば、一番有利な場所が下辺。
 白にとっては一番有利な場所で戦えるわけで、黒1は「飛んで火に入る夏の虫」なのである。

【5図】(最善の攻め)
・白1、3が最善の攻め。

【6図】(好調)
・ついで、黒1の逃げに白2と陣地を固めながら、攻める態勢を固めていく。
※黒は下辺を少々、荒らしたものの、拠点のない浮き石を作って、黒不利の戦い。

【7図】(立派な布石)
・ここは黒1、3。立派な布石。
※下辺は白の陣地になったが、黒は6図と逆に左辺の陣地を拡大していく。

【8図】(黒にもいい分がある布陣)
・初級、中級のみなさんだけでなく、アマ全般の傾向だが、陣地が少し拡大されると、他人の庭が広く、立派に見えるようだ。
➡黒1でaがそれ。まだ陣地拡大の一級地点が残っているのに、なぐり込む傾向が強い。
※そうした気持ちになったとき、「まてよ、有利な場所で戦おう」と思い直してほしい。
 有利か不利か、その方面の石数を比べてみれば、大筋の強弱はつかめる。
※もうひとつ、大事なこと。
 黒1によって、左辺が黒の陣地になる点である。
 つまり、白2と下辺を白の陣地にさせても、黒にもいい分があるという点である。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、126頁~130頁)

第5章 有利に戦う二つの急所


【有利に戦う二つの急所】
〇「有利な場所で有利な戦いを展開しよう」
 これは戦いの大鉄則。
 そのためには戦いを仕掛ける前、あるいは戦いを仕掛けられたとき、その方面が「有利な場所か不利な場所か」判断するのが大事。
・その簡単な方法として、「石数強弱判定法」を第4章で示した。
・さらに、「有利に戦う目のつけどころ」として、「連絡と切断」「拠点の攻防」、二つの急所を見逃すなと説明した。
・碁は陣地拡大のあと、すぐに戦いになる。
 その戦い上手になるのが、上達の秘訣である。
 戦いのポイントさえつかめば、アッという間に上級者になる。
 また、上級者が第4章と第5章の基本をつかめば、初段になれるという。
 それほど戦いは上達の急所なのである。

【1図】(黒1は悪手)
・石数で強弱を判断するまでもなく、下辺は白の有利な場所。
・敵の有利な場所に、あえて黒1となぐり込む理由はどこにもない。
 にもかかわらず、黒1となぐり込んだため、苦戦に陥ったのが、アマ中級者同士の実戦。

【2図】(コスミツケの善悪判断が大切)
・自分が有利な場所では、白1のコスミツケが99パーセント好手になる。
・白1は黒に拠点作りを許さないテクニック。
・白3のとき、白△が黒のヒラキを妨害しているのが、ポイント。

【3図】(立派な布石)
・ここは黒1と左辺の陣地を拡大するのが好手。
・陣地を拡大して、有利の場所で戦う準備をすべきだった。
〇有利に戦う二つの急所は、「連絡と切断」と(拠点の攻防)
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、178頁~179頁)

第5章 本書のまとめ


・第1章、第2章、第3章までは、陣地拡大や拠点確保のヒラキについて説明した。
【1図】(陣地拡大のヒラキ)
・白1から黒4までは、最初の陣地拡大のヒラキ。
※こうした際は、五間ビラキや六間ビラキができる。

【2図】(拠点確保のヒラキ)
・ところが、相手の石数が多いとき、拠点確保の白1は二間ビラキが基本形。
・白1は白△と連絡しつつ、最低限の拠点を確保している。
※陣地拡大のヒラキがおわると、こんどは戦いが起こる可能性が強くなる。
 そうした際、自分の有利な場所で戦い、不利な場所では戦いを回避するのが得策。

【3図】(無謀の挑戦)
・にもかかわらず、みなさんは黒1などと不利な場所で戦いたがる。
・石数強弱判定法をするまでもなく、黒1は無理。
・黒1はaと左辺拡大が好判断。

【4図】(好手)
・ここでは拠点を作らせない白1が好手。
・黒2に白3と攻め立てて、好調。
※有利に戦うための目のつけどころは、「連絡と切断」「拠点の攻防」の二つ。
 これが有利に戦う二つの急所になっている。

【5図】(一団の石の連絡と切断)
※連絡と切断といっても、本当に大切なのは、中央に出ること。
・たとえば、黒1と中央に首を出すことによって、白二子を分断できる。
・黒1でaなどは白1。これで白二子は連絡。黒▲が孤立する。

【6図】(拠点の急所)
・こうした形は白12とヒラいて、拠点の確保に先行するのが、大切。
・逆に、黒1あたりにハサまれると、拠点がない弱石になるからである。

※以上が、本書のまとめ。
 もう十九路盤布石を十二分にマスターしたはず。
 あとは、実戦を打つことで、マスターしたことを応用するように努力してほしい。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、220頁~222頁)

【補足】小林覚氏の実戦譜(vs武宮正樹)~依田紀基『基本布石事典 上』より


【参考譜】(1-54)小林覚vs武宮正樹
【1999年】第26期天元戦本戦
 白 九段 武宮正樹
 黒 九段 小林覚

【参考譜】(1-54)
・黒3から5のミニミニ中国流に対し、白6大ゲイマとシマって、黒の出方をうかがうのは冷静な打ち方。譜の白6はミニ中国流を回避した。
・黒7のケイマは、黒5のヒラキに連携したものである。
※黒は5から7とフトコロを広く構えるのが、ミニミニ中国流の特長である。
・白10のコスミは、三連星を働かせようというもの。
・黒31に白32は気合の反発。

【1図】(ミニ中国流)
〇白6の大ゲイマで、
・白1の割り打ちなら、黒2のカカリで白3の受けと換わり、ミニ中国流に戻る。
・黒2はaのツメも有力である。

【2図】(おもしろ味なし)
〇黒7のケイマは、黒5のヒラキに連携したものである。これで、
・黒1の一間ジマリは手堅いが、白2と割り打たれはおもしろ味がない。

【3図】(白、働き)
〇白10のコスミは、三連星を働かせようというもの。黒17で、
・先に黒1、3のツケヒくと、白5とツギ、黒5、7には白aとツガず、8のコスミにまわる。
※これは白働きである。

【4図】(黒、重い)
〇黒31に白32は気合の反発。これでAは、黒47ツケにまわられる。黒47で、
・黒1のカカリは、白2以下黒7まで実戦よりも、黒は重い。

【5図】(白、サバキ)黒9ツグ
〇黒53コスミで、
・黒1のトビは、白2ツケ以下サバかれる。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、218頁~219頁)

【補足】小林覚氏の実戦譜(vs趙治勲)~依田紀基『基本布石事典 下』より


第28型 【参考譜1】
1995年 第19期棋聖戦第5局
白九段 小林覚
黒九段 趙治勲

第28型 【参考譜1】(1-59)
・白は6のカカリから8、10と手厚く運んだが、8では手を抜いてAとヒラき、黒9、白10、黒Bに白Cと足早に展開するのも一策。
・白12のハサミに、黒13、15と下辺を割って足早の運び。
・白16と備えたのは手厚い。
・黒17に、白18は不利を承知で打ち込んだものである。
・譜の黒39のカカリを急ぐ。
・白40の大ゲイマに、黒41と入った。
・黒41と入れば、43以下生きはあるものの、周囲の黒が手薄くなってくる。

【1図】(これも一局)
〇白16と備えたのは手厚いが、
・白1のヒラキも好点である。
・しかし、黒2以下の動き出しも大きく、以下黒12まで、これも一局である。

【2図】(穏健路線)
〇黒17に、白18は不利を承知で打ち込んだものであるが、これは、
・白1のボウシくらいなら穏健路線で、黒2に白3が好形であった。

【3図】(黒、名調子)
・上辺にさわらず白1と右辺に向かうと、黒2のトビが絶好点になる。
・白3に、黒4、6と自然に左辺を囲って名調子となる。

【4図】(効果が薄い)
〇黒37、白38のとき、
・すぐ黒1、3とハミ出すのは、白4のハネ一本から6の大場にまわられ、黒つまらない。
・ここは、譜の黒39のカカリを急ぐ。

【5図】(立派なヒラキ)
〇白40の大ゲイマに、黒41と入ったが、
・黒1のヒラキも立派。
・白2、4と隅を守られるのを嫌ったのであろうが、黒5で不満ない。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、390頁~391頁)



≪囲碁の布石~大竹英雄氏の場合≫

2024-12-15 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~大竹英雄氏の場合≫
(2024年12月15日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでも、引き続き、囲碁の布石について、次の著作を参考にして、考えてみたい。
〇大竹英雄『大竹英雄の基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]
 本書の特徴は、目次をみてもわかるように、布石の分類に基づいた構成にあろう。
 大竹英雄氏は、冒頭で、布石の分類について、次のような意味のことを述べている。
 布石を大きく分類すると、平行型とタスキ型とに二分できる。

・平行型は、自軍の石を右なら右の上下に配置する型。
 タスキ型は、自軍の石を斜め(たとえば右上と左下)に配置する型。
 大ざっぱにいって、平行型は模様碁になる傾向が強く、タスキ型は戦闘的な碁になる傾向があるといわれている。
・以上の二つの型以外に、秀策流(黒が三隅を占める)もあるが、これは白が二隅を占拠しなかった場合に生ずる特殊な型といえる。(7頁)

 本書も、平行型、タスキ型、秀策流の布石に分けて、第1章から第3章までの構成となっている。代表的な型と実戦譜について述べるスタイルで全体を執筆されている。
 紹介にあたっても、このスタイルを踏襲し、型と実戦譜を併記しながら、進めていく。
 なお、「第3章 秀策流の布石」については、
・桑原秀策vs井上因碩~<耳赤の一手>の局
・桑原秀策vs師匠の本因坊秀和
 この二つの実戦譜を取り上げてみた。
 なお、例によって、依田紀基『基本布石事典』より、大竹英雄氏の実戦譜を【補足】として掲載した。

【大竹英雄氏のプロフィール(著者略歴)】
・昭和17年、福岡県に生まれる。
・昭和26年、故木谷實九段に入門。昭和31年、入段。昭和44年、第8期十段位。
 昭和45年、九段。
・昭和50年 第14期名人位。昭和51年 第1期名人位~昭和60年 第10期碁聖位。
(この間、名人位、碁聖位、十段位、鶴聖位など多数)
※独得の手厚い棋風は「大竹美学」と呼ばれる。
 早碁にも才を示し、「早碁の神様」の異名をとる。

<著作>
〇大竹英雄『囲碁「形」の覚え方』永岡書店、1975年[1984年版]
 以前、このブログで紹介済
〇大竹英雄『NHK囲碁シリーズ 大竹英雄の強くなる囲碁の筋と考え方』日本放送出版協会、2001年[2005年版]
 今後、紹介してみたい本

【大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』(誠文堂新光社)はこちらから】



〇大竹英雄『大竹英雄の基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]

【目次】
はしがき
本書の独習法
布石について

第1章 平行型の布石
 平行型の布石について
No.1 二連星(第1型~第3型)
No.2 三連星(第1型~第4型)
No.3 星と小目(第1型~第2型)
No.4 シマリと小目(第1型~第3型)
No.5 シマリと星(第1型~第3型)
No.6 向い小目(第1型~第3型)
No.7 両三々(第1型~第3型)
No.8 中国流(第1型~第4型)
No.9 高中国流(第1型~第4型)
No.10 新型<小林光一流>(第1型~第2型)
 練習問題と解答

第2章 タスキ型の布石
タスキ型の布石について
No.1 タスキ星(第1型~第4型)
No.2 タスキ小目(第1型~第2型)
No.3 混合型(第1型~第3型)
No.4 ケンカ小目(第1型~第3型)
練習問題と解答

第3章 秀策流の布石
秀策流の布石について
No.1 古典型(第1型~第2型)
No.2 現代型(第1型~第2型)
 練習問題と解答

補章 布石の基礎知識
布石の基礎知識について
No.1 布石の三原則
No.2 布石と定石
No.3 ヒラキとツメ
No.4 ワリウチ
 さくいん
学習のポイント 1~15
<参考棋譜と登場する棋士>



さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はしがき
・布石について
・第1章 平行型の布石 No.5 シマリと星
・第1章 平行型の布石 No.8 中国流
・第2章 タスキ型の布石 No.1 タスキ星
・第2章 タスキ型の布石 No.2 タスキ小目
・第2章 タスキ型の布石 No.3 混合型
・第3章 秀策流の布石
・第3章 秀策流の布石 桑原秀策vs井上因碩~<耳赤の一手>の局
・第3章 秀策流の布石 桑原秀策vs師匠の本因坊秀和
・補章 布石の基礎知識について
・【補足】大竹英雄氏の実戦譜(vs武宮正樹)~依田紀基『基本布石事典』より
・【補足】大竹英雄氏の実戦譜(vs高尾紳路)~依田紀基『基本布石事典』より





はしがき


・この独習法シリーズも、迎えて第3集になった。今回のテーマは布石である。
・布石は戦いの前哨戦で、お互いに自軍を有利に導くために、好点を占めるべく配石する段階である。
・初心者だと布石の意義も分からなければ、むろん技術も拙劣である。したがって、少々強い人にぶつかると、早くも序盤で優位に立たれてしまう。
また、棋力が近い人同士でも、布石のじょうずへたの違いで、前半で差をつけられる。
そのため、中盤でそのハンデを取り戻すのに、ずいぶん苦労させられる。
・ところが、布石の知識に乏しい人は、そこですでに差がつけられていることが分からない。中盤の力が強いので、どうにか互角にわたり合えるのだが、もし布石をしっかり勉強しておけば、当然互角以上になれる。
 そういう意味からも、布石の勉強は大切。

・それから、布石の醍醐味はいろいろと構想をめぐらすことにある。
 厚く打とうか、地にからく打とうか、それとも大模様作戦でいこうか、と考える。
 これが楽しいのである。

・みなさんはアマチュアであるから、自由に構想をねり、思いきった布石を打つことができる。
 それを実現するためにも、基礎的な知識は絶対に必要。
 そうした知識を学びとってもらうために、本書を上梓したという。
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、1頁)

布石について


【布石とは】
・一局の碁を大きく分けると、序盤戦、中盤戦、終盤戦の三段階に分けられる。
 その最初の部分が布石。
・戦いを行うにあたって、できるだけ有利に戦えるよう、あらかじめ自軍の石を好位置に配置させておく。これを布石するという。
・したがって、布石がじょうずになれば、序盤で優位に立つことができるわけである。
 布石がしっかりしていれば、それだけ中盤の戦いも楽になる理屈。
そうした意味で、布石の勉強は上達に絶対欠かせないものの一つ。

【布石型】
・布石には、いろいろの型がある。
 有名なのが、中国流布石、あるいは三連星など。
・隅の打ち方で、いろいろと型も違ってくる。
 また自軍の石だけでなく、相手の着手によっても変わる。
たとえば、自分が三連星をしこうと考えても、相手が妨げて中に割って入ってくれば、三連星は諦めなければならない。中国流にしても同じ。
しかし、中国流は駄目になったとしても、そこに新しい型が生まれてくる。
 そうして生ずるいろいろの型の中から、自分の好きな型を選び、それを学ぶことによって、布石の技術が向上するわけである。

・ではまず、布石を大きく分類してみよう。
 それは平行型とタスキ型とに二分できる。

・平行型は、自軍の石を右なら右の上下に配置する型。
 タスキ型は、自軍の石を斜め(たとえば右上と左下)に配置する型。
 それらの型にもいろいろの型があって、それぞれの特色をもっている。
 大ざっぱにいって、平行型は模様碁になる傾向が強く、タスキ型は戦闘的な碁になる傾向があるといわれている。
(これはあくまで傾向であるから、絶対とはいえない)
・以上の二つの型以外に、秀策流(黒が三隅を占める)もあるが、これは白が二隅を占拠しなかった場合に生ずる特殊な型といえる。

(そのほか隅とか辺よりも中央を重視する<新布石>もあるが、これは歴史的には重要な布石であるが、特に基本を学ぶうえには不必要なので、割愛した)

【布石と定石】
・布石と定石とは密接な関係がある。
 定石があるからこそ、布石が成立する。また布石には定石は絶対に欠かせないものである。
隅で石の接触が生じたときに、そこで遅れをとるようでは、布石をリードすることができないからである。

・したがって、布石を勉強するかたわら、その布石に必要な定石を勉強するように努めてほしい。
 その場合の定石は、難解なものは必要ない。
 極力簡明な定石を採用するように努めれば、それですむはず。

【布石の流行性と独自性】
・布石にもはやりすたりがある。
 かつては、中央の碁が重視される傾向があって、配石にも当然高位に打たれることが多かった。

・中国流の布石などはその思考法に魅力はあるわけだが、それが最善というわけではない。
 それにもかかわらず、アマプロを問わず、多くの人に打たれていた。これはやはり流行性があるからである。
・同じ布石をくり返していると飽きがくることも確かである。
 しかし、そうした流行性にとらわれず、むしろ自分で開発した独自の布石を使うようにしたら、どうだろうか。布石の楽しさが倍加するはずである。
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、7頁~8頁)

第1章 平行型の布石 No.5 シマリと星


第1章 平行型の布石 No.5 シマリと星
・一方がシマリ、そして他方が星という配置。

【1図】(基本型)
・黒1を星に打ち、3を小目(aではない)に打ったところから発生する構え。
・白が2、4と左方のアキ隅を占めたから、黒5とシマって、右辺に黒模様を形成しようとする。
・次に黒b(あるいはc)と構えれば、それはもう立派な黒模様といえる。

【第1型】
・右辺に黒模様を形成されてはたまらない――というところから打たれるのが、この白1。
・この1はワリウチと呼ばれる手法。
※黒aなら白b(またはc)、黒dからのツメなら白eである。
・黒はツメを保留して、2のカカリを急ぐ。

【4図】(二間高バサミ)
・こんどは白2が3三を占めている。
・これかかりにaの星であっても、白8の二間高バサミは有力。
・黒9、白10は定石。
※ここで黒bと走り、白cとなれば、普通。

