歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の布石~瀬戸大樹氏の場合≫

2024-11-24 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~瀬戸大樹氏の場合≫
(2024年11月24日)

【はじめに】


 今回のブログでも、引き続き囲碁の布石について、次の著作を参考にして、考えてみたい。
〇瀬戸大樹『NHK囲碁シリーズ 布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年

・本書の目次および「はじめに」からもわかるように、本書の構成は、三連星、中国流、シマリと大別して、囲碁の布石について、解説している。
 本書の特徴としてを、次の点を私なりに指摘できる。
・三連星、中国流、シマリの特徴を最新の考え方も加えて、詳しく解説している。
・中には、手割りや死活まで言及されており、専門的な内容も含まれる。
(とりわけ、中国流の三々入りについての解説は氏ならではの解説であろう)
・古碁並べも立派な勉強法として、秀策の棋譜を取り上げている。
 著者自身、院生のころ秀策全集を5回並べたそうで、石の流れ、形を学ぶ点では良いとする。
 今回、著者の棋譜については、本書の随所で言及されている。
 私も、秀策について、手元にある次の著作を参考に調べ直してみたので、【補足】として加えておく。
〇福井正明『古典名局選集 秀麗秀策』日本棋院、1992年[2002年版]
〇大平修三『名局鑑賞室 道策から秀策まで・江戸時代の碁』日本棋院、2010年

※なお、中国流の弱点については、次のYou Tubeチャンネルが参考になる。
〇Kuroの碁
「【中盤に強くなる方必見】中国流の致命的な弱点を紹介します」
(2019年4月5日付)
※瀬戸大樹氏による中国流の解説についても、同じことを手割り、死活などについて詳細に説いておられるように思える。
 とりわけ、122頁4図~129頁18図の進行図、手割り、死活の図などを参照のこと。
 
【瀬戸大樹(せと・たいき)氏のプロフィール】
・1984年生まれ。三重県出身。関西棋院所属。
・2000年入段、2009年七段。
・2004年第1回中野杯優勝。2008年第4回産経プロ・アマトーナメント戦優勝。
・2010~12年本因坊戦リーグ入り。2011年棋聖戦リーグ入り。
〇院生のころ秀策全集を5回並べたそうだ。
 古碁並べは立派な勉強法。現代碁とはかなり雰囲気が異なるが、何も考えずに並べるだけでも、石の流れ、形を学ぶことができるという。かつて古碁は、棋士にとって必修科目だった。(233頁)
<著書>
・『バランス感覚で碁は勝てる シンプルに打つ6つのコツ』
<趣味>
・フットサル、旅行、中国語


【瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』(NHK出版)はこちらから】



〇瀬戸大樹『NHK囲碁シリーズ 布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年
本書の目次は次のようになっている。
【目次】
はじめに
第1章 三連星で優勢を築くテクニック
 盤上の「司令塔」をめざそう!
 三々入りと模様の関係
 正しいヒラキのススメ~白番の心構え
 【問題】

第2章 中国流の魅力と威力
 中国流は何でも対応可能な懐の深さが魅力
 中国流は「攻め」と「模様」だけではない
 中国流に挑む! 三々入りで挑む!
 ミニ中国流は得意の型で押し切れ!
 一路ズラすのが小目+ミニ中国流の最新形
 【問題】

第3章 シマリの考え方と実践法
 白のワリ打ちの後をどうするか
 シマリ方で碁は大きく変わる!
 秀策流温故知新~基本から現代版まで
 【問題】

コラム
①毎週火曜日はフットサルの日
②知られざる研究会の雰囲気
③個性豊かな研究会が面白い
④やっぱり習い事が好き!
⑤中国語をかじった効能




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・「はじめに」の要点
・三連星の特徴~第1章 三連星で優勢を築くテクニック
・【中国流の構えは打ち込みに強い】~第2章 中国流の魅力と威力
・【地を取って簡明を目指す中国流】~第2章 中国流の魅力と威力
・【中国流に挑む! 三々入りで挑む!】~第2章 中国流の魅力と威力
・【白のワリ打ちの後をどうするか】~第3章 シマリの考え方と実践法
・【大ゲイマジマリはスピードを意識せよ】~第3章 実戦譜 瀬戸大樹vs河英一
・第3章 秀策流温故知新~秀策vs師匠秀和
・【補足】秀策の実戦譜(vs太田雄蔵)~福井正明『古典名局選集 秀麗秀策』より
・【補足】秀策について~大平修三『名局鑑賞室 道策から秀策まで・江戸時代の碁』より






「はじめに」の要点


・布石がマンネリになっていないだろうか?
 まだ序盤だし、大して変わらないだろう、は大間違い!
 勝負はまだ先と思いがちな序盤だからこそ、勝ちに結びつくチャンスはたくさんある。
・本書では、布石の段階で素早く優位に立つための考え方と、実践的なテクニックを分かりやすく伝えた。
 序盤でしっかり目的を持ち、戦略を立てて、実行する。
(著者が大好きなサッカーでは、こうした役割を「司令塔」が行う。自分が司令塔になったつもりで、勝負に臨んでほしいという。)

※本書は、NHK囲碁講座の2012年4月号から2013年3月号までの付録「瀬戸大樹のこれであなたも司令塔」をもとに、問題を新しくしたうえで、布石についての新たな知見を補足して、再構成したものであるという。
 ・大きなテーマは三つ。
 三連星、中国流、そしてシマリ。
 四連星、ミニ中国流、秀策流についても取り上げた。
・各章最後の問題は、内容の理解を確認するために活用してほしい。
(瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、2頁~3頁)

三連星の特徴


三連星の特徴
【1図】(14頁)
〇三連星の布石
 黒1~白12まで

・攻めや模様形成に適しているのが三連星の特徴。
 ただし、これだけでは不十分であるという。
 三連星の弱点を忘れてはいけない。

【2図】(14頁)
〇三連星の弱点
 黒の構えに7つの弱点
・黒1がいい。
 ただし、守りではなく、模様に芯を入れる意識を持っていることが条件。
 驚きの事実を指摘しよう。
 三連星を基にしたこの黒の構えは、aからgまで、7か所の弱点を抱えている。
 白に打たれたら、どれも撃退することができないようだ。
 でも、三連星は廃れない。その理由は何か?

【3図】(15頁)
・守る意識がなければ、前図に続いて、白1の三々入りがありがたく感じられるはず。
※白に隅で生きられても、三連星の特徴を分かっている人はうれしくてたまらない。
 前図で指摘した本図のaやbの弱点が自動的に解消されている。
・また、白cの打ち込みはまったく脅威ではなくなった。
※三連星は守りの気持ちではなく、どんどん広げて相手に入ってもらってこその構えと肝に銘じておくこと。

【4図】(15頁)
☆右下隅の死活について、触れている。
・3図の黒8で、本図の1、3なら、部分的に眼形はない。
 しかし、白4から12が抵抗手段。
 黒の包囲網が耐えきれなくなる。
(瀬戸大樹『NHK囲碁シリーズ 布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、13頁~15頁)

第2章 中国流の魅力と威力


【中国流の構えは打ち込みに強い】
【基本図】中国流の特徴は?
・中国流の特徴を見ていく。
・右上の星、右下の小目、そして右辺の星からちょっぴりズレたところに構えるのが、中国流。
・右辺の構えがAの四線のときは、「高中国流」
 本図のように三線なら「低中国流」と呼ばれている。
(黒Bとずらすのもある)
※三連星も、中国流と同様、三手の構えなのであるが、おのおのの性格は大きく異なる。
➡中国流は四線と三線の組み合わせ、三連星は四線だけの構成。
・中国流は「地でも争える」ということ。
つまり、攻めや模様が作戦の中心だった三連星とは違い、中国流は柔軟に作戦を立てられる。これは大変便利。
・プロの間では、三連星よりもかなり人気のある布石作戦。
(低中国流のほうが人気がある。プロの勝負は、確実に地になりやすい構えが好き)

【1図】白1は黒の思うツボ
・右下には、白1とカカるのが部分的には常識。
※しかし、この常識、中国流の構えには通用しない。
・白1には黒2と受けておき、白3、5には黒6のサガリがいい。
※ここで白番だが、黒▲が白のヒラキを邪魔している。
・白7ではさすがに窮屈。
※白はせめてaまではヒラきたい。

【2図】定石として覚えておきたい
・1図に続いて、黒1のトビがお勧め。
・白2と頭を出してきたら、黒3、5を決め、黒7に構えて満足。
※満足の理由はもう一つ、白はまだ眼形がはっきりしていない。
※黒からaにコスむと、白は逃げ回らなければならない運命に。
 この急所、これもしっかり覚えておこう。

【3図】中国流基礎知識その1
・定石に詳しい人、2図に異論があるかもしれない。
2図の白6のツギでは、3図の白1とツケるのが手筋だと。
・実はこの局面だと、黒は喜んで2、4と応じる。
・白5のツギには黒6と、右辺から右上が2図より大きく成長する。
※いったいどういうことか。次図で種明かしをしよう。

【4図】中国流基礎知識その2
・黒1のノゾキに、白2、4のツケ引きを決めていいのは、こんな局面のとき。
※右上の形がこのように決まって黒の広がりが制限されていれば、黒3、5と固めても惜しくはない。
※3図と4図の違いはしっかりと把握しておいてほしい。中国流の基礎知識である。
(瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、87頁~89頁)

第2章 中国流の魅力と威力


【地を取って簡明を目指す中国流】

【基本図】白1、3は中国流ならでは
・中国流の「もう一つの顔」、知っているだろうか。
※中国流と聞くと、積極的な作戦が思い浮かぶ。
 ただ、三連星と違い、三線に二つの石を配置する中国流(低中国流)は、その分、地にカラいと主張できる。
 そこで、こんな作戦を提案する。
・白1から3は中国流特有の進行。

【1図】白がシノギの達人だったら…
・黒1から9が、よくある進行。
☆でも、もし相手がシノギの達人(笑)だったとしたら、どうするか?
右上をあっさりシノがれ、上辺には打ち込まれ…。
こんな展開には絶対にならない作戦。

【2図】黒は「実利で先行」と考える
・黒▲三子に注目。
 一間ジマリにヒラキが加わり、右下方面はほぼ黒地。
・白は左辺に二連星、下辺の白△二子も地には甘い構え。
※ということは、黒は地で先行していると主張することができる。これを長所と考えるのである!

【3図】黒1はaやbでもいい
※「模様作戦や攻めが苦手」という人にぜひ試してもらいたい。
➡それは、「地を取って簡明を目指す中国流」作戦!
・例えば、黒1のカカリ。
・白2なら黒3、5で満足。
※中国流から大模様という夢を捨て、右下に黒地、そしてさらに白の勢力を分散しながら、左辺にも所帯を持つのである。
※黒1はaやbでもいい。発想を転換しよう!

【4図】黒2が絶好!
・白1は少しも怖くない。
※黒▲と白△を交換してあるので、黒には余裕がある。
 当然、手抜きが正解!
 この後はaのハイと中央への逃げ出しを見合いにしておけばいい。
・そして黒2の三々が絶好。
※いきなりの三々入りをためらってはいけない。黒2は急所、そして絶好のタイミング。

【5図】白△が重複
・黒の三々入りに対して、白1からオサえると、黒2から白11までとなる。
※プロなら苦戦を意識するくらい、白のつらい取引。
・先手が黒に渡り、右上黒12に先行されただけではない。
 それは左辺の白△。先に白1から白11の定石ができあがっていたとしたら、白△とはツメない!

【6図】白△二子が中途半端
・白1はどうか。
・5図同様、定石どおり進んだとする。
・これも白11までで先手は黒のもの。
※さらに下辺白△二子が中途半端。先に左下の定石ができあがっていたとすれば、白△とは構えない!

【7図】穏やかな性格の人にお勧め
※白は4図の1で7図の白1と大場を目指すことになる。
・白5の後は左下黒6のカカリが最後の大場。
・以下黒10まで、黒は右辺と左辺に陣を取り、白は上辺と下辺に勢力圏。
※戦いや模様を張ったり張られたりするのが苦手な人には、もってこい。

【8図】黒は負けようがない
・白1と広げてきたら、どうするか?
※「上辺が大きく見える」ようなら、感覚に難あり。
・ここは黒2から囲い合いを目指してOK。
・黒8まで、上辺にできそうな白地よりも右辺にまとまりそうな黒地のほうがはるかに大きい。負けようがない形勢と言ってもいい。

【9図】やはり右辺が大きい
・白1、3とモタてきたら、じっと黒4と受けておき、aの傷を狙いたい。
・続いて白5なら黒6がいい見当。
※右辺を広げながら上辺白模様の成長を阻んでいる。
※なお、黒4を手抜きは白4、黒bの交換がつらい。
 地の損であるし、何より白の姿が厚くなる。

【10図】封鎖は避けたいもの
※3図の白4で10図の1とハサんできたらどうするか?
・定石どおり黒2から白9までと進んだとする。
(白9でaは右下方面にシチョウアタリを狙われる)
・すると黒は10で白の厚みをけん制する必要がある。
・そして白11へ。
※白には大模様の「芽」が出てきている。「簡明を目指す」作戦にはふさわしくない進行。
 原因は左上の黒が封鎖されたことにある。
 封鎖をどう避けるか?

【11図】ツケ引くのが簡明
・白1には単純に黒2、4とツケ引くのがいい。
※封鎖を避けながら、黒aの切りと黒bの三々が見合い。
 根拠をしっかり得ておけば、下辺白陣の模様化も怖くない。

【12図】黒4を忘れずに!
・白1なら、黒は2で地と根拠をしっかり確保しておくのがいい。
・白は3のヒラキが相場。
※ここで次の一手がすぐに思い浮かぶだろうか?
※白は左下の星から両翼にヒラいた構え。
・黒4の三々入りが急所。
・白15まで、左辺白は凝り形。下辺も甘い姿。
※先手も黒のもので、好きなところに打って優勢(笑)

【13図】黒好調の流れ
・黒1に白2とこちらを大事にしてきたら、黒3、5の攻めがピッタリ。
※白はしばらく放浪の旅が続く。
 この白を攻めていれば下辺白陣の模様化は難しいし、何より右辺黒陣が肥沃な大地になる。
 これも黒の大変打ちやすい局面。
(瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、106頁~112頁)

第2章 中国流の魅力と威力


【中国流に挑む! 三々入りで挑む!】
〇中国流布石の研究は驚くほど進んでいる。
【1図】白1が大流行!
・白1のカカリが主人公。
※この手自体は珍しくない。
 多いのは、白a、黒b、白c。白dの三連星もあるだろう。
 白1でb、e、fはやめたほうがいい。

【2図】なんと白3の三々入り!
・白1には黒2が一般的。
・ここで白3の三々入りがプロのあいだで大流行している。
※これでa、黒3、白bなら昔からあるのだが…

【3図】分かりやすくいくなら
・ごちゃごちゃしたのは嫌いという人は、黒1から3にオサエて先手を取る打ち方でも構わない。
※これが敗因になることはあり得ないから。
 ただ、今よりも強くなりたいなら、次図以降は必修。

【4図】白10が新機軸
・黒1、3と断固、白を分断する。
・白は6とスベッて根拠を確保。
・黒7のツケから9も当たり前の進行。
・驚いてほしいのは(笑)、白10のオサエ込み。
※まったく、碁はまだ始まったばかりだというのに、忙しく打つものである。


【5図】自然に見えて自然ではない?
※ここで黒は、白の連絡を許してはいけない。
〇断固として連携を断つべきであるが、その方法は二つある。
・まずは【5図】の黒1。
・これには白2と生きることになる。
・黒3(aやbも実戦例あり)と傷を守って、白は4へ。
※簡明で、自然な流れ。でも、プロはもっと石を働かせたくなる。

【6図】白が生きていれば黒4が自然
※手順を変えて考えてみる。
・白が1と先に生きたとする。
・黒が2と備えたときに、白3とオサエ込んできた。
※さあ、どうするか?
・隅の白はすでに生きているので、aではなく、4とハネて外側に力を向けたくなる。
※こうなれば、黒石にはまったく「ムダ」がない。

【7図】死活を知らないと打てない
・というわけで、プロの実戦では白1オサエ込みに、黒2のハネが多く見られる。
・それを受けて、白は3と上辺に展開。
※狙いは、「展開によっては隅も辺もオレのものにしちゃうぞ!」
 で、この作戦は仕掛けるほうも仕掛けられるほうも、隅の死活を正しく理解しておく必要がある。ここが第一関門。

【8図】様子見のハネ
・黒が隅の白を攻める、あるいは取りにいく場合、1のハネから始める。
・この局面での黒1は、様子見の雰囲気に近い。
・白aが利いているため、取ることはできないから。
・白2なら、黒3、5で再び白の出方をうかがう。

【9図】生きてもこれでは、白が失敗
※死活をおろそかにしていると、こんな場面で何が何だか分からなくなるもの。
・生きなければの意識が強くなり、白1、3を選択…。
※これは敗着になっても、おかしくない。
・黒2、4が先手で決まり。
※黒の外勢がご覧のようにすばらしいものに!
・黒6に先着されて、白はかなりリードを奪われた。

