(2024年12月22日)
【はじめに】
今回も引き続き、囲碁の布石について、次の著作を参考にして、考えてみたい。
〇小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年
著者の小林覚九段といえば、先日のNHK杯の解説者をつとめておられた。
芝野虎丸九段と羽根直樹九段の対局前の紹介において、「殺し屋とシノギの名手」との評をされていた。
加えて、芝野九段、羽根九段そして司会の安田明夏さんが囲碁普及に努めておられる姿勢を高く評価されていた。
何を隠そう、小林覚九段といえば、日本棋院の前理事長という要職にあった棋士である。(現在は、武宮正樹九段の息子さんが理事長に就かれたようであるが)
今回紹介する布石の本や、他の著作を見る限り、やはり小林覚九段自身、囲碁の普及に尽力された自負のようなものが感じられる。このことは、次のような「はじめてのシリーズ」の著作を拝読しても、思う。
・『はじめての基本手筋』(棋苑図書)
・『はじめての基本定石』(棋苑図書)
・『はじめての基本死活』(棋苑図書)
本書の場合においても、初心者にもわかりやすく解説しようという姿勢がその文章表現からも感じられる。例えば、次のような記述が見られる。
「大場より急場。大場よりも拠点」
囲碁格言である。
どんな大場があろうとも、拠点作りのほうが大事。拠点の大事を教えてくれる格言。
拠点は雨や風から身を守ってくれる自分の家のようなもの。
ジプシーは夢としては楽しいでしょうが、現実はきびしいはず。
晴れた日のピクニックとはわけがちがう。
碁においても同じ。拠点のない石は根なし草、ジプシーを強制される。(96頁)
「孤立無援の戦い」
自分の信念をまげず、一人だけで戦うのは映画などでは美しい世界。
しかし、碁においては無謀の世界。碁においては、そんなヒーローは生まれない。
有利な場所で有利に戦いを進めていってこそ、有利な態勢に持ち込める。
「有利な場所で戦おう」
これは碁の戦いにおける大鉄則。(126頁)
今回は、氏の布石に関する著作に限って、紹介させていただく。
【小林覚(こばやし さとる)氏のプロフィール】
・昭和34年、長野で生まれる。
・昭和41年、木谷実九段に入門。昭和49年入段、昭和62年九段。
・昭和55、56年第4、5期留園杯連続優勝。
・昭和57年第13期新鋭戦優勝。
・昭和62年第2期NEC俊英戦優勝。
・平成2年第3期IBM杯優勝。
・平成2年第15から17期まで、三期連続で小林光一碁聖に挑戦。
・平成6年第19期棋聖戦九段戦優勝。
・平成7年第19期棋聖戦七番勝負で趙治勲棋聖に挑戦。四勝二敗で破り、棋聖位を奪取。
・同年第42回NHK杯戦初優勝。同年第20期碁聖位。
・平成8年第5期竜星戦優勝。
※兄弟は四人とも棋士。小林千寿五段、健二六段、隆之準棋士二段、姉弟の末弟。
<著書>
・『初段の壁を破る発想転換法』(棋苑図書ブックス)
・『はじめての基本手筋』(棋苑図書基本双書)
・『はじめての基本定石』(棋苑図書基本双書)
・『はじめての基本死活』(棋苑図書基本双書)
(機会があれば、今後、これらの著作についても紹介してみたい)
本書の目次は次のようになっている。
【もくじ】
はじめに
第1章 十九路盤布石の基本知識
1 九路盤と十九路盤のちがい
2 上級者の十九路盤布石
3 布石の順番原則
4 隅の打ちかた
5 シマリとカカリ
第2章 ヒラキの基本知識
1 ヒラキの基本は二間と三間
2 第三線と第四線
3 二間と三間はちがう
4 二立三析
5 大場
6 割り打ち
7 割り打ちの例外
8 拠点の急所・急場
復習問題
練習問題1~3
第3章 ヒラキの考えかたの基本
1 基本定石に学ぶヒラキの基本
<小目のツケヒキ基本定石><星の三間バサミ基本定石><星の一間トビ基本定石>
2 目的のちがう二つのヒラキ
3 拠点確保のヒラキ
アマの実戦例1~4
4 陣地拡大のヒラキ
練習問題1~3
第4章 有利な場所で戦おう
1 有利な場所とは?