〇では、この布石が生じた実戦例を、著者の碁の中からとりあげてみよう。
【5図】(実戦例)
・黒は走らずに(4図b)、1とハサんできた。
※黒は石井邦生九段。【第8期名人戦リーグ】
・白2とサエギるところ。
・黒はここで3とツケる古い定石(以前はほとんどこう打った)を打ってきた。
※この定石は、4図bと走る定石よりも、実質的に少々損。
 そのかわり白a と攻めてこられても、あまりこたえないという長所ももっている。
・黒9から11も相場。
・そこで白12の好点にヒラキ。
※黒bとツメられるとの差は決して小さくない。
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、56頁~58頁)

第1章 平行型の布石 No.8 中国流


第1章 平行型の布石 No.8 中国流
・黒1…星、3…小目、5…辺の星脇下、と配置する布石を中国流と呼んでいる。
・その構えはたまたま日中囲碁交流でこうした布石の考え方もあることを知った中国囲碁界で、この布石が徹底的に研究されたものである。
 一時、大流行し、いまでも打たれている。
【第1型】
・黒1、3、5、これが中国流の構え。
・白の対策もいろいろと考えられてきたが、6と星のほうからカカっていくのが、代表的な一つのパターン。

【2図】(模様で対抗)
・黒7と応ずるのが普通。
・黒7と黒(17, 十一)との間合いがよいので、7と応じていて、不満がない。
・白8以下10までは基本定石。
・そこで黒は先手をとって、11のカカリに先着することになる。
※途中白8の走りで、単にaと大場を占めているのもある。
※黒は右辺に模様を形成しようとしているが、これに対して白は上辺に勢力圏をきずいて、中国流に対抗している。
※これまでの進行で特に注意してほしいのは、第1型白6のカカリが常識的だという点。

【4図】(同形)
・2図につづく打ち方を検討してみよう。
・白1と一間に応ずるのが、もっとも普通。
・黒は2と走り、4とヒラいて、右上隅の白と同じ手法を採用してみる。
※白には、白(3, 十)の大場、あるいは白(6, 四)の一間の構えなどの好点もあるが、黒5と右下隅をシマるのが好形であるから、白5とカカっていく。
 このあたりの石の流れは、ごく自然で、双方に無理がない。

【6図】(実戦例)
・4図までとまったく同じ手順の実戦例はいくつかある。その一例を示しておこう。
・黒(14, 十六)に対して、白1とツケ、黒2と交換してから、白3、5とツケ切った変化をしたのが、第35期本因坊戦挑戦者決定リーグの石田芳夫九段(白)対林海峯九段の一戦に生じた。
・その碁では、黒18につづいて、白aと切り、黒b、白cと切っていくすさまじい戦いに突入した。
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、88頁~91頁)

第2章 タスキ型の布石 No.1 タスキ星


・アキ隅を二カ所、斜めに星打ちするのをタスキ星と呼んでいる。
・黒同士、あるいは白同士いずれの場合でも、タスキ星となる。
・二連星と違って、辺に片寄っていないが、足の早い布石であることは、他の星打ちとかわらない。

【第1型】
・黒1、3がタスキ星。
・一方の白は2が小目、4が星の混合型になっているが、白2がaにあれば白もタスキ星になる。
・双方ともにタスキ星という例は比較的少ないので、あえてこの型をとりあげてみた。
・黒は当然白のシマリを妨げて、5にカカリ。
・白6の三間高バサミは最近流行の型。
※なお、黒5ではbに高くカカることもできる。

【4図】(実戦例)
・白のトビ、つまり白△の一着が加わっているときには、黒▲のカケに対して、白1、3と出切るのが常識。
※白1で6と受けているのでは気合い不足。
 黒aと圧迫されて面白くない。
・黒4は形。
・白5以下9となって、ここから早くも戦闘に入る。
・黒10のノゾキは14とトビ出すための準備。
※なお、この碁は、第7期棋聖戦。
 最高棋士決定戦の準々決勝で、林海峯九段と石田芳夫九段(黒)とが対戦したときのもの。
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、139頁~141頁)

No.2 タスキ小目


・タスキ星に対して、それぞれの隅が小目に打たれるのが、<タスキ小目>である。
・つまり右上隅を小目に打てば、斜めの左下隅を小目に打つ布石。
・タスキ小目の場合、その小目の位置によって、二通りの型がある。

〇第1型
・まず考えられるのが、黒1、3の配置。
※またもし右上隅が黒aと打たれ、左下隅がbと打たれた場合も、対称であるから、同型とみなされる。
・ここでは、白2、4がタスキ星になっているが、白がcの小目、あるいはdの3三にあっても、黒のタスキ小目であることにかわりない。

【5図】(白が小目の場合)
・では左上隅の白△が小目のときには、どのような進行が考えられるだろう。
・黒1、白2は前例とまったく同じ。
・ここで黒は右上を放置して、直ちに3とカカる手が考えられる。
※むろんこの場合でも、3とカカらずaとハサむことは可能。そうすればまた別の碁になるだろう。
・黒3とカカった例は、第7期名人戦で、趙治勲名人に挑戦した第3局(筆者白番)に出た。そのときの進行がこの図。
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、150頁~152頁)

第2章 タスキ型の布石 No.3 混合型


・同じタスキ型でも、一方が小目、他方が星とか、小目に目ハズシ、小目に3三あるいは星と3三というように、違った置き方もあるわけである。
・その数は組み合わせしだいで、相当数にのぼる。
 そしてそれらを一つ一つ説明するのは、とうてい無理。
・したがって、ここでは特にもっとも多く使われている星と小目の混合型を扱ってみることにする。

〇第1型
・白も2を小目、この場合、4を3三にしてみた。
・ではこの黒5とケイマにカカり、白は6と一間にカカる型をとりあげてみよう。

【2図】(普通の着想)
・右上隅の小目の黒に対して、白がカカれば、黒1とツケる手をまず思い浮かべるだろう。
・白2、黒3なら普通。
※ただし、注意を要するのは、ここで白aとツギ、黒bに白cとヒラく打ち方。
 白cに対して黒は直ちにdと圧迫するだろう。
 白は上辺で重複することになるので、好ましくない。

【3図】(高等戦術)
・2図のままツギを保留して、本図白1のハサミからもっていく戦法は成りたつ。
・黒の応じ方によって、白4とツごうというのである。
・黒も2とトンで4と切るのが気合い。
※この碁は、第3期名人戦で、著者が林海峯名人(白)に挑戦したときの第4局に現れたものである。
・なお、そのあと白は5に回り、以下白9までと布石は進行した。
・本図のように、あえてツぐところをツがず、相手に切らせて他の好点に先着する打ち方もある。

【6図】(右辺に黒模様)
・では3図につづいて、黒がどう打っていったか、また白の応じ方について、みることにする。
・黒1のツメが好点。
・白2と交換をしたのち3のカカリに先着した。
・黒5と構えれば、右辺一帯はかなりの模様。
・実戦では左上隅を6とナラんで、黒の2子を攻めてきたわけであるから、黒はあらかじめそのシノギに勝負をかけているのである。
※もっとも、その下の白2子(2と白△)もまだ弱く、そう威張れた形ではないから、黒としてはそれほど不安はないわけである。

【7図】(中盤戦)
〇6図のあと、どうなったか気になる読者のために、中盤戦の手順を示しておく。
・手数が長いので、眼で追うのはむずかしいと思うから、碁盤に並べてみてほしい。
・戦いの要領というようなものを感じとれるかもしれない。
・いちおう、黒39までで、双方中央に進出した。

(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、162頁~165頁)

第3章 秀策流の布石


第3章 秀策流の布石
〇秀策流の布石について
・<秀策流>と呼ばれる布石は古来打たれていたものを、江戸末期の俊才、桑原秀策(1829~1862)が系統立てたのである。
 明治以降、今日までこの布石は多くの棋士によって利用されてきた。
 しかしその後コミダシの制度ができてから、多少利用法に変化がみられるようになった。

・秀策流はいわば先番の布石である。
 先番で手堅く勝つための一方法として、打ち出されたものである。

・ところが、現在のように大きなコミダシの制度が生まれると、堅実に勝つということがむずかしくなった。
 つまり、5目半(ママ)のコミがあるために、細碁になって、このコミにひっかかる危険性が出てきたのであった。現在は黒番でも手堅く布石するよりも、積極的に打つことが多く、秀策流の布石はいこうとする傾向が強い。そのためには従来の秀策流では不十分とみられるようになった。

【基本図】
・黒1、3、5がいわゆる<秀策流>である。
・先番で足早に三隅を占拠しようというのである。
・最近ではアキ隅を重視する傾向が強く、したがって黒に三隅を許す布石はきわめて少なくなった。
【2図】(秀策のコスミ)
・基本図につづいて、白6とカカるのがもっとも普通であるが、それなら黒7とコスミ。
➡このコスミが<秀策のコスミ>と呼ばれる手法。 
 秀策は、“碁の規則が変わらないかぎり、このコスミはいつまでも好手として打ちつがれるであろう”という意味のことを述べていたそうだ。

【No.1 古典型】
・秀策流のもっとも大きな特徴は、
①黒の布石
②三隅を占める
③厚い秀策流のコスミ
以上の三点である。
・コミダシの制度が発足してから、考え方も変わってきたが、いぜんとして使う棋士もいる。
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、190頁~193頁)

【第2型】
【2図】
・秀策流の布石に白6とシマリ、黒7とシマリ、白8とカカリ、黒9とコスミ。
・次に黒aのハサミが絶好点になるから、白bとヒラけば、黒は右下をcとコスミ。
※白cのカケを避けるためである。
・つづいて白dと構えれば、黒e、白f、黒gという進行が予想される。
※ここで白がどう打てば最善かは、むずかしいところであるが、例えば―

第3章 秀策流の布石 桑原秀策vs井上因碩~<耳赤の一手>の局


【3図】(実戦例)
・白1と大斜にカケた実戦例を示す。
※これは、弘化3年に桑原秀策(先)が井上因碩と打ち<耳赤の一手>の局として、後世に残された有名な局である。
 秀策が大阪に旅をしたさい、そこに在住していた因碩を訪問して、この碁が打たれた。

【4図】(難解)
・この大斜ガケは百変との千変ともいわれるほどの難解定石。
・シチョウ関係もからんで、大変な変化を含んでいる。
 したがって、ここでどう打てばよかったか――というような決定的なことはいえない。
・ただ、この定石で問題点は、右上に黒(コスミ)、左下にも黒があるという配石では、白が苦しい戦いをしいられるというのが常識。
 よほどの力自慢でないと、大斜ガケは危険。
※なお、この4図の変化中、黒16のハイが問題だった。
 20に軽くケイマに打っておくべきだった。
・仮に白17、黒18の交換ののち、白19とコスミツケてくれば、黒21とノビられるからである。
・つづいて白aのハネダシには、黒16、白bに黒c、白d、黒e、白f、黒gでシチョウにカカエられる。
・それを黒16とハッたために、むずかしいことになった。

【5図】(進行)黒13コウトリ(3)、白16〃、黒19〃
・参考までに、実戦の進行具合を示しておく。

(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、196頁~198頁)

第3章 秀策流の布石 桑原秀策vs師匠の本因坊秀和


第3章 秀策流の布石桑原秀策vs師匠の本因坊秀和
桑原秀策vs師匠の本因坊秀和
【8図】(実戦例)
〇これは桑原秀策が師匠の本因坊秀和と打った17連戦の第9局目に当たる。
 それまで秀策は7勝1敗と圧倒的な強さをみせていたのだが、絶対に白をもとうとしなかったようだ。
 
秀策の先。
・黒1と頭につけていった。
・黒3でaと引けば簡明。
⇒白b黒7の切り、白8黒9白c黒dというように変化する。
・黒3とノビ、白4と押しあげる変化になって、ひじょうに難解な戦いになった。

【9図】(戦い)
〇せり合いはなおもつづく。
・黒1が急所。
・白はツぐのは利かされとみて、気合いで2とオサエ込んでいった。
・以下、白20まで(ここでコウ争いに入る)となり、さらにむずかしい戦いがつづく。
(布石とは直接関係ないので、割愛するという)
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、200頁)

布石の基礎知識について


補章 布石の基礎知識
布石の基礎知識について
・布石には、<隅が大きい>とか、辺は第3線、第4線あたりを重視するというような基礎的な考え方がある。
 そうした基礎知識をもってのぞめば、かなりむずかしいように思われる布石も、案外楽に入れるはず。
そこで、この章では、そうした問題についてふれておく。
・布石は、戦いに入る下準備。
 どういうように配置しておけば、戦いが有利に進められるかを考えることからはじまる。
 入門者でも学ぶように隅から始めるわけであるが、それからシマリ、カカリというように、二つの原則のようなものにしたがって、打ち進める。
・シマるとはどういうものか、カカリはどういう意味をもっているのか、そうしたことが分からないと、なかなか正しい布石はむずかしいものである。
 その意味が分かれば、状況に応じて正しい布石をしくことができる。

・つづいて、大場。
 これは意味の幅が広い。大きな大場もあれば、小さな大場もある。
 また大場にまさる急場というのもあり、定石がからんでくる――というように、大場の選択もそう簡単ではない。
・それにどうヒラけばよいか、どこまでヒラくのが正しいか、という決断を迫られる。
➡それらの問題のうち、最も基礎的なものをとりあげた。

【1図】高段者同士の布石

(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、212頁)

【補足】大竹英雄氏の実戦譜(vs武宮正樹)~依田紀基『基本布石事典』より


 大竹英雄氏の実戦譜から、次の文献を参考に、布石の例について紹介しておこう。
〇依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年

<星・二連星>【参考譜】
②1993年 武宮正樹-大竹英雄(126頁)
第14型 【参考譜】(1-72)
1993年 第49期本因坊戦予選決勝
白十段 大竹英雄
黒九段 武宮正樹

・左下隅、白4と高目に打ったのは、黒の二連星を意識して、位を高く保つためである。
・黒9の大ゲイマは、二連星と呼応して、スケールを大きく持っていく。
・黒13のコスミは、三連星を働かせる一策。
・白は14と三々に入った。
・黒15のオサエ。
・黒17のカケに白18、20の出切りは気合いである。
・白は譜の18以下22ノビて黒模様を消す拠点にしている。
・黒21のトビは形である。
・白30のマガリトビに黒31は冷静。

【1図】(黒、調子づく)
〇白は14と三々に入ったが、これで、
・白1のケイマは、黒2、4と調子づかせることになる。
・続いて、白aとカカるが、黒の谷はかなり深くなってくる。

【2図】(一つの形)
〇黒15のオサエでは、
・黒1から3にはずすのも一つの形。
・白8、10に、黒はaにツガず、他に転じることになる。

【3図】(戦わず)
〇黒17のカケに白18、20の出切りは気合いであるが、
・ここは戦わずに白1とハイ、黒2ノビとなる打ち方もある。

【4図】(筋違い)
〇黒21のトビは形であるが、
・黒1のノビは筋違い。
・白2のノビから4にトバれると、戦いの主導権は白のものになる。

【5図】(黒、破綻)
〇白30のマガリトビに黒31は冷静。これで、
・黒1以下5の切りは無謀で、白6のワリコミから白aかbで黒破綻する。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、126頁~127頁)

【補足】大竹英雄氏の実戦譜(vs高尾紳路)~依田紀基『基本布石事典』より


 大竹英雄氏の実戦譜から、次の文献を参考に、布石の例について紹介しておこう。
〇依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年

<星・タスキ星>【参考譜】
②1999年 高尾紳路-大竹英雄(146頁)
第16型 【参考譜】(1-53)
1999年 第25期天元戦本戦
白九段 大竹英雄
黒六段 高尾紳路

・白8のカカリに黒9とハサみ、以下白18まで、先手を取って、黒19とツメた。
・黒19に白は手を抜いた。
・黒23のカケは工夫した手である。
・白30の押し。
・白30に、黒31、33のハネノビは欠かせない。

【1図】(下辺も大場)
〇黒19とツメたが、これでは、
・黒1のヒラキも大場である。
・白2のカカリに黒3以下白8まで先手を取って、待望の黒9にツメる。これもあろう。
・手順中、白2でaと守れば、黒4のシマリが絶好である。

【2図】(打ちにくい)
〇黒19に白は手を抜いたが、これで、
・白1、3と守れば、手堅い。
・しかし、黒2の立ちで、左辺が理想形になり、白は打ちにくい。

【3図】(黒、今ひとつ)
〇黒23のカケは工夫した手である。これでは、
・黒1のコスミツケが手筋であるが、この場合は、白2から6のコスミまで、黒、今ひとつであろう。

【4図】(黒、十分)
〇白30の押しで、
・白1とシマるのは、黒2から4のトビが調子よくなる。
・譜の黒23と相まって、黒十分である。

【5図】(黒、つらい)
〇白30に、黒31、33のハネノビは欠かせない。これで、
・黒1にカカるのは、白2から4のトビが好点で、黒5と守るのでは、つらい。
・黒7に続いて、白は譜のAトビで好調になる。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、146頁~147頁)




≪囲碁の布石~山下敬吾氏の場合≫

2024-12-08 18:00:04 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~山下敬吾氏の場合≫
(2024年12月8日)

【はじめに】


 今回も引き続き、囲碁の布石について、次の著作を参考にして、考えてみたい。
〇山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]
 山下敬吾 監修者
 構成・文 内藤由起子

 山下敬吾九段といえば、NHK杯などの対局に見られるように、初手天元とか5の五といった奇抜な布石を打たれることでよく知られている。
 現代の碁でそうした布石を打つプロ棋士が少ない中で、山下九段が指導を受けた師匠の教えを忠実に守っておられることが一つの要因であろう。
 というのは、本書の「おわりに」において、次のように述べておられるからである。
「私の修業時代、師匠の菊池康郎先生は、常に「人真似ではなく、自分で考えろ」とおっしゃっていました。
 その影響は大きく、いまだに流行の布石は研究はしますが、自分からは打ちません。同じ布石ばかりでは見ていてつまらないし、やるのもつまらない。」(281頁)
 このように、書いておられる。
 山下九段の布石の本だから、初手天元の布石について述べてあるかと思って、本書を開いてみると、そうした奇抜な布石については一切言及されていない。
 先の「おわりに」の続きには、次のように付記されている。
「布石の本を書いておきながら、こんなことを言うのはおかしいかもしれませんが……」(281頁)
 やはり、基礎的な布石の本を書くからには、どうしても初手天元の布石になどには触れないほうがよいと思われたのであろう。
 本書の特徴の一つは、目次を見てもわかるように、定石を詳しく解説しつつ、布石について述べてある点であろう。定石は、形と手筋の宝庫とよく言われる。山下氏が定石にこだわり、手筋に精通していることは、例えば、基本手筋事典を執筆しておられることからもわかる。
 〇山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年
 ここでも、定石を紹介しながら布石について、述べてみたい。

 と同時に、「おわりに」に述べてあるように、内心忸怩たる思いを察して、初手天元についても、こちらで調べてみた。
 すると、依田紀基九段の次の布石事典において、初手天元について解説されており、しかも【2000年】第26期天元戦本戦においても、初手天元を実際に打たれていた。
詳しくは【補足】を参照していただきたい。
 白 九段 林海峰
 黒 六段 山下敬吾
〇依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年

 また、9路盤では、初手天元というのは、わりとよく打たれているようだ。
 私が9路盤に興味を持ったきっかけは、次のYou Tubeのサイトであった。
You Tube
〇日本棋院囲碁チャンネル
「9路盤を楽しもう!第2回桜ゴルフ杯 女流プロ9路盤大会」
(2024年3月18日付)

 そして、安斎伸彰氏の著作でも明らかなように、9路盤では、初手天元が有力な打ち方であることがわかる。
 「第2回桜ゴルフ杯 女流プロ9路盤大会」においても、謝依旻七段(黒番)と上野愛咲美女流名人(白番)との対局でも、初手天元が打たれていた。石倉昇九段の解説にもあるように、強いプロ棋士同士が9路盤を打つと、全体が詰碁になる。隅には「一合マス」形が現れるのである!