【10図】やはり黒は厚い
・せめて白1と出る抵抗くらいはしたいもの。
・それから白3と抜いて、白7までなら、前図よりは頑張ったことに。
※でも、とても合格とは言えない。
 黒はやはり厚く、主導権を握っている。生きてダメなら、どうするべきか…?
 生きてダメなら死んで打つ。この作戦を実行するには避けて通れない。
 最もハードルの高い関門。

【11図】死んで打つ!
・黒1のハネには白2、4と下辺の大どころを占める。
・黒は勢いで5と連打。
※これで右上の白に生きがない。
 さっき三々に入ったばかりなのに、これで全滅。でも、形勢はまったくの別物。
 このあとの進行を見た皆さんはきっと驚くはず。

【12図】右辺以外は真っ白な世界!
・白1のトビに黒2は省けない。
・白3に黒4のツギも絶対。
・そこで白5(他の構えでもOK)へ構えると、右辺以外は真っ白になっていることに気が付く。

【13図】手割りではひどいことに…
〇11図、12図がどういう理屈なのかを手順を変えて探ってみよう。これを手割りと言う。
※黒の中国流、白の二連星でスタート。
・白1のカカリから7までは、双方互角。
・ただ、この後が黒はいけない。黒8と12、14のハネツギは堅いところをさらに守った理屈。特に黒8は思いつかない一手。
・白は15へ。

【14図】差し引き、白のプラス
・白は右上に1、3と仕掛けたことになっている。これがひどい。
・白5、7も黒8までと換わり、マイナス。
※ただし、13図と14図を比較すると、黒のマイナスが大きいことは明白。
 つまり、白有利なワカレ。

【15図】じっと黒1が結論
〇それでは決定版を紹介しよう。
・7図の白3に続いて、黒は1とここをしっかり守っていくのが、現段階での結論。
・白はaなら生きであるが、最善は白2、4の下辺への展開。
 右上はやはり死んで打つのがいいというのであるから、面白い。

【16図】いつ仕掛けるかが難しい
※死んで打つというのは正しくないかもしれない。
・右上の白は黒から打っても、無条件で取られることはない。
・黒1のハネから3、5が最強であるが、ご覧のようにこのあと白からaに取ればコウ。
※互いにコウ材が見つけにくく、特に黒は仕掛けるタイミングが難しそう。

※隅の死活の変化はこれだけではない。知っておいてほしいのは、以下の二つ。
【17図】黒7では白生きてしまう
・黒1から3のツケもある。
・ただし、白6に黒7とツイではいけない!
・これは白8までで、白の無条件生き。

【18図】白4の価値が小さければ有力
・黒7では、本図の1、3が正しい。
・白も4と抜いて上辺が厚くなるので、簡単には決められないが、白4の抜きが働かない局面なら有力。
(瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、121頁~129頁)

第3章 シマリの考え方と実践法


第3章 シマリの考え方と実践法
 白のワリ打ちの後をどうするか

【基本図】ツメはaとbの2通り
・黒1の星に黒3、5の小ゲイマジマリを組み合わせる。
※黒番の布石作戦の中でかなりのシェアを持っている。
 スピード感もあり、それでいて実利もしっかり確保している。
(読者の中にも愛用者は多いと思う)
※誰がいつ打ち始めたのかは分からない。
 秀策流というような名前が付いていないことからも理由は想像できよう。

・黒1、3、5は、今日碁を覚えた人でも安心して打てる、その手軽さこそがセールスポイントと答えるだろう。
 そこにほんの少しのスパイスを効かせるだけで、この簡明布石作戦は輝きを増す。
 これも、黒1、3、5の大きな魅力。

・黒5の後も、戦略は立てやすい。
・白6のワリ打ちが予想しやすく、黒はaとbのいずれかのツメを選ぶかが、最初の大きな分岐点だった。
➡ところが近年、いろいろな考え方が見られるようになってきた。プロアマ問わず打たれてきた白6や黒aやbが、“当たり前”ではなくなってきた。この布石の新常識をマスターしよう。

※小ゲイマジマリが中心だったが…
【1図】白の目指す進行
・昔は白のワリ打ちに黒1のツメがほとんどだった。
(いえ、絶対という言葉を使ってもいいくらい)
・対して、白aは黒bがピッタリ。
・白は2のカカリまで進み、4、6を理想形としていた。
(黒番でこうなると叱られたそうだ)

【2図】黒攻勢のはずが…
・1図の黒5では、本図の1へ打ち込む一手。
・白2には黒3とコスんで白を分断し、黒13までで黒攻勢と言われた。
※ところが、近年は白の走った布石との意見が大変多くなってきた。

【3図】右上黒が不安材料
・2図の黒3で、本図の1と右辺に力を入れると、白2のツメがなかなか厳しい。
・黒は3と頭を出すしかないが、白4にも黒5が省けず、白6の好形であるシマリを許すことになる。
※注目したいのは、右上。
 白△四子は封鎖されたが、根拠は三々を占めているので、まず心配なし。
 問題なのは、黒の一団。
 単独で生きがあるのかどうか、右辺との連絡を断たれると不安。

【4図】大きさ比べも白の勝ち
・黒の財産の右辺を黒1、3と広げるのはどうだろう。
➡残念ながら好転しているとは言えない。
・白4の構えで大きさ比べではいい勝負。やはり右上の「差」は、埋まっていない。
(瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、186頁~188頁)

第3章 シマリの考え方と実践法


第3章 シマリの考え方と実践法
〇大ゲイマジマリはスピードを意識せよ。
【1譜】著者の実戦譜
・実戦例。1譜(1-24)
 黒 瀬戸大樹七段
 白 河英一五段

・黒11から15を決行し、21まで。
※このワカレ、棋士は白持ちが多いようであるが、著者は黒が好きだという(笑)
・白22の段階で黒地は約45目。
・当面は黒23以降のサバキが焦点。
※白Aなら黒B、白C、黒24、白D、黒Eで楽なのだが、許してくれるはずもなく……。
・白24はこの一手。

【参考図1】白の注文
・続いて、本図の黒1は、白12までで、黒が面白くない。白の注文。
※白は黒を攻めながら、左辺や下辺で得をしていく。
 右下白が膨らみ、黒は重い姿。

【参考図2】敵陣の中では「軽く」
※敵陣の中では「軽く」がセオリー。
・それに従うと、黒1もありそう。
・白2と受ければ、黒3が気持ちいい。
・白4に黒5で白を下にハワせれば、黒がきつい攻めにあうことはないだろう。
※そして見逃せないのが地合い。
 黒地約45目が白にプレッシャーとなりそうな局勢。

【2譜】(25~40)
・実戦で著者は、黒25の二間トビを選んだ。
※薄く見えるが、白が何か仕掛けてきたら、その力を利用するつもり。
・白26に黒27は好例。
※黒は下辺か左辺のどちらかに足を下ろせばいいとの考え。
 実利を先行しているので、バランスを取った意味合いもある。
≪棋譜≫瀬戸大樹vs河英一(1-40)


【参考図3】全部は助けなくていい
・黒25に対して、本図の白1なら黒2のボウシするつもり。
※こういう手、読者は苦手ではないだろうか。
 これが「軽い」ということ。
 黒は実利で先行しているので、白の勢力圏である左下では全滅さえしなければいい。
 そんな意識を持ってほしい。
 左下には三つ黒石がある。白が襲いかかってきたら、全部取られなければいいと考える。
 そうすれば、対処法はいくらでもある。これこそが「サバキ」である。

【3譜】(40~42)※40再掲
・白が40と力を蓄えたので、黒は41と左下の補強へ。
・これで左下の不安がなくなったため、白42には黒43から荒らしへと向える。
(瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、223頁~225頁)

第3章 秀策流温故知新~基本から現代版まで


秀策について
・江戸時代末期に活躍した本因坊秀策は、広島県の因島で生まれた。
・当時の御城碁(御前試合)において、19戦全勝という驚異的な記録を残したことでも知られている。

・御城碁が終わった後に勝敗を聞かれると、「先番でした」と答えたそうだ。
 つまり、「私が黒で負けると思いますか?」という意味。
(かなりの自信家ですね(笑)。でもこの逸話、真偽のほどは定かではないらしい。)

・秀策は34歳で早世する。原因は当時流行したコレラ。
 本因坊家でも患者が出て、看病にあたった秀策も感染してしまう。
(秀策の本当の性格、何となく想像できるよね。)

〇それでは、【基本図】を見てほしい。
・黒1、3が秀策流のはじめの一歩と言える。
・ここで白4が、当時は当たり前のように打たれていた。
・黒は手を抜き、左下を黒5と占めて、秀策流は完成。
※コミのない時代。普通に考えれば、先に打てる黒が有利。
 黒は早くも三隅を確保。秀策の先番が堅実無比と言われるゆえんである。

【基本図】秀策流はじめの一歩
【4図】オーソドックスな進行
・秀策流を敷いた後、白はやはりシマリを防いで、右下にカカるケースがほとんど。
・このときの黒1が「秀策のコスミ」として一般に広く知られている。
※秀策のコスミ は、白(15, 三)への攻め、そして右辺へのヒラキを見合いにしている。
・当時のオーソドックスな進行は、白2から6である。

※次に、秀策の実戦譜を鑑賞してみよう。
 師匠の本因坊秀和との対局である。
 およそ200年前の対局である。

〇秀策vs師匠秀和(1815[ママ、1851]年11月15日)
途中白66まで

1~227手まで
半コウ黒勝ツグ 黒4目勝ち

【1譜】(1~27)
・黒1、3、5の秀策流に師匠秀和は、白6、8とシマリを拒否した。
・秀策は黒9のカケで勢力を蓄え、黒11へ。
※黒の着手が分かりやすいのは、秀策流の特徴。
・白12は大斜ガケ。
・黒27までは一つの型。

【2譜】(28~66)
・黒は右辺白を取り、白は中央を重視するフリカワリ。
・まずは白66から秀和の打ち回しに注目。

【3譜】(66~71)
・フリカワリはさすがに黒が得をしたが、白66から師匠が貫禄を見せる。
・黒は69の守りが省けず、白70のシマリへ回って、石の流れは好調そのもの。

【4譜】(72~74)
・秀和の次の一手は白72の肩ツキ。
・黒73に白74と構えたところで全局を眺めてみると、「真っ白」という言葉がピッタリ。

【5譜】(75~91)
※いよいよ秀策の出番。秀策は分かりやすく局面を捉える能力が持ち味。それは当然、正しい形勢判断に基づいている。

・黒75はバランス感覚満点の一着。
・黒83以下は、黒91に先回りするための犠打と言っていい。
※このあたりの秀策は、正確な形勢判断により目標を設置。
 そこに最短距離でたどりつける着手を、驚くべき精度で繰り出していく。

【6譜】(92~105)
・左辺に黒が先着。
・秀和先生、白92から上辺黒に襲いかかる。
・しかし秀策は予想どおりと言わんばかりに、黒101まで。見事なシノギ。

【7譜・8譜】(106~227)
・白は中央右にあった黒の一団を飲み込み、大きな白地をまとめた。
・ただ、序盤から堅実に打ち進めていた黒を捉えることはできず、黒の4目勝ちで終局。
※もっとも、白がよく4目差にまで持っていったというのが、著者の率直な感想。
 やはり、秀策、さすが秀和。

<著者の感想>
・初めてこの碁を並べ、4譜の白72と出会った瞬間の驚きと感動は、はっきりと覚えているそうだ。そして、今でも、新鮮に感動できるという。
・碁はいい手を探すだけでなく、自分のイメージを素直に盤上に表すことも大切。
 4譜の白72は教えてくれたような気がするという。
(瀬戸大樹『NHK囲碁シリーズ 布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、232頁~236頁)

【補足】秀策の実戦譜(vs太田雄蔵)~福井正明『古典名局選集 秀麗秀策』より


第25局 雄蔵との三十番碁


第25局 雄蔵との三十番碁
嘉永6年(1853)2月2日
 於青地延年宅
 三十番碁第二局
 互先 七段 太田雄蔵
 先番 六段 本因坊秀策

・嘉永6年の新春、旗本赤井五郎作の屋敷に棋士が集まった。
 仙得、松和、雄蔵、算和の四傑と服部一だったという。
 談たまたま秀策の芸に及び、いま対等に打てるものはいないだろう、という結論が出かかったとき、先ほどから無言だった雄蔵が、同調できない、と発言した。雄蔵としては3年前に互先に打ち込まれたばかり。その後は打ち分けだから無理はない。
・そこで、五郎作が発起人となり、雄蔵・秀策の打ち込み三十番碁が始められた。
 御城碁に出場しない雄蔵にとって、手塩にかけた秀策と真剣に打つ機会はまたとないものだったろう。

【1~3譜】(1-139)秀策vs太田雄蔵 139手完 黒中押勝

【1譜】(1-50)<鋭い反撃>
・白8から黒15まで、当時としては斬新な感覚。
・黒31、33が鋭い反撃。
・黒41から45までわかりやすい碁になった。

【2譜】(51-100)<雄蔵のサバキ>
・白72と踏み込んで、攻めとサバキ。
・白84が好手で、白96のワリコミにつなげた。

【3譜】(101-139)<黒の名局>
・黒105と手を延ばし、黒109、白110とフリカワリ。
・白112の勝負手も、黒119と切断されて不発。
(福井正明『古典名局選集 秀麗秀策』日本棋院、1992年[2002年版]、150頁~153頁)

【補足】秀策について~大平修三『名局鑑賞室 道策から秀策まで・江戸時代の碁』より


第八局 晩秋の師弟対局(秀和・秀策)
【秀策について】
・秀策は七段にとどまったが、棋聖と仰がれている。
 碁は深く強靭なヨミに支えられて渋滞がなく、形勢判断のよさがその棋風を明るいものにしている。
 序盤で優位に立てば最後までその優位を持続して押しきり、劣勢の碁はあえて蛮力を発揮していずれは逆転している。
 したがって、棋力は群を抜き、丈和が「我が家は百五十年来の風が吹く」と喜んだように、しばしば道策と並び称されている。
・秀和・秀策の師弟対局は天保13年に秀策二子で始まり、嘉永4年まで、27局が残されている。
 内訳は二子局2局秀策1勝1敗。定先局25局、秀策17勝5敗1ジゴ2打掛けとなっている。
※残された碁譜を見るかぎり、秀策は秀和より強かったとはいいきれないものがあり、むしろ秀策の先をうまくこなして、細かい碁に持っていく秀和の、アマシの力量が目立つ。
 当然のことながら、この二人の師弟対局は血戦の要素が皆無なので、どこかのんびりしたムードが漂っているという。

【大平修三氏の解説】
・黒1、3、5が世に秀策流と呼ばれている布石の手法。
※先番の優位性を定着する布石として、秀策が体系的に多用した。
・しかし、これはよくいわれることであるが、黒7のコスミは3目程度でもいいから、あくまでも勝とうとする手。
※現代ではコミがあるから、黒は二間高バサミなどときびしくやっていく。
・白8は、趣向といってさしつかえない。

<名局>
〇本局は秀和、秀策27局中、26局目にあたる。
 嘉永年間、最後の数局はいずれも名局の名の高いものばかりで、堅実な秀策の黒とシノいであましていく秀和の白が顕著な対照を示している。
※秀和の碁はいわゆる玄人好みのする棋風であるが、秘めた力は名人の域にある。
 秀和の実子、秀栄名人(十七、十九世本因坊)が「オヤジとは二子置いても自信がないよ」と述懐しているのはさすがに冗談とはいえ、一分の実感もあるようだ。

<秀策の魅力>
・秀策は師匠思いで、孝心もあつく、奥さんをたいへん愛してもいたようだ。
・遺された書簡集を見れば、いかに優れた徳性を持っていたかがわかる。
・しかし、秀策の魅力は、にもかかわらず紅燈の巷に遊ぶのをいとわず、むろん好んだという所にあるという。祇園で「芸子買い候処大もて、よく鬱散致し候」などと手放しに歓ぶ一面と愛妻に対して怒った顔を見せたことが一度もないという一面とに何か人間的なはばが感じられるという。

嘉永4年(1851)10月22日 阿部甚三郎邸
 十四世   本因坊秀和
 4目勝 先 本因坊秀策
(大平修三『名局鑑賞室 道策から秀策まで・江戸時代の碁』日本棋院、2010年、207頁~233頁)

≪囲碁の布石~三村智保氏の場合≫

2024-11-17 18:00:11 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~三村智保氏の場合≫
(2024年11月17日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでも、囲碁の布石について、次の著作を参考にしながら考えてみたい。
〇三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年
 三村智保氏の布石の本でも、布石の大切な原則ないしポイントとして、弱い石を作らないこと、弱い石から動くことを指摘している。そして、石の強弱を考えることは、一段落の判断をする際にも必要だと主張している。このことを集中的に説いているのは、目次を見てもわかるように、「第4章 弱い石から動く」である。

