歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の手筋~工藤紀夫氏の場合≫

2025-02-23 18:00:10 | 囲碁の話
≪囲碁の手筋~工藤紀夫氏の場合≫
(2025年2月23日)




【はじめに】


 今回のブログも引き続き、囲碁の手筋について、次の著作を参考に考えてみたい。
〇工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]
【工藤紀夫氏のプロフィール】
・1940年生まれ、青森県弘前市出身。日本棋院東京本院所属。
・前田陳爾門下、九段。元日本棋院副理事長。
・第25期王座(1977年)、第23期天元(1997年)。
※若い頃は力碁で、後年粘り強く冷静な棋風へと変化した。
 (若い頃の力碁は有名で、1955年影山利郎氏との対戦ではねじり合いから次々と黒石を打ち上げ、アゲハマ合計37個という歴史的な石取りを記録したという。)



【工藤紀夫『初段合格の手筋150題』(日本棋院)はこちらから】

初段合格の手筋150題 (囲碁文庫)



本書の目次は次のようになっている。
【もくじ】
はじめに
序章 正しい手筋を知ろう
第1章 定石の周辺の手筋
第2章 石取りと攻め合いの手筋
第3章 ヨセの手筋編



さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・はじめに
〇第1章 定石の周辺の手筋
・第1章問題11
・第1章問題26
〇第2章 石取りと攻め合いの手筋
・第2章問題81
・第2章問題83
・第2章問題91
・第2章問題92
・第2章問題95
・第2章問題99
〇第3章 ヨセの手筋編
・第3章問題124
・第3章問題128
・第3章問題135
・第3章問題145
・第3章問題149
・【補足】隅の死活 八目型~張栩『新版 基本死活事典』より
・【補足】工藤紀夫氏の実戦譜~白江治彦『手筋・ヘボ筋』より(再録)




はじめに


・手筋とは、ある場面での着手の正しい道筋を総合して述べたもの。
・「形」は石の守りかたや、辺などへ発展する方法を指す場合が多い。
 「筋」は攻めや、シノギなどの場面で多く用いられる言葉である。
 それらを総称するのが「手筋」である。
・正しい手筋を知らなければ、奇麗な碁の姿にはならない。
 正しい手筋を知ることが、上達への近道になる。
・本書はまず「基礎の手筋」を集めた。
 基礎=しっかりした考え方の土台作りが上達へのすべてであるから、丸暗記されるぐらいに研究してほしい。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、3頁)

第1章 定石の周辺の手筋


・定石は手筋と形の集大成である。
 配石が一つでも一路でも違えば、別の碁形になるとよく言われるが、それは部分的な定石でも同じこと。
 定石を覚えるのは正しい手筋や形を知ることになるので、石一つの差に気を配ってほしい。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、14頁)

第1章問題11


第1章問題11(黒番) 5分で初段
・攻め合いにするためには、白1が常識的な手法。
・黒2~白5までを仮定して、さて黒はどうするか……。
※この攻め合いは難しいようでも、段級位認定テストなどではたいへん多く出題される。
 つまり常用手段であるから形を覚えて、いつでも正解手を打てるようになろう。

【失敗】
・黒1は白2で生きられない。
 攻め合いも黒負け。

【参考】
・黒1は有力な手であるが、攻め合いを最後まで読み切るのが至難で、おすすめできない。
・白4から6まではほぼ一本道。
・ここで黒7のツケが筋で、かろうじて黒の一手勝ち。
※黒7で、8に取ったりするとコウは避けられない。

【正解】
・黒1が急所のコスミで、黒は五目ナカデ。
・白は三目ナカデなので、これは「大ナカ、小ナカ」の黒、楽勝形。
※この筋を知らない人が30分で解けたら、三段はあるだろう。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、35頁~36頁)

第1章問題26


第1章問題26(黒番) 5分で初段
・第21問で約束した黒2~4、その後の研究。
・図柄の関係で定石の向きを上辺側に変えた。
・白5のヒラキは黒6に対する応じ方に問題があり、普通は白7、9とハネノびる形であるが、黒10のツギが厚い手。
・白13は急がない。
※ヨセの問題。白地に食い込む手筋を考えてほしい。

【失敗】
・黒1のコスミツケではそれほど白地を減らせない。

【参考】
・ここで登場するのが「ケイマにツケコシあり」の格言。
・黒1がケイマにツケコシの手筋で、白2は黒3~11までがほぼ一本道。
※前図との差は白地3目減。
・しかも白12の守りを必要とするから、黒の先手。
 3目差は大きい。

【正解】
・したがって白も2、4と我慢する相場。
・黒は5を利かして白のダメヅマリを強調し、将来、黒aや黒bを狙うのが、双方の正しい道筋。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、65頁~66頁)

第2章 石取りと攻め合いの手筋


・石を取ることは攻撃最大の醍醐味。
・攻め合いの場面では、相手の石を取らないことにはこちらの石が取られる訳であるから、勝敗にも直結しかねない。
・石をシノぐ場合にも、相手の弱点がわからなければ、あるいは石を取らなければ、簡単に眼を作れない。
・大石がよく死ぬ人は、本編は必読。
 まず基本的な石取りや攻め合いをしっかり覚えてほしい。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、156頁)

第2章【問題81】(黒番)外ダメ、内ダメ以外の手筋


外ダメからでも、内ダメからでも、うまくいかないことがある。
だから、囲碁はむずかしい。工藤紀夫『初段合格の手筋150題』(日本棋院、2001年[2008年版])の中には、次のような問題がある。

【問題81】(黒番)1分で初段
≪棋譜≫(177頁の問題図)
棋譜再生
☆攻め合いの考え方は摩訶不思議なところがある。
本題の黒の手数は三手。白は四手であるから、諦めてしまいそう。
 でも逆転の手筋があるかもしれない。頑張って読み切ること。
 
【失敗1:内ダメから詰めた場合】
≪棋譜≫(178頁の失敗1)
棋譜再生
・黒1はいけない。
※攻め合いは多くの場合、「内ダメから詰めるのは間違っている」。
⇒黒1が内ダメから詰めた手で、攻め合いはやはり黒の負け。

【失敗2:外ダメから詰めた場合】
≪棋譜≫(178頁の失敗2)
棋譜再生
・では黒1の外からダメを詰めればよいかというと、これも失敗。
・白2のオキで、ピッタリ黒の一手負けに終わる。

【正解:「眼あり眼なし」の眼持ち】
≪棋譜≫(178頁の正解)
棋譜再生
・急がば回れの黒1が手筋。
⇒黒1によって、白2、4と迂回させられ、白は最後のアタリが打てなくなる。
※この結果を「眼あり眼なし」といい、見事に攻め合いを制した。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、177頁~178頁)

第2章問題83


第2章問題83(黒番) ひと目2級
・本図の黒も二手。
・白は三手の攻め合い。
・ひと目で正解手を見つければ、上級クラス。
・理論までちゃんと知っていれば、そしてそれを実践できているのなら、すでに有段者の域に達している。
・さて、次の一手はどこ?
 そして理論とは何?

【失敗1】
・黒1は白2で取られ。
 これは簡単にわかるはず。
※この攻め合いを何とかできないか、と手段を探して考えることが、しいては上達の力になる。

【失敗2】
・黒1、3ならセキ。
 セキで満足しては上達は疑問。

【正解】
・黒1のコスミツケが手筋。
※攻め合い黒勝ちになる。
※さて、理論であるが、「筋は斜めに使え」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
 石の斜めは一つ間違えるとヘボコスミといわれてしまうが、「斜めが筋」になる場合が多いと覚えてほしい。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、181頁~182頁)

第2章問題91


第2章問題91(黒番) ひと目初段
・隅における独特の攻め合いが本問。
※囲碁用語には「鶴の巣ごもり」「イタチの腹ヅケ」「タヌキの腹鼓」など、動物名が付けられているのがいくつかある。
 イタチは二立ちをもじったらしく、昔も洒落っ気が多かったようだ
・さて黒番。すっきり勝ってほしい。

【失敗1】
・黒1、3のハネツギは、白4のサガリで攻め合い黒負け。
※黒3を4へ二段バネすれば、白3の切りなら黒aからシボってコウに持ち込めるが、コウに負けた場合の黒の損害がひどくて現実的ではない。
 黒は1から考え直すべきである。

【失敗2】
・黒1も白2へ応じられ、コウにもならないから、研究してほしい。

【正解】
・黒1が「隅の急所、2の二」の筋。
※このハサミツケを「イタチの腹ヅケ」と呼んでいる。
・白2、黒3なら白は二手。
・攻め合いは黒の無条件勝ち。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、197頁~198頁)

第2章問題92


第2章問題92(黒番) 3分で初段
・黒三子と上辺の白四子との攻め合いの問題。
※攻め合いで気をつけなければならないのは、枝葉ではなく本体を攻めること。
 この場合、黒三子と直接接している白二子である。
・白にもコウの粘りがありそうだが、無駄な抵抗に終わる。
 最後まで読み切ってほしい。

【失敗】
・黒1のハネはコウにならない。
・白2へ堅くツガれると、コウに持ち込む筋がなく、攻め合い黒負け。
・黒3のオキには、白4のハネが黒のダメを詰める妙手筋。
※白2をaのカケツギと予想した人は、白の応手を読み損じ。

【参考】
・黒1の方にハネると、白は2。
・黒3、5で黒に有利なコウであるが……。
※ただし黒の取り番とはいえ、これは本コウ。
 本コウでは成功していない。

【正解】
・本題もやはり黒1が手筋。
・白4から6の粘り筋は、黒7から9のツギが冷静でコウにならない。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、199頁~200頁)

【問題95】(黒番)<ひと目初段>「眼あり眼なしも時によりけり」


「第2章 石取りと攻め合いの手筋」の「問題95」は、「眼アリ眼ナシ」の注意点を教えてくれる問題である。

【問題95】(黒番)<ひと目初段>
≪棋譜≫(205頁の問題図)
棋譜再生
☆白の手数は三手。
 一方の黒は?
 この黒の手数を数秒で読み切れるなら、あなたは石取りに関する限りでは、楽に有段者の実力があるそうだ。
 では高段者は? 高段者なら瞬時。もちろん1秒もかからないという。
(この読みの早さを身につけるのが、「慣れ」らしい)

【失敗1:黒の攻め合い負け】
≪棋譜≫(206頁の失敗1図)
棋譜再生
・黒1と外ダメを詰めるのは、白2のホウリコミから白4のシボリが、手数を縮める常用手段。
・黒がツゲば、全体の手数は二手。
・黒、攻め合い負け。

【失敗2:「眼アリ眼ナシも時によりけり」】
≪棋譜≫(206頁の失敗2図)
棋譜再生
・黒1は眼作りをしたいのか、余計な寄り道。
・白2は単に4でも白勝ち。
<注意点>
※攻め合いに接しているダメがびっちり詰まっている場合の一眼作りはタブー。
 「眼アリ眼ナシも時によりけり」という格言もあるので注意しよう。

【正解:ツギが正しい】
≪棋譜≫(206頁の正解図)
棋譜再生
・黒1のツギが正しく、これで黒の手数は四手。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、205頁~206頁)

【問題99】(黒番)「眼あり眼なし」の練習問題


「第2章 石取りと攻め合いの手筋」の「問題99」は、「眼アリ眼ナシ」に関連した問題である。

【問題99】(黒番)<3分で初段>
≪棋譜≫(213頁の問題図)
棋譜再生
☆白は手続き不足の姿である。
 何が手続き不足なのか?
 攻め合いは黒が負けているように見えるけれど、何か妙案があるのか……などを考えよ。
 石取りはすべて必然の手順。
 一手間違えると結果が入れ替わるから、細心の注意力が必要。

【失敗1:ダメが一手でも詰まると攻め合いに負ける】
≪棋譜≫(214頁の失敗1図)
棋譜再生
・黒1と白2は見合いの地点。
※ここのダメが一手でも詰まると黒は攻め合いに勝てなくなる。
・白4、6の筋で黒は三子をツゲないから、白を取ることもできない。

【失敗2:黒の攻め合い負け】
≪棋譜≫(214頁の失敗2図)
棋譜再生
・黒1も白2、4で、黒は攻め合い負け。
※黒1を4も、白2がわかりやすい。

【正解:ダメがびっちり詰まっていない~「眼アリ眼ナシ」】
≪棋譜≫(214頁の正解)
棋譜再生
※この形は、攻め合っている石のダメがびっちり詰まっていない。
・それなら黒1の眼持ちが正解。
※後は順番にダメを詰めると、最後のアタリを白は打てず、「眼アリ眼ナシ」
※白は1の打ち忘れが手続き不足だった。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、213頁~214頁)

第3章 ヨセの手筋編


・ヨセはアマが最も苦手とする分野。
・しかし逆説すると、ヨセを制する人が強いとも言える。
・さる県代表クラスの強豪に聞いたところ、初段、つまり五子局くらいの相手なら、大ヨセから20目。小ヨセに入っても15目くらいの差なら縮められると豪語していた。
・そんな負け方をしないよう、最後の仕上げまでしっかり研究してほしい。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、258頁)

第3章問題124


第3章問題124(黒番) 3分で初段
・本問からヨセの手筋をいろいろ見ていこう。
・ヨセといっても20目以上もの大きさがある大ヨセから、1目2目を争う小ヨセまで、全部まとめてヨセであるから、決しておろそかにはできない。
・できる限り、何目かの大きさまで示すから、計算を含めて考えてほしい。
 まずは大ヨセから。

【失敗】
・黒1はほとんどの場合、白2と受けるので黒は先手ヨセであるが、白の断点を追及し損なっている。

【正解】
・黒1へズバッと切るのが正着。
・白は隅の一子を助けられない姿であるから、白2、4と捨てて先手を取る相場。
※隅は12目ほどの黒地になる。

【比較】
・出題図の場面で白番なら、白1が大きなオサエ。
※単純計算では正解より白地が12目増えているので、出入り計算は24目ほど。
 しかし実戦では、周辺の配石によって多少の誤差が生じるだろうから、一般的には25目前後としている。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、265頁~266頁)

第3章問題128


第3章問題128(黒番) 1分で初段
※「利かし」とか「利かされ」という言葉をよく聞くことがあるだろう。
交換しておいて損のない手。あるいは一つだけ打ち得とか、無駄のない打ち交わしを「利かし」と呼んでいる。
※利かされる前に何か工夫する。それが囲碁では大切なこと。
・本問は隅の守り方。

