歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の手筋~加藤正夫氏の場合≫

2025-01-19 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の手筋~加藤正夫氏の場合≫
(2025年1月19日)

【はじめに】


 今回のブログでも、引き続き、囲碁の手筋について、次の著作を参考にして考えてみたい。
〇加藤正夫『NHK囲碁シリーズ 明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年
 著者によれば、筋というのは「関係」のことであるとする。
 碁では石の関係、たとえば黒石と黒石、あるいは黒石と白石にさまざまな関係が生じる。
 ケイマの筋、一間の筋、接触した筋などがそれである。その筋の中でも、特に手段として効果をあげられるのを、手筋という。つまり、「手になる筋」というわけで、手筋と表現する(2頁)。
 本書の構成は、1章から3章から成り、攻め、守り、一般の基本手筋と分けられている。
 本書の特徴としては、テーマ図に必ず手順図がついていることである。これにより、実戦的にも応用がきくようになっている。
 また、基本手筋に関連する重要な指摘も多々見られる。
 例えば、ツケ切りについて、次のような指摘は参考になろう。
 ツケ切りの手法は白に地を与えても、それに見合う外勢を求めるさいに有力となる(22頁)。ツケ切りは白に地を与えて黒の厚みをつくる場合に使われる(51頁)。一般に「サバキにはツケ」とか「サバキはツケ切りで」などといわれている。 これらはサバキのテクニックの一面を表現している(160頁)。

 ここで紹介するのは、「攻め合い」など、重要性が高く、関心がありそうな基本手筋に限定することにした。

【加藤正夫氏のプロフィール】
・1947(昭和22)年3月生まれ。福岡県出身。
・1959(昭和34)年木谷實九段に入門。1964(昭和39)年入段。
・1967(昭和42)年四段で第23期本因坊戦リーグ入りを達成。1969(昭和44)年(五段)には本因坊挑戦者となって、碁界の注目をあびた。
・1976(昭和51)年碁聖戦(第1期)で初タイトル。同年十段。
・1977(昭和52)年本因坊(第32期、剱正と号す)。その後、名人、天元、王座等を獲得。
・2002(平成14)年第57期本因坊獲得(本因坊剱正と号す)。
・2004(平成16)年6月日本棋院理事長に就任。
※棋風:碁は厚く、それをバックに攻めて圧倒していくタイプ。


【加藤正夫『明快・基本手筋』(日本放送出版協会)はこちらから】



〇加藤正夫『NHK囲碁シリーズ 明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年

本書の目次は次のようになっている。
【目次】
1章 攻めの基本手筋
 1石を取る手筋
 2切断の手筋
 3捨て石の手筋
 4シメツケの手筋
 5攻め合いの手筋
 6形を崩す手筋
 7侵略の手筋

2章 守りの基本手筋
 1連絡の手筋
 2形を決める手筋
 3サバキの手筋

3章 一般の基本手筋
 1シチョウと手筋
 2コウをめぐる手筋
 3ヨセの手筋




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・「はじめに」
・1章 攻めの基本手筋 1石を取る手筋 テーマ図第6型
・1章 攻めの基本手筋 テーマ図第8型
・1章 攻めの基本手筋 捨て石 テーマ図第3型
・1章 攻めの基本手筋5攻め合いの手筋
 ・5攻め合いの手筋テーマ図第1型~第7型
・2章 攻めの基本手筋 3サバキの手筋
・3章 攻めの基本手筋 3ヨセの手筋 テーマ図第4型




「はじめに」


・碁を覚えて、ようやくその面白さがわかってきた頃、筋とか手筋という言葉を耳にするようになる。
 「筋がいい」とか「筋が悪い」などと批評され、筋とはどういうものか気になりはじめる。
 そうした読者のためにまとめたのが、本書であるという。
・では、筋とか手筋とはなにか?
 著者によれば、筋というのは「関係」のことであるとする。
 碁では石の関係、たとえば黒石と黒石、あるいは黒石と白石にさまざまな関係が生じる。
 ケイマの筋、一間の筋、接触した筋などがそれである。
・その筋の中でも、特に手段として効果をあげられるのを、手筋という。
 つまり、「手になる筋」というわけで、手筋と表現する。
・ところが、同じ手になるにしても、ごく当たりまえの手段では手筋とはいわない。
 意外性が強調される手段にかぎられるのが特徴である。
(だから、本とか実戦で、はじめて手筋に接したとき、おそらく読者の多くは驚きと感銘を受けるだろう。そして、碁の奥深さは倍加するはず。)
・碁の腕を磨くには、定石の勉強をはじめ、戦い(攻め、守り、模様の形成、厚みの生かし方等)の仕方など、いろいろとやることが多いもの。
(それはそれで上達するためには欠かせない勉強である)
・しかし、それらの中に、つねに手筋が顔をのぞかせてくる。
 だから、手筋を学ぶことによって、他の分野の勉強も比較的容易に理解できるようになる。
・本書では、まずどういう手筋があるか、基本的な型を76型収録した。
 そして、その手筋がどういう状況で生ずるか、そのプロセスにもふれ、納得できるようにまとめてみたという。
(これらは手筋へのいわばスタートラインに過ぎない。本書が碁への理解を深め、上達の手助けになってくれることを願う)
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、2頁~3頁)