 また、三村九段のこの布石の本を通読して、一番勉強になった点は、次の点であった。
・布石の原則を示す格言に、1にアキ隅、2にシマリなどと言うが、実は「石を封鎖されないこと」というのが、アキ隅よりもさらに布石の基本中の基本と言ってもいい。
石が死ななくても、封鎖されることは悪いこと。
 これを実感できるようになるためには、ある程度強くなる必要がある。
・しかし、多少不安があっても、中央に出ることの効果ははっきりと実感できなかったとしても、そこは我慢して相手に封鎖されないように、中央へ出る習慣をつけてほしい。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、124頁)

 このテーマに関連して、【補足】してみた。
・【補足】進出の手筋~山下敬吾『新版 基本手筋事典』より
・【補足】進出と脱出の手筋~藤沢秀行『基本手筋事典 上』より
 なお、三村九段の実戦譜も調べてみたので、参考にしてもらいたい。
・【補足】三村智保氏の実戦譜(vs山田拓自)~依田紀基『基本布石事典』より
・【補足】三村智保氏の実戦譜(vs依田紀基)~依田紀基『基本布石事典』より


【三村智保氏のプロフィール】
・昭和44年7月4日生。北九州市出身。田岡敬一氏に師事。藤沢秀行名誉棋聖門下。
・昭和61年入段、平成12年九段。
・昭和62年棋聖戦二段戦優勝。
・平成6年第19期新人王戦優勝。平成7年第20期新人王戦2連覇。
・平成8年棋聖戦七段戦優勝。
・平成11年第29回新鋭トーナメント優勝。
・平成15年第50回NHK杯優勝。第15期テレビ囲碁アジア選手権準優勝。
・平成16年第23期NECカップ準優勝。第59期本因坊戦挑戦者決定戦進出。
・昭和63年棋道賞「新人賞」受賞。
・平成13年「勝率第一位賞」受賞。
・平成18年通算600勝達成。
※「市川こども道場」主催。


【三村智保『三村流布石の虎の巻』マイナビはこちらから】



〇三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年
本書の目次は次のようになっている。
【目次】
まえがき
序章 布石には2種類ある
 広い所から打つ
 攻めの布石・シノギの布石
 2種類の布石

第1章 主導権を握る「攻め」の布石
 攻めの布石  テーマ図1~2
 白番の布石  テーマ図3
 相手の三連星 テーマ図4~5

第2章 正しい距離感
 正しい距離感とは
 テーマ図1~10

第3章 勝負を分ける「石の封鎖」
 石の封鎖の重要性
 テーマ図1~10

第4章 弱い石から動く
 弱い石から動くとは?
 テーマ図1~11

第5章 一段落に気をつける
 一段落に気をつける
 テーマ図1~6




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・まえがき
・広いところから打つ
・攻めの布石・シノギの布石
・三連星~第1章 主導権を握る「攻め」の布石
・二連星~第1章 主導権を握る「攻め」の布石
・中国流~第1章 主導権を握る「攻め」の布石
・第2章 正しい距離感
・第2章 正しい距離感 テーマ図7~星へのカカリについて
・第2章 正しい距離感 テーマ図9
・第3章 勝負を分ける「石の封鎖」
・第3章 勝負を分ける「石の封鎖」テーマ図10
・第4章 弱い石から動く
・第4章 弱い石から動く テーマ図1
・第4章 弱い石から動く テーマ図2
・第4章 弱い石から動く テーマ図3
・第5章 一段落に気をつける
・第5章 一段落に気をつける テーマ図6
・【補足】進出の手筋~山下敬吾『新版 基本手筋事典』より
・【補足】進出と脱出の手筋~藤沢秀行『基本手筋事典 上』より
・【補足】三村智保氏の実戦譜(vs山田拓自)~依田紀基『基本布石事典』より
・【補足】三村智保氏の実戦譜(vs依田紀基)~依田紀基『基本布石事典』より





まえがき


・布石は、碁でいちばん自由で楽しい部分である。
 初手を天元から打っても良いし、辺から打っても、別に悪くなるとは言い切れない。
 好きに打って良い。
・プロの布石や定石にあまりとらわれず、自分なりの作戦を楽しんで欲しいと、著者はいう。
 ただ、初級の人から「どう考えたらよいのか、何をしたらよいのか分からない」と途方にくれた声をよく聞く。 
(確かに自由すぎるのも困りもの)
・本書では、布石の基本の考え方に加え、著者のお勧めの作戦も示している。
 一手一手の意味を正確に分かろうとするよりも、流れを感じてほしいという。
 繰り返し手順を見ていると、だんだんコツがつかめてくる。

・布石は動くものである。
 自分が今ここに打って、相手がこうきて……こんな感じになったらいいな、と想像しながら打つことが大事だという。
➡楽しみながら打てば、上達も早くなる。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、3頁)

広いところから打つ


・布石のはじめは空き隅から打ち始める。
(江戸時代の頃からもその原則は変わっていない)
⇒やはり、空き隅がもっとも「効率がよい」と思われているから。
【参考図:星・小目・三々・目外し・高目】
A:星、B:小目、C:三々、D:目外し、E:高目

※すべてが三線から五線の間に入っている。
⇒これは、布石そのものの原理である
<参考>
・二線の石は地が小さいだけではなく、封鎖されやすく死にやすいというマイナスがある。
・なお、一線に打つのは論外。
 一線は地がまったく増えない上に、根拠もない。
 布石における一線は最悪。

三々:三線~五線にかけてが効率がよく地を作るエリア 
   もっとも堅実に隅のエリアを確定地にする打ち方
星 :三々よりも風船をふくらませたようなイメージ
   効率よく地を作れる可能性がある半面、破裂する危険性もある
高目や目外し:少し辺に向けて力を入れる打ち方
   よく打たれている基本の打ち方であるが、難解な定石になることも多く、使いこなすには、ある程度の知識が必要
(本書では、定石の細かい話はしないので、高目や目外しの詳しい解説については他書に譲るという)
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、8頁~13頁)

攻めの布石・シノギの布石


【攻めの布石・シノギの布石】
・布石は、まず空き隅に打つ。
 その後が問題である。基盤があまりにも広くて迷ってしまう。
・迷うのは、基盤が広いからだけではない。
 「隅の次は辺に、辺の次は中央に、とにかく広いところを順番に打っていけばいい」という布石の原則はある。
 ただ、この原則が、布石の100%を表してはいない。
・布石には、「広げる」と「固める」という二つの要素がある
⇒広げることは、攻めの布石につながる
 固めることは、シノギの布石につながる
(この二つの要素が複雑にからみ合うため、「布石の必勝法」を作ることができない)

三連星:「広げる」という布石の原則に従えば、三連星が有力。つまり「攻め」の布石。
小目の布石:小目に打つと、「固める」打ち方になり、「シノギ」の布石。そして、お互いが堅い布石を選ぶと、細かいヨセの碁になる。

<まとめ>2種類の布石
①「攻め」の布石
風船をふくらませるかのように、自分のエリアをどんどん広げて相手が入ってくるのを待ち、その石を攻めて主導権を握る。
②「シノギ」の布石
まずはしっかりと自分の構えを固めて、後から相手の模様に打ち込んで荒らし、地でリードを奪うことを目的とする。

※どちらの布石を選ぶかは、「棋風」と言われる好みの問題。
・相手との兼ね合いがあるので、お互いに模様を広げ合って、大乱戦になるような碁もあれば、お互いに堅く打って細かいヨセ勝負になる碁もある。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、14頁~20頁)

三連星~第1章 主導権を握る「攻め」の布石


【攻めの布石】
・布石の総合力を上げるには、いろいろな本を読み、実戦を積んで棋力を高めるより他はない。
〇本書では、まず「攻め」の布石に絞って話すという。
・著者自身が攻めの棋風だということもあるが、アマチュアの人にとっては、特に「攻め」のほうが有利だと考えている。
 なぜなら、「うまくシノぐ」というのは、ある程度強くないと、できないことだから。
・実際、著者もシノギがうまいとは言えないそうだ。
 張栩さんや山田規三生さんなどは、シノギがうまいという。
 ただ、彼らと著者の間でも、布石における碁盤の見え方、判断力などは違っている。
※皆さんは、まずは「攻め」の布石をマスターすることを著者は勧めている。
 特に「黒番の攻め」から力をつけていくのがいいだろうとする。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、24頁)

【テーマ図1】三連星
・攻めの布石は、相手よりも大きく模様を広げて、先に入らせることがポイント。
・模様を広げやすい黒1~5の三連星は、やはり有力。

【1図】(黒が広くなる)
・普通に模様を広げ合えば、先に打つ黒のほうが有利。
・黒15までとなると入りにくいので、白はもっと早く入らなければいけない。

【2図】(先に攻める)
・アマの碁では、前図の白10くらいで、白1と入りそう。
・「白1と先に入らせて、黒2、4と攻める」。これが攻めの布石の基本思想。
【7~10図】
【7図】(手抜きには?)
・ところで、黒1の攻めに白2と先に守られたらどうするのか?

【8図】(封鎖は大成功)
・黒3と封鎖すれば、黒がいい。
※別に白3子を取れなくてもいい。封鎖するだけで、布石としては大成功。

【9図】(死にやすくなる)
※封鎖される最大のデメリットは、石が死にやすくなること。
 仮に白が生きても黒は悪くないが、死んでしまえば白は敗勢。

【10図】(白死)
・たとえば、少しでもまずいシノギを打ってしまうと、簡単に白死となってしまう。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、24頁~29頁)

二連星~第1章 主導権を握る「攻め」の布石


【白番の布石】
・「模様を広げ、相手に入らせて先に攻める」。この布石の意図と効果は、三連星の場合で分かってもらえたと思う。アマの人にはお勧めの布石であるが、ひとつ問題がある。白番のときにどうするか?ということである。
・黒番だったら「攻めの布石」を実践しやすいが、白番の場合は「ゆっくりした布石にして、コミを生かす」という命題がある。
・白番での「攻めの布石」の話は、ここまでの「黒番の攻めの布石」との矛盾が生じてしまうが、白番を持たずに碁を打ち続けるわけにもいかない。
〇まず「白番の攻める布石とは、相手に攻められないための布石である」ということを覚えておいてほしい。
・黒が堅い布石を選んでくれば攻めることもできるが、黒が攻める布石を選んできたら、攻められない布石を目指すことが、白番の心得である。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、41頁)

【テーマ図3】二連星
・白番は、相手の模様に入って攻められる布石になりやすいので、まずはスピードに優れた二連星がお勧め。
【1~3図】
【1図】(一例)
・次に黒5のシマリは、よくある布石。
※黒がやや堅い布石を選んでくれれば、白はスピードで追いつくことができる。

【2図】(三連星へ)
・黒5と一呼吸入れてくれたら、白6と三連星に発展させる。
※この布石なら、模様の大きさで対抗できるから。

【3図】(白の風船)
・続いて白14までとなれば、黒番のときと同じように、「相手よりも大きく広げて、入ってくるのを待つ」という攻めの布石にできる。

【4~6図】

【4図】(先に攻める)
・左下の白模様に黒1と先に入ってくれば、作戦は成功。
・白は2、4と先に攻めることができた。

【5図】(左右を固める)
・続いて黒5から15までは一例であるが、黒を攻めながら下辺と天元の白をつなげることと、左辺の白地を固めることがポイント。

【6図】(楽に入れる)
・白は中央のラインを連絡して、中央に勢力を作ることによって、右辺や上辺にa~cなどと打ち込んでも、楽に戦えるようになった。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、41頁~44頁)

【相手の三連星】
・前テーマのように、黒が多少地を固める布石を選んでくれれば、白でも攻めの布石に持ち込むことはできる。
・しかし、最大の問題は、相手が黒番で、三連星の構えから模様をどんどん広げて、「攻めの布石」を目指してきた場合である。
・碁が黒から先に打つゲームである以上、黒に本気でどんどん模様を広げられると、白はどうしても模様の大きさで対抗することはできない。
 白番では「できるだけ黒模様の拡大を制限し、模様に入っていくにしても浅く入って、厳しく攻められないようにする」くらいのことを目標にするのが相場。
・あまり早い段階で入っていくと、黒に厳しく攻められる。
 相手の模様に入ることをぎりぎりまで我慢することがコツ。
 慣れてくれば、相手のちょっとした隙をとらえて、黒模様の広がりをおさえこんでしまうこともできるようになるだろう。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、46頁)

【テーマ図4】【1図】三連星は危険
・黒1、3、5と三連星を打ってきたときに、白6と同じく三連星で対抗するのは危険。
・続いて、黒17までは一例であるが、いつかは黒模様の中に入って攻められることになる。
・テーマ図の白6の三連星はそういう布石なのである。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、46頁~47頁)

中国流~第1章 主導権を握る「攻め」の布石


中国流~第1章 主導権を握る「攻め」の布石
【テーマ図5:★黒の中国流】
・それではもう一つ。
 攻めの布石として、アマにも大人気の中国流を見てみよう。
 黒1、3、5が中国流の構え[白番]

【1図:星からカカリ】
●中国流の場合も、上辺や下辺への発展性を止めるのが、攻められない布石のコツ。
・白6と、上辺から星のほうへカカる。

【2図:天元は怖くない】
・続いて黒9、11と下辺を広げてきたら、白12と構える。
※中国流のときは、黒13と天元に構える手は、あまり打たれないから、という。

【3図:三線の石】
※中国流は、三連星と違って、地でもバランスを取るため、三角印の黒の石(16, 十七)(17, 十一)が二つも三線にある。
⇒三連星ほど模様拡大には向いていない。

【4図:黒甘い】
☆プロでシノギのうまい人なら、白1のカカリから簡単に荒らしてしまうそうだ。
⇒黒の構えは甘い。

【5図:どんどん逃げる】
・続いて黒1のコスミなら白2から8までが一例という。
※こういうところは深く入らずに、どんどん逃げるのがコツ。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、64頁~66頁)

【11図:構えるのが普通】
・中国流の場合は、2図の黒13と天元に広げず、黒1と構えるのが普通。
・そこで、白2と打てば、白のほうが大きく広げることができる。

【12図:工夫して打つ】
※三角印の白(天元)は、慣れてきたら a~cなどと工夫して打つことができるという。
<注意>
・白 d~ fなどと深く入るのは攻められる。

【13図:穏やかな布石】
・2図の黒9で、黒1、3と左辺を割ってくれば、白4、6と下辺を打つ。
※黒模様の拡大をおさえ、穏やかな布石にできる。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、69頁~70頁)

第2章 正しい距離感


〇正しい距離感とは
・布石は幅の広い分野なので、ここまでの内容は、一つの考え方と、それに伴う打ち方をいくつか紹介したにすぎない。
 ただ、アマの高段者になるまでは、「攻めの布石」一本槍で実戦をこなすことが、多くの人にとって棋力向上の近道であると思う。
・さて、本章からは、アマの碁を題材にして、どのような布石でも役に立つ、布石の基本を話していきたい。
・まずは、石の距離感を意識して、布石を打つことを心がけよう。
 碁は石の効率を競うゲームであるという考え方がある。
 自分の強い石に近づきすぎると、効率が悪くなるし、相手の強い石に近づくとその石が弱くなってしまい、やはり石の働きが乏しくなる。
・定石だからと何気なく打っている手にも、考え抜かれた石の距離感があるものである。
 それをあらためて感じてみよう。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、72頁)

第2章 正しい距離感~星へのカカリについて


【テーマ図7:星へのカカリ】
・白4の星に黒5とカカった。
☆星に対するカカリへの応手を見てみよう(白番)

【1図:両ガカリは厳しい】
・仮に白1と手を抜くと、黒2の両ガカリが厳しい手。
※三角印の黒(3, 十四)とカカられた三角印の白(4, 十六、つまり左下の星)は、見た目よりもかなり弱い。

【2図:根拠を奪われる】
・そこで、白2と中央に出るのが普通だが、黒3と三々に入られて、簡単に根拠を奪われる。
⇒これが星の弱点である。

【3図:ツケノビは難解】
・なお、白2、4のツケノビで中央に出ることもできる。
・しかし、黒3や7と左右を打たれる。
※難解な変化になる可能性も秘めている。

【4図:カカリには受ける】
※そこで、黒1の星へのカカリには、何か応じるのが普通。
⇒①白aやbの受け
 ②白cなどのハサミ
 ③白dのコスミツケなど

【5図:星へのカカリは近い】
※三角印の黒(3, 十四)と白(4, 十六)の距離は近い関係で、四角印の白(3, 五)と黒(4, 三)よりも切実。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、96頁~99頁)

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第2章 正しい距離感 テーマ図9


【テーマ図9】
・白1とカカってきた場面である。
・下辺と右辺の距離感をどのように判断し、どう応じるか?(黒番)