アマの実戦例1~2
2 コスミツケの善悪を覚えよう
アマの実戦例1~2
3 有利に戦う二つの目のつけどころ
アマの実戦例1~3
練習問題1~2
第5章 有利に戦う二つの急所
1 有利に戦う二つの急所
2 連絡と切断の急所
アマの実戦例1~5
3 石の強弱を判断しよう
アマの実戦例1~3
4 拠点の急所
アマの実戦例1~3
練習問題1~2
本書のまとめ
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
・氏のプロフィール
・第1章 十九路盤布石の基本知識
・第2章 二間ビラキ
・第2章 二立三析~小目のツケヒキ基本定石と二立三析
・第3章 基本定石に学ぶヒラキの基本
<小目のツケヒキ基本定石>
<星の一間トビ基本定石>
<星の三間バサミ基本定石>
・第3章 3拠点確保のヒラキ
・第4章 有利な場所で戦おう
・第5章 有利に戦う二つの急所
・第5章 本書のまとめ
・【補足】小林覚氏の実戦譜(vs武宮正樹)~依田紀基『基本布石事典 上』より
・【補足】小林覚氏の実戦譜(vs趙治勲)~依田紀基『基本布石事典 下』より
第1章 十九路盤布石の基本知識
【1 九路盤と十九路盤のちがい】
・本書は入門や九路盤を早く卒業したいと考えている人、中級の仲間入りをしたけれど、まだ本格的な布石の勉強をしたことがない人、こんな実力の人が、どうすれば上級の仲間入りをできるのか。
本書はこのテーマに添って書いた布石の手引書であるという。
・九路盤で実戦を楽しんでいた人は、はじめて十九路盤を体験すると、途方もなく盤上が広がって、どこに打ってよいのか、とまどってしまうのがふつうである。
また、九路盤は、入門者であろうと、アマ有段者であろうと、プロが打とうが、誰が打っても、すぐ中盤の戦いになったり、終盤になる。
・ところが、十九路盤は広い。九路盤のように、いきなり立ちあがり早々、相手の石が接近したり、接触したりしない。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、10頁~11頁)
【2 上級者の十九路盤布石】
・入門したばかりのとき、九路盤でもどこに打ってよいのかわからなくて、頭がクラクラした経験があるはず。
でも、案ずるより生むがやすし。
思いきって実際に打っているうちに、だんだん何となくわかってくる。
十九路盤布石も、やっぱり同じ。
実際に自分の指で盤上に石を置く回数がふえるにしたがって、だんだん理解が深まる。
・大人はみな、結果や筋道を考えてから、行動を起こす。
年少者はまず打ってみる。
碁の場合は、あまり理屈や筋道ばかりを考えても、結論が出ないゲーム。
したがって、わからないなりに実際に打つのが、上達の早道であるという。
実際に打って、指先で覚える。それが早く上達するポイントだとする。
<上級者の布石>1~3図(1-13)
・みなさんも上達すれば、こんな布石が打てるようになる。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、12頁~13頁)
【3 布石の順番原則】
・碁は序盤(布石)、中盤、終盤を経て、結局、終局に至り、勝ち負けが決定する。
序盤、中盤、終盤のうち、本書のテーマは序盤、すなわち布石である。
布石は、人間の成長過程でいえば、しっかりした骨組の身体作りの段階。
その出来ぐあいによって、大人になってからの健康度やがんばりかたに影響が出る。
・布石を打つ順番は、つぎのような原則がある。
「<1>隅の先着。<2>隅のシマリとカカリ。<3>辺のヒラキ。<4>中央への展開。」
・隅➡辺➡中央の順番で打つ理由
9目の陣地を囲うのに、隅は六個、辺は九個、中央は十二個である。
隅は石数が一番少なく効率よく陣地を囲えるのがわかる。