【失敗】
・黒1は白2の一本で間に合わされ、白に先手を奪回される。

【正解】
・「ケイマにツケコシあり」
・この形は進出を止める手筋で、すでに出題済み。
・白の形がケイマであるから、黒1へツケコそう。
・白2に黒3、5がビシビシ決まり、黒は先手。
※なお白の着手もすべて大きいので、このワカレになる相場。

【参考】
・白番なら白1のコスミツケ。
※この一打が黒aを防ぐ利かしになり、白は先手で少しの儲け。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、273頁~274頁)

第3章問題135


第3章問題135(黒番) ひと目初段
・隅に取り残された黒二子に、逃げ場はない。
黒は取られている。
・しかしこの取られ石を利用して、隅をヨセる手はないか?
※本題はよく出題される形なので、ご存知の人も多いだろう。
 ひと目で願う。

【失敗】
・黒1、3のハネツギは先手だが、×印から右側、つまり隅側の白地は7目もあるので、本図は黒不十分。

【正解】
・黒1が常用のハサミツケ。
・白2、4の進行なら、白地は黒二子を取っただけなので4目。
※前図とは3目も違う。

【参考】
・黒1に白2なら、黒3のコウ。
※このコウは白aの取りに黒bと一回ツグ余裕のある、黒取り番の有利なコウ。
 もし黒がコウに負けても、正解より6目しか損していないので、白の方が負担のかかるコウ。
 したがって、白2は普通は無理。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、287頁~288頁)

第3章問題145


第3章問題145(黒番) ひと目初段
・問題を見た瞬間、ひと目でおわかりだろう。
・白の弱点を一瞬で見破らなければ、立派な有段者にはなれない。
・出題傾向も見抜かれたと思う。前問からセキを眼目にしている。
・さあ、どんどんセキにして、白地を霧散させよう。

【正解】
・「三目の真ん中」とは、石が三つ並んでいる形から、一つ離れた場所を指す。
・黒1が三目の真ん中で、欠け眼の急所。
・白2には黒3と眼をつぶしてセキ。
・白4はすぐに必要とは限らないが、コウを避けるために打っておけば無難。

【別案】
・白2にも黒は3。
・この形はすぐ白4、6が必要で、補強しないと本コウにされる。

【参考】
・黒1に白2と応じる手はない。
・黒3の切りで両ウッテガエシが見合い。
※これが欠け眼の急所の威力。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、307頁~308頁)

第3章問題149


第3章問題149(黒番) 3分で初段
・この白は俗に「隅の板八」と呼ばれ、外ダメが全部詰まっていると、危険な形である。
・8目もの地があって、何が心配なの?といわれるあなた。
 危機管理に問題がある。隅で真っすぐ8目の姿は手になる。
・白もセキならよかったとすべきであるから、こんな形は作らないようにしよう。

【参考1】
・黒1のオキは筋の一つであるが、白2~黒5は黒の後手セキ。
※これは黒失敗の部類。

【正解】
・黒1のほうが正しい。
・白も2~6までの進行なら穏やかで、本図は黒の先手セキ。
※白4を5は?
 白5は黒4で「万年コウ」。
 セキにするかコウにするかの選択権は黒にあると考えるべきであるが、白5は少し危険。

【参考2】
・黒1に白2は黒3の後、白a、黒b、白cならセキであるが、黒bをcならコウ。
このまま白が手抜きすると、黒aと詰めて黒cのコウが残る。
(工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]、315頁~316頁)

【補足】隅の死活 八目型~張栩『新版 基本死活事典』より


第2章・隅の死活 八目型(肩あり) 第8型


白死になし
・白の外壁に欠陥はない。
・問題はダメヅマリの影響であるが、黒先で白に死にはなく、最善に攻めてもセキになるぐらいである。

【1図】(証明1)セキ
・黒1のツケが急所。
・白は2とトンで受けるのが手堅い。
・黒3に白4と受ければ、黒5、6でセキになる。
※白4で5は、黒4で万年コウになる。

【2図】(失敗)一手ヨセコウ
・黒1に対し、白2とオサえるのは危険な受け。
・黒3、白4のとき、黒aとツイでくれれば白bでセキになるが、黒bとホウリ込む手があって一手ヨセコウになってしまう。

【3図】(証明2)後手ゼキ
・黒1のオキも急所の一つ。
・白2から黒5までセキになる。
※ただし、黒後手のセキである。
 黒は1図の方が優る。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、150頁)

第2章・隅の死活 八目型(肩欠け) 第10型


黒先コウ
・右辺は一線まで決まりがついた形。
・上辺のツギ方が問題になっている。
・この姿はウィークポイントを残しており、このままでは生きていない。


【1図】(正解)黒取り番コウ
・黒1が急所。
・白2のツケに黒3とアテ、白4に黒5と取ってコウ。
※白はダメヅマリでaとアタリできない。
※黒がコウを解消するときは、黒2のツギが正着で五目ナカ手の死となる。

【2図】(正解変化1)白取り番コウ
・黒1、3のとき、白4から6でもコウになる。
※この形は白取り番のコウで、白は前図より利点があるが、黒7のオサエを打たれるマイナスもある。
 どちらを選択するかは状況による。

【3図】(正解変化2)黒取り番コウ
・黒1のオキに白2のブツカリはよくない。
・黒3のノビから5とオサえられ、結局、白a、黒bのコウになる。
※取り番を黒に渡したうえに黒5のオサエも打たれては、踏んだり蹴ったりである。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、170頁)

第2章・隅の死活 八目型(肩空き) 第7型


白死になし
・Aのダメが空いているかわりに、黒▲がきている。
・気味のわるい形ではあるが、Aのダメ空きは大きなプラス。
 このまま手抜きで死なない。

【1図】(証明1)白生き
・黒1とオイてみよう。
・やはり白2のツケがよく、黒3から5のとき、今度はaのダメが空いているので白6とアテることができ、白生きである。

【2図】(証明2)セキ
・黒から打つとき、1のダメヅメが最善の攻めとなる。
・白は2のトビが最善の受けで、黒3の切りから5、7でセキとなる。
※白は3の一子のアゲハマがあり一目の地。

【3図】(証明2変化)セキ
・黒1のとき、白2の受けなら黒3のオキ。
・白4に黒5でやはりセキになる。
※白aには黒bとホウリ込み、白c、黒dとなる形は損得なし。
 ということは、白は前図より一目損である。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、180頁)

【補足】工藤紀夫氏の実戦譜~白江治彦『手筋・ヘボ筋』より(再録)


 以前紹介した白江治彦『手筋・ヘボ筋』(日本放送出版協会、1998年)には、工藤紀夫氏の実戦譜が掲載されていたので、再録しておく。参考にしていただきたい。

天元対局~工藤紀夫天元 対 依田紀基碁聖


「コラム 天元対局」
【天元対局】
工藤紀夫天元 対 依田紀基碁聖のテレビ早碁対局

【第1譜】(初手天元)
・依田プロが工藤天元のタイトルに敬意?を表して、初手を黒1と天元打ちした話題局。
・これには工藤プロの多少驚いたと思うが、棋士は何局かの天元対局を経験している。
・その天元に対する白の手筋は、簡単にいえば、そのはたらきを減らすようにすることであるが、言うは易くて中々ムズ(難)。
(しかし、それは黒も同じことで、地に結びつきにくい天元は甘くなる可能性は大)
・白2に黒3と積極的なカカリは、天元との連携プレーの意味があり、早い時期の戦いを意識。
・黒5以下、珍しい進行となったが、お互いに天元の存在を視野に入れての応酬で興味津々。
・黒17と押しと黒19と天元で大三角形の形成。
・黒21、23のさらなる拡大に、白24のハサミ一本から白26と単騎突入、荒しの頃合だろう。
≪棋譜≫天元対局、第1譜、53頁


【第2譜】(技あり)
・その後数十手進んだ局面、上辺のシノギの見極めがついた白は、左辺白1のツケから手段、白3が連係の手筋で白11までかなりの稼ぎで白技あり。
※地合では黒も大変、天元打ちの難しいところ。

【第3譜】(大技あり)
・さらに進んで中央を生きる前に、白1のノゾキを利かそうとした瞬間、黒2のワリ込みが強烈な手筋で、白はシビれた。
・黒6で五子が落ち、一挙に形勢が傾き、数手後投了。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、53頁~54頁)


≪囲碁の手筋~依田紀基氏の場合≫

2025-02-16 18:00:03 | 囲碁の話
≪囲碁の手筋~依田紀基氏の場合≫
(2025年2月16日投稿)

【はじめに】


  今回も引き続き、囲碁の手筋について、次の著作を参考にして考えてみたい。
〇依田紀基『囲碁 サバキの最強手筋 初段・二段・三段』成美堂出版、2004年
 副題には、「“捨て石”で勝つ! 実戦サバキのテクニック93題」とある。

【依田紀基氏のプロフィール】
・昭和41年(1966)、北海道岩見沢市生まれ。
・安藤武夫七段に入門。
・昭和55年入段。平成5年九段。
・昭和59年18歳で名人戦リーグ入り。リーグ入り最年少記録。
・平成7年 第33期「十段」獲得。
・平成8年 第1回三星火災杯優勝。
・平成10年 第45期NHK杯戦優勝。第47期まで三連覇。
・平成12年 第25期名人戦で趙治勲を破り「名人」を獲得。



【依田紀基『サバキの最強手筋』(成美堂出版)はこちらから】



依田紀基『囲碁 サバキの最強手筋 初段・二段・三段』成美堂出版、2004年
【目次】
サバキ名人になろう
第1章 サバキの基本手筋40問
第2章 サバキの最強手筋35問
第3章 腕だめしの手筋18問



〇問題の種類 解答の手筋など
第1章
1 ノータイム アテが形の急所
2 瞬時 整形の基本手筋
3 完全封鎖 ツケコシの筋
4 例の筋 捨て石の筋
5 無理筋 押さえる筋
6 好手順 二子にして捨てる筋 常用手筋 ハサミツケも有力
7 決め筋 捨て石の筋
8 腕しだい 利き筋をにらむ
9 サバキの手筋 二子にして捨てる筋
10 魔法のランプ 切り一本の筋
11 形の明暗 突き抜く筋
12 名探偵 カケる筋 アタリアタリは俗筋
13 急所切り 常用の手筋
14 方針 三子にして捨てる筋
15 欠陥 ハネ出す筋
16 利き筋 利き筋をにらむ サガリが本手
17 本手はずれ 利き筋をにらむ
18 封鎖の巧拙 ツケコシの筋
19 手筋一発 ツケる筋
20 ひと目 鼻ヅケの筋
21 先手をとる ツケコシの筋
22 切り対策 アテる筋
23 鋭い次の三手 ツケ切りの筋
24 白の野望 ワリコミの筋
25 基本手筋 シボリの筋 最強の筋
26 急所攻め サガリの筋 ツギは利かされ コスミは筋ちがい
27 ケイマ対策 ツケコシの筋
28 弱点 押さえる筋
29 食うか食われるか アテカケの筋 ダメヅマリ地獄
30 ノゾキ対策 軽くサバく筋 ダメヅマリ "オイオトシ
ツケコシが鋭い"
31 高速 石の調子で出る筋 車の後押しの俗筋 重いサバキ
32 整形の基本 ブツカリの筋
33 状況しだい アテ返す筋
34 力自慢 ツケる筋
35 アテの方向 石の調子で出る筋
36 目一杯 ツケの筋
37 黒三子がカナメ石 カケの筋
38 形感覚 アテる筋
39 戦場の風景 ツケコシの筋
40 攻めとサバキ ツケノビの筋 コスミツケは筋ちがい

第2章
1 断言できる人 三子の真ん中が急所 捨て石の筋 攻防の急所攻め
2 アテ対策 アテ返す筋
3 手筋一閃 ハネコミの筋
4 手筋の発見 ツケコシの筋
5 軽快 飛びの筋 ノビは重い
6 生死の明暗 ツケコシの筋
7 力自慢の戦法 ツケの筋 押さえは俗筋 利き筋をにらむ
8 あの筋だな 鋭い攻め筋
9 急所切り 捨て石の筋
10 定石後の攻防Ⅰ 突っ張りの筋 ハネ切りの筋
11 定石後の攻防Ⅱ 下ツケの筋 石塔シボリの筋 エグリがきびしい
12 定石はずれ カケの筋
13 工夫 ツケコシの筋
14 軽妙 捨て石の筋
15 戦いの形感覚 アテ返す形
16 継承 コウふくみのサバキ
17 致命的な弱点 整形の筋 白地を荒らす ハネは筋ちがい
18 完全封鎖 ツケコシの筋 カケは追及不足
19 切り対策 ツケの筋
20 好手順あり ノゾキから切る筋
21 腕しだい 飛びツケの筋
22 泣き言 アテの筋
23 かなりの腕前 ツケの筋
24 封鎖の最強策 飛ぶ筋
25 常用の手筋 切り込む筋 サバキ形 押しは俗筋
26 ノータイム アテ返しの筋
27 基本の形 はずす形
28 決め筋 形の急所攻め 捨て石の筋 ハネはいま一歩
29 捨て石 急所攻めの筋
30 最強の追及 戦いの手筋
31 急所攻めの後 ハネ出しの筋
32 勝負の分かれ目 ワリコミの筋
33 最強の応戦 ハネコミの筋
34 鋭い攻めの筋 ツケコシの筋
35 最強の決め筋 急所攻めの筋 捨て石の筋 サガリは次善

第3章
1 最強手の後 ツケ一発の筋
2 モタレ攻め モタレ攻めの筋
3 粉砕 腹ヅケの筋
4 先手をとりたい 切り込む筋
5 隅に弱点あり ハネ切りの筋
6 無理筋 切りアテの筋
7 シチョウで取る 切り押しの筋
8 二段バネ対策 ハネ返し筋
9 エグリの筋 ハネの筋 切りは無理筋
10 手筋救急隊 切り込みの筋
11 大切な石 シボリの筋
12 戦上手 黒石を捨てる
13 俗っぽい切断 見合いの筋 カナメ石を取る アテは俗筋
14 鋭いエグリ筋 急所攻めの筋
15 天下六段 ツケコシの筋 切る筋
16 最強のシノギ 鋭い置きの筋
17 プロ級の筋 ツケ切りの筋 白はアテツギが最善 引きはいま一歩
18 追及策 急所攻めの筋 切りは俗っぽい