【1図:左下の黒石の5子の強さがポイント】
・下辺の距離感は、左下の黒石(三角印の黒石)の強さがポイント。
※それらの黒石が強いと思えば下辺は狭く、弱いと思えば下辺は広いと判断できる。

以下、3つの場合について検討してみる。
①受け
②コスミツケ
③ハサミ⇒×三々、⇒〇両ガカリ

【2図:受けは甘い】
・黒1の受けはやや甘い。
・白2、4と治まられると、三角印の黒(8, 十四)のケイマが働きの乏しい手になってしまう。

【3図:コスミツケは強さの問題】
・左下の黒石5子(三角印の黒石)がとても強い石なら、黒1のコスミツケである。
・しかし、白4に続いて白を一方的に攻められるほど、三角印の黒石が強いかどうかは疑問。

【4図:ハサミは有力】
・そこで実戦の黒1のハサミは有力。
※さて、白にも応手の選択がある。
 三角印の白(14, 十七)を捨てるにしても、a(17, 十七)とb(16, 十四)の2種類がある。

【5図:白の三々の応手】
・白1の三々なら、白9までとなる。
・このとき黒10と広げられると、三角印の黒(8, 十四)と呼応して下辺がいい模様になる。

【6図:参考~狙いがない】
・白は本来、三角印の白(14, 十七)を利用して、a(14, 十八)やb(10, 十七)の味を狙いたい。
⇒ところが、この局面では、ちょっと実現できそうにない。

【7図:白の両ガカリが好手】
・4図に続いて、白1の両ガカリが好手。
・黒2のツケから白7までが定石。
※下辺の黒は固まるが、5図のような模様の広がりはない。

☆左下の黒の形が変わった場合、右下隅の白の三々入りが有力になり、味が残る。
【参考図:白の三々入りで味が残る】
・本図の配石の場合、白1の三々も有力。
・テーマ図ほどは左下の黒が強くないので、白9までの定石のあとに、a(14, 十八)や
 b(10, 十七)の味が残る。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、114頁~118頁)

第3章 勝負を分ける「石の封鎖」


〇石の封鎖の重要性
・石を封鎖されないように打つことは、碁を覚えた人が最初に教わる大切な基本である。
・封鎖されることの最大のデメリットは、石が死にやすくなってしまうこと。
 死活の力に自信があって、シノギを読み切っていればいいかというと、そうでもない。
 下手な生き方をして相手を固めてしまうと、やはり形勢を大きく損じてしまう。

・シノギを読み切り、かつ封鎖されるマイナスをすべて判断した上で手を抜いて封鎖を許すなら、かまわない。
 しかし、そんな判断ができればプロ級であるし、そもそもそんな場面はめったにない。

・布石の原則を示す格言に、1にアキ隅、2にシマリなどと言うが、実は「石を封鎖されないこと」というのは、アキ隅よりもさらに布石の基本中の基本と言ってもいい、大切なことである。
(プロはときどき、布石でアキ隅を1カ所残したまま、激しく戦うような碁を打っていることがある。これはまさに、アキ隅よりも石を封鎖されないようにすることを優先している証明である)

・級位者の人は、簡単に中央に出ることができる石でも、わざわざ隅や辺にこもって根拠を作ろうとすることがある。
 石がはっきり二眼を持って生きると「安心」する気持ちはわかる。しかし、序盤から何手もかけ、周囲の相手を固めて小さな地を作ることで、高い安心料を払ってしまっている。
・石が死ななくても、封鎖されることは悪いこと。
 これを実感できるようになるためには、ある程度強くなる必要がある。
・しかし、多少不安があっても、中央に出ることの効果ははっきりと実感できなかったとしても、そこは我慢して相手に封鎖されないように、中央へ出る習慣をつけてほしい。
 すぐに石を封鎖されないことの大切さを実感できるだろう。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、124頁)

第3章 勝負を分ける「石の封鎖」テーマ図10


【テーマ図10】
☆黒1から白8までは、一時期よく打たれた布石だったそうだ。
 白の二間ビラキを圧迫するのも封鎖に似ている。

【1図:二間ビラキに対して】
・テーマ図に続いて、白12まで進行したとする。
 ここで黒はどこに目を向けるか?
※右辺の白の二間ビラキがポイント。

【2図:圧迫する】
・二間ビラキには、黒1、3と圧迫して攻めるのが好手。
・白8までの受けが普通である。
・しかし、黒9で上辺の黒模様は雄大。

【3図:白は一間トビが立派な手】
・したがって、1図の白12では、本図白1とトブのが立派な手。
※これも、封鎖を避けて中央に進出する、基本と同じ意味の手であるいう。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、157頁~158頁)

第4章 弱い石から動く


☆弱い石から動く、とは?
・弱い石から動くということも、布石における重要なテーマ
※弱い石から動くということ以前に、弱い石をできるだけ作らないようにすることが理想的。
⇒「大場より急場」という格言もそのことを示している。
・しかし、模様の広げ合いなどで遅れを取り、相手の模様に入っていかなければならない場合など、仕方なく弱い石を作ってしまうことがある。
 また、互角の競り合いの中でも、石の強弱というのは、絶え間なく変化する。
∴常に自分のどの石が弱いかを気にかけ、弱い石から動くことを心がけておくことが大切。
(そうすれば、自然に自分の弱い石が補強されることになり、相手に厳しく攻められて主導権を奪われることが少なくなる)

<ポイント>
〇布石の大切な原則、ポイント
①弱い石を作らないこと、弱い石から動くこと
※石の強弱を考えることは、一段落の判断をする際にも必要。
②「捨ててしまえば、弱い石ではない」ということ
※弱い石を捨てられないから逃げるわけで、逃げるから攻められる
・取られたら形勢を損じる石(要石)なら逃げるよりないが、捨てても構わない石を逃げて弱い石を作るのは無駄。
・たしかに石を取られるのはくやしいが、ずっと攻められて苦しい思いをし続ける。
 あちこちで損を重ねるくらいなら、早いうちに捨ててしまうのも一策。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、160頁)

第4章 弱い石から動く テーマ図1


【テーマ図1:競り合いの判断】
☆左下で競り合いが始まっている。
 黒はどのように戦うべきであろうか?

【1図:実戦の進行】
・実戦は黒1と打ち、白2、黒3となった。
 はたして、この進行は正しいのだろうか? どのように判断するか?

【2図:三角印の黒石と白石が弱い石】
※前図の黒1、白2は疑問手。
・序盤で競り合いが始まったときは、弱い石を補強するように打つのが基本。
 弱い石は、三角印の黒石と白石。

【3図:ますます弱くなる】
・1図の黒1では、本図黒1のほうがまだまし。
※いずれにせよ、方向が逆。
・白2とトバれて、三角印の黒石がますます弱くなる。

【4図:続き~手がかかる】
・黒は3、5と逃げなければならない。
・白4、6と中央や右下の好点を占めながら、白に攻勢に立たれてしまう。

【5図:弱い石から動く】
※三角印の黒石が黒の弱い石である。
 だから、テーマ図の場面では、弱い石から動く。
・黒1が正解。(こちらから左辺の白を攻める)

【6図:ケイマの理由】
・前図の黒1とケイマにした理由は、次のようになる。
・本図黒1のトビでは、白2の両ノゾキがあるから。
※左下の黒が弱いので、この進行は黒が怖い。

【7図:ケイマなら断点一つでいい形】
・黒1のケイマなら、白2から6と切られても断点が一つしかないので、黒7、9といい形で作ることができる。
⇒これなら黒も戦える。

【8図:白は逃げるくらい】
・黒1には、白2と逃げるくらい。
※1図の黒1と白2がともに不自然な手であることを、感じてほしいという。

【9図:状況が変わる】
※さて、三角印の白石がきたことで強弱関係が少し変わり、三角印の黒石が弱くなった。
⇒次に、白a(4, 六)あたりに打ち込まれると、苦しくなりそう。
 だから、黒はそこに打ち、左辺と左上隅を連絡させて補強することになる。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、161頁~166頁)

第4章 弱い石から動く テーマ図2


「第4章 弱い石から動く」
【テーマ図2:どちらが弱いか?】
☆ここで一つクイズ。
 左上隅の三角印の黒(4, 三)と左下隅の三角印の白(4, 十六)では、どちらのほうが弱いのだろうか?

【1図:星は根拠がなくなりやすい】
・三角印の白(4, 十六)の星は、黒1の両ガカリに対して封鎖を避けて白2と中央に出たときに、黒3の三々で簡単に根拠を奪われてしまう。

【2図:小目は根拠を作りやすい】
・ところが、三角印の黒(4, 三)の小目は白1とハサまれても、黒2、4と中央に進出したあと、黒8などと根拠が作りやすい。

【3図:カカられた星】
※したがって、黒1とカカられた三角印の白(4, 十六)のほうが弱い状態。
⇒黒1にはaやbの受け、c周辺のハサミなどで何か応対をするのが基本。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、167頁~168頁)

第4章 弱い石から動く テーマ図3


【テーマ図3:白はどう打つか?】
・黒1と打ったところ。
・白は少し大変そうだが、どのように打つか?(白番)

【1図:強弱判断】
・三角印の白石(3, 五)はすでにハサまれているが、四角印の白(4, 十六、つまり左下隅の星)はまだ中央と下辺の二方向が空いている。
・また、三角印の黒石(4, 三、つまり左上隅の小目)は1子であるが、四角印の黒(3, 九)(3, 十四)は一応2子が連係している。

【2図:どちらも弱い】
※左上は黒も白も比較的弱いところ。
・弱いほうから動くという基本に従い、白1が急場。
・黒2なら白3と備えて、封鎖を避ける。

【3図:穏やかな進行に】
・黒も左上がまだ強くはないので、続いて黒4なら普通。
・白5、黒6とお互いに弱点を守れば、穏やかな布石になる。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、169頁~170頁)


弱い石から動くにしても、小さく眼を作るのはできるだけ避けるべきである。
次のような配石で考えてみよう。
【テーマ図6:白はどちらが好手か?】(白番)
・白1から黒12までと進行した場合、続いて白はA(16, 十三)とB(15, 十九)のどちらが好手か?

【1図:封鎖を避ける基本に反する】
・実戦は白1と打った。
※弱い石から動いてはいるが、この白1は、封鎖を避ける基本に反している。

【2図:中央を打つのがよい】
※弱い石から動くにしても、小さく眼を作るのはできるだけ避けるべきである。
⇒白1と広いほうに打ち、封鎖されにくい形を作るべきであった。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、176頁~177頁)

第5章 一段落に気をつける


・アマチュアにとっては、「攻めの布石」一本槍で実戦をこなすことが棋力向上の近道でああろうという。(序章や第1章参照)
 しかし、本当の力をつけるためには、総合的にいろいろな知識を身につけ、判断力を磨いていく必要がある。
・第5章では、「一段落の判断」について解説している。
 このことは、技術だけではなく、心構えの問題という面もある。
 アマチュアが布石で遅れを取る原因のほとんどは、この「一段落の判断」ができないことにあるらしい。
 一か所を打ちはじめると、いつまでもそこから離れることができず、相手の手についていって、小さいところを打ち続けてしまう。

☆それでは、何をもって一段落したと判断すれば、いいのだろうか?
(毎局ごとに違う形が出てくるのだから、暗記しようとしても意味がない)
⇒三村智保氏によれば、一段落の基準となる「お互いに弱いところや攻められる石がない状態」を見分ける考え方を身につける必要があるとする。
 つまり、自分の石が攻められず、相手の石を攻めることもできなくなったと思えば、そこから目を離す。これが大切であるそうだ。

・アマチュアは、「いつ手を抜いていいかわからない」人が多い。
 たしかに相手がどこに打ってくるかわからないし、何か自分の見落としがあるのではないかという不安もあるだろう。
 けれど、自分が「もう一段落した」と思ったら、他の場所に大きいところを探す習慣をつけるようにするとよいと、アドバイスしている。
(その結果、実際はまだ一段落していなくて、攻められたり、大きなキズを作ったりしても、それは経験だと割り切る。何となく、いつまでも同じところを打ち続けていても、上達にはつながらない)
第5章では、対局中の心がけについても言及している。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、204頁)

第5章 一段落に気をつける テーマ図6


【テーマ図6】
・上辺も一段落していなかったが、黒1と忙しく打った。
・黒11までの進行に疑問はあるだろうか?

【1図】(ここまでは)
・黒1は左上を打てば普通だが、忙しく打つ趣向だろう。
・黒3、5は弱い石を動いているし、白6は根拠の要点。

【2図】(第一の疑問)
・ここで、黒7のハイと白8のオサエとなったが、この二つは両方とも疑問手。
※気がついただろうか?

【3図】(弱さの比較)
・相対的な問題で、左下の白△よりも左上の黒▲のほうが弱い石。
※白△は急に激しく攻められる心配がない。ここが白のチャンスだった。

【10図】(白14は?)
・黒1では、すぐに黒5など左上に回るべきだった。
・また黒3と決めたのも悪手。
・白6から12までは形であるが、白14はどう思うだろうか?

【11図】(黒▲は生きている石)
・この局面をよく見ると、黒▲と白△は生きている石なので、左上は一段落。
・そして、黒■と白□には、まだ根拠がない。

【第12~13図】
・10図の白14では、白1、3と先に左下隅の攻めに回るチャンスだった。
・白7とボウシして、白は主導権を握る。
・続いて、黒8と打てば根拠を確保できるが、黒8は狭く、白7と黒8の交換なら、白は満足。
・左辺は軽く見て、白9に回る。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、229頁~235頁)

【補足】進出の手筋~山下敬吾『新版 基本手筋事典』より


第2部 守りの手筋
15進出する
・進出の手筋は、封鎖の手筋に対応するもので、封鎖を避けて外に進出するにはさまざまな形がある。
・常識的には、封鎖は避けたいもの。
 とくに眼のない石、あるいは眼形に不安のある場合、進出が絶対条件である。
・しかし、進出は守りだけでなく、相手への攻めや模様化阻止など、実際は多方面な目的を秘めているものである。
・ここでは進出の基本的な形、考え方を述べておこう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、416頁)
【1図】(コスミ)
・実戦に頻繁に現われる両ガカリ定石。
・白1と封鎖されては窮屈だから、黒1と進出するのが、もっとも簡明で手堅い。
・黒aやbの進出法もあるが、いずれにしろ、白を裂いて、左右の白の攻めをみるのも目的のひとつ。

【2図】(大ゲイマ)
・黒1の大ゲイマがスマートで、働いた進出の形である。
・ちなみに一間から大ゲイマに打つこの形は「馬の顔」と呼ばれ、好形の見本とされる。
・ちなみに、黒aは「猫の顔」、bは「犬の顔」、cは「キリンの顔」
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、416頁)

<ポイント>
・大ゲイマ=「馬の顔」好形の見本
 コスミ=「猫の顔」、ケイマ=「犬の顔」、大々ゲイマ=「キリンの顔」

【第1型】
・黒二子は放っておくと、封鎖されて危険。
・では、どう進出するかだが、手筋の力でスマートな進出を果たしたいところ。

【1図】(失敗)
・黒1のアテから3のカケツギは、典型的な俗筋である。
・白4のノビ、黒5と出ていくよりない。
※白は左右とも厚い形。
※これは「車のあと押し」で、このあと白aがきびしいから、さらに黒a、白b、黒cが必要。

【2図】(正解)
・黒1のツケが進出の手筋。
・白2、4ならおだやかで、黒5とハネて、一段落。
※双方とも治まって不満はないだろう。
※なお、白4では5と追及する手もある。
黒はaやbをみて、cからむずかしい戦いとなる。

【3図】(変化)
・黒1に白2のノビなら、黒3のアテから5、7と頭を出すのが、手筋。
・白8の切りに黒9と備えて、不満のない形。
※なお、黒3のアテではaにオサエ込む手もある。
 右辺重視の手段で、険しい戦いとなろう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、418頁)

【補足】進出と脱出の手筋~藤沢秀行『基本手筋事典 上』より


第2部 守りの手筋 序文
【進出の手筋】
・中央に進出する手じたいには利はないが、相手からの攻めを未然に防ぐとともに、挟撃あるいは圧迫、封鎖の基礎となる。
・見過ごされやすいが、重要な目的を帯びており、適切な進出の形は、以後の戦いに大きく寄与するだろう。
・ただし、進出するか根拠を求めるか、あるいは封鎖を許しても他方面に向かうか、部分だけでの判断は不可能である。
・進出しても、ダメを打った手となるケースに、最も注意しなければならない。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、285頁)

【脱出の手筋】
・脱出の手筋は進出の手筋とよく似ているが、包囲されかけた石がより危険な状態にあり、より高度の技術をもってしなければ、中央進出が不可能だ、というあたりに選別の基準を置いた。
・いくつか脱出の筋があるばあいは、最も相手に打撃を与える形でなければならないし、周囲の状況によっては、脱出しても大きく攻められるばあいもあろう。
 脱出するか否かは全局的判断を待つよりない。
・例によって、基礎的脱出の形を紹介してみよう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、308頁)