【山下敬吾氏のプロフィール】
・昭和53年生まれ。北海道旭川市出身。菊池康郎氏(緑星囲碁学園)に師事。
・平成5年入段。平成15年九段。
・棋聖5期、名人2期、本因坊2期など獲得タイトルは23を数える。
・日本棋院東京本院所属。
<著書>
・『アマの弱点徹底分析』(毎日コミュニケーションズ)
・『山下敬吾自戦細解』(誠文堂新光社)
・『山下流戦いの感覚』(棋苑図書)
・『出る順で学ぶ実戦手筋』(マイナビ)などがある。
【プロフィールの補足】
山下敬吾九段は、先日(9月29日)の第72回NHK杯2回戦で、福岡航太朗五段との対局で、奇抜な布石を打たれていた。
 解説の河野臨九段は、山下九段を“囲碁界随一の力戦家”と紹介されていた。
 山下九段といえば、かつては初手天元、5の五など、大胆な布石で知られていた。この日の布石は、黒番の山下九段が5手目に、天元一路左横に打たれ、奇抜な布石を打たれた。
 こうした布石が打てるのも、深い読みに裏打ちされた手筋を熟知されているからであろう。
 さて、その山下敬吾九段の経歴であるが、高校の数学教師で囲碁愛好家の父より、兄と共に囲碁を習ったのがきっかけであるようだ。
 1986年、旭川市立東栄小学校2年の時に、少年少女囲碁大会小学生の部で、歴代最年少記録で優勝し、小学生名人となる(決勝の相手はのちにプロでタイトル争いをすることとなる高尾紳路氏)。
 翌年、1987年に上京して、アマチュア強豪菊池康郎先生の主宰する緑星囲碁学園に入園する。その後、プロとなり、張栩、羽根直樹、高尾紳路とともに「平成四天王」と称された。

 山下敬吾九段の“神童ぶり”は、平本弥星氏もその著作で、高尾紳路氏の棋譜とともに、紹介されている(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、57頁~58頁)。




【山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社はこちらから】



〇山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]
本書の目次は次のようになっている。
【目次】
第1章 三連星の布石
 この章で覚えたい定石
 問題01~13
 <この章で覚えたい定石の解説>
 その1 星・スベって二間ビラキ定石
 その2 星・一間バサミ三々入り①-1
 その3 星・一間バサミ三々入り①-2
 その4 星・一間バサミ三々入り①-3
 その5 星・一間バサミ三々入り②

第2章 二連星の布石
 この章で覚えたい定石
 問題14~25
 <この章で覚えたい定石の解説>
 その1 三々入り定石
 その2 三羽ガラス
 その3 大々ゲイマへの三々入り
 その4 大ゲイマへの三々入り

第3章 星とシマリの布石
 この章で覚えたい定石
 問題26~36
 <この章で覚えたい定石の解説>
 その1 スベリにツメる定石

第4章 小目の布石
 この章で覚えたい定石
 問題37~67
 <この章で覚えたい定石の解説>
 その1 一間ガカリ・ツケ引き定石・カタツギ
 その2 一間ガカリ・ツケ引き定石・カケツギ
 その3 大ゲイマガカリ・コスミ
 その4 大ゲイマガカリ・一間バサミ
 その5 大ゲイマガカリ・広いハサミ

第5章 中国流の布石
 この章で覚えたい定石
 問題68~101
 <この章で覚えたい定石の解説>
 その1 中国流・小目へのカカリ
 その2 カカリと受けがあるときの三々①
 その3 カカリと受けがあるときの三々②
 その4 三々定石・二段バネ①
 その5 三々定石・二段バネ②
 その6 一間バサミ・両ガカリ

第6章 ミニ中国流の布石
 阻止される可能性も
 問題102~110

(付録)布石の用語解説




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・「はじめに」と「おわりに」の要点
・布石の基本用語
・本書で覚えたい定石
・各章の問題 抜粋

・【補足】初手天元について~依田紀基『基本布石事典 下』より
・【補足】山下敬吾氏の初手天元の実戦譜(vs林海峰)~依田紀基『基本布石事典 下』より
・【参考】9路盤の天元の打ち方~安斎伸彰氏の著作より
・【参考】9路盤の実戦譜(初手天元)~謝依旻vs上野愛咲美






「はじめに」と「おわりに」の要点


<はじめに>
・囲碁は自分の好きなように打って欲しい、というのが著者の思い。
 自由な発想を盤上に表すことは、碁の楽しみのひとつである。
・とはいえ、アマチュアの人に「自由にどうぞ」といっても、どこに打ったらいいのか迷い、途方に暮れる。
・そこで、本書は、基本的な布石の考え方を中心にまとめた。
 問題を解くことで、打つ指針が身につけられるはずである。
 布石に欠かせない、基本定石のポイントも詳しく説明した。

〇布石のポイントは、次のふたつである。
①広い方が大きい
②石の強弱に気をつける

※本書は、19路盤で打てるようになった人から、初段を目指す人まで、また、基本をおさらいしたい有段者の人までにも、おすすめであるという。
 まずは基本を身につけ、そのあとは自由に楽しんでほしいというのが著者の思いである。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、2頁~3頁)

<おわりに>
・著者の修業時代、師匠の菊池康郎先生は、常に「人真似ではなく、自分で考えろ」と言われていた。
 その影響は大きく、いまだに流行の布石は研究はするが、自分からは打たないそうだ。
 同じ布石ばかりでは見ていてつまらないし、やるのもつまらない。
(布石の本を書いておきながら、こう言うのはおかしいかもしれないが)
・ただし、本書で取り上げたような基礎的な布石の知識は、上達に欠かせないものである。
 身につけておけば、実戦で必ず役立つ。
 その上で、工夫して、自由に碁を楽しんでほしいという。

・著者は、新たな可能性を恐れずに、果敢に挑むのが、勝負の醍醐味だという。
 失敗したら負けるだけのことで、また挑戦すればよい。
 負けから学ぶことも多くある。
・碁の世界には、まだまだ未知の可能性が広がっているそうだ。
 その未知なる世界への挑戦を大いに楽しもうという。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、281頁)

布石の基本用語


〇布石の解説で頻繁に使用される基本的な囲碁用語の解説が巻末に掲載されている。
 その一部を紹介しておこう。
・厚い/厚み…外勢や壁ともいう。周囲への威力が発揮できる可能性がある場合が多い。
・薄い/薄み…欠点、弱点のこと。
・大場…価値の大きなところ。とくに布石で広いところや双方の要所をいう。
・オサエ/オサえる…相手の進路を止める手。
・鶴翼の陣…隅から二辺に広げた陣形。
・カケツギ/カケツぐ…断点の一路隣に打って、断点を補う手。
・三羽ガラス…星から左方にコスんだ3子セットの形。
・三連星…隅、辺、隅の星に打つ布石の陣形。
・シボリ/シボる…捨て石を使って、相手の石をダンゴ状にしたり働きのない格好にしたりする手。
・スベリ…第三線から第二線へ、または第二線から第一線へケイマや大ゲイマで相手の石の下に打つ手。
・石塔シボリ…捨て石を使った石を取るテクニック。最終形が石塔(墓)の形に似ている。
・中国流…布石の陣形。星、小目、辺の星脇で構成される。
・二連星…右辺または左辺に並んで隅にふたつ星を打つ陣形。
・ノゾキ…相手の断点の側に打ち、次に切るぞ、という手。
・ハザマ…ナナメに一路あいた形。
・ハサミ/ハサむ…第三線や第四線で、相手の石がヒラかないように石をくっつけずに両側に石を配置する手。
・ハネ出し…ハネながら相手の石を分断するようなところに打つ手。
・ヒラき/ヒラく…第三線か第四線の石から二路以上四路くらいまであけて第三線か第四線に打つ手。
・ワタリ…下から連絡する手。
・割り打ち…辺の第三線で、両側に二間ビラキできるだけあいたところに打つ手。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、282頁~287頁)

本書で覚えたい定石


第1章 三連星の布石
 <この章で覚えたい定石の解説>
 その1 星・スベって二間ビラキ定石
【完成図】
【手順図】

 その2 星・一間バサミ三々入り①-1
【完成図】
【手順図】

 その3 星・一間バサミ三々入り①-2
【完成図】
【手順図】
〇前の定石の変化形。
 白はがっちり生きる形になるのが特徴。
・白1のカカリに、黒が2と一間にハサミ。
※星にカカってハサまれたら、三々に入っておくのが基本。
・この定石は、あらかじめある黒(16, 十)などを生かして、黒4とオサえて、右辺に模様を築くのが目的。
・黒6のノビも急所で逃せない。
・ここで、白7と押し上げる変化がある。
・黒はすぐ8と出る。
・白に断点がふたつできるが、黒10と隅に近いほうから、切るのがコツ。
・白は切られた石を11と取る。
・黒12と反対側を切って……。
・黒14とハネて16とアテ、外勢を築く。
・黒18または黒(15, 六)と守って、一段落。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、39頁~40頁)

 その4 星・一間バサミ三々入り①-3
【完成図】
【手順図】

 その5 星・一間バサミ三々入り②
【完成図】
【手順図】

第2章 二連星の布石
 <この章で覚えたい定石の解説>
 その1 三々入り定石
【完成図】
【手順図】

 その2 三羽ガラス
【完成図】
【手順図】

〇右上、3つ並んだ形を「三羽ガラス」という。
 守りながら、攻める態勢を秘める。
 ちなみに、白でも「三羽ガラス」である。
・スタートは、白(17, 十)の割り打ちから。
・黒が1とツメてきたとき、白は2と二間にヒラキ。
・黒3は、隅を守りながら、右辺の白への攻めも見ている。
・白は4と上辺から迫る。
・黒は5と守るのが大切。
・白6とまた二間にヒラいて、一段落。
※白6は左上の形によっては、白(10, 四)の四線もある。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、73頁~74頁)

 その3 大々ゲイマへの三々入り
【完成図】
【手順図】
〇大々ゲイマの構えに入る三々定石
 構えが広いので、生きるのには余裕がある。
・白1と三々に入った。
・下辺のほうが広いので、黒は2とオサエ。
・白3とフトコロを広げたとき、黒4とはずすのが、弱点が残らない打ち方。
・白は5、7と広げる。
・白9と切って、黒10とツガせる。
・白11、13とハネツいで、黒14カケツギで、一段落。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、75頁~76頁)

 その4 大ゲイマへの三々入り
【完成図】
【手順図】

第3章 星とシマリの布石
 <この章で覚えたい定石の解説>
 その1 スベリにツメる定石
【完成図】
【手順図】

第4章 小目の布石
 この章で覚えたい定石
 問題37~67
 <この章で覚えたい定石の解説>
 その1 一間ガカリ・ツケ引き定石・カタツギ
【完成図】
【手順図】

 その2 一間ガカリ・ツケ引き定石・カケツギ
【完成図】
【手順図】

 その3 大ゲイマガカリ・コスミ
【完成図】
【手順図】

 その4 大ゲイマガカリ・一間バサミ
【完成図】
【手順図】

 その5 大ゲイマガカリ・広いハサミ
【完成図】
【手順図】
〇一間バサミとそのほかのハサミで、定石が違ってくる。
 しっかり区別をつけよう。
※黒2や黒(17, 十一)など、広いハサミの場合
・白1の大ゲイマガカリに、黒2と一間にハサんできた。
・白は3とツケて、さばく。
・黒4のハネには白5と切り違えるのも、肝心。
・黒は6、8とアテて、10とツギ。白一子を分断した。
・白11とオサエて、黒(16, 十七)を動けなくする。
・黒12とハサむのが大事。
・白13と頭を出したら、黒14と白一子を制する。
・白15の押しに黒16と軽くトビ。
・白17とツケて、薄みを補い、ここで一段落。
※黒は黒(13, 十六)を助けるのは、まだまだ小さい。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、177頁~178頁)

第5章 中国流の布石
 <この章で覚えたい定石の解説>
 その1 中国流・小目へのカカリ
【完成図】
【手順図】

〇中国流特有の定石。
 手順は長いが、意味をしっかり理解して、身につけよう。
・下辺にヒラキがきたときに、白1とカカる定石。
・黒2に白3、5とツケ引き。
・黒(17, 十一)があるときに、黒は6とサガって、根拠を脅かす。
・狭いながら、白7とヒラキ。
・黒は8とトンで、下辺を盛り上げる。
・白が9と頭を出す。
・ここで黒10と出て、12とノゾくのが肝心。
・白はすぐツガずに、白13、15とフトコロを広げるのも大事。
・白17とツイで、一段落。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、249頁~250頁)

 その2 カカリと受けがあるときの三々①
【完成図】
【手順図】

 その3 カカリと受けがあるときの三々②
【完成図】
【手順図】

 その4 三々定石・二段バネ①
【完成図】
【手順図】

 その5 三々定石・二段バネ②
【完成図】
【手順図】

 その6 一間バサミ・両ガカリ
【完成図】
【手順図】

第1章 問題05


第1章 問題05 ●黒番
・白1の三々に黒2とオサえたため、白3とハワれたところ。
 黒はAのノビ、Bのハネ、どちらがいいのだろうか。
【問題図】
【正解】
・黒1とノビるべき。
・白は2、4とハネツギを先手で決めて、6とトンで根拠を得た。
・白6が三連星を消して、好点になっている。
【失敗】
・黒1のハネは危険。
 なぜかは、次問で扱う。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、17頁~18頁)

第1章 問題06 〇白番
【問題図】
・黒1のハネは危険で、よくない。
 白はどうとがめるか。
 AとBでは、どちらがいいだろうか。

【正解】
・まず白1とサガって守る。
・黒が2と分断してきたら、白3と切る。
・黒4には白5、7で、黒三子は逃げられない。
※黒4で5なら、白4で切った黒一子を取ることができる。

【失敗】
・白1、3では、黒が得をしている。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、19頁~20頁)

【問題15】第2章


第2章 【問題15】黒番
【問題15までの手順】

【問題15】黒番
・白1のカカリに、黒が2とハサミ。
・白3の三々入りに対して、AとB、どちらからオサえるほうがいいか。

【正解】
・下辺星に黒がいるときには、黒1とオサえて5までの定石を選ぶと、下辺の配石が生きてくる。

【失敗】
・黒1と遮る定石を選ぶと、白8までとなる。
※黒▲が中途半端な構えになっていて、黒不満。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、49頁~50頁)

【問題21】第2章


第2章 【問題21】黒番
・三々に入った白は2からフトコロを広げる。
・黒はAとB、どちらで応じるか。

【正解】
・黒▲があるときには、黒1とはずすのが形
・白は2、4と広げて、6と切ってから、8、10とハネツギ。
・白12と周囲の弱い石を守るのが、大事な呼吸。
※黒がaと切っても、白b、黒c、白dで生きている。


【失敗】
・黒1から9は危険。
・続きは次問で。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、61頁~62頁)

【問題22】第2章


第2章 【問題22】白番
・右下の黒の格好はよくない。
・白は1などと守っておくのがよいだろう。
・右下には狙いがある。
【正解】
・白1の切りが厳しい。
・黒2のアテなら、白3から7と押して、9まで。
※右辺の黒が逃げられそうにない。
【正解変化】
・白1に黒2からアテても、うまくいかない。
・黒6のあとは、次問で考えよう。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、63頁~64頁)

【問題26】第3章


第3章 【問題26】白番
・黒1が星。
・黒3の小目から5とシマった布石。
※星は勢力、シマリは実利でバランスがよく、非常によく打たれている。
・白6の割り打ちに、黒は7と詰めるのは一法。
・白はどう打つか。

【正解】
※右辺は黒の勢力圏であるので、早く治まることを目指すと楽になる。
・白1の第3線での二間ビラキは、安定する形の基本。
【失敗】
・白1など他へ向かうのは、黒2で根拠を奪われる。
※弱い石ができて、おすすめできない。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、81頁~82頁)

【問題36】第3章


【問題36】白番
・黒が2、4と封鎖してきた。
・白はどう応じるか。
【正解】
・白1と一回ハネ出して、黒に節をつけるのが肝心。
・黒2とわざと切らせて、白3とツギ。
・黒4とシチョウにカカえて、一段落。
【失敗】
・白はすぐに生きている格好なので、白1とブツカるのは、筋がよくない。
・黒6まで黒の厚みが鉄壁になる。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、101頁~102頁)

【問題42】第4章


第4章 【問題42】〇白番
【問題42までの手順】

【問題42】白番
・黒1、3の割りツギに対しては、白4とツギ。
・黒5、7の切りノビは無理な手段。
※しかしこの二子が取れないと白はバラバラ。しっかり仕留めてほしい。

【正解】
・白1とカケるのが形。
・黒2、4の出に対して、白5と緩めるのが好手。
※これで黒は逃げられない。

【失敗】
・白1はいいのだが、黒2、4に白5とオサえてしまうと、黒6の切りから10までと、突破される。
※右辺の白が取られそう。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、117頁~118頁)