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・はじめに ●サバキ名人になろう
・第1章第30問 ノゾキ対策
・第2章 サバキの最強手筋
・第2章第14問 軽妙
・第2章第25問 常用の手筋
・第3章 腕だめしの手筋
・第3章第2問 モタレ攻め
・第3章第10問 手筋救急隊
・第3章第17問 プロ級の筋
・【補足】実戦譜の捨て石~依田紀基『強くなりたきゃ石に聞け』より
・【補足】整形のツケ切りの筋~山田規三生『利かしの基本戦略』より




はじめに


●サバキ名人になろう
・初段どまりの人と五段になれる人の分かれ道は、「石を取る、捨てる」を正しく判断できるかどうか。
・さらにふさわしい最善の手筋が打てるか打てないかにある。
・取れる石を確実に取ることができるようになれば、有段者。
 捨てるべき石を的確に捨て、最善のサバキが打てるようになれば、高段者。
・碁では石を取るか捨てるか、石を逃げるか捨てるかの判断が、往々にして、ポイントとなる。
・サバキの代表的な手筋は捨て石である。
 その目的は、最善の形を得ること。
(石を捨てるべきときに助け出すと、シノぐことはできても他の方面に悪い影響が出たり、相手に大きな確定地や鉄壁を作られたりする)
☆本書は、実戦にしばしば出現するサバキの手筋をピックアップして、問題集にしている。

●サバキに強い人は本物の強者
・サバキに強い人は本物の強者
⇒その基本は捨て石にある。
 その目的は、①外勢を固める
       ②先手をとる
      ③利き筋を作る
 その他、さまざまである。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、4頁~5頁)

第2型・黒番
星のツケノビ基本定石である。
・定石後、白1の切りが決め筋の一つ。ここで、黒aとb、二通りの受け方がある。

【1図】
・まず、黒1には白2が二子にして捨てる基本手筋。
・二子にして捨てることによって、白4と6が先手になる。
・黒9までほぼ必然手順。
・白10の飛びか白手抜きか、全局の状況によって変わる。
・黒1、3では白に目一杯サバかれてしまう。
【2図】
・そこで、ふつうは黒1の方から受ける。
・取れる三角印の白を取らない黒1、3が白のサバキを封じる最善手なのである。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、6頁)

第3型・黒番
〇サバキには、さまざまなテクニックがあるが、その基本は捨て石で、最善の形を作ることである。
・サバキの手筋は、本書の問題に挑戦していけば、ほとんどマスターできるという。
 後は実戦に臨んで、その手筋を応用するように心掛けることが大切である。
・白1と迫られたとき、手筋を知らない人は黒aと受けてしまいそうである。

【1図】
・黒1は白2、4となる。
【2図】
・ここは黒1の切り込みがサバキの手筋である。
・白2なら黒3が先手であるし、白2で4なら黒aが先手となる。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、7頁)

第1章第30問ノゾキ対策


第1章 第30問(黒先)ノゾキ対策
【ポイント】
・白1とノゾいてきた。いやらしいノゾキである。
 黒の応手はAかBか。
 後の変化を考えて、次の一手を決定すること。

 【正解図】(ツギは利かされ)
・白のノゾキに黒aのツギは利かされで、重い形になる。
・そこで、黒1と押して軽くサバく。
・白2のとき、黒3の早逃げが一例。

【変化図1】(妥当)
・白2なら黒3とツギ。
・周囲の配石によって打ち方が変わるが、ふつうは、白4。
・黒5、7を利かして、9(あるいは黒a)あたりに守る。

【変化図2】(押さえは無理)ダメヅマリ
・変化図1白6の変化である。
・本図白1の押さえは無理で、黒2から4、6が先手となる。
・白はダメヅマリに備えて、白7が省けない。

【変化図3】(オイオトシ)
・白1のコスミなどは、黒2の切りが白のダメヅマリをとがめる手筋となる。
・白3、5に黒6のホウリコミから、オイオトシの筋が見え見えである。

【失敗図】(切断)
・黒1のツギはいかにも重く、利かされ。
・白2のツケコシがきびしい切断の手筋となり、黒の苦戦はあきらか。

【参考図】(ツケる筋)
・ほかに黒1とツケるのも、サバキの手筋。
・白2、4に黒5のアテが先手で打てる。
※手順中、白2で3なら黒2、白2でaなら黒3。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、83頁~86頁)

第2章


第2章
〇サバキの基本テクニックは捨て石。
・その目的は相手の石を封鎖したり、石の整形やシノギなどさまざま。
・捨て石の手筋は状況に応じて、使用法が変化する。
・また、サバキの手筋の使い分けができるようになれば、相当な腕前。
(本章の問題に挑戦していけば、大方のテクニックはマスターできる)
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、112頁)

第2章第14問 軽妙


第2章 第14問(黒先)
14 軽妙 切り込みの筋
【ポイント】
・黒はAの押さえ、Bのツギ、Cのアテコミの三通りが考えられる。
 軽妙なサバキが正着である。

【正解図】(軽妙なサバキ)
・黒1の押さえが正解。
・白2と切るほかないから、黒3、5と軽快にワタる。
・黒7を決めて、9かaの早逃げ。
・のちに黒bのねらいが残る。

【失敗図】(重い)
・黒1のツギは重い。
・白2に黒3なら、白4の筋がある。
・また、黒3でa、白b、黒cは白3。
※ほかに、黒1でdは、白eのツケ一発で、取られて失敗。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、153頁~154頁)

第2章第25問 常用の手筋


第2章第25問 常用の手筋 1分で二段、3分で1級
【ポイント】
・こうした形はサバキの常用手筋が決まっている。
 次の一手は、黒A、B、Cのどれだろうか。

〇解答 切り込む筋
【正解図】(様子見の手筋)
・こうした形は、まず黒1と切り込んで、様子を見る筋。
※ふつうは白aと下からアテ。白bと受けると黒の注文にはまるから。

【正解図・続】(黒の注文)
・白2が黒の注文。
・黒3と二子にして捨てるのが、サバキの常用手筋。
・白4に黒5を決め、さらに黒7のツギを先手で打ち、黒好調の戦い。

【変化図】(白2が最善)
・黒1の切り込みに対して、ほとんどの場合は白2が最善の受けとなり、黒3のノビに白4まで、必然手順。
※白aからの出切りを残すため。

【変化図・続】(ほぼ必然の手順)
・つづいて、黒1のタケフツギが省けない。
・白2かaは周囲の配石しだい。
・白2なら黒3を決めて、5、7まで、ほぼ必然手順。

【失敗図1】(典型的な俗筋)
・皆さんの実戦を見ていると、しばしば黒1の押しを決めている。
・黒1は白2と受けられ、黒aの切り筋をなくしてしまう味消しで、典型的な俗筋。

【失敗図2】(無策)
・白1からの出切りがある。そこで、黒1とツグというのでは素朴すぎ、あまりに無策。
・白2のナラビが石の形となり、黒不満の進行。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、181頁~184頁)

第3章 腕だめしの手筋


第3章 腕だめしの手筋
・序盤から中盤までの戦いは、手筋力が大きなポイントになる。
 また、基本手筋が身についてくれば、石がこみ入った実戦に臨んで応用できるようになる。
・中盤戦はサバキの手筋だけでなく、総合的な手筋力や死活の力量が問われる。
 本章の腕試し手筋は、石を取る、石をサバく、相手の陣地をエグるなど、さまざまな領域から出題したという。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、210頁)

第3章第2問モタレ攻め


第3章第2問モタレ攻め
【ポイント】
・黒2の急所叩きに、白3の愚形で逃げるほかないところ。
 次の一手はモタレ攻めである。

【正解図】(常用のツケ)
・黒1でaは白2と出られて、裂かれ形。
・また、黒1でbは、白1とノビられ、いずれも失敗。
・ここは、黒1がモタレ攻めの筋で、白2なら黒3。

【変化図】(黒満足)
・また、白2のハネから4のマゲなら、黒5と石の調子で出る。
・白6に黒7と叩き、黒に何ら不満がない戦い。
・次に白aなら、黒b。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、213頁~214頁)

第3章第10問手筋救急隊


第3章第10問手筋救急隊 切り込みの筋
【ポイント】
・次の一手が勝負の決め手。
 手筋救急隊の出動によって、中の黒数子を救出し、白石を取ることができる。

【正解図】(ダメヅマリ)
・ここは白aとbの切断が見合いになっているように見えるが、黒1の切り込みが白をダメヅマリに導く手筋。
・次に白bなら黒cと白五子を取る。

【変化図】(切断できない)
・また、白2なら黒3と打つ。
・白はダメヅマリのため、白aと切断することができない。
※黒1は囲碁天狗の鼻がさらに高くなる手筋一発である。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、231頁~232頁)

第3章第17問プロ級の筋


第3章 第17問(黒先)プロ級の筋 3分で四段、5分で二段
【ポイント】
・様々な利き筋をにらみながら、黒1とツケたのはプロ級のサバキ筋。
・白2のハネに対し、黒AかBかCか。

〇ツケ切りの筋
【正解図】(サバキの筋)
・黒aやbの利き筋を見ながら、黒▲のツケから黒1の切りが鋭いサバキの手筋。
・白2、4のとき、黒aやbの利き筋を利用してサバく。

【正解図・続】(黒大成功)
・つづいて、黒1とアテて3と石の調子で出るのが好手筋。
・そして黒5と押さえ。
※黒5でa、白b、黒5の簡明な打ち方でも大成功。

【変化図1】(白地が大きい)
・黒1のカカエは次善の打ち方。
・白2の押しに黒3と抜くほかないが、白4と守られて、右下隅の白地が大きくなるから。

【変化図2】(最善の分かれ)
・正解図・続黒5まで黒が目一杯にサバいた形。
・そこで、黒1の切りには白2、4のアテツギが最善。
・黒5とカカエて、次に黒aがねらい筋。

【失敗図1】(次善のサバキ)
・黒1の引きはサバキの一策であるが、白2と守られて、いま一歩。
・黒3の一手であるが、白4、6の筋で先手を取られる。
※ほかに白2で4の変化もある。

【失敗図2】(俗筋)
・黒1のアテは様々な利き筋をなくす俗筋。
・白2、4の後、黒5と切っても証文の出し遅れで、こんどは白6、8から10とカカエられて失敗。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、249頁~252頁)

【補足】実戦譜の捨て石~依田紀基『強くなりたきゃ石に聞け』より


依田紀基氏の実戦譜から捨て石について、次の著作から紹介しておく。
〇依田紀基『強くなりたきゃ石に聞け』NHK出版、2014年

第3章 ③石を捨てる喜びを
 依田紀基VS趙治勲
【テーマ図】〇白番
黒:趙治勲二十五世本因坊 白:依田紀基
・「大局観」はどこが大きいのかを判断する力である。
 大きいところとは、可能性が豊かなところである。
 豊かな方面を見極め、石の効率をよくすることが大切である。
 その手段が手筋であり、その中でも「捨て石」は、ぜひ身につけたいテクニック。
 捨て石を覚えることで、戦いの考え方や、打ち方の幅が広くなることは間違いない。
≪棋譜≫第3章3テーマ図、192頁

【手順図】
・黒が85と中央を狙ってきた。
 ここで全体を眺めて、どこが可能性のある場所か?
 中央一帯は、黒がたくさんある。広い空間は、上辺と左辺というのが分かる。

【1図】(参考)
・前図黒85で1とアテるのは、白2に抜かれてうまくいかない。
・黒3と急所に迫っても、白4から10で簡単に治まってしまう。
※黒の攻めは空振りに終わった。

【2図】(手順2)
・まず、白1から5を先手で決めた。

【3図】(手順3)
・続いて、白1と動いた。
・黒が2とかぶさってきたので、方針を固めた。
・白3とハネ出して、黒4に切らせてから、白5と抜くのが形。
※白にとって4の場所は、アキ三角ができる「筋場」。
 そこに黒が打ってくれたので、白のほうが好形。
≪棋譜≫第3章3の3図、194頁

(依田紀基『強くなりたきゃ石に聞け』NHK出版、2014年、192頁~194頁)

【補足】整形のツケ切りの筋~山田規三生『利かしの基本戦略』より


 次の著作で、整形の際の「ツケ切りの筋」について、補足しておきたい。
〇山田規三生『アタリ・ノゾキを正しく打つ! 利かしの基本戦略』マイナビ出版、2016年

第1章 利かしとは何か?
・「利かし」とは、相手がほぼ必ず受けざるを得ない手をいう。
・利かしを打つことで得られる効果は、次の4つが挙げられる。
①相手の石を重くする
②見合いを作る
③先手を取る
④自分の形を整える
(山田規三生『利かしの基本戦略』マイナビ出版、2016年、8頁)

第7章 形を整える
・利かしのなかでも、かなりの割合を占めるのが、形を整えるときのもの。
・サバキの場面や相手を封鎖するときに多く現れるが、ほとんどの場合は捨て石を活用する。
(これまで、あまり捨て石の発想を持っていなかった人は、この機会に身に付けてほしい)
(山田規三生『利かしの基本戦略』マイナビ出版、2016年、192頁)

第7章 問題13(黒番)
・右上の黒2子の守りが急がれる。単に守るのではなく、右辺の白を凝り形にしたいところ。
【第7章 問題13】
≪棋譜≫第7章 問題13、226頁

【1図】(黒不満)
・黒1と単に守るのは堅い手。
・しかし白2とトバれ、白模様が広がるので黒に少し不満が残る。

【2図】(白に響かない)
・黒1は、白に響かない。
・白2のスベリで先手を取られ、白4と大場へ回られる。
※右辺の白は厚く、黒aは狙えない。

【3図】(正解・ツケ切り)
・黒1、3のツケ切りが、相手を凝り形にするときによく使われる手段。
・続いて…

【4図】(白の変化)
・白1のアテから打つのが普通。
・黒2のとき、白3が大切な一手で、黒4から6まで進行したあと…

【5図】(黒十分)
・白1の切りから黒6までは一本道。
・白7まで、右辺の白は凝り形なうえに、黒a、白b、黒cの利きが残る。
・黒8に回り、黒十分。

【6図】(白最悪)
・4図の白3で1とツグのは最悪。
・黒2のとき白3が必要で、黒4と2子にしてシメツケられては、白大失敗。
(山田規三生『利かしの基本戦略』マイナビ出版、2016年、226頁~229頁)