【進出の手筋~ハサミツケ】
・二点を見合いにして、急所に先行する手筋の応用。
・黒のダメヅマリを拡大するねらいを秘めている。

【原図】(白番)

【1図】(無気力)
・白1、3と下をハエば無事だし先手だが、これではまったく黒の思い通りの進行である。
・白aのトビダシが残るていどのことでは進出形といえないし、白bとオサえて、ダメヅマリをねらう手も枝葉末節だろう。
※といって、白1でcのキリは乱暴。黒2で苦しい。

【2図】(白1、手筋)
・白1のハサミツケ、3のワタリと2のキリを見合いにする。
・黒2、白3とワタれば、黒▲、白3の交換がダメヅマリの悪手となり、将来、黒aとツメて、3のオキをねらうような手を消しているのである。
※前図とは比較にならぬ白の好形だ。

【3図】(無理な抵抗)
・黒が抵抗するなら、2のサガリだが、白3のキリから5のツギがキキ、今度こそ白9のオサエがダメヅマリを衝いて、きびしい。
※白1で単に3のキリは黒1とヒカれて、5、7というキキが生じないため、白9のオサエに威力がなく、無理な戦いになってしまうのだ。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、306頁)

【補足】三村智保氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より


<小目・向かい小目>【参考譜】
②2001年 山田拓自-三村智保 (370頁)
第26型 【参考譜】(1-61)
2001年 第26期棋聖戦リーグ
白九段 三村智保
黒六段 山田拓自

・白10は軽い手で、勢力の碁を目指している。
・黒は11と受けたが、これでは下辺を黒34と割るのもある。
・白12と三連星を布いた。
・白14に黒15の三々入り以下、19までは定石である。
・白20のケイマは柔らかい手である。
(通常は、白(16, 十四)、黒(18, 十四)で手を抜く)
・白22は形。
・黒23と下辺からのカカリは正しい。

【1図】(黒、無理気味)
〇白10は軽い手で、勢力の碁を目指している。これに対しすぐ、
・黒1と切るのは性急過ぎで、白2、4から6とカケツがれる。
・黒7以下の戦いは無理気味である。

【2図】(黒、先手)
〇黒は11と受けたが、これでは下辺を黒34と割るのもある。続いて、
・白1のトビサガリには、黒2から4のハイを決めて、先手を取るのも、一策である。

【3図】(上辺に備える)
〇白12と三連星を布いたが、これでは、
・白1とヒラくのもある。
・黒2の割り打ちに、白3とツゲば、上辺は一人前の形。
・黒4のヒラキ以下8まで、これもあるだろう。

【4図】(がんばり過ぎ)
〇白22は形だが、これで、
・白1のオサエはがんばり過ぎで、黒2を決めて、4、6以下10と抵抗されると、白地はガラガラになる。

【5図】(黒、重複)
〇黒23と下辺からのカカリは正しく、
・黒1からカカるのは、白2、4とツケノビられ、黒7のヒラキが上方の低位の黒▲(3, 七)とコリ形になり、黒はおもしろくない。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、370頁~371頁)

【補足】三村智保氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より


<小目・向かい小目>【参考譜】
⑨2004年 依田紀基-三村智保 (416頁)
第31型 【参考譜1】(1-58)
2004年 第59期本因坊戦プレーオフ
白九段 三村智保
黒名人 依田紀基

・隅をシマらずにすぐ5とカカリ、白6のハサミに黒11と実利に就いた。
・白14のオサエ。
・黒17のコスミに、白18から20のワタリは欠かせない。
・白18で右上にカカると、黒(2, 十四)、白(1, 十四)、黒(2, 十二)の動き出しが厳しく、逆に白が攻められかねない。
・黒23から25に白は手を抜いて、25にヒラいた。
・白28のハサミ。
・白38、48のツケハネは筋である。

【1図】(一子が遊ぶ)
〇白14のオサエで、
・白1のオサエから5と下辺に構えるのは、黒先手で6のシマリにまわる。
※白は白△の一子が遊んでおり、不十分である。

【2図】(白、遅れ気味)
〇黒23から25に白は手を抜いて、25にヒラいた。これでは、
・白1から3が定形であるが、この場合、黒4から6と大場にまわられ、白は遅れ気味である。

【3図】(白、厚い)
〇ただし、2図の黒4で、
・黒1に受けると、白2以下6まで中央が厚くなり、絶好の8に展開される。
※また、白2ではaのカケもありそうだ。

【4図】(定形だが―)
〇白28のハサミで、
・白1のコスミツケ以下5までは定形だが、黒から6または黒a、白b、黒cと圧迫される可能性がある。

【5図】(白模様消える)
〇白38、48のツケハネは筋であるが、38で、
・白1と止め3と広げるのは、黒4以下10で簡単に白模様を消される。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、416頁~417頁)


≪囲碁の布石~高尾紳路氏の場合≫

2024-11-10 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~高尾紳路氏の場合≫
(2024年11月10日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでも、引き続き、囲碁の布石について、次の著作を参考にして考えてみたい。
〇高尾紳路『囲碁 布石入門 初級から初段まで』成美堂出版、2013年
高尾紳路氏によれば、布石は、家造りにたとえれば土台の段階で、碁では重要な分野であるとする。
 布石は、「1、隅の先着。2、隅のシマリとカカリ。3、辺へのヒラキ。4、中央への展開」という順番に打ち進められていくのが、ふつうである。この順番のうち、辺へのヒラキが布石を理解する鍵を握る。したがって、ヒラキとは何かが分かれば、布石の大筋をつかんだことになるという。
ヒラキは目的によって、陣地拡大と根拠確保の二つに大別される。
 二間ビラキが、最小限の根拠を確保するヒラキの基本。ただし、二子が中央に向かって並んでいる場合は、三間が正しいヒラキかたとなる(二立三析)。
 大筋の方向を決める目のつけどころは、すでに打っている石の状態、つまり石の強弱である。すなわち、石の強弱が生命線であるという。
 こうした大筋の方向に基づいて、以下、内容をまとめてみたい。
 あわせて、私が管見した範囲内で、高尾紳路氏の実戦譜を【補足】として追加しておいた。

【高尾紳路氏のプロフィール】
・昭和51年、千葉県に生まれる。師は藤沢秀行名誉棋聖。
・平成3年、入段。平成17年、九段。
・平成12年、第9期竜星戦優勝。
・平成16年、第13期竜星戦優勝。
・平成17年、第60期本因坊に。以後、3連覇。
・平成18年、第31期名人に。史上6人目の名人本因坊。
・平成20年、第46期十段。
・平成22年、第3回大和証券杯グランドチャンピオン。



【高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版はこちらから】

囲碁 高尾紳路の布石入門 初級から初段まで



本書の目次は次のようになっている。
【目次】
はじめに
あなたの布石理解度チェック表
第1章 ●十九路盤でもとまどわない
     布石の基本的な考え方
第2章 〇右に打つか左に打つか二択問題
     方向感覚を磨く60問
第3章 ●大筋の方向を全局問題で考える
     布石の基本23問
第4章 〇自分の石は弱いか強いか
     序盤攻防の筋と形30問
第5章 ●悪手を発見する問題
     どの手が悪いか12問




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・はじめに
・第1章 布石の基本的な考え方
・<本書の構成>
・第2章 方向感覚を磨く【問題55】
・第2章 方向感覚を磨く【問題59】
・第3章 布石の基本【問題13】
・第3章 布石の基本【問題14】
・第3章 布石の基本【問題15】
・第3章 布石の基本【問題20】
・第3章 布石の基本【問題21】
・第4章 序盤攻防の筋と形 【問題17】
・第5章 どの手が悪いか 【問題2】

・【補足】布石 二間トビ~藤沢秀行『基本手筋事典 下』より
・【補足】高尾紳路氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より
・【補足】高尾紳路氏の実戦譜~高尾紳路『一局の基本 歴代名人編』より




はじめに


・初級の人は、入門時に使う九路盤から十九路盤に変わった途端、その広さにとまどって、迷子になったような気分になり、どこに打てばよいか分からなくなってしまう。
 それは、中級、上級と進級しても同じようなものである。
・なぜ、どこに打てば良いかが分からなくなるかと言えば、布石の場合は、死活や手筋の分野と違って、明確な正答が出にくい分野だからである。
・布石は、家造りにたとえれば土台の段階で、碁では重要な分野である。
 そこで、どこに注意すれば布石の大筋がつかめるか、実戦に臨んで応用できるようになるためには、どこがポイントかに心掛けて、構成したという。
・本書では、大筋の方向を間違えないための目の付け所はどこかに絞り、細かいことは省き、中盤の戦いにおいても応用がきき、勝率のアップにつながるような基本的な考え方が身につくように心掛けたそうだ。
(それは、初段以上になっても、十分通用する布石の考え方であるとする)
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、3頁)
各章のまとめ開始2024年11月4日

第1章 ●十九路盤でもまどわない
     布石の基本的な考え方

第1章 布石の基本的な考え方


<布石の基本>
①ヒラキが布石理解の基本
・本書では、初級から上級までの人が初段になっても通用し、指針となる布石の基本的な考え方が身につくことを目標に構成した。
(むろん、初段や二段の人も布石の基本を確認するという意味で役立つはず)
・布石は、「1、隅の先着。2、隅のシマリとカカリ。3、辺へのヒラキ。4、中央への展開」という順番に打ち進められていくのが、ふつうである。
※この順番のうち、辺へのヒラキが布石を理解する鍵を握る。
 したがって、ヒラキとは何かが分かれば、布石の大筋をつかんだことになる。
・ヒラキは目的によって、陣地拡大と根拠確保の二つに大別される。

②根拠確保のヒラキ
・二間ビラキすることで、最小限の陣地を確保することができる。
(相手の強い場所においては、二間ビラキが基本。一間ビラキは狭く、三間ビラキすると、打ち込まれて、応手に困る)
・根拠確保のヒラキの基本を応用したのが、相手の陣地拡大を防ぐ割り打ちという布石のテクニック。
(相手に接近されても、二間ビラキできる地点に打つのが、割り打ちの基本)

③二間ビラキと三間ビラキ
・陣地拡大と根拠確保のヒラキは、目指す目的がまったくちがう。
 二つのうち、根拠確保のヒラキが布石理解の急所。
・二間ビラキが、最小限の根拠を確保するヒラキの基本。
※ただし、ヒラキの基本は形によって変わる。
 二子が中央に向かって並んでいる場合は、三間が正しいヒラキかたとなる。
 例えば、ツケ引き定石の場合。

【3図、4図】
・黒1から5まではツケ引き定石。
・白2、4が中央に向かって並んでいるので、白6の三間がヒラキの基本。
※こうした形の場合、白6でaの二間ビラキは基本に反する打ち方となる。


④根拠の要点を見逃すな
・序盤の布石の段階でも中盤に入っても、「根拠の要点を見逃さない」ことが大切。
・陣地を拡大するヒラキは、大場と呼ばれる。根拠の要点は、急場と呼ばれる。
・二立三析の場合は、三間ビラキがほぼ絶対の一手で、「大場より急場」の囲碁格言にしたがうのが正しい打ち方。

⑤大筋の方向をまちがえるな
・布石だけに限らないが、すでに打った石を生かすためには、大筋の方向をまちがえないことが大切。
(先に説明した「根拠の要点を見逃すな」などは、その一つ。)
・大筋の方向を決める目のつけどころは、すでに打っている石の状態。石の強弱。

<本書の構成>
・第2章以降は、問題形式で構成した。
 まず、第2章では、初級や中級の人が大筋の方向感覚を磨くのにふさわしい問題を選んだ。第2章では、盤上の半分を使い、大筋の方向に焦点を絞って、出題した。
・第3章では、全局における、大筋の方向を考えてもらう。
※ただし、第2章とちがい、第3章では、布石の基本をつかむため、多角的に出題した。
・第4章では、互いの石が接触した筋と形に関する問題を出題した。
・最終章の第5章は、これまでマスターしてきた布石の基本や、筋と形に関する応用問題である。出題図に数手示し、どの手が悪いかをさがしてもらう。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、7頁~36頁)

第2章 方向感覚を磨く【問題55】


【問題55】白石の強弱を判定 初段レベル
黒の番

〇強い石に近寄るな
【正解図】大ゲイマが形
※右下隅の白石は強い一団。接近しても、狙いがない。
・そこで、黒1と大ゲイマにヒラくのが、好判断。

【失敗図】接近は無謀
・黒1と接近するのは、無謀な打ち方。
・白2と逆襲されて、黒が困る。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、93頁~94頁)

第2章 方向感覚を磨く【問題59】


【問題59】石の強弱が生命線 初段レベル
黒の番
〇右下が急場

【正解図】黒1、3は先手
※右下の白石や黒石はまだ完全に生きていない一団。
・だから、黒1、3と生きるのが良く、白4が省けない。

【失敗図】黒1は白石に響かない
・黒1は下辺の白三子に響かず、白2、4の後、aに白石がくると、白bの狙いが脅威となる。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、97頁~98頁)

第3章 布石の基本【問題13】


【問題13】永遠の課題 1級レベル
白の番
・黒1とカカってきた局面。
・こうした場合、白Aとハサむか、Bと受けるかは、永遠のテーマ。
・互いの配石によって変わるが、次の一手は、ハサミと受けのどちらだろうか。

〇ハサミが好判断

【失敗図】黒2が絶好になる
・白1がなぜ悪手になるかと言えば、黒2のハサミを絶好にさせてしまうから。
・黒2によって、白△の根拠を奪われるため、白3と逃げ出さざるを得なくなる。
・すると、黒4とケイマされて、白不満の戦い。

【正解図】白△が目のつけどころ
・次の一手を決める目のつけどころは、白△である。
・白△を生かすためには、白1やaのハサミが良く、黒2の三々なら、白3のほうから、押さえる。
・後は、黒4から10までの進行となり、左辺一帯の白が好形になり、白に不満がない。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、127頁~128頁)

第3章 布石の基本【問題14】


【問題14】大場より急場 初段レベル
白の番
・前ページの正解図に続く局面。
・左辺に関しては、白Aの白勢力の拡大や白Bのコスミが考えられる。
ほかに白Cも大場。
・迷った時は、「大場より急場」の格言が役に立つ。

〇攻防の要点を見逃すな
【正解図】根拠を脅かすのが好判断
・白1がなぜ良い手になるかと言えば、黒五子の根拠を脅かしているから。
※白1は、黒五子の根拠を奪いながら、左辺の白の陣地を固める攻防の要点。

【正解図・続】白1は大場より急場
※主要な囲碁格言の一つに、「大場より急場」がある。
 単なる大場以外に根拠に関する急場がある場合は、根拠を奪ったり、根拠を確保したりするほうが、大切であることを教えてくれる囲碁格言。
・ここは白1がそれで、黒は2と根拠を確かめるくらいのもの。
・次に、白は二通りの打ち方があり、一策は白3の大場先着。

【失敗図1】黒2が絶好点
・白1がなぜ悪いかと言えば、黒2と根拠を確保しながら、左辺の白陣に食い込まれるから。

【失敗図2】白1、3は格言違反
・白1がなぜ悪いかと言えば、「大場より急場」の格言に違反しているから。
・白1の大場先着は、黒2に石の調子で、白3の大場に連打する打ち方。
・しかし、黒4と攻防の要点に先着されて、白の失敗布石。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、129頁~132頁)


第3章 布石の基本【問題15】


【問題15】天王山を見逃すな 初段レベル
黒の番
≪棋譜≫
棋譜再生
・この布石は、右上一帯の黒の大模様と左下一帯の白の大模様がにらみあっている。
こんな布陣では「天王山を見逃すな」が大切である。とすれば、黒はどこが最善か?