第4章 問題52


第4章 問題52 〇白番
【問題図】
・白6の大ゲイマガカリについて考えて行こう。
※大ゲイマガカリは定石が少なく、分かりやすくおすすめ。
・白6に対して、黒が7とコスんできた。
・どう応じるか。

【正解1】
・白1と二間にヒラいて、安定する。
※地へ向かわず、まず根拠を得ることが大切。

【正解2】
・白1と大々ゲイマに構えるのもある。
※あとの打ち方が違ってくる。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、137頁~138頁)

第4章 問題53


第4章 問題53 〇白番
【問題図】
・白1の二間ビラキに対して、黒2とツメて攻めを見るのも有力。
※右上のシマリから右辺にヒラいた格好で、次に黒が上辺に展開すると、「鶴翼の陣」の好形になる。
・それを阻止すべく、白はAとBのどちらがいいだろうか。

【正解】
・白1がヒラキの限度。
・黒が2と間に入ってきても、白3と、石が接触せずに、二間ビラキできる場所が限度。

【失敗】
・白1まで進めてしまうと、黒2と入られると、白3と一間にしかヒラけない。
※黒のほうが、4と二間ビラキできている。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、139頁~140頁)

第4章 問題54


第4章 問題54 〇白番
【問題図】
・黒が2、4と下辺に展開してきた。
・ここで白は守っておきたいところがある。

【正解】
・白1とトンでおくのが、肝心。
・黒に2と守られるが、仕方ない。こんなものである。

【失敗】
・白1などと他へ向かうと、黒2と、二間ビラキを攻めながら、下辺を盛り上げられる。
➡続きは次問で。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、139頁~140頁)

第4章 問題55


第4章 問題55 〇白番
【問題図】
・黒1は厳しいボウシ。
・白は2とトンで、封鎖を避けた。
・このあとの攻めを考えてほしい。

【正解】
・黒1、3とノゾキ。
・黒5と出て、7のほうを切るのが肝心。
・黒9、11と切り離すことができる。
・白は12から生きなければならず、黒15まで、白はひどい目にあった。

【正解変化】
・前図白8で1とツグと、黒2で白二子が取れる。
※白は眼形がなく、苦しい。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、143頁~144頁)

第4章 問題58


第4章 問題58 〇白番
【問題図】
・大ゲイマガカリから、白1と広くヒラくのもある。
・黒は2とツメて、白のスキをねらう。
・白はAとB、どちらで守るか。

【正解】
・白1とトンで守る。
・白に圧迫されないように、黒2とヒラいて一段落。

【失敗】
・白1は「二立三析」であるが、堅すぎる。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、149頁~150頁)

第4章 問題61


第4章 問題61 〇白番
【問題図】
・白1の大ゲイマガカリに、黒が2とハサんできた。
 白はAとB、どちらで応じるか。

【正解】
・白1とツケ。
※黒の勢力圏なので、ツケてさばくのが基本。

【参考】
・白1とトブのは、好戦的な手。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、155頁~156頁)

第4章 問題62


第4章 問題62 ●黒番
【問題図】
・白が1とツケてきた。
・黒はAとB、どちらをハネるか。

【正解】
・黒1と、分断するようなほうからハネる。
・続きは次問で。

【失敗】
・黒1のハネでは、白2と連絡される。
・白4のトビが好手。
・黒が5と守れば、白6で圧迫。
※黒が5でaと守れば、白5と打ち込まれ、白に主導権を握られる。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、157頁~158頁)

第4章 問題63


第4章 問題63 ●黒番
【問題図】
・黒1のハネに、白が2と切ってきた。
 切り違いである。黒はどう打つか。

【正解】
・黒1、3とアテて、白一子を分断するのが好判断。
・黒5ツギのあとは、次問で考える。

【失敗】
※「切り違いは一方をノビよ」という格言は、この形では当てはまらない。
・黒1とノビると、白2とアテられ、全体がつながる。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、159頁~160頁)

第4章 問題64


第4章 問題64 ●黒番
【問題図】
・黒▲を確保しなければならない。
 どう打つか。

【正解】
・白1のマガリで取れている。
・黒2から6までで、定石の完成。


【正解変化】
・白1とマガることで、黒一子を制することができる。
・黒2には白3とハネて、9までと取れた。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、161頁~162頁)

【参考】
〇石田、事典、471頁
〇井山、囲碁、27頁

【問題72】~第5章 中国流の布石


【問題72】第5章 中国流の布石
【中国流の布石 問題までの手順】(1-25)
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、181頁~188頁)

【問題72】黒番
・白が1とツケてきた。
・黒はAとB、どちらで受けるか。

【正解】
・黒1とオサエ。
・白2と引き、黒3とツギから、白4とツギ。
※白はここだけで生きている。
 ここまでが中国流の定石。

【失敗】
・黒1とハネ出すのは、3で白一子が取れるが、白2から6で黒一子も取られる。
※ノゾいた石が取られて、黒が損。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、189頁~190頁)

第6章 ミニ中国流の布石


<阻止される可能性も……>
・これまで学んできた布石は、打とうとすればだいたい実現したが、ミニ中国流は必ず打てるとは限らない。
・黒1を小目に打っても、白が2と星に打ってくれれば、黒5、7でミニ中国流ができる。
・しかし、白2をAの小目などに打たれると、黒5のカカリが打てないし、白6でBなどにハサまれても、ミニ中国流にすることはできない。
※ミニ中国流は阻止される可能性もあることを含んでおいてほしい。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、262頁)

【問題102】第6章 ミニ中国流の布石


【問題102】黒番
・黒3の小目から、5、7の構えが「ミニ中国流」。
・中国流と同様、白はすぐ白8とミニ中国流の中に入っていくのは、得策ではない。
・黒はAとB、どちらで応じるか。

【正解】
・黒1とケイマに受ける。
・白2から6には、黒7トンで圧迫する。
・白16までの定石のあと、黒17と構えて、黒好調。

【失敗】
・黒1のコスミだと、白2から6となり、黒が低位で不満。

【補足】初手天元について~依田紀基『基本布石事典 下』より


第3章 天元 第10型(516頁~)

【1~3譜(1-49)】

【1譜】(1-14)初手、天元
・黒1の天元は、コミ碁の現代ではほとんど見られないが、勢力主体の変化に富む布石である。
・白2、4の二連星に、黒は高目と目外しで威圧する。
・白6は変則なカカリ。
・白6に、黒のケイマ。
・黒11のコスミに、白12の三間ビラキは手堅い。
・黒13の天王山は逃がせず、逆に白13を許してはいけない。
・白14のカカリ。

【2譜】(14-24)白、模様を荒らす
・白14には、黒15のコスミが形。
※この布石は、双方ともに天元の石を常に意識していなければならない。
 ちょっとした不注意から、一気に形勢が傾く恐れがある。
・黒15に白16とはずしたのが臨機の一手。
・譜の白16とくれば、黒17以下21のツギまでは一本道である。
・白は、隅の一子を捨てて、かわりに22まで所帯を持った。
※黒はこの代償として右上隅から上辺にかけて、模様の構築に資することになる。
 天元の布石は、黒は単に一カ所の模様にこだわらないで、柔軟な考えが必要である。
・黒23とカカって、碁を広く持っていくところ。
・黒23には白24と割る。

【3譜】(24-49)黒は戦い歓迎
・白24の割り打ちは、ゆっくりした碁に持っていく工夫の一手である。
※戦いは黒の望むところであり、天元の石が働いてくる。
・白24に、黒は25と左方からツメた。
・白は26以下34まで、所帯を持った。
※白は弱い石をつくらないことが、天元を働かせない要諦である。
・黒35で両ガカリ。
・黒35には、白は36から38とオサえることができ、白46までで一段落。
・黒47から49と構えた。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、516頁~521頁)

【補足】山下敬吾氏の初手天元の実戦譜(vs林海峰)~依田紀基『基本布石事典 下』より


【2000年】第26期天元戦本戦
 白 九段 林海峰
 黒 六段 山下敬吾

山下敬吾vs林海峰

【参考譜】(1-64)
※コミ碁の現代、初手天元の碁はほとんど見られず、本局は珍しい。
・白6のカカリに黒7のカケは、天元を活かす道である。
・黒11のブツカリから13のオサエは非常手段。
※11で14のツギは、白(14、二)で甘いとみた。
・黒13に白14の切りから戦いに突入した。
・黒21以下白24に、黒25から27のケイマが形である。
・黒は51以下53、55と忙しく立ちまわる。

【1図】(天元をぼかす)
〇白6のカカリに黒7のカケは、天元を活かす道であり、これで、
・黒1、3のツケヒキは、白4、6と軽く展開され天元の一子がボケてくる。

【2図】(シメツケ)
〇黒11のブツカリから13のオサエは非常手段。11で14のツギは、白(14、二)で甘いとみた。白12で、
・白1のノビは、黒2、4の切りサガリから、6のオサエでシメツけられ、よくない。

【3図】(白のねらい筋)
〇黒13に白14の切りから戦いに突入したが、白18では、
・白1のカドがねらいの筋で、黒2にサガると、白3から5となって、黒ツブレ。

【4図】(白、空振り)
〇3図の黒2では、
・黒1のハネ一本が手筋で、
・白2に黒3以下7となれば、白のねらいは空振りに終わる。

【5図】(黒、甘い)
〇黒21以下白24に、黒25から27のケイマが形である。これで、
・黒1のトビは、白2以下黒7となり、黒▲の高目が甘くなる。
※また、白が厚くなり、天元の石も威力を失ってくる。

【6図】(天元働かず)
〇黒は51以下53、55と忙しく立ちまわる。55で、
・黒1、3と下辺に展開するのは、白4を利かされ下辺はまとまるが、肝心の天元が働かない。

(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、522頁~523頁)
第1章 天元の打ち方 2024年12月5日
 山下敬吾 ブログ 天元についての【補足】としても使える。

【参考】9路盤の天元の打ち方~安斎伸彰氏の著作より


 9路盤については、次の著作が参考になる。
〇安斎伸彰『【新版】決定版! 囲碁9路盤完全ガイド』マイナビ出版、2022年
 9路盤の解説については、後日に譲るとして、さしあたり、ここでは、9路盤の天元の打ち方について、触れておく。

第1章 天元の打ち方

 
【テーマ図】

・天元の一番のメリットは、9路盤のポイントであるマネ碁の心配がないこと。
・また、白の2手目候補が少なく、黒の3手目の候補は多いので、自分が得意とする形に持ち込みやすいのも、魅力。
・その代わり確定地がないので、地に甘くなりやすい欠点がある。
・大きく構えて入ってきた白石をいじめる展開も多いので、石を取る詰碁力が求められる。
・囲い合いより、攻めが好きな人におすすめ。

<白の初手>
・A:おすすめ、左右のヒラキを見合いにしたバランスの取れた打ち方。
・B:有力、少しひねった手で黒の応手を限定している意味がある。
・C:確実に隅を確保する手だが、少し偏った印象。
・△:疑問手。

【1図】(白の初手A)黒の候補手
・白1は一番初めに浮かぶバランスの取れた手。
・左右へのヒラキを見合いにしている。
・続いて黒からはA~Gなどの応手がある。
※どれも有力であるが、囲い合うならA、研究で優位に立ちたいならB、地力勝負したいなら、それ以外をおすすめ。

【2図】(黒の2手目A)一間トビの狙い
・黒1は対称形にして、右上から左上のどちらかを大きな黒地にしようとする打ち方。
・白2と右側へ打てば、黒3などと左上を囲う展開になる。
・白8まで互角の進行。
※黒5でA、白B、黒Cも有力な打ち方で難しい勝負。

【3図】(白の反発)要研究
・白1は囲い合いを拒否して、読みの勝負へ持ち込む打ち方。
※AとBを見合いに生きを確保して、右上に回る。
 右上の白にどれだけヨリツキがきくかの勝負。
・黒6でAは白8、黒7、白6で下辺と中央どちらかの黒石が取られてしまう。

【4図】(白よし)白よし
・黒1は前図を拒否した手であるが、やや妥協した印象。
・白10までの進行は白よさそう。
※黒5や7で下辺に先着したいところであるが、Aの傷があってうまくいかない。
 黒3ではAが自然な受けであるが、白9、黒B、白3と進んで、白が打ちやすそう。

【5図】(下ツケのねらい)白よし
・白1は黒に左右どちらを囲うのか、先に選ばせる打ち方。
・黒2と左を受ければ白3として、白7の利きを主張する。
・白11までの進行は、AとBが見合いで、白勝ちそう。
※黒は受けてばかりでは負けなので、どこかで反発しなくてはいけない。

【6図】(黒の反発)いい勝負
・黒1は有力な反発。
※下ツケの1目を持ち込みにさせようという手。
・黒7まで黒の主張が通ったようであるが、白8からハネツいで、白1目はまだアジ残り。
・白A、黒B、白Cの手段がある。
・本図は細かい勝負。白2では白8、黒2、白Dの反発もありそう。
(安斎伸彰『囲碁9路盤完全ガイド』マイナビ出版、2022年、16頁~19頁)

【参考】9路盤の実戦譜(初手天元)~謝依旻vs上野愛咲美


 私が9路盤に興味を持ったきっかけは、次のYou Tubeのサイトであった。
 先の安斎伸彰氏の著作でも明らかなように、9路盤では、初手天元が有力な打ち方である。
 「第2回桜ゴルフ杯 女流プロ9路盤大会」においても、謝依旻七段(黒番)と上野愛咲美女流名人(白番)との対局でも、初手天元が打たれていた。
 石倉昇九段の解説にもあるように、強いプロ棋士同士が9路盤を打つと、全体が詰碁になる。隅には「一合マス」形が現れるのである!

You Tube
〇日本棋院囲碁チャンネル
「9路盤を楽しもう!第2回桜ゴルフ杯 女流プロ9路盤大会」
(2024年3月18日付)

9路盤を楽しもう! 
第2回桜ゴルフ杯 女流プロ9路盤大会
主催:日本棋院
出場棋士:上野愛咲美女流名人、謝依旻七段、星合志保三段、安田明夏初段
対局日:2024年2月24日

解説 石倉昇九段、星合志保三段
<9路盤のメリット>
・意外と奥が深い
・入門指導に最適
・10分で一局楽しめる

<9路盤の初手>
・天元、星、高目の3点が有力

※9路盤は、強いプロ棋士同士が打つと、全体が詰碁になる。
➡下記の対局で、右下隅と左上隅に「一合マス」の形が現れていることに注目してほしい。
 コウになっても、9路盤の場合、ほとんどコウ材がない

1回戦Aブロック/第1局(1-60)
黒 謝依旻七段
白 上野愛咲美女流名人 白中押し勝ち





≪囲碁の布石~結城聡氏の場合≫

2024-12-01 18:00:11 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~結城聡氏の場合≫
(2024年12月1日)
 

【はじめに】


 本日12月1日の第72回NHK杯2回戦は、河野臨九段(黒番)と結城聡九段(白番)の対局で、司会は安田明夏さん、解説はマイケル・レドモンド九段という豪華な顔ぶれだった。
 レドモンド九段は、結城九段の棋風を評して、碁盤全体をつかった攻めに特徴があると言われた。確かに、石の働きを追求する棋風で、“武闘派”とも呼ばれ、攻めの得意な棋士が結城聡九段である。

 さて、今回のブログでは、囲碁の布石について、その結城聡九段の著作を参考にして、考えてみたい。
〇結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年
 この本は、数年前に知り合いのOさんから、図版も豊富でわかりやすく解説してある本だから、一読するように勧められた本である。そういう経緯があるので、ようやく紹介することができて、積年の“宿題”を果たせて、安堵している。
 目次を見てもわかるように、「第1章 基本編~序盤の目的」では、布石の目的、隅や三々や小目の特徴について、図版を交えながら、丁寧に解説してある。
 第2章から第4章までも基本編として、ヒラキ、攻めと根拠、厚みについて説明し、第5章および第6章では応用編として、実戦での序盤として、定石の応用、布石の一貫性、大ゲイマガカリについて、そして打ち込みや荒らしについて、解説している。
 加えて、コラムも読みごたえがあり、例えば、「上達するための3要素」(102頁)などは、囲碁に興味がある人は誰でも関心があるテーマであろう。
 また、「囲碁の用語解説」も付記されており、改めて参考になる。
 例えば、「サバキとは何ですか?」と、囲碁を知らない人に尋ねられたら、返答に窮するのではあるまいか。「サバキはツケよ」とか「サバキは軽く」といった具体的なイメージはつくにしても、きちんと言葉で「サバキ」を説明するには、この「囲碁の用語解説」が役に立つであろう。
 ちなみに、著者は、「サバキとは、相手の勢力圏で、自分の弱い石を厳しく攻められないようにすること」(8頁)といい、また、「石を攻められないように形を整えること」(178頁)という。
(S君、このブログを読んでくれてますか? 囲碁に興味があるなら、この本から読み始めることを、私もお勧めします)

【結城聡氏のプロフィール】
・兵庫県神戸市出身。昭和47年生まれ。関西棋院に所属。
・佐藤直男九段門下。昭和59年3月に入段し、平成9年4月に九段へ昇段。
・第36期天元位、第51期十段位、NHK杯5回優勝、テレビ囲碁アジア選手権戦準優勝。
・2007年度には、NHK囲碁講座の講師を務める。



【結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版はこちらから】




〇結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年

本書の目次は次のようになっている。
【目次】Contents
はじめに
本書の使い方
●おさらいしよう! 囲碁の用語解説①
第1章 基本編~序盤の目的
 布石の目的
 隅の効果
 隅の打ち方
 隅の特徴
 三々の特徴
 小目の特徴
 相手の隅へのカカリ
 カカリの方向と布石作戦
 実力チェック 問題1 解答解説

第2章 基本編~ヒラキの基本
 ヒラキの価値
 二間ビラキ
 段違いの三間ビラキ
 ヒラキの目安
 三線と四線の目安
 ワリ打ち
◎コラム「AIが囲碁の打ち方を変える!」
 実力チェック 問題1~3 解答解説

第3章 基本編~攻めと根拠
 攻めと戦い
 相手の石を封鎖
 ツメで根拠を奪う
 カカリへのハサミ
 ハサミ
◎コラム「上達するための3要素」
 実力チェック 問題1~3 解答解説