これが隅から打ち始める理由である。
≪棋譜≫(17頁6図)
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、14頁~17頁)
【4 隅の打ちかた】
・実戦で一番よく打たれるのが、星と小目。
この二つが隅の先着法の基本形で、プロもアマも同じように愛用している。
・その他に、高目、目はずし、三々がある。
※以上、5種類の隅の先着法があるが、星と小目が基本形。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、18頁~19頁)
【5 シマリとカカリ】
・隅に先着したあと、もう一手打って隅を固めるのを、シマリという。
①隅の先着
②シマリとカカリ
隅を固めるシマリは布石の立ちあがり早々に打つのがふつう。
隅のシマリが大きい。となれば、そのシマリを妨害するカカリもまた大きい。
シマリとカカリは同じ価値がある。
・シマリには、小ゲイマジマリ、一間ジマリ、大ゲイマジマリなどがある。
・カカリには、小ゲイマガカリ、一間高ガカリなどがある。
※小目、高目、目はずしは、もう一手かけてシマれば、隅が陣地として固まる。
ところが、星の場合は、隅の陣地が固まらない。
三手かけて、ようやく隅は陣地確定。隅を確保しにくいという短所のかわり、辺に早く展開できるという長所がある。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、20頁~24頁)
第2章 二間ビラキ
【二間と三間はちがう】
・二間ビラキは確実に連絡。
・三間ビラキは敵が間に入ってくる余地を残している。
➡二間ビラキと三間ビラキは、こんなちがいがある。
このちがいを認識するのが大事。
【2図】(二間ビラキ:切断は無理)
・二間ビラキの切断は無理。
※ほぼ確実に連絡しているのが、二間ビラキの長所。
・たとえば、黒1、3と切断しようとしても、白4、6。
➡黒石を取ることができる。
【3図】(三間ビラキ:切断される可能性あり)
・三間ビラキは黒1と間に入ってこられる。
・一応、切断される可能性があるのが、三間ビラキ。
※白はaとか、bとか戦うことになる。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、32頁~33頁)
第2章 二立三析
二立三析(にりつさんせき)は、ヒラキの基本形を教えてくれる囲碁用語のひとつである。
二立とは二つ立った形。三析とは三間ビラキのことである。
二立三析のヒラキの形はどのようなものか?
【小目のツケヒキ基本定石と二立三析】
≪棋譜≫(36頁の1図、2図)
棋譜再生
・黒(16三)の小目から、黒1と相手の石にツケて3とヒク形からできる変化を、ツケヒキ定石と呼ぶ。
※プロアマを問わず、実戦で一番多く打たれる定石である。
・黒5のとき、白6と三間にヒラいて、定石は一段落する。
※白2(17六)と白4(16六)が「二立」の形である。そして白6の三間ビラキが「三析」。
この白の形を二立三析という。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、36頁~37頁)
第3章 基本定石に学ぶヒラキの基本
1 基本定石に学ぶヒラキの基本
二間と三間はヒラキの基本形である。
一体、どこまでヒラけるのか。なぜ、二間だったり三間だったりするのか。
ヒラキの基本を理解するのは大切である。
そこで、基本定石ではどんなヒラキかたをするのか。
基本定石を通して、ヒラキの基本を紹介しておく。
小目のツケヒキ基本定石
【小目のツケヒキ基本定石:堅ツギの二立三析の場合】
≪棋譜≫(76頁の1図、2図)
棋譜再生