⇒・黒1とカケる一手である。
 ・黒1がなぜ最善になるかと言えば、右上一帯の大模様を広げながら、左下一帯の白模様のスケールを制限しているからである。
 〇黒1は、互いの大模様の消長に関する天王山である。
 ・黒は1、3を決めてから、5と大模様にシンを入れるのが好手順である。黒不満のない展開。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、133頁~134頁)

第3章 布石の基本【問題20】


【問題20】アマ有段者の実戦 初段レベル
黒の番
・根拠を確保した石は強く、根拠のない石は弱いので、相手に攻められることになる。
・アマ有段者の実戦である。
・黒AとBのどちらが良いだろうか。

〇弱い石を作るな
【失敗図】黒が棒石の弱石になる
・黒1がなぜ悪い手かと言えば、白2のコスミツケから4、6と攻め態勢を整えられて、黒石は根拠のない弱い石になってしまうからである。
※黒1は大場に打っていても、「弱い石を作るな」の鉄則に違反している。
 逆の見方をすれば、白2以下が相手の石を弱石にする好手となる。

【正解図】根拠確保が大切
・というわけで、黒1、3が根拠確保の良い手。
※また、白6で7は、黒6である。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、145頁~146頁)

第3章 布石の基本【問題21】


第3章 問題21 右下の白勢力がポイント 初段レベル
【問題21】右下の白勢力がポイント 初段レベル
黒の番
・この布石は右下一帯に広がる白勢力が目のつけどころ。
 この白勢力が目一杯に働かないように、心掛けるべきである。
 黒A、B、Cのどれが良いだろうか。

【失敗図1】(白模様は理想的な構え)
・黒1がなぜ悪いかと言えば、白2のカケが絶好点になるから。
※通常の布石では、黒1あたりが辺に展開する大場となる。
・しかし、この布石は右下一帯に白の強力な勢力があるため、白2、4とカケられると、下辺一帯が谷の深い理想的な大模様になり、白石が目一杯に働いてくる。
 相手の白石が存分に働くようになっては、黒の失敗布石。
【失敗図2】(黒最悪の展開)
・黒1がなぜ悪いかという理由も同じ。
・白2、4とカケられて、右下の白勢力が働き、下辺一帯の大模様の谷が深くなる。
※厳密に言えば、本図の黒1から5までは最悪の展開。
 黒▲から5までの黒四子がすべて第三線に片寄って位が低く、いわゆるコリ形になってしまうから。

【変化図】(白勢力が参戦する)
・といって、白△のカケに黒1、3の出切りは無理。
・一例を示せば、白2から8までの手順が予想され、こんどは右下の白勢力が戦いに参加してくるから。
※失敗図1や失敗図2は、この布石の目のつけどころである右下の白勢力を見ていない打ち方。

【正解図】(コスミが絶好点)
・この布石は黒1のコスミが絶好点。
・次に黒aを狙うのが好判断となる。
【正解図・続】(黒1、3と打ち黒成功)
・黒1がなぜ良い手かと言えば、白勢力の働きを制限しているから。
・この布石は黒1の一手で、白2の大場なら黒3とカケて、黒に何の不満もない展開だろう。
・こうなっては、右下一帯の白勢力が働かなくなり、白4には黒5かaである。
※いずれにしても、黒1、3と布石の要点を連打して、黒好調の運び。
 逆に言えば、黒3のカケを食らっては、白不満。
【変化図】(一局の布石)
・黒1には、黒aを防ぎながら、下辺を拡大する白2も大きく、黒は3かbに打ち、互いに言い分のある一局の布石。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、147頁~150頁)

第4章 序盤攻防の筋と形 問題17


【問題17】強弱を見極める 1級レベル
白の番
・下辺の打ち方が焦点になっている。
・とすれば、白AやBなどが考えられる。
・どちらを選ぶかは、下辺一帯が白の強い場所か弱い場所かの判断によって、決まる。

〇下辺一帯は黒の強い場所
【失敗図】分断されては白が悪い
・白1がなぜ悪手かと言えば、黒2と分断されて、一方的に攻め立てられるから。
・白△と白1、3の両方の石に根拠がなく、黒4と黒地を固めながら攻められて、黒に主導権を奪われてしまう。
※白が窮地にはまったのは、下辺一帯の強弱判断をまちがえたため。

【正解図】下辺一帯は黒の石数が多い
※強弱判断の目安は、黒と白の石数を比べれば判明する。
・下辺一帯は黒の石数がきわめて多い場所であるから、白1かa、bなどが正着。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、191頁~192頁)

第5章 どの手が悪いか 問題2


「第5章 
【問題2】敵を強くする俗筋 1級レベル
≪棋譜≫
棋譜再生
悪手さがし
☆右辺の黒陣に、白△がなぐり込んできた。
ここで、黒1、3とツケ引いて5とコスんだ。
黒1から5までの手順のうち、どの手が敵を強くする俗筋だろうか?

〇弱い石にツケるな
【失敗】黒11は白石を強くする俗筋
≪棋譜≫
棋譜再生
☆黒1のツケがなぜ悪いか?
⇒白2の押さえから4とツガれて、白石を強くしているからである。
右辺一帯は黒石が5個あり、かなり強い場所。
・そこに入ってきた白△は弱い石にもかかわらず、黒1とツケると白2、4とツイで、強い石になる。
※黒1、3は白石を強化する典型的な俗筋である。囲碁格言にも「弱い石にツケるな」とある。
・続いて、右辺の白三子が強くなったため、白6、8のハネツギが隅を確保しながら、黒三子の根拠をなくして、攻める好手となる。
・黒9に白10などと飛ばれて、黒不満の展開である。
⇒これでは弱かった白石が威張っている。

【正解】黒1、3が最善の攻め
≪棋譜≫
棋譜再生
・なぐり込んだ白△は弱い石。
となれば、ここは黒1と飛んで黒三子を強化しながら追撃するのが良い。
・白2に黒3と攻めることができれば満点。
・白4の逃げに黒5とボウシして、黒石を強化しながら、白6に黒7とボウシ攻めして、好調の戦い。
・続いて、白8の逃げに黒9の三々などが打てればプロ級だという。
・白10には黒11、13と隅に食い込み、黒15と白陣を荒らす。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、223頁~225頁)



【補足】布石 二間トビ~藤沢秀行『基本手筋事典 下』より


拡大の手筋 トビ


・拡大の手筋は、石が接触しているばあい、圧迫の手筋と連動する。
 多少の重複は恐れず、基礎的な形から説明しよう。
・布石の古典的順序からいえば、一アキ隅、二シマリ(カカリ)、三ヒラキ、四ツメ、
五トビの五番目。
 たがいに地と根拠を確かめ合ってから、自分の勢力圏を拡大することになる。
 現実の碁では、その順序も崩れることが多いし、また、立体的な現代布石では、ヒラキよりトビが優先するばあいがないでもない。
(藤沢秀行『基本手筋事典 下』日本棋院、1978年、57頁)

拡大の手筋 二間トビ【参考譜11】


【二間トビ】
・拡大の構想は部分的なモヨウにとどまらず、全局的観点から発しなければならない。
・部分の形より、全局のバランスが優先する。

【参考譜11】
第1期名人戦 リーグ戦
 白 山部俊郎
 黒 藤沢秀行

・黒1と二間にトンで、下辺のモヨウを拡大しながら、全局的な厚みを築く。
・aのボウシなどを含んで、中央も大きくなりそうだ。
・黒1でbは部分に偏している。

【参考図】(以後の攻防)
・白1のウチコミは、いまが時期。
・黒は2とツメて隅の地を固めながら、白を追い出す攻めだ。
・白3には黒4とカブせて、aとツケるモタレの攻めをねらう。
・白5、7と黒にも弱点を作り、11、15と形作りに大わらわ。
・黒16は眼形の弾力を奪う手筋であり、黒18、20とワタッて、一方的な攻勢を約束した。
※地合いでもすでに釣り合っており、いまだに残る白への攻め味と、中央に形成されかけている漠然とした地モヨウ分が、黒のリードと見られる。
※あえて大きく広げ、相手からのウチコミを誘う拡大の構想も、ときには有力である。
(藤沢秀行『基本手筋事典 下』日本棋院、1978年、70頁)

【補足】高尾紳路氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より


 高尾紳路氏の実戦譜から、次の文献を参考に、布石の例について紹介しておこう。
〇依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年

<星・タスキ星>【参考譜】
②1999年 高尾紳路-大竹英雄(146頁)
第16型 【参考譜】(1-53)
1999年 第25期天元戦本戦
白九段 大竹英雄
黒六段 高尾紳路

・白8のカカリに黒9とハサみ、以下白18まで、先手を取って、黒19とツメた。
・黒19に白は手を抜いた。
・黒23のカケは工夫した手である。
・白30の押し。
・白30に、黒31、33のハネノビは欠かせない。

【1図】(下辺も大場)
〇黒19とツメたが、これでは、
・黒1のヒラキも大場である。
・白2のカカリに黒3以下白8まで先手を取って、待望の黒9にツメる。これもあろう。
・手順中、白2でaと守れば、黒4のシマリが絶好である。

【2図】(打ちにくい)
〇黒19に白は手を抜いたが、これで、
・白1、3と守れば、手堅い。
・しかし、黒2の立ちで、左辺が理想形になり、白は打ちにくい。

【3図】(黒、今ひとつ)
〇黒23のカケは工夫した手である。これでは、
・黒1のコスミツケが手筋であるが、この場合は、白2から6のコスミまで、黒、今ひとつであろう。

【4図】(黒、十分)
〇白30の押しで、
・白1とシマるのは、黒2から4のトビが調子よくなる。
・譜の黒23と相まって、黒十分である。

【5図】(黒、つらい)
〇白30に、黒31、33のハネノビは欠かせない。これで、
・黒1にカカるのは、白2から4のトビが好点で、黒5と守るのでは、つらい。
・黒7に続いて、白は譜のAトビで好調になる。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、146頁~147頁)

【補足】高尾紳路氏の実戦譜~高尾紳路『一局の基本 歴代名人編』より


・2017年8月30日~31日
 第42期名人戦挑戦手合 第1局
 黒番 井山裕太 棋聖
 白番 高尾紳路 名人
 総手数271手完 白半目勝ち
 

第1局 第42期名人戦挑戦手合 第1局 高尾紳路名人VS先番井山裕太


1~100手まで
☆本局で学んでほしいポイントは、「捨て石」
・石を捨てた引き替えに、大模様を張って勝負する流れを味わってほしいという。
・相手の弱点をよく見ることも重要。(10頁)

<布石に関連して>
・右上の小目から、黒は小ゲイマにシマリ。シマリは主に第三線か第四線に打たれる。
・左上の白6は一間ガカリ。小目からのシマリやカカリは大きいので、優先されることが多い。
・黒7の下ツケに、白8とぶつかっていった。ナダレという打ち方。
・黒は連絡するので、9は絶対。
・白16とハサミに、黒17と三々入り。

<高尾氏の感想>
・井山さんは弱点がない。そしてとくに読みの幅が広く深い。その点がほかの棋士より優れている。
・一方向に深く読む人はいるが、独創的でいろいろなことが読めるのが、ほかの棋士が真似できないところだろう。
・序盤は悪くない立ち上がりだと思ったという。
・ただ、黒97と切りから眼形を脅かされる筋を見落としていた。
・白64のときに、気がついていなければいけなかったそうだ。

<一局を終えての高尾氏の感想>
・打っていて、井山さんの充実ぶりを感じた。
 本局は勝ったが、その後4連敗。名人位を奪い返される。
 実力が足りなかった。
 井山さんはこのシリーズを勝って、2度目の七冠独占を果たし、その功績で国民栄誉賞を受賞。井山さんと名人戦という大きな舞台で、3年連続で打てたのは幸せだったという。
(高尾紳路監修『一局の基本 歴代名人編』池田書店、2018年、10頁~29頁、123頁、126頁)

高尾紳路の他の著作
【高尾紳路『布石から中盤入門』はこちらから】


≪囲碁の布石~白石勇一氏の場合≫

2024-11-03 18:00:04 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~白石勇一氏の場合≫
(2024年11月3日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでは、囲碁の布石について、次の著作を参考に考えてみたい。
〇白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年
 布石の基本的な考え方が、第1章、第2章、第4章に述べてある。
 そして、目次にもあるように、「第6章 布石紹介(三連星、中国流、星とシマリの布石)」三連星、中国流、星とシマリの布石が主なテーマとなる。
 それぞれの布石の特徴としては、次のように言われている。
〇三連星~四線を中心に、スピード最優先で大きく構えることを目指す作戦
〇中国流~高低のバランスを取り、足元を固めながら勢力圏を広げていく作戦
〇星とシマリの布石~じっくり腰を落ち着けて、相手の出方を見ながら打ち方を決めるような作戦
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、144頁)

 ただ、三連星については、若干のコメントを書き加えておく。
 三連星は、かつて武宮正樹氏の“宇宙流”として、一世を風靡するほど流行した。
 現在、三連星の布石は、プロ棋士やアマ高段者の間では、打たれない。その理由の一つには、攻略法(三連星破り)が研究されたことがあろう。
 例えば、次のようなYou Tubeのサイトを見れば、そのことがわかる。
〇囲碁学校(小松英樹九段)
 「小松流 碁の勝ち方 ゆるまず打つ!(3)」(2017年1月30日付)
〇rido channel
「3連星が打たれなくなった理由【布石理論】」(2020年2月7日付)
〇プロ棋士 柳澤理志の囲碁教室
「三連星対策シリーズ1 白の大模様返し作戦!」(2020年4月27日付)
※なお、三連星の可能性については、次のようなYou Tubeのサイトもある。
〇将碁チャンネル(山田規三生九段)
「おすすめのAI流三連星1」(2024年5月4日付)



【白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版はこちらから】

やさしく語る 布石の原則 (囲碁人ブックス)




〇白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年

本書の目次は次のようになっている。
【目次】
まえがき
序章 本書の内容と活用法
第1章 勢力圏を意識する
第2章 勢力圏争いに勝つ
第3章 確認問題①
第4章 勢力圏への入り方
第5章 確認問題②
第6章 布石紹介(三連星、中国流、星とシマリの布石)
第7章 実力テスト
第8章 知識編
<コラム>




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・白石勇一氏のプロフィール
・本書の内容
・第1章 勢力圏を意識する
・第2章 勢力圏争いに勝つ
・第2章 テーマ図3
・第3章 確認問題①
・第3章 第7問~三連星の布石
・第4章 勢力圏への入り方
・第4章 テーマ図1
・第5章 確認問題②
・第5章 第4問
・第5章 第6問
・第6章 布石紹介(三連星、中国流、星とシマリの布石)
・第6章 三連星
・第6章 中国流
・第6章 星とシマリの布石
・第7章 第3問~中国流
・第8章 知識編
【ヒラキとツメ】【二間ビラキ】【二間ビラキもどき】【割り打ち】
・第8章 知識編
定石や定型~【テーマ図5】:大々ゲイマへの打ち込み
・【補足】布石 削減の手筋~藤沢秀行『基本手筋事典 下』より







白石勇一氏のプロフィール


白石勇一六段
昭和59年生まれ。神奈川県出身。岩田一九段門下。
平成17年入段。平成27年六段。
「白石勇一の囲碁日記」 http://blog.goo.ne.jp/igoshiraishi

本書の内容


「序章 本書の内容と活用法」
<本書の内容>
白石勇一氏の前作『やさしく語る 碁の本質』では、中盤戦、つまりお互いの石がぶつかり、弱い石ができてからの考え方、打ち方がテーマであった。
中盤戦は地を気にせず、石の強弱を第一に考えて打てばよいと主張している。
自分の弱い石は守り、相手の弱い石を攻めることの重要性、またその方法について解説していた。

一方、本書は、その前の段階、布石がテーマである。
布石を上手く打つことができれば、自分に弱い石ができなかったり、相手の弱い石を作ることにもつながる。そうなれば、中盤戦も有利に戦うことができる。
布石は中盤戦のための大事な準備区間であるという。

第1章では、勢力圏という概念について説明している。それを理解すれば、布石で何を目指すべきなのか、イメージが掴める。
第2章、第4章では、局面によってどういう打ち方をすればよいのか、その指針となる「原則」について説明している。
そして、第3章、第5章は確認問題である。第2章、第4章で学んだことを、しっかりと身に付けてほしい。
第6章は布石紹介である。アマ同士の対局でよく打たれる布石と、その特徴を紹介している。
第7章には、それまでの内容の総まとめとして、実力テストがある。どれだけ本書の内容を理解し、身に付いているかを確認することができる。
第8章は知識編である。覚えておくと役に立つ形や定石などを収録してある。
(本書の内容を理解するために役立つものも多いので、最初に第8章から読んでもよいようだ)
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、11頁)

第1章 勢力圏を意識する


①勢力圏を意識して打つ。
【布石は勢力圏争い】
・中盤戦では、地よりも石の強弱が大切。
 布石(序盤)でも、石の強弱が最も大切。
 しかし、碁が始まったばかりの段階では、お互いに弱い石がないことが多い。
・そこで、「勢力圏」という概念が出てくる。
 石は打った場所そのものだけではなく、周辺に影響力を及ぼす。そして、味方の石の影響力が及ぶ範囲を勢力圏と呼ぶ。
➡いかに相手より広い勢力圏を確保するか、これが布石の基本。
・勢力圏にも、強弱がある。
 勢力圏の強弱は、石の強弱によって変わる。
 弱い勢力圏は、相手に消されたり、奪われたりしやすい。
 だから、布石では、勢力圏を広げることはもちろん、固めることもまた重要。
(弱くなりそうな石を守る、と言い換えてもよい)
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、14頁~15頁)

【勢力圏の及ぶ範囲】
〇どこまでを勢力圏と見るべきか?
➡勢力圏の及ぶ範囲は、辺方向に向かっては、4路先まで。
・相手がこの範囲内に入ってくれば、攻めのチャンス。
・4路というのは、絶対的な基準ではないが、目安にはなる。
・例えば、黒に背後から迫られても、二間にヒラければ、ある程度ゆとりがあり、急な攻めは受けにくい。
・二間ビラキは、辺で安定したい時の基本の形。
(布石では非常に重要なので、ぜひ覚えておこう)