≪囲碁の手筋~白江治彦氏の場合≫

2025-02-09 18:00:08 | 囲碁の話
≪囲碁の手筋~白江治彦氏の場合≫
(2025年2月9日投稿)

【はじめに】


 今回も引き続き、囲碁の手筋について、次の著作を参考にして考えてみたい。
〇白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年
 著者の白江治彦氏は、プロフィールにもあるように、NHKの囲碁講座講師などを務め、囲碁の普及に尽くされたプロ棋士である。その普及は、国際的なものであったらしく、
昭和51年豪州などに囲碁指導され、平成3年パリで102面打ち、平成8年仙台で165面打ち、多面打ち(100面以上)は出版当時、10回で世界記録更新中だったそうだ。
 本書では、ツケに始まり、ツケコシ、ツケ切り、ホウリコミ、捨て石など手筋について要領よく解説しておられる。
 そして、【コラム】においては、「置碁での手筋・形」「天元対局」が特に面白かった。
 「置碁での手筋・形」においては、世襲制最後の本因坊である秀哉と木谷実七段(当時)の有名な引退碁を、「名人」という小説に著した川端康成さんが、大の囲碁ファンであったことに触れている。加えて、棋譜として残っている岩本薫元本因坊との六子局は、なかなかの出来ばえであるようで、川端さんの布石で随所に出てくる手筋をごらんいただこうというのである。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、50頁~52頁)

 また、【コラム】「天元対局」においては、工藤紀夫天元 対 依田紀基碁聖のテレビ早碁対局を紹介されている。依田プロが工藤天元のタイトルに敬意?を表して、初手を黒1と天元打ちした話題局であった。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、53頁~54頁)

 さて、白江治彦氏が川端康成の小説『名人』について触れているので、私もこの小説についても言及している川嶋至氏の次の著作を読んでみた。
〇川嶋至『川端康成の世界』講談社、1969年[1973年版]
 川嶋至(1935-2001)氏は、学者にして、文芸評論家で、川端康成の研究家として知られている。川端康成の元恋人の伊藤初代の実体をいち早く究明した研究者として注目された。
本書の詳しい紹介は後日にするとして、さしあたり「第六章 現実からの飛翔―「雪国」と「名人」」から、小説『名人』に関する言及について、簡単に紹介しておく。
〇【補足】川端康成と小説『名人』~川嶋至氏の著作より



【白江治彦『手筋・ヘボ筋』(日本放送出版協会)はこちらから】

【白江治彦氏のプロフィール】
・昭和13年生まれ、石川県小松市。
・昭和31年大窪一玄九段に入門。昭和32年入段、昭和34年二段、昭和35年三段、昭和42年四段、昭和45年五段、昭和51年六段、昭和59年七段。
・昭和51年豪州などに囲碁指導。テレビ司会、解説で活躍。
・昭和62年テレビ囲碁番組制作者会賞、平成3年日本囲碁ジャーナリストクラブ賞受賞。
・平成2年銀座で101面打ち、平成3年パリで102面打ち、平成8年仙台で165面打ち、多面打ち(100面以上)は現在までに10回で世界記録更新中。
・昭和52年、平成3年、平成9年とNHKの囲碁講座講師。
・平成8年度普及功労賞。
 




白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年
【目次】
筋のとなりはヘボ筋
1・ ツケ(実戦で最も多い)
2・ ツケコシ(飛躍の手筋)
3・ ツケ切り(サバキや消し)
4・ 切り(効果は多岐多様)
5・ 切り込み(形を崩す働き)
6・ ワリ込み(攻め合いでの手筋)
7・ ホウリコミ(駄目を詰める手筋)
8・ コスミ(隅や辺での手筋)
9・ コスミツケ(形崩し、攻め合いの手筋)
10・ ワタリ(1線から3、4線での連絡)
11・ オキ(撹乱・ヨセに威力)
12・ 三子は真ん中が急所
13・ 左右同形中央に手あり
14・ 捨て石(囲碁の醍醐味の一つ)

【コラム】
・手筋一閃、局面打開のツケ
・置碁での手筋・形
・天元対局
・死活に見る捨て石の妙技
・ビックリ!の詰碁解答
・二子にして捨てよ
・捨て石のツケで先手封鎖大地完成




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・はじめに
・3 ツケ切り(サバキや消し)
・4 切り(効果は多岐多様)
・7 ホウリコミ(ダメを詰める手筋)
・10 ワタリ(1線から3、4線での連絡)
・14 捨て石(囲碁の醍醐味の一つ)
・捨て石の問題~一間高ガカリ定石の変化とシボリ作戦
・捨て石の問題~二間高バサミ定石の変化とシボリ作戦
・川端康成の置碁
・天元対局~工藤紀夫天元 対 依田紀基碁聖
・【補足】川端康成と小説『名人』~川嶋至氏の著作より







はじめに


・一局は平均250手ほどかかる。
 正しい着手もあれば凡手もある。
 正しい着手は手筋、凡手はヘボ筋である
(ヘボ筋は俗筋ともいい、はたらきの少ない着手のことである。イモ筋、筋違い、無筋とも言われる)
・手筋の中でも接近戦にそなえるものを「形」といい、石がぶつかり合えば「筋」となる。
※故瀬越憲作九段は、筋と形の違いを「筋は攻撃、形は守りの正しい打ち方を指す」と表現した。
(ただ、サバキやシノギの手筋など、攻撃より防御の雰囲気のものもあり、いちがいにいえない部分もあるが、わかりやすい区別である)

〇ところで、接近戦でもっとも効果の高い着手である手筋の効用は、多目的ホールのようなもので、何にでも使われるすぐれものであると、白江氏はいう。
・攻め合い、死活、遮断、連絡、封じ込め、封じ込め回避、荒らし、シボリ、愚形に導きコリ形にさせる。
・また、オイオトシ、ウッテガエシ、ゆるみシチョウなど捨て石を駆使した華麗な展開も可能。
(捨て石を使った手筋は、相手地の中への元手なしのもの、リスクなしで攻め合いに勝ったり、地の得をはかったりするものも多くある)
・しかし、手筋のそばには多くのヘボ筋があり、注意が必要。
(ヘボ筋とは、満点のはたらきをしていない減点着手、さらに打たない方が良いマイナス着手まである)
 ヘボ筋の罪は、攻め合いに負け、死活に失敗、ヨセの損など序盤戦から終盤戦まで延々と続く。
※本書では、それぞれの形で、手筋とヘボ筋の違いを鮮明にあらわしたという。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、2頁~3頁)

【3・ツケ切り(サバキや消し)】


3・ツケ切り(サバキや消し)
〇ツケ切りは、ツケと切りのあわせわざ
⇒先にツケ、相手のオサエに切り込む手筋
・とくにサバキや消しに、華麗なはたらきを見せてくれる。
 おおむね相手陣内でのサバキで、本来かなり不利な結果になるところを、五分五分に近い分かれに持っていく手筋である。

【基本図:定石進行】
〇大ゲイマガカリ定石のはじまりである
・三角印の白(12, 三)のハサミに、黒1とツケ、3と切るのが、ツケ切りの手筋

【1図:定石】
・黒1のツケ切りの手筋に対し、白1、3はアタリ、アタリのヘボ筋進行であるが、この手筋の効果を上げた証拠でもある。

【2図:変化】
・白は基本図のツケ切りを嫌い、白1、3と変化するのは、黒2、4と素直に応じて良い。
・白5と封鎖しても右辺はガラ空で、単なる厚みに過ぎない。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、46頁)

【4・切り(効果は多岐多様)】


4・切り(効果は多岐多様)
・切りは文字通り、相手の石を切断すること。
・その効果は多岐にわたり、攻め、サバキ、シノギ、ヨセ、死活などなど多様。
・また、ツケ切り、切り込み、切り違いなど、他の手筋との合わせわざでの使い方もある。
・ただ、切りを入れた瞬間から戦いが始まるわけであるから、ある程度先見する必要がある。

【基本図】(根元切り)
・一間高ガカリ定石の進行中であるが、黒1の切りは絶対の一手。
※黒の形を根元から切る強烈な攻めで、白の中央進出を防ぎ、戦いの主導権を握る。

【1図】(白無理)
・白1と押さえ込むのは、黒4のコスミの手筋で、白ツブレ。

【2図】(定石進行)
・白は1と下からアテるよりなく、黒6まで進行。
・しかし、このままでは黒に制空権を取られるだけの一方的進行、白7からの逆襲開始は当然。

【3図】(お返し)
・白1とお返しの切りで、戦端を開く。

【4図】(定石)
・黒1以下、隅で生きをはかったとき、白8のカケから主導権奪回に動き出す。

【5図】(続き)
・黒1以下、互いに手筋を打ち合っての進行。

【6図】(中央の争い)
・黒1のノビから以後延々と中央の戦いが続くことになる。

※「碁は断にあり」と喝破したのは、故細川千仞九段であるが、地の囲い合いに終始するだけでは妙味に欠ける。
 切りの手筋を駆使しての戦いは、囲碁の醍醐味のひとつだろう。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、55頁~56頁)

<メモ>
〇細川千仞(1899-1974)九段
 日本棋院関西総本部の重鎮として活躍。「コウの細川」とも呼ばれ、乱戦の雄として知られる。
 門下に石井邦生九段、佐藤直男九段など、孫弟子に結城聡九段、山田規三生九段、坂井秀至八段、井山裕太九段がいる。

【7・ホウリコミ(ダメを詰める手筋)】


〇ホウリコミは、「放り込み」である。
・すぐにアタリになる自殺手であるが、相手のダメを詰める極上の手筋
 ⇒とくに攻め合いの手数短縮や、死活に大きな威力を発揮
・わずかの捨て石を放つことによって、大きな戦果を挙げる気分の良い手筋
・相手地の目減りをねらうヨセにも使える
・また、ホウリコミそのものには、取られても損はなく、捨て石作戦の練習にも、うってつけ

【1図:基本手筋】
・黒3取り返す1の所 

・黒1がホウリコミの基本形
・白2と取れば、黒3と取り返す手筋

【2図:取り跡】
・わずか一子の捨て石で大きな戦果を上げることができる


【3図:応用問題】
・基本手筋の応用、3手のヨミで

【4図:ダメヅマリ】
・黒1と出て、白をダメヅマリにして、黒3のホウリコミでしとめる

【5図:合わせわざ~ツケコシとホウリコミ】
・焦点のはっきりしない白の形をダメヅマリに導くためには、黒1のツケコシの手筋との合わせわざから入る。
・白2に、黒3の切り。

【6図:オイオトシ】
・続いて、黒1のホウリコミから黒3でオイオトシに。

【7図:連続ホウリコミ~ホウリコミ+ホウリコミ】
☆ホウリコミの連続手筋である
・まず黒1が最初のホウリコミ、白2のとき黒3とアタリ
⇒白をダメヅマリに追い込む

【8図:決め手のホウリコミ】
・白1のツギに、黒2が決め手のホウリコミ
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、85頁~86頁)

10 ワタリ(1線から3、4線での連絡)


【10 ワタリ(1線から3、4線での連絡)】
・ワタリは「渡り」で、自石同士の連絡のことである。 
 ワタリは、地の増減にとどまらず、死活やヨセにも大きな影響がある。
・ワタリは、1線から3、4線での連絡をいうが、ワタリの完成によって地の増のみならず、相手からの攻撃をかわす利点もある。

・俗格言に「ワタリ八目」というのがあるが、8目の得があるということでなく、大きな意味の八の字を当てることで、効果を強調したものである。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、110頁)

【問題図(黒番)】
・黒▲のサガリを活用して、隅の二子との連絡は?

【1図】(ヘボ筋)
・黒1は、左右の真ん中付近でバランスのように見えるが、白2、4のツケ二発で連絡不能に。

【正解図】(トビ)
・黒1のトビが落ちついた手筋。

【2図】(切断不能)
・白1、3とねらっても、ドッキング成功。

【3図】(連絡完成跡)
・もう白から何の手段も残っていない。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、111頁)

【問題図(黒番)】
・白1と目取りにきたところ。
 ダメヅマリ状態であるが、連絡の手筋あり。

【1図】(ダメヅマリ)
・黒1で連絡できそうに見えるが、白4でダメヅマリとなり、黒はaに切ることができない。

【正解図】(ハネ)
・黒1のハネが手筋で、連絡できる。

【2図】(コウにあらず)
・白1、3には黒2、4のヌキでコウにあらず。

【3図】(連絡跡)
・2図を確かめた図。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、113頁)

【問題図(黒番)】
・白△に惑わされず、左右を連絡するには?

【1図】(問題図までの定石進行)
・白△に黒7まで進行、白8の封鎖で問題図に。

【2図】(一見筋風)
・黒1のアテは手筋のように見えるが、白2から6までで、コウで抵抗される。

【正解図】(ケイマ)
・黒1のケイマが手筋。

【3図】(別定石)
・白が正解図を嫌えば、白1、黒2の定石進行あり。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、115頁)

【問題図(黒番)】
・左右の黒の連絡手筋は?