・黒(16三)の小目から、黒1、3をツケヒキ定石と呼んでいる。
・つぎに白A(16六、白2の左)の堅ツギか、白B(16七)のカケツギか。
・ついで、白4の堅ツギの場合、白6の三間ビラキして、定石が一段落する。ここは、「二立三析」で、三間ビラキがヒラキの基本形である。
(なお、白C(16十、白6の左)の三間ビラキでもよい)
【二立三析の連絡の証明】
≪棋譜≫(77頁の3図、4図)
棋譜再生
☆二立の場合、三間ビラキが正しいのは、黒1と間を割ってきても白2で連絡しているからである。
※白の「二立」(二つの白石が中央に向かって並んでいる)のとき、白のヒラキは、「三析」(三間ビラキ)が基本形である。三間ビラキしても連係、連絡をしっかり確保しているからである。
【小目のツケヒキ基本定石:カケツギの場合】
≪棋譜≫(79頁の9図)
棋譜再生
・白1のカケツギも基本定石の一型である。
この場合は、白3までヒラける。
白1と白3の二子の形を大々ゲイマという。大々ゲイマは連絡形である。
【カケツギの場合の連絡の証明】
≪棋譜≫(79頁の10図)
棋譜再生
・黒1は白2で連絡確保である。
ただし、敵が接近してくると事情がかわる。
【黒が迫ってきた場合】
≪棋譜≫(80頁の12図)
棋譜再生
・黒が迫ってくると、事情がかわる。こんどは黒からの打ち込みが成立する。
・白としては、2とトンで守ることになる。
※白2と絶対に守る必要はなく、ほかに打ちたいところがあれば、白2を手抜きすればよい。ただ、黒の打ち込みが成立する。
【黒の打ち込みが成立】
≪棋譜≫(81頁の13図、14図、15図)
棋譜再生
・そのときは、黒1の打ち込みが成立する。黒1は急所である。白は黒1を覚悟しさえすればよい。
・白2、4には黒5である。
・ついで、白6は黒7、9である。黒9まで拠点をエグられるのは痛い。
※相手が接近してきたときは、前図白2の守りは常に好手になる。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、76頁~81頁)
星の一間トビ基本定石
【星の一間トビ基本定石】
≪棋譜≫(82頁の1図、2図)
棋譜再生
・星に対するカカリは白1が基本形である。
・黒2を一間受けとか、一間トビとかいう。
※黒2からできる定石を「星の一間トビ定石」とか「一間受け定石」とか呼ぶ。
(黒2とA(14三、黒2の一路下)は、実戦ではしばしば打たれる定石である)
・白3、黒4のあと、白5の二間ビラキで一段落である。
※先のツケヒキ基本定石の場合、三間ビラキが基本のヒラキであるが、星の一間トビ基本定石の場合、白1と一子なので二間ビラキが基本形になる。
ところが、三間ビラキは間を割られてしまう。
【三間ビラキの場合は間を割られる】
≪棋譜≫(83頁の3図)
棋譜再生
・白1の三間ビラキは、黒2と間を割られる。
・つぎに白3のトビは黒4と分断される。
※「連絡した石は強い。分断された石は弱くなる」。
これが連絡と切断の基本的な判断である。
※どこにヒラくかが大事なのは、敵に分断させないためである。
前図の白5の二間ビラキは、自分の連絡を確かめつつ、かつ自分の根拠を作っている。その手抜きは悪い。
二間ビラキを手抜きすると、黒に迫られる。
【黒に迫られると、根拠がない】
≪棋譜≫(83頁の4図)
棋譜再生
・黒1に迫られると、白に根拠がなくなる。
また、白の大々(だいだい)ゲイマのヒラキも定石である。
【大々ゲイマの定石】
≪棋譜≫(83頁の5図)
棋譜再生
・白1のヒラキも定石である。
・白(17六)と白1の大々ゲイマも連絡している。
【大々ゲイマの連絡の証明の一例】
≪棋譜≫(84頁の6図、7図)
棋譜再生
・白二子(17六、16十)の大々ゲイマは、目一杯がんばったヒラキかたで、ギリギリの形である。