第4章 基本編~厚みを学ぶ
 厚みの考え方
 厚みのけん制
 強くない厚み
◎コラム「棋士という仕事」
 実力チェック 問題1~4 解答解説

第5章 応用編~実戦での序盤
 布石は判断と選択
 トビカケの定石
 模様を広げる手順
 定石の応用
 攻めの方向
 布石の一貫性
 カカリの使い分け
 小ゲイマガカリ
 大ゲイマガカリ
 模様の接点
◎コラム「試合とその種類」
 実力チェック 問題1~4 解答解説

第6章 応用編~序盤を制する技術
 攻めの打ち込み
 地を荒らす打ち込み
 三々への打ち込み
 辺への荒らし
 狙いのあるツメ
 先手を生かす
 ◎コラム「囲碁の歴史」
 実力チェック 問題1~4 解答解説
●おさらいしよう! 囲碁の用語解説②



さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・「はじめに」の要
・コラム「上達するための3要素」より
・囲碁の用語解説
・第1章 基本編~序盤の目的
・相手の隅へのカカリ~第1章 基本編
・カカリの方向と布石作戦~第1章 基本編
・二間ビラキ~第2章 基本編
・厚みの考え方~第4章 基本編
・布石は判断と選択~第5章 応用編
・布石の一貫性~第5章 応用編
・大ゲイマガカリ~第5章 応用編
・第6章 応用編~地を荒らす打ち込み
・第6章 応用編~三々への打ち込み
・【補足】結城聡氏の実戦譜(vs片岡聡)~依田紀基『基本布石事典 上』より
・【補足】結城聡氏の実戦譜(vs小林覚)~依田紀基『基本布石事典 下』より



「はじめに」の要点


・囲碁のルールはとても簡単。
 しかし初級者の多くは、あまりにもルールがシンプルなため、打ち方の自由度が高過ぎて何を考えればよいのか迷ってしまう。
 実は、碁は絶対的な正解がない場面がほとんどである。
 特に布石は、100点の手があちらこちらにあり、80点以上でも合格にするなら、大体どこに打ってもそれなりになることが多い。

〇布石を楽しむには、次の3つをできるようになること。
①現在の状況を判断すること。
②その状況に合わせて、自分なりの構想を立てること。
③自分の構想を実現するための、着手を選ぶこと。
 自分で考えることに慣れ、ちょっとコツをつかむだけでできるようになるという。

・よく「碁が強くなるには、たくさんの定石を覚えなければならないのでは?」と聞かれる。
 しかし、定石は自分の考えを実現するための手助けに過ぎないという。
 たくさんの定石の手順を暗記するだけでは意味がない。
 布石を上達させるためには、定石でできあがった形の意味を知ることのほうが大切。
 また、一手一手の意味をしっかり理解することで、一局を通して応用の利く読みの力を身につけることもできる。

・一局の碁は、人生にたとえることができるそうだ。
 特に布石は、「正解がない状況で、自分なりに考えて判断する」ということが似ている。
 布石の段階では、自由に構想を立て、判断することが何よりも大切だという。
(この楽しみを知ってもらえば、きっと囲碁の奥深い魅力に引き込まれるらしい)
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、2頁)

◎コラム「上達するための3要素」より


・「どうすれば強くなれますか?」 囲碁を覚えて少し楽しくなってくると、誰もが必ず思うことである。
 この質問への答えも決まっているそうだ。
 「プロの棋譜を並べる」
 「詰碁を解く」
 「実戦を積む」
 誰に聞いても返ってくる答えは、概ねこの3つである。
(「定石を覚える」というのは棋譜並べに近い要素になる。手筋などの問題を解くことは「詰碁」に含まれると言ってよい)
※本書のような布石の本を読むことは、棋譜を並べることの入り口にあたる。

・人によってどの勉強が効果的かは変わってくるが、大切なことは「適正なレベル」の勉強をすることである。
 少し考えたら解けるくらいの問題、少なくとも解くための手がかりくらいはわかるような問題を、繰り返し解くほうが力がつく。
・実戦を積む場合でも、10回対局して10勝したり、逆に10敗したりするような打ち方をしていても、なかなか強くならない。置き碁でも、10回打てば3~7勝くらいになる適正なハンデキャップで対局するのがよい。

◎自分の棋風に合うようなプロを見つける
・棋譜並べは少し趣が変わる。これは強い人の碁を並べることで、盤上のどこが大きいかをつかむ感覚を磨く練習である。
・もしも自分の棋風に合うようなプロを見つけることができれば、幸運である。
 あとは、その人の碁を繰り返し並べるのがよい。

※ただ、最近のプロの棋譜は、世界戦やAIの影響を受けていて、序盤から深い読みを必要とする難解な碁が多いので、並べても意味がよくわからないかもしれないという。
 だから、解説のついている碁を探したり、少し昔の碁や江戸時代の古碁などを並べるのも有効だとする。
 強い人がなぜそこに打ったのかを考え、大きさの感覚を感じることで、上達の効果が上がる。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、102頁)

囲碁の用語解説


〇囲碁の用語解説についても、触れてある。改めて、囲碁用語を問われると、答えにとまどいを覚えることも多い。以下、勉強になったものを一部紹介しておく。
・厚み…広い空間に対して、影響力の強い形のこと。
・打ち込み…相手のヒラキや地の中に単独で入っていくこと。
  相手の地を荒らしたり、相手を分断したりする目的で打たれる。
・エグる…相手の地や根拠を、その内側深くまで入り込んで荒らすこと。
・大場・急場…大場は自分の地になりそうな所を広げる手。急場は石の根拠に関わる手。
・コスミツケ…味方の石からナナメに打つコスミの形で、相手の石に接触する手。
・根拠…相手の勢力の中で孤立した石が、攻められても二眼を作ることができるようなスペース。
・サバキ…相手の勢力圏で、自分の弱い石を厳しく攻められないようにすること。
・スソ空き…碁盤の端の二線や一線の囲いが十分でないため、相手に入り込まれる隙が残っている状態。
・スベリ…相手の地などに、二線などの位の低いところから入ること。エグりよりは浅い感じ。
・競り合い…お互いの根拠のない石が、戦いながら中央に向かっていくような流れ。
・脱出…相手の石に囲まれてしまいそうな自分の石を、連絡しながら中央方面へ出て行くこと。
・断点…石のつながりが切られる心配のある場所のこと。
・ノビ…自分の石の隣に打つこと。連絡が確実だが、スピードは遅い。
  周囲の石の状況によって、サガリ、ハイ、オシなどと言う場合もある。
・ハネ出し…相手の連絡の薄みを突いて、分断したり相手の応手を強要したりする手筋。
・封鎖…隅や辺にいる相手の石を、周囲や中央へ出られないように止めること。
・ボウシ…相手の石から中央の方向へ、一路空けて自分の石を打つこと。
  相手の模様を制限したり、相手の石の進行を止める効果がある。
・連絡…石が相手に分断される心配がなくなること。石は連絡すると強くなることが多い。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、8頁、239頁)

第1章 基本編~序盤の目的


【布石の目的】
<ここでの視点!>
・碁を打ち始めたら、まず布石を打つ。 
 布石ですぐに負けになることはあまりなく、自由に打てるのが魅力。
 しかし、ある程度、効率よく打つ必要はある。
<石の効率>
・布石では、効率よく相手よりも大きな領域を制していくことを最初の目標とする。
・布石は空白の碁盤に、自分の領域を切り拓いていくものである。
〇地になりやすい隅から辺へと展開する。
・地を作るには、隅が効率のよい場所である。
 はじめのうちは、星を占めれば簡明。
・隅を占めたら、その次は辺へ展開する。その後は展開によって中央を占める。
※布石は、はじめの領域作りである。

【隅の効果】
<ここでの視点!>
・布石は自由度が高いため、多少はセオリーから外れた手を打っても、大丈夫。
・しかし、効率の悪い手をいくつも重ねると、少しずつ差がついてしまう。
<隅と辺の差>
・隅は一手である程度の空間を自分の勢力圏にすることができるが、辺に地を作るのは手間がかかる。
・隅のほうが辺よりも地になりやすいので、有利な布石。
(あとをうまく打てるなら、辺や中央を序盤から占める打ち方もある)
※囲碁は盤上に大きく地を作るゲームである。
 まず隅に先着することで、大きな地を作りやすくなる。
 隅と辺の地を作るときの効率の違いに注目してほしい。

【隅の打ち方】
<ここでの視点!>
・まず、隅を占めるのが効率がよいことはわかったであろう。
・その次は、具体的に隅のどこに打つのがよいか、それぞれの着点の特徴について説明しよう。
<星とその周辺から>
・空いている隅(空き隅)を占めるときに、最もよく打たれているのが、碁盤に印がついている星である。
・他に、星の周辺がよく打たれている。はじめは、星と小目、三々の3つを知っていればよく、基本である。その他に、目外し、高目は少し応用の打ち方であり、「5の五」はまれに打たれる。
※空き隅を占めるとき、隅に近づき過ぎると、中央から圧迫され、小さな地しか作れず不利になる。
※空き隅だけに限らず、序盤は三線や四線から占めるのがバランスがよく、地を広げやすい打ち方である。

【隅の特徴】
<ここでの視点!>
・隅の基本的な打ち方を見ていこう。
・星は一手で隅を占め、すぐに辺へと発展することが狙いで、大きな模様を作りやすい手である。反面、隅の地には少し隙が残る。
➡すぐに辺へ発展することができるのが魅力。隅を多少荒らされることは気にせず、どんどん自分の勢力圏を広げていくような作戦に適している。
・星の弱点は、三々で簡単に隅の地を荒らされてしまうこと。
※星の特徴は、辺へ発展しやすく、中央から圧迫されにくいこと。
 模様を広げる作戦などに相性がいい打ち方。

【三々の特徴】
<ここでの視点!>
・隅の占め方はいくつかあり、少しずつ特徴が違う。
 三々も隅を一手で占める利点があり、隅の地をしっかりと確保できる。
 一方、辺や中央への発展性では劣る。
<隅に入られる心配なし>
・三々は、星よりも隅に近い三線なので、隅がしっかり地になる。
・ここから少しずつ地を増やすこともできるし、根拠がしっかりしているので、他の場所へ回ることもできる。
・相手から隅に入られる心配がないので、初級者の人には安心な打ち方。
・その代わり、大模様を広げるような打ち方とは、相性がよくない。
※三々は、隅の地をしっかり確保する打ち方。その分、中央からは圧迫されやすくなる。
(三々は中央への発展力は少し乏しくなる)

【小目の特徴】
<ここでの視点!>
・小目は四線と三線の交点に打つので、実利と勢力のバランスがとれた打ち方。
・ただし、隅に2手かけることを狙っているため、運用が難しくなる。
<小目の特徴>
・小目は、もう一手かけるシマリを打つことを狙っている。
 小目からのシマリは、隅の実利をしっかりと確保しつつ、辺や中央への発展性を持つことができる理想形である。
・相手も、シマリを妨害するカカリを打ってくることが多くなる。
・シマリの特徴や使い分けは、有段者向けの内容になるので、はじめのうちは、小ゲイマジマリを練習するのがいいだろう。

※小目は、幅広い戦略が採れるが、カカリからの戦いが難しくなる。
※小目の目的は、もう一手かけてシマリを打つことである。
 小目からのシマリは、布石の好形のひとつである。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、10頁~27頁)

相手の隅へのカカリ~第1章 基本編より


【相手の隅へのカカリ】
<ここでの視点!>
・空き隅を占めたら、次は自分の隅をシマったり、辺へ展開したりする。
・また、相手の隅へ迫っていく「カカリ」という打ち方もある。

【第1図】
<星へのカカリ>
・黒1から白4までお互いに星を占めた
※これはよくある布石。
 次にA~Cと自分の勢力を広げたり、Dと相手の勢力に割って入る作戦などいろいろあるが、黒5のように相手の隅に迫っていく「カカリ」という打ち方が一番よく打たれている。
※カカリから色々な変化や定石につながるので、覚えるべきことが増えるが、戦略を考える楽しみがある。

【第2図】
<上辺を大きく広げる>
・黒▲のカカリに対しては、白6と隅を受けてくれば普通。
・黒も単に7などとヒラくよりも、黒▲のカカリがあるほうが上辺を大きく広げることができる。
【第3~4図】
【第3図】
<封鎖すれば有利>
・黒▲に対して白1などと手抜きしてきたら、黒2と反対側からもカカリ。
➡この手を「両ガカリ」と言う。
・白3とさらに手を抜いてきたら、黒4と封鎖する。
※カカリは、封鎖につながる積極策。
<ポイント>
・カカリは相手の石に迫っている。相手が放置してきたら、両ガカリから封鎖を狙うことができる。

【第4図】
<生きても効率が悪い>
・封鎖したときに、さらに白が手を抜くと、黒5の三々などで、白△(4, 四)を取って白が先着した左上隅を黒地にすることができる。
・白は5から17などと打てば生きるが、石の効率がとても悪くなる。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、28頁~31頁)

カカリの方向と布石作戦~第1章 基本編より


【カカリの方向と布石作戦】
<ここでの視点!>
・カカリとシマリの選択やカカリの方向で、布石の様相は変わってくる。
・特にカカリの方向、相手のカカリに対する受けとハサミの使い方は、のちの進行に影響する。

【第1図】
<布石の岐路>
・黒5のカカリに白6と受け、黒7とヒラいた場面。
※白の次の手は自由であるが、シマリ、カカリ、ヒラキという基本から考えると、A~Iなどが考えられる。この中で、Fは黒1と7の間が狭くて攻められる可能性が高いので、候補から外すことが多い。
※作戦の大きな柱は、自分の地を大きく広げる打ち方と、相手の地を小さく制限する打ち方の2通りである。

【第2~3図】
【第2図】
<模様作戦>
・白8とカカリ、黒9に白10とヒラけば、白の領域が広がる。
※このように大きな地になりそうな領域を「模様」と言う。
・白8から14までと打てば、白の模様は大きくなるが、同時に黒の模様も大きくなる。

【第3図】
<打ち込み>
・お互いに大模様を広げ合う進行は、先に打つ黒の模様のほうが大きくなりやすい傾向がある。
・第2図に続いて、黒が15から19までと広げてきたら、白20などと黒の模様に打ち込んでいくような進行になる。
<ポイント>
・自分の模様を広げようとすれば、相手の模様も広がる。
 模様比べは相手よりも大きく広げることを目指す。

【第4~5図】
【第4図】
<じっくりした布石>
・白1と右辺のほうからカカリ、黒2と受けてくれば、白3、5が基本定石のひとつ。
※この進行では、お互いに大きな模様を広げにくくなり、次に黒が目を向けるのは、黒(6, 十七)や(3, 十四)のカカリ、黒(17, 六)のシマリなどになる。

【第5図】
<2つの辺>
・続いて、黒6、8と下辺に打ち、白9から13までと右辺に打てば、黒は上辺と下辺、白は左辺と右辺に展開する布石となる。
※カカリの方向の選択で、このようにあとの進行が変わってくる。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、32頁~34頁)

二間ビラキ~第2章 基本編


第2章 基本編~ヒラキの基本
 二間ビラキ
【二間ビラキ】
・二間ビラキは、辺で孤立した石が根拠を得るための基本的なヒラキ。
・序盤ではできるだけ弱い石を作らないほうが有利で、プロの碁でもよく打たれている。

【第1図】
<辺で根拠>
・上辺へヒラく場合、黒1と辺の中心までヒラくのが基本。
・黒▲との距離が離れているのが気になるかもしれないが、白2と間に入り込まれても、黒3と反対側に二間ビラキをする余地が残っているのがポイント。
※これで黒1の石は上辺に根拠を作ることができ、白2の石は不安定なままであるから、やはり上辺は黒有利な状況となる。

【第2図】
<白は狭い>
・続いて、白は4の一間までしかヒラくことができない。
・黒5、7が第3章で説明する基本の攻め方であるが、白は根拠が狭いので、不安定。
※第1図のように入られても、やはり上辺は先着した黒が有利。

【第3図】
<近づき過ぎ>
・白1と二間ビラキにするのは、黒▲に近づき過ぎ。
・黒2とオサえられて石が接触したときに、黒石は2と黒▲の2つ、白石は1の1つなので、白のほうが不利。
・黒8までは一例であるが、黒有利。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、44頁~45頁)

厚みの考え方~第4章 基本編


第4章 基本編~厚みを学ぶ
・厚みの判断は布石の重要なポイント。
・厚みの価値をどのように判断するかで、その人の棋風が分かれると言ってもよい。
・まずは基本的な厚みの特徴を理解しよう。
・厚みの力を判断し、それをどのように働かせるかが第一歩。

【厚みの考え方】
<ここでの視点!>
・布石で最も悩ましいのが厚みの判断。
・厚みの判断ができるようになれば、布石の楽しみが一段と増してくる。
・まず、厚みの基本を学んでいこう。

【第1図】
<どこまでヒラく?>
・黒1から白16までとなった場面。
・黒が占めた右上隅の星に白が6とカカリ、黒7のハサミに白8と三々に入った定石。
※白は隅に10目っほどの地を確保した。
 黒はその代わりに上辺に向けて勢力を得た。
 この勢力が何目くらいの価値があるかを判断することは、とても難しい。
※厚みは、使い方によって、隅の白地の価値を上回ったり、下回ったりする。

【第2図】
<厚みと実利>
※白△は隅の地を確保しつつ、右辺に進出している。
 ただ、右辺は三線なので、すぐに大きな白模様には広がらない。
 一方の黒▲は上辺に大きな可能性を秘めている。
 黒▲をどこまで活用できるかが、布石のポイント。

【第3図】
<狭いヒラキ>
・黒1の二間ビラキは安全であるが、白2とツメられて、不満。
※黒は黒▲の強い石からたったの二間しかヒラいていないのに、白は白△一つから同じ幅を広げている。
 これでは、黒▲の厚みの働きは不十分。
<ポイント>
・厚みをどこまで働かせることができるかで、布石の優劣が決まってくる。

【第4図】
<なるべく広げる>
・黒▲の厚みを働かせるには、できるだけ幅を広げること。
・この局面では、黒1のカカリで、上辺を目一杯に広げる。
※上辺を大模様にしたときでも、上辺で戦いが起こったときでも、黒▲の厚みは働いてくる。