1章 攻めの基本手筋 1石を取る手筋 テーマ図第6型


【テーマ図第6型】黒番
・図柄は大きいが、そうむずかしい問題ではないという。
・いま白1と黒の二子を制した局面。
・黒としてはなんとか白△の要石を捉えたいが、どう打てばよいだろうか。

【1図】(失敗)
・黒1なら両アタリであるが、白2と要の石に脱出される。
・白4とノビキられると、左側の黒五子が被告にされる。
※明らかに失敗。いま一度考え直してほしい。

【2図】(正解)
・黒1と遠回しに囲うのが好手筋。
・次に黒2と切れば、要石が取れる。
・そこでもし白2とツゲば、黒3とハズして、白を包囲するのが好手。
➡これで白の三子は逃げられない。
※白aでも黒bからサエギられて手にならない。
 そのほかの手でも、白は逃げ出せないことを確認してほしい。

【3図】(正解―変化)
・黒1に、もう白2とカケツいできたら、どうなるだろう。
・黒はひとまず3とアテ。
・つづいて…

【4図】(ダメを詰める急所)
・白4のツギに黒5と頭をオサえるのが急所。
・白は6とハネても、黒7のアテを利かして、9とオサエれば、白は身動きができない。

【5図】(テーマ図の手順)
・白のケイマガカリに、黒1、3のツケ切りを打ったところから生じた。
※このツケ切りの手法は白に地を与えても、それに見合う外勢を求めるさいに有力となる。
・白4、6と決め、8とアテたところから変化したのだが、白20のツギに黒21と動き出され、白は慌ててaと二子を制したのが、テーマ図だった。
・しかし、白は黒21につづいてbとツギ、黒c、白d、黒eと決めてから、白aと二子を制すべきである。
※これはむずかしい戦いに突入する。
・したがって、その黒17では、

【6図】(簡明なワカレ)
・単に黒1とカカえ、白2と二子を取らせて、黒5までと打つ簡明な方法を採用できる。
・また、

【7図】(互角)
・5図白10で1とオサえ、黒8までと決めるのもあり、これでいい加減のワカレとなる。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、20頁~22頁)

1章 攻めの基本手筋 テーマ図第8型


【テーマ図第8型】黒番
・白1は一見筋に似て非。
※黒は白の欠陥を突いて、白を崩壊に導くきびしい手段がある。
 アマチュアの陥ち入りやすい安易な解決法が次図。

【1図】(失敗)
・黒1の出から5のカカエまで。
➡これで満足してはいけない。
・白6、8の追及がきびしく、左方の黒四子も弱体で、このあとの戦いが思いやられる。

【2図】(正解―第一の手筋)
※ここでは大切な手筋が四つ出てくる。
・黒1のサガリを利かすのが最初の手筋。
・つづいて、

【3図】(第二の手筋―ツケ)
・白2と黒のダメを詰めて、いっぱいに頑張ることは、十分考えられる。
・ここで黒3のツケが白の形を崩す急所になる。
➡この手筋もぜひ覚えてほしい。
※黒aと打てば、要の白二子が取れる急所に当たる。

【4図】(第三の手筋―オリキリ)
・白4とツイで頑張れば、黒5のハネを一本利かせ、白6と交換してから、黒7とサガるのが、三番目の手筋になる。
※このサガリがなにを意味しているかわかれば、この問題は卒業だろう。

【5図】(第四の手筋―カケ)
・白8の取りは仕方ない(次図参照)。
・ここまで交換しておいて、黒9とオサエ込んでいく。
・白10のとき、黒11とゲタにカケるのが、最後の手筋。
※白はaと脱出を試みても、黒bとオサえられて、脱出できないことは容易に確認できよう。
※では、白8がどうして必要かというと、

【6図】(追い落とし)
・4図につづいて、白1とみずからは脱出を図りながら、黒を取りにいくと、黒2の放り込みから、4とサシ込んで、白四子が落ちてしまう。

【7図】(テーマ図の手順)
・黒の両ガカリに白1と上ヅケしたところから生ずる定石。
・黒4の三々入りから、黒14までのとき、白15がミス。
※白aとマゲる一手だった。

(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、26頁~28頁)