※これ以上、間があくと、確実に相手に分断される。
☆連絡の証明の一例は次のようになる。
・黒1に対しては、白のツケがよい手である。つまり白2が好手。
⇒大々ゲイマの白二子は、白2で連絡できる。
・黒3は白4としっかりツナぐのが大切である。
・黒5は白6である。
⇒これで白は連絡している。
大々ゲイマは連絡の限界である。つまりギリギリの連絡形である。
というのは、これ以上のヒラキは確実に分断されるからである。
たとえば、大々ゲイマよりもう一路広くヒラいた場合を考えてみよう。
【ヒラキの限界を越えている:分断】
≪棋譜≫(87頁の14図)入力
棋譜再生
・白1とヒラくのは、黒2あたりに割られ、たちまち分断されてしまう。
・黒2のつぎに、白3は黒4と分断される。
※ヒラくときは常に連絡を考えておくのが大切である。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、82頁~87頁)
星の三間バサミ基本定石
星の一間トビ基本定石と星の三間バサミ基本定石を比較してみよう。
まず、一間トビ定石のほうを図示する。
【一間トビ基本定石】
≪棋譜≫(88頁の1図)
棋譜再生
・黒2の一間トビ基本定石の場合、白3とスベったら、白5の二間ビラキがヒラキの基本形である。
ほかに、上図の白3(18四)のスベリを打たず、次図のように大々ゲイマにヒラくのも定石である。
【一間トビ定石:大々ゲイマ】
≪棋譜≫(88頁の2図)
棋譜再生
・白のヒラキは大々ゲイマが限度。
これ以上広くヒラくのは分断されてしまう。
一方、黒は一間トビでなく、ハサミも考えられる。
上図の一間トビでは、白に右辺に拠点を持たれる。黒がそれをイヤがるとき、挟撃する。
【星の三間バサミ基本定石】
≪棋譜≫(89頁の3図、4図、5図)
棋譜再生
・黒2は白1から三路離れているので、三間バサミという。
※黒2がA(16十、黒2の左)なら、三間高バサミである。
・黒2の三間バサミに対する白の打ちかたは、B(17三、三々という)かC(14三)がふつうである。
・白が三々に入ってきたとき、黒4、6とつづく。
・そして白7から黒12までで基本定石完了である。
ここで一段落する。
前図の白1と黒2のとき、白が両ガカリした場合を考えてみよう。
【白の両ガカリにはコスミが簡明】
≪棋譜≫(90頁~91頁の6図、7図、8図)
棋譜再生
・白(17六)と白1、両方からカカっているので、両ガカリと呼ぶ。
・白1に対して、黒は中央のほうに出るのが大切な打ちかたである。つまり、中央方面に出て、封鎖されないようにするのが大事である。
※白1に、黒A(14四)やB(16六)と打って中央に出る打ちかたもあるが、著者は、黒2のコスミが簡明であるのですすめている。
・黒2のコスミで中央に首を出して、白を分断する。
・白はふつう白3と三々に打ってくる。
・それに対して、黒4は右辺を拡大したいときの打ちかたである。
・白5に黒6とトンで、右辺を拡大するという考えを継続していく。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、88頁~91頁)
第3章 3拠点確保のヒラキ
【3拠点確保のヒラキ】
・ヒラキには、拠点確保と陣地拡大。
性格のちがう二つのヒラキがある。
いずれも布石においては大切であるが、著者は拠点確保のヒラキをしっかり理解することが大事であると考えている。
【1図】(二間ビラキの一手)
・黒2の二間ビラキは、黒▲との連絡と最低限の拠点を確保して、この一手。
・黒2で……
【2図】(拠点なし)
・黒2などは、白3が好点。
※黒は根なし草になる。
・黒4と中央に逃げるのでは、失敗。
<アマの実戦例1>