【第5図】
<大模様>
・白2の受けなら、黒3とトビ。
・白4と左辺を受ければ、黒5とケイマして、上辺の模様を広げながら、右辺の白の勢力をけん制する。
※黒3で無難にA(9, 四)と構えたとしても、上辺の幅は第3図よりも大きく広がっている。

【第6図】
<厚みに追い込んで攻める>
・第5図の白4で、本図の白1などと上辺に打ち込んできたら、黒2と止める。
※白1の石を、厚みのほうに追い込んで攻めることで、黒▲を有効に活用することができる。

【第7図】
<封鎖に成功>
・続いて、白3とヒラいても、黒4から6と止めて、封鎖することができる。
・白3の幅が狭く、白は生きるかどうかも、危ない形。
※これは一例であるが、相手の弱い石は自分の厚みのほうに追い込めば、封鎖しやすくなる。
<ポイント>
・厚みからは、とにかく一杯に広げることがポイント。
・相手が入ってくれば、有利に戦うことができる。

【第8図】
<攻めの連鎖>
※このあとは、まずは相手を封鎖して攻める。
・白を封鎖して、そのあとにもしも取ることができれば大成功であるし、仮に白7から11のように、上辺で小さく生きられたとしても、黒8、10で周囲の黒が強くなれば、黒十分。

【第9図】
<左辺へ展開>
・第8図の攻めの効果で、黒▲が厚みになった。
・今度は黒12とツメて、白△を黒▲の厚みに押しつける。
・白13と生きれば黒14と止めて、左辺が黒模様になった。
※白は上辺、左上と小さい地に何手もかかっており、本図も黒優勢。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、109頁~114頁)

第5章 応用編~実戦での序盤 布石は判断と選択


【第5章 応用編~実戦での序盤】
・布石は判断と選択の連続。
 盤面をどのように読み取るか、そして状況をどう判断し、着手をどのように選択するか。
 これが布石の考え方。
・定石を覚え、その手の意味を考え、着手に一貫性を持たせることで、石の効率がよくなる。

【布石は判断と選択】
<ここでの視点!>
・布石は判断と選択の連続。その中でも感覚的な判断が重要になる。
 ここまで身につけた考え方の基本をもとに決断してみよう。

【第1図】
<最初の決断>
・黒1から白4まで、お互いに隅の星を占め合った。
・黒5のカカリ、白6のハサミ、これらもひとつの決断ではあるが、この次の黒の打ち方によって、碁の流れが大きく変わることになる。
※まず、知識として黒Aの三々、黒Bのトビがあることを覚えてほしい。
※上級者になれば、黒Cの両ガカリも知っておくと便利。
<ポイント>
・まずは、どの定石が今の局面に、そして自分に合っているかを判断する。

【第2図】
<三々を選んだ>
・黒7の三々は、上辺の勢力を白に与え、黒は左上隅の地を確保する打ち方。
・黒15まで部分的には互角で、黒は実利を確保したため、模様を広げにくい碁になった。
※このあとの打ち方が大切になる。

【第3図】
<黒はAかBか?>
・続いて、白16と左下隅を構えてきた。これも普通に大きい手。
※ここで黒はAとBのどちらを選ぶかを判断してみよう。
 考える材料となるのは、もちろん左上隅の定石しかない。
<ポイント>
・布石が少し進行してきたら、これまでの打ち方に合った作戦を選ぶことがポイント。

【第4図】
<模様は広がりにくい>
・黒▲の二連星は、三連星に発展させて、右辺に大模様を作りやすくする構え。
・しかし、左上に白△の厚みがあり、左下も白□と構えられているので、この局面では右辺の黒地はあまり大きくなりそうにない。

【第5図】
<じっくり構える>
・したがって、黒1と構えてしっかり地を確保するのが普通。
・黒1では他にもA~Cなどが、じっくり打つときの大場。
・どれを選ぶかは気分で決めてよく、もし左上の白の厚みをけん制したければ、黒Aを選びます。

【第6図】
<実利作戦>
・続いて白2と右辺にワリ打ちをしてくれば、もう大模様を広げる碁にはならない。
※大きな競り合いも起こりにくそう。
※以下は一例だが、このような局面では、黒3、5と地を広げていく進行が適している。

【第7図】
<中規模の模様>
・第5図に続いて、白が左上隅の厚みを背景に白1、3と上辺を広げてきたら、黒2、4と右辺を構える。
・白が上辺、黒が右辺に中規模の模様を構える進行。
※右辺のほうが幅が広いので、黒に不満はない。
<ポイント>
・左上で実利を先行したので、少しずつ地を広げていく進行でも、黒は十分に白地に対抗できる。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、137頁~141頁)

トビカケの定石


【トビカケの定石】
<ここでの視点!>
・碁が始まったばかりなら、どのような定石を選んでも大きな優劣はつかない。
・定石後は、その特徴に合った打ち方をしていかないと、少しずつ形勢を損じてしまう

【第1図】
<模様の定石>
・黒1のトビから黒3とカケる定石もある。
※これは、左上隅や上辺の実利は白に与え、中央に大きな勢力を築くための定石。
・いくつかの変化を秘めている形であるが、黒11までの形が最もよく打たれている。
・白がここで12と左辺にヒラいてきたら、上辺の形の特徴を考え、それを生かすためにどこへ打つべきかを判断する。

【第2図】
<模様を広げて勢力を生かす>
・黒▲はまったく地を囲っていないが、碁盤の広いエリアに影響力を及ぼしている。
・それを最大に働かせるには、黒13の三連星で大模様を広げること。
➡こうなれば、黒▲の勢力が生きてくる。

【第3図】
<雄大な広がり>
・続いて白14とカカってきたら、黒15と受ける。
・模様を広げようとしているこの局面では、黒15と四線に受けるのが適している。
・白16と下辺を構えてきたら、黒17、19とさらに広げれば、黒▲が働いて、黒模様は雄大。
<ポイント>
・相手に実利を与え、自分が勢力を張る定石を選んだときには、大模様作戦が適している。

【第4図】
<ミスマッチ>
・第1図からの黒1はじっくりと構える作戦であるが、黒▲の厚みとマッチしていない。
・白2のワリ打ちから白6までと右辺で治まられてしまうと、黒▲を働かせる空間がなくなる。
※上辺や左上の白の実利に及ばなくなりそう。

【第5図】
<白の選択>
・白も第1図白12のヒラキで、先に白1と右辺のワリ打ちを選ぶことはできる。
・このときは黒2と左上の白△に迫ることで、上辺の勢力を生かす。
※黒は第3図の模様作戦と、本図の黒2を見合いにしているのである。

【第6図】
<厚みの効果が左辺に>
・続いて白3と封鎖を避け、白9までと左上に実利を確保して治まれば普通。
・黒は4から8まで左辺が固まったので、黒10のカカリに回る。
※上辺の厚みの効果が、左辺の黒地として現れた進行。

【第7図】
<下辺は遠過ぎる>
・白1のワリ打ちに黒2などと構えていると、白3とヒラかれて、やはり黒▲の働きが乏しくなる。
※上辺に築いた黒▲の勢力を働かすには、右辺か左辺のどちらかに回らなければいけない。
下辺では遠いのである。
<ポイント>
・勢力を生かすには、大模様を広げるか、相手の弱点に厳しく迫って攻めで得を図るか、この2つが有効。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、142頁~145頁)

布石の一貫性~第5章 応用編


【布石の一貫性】
<ここでの視点!>
・布石作戦は一貫性を持たせることで有効になる。
 そのためには、自分が前に打った手の意味を考えることが大切。
 最初は、なるべく1つの目標を意識するようにしよう。
≪棋譜≫【第1~4図(1-27)】

【第1図】
<カカリの布石>
・黒1、5のシマリと黒3の星の組み合わせの布石。
・白6のカカリに黒7とハサんだのは、右上のシマリの背中を生かして、右辺に模様を広げる狙い。
・白が8と三々に入ってかわしたので、黒9から白16までの定石になった。
※黒は隅の地を譲って右辺に勢力を築いた。
 この勢力を生かすためには、模様を大きく広げる必要がある。

【第2図】
<右辺に模様>
※右下隅の黒▲の形は、黒■を生かして右辺に黒模様を広げようという意図。
・したがって、黒17とこちらからカカって黒模様をさらに広げるのが、一貫性のある打ち方になる。

【第3図】
<両翼の模様に>
・白18の受けなら、黒19とヒラキ。
※上辺を構えることで黒模様は、右上隅のシマリを中心とした両翼になる。
 模様が大きくなればなるほど、右下隅の黒の厚みが働きやすくなり、白の実利を上回りやすくなる。
<ポイント>
・布石は一貫性を持たせることが大切。
・特に模様を広げる場合は、その重要性が増してくる。

【第4図】
<攻めが有効に>
・黒▲と打って模様を大きく広げておけば、白20、22と右辺に入られたときに、黒23と攻められる。
・白24なら、黒25、27と白を攻めながら、自然に上辺の黒地が大きくなる。
※作戦に一貫性がある布石だからである。

【第5図】
<より厳しい攻め>
・第4図の黒21で、黒1とハサんで根拠を奪い、右下の厚みに押しつけるように打つのは、より厳しい攻め方。
※白を攻めながら、黒は右上を中心に大きな黒地を固めることができそうで、やはり黒十分の進行。

【第6図】
<封鎖して大模様を作る>
・黒1のツメに白2とスベって根拠を確保しようとしてきたら、黒3のコスミツケから黒5と封鎖してもいいだろう。
※やはり黒▲が働いて、上辺から中央にかけて大模様ができる。
 これが一貫性のある布石の効果。

【第7図】
<上辺の石を攻める>
・第4図の白20で、本図白1と上辺に打ち込んできたら、黒2、4と攻める。
・白5には黒6と白に厳しく迫りながら、右辺を大きく囲う。
※黒はすべての手が、模様を広げる作戦の役に立っている。
<ポイント>
・一貫性を持って大きく広げた模様は、相手も容易には荒らせなくなる。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、158頁~161頁)

大ゲイマガカリ~第5章 応用編


【大ゲイマガカリ】
<ここでの視点!>
・大ゲイマガカリは、相手の勢力圏で戦いを避けたいときに使うカカリ。
・相手の応手次第で隅の地を譲ったりするが、自分の石が弱くなって攻められることはない。

【第1図】
<相手の厚みをけん制>
・黒1の小目から、黒5、7と上辺に構えた。
・黒5や7では右上隅をシマるのが普通であるが、本図の打ち方も基本から外れていない。
・白8に黒9とハサんで、白10のツケに黒11から勢力を作ったが、右辺の幅が広く空き過ぎ。
※黒5と上辺からカカったのに、白に上辺へ入られてしまい、一貫性を欠いている。
・白18が、右上の黒の勢力をけん制するためのカカリ。

【第2図】
<二間がぴったり>
・白△の大ゲイマガカリは、黒19のコスミで隅の地を確保してきたときに、白20と二間にヒラくのが狙い。
・隅の地は簡単に与えてしまうが、白20のヒラキが右上の厚みをけん制しているので、バランスが取れている。

【第3図】
<攻められる心配がない>
・続いて、黒21のツメなら、白22のトビから白24のように、白は攻められないように補強しながら、黒▲の厚みが働く幅を狭めていく。
※大ゲイマガカリは戦いを避け、本図のような進行を目指すカカリ方。
<ポイント>
・大ゲイマガカリは、相手の勢力圏で戦いを避け、相手の厚みを制限したいときに有力。

【第4図】
<ハサミにはツケ切り>
・白1の大ゲイマガカリに対して、黒が右上の厚みを働かせようとして黒2とハサんできたら、白3と隅にツケる相手が用意されている。
・黒4には白5と切り違えるのが定石。
※白には隅でサバく(石を攻められないように形を整える)ための手段がある。

【第5図】
<隅で治まる>
・続いて、黒6と8のアタリから黒10のツギが定石。
・以下、黒16まで、黒は白△を制して、右辺に厚みを築き、白は隅の実利を得る。
※黒もこちらのほうが右上との一貫性があり、右辺の模様の消し具合が勝負となる。
※白は隅を確保し、このあと右辺に入っていく作戦。

【第6図】
<黒の厚みが働く>
・白1のカカリは、黒▲を背景に黒2とハサまれそう。
・白3、5と中央に進出しても、黒▲が強いので、白Aとは反撃しにくい状況。
※白Aと打てないのでは、黒4、6と下辺に与えた黒地の分を取り返しにくくなる。

【第7図】
<やはりハサまれる>
・白1の小ゲイマガカリも、黒2とハサまれて、前図とほぼ同じ。
※相手の勢力圏の中で戦いを避けたいときには、大ゲイマガカリが適している。
<ポイント>
・相手の勢力圏でハサまれたときに、どう対応するかは大切。
・大ゲイマガカリなら、簡単に治まることができる。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、176頁~179頁)

第6章 応用編~地を荒らす打ち込み


【地を荒らす打ち込み】
<ここでの視点!>
・相手の勢力圏に入って地を荒らす打ち込みは、自分の勢力圏で相手を分断して攻める打ち込みとは、目的が違う。
・当然、打ち込みの場所やあとの打ち方も変わる。

【第1図】
<カカリの布石>
・黒は1、3、5と三連星の布石であるが、黒9で上辺にヒラかず、左辺からカカったのは、右辺を中心に模様を広げる三連星とは、やや一貫性を欠いた。
・白14から16と黒模様を右辺に限定されると、地を荒らされやすいという三連星の弱点が浮き上がる。
・黒19、21と左辺を構えて白番の局面。
※辺の大場は打ち終わり、右辺の黒模様へ荒らしに入るタイミング。

【第2図】
<荒らしは低く入る>
・荒らしの打ち込みの場合は、黒▲とは高さを変えて白22と三線に打つ。
※黒を分断する必要はなく、打ち込んだ石が根拠を作りやすくなることを最優先に考える。

【第3図】
<辺で根拠を持つ>
・黒23のツケで封鎖されてしまうが、白24から26と右辺に根拠を作っていく。
※荒らしの打ち込みは、ある程度相手に厚みを作られたり、攻められたりしても大丈夫なタイミングまで待ってから、打つことが大切。
<ポイント>
・地を荒らす打ち込みは、相手に封鎖されてもよいので、根拠を持つことが大切。

【第4図】
<荒らし成功>
・以下、黒27、29に白30から34まで、右辺を大きく荒らすことができた。
※その代わり、黒には黒▲という強い厚みができたが、すでに下辺に展開している白△や上辺白□が黒の厚みを打ち消している。

【第5図】
<中央へ逃げ出す>
・白1に黒2と辺を止めてきたら、白3と一間トビで中央に逃げる。
・黒2は一手遅れているので、楽に逃げられるし、やはり上辺や下辺に白が先着しているので、攻められても、それほど損をする心配はない。

【第6図】
<四線は根拠が不安>
・黒▲と同じ高さの四線に白1と打ち込めば封鎖はされにくいのだが、右辺での根拠が作りにくいという弱点がある。
・黒2とコスみ、白3に黒4と中央への出口を止めてくるのが、黒の攻めの形である。

【第7図】
<モタレ攻め>
・続いて白5と逃げれば、黒6、8がモタレ攻め(相手の石に直接手を出さずに攻める)というテクニック。
・白Aなら黒Bで封鎖されて苦しくなるし、白Bなら黒Cから下辺を破られそう。
※相手の地を荒らすときは、根拠を作りやすい三線が基本。
<ポイント>
・うまく根拠を作れないと攻められて不利になる。
・相手に封鎖されてもよいタイミングを図ることも大切。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、208頁~211頁)
 

第6章 応用編~三々への打ち込み


【三々への打ち込み】
<ここでの視点!>
・相手の地を荒らすとき、三々に入ることができれば、一番簡明で安全。
・辺の大場を打ち終え、局面が落ち着いたら三々に打ち込むタイミングを意識しよう。

【第1図】
<三々は安全な打ち込み>
・黒▲の星の場合、黒■と受けられても、まだ白1の三々がある。
・この局面では、右辺に深く入ったほうが荒らしの効果は上がるが、白1の三々なら安全に黒地を荒らすことができる。
※右辺に入る余地がないときは、より有効。
※白1の三々入りからの攻防と変化は、使えるようにしておこう。

【第2図】
<黒の選択>
・黒は2と遮ってくるので、白は3とハネ。
※ここでは黒に選択権があり、黒4と下辺を分断するか、黒Aと右辺を守るのかのどちらかを打ってくる。
※黒4なら白は分断されるが、隅で地を持って生きることができる。

【第3図】
<白は簡単に生きる>
・続いて白5とツギ。
・黒は断点を6と守らなければならないから、白7とスベリ。
※白は隅で生きるが、白△が弱くなって下辺は荒らされる。
 三々に入るのは、下辺よりも隅の価値が高いときに有力。
<ポイント>
・三々への打ち込みは、プロの実戦でもよく出てくる。
 簡明に根拠を作ることができる。

【第4図】
<下辺と連絡>
・白1の三々に黒2、白3のときに黒4と右辺のほうを守ってきたら、白5とカケツギ。
・白5と打てば下辺の白△とは連絡できており、隅の黒地を荒らしながら、下辺の白地を広げることができる。

【第5図】
<黒は右辺を重視>
・続いて、黒6、白7までで一段落。
・黒は右辺を守ったので、続けて黒8、10などと広げてきそう。
※なお、白Aと打たれると黒6の石は取られるが、まだ価値の小さい石。
 黒はBと止めておけば、何の問題はない。

【第6図】
<トビが三々を防ぐ形>
・第1図の白1でなく、本図のように白1と上辺を守ると、黒2のトビで白Aの三々を防がれてしまう。これはとても大きな手。
・次に黒Bの打ち込みを狙っており、白3と補強すれば黒4と右辺を広げられる。

【第7図】
<三々に守られると入りにくい>
※少し脱線するが、三々は隅の急所。
・右上隅は黒▲と三々を受けられているので、当然隅には入れない。
・それどころか、白1と右辺に入るのも少し危なく、黒2から8までと厳しく攻められると、生きにくくなる。
<ポイント>
・打ち込みのタイミングや着点を間違えると、苦しい戦いを強いられる。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、212頁~215頁)