【1図】(切断)
・すぐに黒1とオサエるのは、白2のワリ込みで破ける。
・黒3と強引に取るのは、白6まで黒四子が落ちる。

【2図】(弱い)
・黒1のトビでは、隅は安泰だが、左が弱体に。

【正解図】(ケイマ)
・黒1のケイマで連絡可。

【3図】(大丈夫)
・白1以下の画策には、黒6までで心配なし。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、126頁)

【参考図】(世界棋戦の実戦進行)
・黒1のケイマで左右が連絡。
 上辺は黒地化。白は厚味を背景にaと構え、消し囲いの難解な中盤戦に突入。
 結果は黒半目勝ち。

【1図】(参考図までの手順)
・黒1の打ち込みに、白2とサガリ、黒3とフリカワリ策に。

【2図】(体力をつけて)
・黒1、3のハネツギで体力をつけ、黒5で連絡という進行。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、127頁)

14捨て石(囲碁の醍醐味の一つ)


〇捨て石作戦は、囲碁の醍醐味の一つ。
 主な捨て石作戦は、
①手数を詰める
②カケメにする
③シボリ作戦
 A二子にして捨てる
 B石塔シボリ
 Cグルグル回し
 D締めつけ
 Eその他
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、163頁)

手数を詰める


手数を詰める
【1図】(手数を詰める)
・黒1の捨て石が攻め合いに勝つ唯一の手筋。

【3図】(捨て石を増やして)
・詰碁には捨て石が似合う。
 すでにつかまっている黒石をさらに増やして、黒1の捨て石が白をカケメにする手筋。
〇石を捨てるのが嫌いな向きも多く、まずは捨て石に慣れる訓練をすることが大切であるという。

【5図】(黒番)~12目の死活問題
☆黒先で手段ありや、なしやと、3段レベル約50名に出題したことがあるという。
 正解は手段なしである。
 だが、応手が結構難しいようで、セキやコウになるケースがかなり出た。
〇このような白の地とおぼしき形の中に打ち込んで見るのは、捨て石の練習をする絶好の機会だという。
 手があるかどうかは不明でも損はなく、また手筋発見の訓練にもなり、一石二鳥である。

【6図】(打ち込み)
・黒1の打ち込みに、白はそれなりに悩む。

【7図】(セキ)
・白3は誤った応手。
・黒2~8まででセキになってしまう。

【8図】(セキかコウ)
・前図の変化で、白1も悪手で、黒4までコウ。
※白3で4は、黒aでセキ。

【9図】(手なし)
・白1が正しい応手で、黒に手段はない。
※しかし、これによって、白地が増えたわけではない。
 黒は三子を捨て(取られ)たが、白地も3目減で損得なし。

【10図】(問題2)
・黒1と来るとどうするか?

【11図】(手なし)
・これも1、3で手なし。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、161頁~163頁)

捨て石の問題~一間高ガカリ定石の変化とシボリ作戦


【問題図(黒番)】
・定石変化のひとつ。
・黒のシボリ作戦の初手は?

【1図】(一間高ガカリ定石の変化)
・黒6の切りに白7のアテからの変化はハメ手風。

【2図】(ヘボ筋)
・黒1、3と決めてしまっては白4で隅を取られ損で、黒は浮き石のまま。

【3図】(イマイチ)
・黒1のコスミツケは考えた手であるが、イマイチ。

【4図】(実利の損)
・黒1では実利の損が大。

【正解図】(切り)
・黒1の切りから進めるのが手筋。

【5図】(大勢に暗い)
・折角、黒▲の手筋の切りを打ちながら、白1の逃げ出しに、黒2と隅を生きるのは大勢に暗い発想。

【6図】(先手突き抜き)
・白△には黒1、3のアテを決めて、黒5が名調子。
・白6は省けない。

【7図】(隅に手段)
・前図の白6に手抜きするのは、黒1から手段。

【8図】(コウ)
・黒1、3でコウに。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、187頁~188頁)

捨て石の問題~二間高バサミ定石の変化とシボリ作戦


【問題図(黒番)】
・二間高バサミ定石の進行中。
・捨て石のシボリ作戦駆使のすばらしい大局判断がある。

【1図】(問題図までの進行)
・二間高バサミから黒4、6と戦端開始。

【2図】(続き)
・続いて、白1のカケに黒2の捨て石の手筋。

【3図】(打ち過ぎ)
・黒1、3と両方を助けるのは無理。

【4図】(もったいない)
・黒1、3と上方を捨てるのは、もったいない。

【正解図】(カケ)
・黒1のカケが白の動きを制限し、シボリを完璧にするグッドセンスの手筋。

【5図】(自殺行為)
・白1とケンカを売るのは自殺行為で、黒6までシチョウに。

【6図】(シボリ開始)
・白は単に1と出るよりなく、黒は2、4とシボリ作戦開始。

【7図】(シボリ完了)
・黒4まで二子の捨て石で大シボリ。

【8図】(ケイマツギ)
・黒1のおしゃれなケイマツギで手厚い外勢。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、189頁~190頁)

川端康成の置碁


「コラム 置碁での手筋・形」
【川端康成の置碁】

昭和十年代(1940年代)世襲制最後の本因坊である秀哉と木谷実七段(当時)の有名な引退碁を、「名人」という小説に著した川端康成さんは、もちろん大の囲碁ファンであった。
 多くのプロ棋士との対局があったと思われるが、棋譜として残っている岩本薫元本因坊との六子局は、なかなかの出来ばえであるようだ。
 した手、川端さんの布石で随所に出てくる手筋をごらんいただこうと、白江氏はいう。

川端康成の置碁
岩本薫元本因坊との六子局

【川端康成と岩本薫との六子局】

【第1譜】(六子局)
・白5のボウシは、うわ手の常套手段であるが、黒6の肩ツキは、攻めと中央進出を兼ねた手筋。
・次の白9、11のツケのサバキに、黒12はなんでもないようであるが、正しい手筋の受け。
・それは、白13という車の後押しを強要させる効果があり、黒16まで悠々と中央に進出、黒上々の出だし。

※ところで、当時は、川端さんの他にも囲碁好きの作家は多く、皆さんかなりのレベルで、
 本因坊戦などタイトル戦の観戦記執筆が花盛りであったが、ときおり術語を間違えるのが、ご愛嬌だったという。

【第2譜】(整形と攻めのコスミ)
・白1のトビに、黒2のコスミはなんでもないようだが、整形の手筋。
※連絡を確かめながら、白の連絡は許さんという強い態度でもある。
・上辺に移って、白5のヒラキに、黒6もすばらしい反応、隅の確保と白二子への攻めと一石二鳥。
※実戦では、aと追随しがち。

【第3譜】(ケイマであおる)
・白3、5のくすぐりに、黒6のケイマのあおりも大賛成の攻め、ここまで黒絶好調。

【第4譜】(サバキのツケ)
※ここでようやく岩本プロが、術を使いはじめる。
・白1のツケがそれで、サバキの手筋のひとつ。
・黒2はその術にまんまとかけられ、黒8まで利かされてしまった。
※黒2では、単に4が正解。
 サバくときツケよという格言があるが、その見本のひとつ。
 応用範囲広く、ぜひ覚えてほしいという。

【第5譜】(ようやく置碁らしく)
・白1と中央に進出し、白7、9でようやく置碁らしい局面になってきた。
 しかし黒勝利。

【第6譜】(1~51まで)

(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、50頁~52頁)

天元対局


「コラム 天元対局」
【天元対局】
工藤紀夫天元 対 依田紀基碁聖のテレビ早碁対局

【第1譜】(初手天元)
・依田プロが工藤天元のタイトルに敬意?を表して、初手を黒1と天元打ちした話題局。
・これには工藤プロの多少驚いたと思うが、棋士は何局かの天元対局を経験している。
・その天元に対する白の手筋は、簡単にいえば、そのはたらきを減らすようにすることであるが、言うは易くて中々ムズ(難)。
(しかし、それは黒も同じことで、地に結びつきにくい天元は甘くなる可能性は大)
・白2に黒3と積極的なカカリは、天元との連携プレーの意味があり、早い時期の戦いを意識。
・黒5以下、珍しい進行となったが、お互いに天元の存在を視野に入れての応酬で興味津々。
・黒17と押しと黒19と天元で大三角形の形成。
・黒21、23のさらなる拡大に、白24のハサミ一本から白26と単騎突入、荒しの頃合だろう。

【第2譜】(技あり)
・その後数十手進んだ局面、上辺のシノギの見極めがついた白は、左辺白1のツケから手段、白3が連係の手筋で白11までかなりの稼ぎで白技あり。
※地合では黒も大変、天元打ちの難しいところ。

【第3譜】(大技あり)
・さらに進んで中央を生きる前に、白1のノゾキを利かそうとした瞬間、黒2のワリ込みが強烈な手筋で、白はシビれた。
・黒6で五子が落ち、一挙に形勢が傾き、数手後投了。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、53頁~54頁)

【補足】川端康成と小説『名人』~川嶋至氏の著作より


 最近、川端康成の小説『名人』を調べるにあたり、川嶋至氏の次の著作を読んでみた。
〇川嶋至『川端康成の世界』講談社、1969年[1973年版]
 川嶋至(1935-2001)氏は、学者にして、文芸評論家で、川端康成の研究家として知られている。川端康成の元恋人の伊藤初代の実体をいち早く究明した研究者として注目された。
本書の紹介は後日にするとして、さしあたり「第六章 現実からの飛翔―「雪国」と「名人」から、小説『名人』に関する言及について、簡単に紹介しておく。

●「名人」の生いたちについて
<第一章 なまけものの文学>
・こうした傾向(川端の作品に、未完、中絶の多い傾向)は、この時期だけのものではなく、たとえば「雪国」は、昭和十年から十二年までの三年間に、断続的に種々の雑誌に書きつがれ、創元社版「雪国」で完結したかに思われたのが実は未完で、十年後にまた書きつがれ、結局完成までに十三年の歳月を要するという生いたちを持っている。
・「名人」にしても、戦前戦後にまたがる改稿がみられるし、敗戦後の諸作にしたところで、「千羽鶴」「山の音」など、多くは「雪国」同様の発表形式をとっている。むしろ、氏の作品には、順当な手続きを経て完成したものはほとんどないと言ったほうが、わかりがはやいであろう。
(川嶋至『川端康成の世界』講談社、1969年[1973年版]、15頁)

<第六章 現実からの飛翔―「雪国」と「名人」>
・「雪国」は、完成までに十数年の歳月が費やされたが、「名人」も「雪国」に遅れること数年で、やはり完成に十数年の日月を要している。
 作中にも明らかなように、「名人」は、東京日日新聞社主催の本因坊秀哉名人引退碁の観戦記をもとに書かれたもので、小説化の意図は、観戦記執筆中にすでに生まれていた。

・引退碁は昭和十三年六月にはじまり、秀哉名人の病気で約三箇月の中断があって、同年十二月に終った。それから約一年後、秀哉名人は持病の心臓病で世を去った。

・この素材がはじめて小説化されたのが昭和十七年の初稿「名人」で、以後敗戦をはさむ数年間、草稿となった作品の発表があり、その後更に数年を経て、全集編集を契機として再び小説化がくわだてられ、昭和二十九年単行本『呉清源棋談・名人』にまとめられて、「名人」の完成をみたのである。
 このように、定稿は「山の音」「千羽鶴」などと平行して書かれているわけだが、「雪国」を戦後の作とはしなかったように、「名人」も「雪国」に続く時期の作品としてあつかって、異論のないところであろう。

・一見したところ、「雪国」と「名人」では、作品の世界ががらりと変ってしまったように見える。
 「雪国」が作者の計算にもとづく人工的なからくり、純粋仮構の上に成り立っているのに対して、
 秀哉名人が実名で登場する「名人」は、引退碁の凄絶な勝負の顚末記ともみえる。

・しかし、作者の描こうとする力点はそうした勝負の世界にはなかった。
 氏の興味は、秀哉名人その人に向けられていたのである。
 だから題名の「名人」は、棋界の最高位を示す称号ではなく、具体的に秀哉その人を指す固有名詞としての名人なのである。
 おそらく、彼以外のいかなる碁の上手が名人の座にあったとしても、川端氏の創作の対象とはなり得なかったであろう。

・ところが、実際の秀哉名人は、「野卑で貧相」な外貌の持ち主で、対局中の行動にも身勝手なところがあり、金銭にきたないといった風評もあったらしい。
 事実、引退碁の前に名人と会う機会を持った榊山潤氏は、「その印象は、あまりいいものではなかつた。瘠せて小さく、吹けば飛ぶやうで、而もその上、失礼ではあるが、何となく小狡そうな感じがあった。」(昭和32年『解釈と鑑賞』)と「名人」論を書き、
「私が若し棋士を書きたくなつたら、第一に木谷(註・「名人」における大竹七段の本名)その人を選ぶだらうと思ふ。恐らく現棋士中、もつとも複雑な情感を持つた人と思はれる。天才の一つの型である。」とも述べている。

・このように、名人の称号を剝奪した秀哉その人は、うすぎたない老人にすぎず、むしろ大竹七段の方がなまの人間として魅力的な人物だったと思われるのに、川端氏は大竹七段には注目しなかった。
 わき役の彼は、ときには名人との対比から、悪役すらもふりあてられている。

・川端氏は「野卑で貧相」な老人に、なぜそれほどまでに傾倒したのだろうか。
川端氏は観戦記を「小説風に書き直してみたいと思った」理由について、「観戦記には読者をひくための舞文も多く、感傷の誇張がはなはだしく、また対局中の紛糾など新聞には書けぬこともあつたからである」(全十四、あとがき)と書き、
「対局中の棋士の気にさはらぬやうに心を配つて、筆をおさへねばならぬ」(第四十一章)ことが多かったとも述べている。
 確かに観戦記では、記者「私」がみずからの意見や感想を述べることはほとんどなく、まれに顔を出しても、「私達素人は……」とか「素人の観戦子にも……」といったひかえ目な発言しかしていない。
(川嶋至『川端康成の世界』講談社、1969年[1973年版]、228頁~230頁)






≪囲碁の手筋~大竹英雄氏の場合≫

2025-02-02 18:00:05 | 囲碁の話
≪囲碁の手筋~大竹英雄氏の場合≫
(2025年2月2日投稿)
 

【はじめに】


 今回も引き続き、囲碁の手筋について、次の著作を参考にして考えてみたい。
〇大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法―意外な急所がどんどんわかる』誠文堂新光社、2014年

※この本を読んで、手筋についての考え方は、目からウロコだった。
 「ウッテガエシ」や「オイオトシ」といった石を取る筋のみを手筋と考えがちだが、そうではないことに、気づかせてくれたのが、大竹先生のこの本であった。
つまり、手筋は、相手の形の欠陥をとがめる手でもあるという。だから、欠陥のない形に対して手筋はうまれてこない。強い人の石には、そうした欠陥が少ないために、手筋を打てるチャンスはなかなかないものらしい。相手から手筋を打たれないように、形をしっかり打つことが大切だと、大竹英雄先生は強調している。
また、定石は相手の手筋を防ぐ形が中心であるという。形が悪ければ相手から手筋でひどい目に会わされる。手筋を学んだ効果は、相手の石の中に手筋を発見して戦いを有利に導くということもあるが、それ以上に自軍の石をしっかり打つようになることにあるというのである。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、115頁、148頁)