【勢力圏をつなげる】
・勢力圏同士をつなげると、より強く、大きな勢力圏ができる。
➡それが育っていくと、「模様」へ、そして最終的には、大きな地になる。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、16頁~17頁)

②相手の勢力圏も意識する。
・自分の勢力圏を大きく広げることは大事だが、相手がいることを忘れてはいけない。
 相手も勢力圏争いに勝とうとしているのだから、隙あらばこちらの勢力圏を破壊しようと狙っている。だから、相手の妨害を警戒しながら、ほどよい間合いで勢力圏を広げていく。
・また、相手の勢力圏が大きくなりそうであれば、逆にこちらから妨害しにいった方がいいこともある。碁盤全体を見て、勢力圏争いに勝つ方法を考える。
・一般に、ヒラキは五間までとされている。(あくまで目安だが)
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、19頁)

③その他
【三線と四線の違い】
・辺にヒラく時は、三線か四線が基本。
(五線にヒラいてはいけないわけではないが、足元をすくわれやすく、活用はやや難しい。本書では扱わない)
・それでは、三線と四線は、どちらがよいのか?
 これはプロにとっても永遠の課題で、多くの場面で明確な答えは出ていないそうだ。
 
〇ただ、両者には大きな違いがある。
・三線の方が、打ち込みに強い。
・四線は打ち込みに弱く、三線はボウシ、肩ツキが弱点といえる。
・大雑把にいえば、四線は模様を張ることや攻めを好む人、三線は確実性を好む人に向いている。

※布石は、まず三線、四線から占めていくのが基本。
 また、そこから五線や六線など、中央へ進出していく手ももちろん有効だが、二線の手は基本的に好ましくない。二線は根拠を確保する時、奪う時だけ。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、24頁~26頁)

第2章 勢力圏争いに勝つ


【原則を意識して打つ】
・本章では、勢力圏争いに勝つ方法として、次の3つを原則とする。
①「広い所から打つ」
②「弱い石の周りは大きい」
③「模様の接点を逃さない」
➡これらを意識して打つことで、勢力圏を効率よく広げることができる。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、30頁)

第2章 テーマ図3


【第2章 テーマ図3黒番】
・広い所に打つというのは見た目に分かりやすいが、それだけではいい布石は打てない。
・まだ、13手目なので、正解を逃したからといって、大きく形勢を損なうという場面ではない。しかし、いい流れで布石を展開できるかどうかの分岐点にはなるだろう。

【勢力圏争いの原則 弱い石の周りは大きい】
・前作のメインテーマだった「石の強弱」がここで登場する。
・布石は石がまったく置かれていない所からスタートすることもあり、まずは「広い所から打つ」という原則を最初に説明した。
・だが、より重要なのが、この「弱い石の周りは大きい」という原則。
・格言にも、「大場より急場」とある。

【1図】(正解)根拠の要点
・右辺白は二間ビラキして、一息ついたが、まだ強い石にはなっていない。
・そこで、黒1と根拠を脅かす手が好手になる。
※これは、自身の守りを兼ねており、後に白aなどと詰め寄られた時も安心。
 つまり一石二鳥の好手。
・攻めを避けて、白2と守れば、黒3とさらにプレッシャーをかけながら、勢力圏を広げて、好調。
・黒5まで、黒の勢力圏の方が広くなった。
※相手に守りの手を打たせることで、勢力圏争いを有利に展開できる。

※4図黒1は広い所だが、白2と根拠の要点に打たれては、チャンスを逃している。
 一方、左辺では黒9と守らされている。こちらは黒が有利な戦場ではない。
 やはり、1図のように、明快にリードを築きたい。

【2図】(正解変化)勢力圏争いで優位に
・白が右辺を守らなければ、一例として黒2以下の攻め方がある。
・自然と外側に黒石が増え、黒12となって、巨大な勢力圏が出現した。

【3図】(正解変化・その後)黒有利な戦い
・もちろん、2図の後、白1などと侵入する余地はある。
※しかし、取ることはできなくても、厳しい攻めでポイントを挙げられる。

【4図】(失敗)広い所だが
・黒1が悪手というわけではない。
・しかし、調子よく上下を固めてから、悠々と白10と打ち込み、白の流れがよい。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、40頁~42頁)

第3章 確認問題①


【実戦に向けての練習】
・本章では練習問題を用意した。
 より実戦に近い形で考えることができるだろう。
①「広い所から打つ」
②「弱い石の周りは大きい」
③「模様の接点を逃さない」
➡この3つの考え方に基づいて、選んでもらえばいいが、考え方の手順としては、以下のようになる。
①碁盤全体を見渡して、お互いの弱い石、弱くなりそうな石を探す。
②あればその周辺を打ち、無さそうなら…
③広い所、模様の接点を探す
※ちなみに、石の強弱を見極める力は、死活の力に大きく左右される。
 大体このぐらいのスペースがあれば生き、このスペースは危ない、という感覚を身に付けておくが大事。
(囲碁の勉強法として、詰碁が重要と言われるのは、それが理由)
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、58頁)

第3章 第7問~三連星の布石


【第3章 第7問黒番】
・これまでに培ってきた感覚を生かして、ぜひ正解してほしい。
・さて、局面は双方が三連星の布石で対峙したところ。
 勢力圏争いで優位に立つには、黒A~Cのどれがよいだろうか。

【1図】(正解)模様の接点
・黒1が正解。
・白2なら黒3以下、目一杯に広げ、勢力圏争いは明らかに黒有利。
※白がどこに入って来ても、大きな地が残るだろう。

【2図】(正解変化)黒有利な戦い
・白2の反撃を恐れる必要はない。
※黒の勢力圏なので、有利に戦える。
 右辺白が苦しいし、上辺黒aなども狙える。

【3図】(次善)模様の接点を逃す
・黒1ものびのびした手であるが、何と言っても、白2が絶好点。
・白8までは一例であるが、白模様が大きく盛り上がった。

【4図】(失敗)狭い所を囲う
・黒1、3のような打ち方はいけない。
※下辺は狭く、これから盛り上がる余地も小さい所。
・白6まで、右辺黒の勢力が泣く。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、75頁~77頁)

第4章 勢力圏への入り方


【相手の方が勢力圏が広い時】
・時には相手の勢力圏に入っていくことも必要。
だが、相手の勢力圏での戦いは、危険を伴う。
 入っていったものの、厳しく攻められて形勢が悪化してしまった、というのはよくある。
・そうならないためには、どうすればよいか?
 ➡読みの力をつける、戦いの手筋を学ぶ、といったことはもちろん大切。
 ただ、不利な状況で始まった戦いは、どんなに頑張っても、上手くいかないことも多い。
〇一番大切なことは、入っていく前に状況をしっかり把握し、適切な入り方を選ぶこと。

〇相手の勢力圏へ入る際に従うべき3つの原則
①相手の弱い所に打ち込む
②苦しい打ち込みより浅い消し
③苦しい逃げ出しより楽な捨て石
※棋力が多少違うぐらいでは、読みの力に大きな差があることは少ない。
 戦いの結果を大きく左右するのは、スタート地点である。そこで正しい考え方ができれば、自然といい結果がついてくる。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、80頁)

第4章 テーマ図1白番


【第4章 テーマ図1白番】
・お互いに勢力圏を広げ合う布石になっている。
・形勢は開いておらず、このまま大きさ比べを続けるのも一局。
・ただ、そういった展開に自信が持てない人も多いだろう。その場合は、黒模様に入っていくことを考えたいところ。
・どう打ち込めば、苦しい戦いを避けられるだろうか。

【勢力圏への入り方・原則①相手の弱い所に打ち込む】
・相手の勢力圏に打ち込めば、当然弱い石を作ることになる。
 では、その石が厳しく攻められないためには、どうすればいいのだろうか。
➡そこで重要になるのが、「相手の弱い所に打ち込む」という原則。

・石を攻める際には、自分の石が弱くならないことが重要。
 無理な攻め方をして、逆に自分の石が取られてしまった、ということは経験されていることだろう。
 これを逆の立場で考えると、「相手の石を弱くしておけば、自分の石は厳しく攻められない」ということになる。
 そこで、相手の根拠の無い石や、連絡が不完全な石を狙って、打ち込んでいくのである。

【1図】(正解)黒の弱い石を狙う
・左下黒は、左辺白の勢力圏に入っている石。
・そこを狙って白1と打ち込む。
※これは四線の構えの弱点を突いており、次に白aで根拠を奪う手を見ている。
・すると、黒も黒4、6といった手で、自分の石を守らなければいけない。
※そこを一緒になって逃げていけば、急な攻めを食わずに済むし、場合によっては反撃も狙える。

【2図】(正解変化①)黒の弱い石を狙う
・黒2のボウシに対しては、白3が黒の弱点を突く手。
・黒4の受けを待って、白5とヒラけば、悠々と根拠を持つことができた。

【3図】(正解変化②)楽に治まる
・黒2、4などと打てば、左下黒は安泰であるが、その間に白も形を作ることができる。
※単騎で侵入したことを考えれば、大成功。

【4図】(失敗①)強い所に打ち込む
・白1と打ち込むのは、失敗。
・黒6まで、左下の黒が強くなってしまった。
※後は白が一方的に攻められるだけであろう。

【5図】(失敗②)黒に響かない
・また、白1と高く打ち込むのも、いまひとつ。
※黒の根拠を脅かしていないから。自分の根拠も作りにくく、かえって苦労する。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、81頁~84頁)

第5章 確認問題②


【実戦で正しく判断するために】
・第4章の内容はおもに次の点にあった。
〇肩ツキとボウシの違い
〇石を捨てるサバキ

※白石勇一氏が最も伝えたいことは、布石でも石の強弱が一番大事であるということ。
・相手の石を弱くできる場面はチャンスである。
・逆に自分の石が弱くなったり、いじめられたりすることは避けなければならない。

☆さて、第5章は確認問題である。
 第4章で学んだことを実戦に生かせるよう、練習しよう。

【実戦での考え方】
①相手に弱点があれば、そこを狙って打ち込む
②弱点が無ければ、消しを考える
③(圧倒的に不利な状況で戦いが始まってしまった場合には)苦しい逃げ出しより楽な捨て石
※①②の考え方ができていない人が多い。それは大きな失点につながる。
 だから、この考え方が実戦でできるようになるまで、しっかりと身に付けよう。
・捨て石を苦手にしている人は、捨てることを思い付かないから、戦いが苦しく感じた時に、自然と石を捨てる発想が浮かぶようになれば、碁は格段に変わるという。

・捨て石での注意点としては、石数が増えていくと、だんだん捨てにくくなっていくということである。
だから、戦うか捨てるかは、なるべく早い段階で決断するように心がけよう。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、108頁)

第5章 確認問題②~第4問 白番


【第4問 白番】荒らしの手筋
・ここからは、プロ同士の対局を題材にしている。
レベルが違うとはいえ、考えるべきことは、そう変わりない。
・本局は、水間俊文七段との対局で、著者の白番。
・白20は黒a(15, 六)のカケから勢力を築かれることを嫌ったもの。
・さて、問題は黒21とトバれた場面。
☆左辺黒が大きくなりそうだが、どう邪魔しにいくか?

【1図】(正解)ボウシで消す
・黒石が多いので、白1とボウシで消した。
・黒2と受けてくれれば、白3と引き上げて、満足。
※黒地は隅や辺だけに限定されている。

【2図】(正解その後)後の狙い
・左上の黒地が大きく見えるが、後に白1、3の狙いがある。
※中国流、ミニ中国流などではよく出て来る形である。

【3図】(続・正解その後)
・黒1とカカえるぐらいであるが、白12までと生きることができた。
※こういう荒らしの手筋を知っていると、布石を無理せず打てるという。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、121頁~123頁)

第5章 確認問題②~第6問 白番


【第6問 白番】
〇藤沢里菜初段(当時)との対局で、著者の黒番。
・右上は最近の定石。白は右上で大きく治まったが、その代わり黒は右辺に勢力を得た。
・このまま放置すると、右下のシマリを中心に巨大な黒模様ができそう。
・白はどう邪魔しにいくべきだろうか?
 選択肢は多いが、惑わされてはいけない。


【1図】(正解)安全に消す
※右下一帯は黒に弱みが無いので、深入りしてはいけない。
・白1の肩ツキが正解。
※安全に黒模様の巨大化を防いだ。

【2図】(失敗①)深入り
・白1と入っていくところではない。
・黒8まで一例であるが、白がいかにも窮屈。
➡これでは生きても、よくない。

【3図】(失敗②)方向違い
※消す発想はよいが、右辺は黒石が最も多い所。
※そちらに入っていっては、肩ツキといえども、反撃されて苦しくなる。

【4図】(失敗③)無謀な打ち込み
・だから、白1の方の打ち込みなどは、最悪の結果を招く。
・黒4まで、もはや命の問題になっている。
➡万が一生きたとしても、ダメ。

【5図】(別解①)ボウシも正解
・他の手としては、白1なども考えられる。
※やはり安全に消す意味で、右下は少し大きくなる代わりに、aの打ち込みが残る。

【6図】(別解②)攻めを狙う打ち込み
・また、黒▲の攻めを狙う白1の打ち込みも、いい発想。
・ただ、黒4とトバれると、右下一帯が大きくなることを嫌い、実戦は1図だった。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、129頁~132頁)

第6章 布石紹介(三連星、中国流、星とシマリの布石)


「第6章 布石紹介」において、代表的な3つの布石を紹介している。
〇三連星
〇中国流
〇星とシマリの布石

・どんな布石作戦にも共通するのは、「大きさ比べに勝つ」ということであると、白石勇一氏は強調している。
そこを目指すための道筋は様々である。
〇三連星~四線を中心に、スピード最優先で大きく構えることを目指す作戦
〇中国流~高低のバランスを取り、足元を固めながら勢力圏を広げていく作戦
〇星とシマリの布石~じっくり腰を落ち着けて、相手の出方を見ながら打ち方を決めるような作戦
※その他、とにかく確定地を取っておき、後から模様の中に入っていって勝負、といった布石法もある。

・まず、勢力圏を広げる際には、入られても困らないように気を使っていることが大切である。
・基本的にはヒラキは五間幅までが無難とされている(応用で六間にヒラくこともあるが)
・また、相手の勢力圏の近くの石は、しっかりと守ること
(これは打っているとつい忘れがちだが、非常に重要)
☆布石の手順を丸暗記するのではなく、こういった考え方を身に付けてほしいという。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、143頁~144頁)

第6章 三連星①


【三連星①のテーマ図】
≪棋譜≫(145頁)
・黒1、3、5が三連星である。
⇒三連星と言えば、武宮正樹九段が有名である。
 三連星から豪快な模様を張る「宇宙流」は一世を風靡した。
※足早に勢力圏を広げ、入って来た白を攻めるのが基本パターンである。
※模様や攻めの碁が好きな方には、おすすめの戦法。
(地を気にしてしまうと、上手くいかない)

【1図:中央へ勢力圏を広げよ】
≪棋譜≫(146頁の1図)
※隅や辺を地にすることにはこだわらず、どんどん勢力圏を広げていく。
 また、辺へのヒラキ方は黒7など、なるべく高く構える。
※中央へ勢力圏を広げることを意識せよ。
【2図:勢力圏内での戦いは大歓迎】
≪棋譜≫(146頁の2図)
・白8は黒a(16, 六)と受けさせ、黒の勢力圏を小さくする狙いである。
・これに対しては、黒9などとハサむのがおすすめ。
※黒の勢力圏なので、戦いは大歓迎。
【3図:三々に入って来た石を閉じ込める定石】
≪棋譜≫(147頁の3図)
・ハサミには白10と三々に入れば無難。
・黒25まで長い手順になるが、これはぜひ覚えよ。
※三々に入って来た石を閉じ込める定石は、必ず必要になると、白石勇一氏は強調している。
【4図:模様の接点を逃すな】
≪棋譜≫(147頁の4図)
・白26に対しては黒27と、模様の接点を逃さず打つこと。
※このように大きく構え、白が中に入って来たら攻める作戦。
 a(10, 十八)のスソアキは当面気にしてはいけない。
【5図:変化図】
☆4図黒27で地を気にして黒1と打ったりすると、せっかくのスピードを失ってしまう。
・白20となって、白の方がのびのびした姿になる。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、145頁~148頁)

第6章 三連星②


【三連星②のテーマ図】

☆黒の三連星に対し、白も三連星で対抗して来ることもある。
 この場合、黒がやるべきことは変わらない。とにかく大きさ比べに勝つことである。
(黒番であれば、思い切り広げている限りは大丈夫)