【補足】結城聡氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典 上』より


【参考譜第31型2】結城聡vs片岡聡
【2001年】第26期碁聖戦本戦
 白 九段 片岡聡
 黒 九段 結城聡
【参考譜】(1-48)
・黒5の高いカカリもよく打たれる。
・白6のツケに黒7、9から11のシマリは働いた打ち方。
・白12から14のケイマが攻めの形である。
・黒13のコスミは常識的である(通常は譜の13である)。
・白14に黒15とツメ、白16のボウシから戦いとなる。
・白28はよい見当である。
・白30は形。

【1図】(バランス悪し)
〇白6のツケに黒7、9から11のシマリは働いた打ち方である。これで、
・定石どおり黒1とヒラくのは、たとえば白2以下6となると、黒のバランスがよくない。

【2図】(白、重い)
〇白12から14のケイマが攻めの形であり、12で、
・白1の割り打ちは、黒2のツメがぴったりで、白3以下7となるが、白の形はいかにも重い。

【3図】(黒、外勢)
〇黒13のコスミは常識的であるが、
・黒が外回りに徹するなら、黒1のカケも一策である。
・白2のハネに黒3のツギが手厚いが、甘さは否めない。

【4図】(方向が逆)
〇白14に黒15とツメ、白16のボウシから戦いとなるが、白22で、
・白1とトブのは石の方向が逆で、黒2、4から6と攻められる。

【5図】(難しい戦い)
〇白28はよい見当であり、
・白1とまともにカカるのは、黒2以下6と攻められ難しい戦いとなる。

【6図】(味消し)
〇白30は形。これで、
・白1のカカリは、黒2とシマられ味消し。
※また、後に黒aからgとからまれる恐れがある。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、328頁~329頁)

【補足】結城聡氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典 下』より


<小目・向かい小目>【参考譜】
【2006年】第31期棋聖戦リーグ
白 九段 小林覚
黒 九段 結城聡

【第32型 参考譜】(1-76)
・白6のヒラキに黒7とカカリ。
・白10のカカリに、黒11のコスミは根拠を与えない、力強い手。
・黒11となったとき、白12、14のツケ切りでサバく余地が生じる。
・黒13のケイマではハサミもありそう。
・黒19のトビに、白20のトビは省けない。
・黒21のボウシに、白22、24以下、脱出を図り、中盤の戦いに入った。

【1図】(模様を拡大)
〇白6のヒラキに黒7とカカったが、
・黒1とツメ、白2なら黒3、5とケイマで模様を拡大していくのもある。
・続いて、白aは黒bで理想形になるので、白bのボウシから消すことになろう。

【2図】(サバキの筋)
〇白10のカカリに、黒11のコスミは根拠を与えない、力強い手である。これでは、
・黒のケイマが定石であるが、白のカカリから実戦と同じように黒11となったとき、白12、14のツケ切りでサバく余地が生じる。

【3図】(利かし)
〇譜の白12のカカリでは、
・白1の肩ツキも目につく。
・かりに、黒2と受け、白3以下8となれば大変な利かしで、白9にカカって十分である。

【4図】(白の強行手段)
〇しかし、黒2では、
・黒2のコスミツケから4と切る強行手段がある。
・白5以下抵抗しても、黒10となっては白苦しい。
※黒13のケイマではAのハサミもありそうだが、白Bとかわされ、黒Cに白D、黒16、白Eと展開され、おもしろくない。

【5図】(つらい封鎖)
〇黒19のトビに、白20のトビは省けない。これで、
・白1の逃げを急ぐと、黒2から4と封鎖され、これは白はつらい。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、426頁~427頁)



≪囲碁の布石~瀬戸大樹氏の場合≫

2024-11-24 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~瀬戸大樹氏の場合≫
(2024年11月24日)

【はじめに】


 今回のブログでも、引き続き囲碁の布石について、次の著作を参考にして、考えてみたい。
〇瀬戸大樹『NHK囲碁シリーズ 布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年

・本書の目次および「はじめに」からもわかるように、本書の構成は、三連星、中国流、シマリと大別して、囲碁の布石について、解説している。
 本書の特徴としてを、次の点を私なりに指摘できる。
・三連星、中国流、シマリの特徴を最新の考え方も加えて、詳しく解説している。
・中には、手割りや死活まで言及されており、専門的な内容も含まれる。
(とりわけ、中国流の三々入りについての解説は氏ならではの解説であろう)
・古碁並べも立派な勉強法として、秀策の棋譜を取り上げている。
 著者自身、院生のころ秀策全集を5回並べたそうで、石の流れ、形を学ぶ点では良いとする。
 今回、著者の棋譜については、本書の随所で言及されている。
 私も、秀策について、手元にある次の著作を参考に調べ直してみたので、【補足】として加えておく。
〇福井正明『古典名局選集 秀麗秀策』日本棋院、1992年[2002年版]
〇大平修三『名局鑑賞室 道策から秀策まで・江戸時代の碁』日本棋院、2010年

※なお、中国流の弱点については、次のYou Tubeチャンネルが参考になる。
〇Kuroの碁
「【中盤に強くなる方必見】中国流の致命的な弱点を紹介します」
(2019年4月5日付)
※瀬戸大樹氏による中国流の解説についても、同じことを手割り、死活などについて詳細に説いておられるように思える。
 とりわけ、122頁4図~129頁18図の進行図、手割り、死活の図などを参照のこと。
 
【瀬戸大樹(せと・たいき)氏のプロフィール】
・1984年生まれ。三重県出身。関西棋院所属。
・2000年入段、2009年七段。
・2004年第1回中野杯優勝。2008年第4回産経プロ・アマトーナメント戦優勝。
・2010~12年本因坊戦リーグ入り。2011年棋聖戦リーグ入り。
〇院生のころ秀策全集を5回並べたそうだ。
 古碁並べは立派な勉強法。現代碁とはかなり雰囲気が異なるが、何も考えずに並べるだけでも、石の流れ、形を学ぶことができるという。かつて古碁は、棋士にとって必修科目だった。(233頁)
<著書>
・『バランス感覚で碁は勝てる シンプルに打つ6つのコツ』
<趣味>
・フットサル、旅行、中国語


【瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』(NHK出版)はこちらから】



〇瀬戸大樹『NHK囲碁シリーズ 布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年
本書の目次は次のようになっている。
【目次】
はじめに
第1章 三連星で優勢を築くテクニック
 盤上の「司令塔」をめざそう!
 三々入りと模様の関係
 正しいヒラキのススメ~白番の心構え
 【問題】

第2章 中国流の魅力と威力
 中国流は何でも対応可能な懐の深さが魅力
 中国流は「攻め」と「模様」だけではない
 中国流に挑む! 三々入りで挑む!
 ミニ中国流は得意の型で押し切れ!
 一路ズラすのが小目+ミニ中国流の最新形
 【問題】

第3章 シマリの考え方と実践法
 白のワリ打ちの後をどうするか
 シマリ方で碁は大きく変わる!
 秀策流温故知新~基本から現代版まで
 【問題】

コラム
①毎週火曜日はフットサルの日
②知られざる研究会の雰囲気
③個性豊かな研究会が面白い
④やっぱり習い事が好き!
⑤中国語をかじった効能




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・「はじめに」の要点
・三連星の特徴~第1章 三連星で優勢を築くテクニック
・【中国流の構えは打ち込みに強い】~第2章 中国流の魅力と威力
・【地を取って簡明を目指す中国流】~第2章 中国流の魅力と威力
・【中国流に挑む! 三々入りで挑む!】~第2章 中国流の魅力と威力
・【白のワリ打ちの後をどうするか】~第3章 シマリの考え方と実践法
・【大ゲイマジマリはスピードを意識せよ】~第3章 実戦譜 瀬戸大樹vs河英一
・第3章 秀策流温故知新~秀策vs師匠秀和
・【補足】秀策の実戦譜(vs太田雄蔵)~福井正明『古典名局選集 秀麗秀策』より
・【補足】秀策について~大平修三『名局鑑賞室 道策から秀策まで・江戸時代の碁』より






「はじめに」の要点


・布石がマンネリになっていないだろうか?
 まだ序盤だし、大して変わらないだろう、は大間違い!
 勝負はまだ先と思いがちな序盤だからこそ、勝ちに結びつくチャンスはたくさんある。
・本書では、布石の段階で素早く優位に立つための考え方と、実践的なテクニックを分かりやすく伝えた。
 序盤でしっかり目的を持ち、戦略を立てて、実行する。
(著者が大好きなサッカーでは、こうした役割を「司令塔」が行う。自分が司令塔になったつもりで、勝負に臨んでほしいという。)

※本書は、NHK囲碁講座の2012年4月号から2013年3月号までの付録「瀬戸大樹のこれであなたも司令塔」をもとに、問題を新しくしたうえで、布石についての新たな知見を補足して、再構成したものであるという。
 ・大きなテーマは三つ。
 三連星、中国流、そしてシマリ。
 四連星、ミニ中国流、秀策流についても取り上げた。
・各章最後の問題は、内容の理解を確認するために活用してほしい。
(瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、2頁~3頁)

三連星の特徴


三連星の特徴
【1図】(14頁)
〇三連星の布石
 黒1~白12まで

・攻めや模様形成に適しているのが三連星の特徴。
 ただし、これだけでは不十分であるという。
 三連星の弱点を忘れてはいけない。

【2図】(14頁)
〇三連星の弱点
 黒の構えに7つの弱点
・黒1がいい。
 ただし、守りではなく、模様に芯を入れる意識を持っていることが条件。
 驚きの事実を指摘しよう。
 三連星を基にしたこの黒の構えは、aからgまで、7か所の弱点を抱えている。
 白に打たれたら、どれも撃退することができないようだ。
 でも、三連星は廃れない。その理由は何か?

【3図】(15頁)
・守る意識がなければ、前図に続いて、白1の三々入りがありがたく感じられるはず。
※白に隅で生きられても、三連星の特徴を分かっている人はうれしくてたまらない。
 前図で指摘した本図のaやbの弱点が自動的に解消されている。
・また、白cの打ち込みはまったく脅威ではなくなった。
※三連星は守りの気持ちではなく、どんどん広げて相手に入ってもらってこその構えと肝に銘じておくこと。

【4図】(15頁)
☆右下隅の死活について、触れている。
・3図の黒8で、本図の1、3なら、部分的に眼形はない。
 しかし、白4から12が抵抗手段。
 黒の包囲網が耐えきれなくなる。
(瀬戸大樹『NHK囲碁シリーズ 布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、13頁~15頁)

第2章 中国流の魅力と威力


【中国流の構えは打ち込みに強い】
【基本図】中国流の特徴は?
・中国流の特徴を見ていく。
・右上の星、右下の小目、そして右辺の星からちょっぴりズレたところに構えるのが、中国流。
・右辺の構えがAの四線のときは、「高中国流」
 本図のように三線なら「低中国流」と呼ばれている。
(黒Bとずらすのもある)
※三連星も、中国流と同様、三手の構えなのであるが、おのおのの性格は大きく異なる。
➡中国流は四線と三線の組み合わせ、三連星は四線だけの構成。
・中国流は「地でも争える」ということ。
つまり、攻めや模様が作戦の中心だった三連星とは違い、中国流は柔軟に作戦を立てられる。これは大変便利。
・プロの間では、三連星よりもかなり人気のある布石作戦。
(低中国流のほうが人気がある。プロの勝負は、確実に地になりやすい構えが好き)

【1図】白1は黒の思うツボ
・右下には、白1とカカるのが部分的には常識。
※しかし、この常識、中国流の構えには通用しない。
・白1には黒2と受けておき、白3、5には黒6のサガリがいい。
※ここで白番だが、黒▲が白のヒラキを邪魔している。
・白7ではさすがに窮屈。
※白はせめてaまではヒラきたい。

【2図】定石として覚えておきたい
・1図に続いて、黒1のトビがお勧め。
・白2と頭を出してきたら、黒3、5を決め、黒7に構えて満足。
※満足の理由はもう一つ、白はまだ眼形がはっきりしていない。
※黒からaにコスむと、白は逃げ回らなければならない運命に。
 この急所、これもしっかり覚えておこう。

【3図】中国流基礎知識その1
・定石に詳しい人、2図に異論があるかもしれない。
2図の白6のツギでは、3図の白1とツケるのが手筋だと。
・実はこの局面だと、黒は喜んで2、4と応じる。
・白5のツギには黒6と、右辺から右上が2図より大きく成長する。
※いったいどういうことか。次図で種明かしをしよう。

【4図】中国流基礎知識その2
・黒1のノゾキに、白2、4のツケ引きを決めていいのは、こんな局面のとき。
※右上の形がこのように決まって黒の広がりが制限されていれば、黒3、5と固めても惜しくはない。
※3図と4図の違いはしっかりと把握しておいてほしい。中国流の基礎知識である。
(瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、87頁~89頁)

第2章 中国流の魅力と威力


【地を取って簡明を目指す中国流】

【基本図】白1、3は中国流ならでは
・中国流の「もう一つの顔」、知っているだろうか。
※中国流と聞くと、積極的な作戦が思い浮かぶ。
 ただ、三連星と違い、三線に二つの石を配置する中国流(低中国流)は、その分、地にカラいと主張できる。
 そこで、こんな作戦を提案する。
・白1から3は中国流特有の進行。

【1図】白がシノギの達人だったら…
・黒1から9が、よくある進行。
☆でも、もし相手がシノギの達人(笑)だったとしたら、どうするか?
右上をあっさりシノがれ、上辺には打ち込まれ…。
こんな展開には絶対にならない作戦。

【2図】黒は「実利で先行」と考える
・黒▲三子に注目。
 一間ジマリにヒラキが加わり、右下方面はほぼ黒地。
・白は左辺に二連星、下辺の白△二子も地には甘い構え。
※ということは、黒は地で先行していると主張することができる。これを長所と考えるのである!

【3図】黒1はaやbでもいい
※「模様作戦や攻めが苦手」という人にぜひ試してもらいたい。
➡それは、「地を取って簡明を目指す中国流」作戦!
・例えば、黒1のカカリ。
・白2なら黒3、5で満足。
※中国流から大模様という夢を捨て、右下に黒地、そしてさらに白の勢力を分散しながら、左辺にも所帯を持つのである。
※黒1はaやbでもいい。発想を転換しよう!

【4図】黒2が絶好!
・白1は少しも怖くない。
※黒▲と白△を交換してあるので、黒には余裕がある。
 当然、手抜きが正解!
 この後はaのハイと中央への逃げ出しを見合いにしておけばいい。
・そして黒2の三々が絶好。
※いきなりの三々入りをためらってはいけない。黒2は急所、そして絶好のタイミング。

【5図】白△が重複
・黒の三々入りに対して、白1からオサえると、黒2から白11までとなる。
※プロなら苦戦を意識するくらい、白のつらい取引。
・先手が黒に渡り、右上黒12に先行されただけではない。
 それは左辺の白△。先に白1から白11の定石ができあがっていたとしたら、白△とはツメない!

【6図】白△二子が中途半端
・白1はどうか。
・5図同様、定石どおり進んだとする。
・これも白11までで先手は黒のもの。
※さらに下辺白△二子が中途半端。先に左下の定石ができあがっていたとすれば、白△とは構えない!

【7図】穏やかな性格の人にお勧め
※白は4図の1で7図の白1と大場を目指すことになる。
・白5の後は左下黒6のカカリが最後の大場。
・以下黒10まで、黒は右辺と左辺に陣を取り、白は上辺と下辺に勢力圏。
※戦いや模様を張ったり張られたりするのが苦手な人には、もってこい。

【8図】黒は負けようがない
・白1と広げてきたら、どうするか?
※「上辺が大きく見える」ようなら、感覚に難あり。
・ここは黒2から囲い合いを目指してOK。
・黒8まで、上辺にできそうな白地よりも右辺にまとまりそうな黒地のほうがはるかに大きい。負けようがない形勢と言ってもいい。

【9図】やはり右辺が大きい
・白1、3とモタてきたら、じっと黒4と受けておき、aの傷を狙いたい。
・続いて白5なら黒6がいい見当。
※右辺を広げながら上辺白模様の成長を阻んでいる。
※なお、黒4を手抜きは白4、黒bの交換がつらい。
 地の損であるし、何より白の姿が厚くなる。

【10図】封鎖は避けたいもの
※3図の白4で10図の1とハサんできたらどうするか?
・定石どおり黒2から白9までと進んだとする。
(白9でaは右下方面にシチョウアタリを狙われる)
・すると黒は10で白の厚みをけん制する必要がある。
・そして白11へ。
※白には大模様の「芽」が出てきている。「簡明を目指す」作戦にはふさわしくない進行。
 原因は左上の黒が封鎖されたことにある。
 封鎖をどう避けるか?