 また、代表的な手筋であるオイオトシ(「追い落し」と本書では表記)についても、改めてポイントを適確に述べておられ、「独習書」ならではの良さであろう。
 例えば、次のようにある。
「この追い落しの筋は実戦でもひじょうによく出る。
 第2型についていえば、この追い落しの筋をみて、同図黒▲のサガリがいつでも先手で打てるということである。
 サガリの筋でも出たように、第1線へのオリキリが活躍する場というのはきわめて多い。
 また追い落しにかかるほうはといえば、それはダメヅマリになっているということである。
 みなさんがこれから勉強するうえに、どういうのがダメヅマリなのか、それを注意するだけでも勝率がずいぶんあがるだろう。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、120頁)

この追い落しの筋は実戦でもよく出てくるといい、第1線へのオリキリが活躍する場というのはきわめて多い。そして、追い落しにかかるほうはといえば、それはダメヅマリになっているということである。この点は、オイオトシを考える上で、重要なポイントである。
この点については、【補足】において、他の例を挙げておいたので、参考にしていただきたい。
【補足】第一線サガリ(オリキリ)の利き筋~溝上知親氏の著作より
【補足】第一線サガリ(オリキリ)の利き筋~You Tube石倉昇九段

 そして、オイオトシの手筋を使う「鶴の巣ごもり」にしても、ダメヅマリが石を取る条件であることも確認しておきたい。
【補足】鶴の巣ごもりとグルグルマワシとダメヅマリ~影山利郎氏の著作より

 なお、手筋の表記は本文に出てくるものをそのままにしてある。
 例えば、オイオトシは「追い落し」、ウッテガエシは「ウッテガエ」といった具合である。

【大竹英雄氏のプロフィール】
・1942年5月12日生。福岡県北九州市出身。木谷實九段門下。
・1956年入段。
・1965年第9期首相杯争奪戦 優勝
・1967年第6期日本棋院第一位決定戦 優勝
・1969年初の十段位を獲得
・1970年九段
・1975年第14期旧名人戦で初の名人位に 初の王座位を獲得
・1978年初の碁聖位を獲得
・1986年碁聖位6連覇
・1992年世界囲碁選手権富士通杯 優勝
・1994年テレビ囲碁アジア選手権 優勝
・2002年名誉碁聖を名乗る

※通算獲得タイトル数 48
 棋道賞最優秀棋士賞受賞2回
 秀哉賞受賞1回
 平成20年12月~平成24年6月 日本棋院理事長

【大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』(誠文堂新光社)はこちらから】



〇大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法―意外な急所がどんどんわかる』誠文堂新光社、2014年
【目次】

大竹英雄『囲碁 基礎手筋の独習法』
第1章 基本感覚の養成
No.1 単に固くツぐのがカタチ (第1型)
No.2 ノゾかれたらまずツげ (第2型)
No.3 傷を残さぬ打ち方 (第3型)
No.4 足早に辺を占める打ち方 (第4型)
No.5 ゆるまずオサエ込み (第5型)
No.6 遠慮なくハネる気合 (第6型)
No.7 周辺の状況に注意 (第7型)
No.8 2子のアタマ見ずハネよ (第8型)
No.9 絶対に欠かせぬノビ出し (第9型)
No.10 単にハネるカタチ (第10型)
No.11 単ギリからいく筋 (第11型)
No.12 形の急所――手厚いマゲ (第12型)
No.13 有効なタケフの連絡 (第13型)
No.14 有効なツギ方 (第14型)
No.15 切りをおそれない (第15型)
No.16 一間にトぶ形 (第16・17型)
No.17 封鎖をはかる形の急所 (第18型)
No.18 カケて封鎖(コスミ) (第19型)
No.19 上ツケして封鎖する筋 (第20・21型)
No.20 腹ツケの手筋 (第22型)
No.21 相手に調子を与えない (第23型)
No.22 相手にチャンスを与えない (第24型)
No.23 連絡を妨げる工夫 (第25・26・27型)
No.24 まず傷の補修 (第28型)
No.25 シチョウを狙う筋 (第29型)
No.26 シチョウがよい時の決め方 (第30型)
No.27 狙いをもった備え (第31・32型)
No.28 封鎖を避けるコスミ出し (第33型)
No.29 まず形をととのえる (第34型)
No.30 ゲタにカケて取る筋 (第35型)
No.31 アタリを気にしない――コウ (第36・37型)
No.32 模様を張るための上ツケ (第38型)
No.33 模様を張るためのケイマ (第39型)
No.34 模様を張るための大ゲイマ (第40型)
No.35 あと押しを避けるケイマ (第41型)
No.36 形の決め方 (第42・43型)
練習問題1~6
練習問題解答
練習問題7~12
練習問題解答
練習問題13~18
練習問題解答

第2章 やさしい手筋の学び方
No.37 コスミの手筋 (第1・2・3型)
No.38 ツケの手筋 (第4~7型)
No.39 コスミツケの手筋 (第8型)
No.40 ハサミツケの手筋 (第9・10・11型)
No.41 アテツケの手筋 (第12型)
No.42 アテコミの手筋 (第13・14型)
No.43 ケイマにツケコシ (第15・16・17型)
No.44 出切りの手筋 (第18型)
No.45 キリコミの手筋 (第19~22型)
No.46 ハネ出しの手筋 (第23型)
No.47 二段バネの手筋 (第24~27型)
No.48 オキの手筋 (第28・29・30型)
No.49 サガリの手筋 (第31型)
No.50 ワリコミの手筋 (第32・33・34型)
No.51 二子にして捨てる手筋 (第35型)
No.52 追い落しの手筋 (第1~4型)
No.53 ワタリの手筋 (第5・6型)
No.54 攻め合いの手筋 (第7~13型)
No.55 ウッテガエの手筋 (第14・15型)
No.56 シボリの手筋 (第16・17型)
No.57 コウの手筋 (第18~22型)
練習問題1~6
練習問題解答
練習問題7~12
練習問題解答
練習問題13~18
練習問題解答

第3章 実戦で学ぶ手筋
No.58 星の基本定石(1) (第1・2・3型)
No.59 星の基本定石(2) (第4型)
No.60 星の基本定石(3) (第5・6型)
No.61 星の基本定石(4) (第7・8型)
No.62 星の基本定石(5) (第9型)
No.63 星の基本定石(6) (第10~13型)
No.64 星の基本定石(7) (第14・15型)
No.65 星の基本定石(8) (第16~19型)
No.66 星の基本定石(9) (第20型)
No.67 置碁定石(1) ツケノビ定石 (第21型)
No.68 置碁定石(2) コスミツケ (第22型)
No.69 置碁定石(3) ボウシ (第23型)
No.70 置碁定石(4) ノゾキ (第24型)
No.71 シチョウ関係に生ずる手筋 (第25型)
No.72 石をサいて出る手筋 (第26型)
No.73 三々の対策 (第27・28型)
No.74 下ツケで連絡する手筋 (第29型)
No.75 分断する手筋 (第30型)
No.76 ツケ・トビの手筋 (第31型)
No.77 ワタリの手筋 (第32型)
No.78 模様を固める鉄柱 (第33型)
No.79 模様を消すボウシ (第34・35型)
No.80 模様を消す肩ツキ (第36型)
No.81 ハネツギからの狙い (第37・38・39型)
No.82 サガリの手筋 (第40・41型)
No.83 “2の一”に手あり (第42型)
No.84 ツケの手筋 (第43型)
No.85 サルスベリの手筋 (第44型)
練習問題1~6
練習問題解答
練習問題7~12
練習問題解答
練習問題13~18
練習問題解答
さくいん



さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はしがき
・本書の独習法

・第1章 No.6 遠慮なくハネる気合い
・No.7 つねに周辺の状況に注意が必要である
・No.8 2子の頭は見ずにハネよ(格言)
・No.12 形の急所になる手厚いマゲ
・No.20 腹ツケの手筋(第22型)
・No.22 相手にチャンスを与えてはならない
・No.23 連絡を妨げるための工夫
・No.36 形の決め方

・第2章 No.45 キリコミの手筋
・No.50 ワリコミの手筋
・No.52 追い落しの手筋
・No.54 攻め合いの手筋
・No.55 ウッテガエの手筋

・第3章 実戦で学ぶ手筋●実戦感覚を養うにあたって
・第3章No.60星の基本定石(3)

【補足】第一線サガリ(オリキリ)の利き筋~溝上知親氏の著作より
【補足】第一線サガリ(オリキリ)の利き筋~You Tube石倉昇九段
【補足】第一線サガリ(オリキリ)の利き筋~張栩九段の基本死活事典より
【補足】鶴の巣ごもりとグルグルマワシとダメヅマリ~影山利郎氏の著作より






はしがき


・出版社のほうから「基本を身につけるのに役立つ筋とか形、それに手筋を加えたような本を書いてほしい」という要請があった。
 基本はたいせつである。
 筋とか形とかいっても、その基本はきわめて単純な手法にかぎられている。
 たとえば、ツギとかハネといったようなものである。
 しかし手筋ともなってくると、いささかむずかしくなってくる。
 一見なんの手もないような所へ、いきなりトビツケたり、ツケコしたりして手にするわけである。むずかしいといっても、こんな痛快なことはない。

・しかし、相手がそのような手筋の生ずる形に打ってくるか、こちらが積極的に手筋の生ずる形に導いていくかしなければ、手筋は生じない。
 また言いかえれば、自分としては、相手から手筋を打たれて窮するような形にもっていってはいけない、ということである。

・そこに筋とか形とか手筋の問題が絡んでくる。
 初心者の打つ碁には、ある意味ではいくらでも手筋の活躍できる場はある。
 したがって、この著作で手筋なるものをしっかり勉強して、碁の醍醐味を十分味わっていただきたいという。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、1頁)

本書の独習法


〇一着の重要性の認識
・碁は数十手、百数十手の積み重ねで勝敗が決まる。
 実はその一手一手が重要な役割をはたしている。したがって、それらを正しく頭の中に記憶させることが大切である。

〇まず第1章を確実にマスターする
・第1章は形とか筋と呼ばれるものの基本中の基本といえるものが網羅されている。
 だから、まずこれを繰り返し読んで、確実に自分のものにして、それから第2章に移ってほしい。

〇第2章の勉強法
・第2章の筋の連けいは、第1章で学んだ基本形の複合である。
 したがって、相手の石の動きも正確にキャッチできるようになる。
 それをマスターするためには、図をいく度も繰り返して眺め、頭の中で石の変化が浮かぶようになるまで続けてほしい。

〇練習問題
・各章のあとに練習問題を提出しておいた。本文の応用だから、どの程度内容を理解できたかを示すバロメーターとして、取り組んでいただきたい。

〇最後に
・本書は初級者向きの教材を扱っているが、石の形、筋等に中級者でも間違えるようなものも含まれている。
 初級者に限らず、感覚を正しい方向に是正するのに、かなりの力倆のある人でも役立つ。
・また、碁はいつの場合でも、絶対という手は少ないものである。
 この著作に出た変化も絶対ではなく、周囲の状況が変わると、当然手段も変わってくる。
 それを絶えず念頭におき、今後の勉強に励まれること切に希望する。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、6頁)

第1章 No.6 遠慮なくハネる気合い


No.6 ハネられるところは遠慮なくハネる
〇第6型 黒番
【第6型 テーマ図】
・第5型の1図黒1につづいて、本図白1とハッてきたあとの打ち方について考えてみよう。

【1図】(ハネる一手)
・こういうところでは、黒は1とハネなければならない。
・あとで述べる≪2子の頭≫にもなっているのだから、白の形を窮屈にするためにも、黒1は絶対。
※ただし、白にAと切られて困るような場合には、そのかぎりではない。
・白は、当然白2とハネるだろう。
・ふつうに黒3とノビていて十分。(第3型の1図の場合とは違う)
・黒5とノビれば、白Aはこわくない。

□別法に注意
【参考図】(二段バネ)
・白のダメヅマリをとがめる意味で、黒1、3と二段バネしていく筋も成立する。
(105ページ、第24型1図参照)
・なお、このあと白A、黒B、白C、黒D、白E、黒F、白ツギ(3)、黒Gとなるのが、定石のひとつであることをつけ加えておこう。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、14頁)

No.7 つねに周辺の状況に注意が必要である


No.7 つねに周辺の状況に注意が必要である
〇第7型 黒番
【第7型 テーマ図】
・なんでも2子の頭はハネればよいかというと、なかなかそうは簡単にいかないのが、碁の面倒なところ。
・白1と隅(3, 三)に入ってきた石に対して、黒2とサエギるのは、この場合(三角印の黒がある)、当然である。
・白3に対して、黒はどう打つべきだろうか。

【1図】(正着―ノビ)
・このように、すぐ、そばに三角印の白がある局面では、黒1とノビなければならない。
・前型と同じように、黒Aとハネるのは危険(参考図参照)。
・いくら2子の頭とはいっても、黒Aとハネ、白に1の切りの余地を残してはよくない。
⇒第6型と比較してみよ。

□周辺に注意
・そばに相手(ここでは白)の石がある場合は、極力傷をつくらないように打つ心構えが必要。
【参考図】(とがめられる)
・ここで黒1とハネると、白2から白4と切られて窮す。
※このあと、どう打っても、黒1か、上方の3子のどちらかを取られてしまう。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、15頁)

No.8 2子の頭は見ずにハネよ(格言)


No.8 2子の頭は見ずにハネよ(格言)
〇第8型 黒番
【第8型 テーマ図】
・白が1とオシアゲたという想定であるが、こういう形では黒は次にどう打つべきだろうか。

【1図】(2子の頭)
※冠頭にもあるように、≪2子の頭は見ずにハネよ≫という格言がある。
・この黒1がそれにあたる。こういうダメのツマっている形では特に有力な手になる。
※第8型は図のように黒2子に白2子と勢力関係が拮抗しているはずである。
 ところが、次は黒番であるので、そこで起こるせり合いは、グンと黒に有利に展開するのが常識。