【アマの実戦例1】
・白1、黒2となったのは、アマ中級者の実戦例。
・黒2の絶好点によって、白三子は拠点がなくなり、中央に逃走せざるをえない。
【1図】(盤中で一番大きい白1)
・ここは白1と拠点を確保する一手。
※盤中で一番大きいところ。
拠点、つまり自分の家がないと、存分に戦えない。
【2図】(中級者の実戦)
・白1、黒2となったのが、アマ中級者同士の実戦進行。
・白三子は拠点がなくなったので、黒3と逃げ出さざるをえなくなり、黒4、6まで進行した。
※この結果、白は下辺と上辺に拠点のない石が出現。
黒は拠点のない一団がどこにもない。
となれば、黒成功の布石と判断できる。
※その発端は、白1。
白1は一級の陣地拡大のヒラキ。にもかかわらず、白が布石に失敗したのは、白1に原因がある。
「大場より急場。大場よりも拠点」
囲碁格言である。
どんな大場があろうとも、拠点作りのほうが大事。拠点の大事を教えてくれる格言。
拠点は雨や風から身を守ってくれる自分の家のようなもの。
ジプシーは夢としては楽しいでしょうが、現実はきびしいはず。
晴れた日のピクニックとはわけがちがう。
碁においても同じ。拠点のない石は根なし草、ジプシーを強制される。
【3図】(拠点確保の一手)
・したがって、ここは白1の拠点確保の一手。
・黒2の受けなら白3。
※下辺の白三子、上辺の白一子。いずれの拠点も確保した。
白は2図とはまるで状況がちがい、好調の布石。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、94頁~97頁)
第4章 有利な場所で戦おう
【有利な場所とは?】
・「孤立無援の戦い」
自分の信念をまげず、一人だけで戦うのは映画などでは美しい世界。
しかし、碁においては無謀の世界。碁においては、そんなヒーローは生まれない。
有利な場所で有利に戦いを進めていってこそ、有利な態勢に持ち込める。
「有利な場所で戦おう」
これは碁の戦いにおける大鉄則。
にもかかわらず、盤上においては、かなり無謀な戦いを挑んでいるのが、みなさんの現実。
(この点に関しては、級位者ばかりでなく、有段者もまた、同じことがいえるかもしれない)
・まずは有利な場所、不利な場所。戦う前に判断する目のつけどころから。
【1図】(立派な布石)
・白12につづいて、
【2図】(中級者の実戦)
・白6までは申し分のない布石。
(プロとまったく同じ)
【3図】(不利な場所で戦う黒1)
・ところが、ここらかはアマ級位者。
・黒は1と下辺になぐり込んだ。何たることか!
※陣地が大きくなりかけると、黒1などとなぐり込みたくなるのが、アマの通例であるが、戦いの鉄則違反。
【4図】(下辺は一番不利な場所)
※有利か不利か、彼我の力関係を判断する簡便な方法は、石数を数えること。
下辺は白△から数えても三子。黒1と打った時点で「三対一」であるから、黒が圧倒的な不利な場所。
盤上を見渡して、黒が一番不利な場所が下辺。
逆に白から見れば、一番有利な場所が下辺。
白にとっては一番有利な場所で戦えるわけで、黒1は「飛んで火に入る夏の虫」なのである。
【5図】(最善の攻め)
・白1、3が最善の攻め。
【6図】(好調)
・ついで、黒1の逃げに白2と陣地を固めながら、攻める態勢を固めていく。
※黒は下辺を少々、荒らしたものの、拠点のない浮き石を作って、黒不利の戦い。
【7図】(立派な布石)
・ここは黒1、3。立派な布石。
※下辺は白の陣地になったが、黒は6図と逆に左辺の陣地を拡大していく。
【8図】(黒にもいい分がある布陣)
・初級、中級のみなさんだけでなく、アマ全般の傾向だが、陣地が少し拡大されると、他人の庭が広く、立派に見えるようだ。
➡黒1でaがそれ。まだ陣地拡大の一級地点が残っているのに、なぐり込む傾向が強い。