【11図】ツケ引くのが簡明
・白1には単純に黒2、4とツケ引くのがいい。
※封鎖を避けながら、黒aの切りと黒bの三々が見合い。
 根拠をしっかり得ておけば、下辺白陣の模様化も怖くない。

【12図】黒4を忘れずに!
・白1なら、黒は2で地と根拠をしっかり確保しておくのがいい。
・白は3のヒラキが相場。
※ここで次の一手がすぐに思い浮かぶだろうか?
※白は左下の星から両翼にヒラいた構え。
・黒4の三々入りが急所。
・白15まで、左辺白は凝り形。下辺も甘い姿。
※先手も黒のもので、好きなところに打って優勢(笑)

【13図】黒好調の流れ
・黒1に白2とこちらを大事にしてきたら、黒3、5の攻めがピッタリ。
※白はしばらく放浪の旅が続く。
 この白を攻めていれば下辺白陣の模様化は難しいし、何より右辺黒陣が肥沃な大地になる。
 これも黒の大変打ちやすい局面。
(瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、106頁~112頁)

第2章 中国流の魅力と威力


【中国流に挑む! 三々入りで挑む!】
〇中国流布石の研究は驚くほど進んでいる。
【1図】白1が大流行!
・白1のカカリが主人公。
※この手自体は珍しくない。
 多いのは、白a、黒b、白c。白dの三連星もあるだろう。
 白1でb、e、fはやめたほうがいい。

【2図】なんと白3の三々入り!
・白1には黒2が一般的。
・ここで白3の三々入りがプロのあいだで大流行している。
※これでa、黒3、白bなら昔からあるのだが…

【3図】分かりやすくいくなら
・ごちゃごちゃしたのは嫌いという人は、黒1から3にオサエて先手を取る打ち方でも構わない。
※これが敗因になることはあり得ないから。
 ただ、今よりも強くなりたいなら、次図以降は必修。

【4図】白10が新機軸
・黒1、3と断固、白を分断する。
・白は6とスベッて根拠を確保。
・黒7のツケから9も当たり前の進行。
・驚いてほしいのは(笑)、白10のオサエ込み。
※まったく、碁はまだ始まったばかりだというのに、忙しく打つものである。


【5図】自然に見えて自然ではない?
※ここで黒は、白の連絡を許してはいけない。
〇断固として連携を断つべきであるが、その方法は二つある。
・まずは【5図】の黒1。
・これには白2と生きることになる。
・黒3(aやbも実戦例あり)と傷を守って、白は4へ。
※簡明で、自然な流れ。でも、プロはもっと石を働かせたくなる。

【6図】白が生きていれば黒4が自然
※手順を変えて考えてみる。
・白が1と先に生きたとする。
・黒が2と備えたときに、白3とオサエ込んできた。
※さあ、どうするか?
・隅の白はすでに生きているので、aではなく、4とハネて外側に力を向けたくなる。
※こうなれば、黒石にはまったく「ムダ」がない。

【7図】死活を知らないと打てない
・というわけで、プロの実戦では白1オサエ込みに、黒2のハネが多く見られる。
・それを受けて、白は3と上辺に展開。
※狙いは、「展開によっては隅も辺もオレのものにしちゃうぞ!」
 で、この作戦は仕掛けるほうも仕掛けられるほうも、隅の死活を正しく理解しておく必要がある。ここが第一関門。

【8図】様子見のハネ
・黒が隅の白を攻める、あるいは取りにいく場合、1のハネから始める。
・この局面での黒1は、様子見の雰囲気に近い。
・白aが利いているため、取ることはできないから。
・白2なら、黒3、5で再び白の出方をうかがう。

【9図】生きてもこれでは、白が失敗
※死活をおろそかにしていると、こんな場面で何が何だか分からなくなるもの。
・生きなければの意識が強くなり、白1、3を選択…。
※これは敗着になっても、おかしくない。
・黒2、4が先手で決まり。
※黒の外勢がご覧のようにすばらしいものに!
・黒6に先着されて、白はかなりリードを奪われた。

【10図】やはり黒は厚い
・せめて白1と出る抵抗くらいはしたいもの。
・それから白3と抜いて、白7までなら、前図よりは頑張ったことに。
※でも、とても合格とは言えない。
 黒はやはり厚く、主導権を握っている。生きてダメなら、どうするべきか…?
 生きてダメなら死んで打つ。この作戦を実行するには避けて通れない。
 最もハードルの高い関門。

【11図】死んで打つ!
・黒1のハネには白2、4と下辺の大どころを占める。
・黒は勢いで5と連打。
※これで右上の白に生きがない。
 さっき三々に入ったばかりなのに、これで全滅。でも、形勢はまったくの別物。
 このあとの進行を見た皆さんはきっと驚くはず。

【12図】右辺以外は真っ白な世界!
・白1のトビに黒2は省けない。
・白3に黒4のツギも絶対。
・そこで白5(他の構えでもOK)へ構えると、右辺以外は真っ白になっていることに気が付く。

【13図】手割りではひどいことに…
〇11図、12図がどういう理屈なのかを手順を変えて探ってみよう。これを手割りと言う。
※黒の中国流、白の二連星でスタート。
・白1のカカリから7までは、双方互角。
・ただ、この後が黒はいけない。黒8と12、14のハネツギは堅いところをさらに守った理屈。特に黒8は思いつかない一手。
・白は15へ。

【14図】差し引き、白のプラス
・白は右上に1、3と仕掛けたことになっている。これがひどい。
・白5、7も黒8までと換わり、マイナス。
※ただし、13図と14図を比較すると、黒のマイナスが大きいことは明白。
 つまり、白有利なワカレ。

【15図】じっと黒1が結論
〇それでは決定版を紹介しよう。
・7図の白3に続いて、黒は1とここをしっかり守っていくのが、現段階での結論。
・白はaなら生きであるが、最善は白2、4の下辺への展開。
 右上はやはり死んで打つのがいいというのであるから、面白い。

【16図】いつ仕掛けるかが難しい
※死んで打つというのは正しくないかもしれない。
・右上の白は黒から打っても、無条件で取られることはない。
・黒1のハネから3、5が最強であるが、ご覧のようにこのあと白からaに取ればコウ。
※互いにコウ材が見つけにくく、特に黒は仕掛けるタイミングが難しそう。

※隅の死活の変化はこれだけではない。知っておいてほしいのは、以下の二つ。
【17図】黒7では白生きてしまう
・黒1から3のツケもある。
・ただし、白6に黒7とツイではいけない!
・これは白8までで、白の無条件生き。

【18図】白4の価値が小さければ有力
・黒7では、本図の1、3が正しい。
・白も4と抜いて上辺が厚くなるので、簡単には決められないが、白4の抜きが働かない局面なら有力。
(瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、121頁~129頁)

第3章 シマリの考え方と実践法


第3章 シマリの考え方と実践法
 白のワリ打ちの後をどうするか

【基本図】ツメはaとbの2通り
・黒1の星に黒3、5の小ゲイマジマリを組み合わせる。
※黒番の布石作戦の中でかなりのシェアを持っている。
 スピード感もあり、それでいて実利もしっかり確保している。
(読者の中にも愛用者は多いと思う)
※誰がいつ打ち始めたのかは分からない。
 秀策流というような名前が付いていないことからも理由は想像できよう。

・黒1、3、5は、今日碁を覚えた人でも安心して打てる、その手軽さこそがセールスポイントと答えるだろう。
 そこにほんの少しのスパイスを効かせるだけで、この簡明布石作戦は輝きを増す。
 これも、黒1、3、5の大きな魅力。

・黒5の後も、戦略は立てやすい。
・白6のワリ打ちが予想しやすく、黒はaとbのいずれかのツメを選ぶかが、最初の大きな分岐点だった。
➡ところが近年、いろいろな考え方が見られるようになってきた。プロアマ問わず打たれてきた白6や黒aやbが、“当たり前”ではなくなってきた。この布石の新常識をマスターしよう。

※小ゲイマジマリが中心だったが…
【1図】白の目指す進行
・昔は白のワリ打ちに黒1のツメがほとんどだった。
(いえ、絶対という言葉を使ってもいいくらい)
・対して、白aは黒bがピッタリ。
・白は2のカカリまで進み、4、6を理想形としていた。
(黒番でこうなると叱られたそうだ)

【2図】黒攻勢のはずが…
・1図の黒5では、本図の1へ打ち込む一手。
・白2には黒3とコスんで白を分断し、黒13までで黒攻勢と言われた。
※ところが、近年は白の走った布石との意見が大変多くなってきた。

【3図】右上黒が不安材料
・2図の黒3で、本図の1と右辺に力を入れると、白2のツメがなかなか厳しい。
・黒は3と頭を出すしかないが、白4にも黒5が省けず、白6の好形であるシマリを許すことになる。
※注目したいのは、右上。
 白△四子は封鎖されたが、根拠は三々を占めているので、まず心配なし。
 問題なのは、黒の一団。
 単独で生きがあるのかどうか、右辺との連絡を断たれると不安。

【4図】大きさ比べも白の勝ち
・黒の財産の右辺を黒1、3と広げるのはどうだろう。
➡残念ながら好転しているとは言えない。
・白4の構えで大きさ比べではいい勝負。やはり右上の「差」は、埋まっていない。
(瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、186頁~188頁)

第3章 シマリの考え方と実践法


第3章 シマリの考え方と実践法
〇大ゲイマジマリはスピードを意識せよ。
【1譜】著者の実戦譜
・実戦例。1譜(1-24)
 黒 瀬戸大樹七段
 白 河英一五段

・黒11から15を決行し、21まで。
※このワカレ、棋士は白持ちが多いようであるが、著者は黒が好きだという(笑)
・白22の段階で黒地は約45目。
・当面は黒23以降のサバキが焦点。
※白Aなら黒B、白C、黒24、白D、黒Eで楽なのだが、許してくれるはずもなく……。
・白24はこの一手。

【参考図1】白の注文
・続いて、本図の黒1は、白12までで、黒が面白くない。白の注文。
※白は黒を攻めながら、左辺や下辺で得をしていく。
 右下白が膨らみ、黒は重い姿。

【参考図2】敵陣の中では「軽く」
※敵陣の中では「軽く」がセオリー。
・それに従うと、黒1もありそう。
・白2と受ければ、黒3が気持ちいい。
・白4に黒5で白を下にハワせれば、黒がきつい攻めにあうことはないだろう。
※そして見逃せないのが地合い。
 黒地約45目が白にプレッシャーとなりそうな局勢。

【2譜】(25~40)
・実戦で著者は、黒25の二間トビを選んだ。
※薄く見えるが、白が何か仕掛けてきたら、その力を利用するつもり。
・白26に黒27は好例。
※黒は下辺か左辺のどちらかに足を下ろせばいいとの考え。
 実利を先行しているので、バランスを取った意味合いもある。
≪棋譜≫瀬戸大樹vs河英一(1-40)


【参考図3】全部は助けなくていい
・黒25に対して、本図の白1なら黒2のボウシするつもり。
※こういう手、読者は苦手ではないだろうか。
 これが「軽い」ということ。
 黒は実利で先行しているので、白の勢力圏である左下では全滅さえしなければいい。
 そんな意識を持ってほしい。
 左下には三つ黒石がある。白が襲いかかってきたら、全部取られなければいいと考える。
 そうすれば、対処法はいくらでもある。これこそが「サバキ」である。

【3譜】(40~42)※40再掲
・白が40と力を蓄えたので、黒は41と左下の補強へ。
・これで左下の不安がなくなったため、白42には黒43から荒らしへと向える。
(瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、223頁~225頁)

第3章 秀策流温故知新~基本から現代版まで


秀策について
・江戸時代末期に活躍した本因坊秀策は、広島県の因島で生まれた。
・当時の御城碁(御前試合)において、19戦全勝という驚異的な記録を残したことでも知られている。

・御城碁が終わった後に勝敗を聞かれると、「先番でした」と答えたそうだ。
 つまり、「私が黒で負けると思いますか?」という意味。
(かなりの自信家ですね(笑)。でもこの逸話、真偽のほどは定かではないらしい。)

・秀策は34歳で早世する。原因は当時流行したコレラ。
 本因坊家でも患者が出て、看病にあたった秀策も感染してしまう。
(秀策の本当の性格、何となく想像できるよね。)

〇それでは、【基本図】を見てほしい。
・黒1、3が秀策流のはじめの一歩と言える。
・ここで白4が、当時は当たり前のように打たれていた。
・黒は手を抜き、左下を黒5と占めて、秀策流は完成。
※コミのない時代。普通に考えれば、先に打てる黒が有利。
 黒は早くも三隅を確保。秀策の先番が堅実無比と言われるゆえんである。

【基本図】秀策流はじめの一歩
【4図】オーソドックスな進行
・秀策流を敷いた後、白はやはりシマリを防いで、右下にカカるケースがほとんど。
・このときの黒1が「秀策のコスミ」として一般に広く知られている。
※秀策のコスミ は、白(15, 三)への攻め、そして右辺へのヒラキを見合いにしている。
・当時のオーソドックスな進行は、白2から6である。

※次に、秀策の実戦譜を鑑賞してみよう。
 師匠の本因坊秀和との対局である。
 およそ200年前の対局である。

〇秀策vs師匠秀和(1815[ママ、1851]年11月15日)
途中白66まで

1~227手まで
半コウ黒勝ツグ 黒4目勝ち

【1譜】(1~27)
・黒1、3、5の秀策流に師匠秀和は、白6、8とシマリを拒否した。
・秀策は黒9のカケで勢力を蓄え、黒11へ。
※黒の着手が分かりやすいのは、秀策流の特徴。
・白12は大斜ガケ。
・黒27までは一つの型。

【2譜】(28~66)
・黒は右辺白を取り、白は中央を重視するフリカワリ。
・まずは白66から秀和の打ち回しに注目。

【3譜】(66~71)
・フリカワリはさすがに黒が得をしたが、白66から師匠が貫禄を見せる。
・黒は69の守りが省けず、白70のシマリへ回って、石の流れは好調そのもの。

【4譜】(72~74)
・秀和の次の一手は白72の肩ツキ。
・黒73に白74と構えたところで全局を眺めてみると、「真っ白」という言葉がピッタリ。

【5譜】(75~91)
※いよいよ秀策の出番。秀策は分かりやすく局面を捉える能力が持ち味。それは当然、正しい形勢判断に基づいている。

・黒75はバランス感覚満点の一着。
・黒83以下は、黒91に先回りするための犠打と言っていい。
※このあたりの秀策は、正確な形勢判断により目標を設置。
 そこに最短距離でたどりつける着手を、驚くべき精度で繰り出していく。

【6譜】(92~105)
・左辺に黒が先着。
・秀和先生、白92から上辺黒に襲いかかる。
・しかし秀策は予想どおりと言わんばかりに、黒101まで。見事なシノギ。

【7譜・8譜】(106~227)
・白は中央右にあった黒の一団を飲み込み、大きな白地をまとめた。
・ただ、序盤から堅実に打ち進めていた黒を捉えることはできず、黒の4目勝ちで終局。
※もっとも、白がよく4目差にまで持っていったというのが、著者の率直な感想。
 やはり、秀策、さすが秀和。

<著者の感想>
・初めてこの碁を並べ、4譜の白72と出会った瞬間の驚きと感動は、はっきりと覚えているそうだ。そして、今でも、新鮮に感動できるという。
・碁はいい手を探すだけでなく、自分のイメージを素直に盤上に表すことも大切。
 4譜の白72は教えてくれたような気がするという。
(瀬戸大樹『NHK囲碁シリーズ 布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、232頁~236頁)

【補足】秀策の実戦譜(vs太田雄蔵)~福井正明『古典名局選集 秀麗秀策』より


第25局 雄蔵との三十番碁


第25局 雄蔵との三十番碁
嘉永6年(1853)2月2日
 於青地延年宅
 三十番碁第二局
 互先 七段 太田雄蔵
 先番 六段 本因坊秀策

・嘉永6年の新春、旗本赤井五郎作の屋敷に棋士が集まった。
 仙得、松和、雄蔵、算和の四傑と服部一だったという。
 談たまたま秀策の芸に及び、いま対等に打てるものはいないだろう、という結論が出かかったとき、先ほどから無言だった雄蔵が、同調できない、と発言した。雄蔵としては3年前に互先に打ち込まれたばかり。その後は打ち分けだから無理はない。
・そこで、五郎作が発起人となり、雄蔵・秀策の打ち込み三十番碁が始められた。
 御城碁に出場しない雄蔵にとって、手塩にかけた秀策と真剣に打つ機会はまたとないものだったろう。

【1~3譜】(1-139)秀策vs太田雄蔵 139手完 黒中押勝

【1譜】(1-50)<鋭い反撃>
・白8から黒15まで、当時としては斬新な感覚。
・黒31、33が鋭い反撃。
・黒41から45までわかりやすい碁になった。

【2譜】(51-100)<雄蔵のサバキ>
・白72と踏み込んで、攻めとサバキ。
・白84が好手で、白96のワリコミにつなげた。

【3譜】(101-139)<黒の名局>
・黒105と手を延ばし、黒109、白110とフリカワリ。
・白112の勝負手も、黒119と切断されて不発。
(福井正明『古典名局選集 秀麗秀策』日本棋院、1992年[2002年版]、150頁~153頁)

【補足】秀策について~大平修三『名局鑑賞室 道策から秀策まで・江戸時代の碁』より


第八局 晩秋の師弟対局(秀和・秀策)
【秀策について】
・秀策は七段にとどまったが、棋聖と仰がれている。
 碁は深く強靭なヨミに支えられて渋滞がなく、形勢判断のよさがその棋風を明るいものにしている。
 序盤で優位に立てば最後までその優位を持続して押しきり、劣勢の碁はあえて蛮力を発揮していずれは逆転している。
 したがって、棋力は群を抜き、丈和が「我が家は百五十年来の風が吹く」と喜んだように、しばしば道策と並び称されている。
・秀和・秀策の師弟対局は天保13年に秀策二子で始まり、嘉永4年まで、27局が残されている。
 内訳は二子局2局秀策1勝1敗。定先局25局、秀策17勝5敗1ジゴ2打掛けとなっている。
※残された碁譜を見るかぎり、秀策は秀和より強かったとはいいきれないものがあり、むしろ秀策の先をうまくこなして、細かい碁に持っていく秀和の、アマシの力量が目立つ。
 当然のことながら、この二人の師弟対局は血戦の要素が皆無なので、どこかのんびりしたムードが漂っているという。

【大平修三氏の解説】
・黒1、3、5が世に秀策流と呼ばれている布石の手法。
※先番の優位性を定着する布石として、秀策が体系的に多用した。
・しかし、これはよくいわれることであるが、黒7のコスミは3目程度でもいいから、あくまでも勝とうとする手。
※現代ではコミがあるから、黒は二間高バサミなどときびしくやっていく。
・白8は、趣向といってさしつかえない。

<名局>
〇本局は秀和、秀策27局中、26局目にあたる。
 嘉永年間、最後の数局はいずれも名局の名の高いものばかりで、堅実な秀策の黒とシノいであましていく秀和の白が顕著な対照を示している。
※秀和の碁はいわゆる玄人好みのする棋風であるが、秘めた力は名人の域にある。
 秀和の実子、秀栄名人(十七、十九世本因坊)が「オヤジとは二子置いても自信がないよ」と述懐しているのはさすがに冗談とはいえ、一分の実感もあるようだ。

<秀策の魅力>
・秀策は師匠思いで、孝心もあつく、奥さんをたいへん愛してもいたようだ。
・遺された書簡集を見れば、いかに優れた徳性を持っていたかがわかる。
・しかし、秀策の魅力は、にもかかわらず紅燈の巷に遊ぶのをいとわず、むろん好んだという所にあるという。祇園で「芸子買い候処大もて、よく鬱散致し候」などと手放しに歓ぶ一面と愛妻に対して怒った顔を見せたことが一度もないという一面とに何か人間的なはばが感じられるという。

嘉永4年(1851)10月22日 阿部甚三郎邸
 十四世   本因坊秀和
 4目勝 先 本因坊秀策
(大平修三『名局鑑賞室 道策から秀策まで・江戸時代の碁』日本棋院、2010年、207頁~233頁)