【2図】(白も対抗)
・白としては受け方に困るのだが、最強の抵抗は、2子の尻のほうを白2とハネる打ち方だろう。
 (ただし、白2で白Aとトぶのもあり、黒B、白Cと変化する)
・そこで黒は3と応じて頑張ることになる。
※黒としてDの傷が気になるが、黒Eと1子をカミ取る余地が残されている以上、すぐ反撃されるという心配はない。
・つづいて次図。

【3図】(白の整形)
・手堅く白は4とツグ。問題はこのあと。
・もし黒ならどう対処するだろうか。

【4図】(しっかりした形)
・黒5とここをしっかりツグ。
※黒の実利は相当なもの。
 このあと白はAとヒラいているくらい。
Aをはぶくと、黒B、あるいは黒Cあたりからの攻めがきびしくなる。

□次の狙いをみる
 せっかく2子の頭をハネてみても、あとの打ちかたが分からないと、せっかくの強手が活きてこない。
【参考図】(弱点のある白の形)
・もし白2とハネてきたら、どうするだろう。
・黒3、5と決めて、将来黒Aの狙いをもつ。
※もっとも、黒3でBと切る手も成立する。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、16頁~17頁)

No.12 形の急所になる手厚いマゲ


No.12 形の急所――手厚いマゲ (第12型)
〇第12型 黒番
【第12型 テーマ図】
・黒の4子が第3線に並んでおり、その上方に白の3子がへばりついている形を想定してみる。
・こんな形では、黒の次の一手ははっきりしている。

【1図】(ダメヅメ)
・黒1とマゲるのがすばらしい急所。
※白3子をダメヅマリにしていると同時に、黒は右方(下辺)に大模様を形成していく。
・次に白Aなら、黒はBとハネ、白Cとノビることになるだろうが、この白の形には、将来黒からDとノゾくような嫌味が残る。
・このあと、黒が右方の模様を拡大したい場合には、さらに黒はEと押していくことになろう。

□白黒双方の争点
【参考図】(白番なら)
・もしこの局面で白の手番であれば、やはり1と押す。
・黒も2とハネるくらいだが、白3、5とハネノビても、1図とは違って白の形もしっかりしている。
・それに白の模様もかなり大きなものになってきた。
※白1では、3とケイマする場合もあるだろう。

【類型】黒番
・このような局面で、もし黒の手番なら、どう打つだろうか。

【2図】(マゲオサエ)
・黒1の一手。
 これは用語で、マゲオサエと呼ばれる形。
※この黒1によって、まず下辺の黒地がかなりつきそう。
 そしてそれ以上に大きな価値は、白が手を抜けないということ。
 もし白が手を抜けば、黒にAと走られて、隅はまるまる黒に取られてしまうだろう。
・そこで、やむをえず、白Aと活き形につくか、白Bとケイマで活きをはかるかすることになるだろうが、いずれにしても、黒は手を抜き、先手で他の好点に回ることができる。
※黒のように先手でマゲオサエが打てるようなところは、決して見逃さないようにすること。

□白番との比較
【参考図】(トビ)
・もし白番なら1とトんでいくだろう。
 この図と2図とをくらべてみよ。
※本図では下辺にまったく黒地を見込むことはできない。
 しかも白Aを狙われ、黒の4子の影が薄くなってしまう。
 2図の黒1がいかにすばらしい手かが分かる。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、22頁~23頁)

No.20腹ツケの手筋 (第22型)


No.20 ピタリと決める腹ツケの手筋
〇第22型 黒番
【第22型 テーマ図】
・もはや隅の黒2子を放出することはできない。
 しかしその黒を利用してピタリと決めるうまい方法がある。
 どういう方法だろうか。

【1図】(腹ツケ)
・黒1がそれである。
 どうしてこの手がよいかは、参考図と比較してみよ。
・白はつづいてAと2子をカカエるよりしかたがない。
・そこで黒はBとアタリにして、先手で他(たとえばCのヒラキ)に回る。
・黒1のツケに対して、白がBと出られないことはいうまでもない。

□俗手に注意
【参考図】(傷が残る)
・ふつうに黒1とオサエていくとどうなるか?
・白はいったん2とマゲる。
・けっきょく白4の2子カカエに回るのだが、白は同じ後手でも、この形なら将来白Aと切る狙いが残る。
・黒としてはBとカケツぐぐらいだが、それなら白が先手になってしまう。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、35頁)

No.22相手にチャンスを与えてはならない


No.22相手にチャンスを与えてはならない
〇第24型 黒番
【第24型 テーマ図】
・いま白が1と押してきたところだが、こうした場合、黒はどう応ずるのが正しいか。

【1図】(引く一手)
・こうしたところでは、黙って黒1と引くのがよい。
 強情を張って黒Aとハネたりすると、白に1の切りを与え、形をととのえさせるお手伝いをしたことになる。(参考図参照)
・白がつづいてAと押してくれば、こんどは黒Bとオサエられる。
※相手に調子を与えたり、形をととのえたりさせないために、こうしてさからわずに引いていなければならないケースは意外と多いようだ。

□切りに注意
【参考図】(白サバく)
・もし黒1とハネると、白2の切りが白からの手筋となる。
・黒3以下で白の2子は取れるではないか――と考える人もいるかもしれないが、そのために白6のアテが先手で利かされ、しかも白8のオサエ、さらに白10のアテまでを利かされては、大へんな損失。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、38頁)

No.23連絡を妨げるための工夫


No.23 連絡を妨げるための工夫
〇第25型 黒番
【第25型 テーマ図】
・これは置碁はよく出る形。
 白が1と打ってきたと仮定する。これに対して黒はどう応じるか。

【1図】(白の狙い)
・まず白の意図を考えてみることが必要。
 いったいなにを考えて、こんな手を打ってきたのだろうか。
※実はもし黒が手を抜けば、白Aとワタってしまおうというのである。
・単に連絡させないだけなら、黒AでもBでもよいわけだが、黒としては反撃する気構えも必要。
・そこで黒1のコスミが形で、黒Cや黒Dと中央でも頑張ろうというわけである。

□無策なトビ
・1図黒1によって白Aと連絡できないことは、各自確かめてみてほしいという。

【参考図】(ワタれる)
・なんでもトベばよいというものではない。
 この黒1では、白2とツケられて、連絡されてしまう。
・次に黒Aなら白B。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、39頁)

〇第26型 黒番
【第26型 テーマ図】
・相手の連絡を妨げるにも、いろいろと工夫が必要。
 この図の場合も同じ。白が1とハッて根拠を奪ってきたところだが、黒はどう応ずるか――というのがテーマ。
 ただし、黒Aとサエギるのでは、白B、黒Cのとき白Dと右方に連絡され、黒は傷だらけ。

【1図】(正着)
・こういうときは、黒1とツキアタるのがうまい手筋。
※ふつうはツキアタる手というのは、あまりよくない場合が多いのだが、危急のさいそんなことは言っておれない。
・この黒1に対して、もし白Aと立てば、こんどは黒Bとオサエて、白の2子を取ってしまおうというわけである。

【2図】(変化)
・白も一本2と出て、4とワタることになるだろう。
・それならば、黒は5とハネ(これでは黒Aの下バネもあるので、その状況に応じて使いわけてほしい)黒はなんとかサバけそう。
・途中、白4で白Bと切ってくれば、いったん黒4とオサエ、白Cのとき黒Dのアテを利かし、さらに黒Eのオサエまで、先手で利かしてしまう。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、40頁)

〇第27型 黒番
【第27型 テーマ図】
・これは互先定石(一間高ガカリにツケ引く定石)によく出てくる形。
・いま白が1と打ち込んできたところだが、これに対して黒はどう対処すべきだろうか。 
 ただし白Aの渡りを妨げる手法――という条件である。

【1図】(コスミ)
・黒1のコスミが正しい手。
・これに対して、白Aとオサエてくれば、黒はBと押して白を封じる。
・次に白Cのハネ出しなら、黒はDとハサミツケる手筋で、白を閉じ込めることができる。
・したがって、白もこのあと、DとかEと工夫して、一戦まじえることになる。
・なお、この黒1には以上の含みのほかに将来、黒Fとハネ、白G、黒Hと先手で大きくヨセる含みがある。

□無策なサガリ
【参考図】(渡れない)
・この黒1のサガリでもいちおう白の連絡を妨げてはいる。
・しかし、白に2と押しあげられると、黒は右方との連絡ができない。
※このように石が左右に分断されると、両方の石を同時にシノがねばならなず、苦しくなることはいうまでもない。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、41頁)

No.36 形の決め方


No.36 形の決め方 (第42・43型)
〇第42型 黒番
【第42型 テーマ図】
・よく置碁で生ずる形。
 右方にあらかじめ三角印の黒の1子があるような場合、黒の次の打ち方は決まっている。
 どう打つのか?

【1図】(厚味)
・黒1とマゲてここを封じる。
・白2とノビれば、さらに黒3とオサエ込んでいく。
※この打ち方は後手になるが、ひじょうに厚い手で、今後の中央での戦いに、ひと役もふた役も買ってくれるだろう。
 ただし、前にもことわったように、あくまで三角印の黒があるのが条件。
 もしないと、黒3に白Aとノビられて、よくない。

□形を決める手筋
【参考図】(急所からいく)
・なお1図のあと、ここを黒が固めるとすれば、黒1の急所からもっていくのが手筋になる。
・白2に黒3と打てば、白からのAのハネ出しの狙いが防げる。
・しかも次に黒Bと打つと、白は死にだから、白Cと走り、黒D、白E、黒Fとなれば、黒は鉄壁の厚みができて、必勝となる。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、62頁)

〇第43型 黒番
【第43型 テーマ図】
・白が黒を攻める形として、この白1のようなコスミがよく使われる。
 というのは、この白1で白Aなどとトぶと、黒Bにツケて軽くサバかれてしまうから。
・これに対して、黒はどうサバくか――というのがテーマ。

【1図】(手筋)
・だいぶ高級な打ち方だが、まず黒1と別の石にツケて、白の受け方をみる(次ページ参考図参照)。
・白は黒に調子を与えないために、2と引くのが普通。
 たとえば、この白2で白Aとハネると、黒にBと上にノビ出される。
・また黒1に対して、白Cとオサエてくれば、黒Dとツキアタり、黒2のカカエをみる。
・なお、白2で逆に白Dとツキアタってくれば、黒はさからわずにCと上に出てよい。
・では、白2につづいて、どう決めていくか先に進んでみよう。

【2図】(押し)
・そこで黒3と押す。
 これで黒Aとゆるめるのでは、白にBとカケてこられていけない。
 白3のアテコミがいつでも利くから。
・白も4とトぶのが筋。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、62頁~63頁)

第2章No.45 キリコミの手筋


No.45 キリコミの手筋
〇第19型 黒番
【第19型 テーマ図】
・ダメヅマリは手筋を誘発する。
 だから、自分の石がダメヅマリにならないよう注意して打つことが肝要。
 また言いかえれば、相手の石をダメヅマリにもち込もうとする打ち方が有力になるわけである。
 黒からの手段を考えよ。

【1図】(手筋)
・この問題はこうして提出されると、ほとんどの人が解けるはず。
・黒1のキリコミからいくのうまい手筋。
・ところが実戦では、こうした形になっても気づかない人が多い。
 黒のほうとしては、気づく気づかないでなく、自分からこうした形に白を追い込んでいくようにもっていくことが、戦術的に必要。
・そのためには、形を見た瞬間にこの手筋が見抜けるよう、頭の中入れておかなければならない。
 つづいて――

【2図】(ウッテガエ)
・白2とアテても、黒3で簡単にウッテガエである。
 これはもうお分かりだろう。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、99頁)

No.50 ワリコミの手筋


No.50 ワリコミの手筋
〇第32型 黒番
【第32型 テーマ図】
No.50 ワリコミの手筋 (第32・33・34型)

〇第33型 黒番
【第33型 テーマ図】
・かなり複雑な形をしている。
 したがって、一見しただけでは、初級者には、どういう問題か分からないかもしれない。
 白の傷をとがめてもらいたい――というテーマである。

【1図】(手筋)
・いかがだろうか。黒1の手に気づいただろうか。
 これがワリコミの手筋である。
 次に白Aなら、黒Bとツいで、Aの上と下の2カ所に断点が生じる。
 また黒1に対して――

【2図】(分断)
・白2と下から切ってくれば、黒は3と逃げ出す。
 これで、AのツギとBのツギが見合いになる。
 下方の白は完全に分断された。

手筋は、このように相手(ここでは白石)の欠陥をとがめる手でもあるわけである。
 だから、欠陥のない形に対して手筋はうまれてこない。
 強い人の石には、そうした欠陥が少ないために、手筋を打てるチャンスはなかなかないものである。
 みなさんも、相手から手筋を打たれないように、形をしっかり打つことがたいせつだという。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、115頁)

No.52追い落しの手筋


〇第1型 黒番
【第1型 テーマ図】
・この隅の黒にはまだ一眼しかない。しかし、黒▲のサガリがあるために、追い落しが利く。
※これは入門書にも出てくるようなやさしい筋であるから、どなたでも簡単に解けるだろう。
 しかし実はむずかしい追い落しの筋のほとんどがこのスタイルなのである。
 いわば追い落しの原型であるから、しっかり覚えておいてほしい。

【1図】(手筋)
・黒1のホウリ込みが手筋。
・白に2と取らせて―

【2図】(追い落し)
・黒3とダメをツメれば、白は4子をツグことができない。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、119頁)

No.52追い落しの手筋


〇第2型 黒番
【第2型 テーマ図】
・隅の黒は生きていない。
※この場合、頼りになるのが黒▲のサガリ(オリキリともいう)。
・黒からどういう手段があるだろうか。

【1図】(手筋)
・まず黒1とホウリ込みで、白に2と取らせる。
※もうここまで示せば、どなたもお分りだろう。

【2図】(追い落し)
・黒3とダメをツメれば追い落しになる。
※この追い落しの筋は実戦でもひじょうによく出る。
 第2型についていえば、この追い落しの筋をみて、同図黒▲のサガリがいつでも先手で打てるということである。
 サガリの筋でも出たように、第1線へのオリキリが活躍する場というのはきわめて多い。
 また追い落しにかかるほうはといえば、それはダメヅマリになっているということである。
 みなさんがこれから勉強するうえに、どういうのがダメヅマリなのか、それを注意するだけでも勝率がずいぶんあがるだろう。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、120頁)

No.54 攻め合いの手筋


〇第7型 黒番
【第7型 テーマ図】
・まん中に包まれている黒7子と、下方の白3子との攻め合い。
・下方の白7に対して白からの手数は三手。
 黒自体にはたして何手かかるだろう。また黒の対策は?