※そうした気持ちになったとき、「まてよ、有利な場所で戦おう」と思い直してほしい。
有利か不利か、その方面の石数を比べてみれば、大筋の強弱はつかめる。
※もうひとつ、大事なこと。
黒1によって、左辺が黒の陣地になる点である。
つまり、白2と下辺を白の陣地にさせても、黒にもいい分があるという点である。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、126頁~130頁)
第5章 有利に戦う二つの急所
【有利に戦う二つの急所】
〇「有利な場所で有利な戦いを展開しよう」
これは戦いの大鉄則。
そのためには戦いを仕掛ける前、あるいは戦いを仕掛けられたとき、その方面が「有利な場所か不利な場所か」判断するのが大事。
・その簡単な方法として、「石数強弱判定法」を第4章で示した。
・さらに、「有利に戦う目のつけどころ」として、「連絡と切断」「拠点の攻防」、二つの急所を見逃すなと説明した。
・碁は陣地拡大のあと、すぐに戦いになる。
その戦い上手になるのが、上達の秘訣である。
戦いのポイントさえつかめば、アッという間に上級者になる。
また、上級者が第4章と第5章の基本をつかめば、初段になれるという。
それほど戦いは上達の急所なのである。
【1図】(黒1は悪手)
・石数で強弱を判断するまでもなく、下辺は白の有利な場所。
・敵の有利な場所に、あえて黒1となぐり込む理由はどこにもない。
にもかかわらず、黒1となぐり込んだため、苦戦に陥ったのが、アマ中級者同士の実戦。
【2図】(コスミツケの善悪判断が大切)
・自分が有利な場所では、白1のコスミツケが99パーセント好手になる。
・白1は黒に拠点作りを許さないテクニック。
・白3のとき、白△が黒のヒラキを妨害しているのが、ポイント。
【3図】(立派な布石)
・ここは黒1と左辺の陣地を拡大するのが好手。
・陣地を拡大して、有利の場所で戦う準備をすべきだった。
〇有利に戦う二つの急所は、「連絡と切断」と(拠点の攻防)
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、178頁~179頁)
第5章 本書のまとめ
・第1章、第2章、第3章までは、陣地拡大や拠点確保のヒラキについて説明した。
【1図】(陣地拡大のヒラキ)
・白1から黒4までは、最初の陣地拡大のヒラキ。
※こうした際は、五間ビラキや六間ビラキができる。
【2図】(拠点確保のヒラキ)
・ところが、相手の石数が多いとき、拠点確保の白1は二間ビラキが基本形。
・白1は白△と連絡しつつ、最低限の拠点を確保している。
※陣地拡大のヒラキがおわると、こんどは戦いが起こる可能性が強くなる。
そうした際、自分の有利な場所で戦い、不利な場所では戦いを回避するのが得策。
【3図】(無謀の挑戦)
・にもかかわらず、みなさんは黒1などと不利な場所で戦いたがる。
・石数強弱判定法をするまでもなく、黒1は無理。
・黒1はaと左辺拡大が好判断。
【4図】(好手)
・ここでは拠点を作らせない白1が好手。
・黒2に白3と攻め立てて、好調。
※有利に戦うための目のつけどころは、「連絡と切断」「拠点の攻防」の二つ。
これが有利に戦う二つの急所になっている。
【5図】(一団の石の連絡と切断)
※連絡と切断といっても、本当に大切なのは、中央に出ること。
・たとえば、黒1と中央に首を出すことによって、白二子を分断できる。
・黒1でaなどは白1。これで白二子は連絡。黒▲が孤立する。
【6図】(拠点の急所)
・こうした形は白12とヒラいて、拠点の確保に先行するのが、大切。
・逆に、黒1あたりにハサまれると、拠点がない弱石になるからである。
※以上が、本書のまとめ。