1章 攻めの基本手筋 捨て石 テーマ図第3型


テーマ図第3型 黒番
・白が△にアテてきたところ。
・黒の一子は助からないが、捨て石に利用してほしい。

【1図】(無策)
・黒の一子を諦めるのは仕方がないとして、黒1とアテてしまうのはもったいない。
・当然白2の抜きとなるが、白の形がしっかりしたのに対して、黒の形は少しも整わない。
 かといって、黒aとノビるのでは後手になる。 
※こういう決め方で満足しているようでは、上達はおぼつかない。

【2図】(正解―まず二子に……)
※ここで≪二子にして捨てよ≫の格言を思い出してほしい。
・黒1のサガリがそれ。
・ただし黒3とアテて5のアテも利かして満足しているようではまだまだ未熟。
※白aの切り味も残り、黒bのオサエも先手にならないから。
※かといって、黒aとツグのでは後手をひく。

【3図】(三子にする)
・白2のとき、黒3のアテを決めるのが面白い手筋。
・つづいて―

【4図】(完封)
・白4とツゲば、そこでまず黒5のアテを利かし、黒7とツイで上方を厚くする。
・白8、10は仕方がない。
※なお、この形は黒aのアテが利くので、白bのハサミツケは成立しない。

【5図】(テーマ図の手順)
・白のケイマガカリに、黒1、3とツケ切るところから生じる。
※このツケ切りは白に地を与えて黒の厚みをつくる場合に使われる。
・したがって普通の状況では、黒3の切りで黒aとノビるものと覚えておいてほしい。

【6図】(白の反発)
・5図のあと、白が4図を嫌えば、白1とアテることも可能。
・黒2のアテ返し黒4とサシ込む変化となる。
・白aの切りの大コウが残るが、これは黒も怖いが、白も同様に怖い。

【7図】(黒、不満)黒10ツグ(8の右)
・だからといって、白1と黒2とツイでしまうと、白3、5とやってこられる。
・ここで黒6のアテに、白は8とツグわけもなく、白9とアテを利かされ、11とツガれてしまう。
※黒大いに不満。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、49頁~51頁)

1章 攻めの基本手筋5攻め合いの手筋


・「攻め合い」の勉強はひじょうに大切。
・勝てば相手の石が取れるし、負ければ自分の石が取られてしまうわけであるから、その出入り計算では大変な差になる。
・だから、まず攻め合いに入る前に、攻め合いになった場合のダメの数をかぞえておくことが必要。
・たとえば、相手の黒の石のダメは5つ、自軍の白のダメは4つとする。
 これは普通に攻め合ったら負けることは、火を見るより明らか。
 なんとか攻め合いを回避する方法を考えるほうが賢明。
・ところが、常識的には攻め合い負けのはずが、その攻め合いの形によっては、手筋を駆使して、逆に勝てる場合もある。
 その攻め合いの基本手筋をとりあげる。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、74頁)

5攻め合いの手筋テーマ図第1型


【テーマ図第1型】
・白が△にオサえた局面。
・黒には攻め合いに勝てる(右下の二子を助ける)手筋があるのだが、ぜひ発見してほしい。

【1図】(失敗-勝てない)
〇例によってます失敗から。
・≪攻め合いは外ダメから≫という格言もあるが、黒1のハネからでは、失敗に終わる。
・黒3、5で勝てそうに思えるが、その瞬間、白6のアテを利かす好手があって、白8までで負けとなる。
(各自確認のこと)

【2図】(正解―置きの手筋)
・黒1の置きがすばらしい手筋。
➡これさえ覚えておけば、あとは簡単。
※ただし、誤って黒aと置いてはいけない。
 白bと詰められて、黒二子を取られてしまう。
 置きは黒▲の二子に近いほうと記憶してほしい。

【3図】(解決)
・白2には黒3ハネで黒の勝ち(白aには黒b)。

【4図】(テーマ図の手順)
・黒1、3のツケ切りに、白は2から4とサガって、抵抗してきた。
・白6はこの際いささか無理。
・黒7のあと、白aとオサえたのが、テーマ図。
※その白6では―、

【5図】(黒、好調)黒6コウ取る(黒a)
・白1とカカえるくらいが相場。
・黒は2の切りから4と封じ込めるのがシメツケの手筋。
・白3以下9までと生きることになるが、黒の厚みが勝る。
※4図の手順中、白4が頑張り過ぎ。

【6図】(相場)
・白1とカカえて十分だった。
・黒は2、4と形を整えるくらい。
・白5とハネ、黒の一団への攻めをみることになろう。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、74頁~76頁)