【1図:模様の張り合いの展開】
≪棋譜≫(152頁の1図)
・このような模様の張り合いの展開もある。
⇒こういう時は、黒9のような模様の接点を逃さないように。
(白に打たれると、白模様の方が大きくなりかねない)
【2図:急所を逃すな】
≪棋譜≫(152頁の2図)
・黒13は下辺の星(10, 十六)が狙われないように守る手である。
 同時に模様の谷を深くしてもいる。
・黒15は模様の接点である。
※こういう碁では逃がせない急所なので、迷わず打とう。
【3図:根拠を奪う常套手段】
≪棋譜≫(153頁の3図)
・黒模様が大きくなったので、白16と入りたくなるが、そこですかさず、黒17、19が根拠を奪う常套手段。
・黒23まで、白は非常に窮屈な姿になっている。
【4図:理想的な展開~サガリがよい攻め方】
≪棋譜≫(153頁の4図)
・白24、26と守れば、すかさず黒27のサガリがよい攻め方。
⇒白の根拠を奪いながら、a(17, 十七)の三々入りを無くしている。
※白を攻めている間に、自動的に黒地が増える、理想的な展開である。
【5図:変化図~三連星の趣旨に反した展開】
≪棋譜≫(154頁の5図)
☆1図黒9で本図黒1などもいい所であるが、白2がいかにも絶好点である。
⇒この後、黒a(6, 三)やb(3, 六)と入らされる展開は、嬉しいものではない。
 三連星の趣旨に反している。

【6図:変化図~スケールの小さい構えに】
≪棋譜≫(154頁の6図)

☆また、2図黒15で本図黒1と急に地を気にしてしまうのも、いけない。
⇒白2、4となると、いっぺんにスケールの小さい構えになってしまう。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、151頁~154頁)



第6章 中国流①


【中国流①のテーマ図】
≪棋譜≫(155頁)
※中国流は三連星と同じく、足早に勢力圏を広げて白の侵入を待ち構える打ち方である。
 三線に石が二つある分、三連星に比べるとやや腰を落とした打ち方と言える。
※中央へ勢力圏を広げるスピードでは劣るが、隅や辺に侵入して来る手に対しては強い。
☆四線ばかりだと足元が気になる方には、こちらがおすすめ。

【1図:中国流の打ち方】
≪棋譜≫(156頁の1図)
※右辺を3手で済ませ、どんどん他へ勢力圏を広げていく。
・隙間が空いているので、白a(17, 六)やb(16, 十五)に入る余地はある。
⇒しかし、黒はそれを待ち構えている。
【2図:黒は下辺に展開して、白の侵入を待ち構える】
≪棋譜≫(156頁の2図)
・白6、8など、外側から黒の勢力圏を制限するのが、白の正しい態度である。
※その代わり、黒は下辺に展開して、白a(16, 十五)やb(11, 十七)の侵入を待ち構えることになる。
【3図:その後の展開①~一つの定石】
≪棋譜≫(157頁の3図)
・白1なら黒2から攻める。
・白17までは一つの定石であるが、黒は下辺、右辺が自然に固まる。
※先手も取れるので、黒18などに回り好調。
【4図:その後の展開②~右下を拡大する展開】
≪棋譜≫(157頁の4図)
・白1なら黒2から攻める。
・黒12までは一例であるが、白を攻めながら自然と右下を拡大する展開になれば、理想的である。
※このように、中国流も攻めを意識した布石なのである。

【5図:変化図①~白は右辺に入っても、根拠の無い石に】
≪棋譜≫(158頁の5図)
・1図の後、白1と入っても白7までしかヒラけず、根拠の無い石になってしまう。
・黒10までは一例であるが、白を攻めている間に、周囲の黒がどんどん強くなっていく。
【6図:変化図②~黒の嬉しい展開】
≪棋譜≫(158頁の6図)
・また、六間幅なので、白1と入りたくなるが、これも罠である。
※白は狭い所を何手も打たされることになり、黒は外側に石が増えていくので、嬉しい展開である。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、155頁~158頁)

第6章 中国流②


【中国流②のテーマ図】
≪棋譜≫(159頁)
・今度は白が変化して、白6から下辺に展開して来た。
⇒それなら、黒は上辺へ展開するのが自然な進行というものである。
☆一例として黒11までと構えた後の展開を考えてみよう。

第6章 布石紹介(星とシマリの布石)


第6章 布石紹介(三連星、中国流、星とシマリの布石)
【星とシマリの布石】
【テーマ図】
・シマリはまず一隅を確保し、拠点にする打ち方。
➡種類、向きなどは色々とあるが、いずれもただ地を稼ぐ手ではない。 
・滅多なことでは死なない2子なので、周囲にできる勢力圏も強力。
 これを意識して打とう。
※三連星や中国流に比べると、足は遅いが、隙の無い打ち方ができる長所がある。

【1図】
※小目からのシマリの特徴として、2手で隅を確保できている点が挙げられる。
※周囲に相手の石が来たとしても、危なくなる可能性は低く、安心して打つことができる。
【2図】
・白6と外側からカカると、黒も9、11と対抗して、模様の張り合いになりやすい。
・黒13でシマリを中心にしたしっかりとした模様ができ、これは黒にとって理想的な展開。
【3図】
・その後、白1と打ち込んで来た場合を考えてみよう。
※シマリがしっかりしているので、右側を心配する必要がない。
・黒6まで、どんどん攻めて好調。
【4図】
・右辺に白1と入るのも窮屈。
・黒10までは一例であるが、右辺や下辺の黒がどんどん固まっていく。
※白はただ逃げるだけになってしまうので、これも黒好調。
【5図】(変化図)
・2図白6で右辺に割り打ちする手もある。
・これに対しては、黒2から上辺を大きく構えるのが、一つの行き方。
・白3に石が来ても、既にシマっているので、大丈夫。
【6図】(変化図)
・白1に黒2と割り打つなどもよい。
※お互いに大きな模様ができない、じっくりした展開。
 相手の出方を見ながら、好みの打ち方を選べるのも、この布石の利点。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、163頁~166頁)

第7章 第3問~中国流


【第7章 第3問】
・鈴木嘉倫七段との対局で、著者の黒番。
・特に重要なのは、なぜ白14や白20の肩ツキを打ったかということ。
・これらの手で、右辺や上辺に打ち込む手の是非も考えてみてほしい。
・なお、スペースの都合上、解説していないが、黒19は上下の白を分断して、右辺白への攻めを狙いながら、下辺白の勢力圏の広がりを制限している。非常に重要な一着。

【1図】(実戦黒1~9)
・黒の中国流に対し、白6、8と下辺に勢力圏を広げて、対抗した。
・黒9は、上辺に勢力圏を広げつつ、右辺への侵入に備えている。
【2図】(実戦白10~黒13)
・白10も同様の意味で、左下の勢力圏を固めて、対抗した。
・黒11、13と広げられ、右辺から上辺にかけて、大きな黒模様ができそうだが…。
【3図】(実戦白14~白20)
・そこで白14の肩ツキから、消しに出た。
➡黒地を辺に限定すれば、十分という考え方。
・黒19にさらに白20と肩ツキしたのも、同様。
【4図】(変化図①)
・実戦白14で、本図白1のように入るのは、黒が待ち構えている所。
※周囲が黒石ばかりなので、一方的に攻められて、形勢を損なう。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、179頁~182頁)

第8章 知識編


・本書の最終章は、知識編。
 前半は前作と同様、囲碁用語の説明。
 言葉は知っていても、意外と本当の意味や役割の理解が不完全の人も多い。
・後半は、定石や定型の中で、これを覚えておくと、必ず役に立つ、というものを詳しく解説している。
 俗に「定石を覚えて2目弱くなり」などという。 
 その真意は、定石の意味を理解せず、手順だけを丸暗記していると、状況に合わせない定石を平気で打って失敗してしまう、といったところ。
 それは一理あり、定石は打てば得点が入るような万能なものではない。
 正しい使い方を知らないのであれば、状況をしっかり見て判断し、自分の頭で考えた手を打った方がずっとよい。
※ただし、そうは言っても、知らなければなかなか打てない手もある。
 そして、その手を逃したばかりに形が崩れ、どうにもならなくなってしまうようなこともある。

・死活が絡んでいる場合は、さらに深刻。
 定石を知らなかったばかりに石が死んでしまったという経験は、覚えがあるのではないだろうか。
 また、気が付いていないだけで、大損をしているケースもよくある。
 例えば、生きている石に手を入れたり、逆に取れている石にさらに手をかけてしまうケースである。
(それは、場合によっては1手パス同然になってしまう)
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、198頁)

囲碁用語


・囲碁用語については、次の用語を解説している。
【ヒラキとツメ】
【二間ビラキ】
【二間ビラキもどき】
【割り打ち】


【ヒラキとツメ】
・ヒラキとは、隅や辺の石から、辺に向かって展開する手の事を指す。
 通常は三線か四線である。
 目的は勢力圏を広げること、または弱い石を守ることである。
・ツメは相手の石に詰め寄り、ヒラキを妨害する手。
 目的は、主に攻めを狙うことであるが、相手の勢力圏を狭めたり、自分の勢力を広げる目的でも打たれる。
※また、多くの場合、ツメは自分の石からのヒラキにもなっている。ヒラキながらのツメということで、ヒラキヅメとも呼ばれる。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、199頁)

【二間ビラキ】
・二間ビラキの強みは、非常に切られにくいこと。
 その強みを生かし、主に石を補強する際に使われる。
・図は上辺、右辺、下辺が三線、左辺が四線の二間ビラキ。
 中央は、ヒラキではなく二間トビ。
・試しに、白1から中央の二間トビを切りにいってみよう。
 ちょっと強引だが、一応白5までと切ることができた。
・では、上辺で同じように切りにいくとどうなるだろうか?
 黒6まで、逆に白が取られてしまった。
➡これが二間ビラキの強み
※四線の二間ビラキの場合は多少手段の余地は生じるが、やはり切るのは大変。

〇ただ、実際には、辺で安定する際には、三線の二間ビラキが基本。
 というのは、四線に足元に隙があるからである。
 白aにスベられると、簡単に根拠を奪われてしまう。
 一応、三線の二間ビラキに対して、bやcと足元から侵入することも不可能ではないが、離れた手なのでリスクもある。
・よって、三線の二間ビラキは多用されるのだが、2手だけで生きているわけではない。
 下辺のように、両側に詰め寄られている時は、気をつけよう。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、200頁)

【二間ビラキもどき】
・右上白1のハイコミを打たれ、右上黒が心配。
・そんな時は、右辺にヒラいておく必要があるが、白石にくっつける黒2は進みすぎで、黒aが正着。
※この黒2のような手を、著者は「二間ビラキもどき」と呼んでいる。
 二間ビラキと違って俗筋の代表であるが、残念ながらアマの人には大人気(笑)

・この後の進行を左上に示しておこう。
・白2のオサエに黒3と打ちたくなるが、白4と「2目の頭」をハネられてしまった。
※黒はダメヅマリで不自由な形になっている。
・この後、白10までは代表的な進行だが、黒石が内側に引きこもり、外の白はすっかり強くなってしまった。
※この二間ビラキもどきが悪いと理解しておくと、他の場面でも役に立つ。

〇右下を見てほしい。
黒▲のは隅の星からの五間ビラキであり、多用されるが、何故ここまでヒラけるのかを考えてみよう。
・白1のカカリに対して、黒2、4は攻めの常套手段。
・この後、白は二間ビラキができない。
 白bと打つのは「もどき」であり、よくないことはこれまでの図から明らか。
※つまり、白は根拠の確保が難しく、弱い石を作る結果になるのである。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、201頁)
【割り打ち】
・相手の勢力圏を分断するため、真ん中付近に打つ手を割り打ちと呼ぶ。
・なぜ真ん中かと言えば、次にどちらかの方向にヒラいて、根拠を確保できるから。
・カカリなどに比べると、急な戦いになりにくいという特徴がある。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、202頁)

定石や定型


【定石や定型】
・テーマ図1コスミツケへの三々・①
・テーマ図2コスミツケへの三々・②
・テーマ図3コスミツケへの三々・③
・テーマ図4ハイコミからの置き
・テーマ図5大々ゲイマへの打ち込み
・テーマ図6三々に入った石の閉じ込め方
・テーマ図7三々ツケからの攻防

【テーマ図5:大々ゲイマへの打ち込み】
≪棋譜≫(214頁のテーマ図5)
・白△の大々ゲイマの構えは、三間なので打ち込みが狙える。
・黒1と打ち込み、白2に黒3の割り込みがポイント。
※シチョウ関係があるので、あらかじめ確認してから、決行しよう。

【1図:通常の形】
・白1のオサえれば、穏やか。
・黒6まで白の根拠を奪い、aと切る狙いも残った。
※黒としては、満足できるワカレ。
【2図:白1の成立はシチョウ関係次第】
・白1と切れば、黒2と逃げる一手。
※この後、シチョウ関係が問題になる。
【3図:シチョウその1】
・まず、白1と取る手。
・これには黒2~6とシチョウに抱え、この石を取れるかどうかが問題になる。
・シチョウが悪くて逃げ出されてしまうと、黒バラバラでいけない。
【4図:シチョウその2】
・もう一つは、白1とつなぐ手。
・すると黒2とアテ、これもシチョウ。
※3図とは方向が違うので、注意。
 打ち込む前に、両方のシチョウ関係を確認しておこう。
【5図:黒失敗】
・白1のツケに黒2と打ってしまうのは、よくある失敗。
・白3と切られて、ダメヅマリになり、苦しくなる。要注意。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、214頁~215頁)

【テーマ図6:三々に入った石の閉じ込め方】
≪棋譜≫(216頁のテーマ図6)
☆三々に入って来た石への対応は、定石の中でも非常に重要。
⇒間違えると、いっぺんに形が崩れてしまうこともある。
 特に次の一手は、絶対に逃してはいけない。
【1図:絶対の一手~ノビ】
≪棋譜≫(216頁の1図)
・黒1のノビが絶対の一手。
※これはハサミが黒(8, 十七)以外のどこにあっても、あるいは何もない場合でも同じ。
 自分の2目の頭であり、相手の2目の頭も狙う、形の急所なのである。
・白2と守れば穏やかで、黒3と止めて、定石完成。
【2図:内→外の手順で切る】
≪棋譜≫(216頁の2図)
・白1の押しが少し難しい手。
・これには黒3から切りを2つ入れるのがポイント。
【3図:目的達成】
≪棋譜≫(217頁の3図)
・白1を待って黒2とハネれば、白a(7, 十五、つまり黒2の右)とハネられなくなっている。
・白3と1目取るぐらいなので、黒6まで閉じ込めることができた。
※ハサミの位置が変わっても、大抵は同じ打ち方で閉じ込めることができる。
【4図:切る順番が大事】
≪棋譜≫(217頁の4図)
・2図で切る順番を間違えて、黒1は、白2と取られて失敗。
※白は、1目ポン抜いて厚くなり、黒(8, 十七)の存在がかすんでしまった。
【5図:急所を逃す】
≪棋譜≫(217頁の5図)
※もし1図黒1のノビを逃してしまうと、どう打ってもよくならない。
・白4に切りが入り、黒の外勢は崩壊するだろう。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、216頁~217頁)

【補足】布石 削減の手筋~藤沢秀行『基本手筋事典 下』より


削減の手筋


・拡大と逆の立場にあるのが削減。
 相手のモヨウ拡大を未然に防ぐのがその目的である。
 双方のモヨウが接しているときは、削減の手段が拡大の手段を兼ねることも多い。
・単騎で敵のモヨウに乗り込むばあいには、主として第三線のヒラキに対する圧迫手段となる。
 早期にキメては相手を固めただけとなるし、時期が遅れては逆襲の恐れが生じる。
・削減の基本的パターンは限られており、むしろ応手に変化が多い。
(藤沢秀行『基本手筋事典 下』日本棋院、1978年、72頁)

【1図】(カタツキ)
・白1がカタツキ、最も深い削減手段である。
・黒2、4が基本の受けで、白の足もとをさらって将来の攻めを見込む。
※黒モヨウの谷がごく深ければ、白1にaなどと攻められて、危険。
※左方にも黒モヨウが広がっていれば、黒4でbとオサれて、つらい。
(藤沢秀行『基本手筋事典 下』日本棋院、1978年、72頁)

カタツキ


【カタツキ 黒番 原図】
・黒の形は厚みともいいきれず、白からヨリツかれては、上辺が盛り上がる。
・機先を制して、上辺を消す急所はどこか。

【1図】(ボウシ)
・黒1のボウシなどでは、白2と受けられて、上辺がぴったりの構えになる。
・白aとオサれては、まだけっこううるさい。
・といって、黒aのオシは損がさきだし、黒bは白1で苦しい戦い。

【2図】(黒1、急所)
・aのオシを含みに、黒1とカタにカケて、上辺を第三線の地に限定してしまう。
・白2、4と出て来ても、これで行き止まり。
・黒13とキッて、この厚みは相当なものだろう。


【3図】(伝家の宝刀)
・前図白6で1とツイだときにかぎり、黒4のオシから6と打つのである。
※黒8ののち、白aなら黒bとオサえてよく、白bなら黒aのタタキを打つ。
※白1は黒に調子を与えるだけだ。
(藤沢秀行『基本手筋事典 下』日本棋院、1978年、78頁)