もう十九路盤布石を十二分にマスターしたはず。
あとは、実戦を打つことで、マスターしたことを応用するように努力してほしい。
(小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年、220頁~222頁)
【補足】小林覚氏の実戦譜(vs武宮正樹)~依田紀基『基本布石事典 上』より
【参考譜】(1-54)小林覚vs武宮正樹
【1999年】第26期天元戦本戦
白 九段 武宮正樹
黒 九段 小林覚
【参考譜】(1-54)
・黒3から5のミニミニ中国流に対し、白6大ゲイマとシマって、黒の出方をうかがうのは冷静な打ち方。譜の白6はミニ中国流を回避した。
・黒7のケイマは、黒5のヒラキに連携したものである。
※黒は5から7とフトコロを広く構えるのが、ミニミニ中国流の特長である。
・白10のコスミは、三連星を働かせようというもの。
・黒31に白32は気合の反発。
【1図】(ミニ中国流)
〇白6の大ゲイマで、
・白1の割り打ちなら、黒2のカカリで白3の受けと換わり、ミニ中国流に戻る。
・黒2はaのツメも有力である。
【2図】(おもしろ味なし)
〇黒7のケイマは、黒5のヒラキに連携したものである。これで、
・黒1の一間ジマリは手堅いが、白2と割り打たれはおもしろ味がない。
【3図】(白、働き)
〇白10のコスミは、三連星を働かせようというもの。黒17で、
・先に黒1、3のツケヒくと、白5とツギ、黒5、7には白aとツガず、8のコスミにまわる。
※これは白働きである。
【4図】(黒、重い)
〇黒31に白32は気合の反発。これでAは、黒47ツケにまわられる。黒47で、
・黒1のカカリは、白2以下黒7まで実戦よりも、黒は重い。
【5図】(白、サバキ)黒9ツグ
〇黒53コスミで、
・黒1のトビは、白2ツケ以下サバかれる。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、218頁~219頁)
【補足】小林覚氏の実戦譜(vs趙治勲)~依田紀基『基本布石事典 下』より
第28型 【参考譜1】
1995年 第19期棋聖戦第5局
白九段 小林覚
黒九段 趙治勲
第28型 【参考譜1】(1-59)
・白は6のカカリから8、10と手厚く運んだが、8では手を抜いてAとヒラき、黒9、白10、黒Bに白Cと足早に展開するのも一策。
・白12のハサミに、黒13、15と下辺を割って足早の運び。
・白16と備えたのは手厚い。
・黒17に、白18は不利を承知で打ち込んだものである。
・譜の黒39のカカリを急ぐ。
・白40の大ゲイマに、黒41と入った。
・黒41と入れば、43以下生きはあるものの、周囲の黒が手薄くなってくる。
【1図】(これも一局)
〇白16と備えたのは手厚いが、
・白1のヒラキも好点である。
・しかし、黒2以下の動き出しも大きく、以下黒12まで、これも一局である。
【2図】(穏健路線)
〇黒17に、白18は不利を承知で打ち込んだものであるが、これは、
・白1のボウシくらいなら穏健路線で、黒2に白3が好形であった。
【3図】(黒、名調子)
・上辺にさわらず白1と右辺に向かうと、黒2のトビが絶好点になる。
・白3に、黒4、6と自然に左辺を囲って名調子となる。
【4図】(効果が薄い)
〇黒37、白38のとき、
・すぐ黒1、3とハミ出すのは、白4のハネ一本から6の大場にまわられ、黒つまらない。
・ここは、譜の黒39のカカリを急ぐ。
【5図】(立派なヒラキ)
〇白40の大ゲイマに、黒41と入ったが、
・黒1のヒラキも立派。
・白2、4と隅を守られるのを嫌ったのであろうが、黒5で不満ない。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、390頁~391頁)