【1図】(手筋)
・妙に思えるが、ここを黒1とツいでおくことが肝要。これが攻め合いの手筋。
・この黒1によって、黒の手数は四手。
 一方の白は三手であるから、この攻め合いは黒の一手勝ちになる。
※ではこの1を打たず、黒Aと白を取りにいくとどうなるだろうか。
 参考図をみてほしい。

〇手数を縮める筋
【参考図】(要石を取られる)
・ふつうに黒1とダメをツメるのでは、白2ホウリコミを食い、白4と追い落しとなり、黒は2にツぐことができない。
・もしツぐと白Aで逆に全体が取られてしまう。
※なお白4のあと、黒がBとダメをツメてきたときには、白2と3子を抜いておかなければならない。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、125頁)

〇第13型 黒番
【第13型 テーマ図】
・隅の特殊性を利用した攻め合いの手筋の問題。
 これは変化がかなりむずかしいので、いく度も基盤に並べて、しっかり覚えておいてほしいという。

【1図】(手筋)
・まず第一弾は黒1の二段バネ。
※これで黒2とゆるめるのでは、白に1とハイ込まれて攻め合いに勝つことができない。
・白2の切りには黒3とツぎ、そして白4のアテに一本黒5とサガるのが肝要。
 これさ覚えておけば、あとは比較的簡単。
・白6に黒7とハネて、白8と2子を取らせ、次図――

【2図】(一手勝)
・ここで黒9と打ち欠くのが、やはり手筋。
※白はダメヅマリでAとツゲない。
・やむなく白10と取れば、そこで黒11と打って、攻め合いは黒の勝ちになった。

≪石塔≫
・この1図黒1、5と2子にして捨てる形を一般に≪石塔≫と呼んでいる。
 シボるときによく使われる。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、131頁)

No.55 ウッテガエの手筋


No.55 ウッテガエの手筋
〇第14型 黒番
・いよいよ楽しいウッテガエ(ウッテガエシ)に入る。
 これは碁をはじめて覚えたときに、最初に習う手筋の一つである。
 白の形の欠陥をみごとにとらえてほしい。

【第14型 テーマ図】
【1図】(手筋)
・黒1のワリコミが成立する。
・もし白2と応じれば、黒3と切って、ウッテガエになる。
※なおこの筋を見抜いて、白2で白3と1子をカカエれば、黒は2とツキ出していく。
 ダメヅマリのために、白Aと切断できない。

□ダメヅマリに注意
【参考図】(首をしめる手)
・第14型のように、白に手段が生じた原因は、たとえばこの白1と出る手を打ったことにある。
・初級者はAの切りだけに気を奪われてこういう手を打つのだが、それは同時に自分の首をしめていることになる。
≪ダメのツマリは身のツマリ≫、注意せよ。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、132頁)

第3章 実戦で学ぶ手筋


●実戦感覚を養うにあたって
・基本の手筋が身につけば、あとはそれがどう実戦に結びつくかというのが課題になる。
 その効果をあげるには、実戦を打つことが手っとり早いことは確かである。
 しかし、むやみやたらと打ってみても、それだけでは身についたはずの手筋感覚が活用されない。
 というのは、覚えたはずの手筋感覚が活躍できるような石の形がほとんど出てこないからである。
・そこで基本手筋を実戦に役立たせるための勉強をどうしたらよいかということであるが、その解決法として定石をとりあげてみた。
 定石の中には、いろいろの手筋がふくまれている。
 しかも定石は一局に二つや三つは必ず打たれる。
 そうした定石を打つことによって、それに関連した手筋は実戦に役立ってくれるはずである。
(ひと口に定石といっても、その数は大変なものである。そこで実戦に役立つはずの星の定石にしぼってみた。小目定石とか高目定石にはふれなかった)

・定石を通じて手筋を勉強する効用は、一つには実戦によく出てくるという面もある。
 定石は相手の手筋を防ぐ形が中心である。みなさんの打たれる石もしっかりしてくるだろう。
 形が悪ければ相手から手筋でひどい目に会わされる。しかしそうした手筋を読みとることができるようになれば、形にも十分注意されるだろう。
 手筋を学んだ効果は、相手の石の中に手筋を発見して戦いを有利に導くということもあるが、それ以上に自軍の石をしっかり打つようになることにある。
 石の感覚を確かなものにする心がまえで、本章ととりくんでほしい。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、148頁)

第3章No.60星の基本定石(3)


No.60星の基本定石(3)一間トビ・3三入り対策(第5・6型)
〇第5型 黒番
【第5型 テーマ図】
・黒の一間トビ受け(三角印の黒)に対して、白1と3三に入ってくることはよくある。
 これに対して、黒はどう対処するのがよいか――というテーマ。

【1図】(サエギる一手)
・なずなにがなんでも黒1とサエギらなければならない。
 これはまず絶対の一手と言ってもいい。
 そこでふつうに考えられるのが――

【2図】(黒の打ち方の岐路)
・白2とハネる手。
・黒もいきおい3とオサエてサエギる。
※ただし、黒が上方(左辺)の地をたいせつにしたいときは、この黒3でAとマゲ、白Bのカケツギに黒Cとアテ、白Dとツがせて、先手で他の好点に回ることもある。
・ことにE方面にあらかじめ白石がある場合は、黒3とサエぎってみても、三角印の白の1子が痛むだけで、黒の壁はあまり働きそうもない。
・とすれば、この一角での折衝は早く切りあげて、他の好点に回るほうが得策ということもある。

【3図】(隅を与える)
・この図のように、周辺になんの石も見当たらない状況では、白4とツがせ黒も5とツいで隅を与えるほうがよいだろう。
・つづいて――

【4図】(一子を制する)
・白6と走って活きることになるが、黒は7とハネて白1子の動きを封じて十分。
・ただし、この黒7は右方(下辺)を自軍の勢力下に置きたいときに打たれるのであって、上方をたいせつにしたければ、黒7で直接黒Aとツケていく手もあるし、またそれが危険な場合(参考図参照)には、黒Bとコスんで受けるのも形。
※よくこういうところで、黒Cと出て、白Dと交換する人がいるが、それは白の強化のお手伝いだけで少しも得しない。筋悪の標本といえる。

□状況に注意
【参考図】(上方をたいせつに)
・この図のように、あらかじめ三角印の黒の1子があれば、黒1とツケていくのも考えられる。
・白2以下、6と出切ってきても、黒7とノビて十分戦えるから。
 しかし三角印の黒の方面に反対に白石がある場合には、この黒1のツケは危険をともなう。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、154頁~155頁)

〇第6型 黒番
【第6型 テーマ図】
・前ページ参考図のあと、白が1、3と打ってきたとする。
 本来ならば白3で白Aとツいでいなければいけないところ。
 この場合、黒からどう打てば、この白を殺すことができるだろうか。

【1図】(ハネ殺し)
・まず黒1とハネ。
・白も2とマゲて受けるくらいだろうから、そこでまた黒3とハネ。
➡これで白は死んでいる。

※たとえば、このあと白Aと打てば、黒Bと置いて殺せる。
 また白Cと活きにくれば、黒Dと置いて、やはりそれまでである。
・そのあとの変化については、それほどむずかしくないので、各自で検討してほしいという。

□異筋に注意
【参考図】(失敗)
・黒1のツケからいく人がいる。
・これは白2と受けられ、黒3と渡っても、以下白8までと簡単に活きられてしまう。
※また黒1で4のオキからいくのも、たとえば白2とツがれ、黒3のとき、白5、黒1、白6となって、黒Aとノビ込むコウになる。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、156頁)

〇第8型 黒番
【第8型 テーマ図】
・前ページ2図の黒2をはぶいたところで、白が1、3から5とノゾいてきたとする。
 これは黒Aに白Bを狙っている。
・この応接をめぐって、どういう手筋があるか――少々くわしく検討してみよう。

【1図】(関連の手筋)
・この応接はシチョウ関係でずいぶん変わってくるので、あらかじめシチョウ関係を読んでおかなければならない。
・ともかく、黒1とコスミツケてみよう。
 これが好手筋。
・そして白2と切りに黒3とサガっている。
(黒3でAにサガっては失敗)
・これに対して、白が――

【2図】(押す手なし)
・4と隅をハネてくれば、黒5とダメをツメる。
※これで白は4の下からも、またAからもツメることができず、押す手なしとなる。
つまり、1図黒1、3の手筋が功を奏したのだった。
ところがこの変化はそう単純な結果に終わらない。
実は、白4とハネたところに問題があった。
この手でもし白5とアテてきたらどうなるか――その検討をしておかなければならない。
・1図黒3につづいて――

【3図】(脱出可能?)
・白1とアテ、3とハネ出してきたとする。
 こうなるとひと筋縄ではいきそうもない。
・つづいて――

【4図】(グズミ)
・黒4とグズんで出る一手。
・白はここでいま一本5と押しあげる。
・黒6もやむをえないだろう。
・次に黒Aがあるので、白は――

【5図】(ダメをつめながら守る強手)
・7とダメをつめるのが強手。
 次に白Aのシチョウを狙う。
 もしシチョウが白によければ、黒Aとでも打って、シチョウから逃げなければならない。
・すると、白はBとツいで、さあ黒にとっては一大事件が起こった。
 こうなると黒はバラバラで収拾のしようがない。

※では、黒はどこが悪かったのだろうか。
 実は1図にさかのぼって、同図黒1、3の手筋が悪かったのだった。
 この手筋は、シチョウがよいときにしか使えない手筋だったからである。
・したがって、さらにさかのぼって、第8型黒4ではCとでもトんでいなければいけなかったのだった。
・シチョウ関係が反対に黒によければ、5図白7に対して黒Bと切っていてよいのであるから、こんどは白がツブレ形になってしまう。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、158頁~159頁)

【補足】第一線サガリ(オリキリ)の利き筋~溝上知親氏の著作より


【第1章テーマ2】白番
・両ガカリ定石からの変化。
・黒が1とトンで逃げたところ。当然のように見えて、失着なのである。
・黒▲2子を狙ってほしい。

【1図】
〇テーマ図までの手順
・白1の両ガカリに、黒が2、4とツケ引いた形。
・黒8のハネ出しから10とサガるのは、11の切りを見ている。

【5図】(利き筋活用の一手)
・白2のサガリから4の一線サガリまでが、利き筋。

【6図】
・黒は1とオサえるわけにはいかない。
・白2とアテられて取られてしまう。
※1の地点のダメがツマらないことが、ミソなのである。

【7図】
※黒は隅を放っておくわけにはいかない。
・黒1などと手を抜くと、白2のホウリコミから4で取られてしまう。
(溝上知親『アマの知らない実戦手筋 利き筋の考え方』毎日コミュニケーションズ、2009年、37頁~40頁)

【補足】第一線サガリ(オリキリ)の利き筋~You Tube石倉昇九段


石倉昇九段は、「戦いの極意第6巻味を残す打ち方」(2018年7月23日付)においても、第一線サガリの利き筋について、次のような問題を出している。

<ヒント>
・アタリを最初から打たないで、味を残す打ち方を考える。
※解答は各自確認のこと(1時間45分~55分あたり)

【補足】第一線サガリ(オリキリ)の利き筋~張栩九段の基本死活事典より


・張栩九段は、『新版 基本死活事典』「第4章 実戦」において、星に三々入りの定石についての死活を解説している。
【星に三々入り】
・星の構えに対し、白1と三々に侵入した場合にできる基本的な定石。
・ヨセに入ってから死活が問題になることがある。
 そこのところを研究してみる。
≪棋譜≫星に三々入り定石、420頁

【第3型】黒先二段コウ
・白△と固ツギした場合、黒▲が利き筋になる意味がある。
≪棋譜≫第4章三々入り第3型、423頁

【1図】白死(正解変化)
・黒1のツケから3とコスむのが、うるさい手。
・白4から6と無条件生きを目指すと、黒7とハワれてしびれる。
※白はダメヅマリでaに入ることができない。
※これが黒▲の効果である。
≪棋譜≫第4章三々入り第3型1図、423頁

【2図】二段コウ(正解)
・黒1、3に対しては、白4とオサえるのが最善となる。
・そこで、黒5とホウリ込み、白6と取ってコウになる。
※このコウは、普通のコウではない。
 白は次にaと取れば解消だが―

【3図】二段コウ(正解続き) 白2、4手抜き
・黒からは1、3と二つのコウを勝っていかなければならない。
・さらに、黒は△とツグことはできず、黒5に△でまだコウ(ただし、白不利な二段コウ)。
※死ぬまでは大変だが、白も負担ではある。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、423頁)

【補足】鶴の巣ごもりとグルグルマワシとダメヅマリ~影山利郎氏の著作より


・鶴の巣ごもり、グルグルマワシ(文字どおり相手を団子にまるめてシボリあげ、息もつかせず取る手筋)で石を取る時は、ダメヅマリが条件になることを問題で確認しておきたい。
 影山利郎氏は、次のような問題を出している。

【第3問】
・黒先、三角印の白の要石二石を取る手を考える。
 凡手、俗手ではとうてい難事だが、手筋なら楽。
 
第3問の答
【15図】正解1
・黒1、ここを狙うしかない。
・問題はこの後のよみ、白2の方は問題ない。
・黒7まで、鶴の巣ごもりは誰でも知っている。

【16図】正解2
・白2と逃げたときだ。
・黒3からシボリ、白8まで白を団子にまるめた。
※ここでシチョウ関係黒悪しと、黒aのツギにバックすると白bと逃げられる。
・黒9ではさらに追撃する。

【17図】正解2続き
・黒9のカケ。
・以下、黒23まで息もつかせぬグルグルマワシ。何とも痛快。
 合計23手。手数長けれど道は一筋。

※影山利郎氏は、その他、鶴の巣ごもりの大型版(大ツルス?!)の問題も出している。
(影山利郎『素人と玄人』日本棋院、2013年、212頁、216頁、218頁)