5攻め合いの手筋テーマ図第2型


【テーマ図第2型】
・前型と同じ状況で、こんどは白Aでなく、白△にトンできた。
・一見手筋風であるが、黒はうまい手筋で、攻め合いに勝つことができる。

【1図】(失敗―押す手なし)
・黒1と出て、白の眼を奪うのは急所に似て非。
・白2とツガれると、攻め合いに勝てない。
・念のために、黒3、5とダメを詰めてみる。
・白6と詰められたところでよく見ると、黒はaからも、またbからもダメを詰めることができない。
➡いわゆる≪押す手なし≫黒の負け。

【2図】(正解―ワリ込みの手筋)
・黒1のワリ込みがうまい手筋。
・第一感では白aとカカえられて、まずそうであるが―。

【3図】(正解の証明)
・白2のカカエに、黒3とサガる妙手があった。
・黒5までで白は打つ手なし。
・たとえば白aとダメを詰めても、黒bでアタリ。
➡白はどうすることもできない。

【4図】(準正解)
・なお攻め合いに勝つだけなら、黒1の置きからいけばよろしい。
・白2、4がベストの抵抗で、黒aで白の二子が取れる。
・ただし、将来白bのツギの余地があり、3図には及ばない。
※途中、白2で白3とツグと、今度は黒aでなく黒bとコスミツけるのが手筋で、白4に黒cで白の負けとなる。
(各自確認)
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、77頁~78頁)

5攻め合いの手筋テーマ図第3型


【テーマ図第3型】黒番
・白としてはともかく白△のハネを一本利かしておきたい。
・そうした軽い気持ちでハネる人は多いと思う。
・ところが、これが打ち過ぎ。
・黒からきびしい反撃の手段があって、白に大きなダメージを与えることができる。
 では、どういう手段だろうか。

【1図】(失敗―チャンスを逃す)
・黒の一子を取られてはどうにもならない―と簡単に黒1とツグようでは、失格。
・白2と手を戻されて、何事も起こらない。

【2図】(正解―強手)
・黒1とオサエ込む手が成立。
※意外と思われるかもしれないが、このあとに出てくる手筋は応用の利くものであるから、ぜひとも頭の中にとどめておいてほしい。

【3図】(二子にして捨てる)
・当然、白は2と切ってくるはず。
・黒はひとまず3と二子にする。
・白4に黒5とアテ、白6と二子を取った形が次図。

【4図】(石塔シボリ)
・ここで、黒7の放り込みを打つ。
・ダメヅマリで、白11とはツゲないから、白8と取る一手。
・あとは黒9から11と順にダメを詰めていけば、白は7にツゲず、12とノビ出すくらい。
・黒13と三子が抜ける。
・次に白はaと逃げ出すことになるが、要の白三子が抜けては、黒成功。

【5図】(有利なコウ)
〇なお、途中黒11で、
・コウ争いに自信があれば、黒1とオサえて、全体の白を取りにいくこともできる。
・白は2のハネを一本利かして、コウで抵抗するより仕方がなく、黒7までコウになる。
※このコウは黒の取り番であるから、黒の有利なコウとみてよろしい。

【6図】(テーマ図の手順)
・白1のツケに黒2とハネ出したところから生じた形。
・黒8までは必然であるが、白9のハネは不用意だった。
・白aとカカえ、将来白9のハネをみるべきだろう。

【7図】(常法)
〇問題の黒2であるが、
・黒2と内からオサえ、黒4までとなるのが常法。
➡これなら互角だった。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、77頁~78頁)

5攻め合いの手筋テーマ図第4型


【テーマ図第4型】
〇これは攻め合いの手筋の基本中の基本。
 しっかり形を覚えてほしい。
・いま白が△にツイだところ。
・白Aの切りが気になるが、ひとまず白のダメの数を確認して、そのうえで攻め合いに勝てるかどうかを考えてほしい。
※一手誤ると、隅の黒三子は逆に取られてしまう。

【1図】(失敗―攻め合い負け)
・初級者は切りを恐れ、黒1とツグ人が少なくない。
・白に2、4と頑張られて、隅の黒は攻め合い負けになる。
※次に黒aでも、白bと眼をもたれ、メアリメナシであるから、黒は勝てない。
 黒cなら白d、黒eには白fで、黒から押す手なし。

【2図】(正解―ハネ)
〇では正解を。
・黒1とハネて万事解決。示されれば簡単。

【3図】(証明)
・白2と頑張ってみても、黒3のアテから5。
※白はaと切る暇がない。
※以上で、2図黒1のハネがいかに効果的か、わかったであろう。

【4図】(定石)
・黒1、3のツケノビから生じた。
・白4のコスミには、黒5のトビツケが最強。
・以下、白10までが定石。
※テーマ図はこのあと白aのノゾキから生じた。

【5図】(白、無謀)
・白1のノゾキはともかく、黒2のツギに白3と切ったのは、無理を通り越して、無謀というほかない。
・白7までで、テーマ図が完成。

【6図】(常法)
・前図白3の切りでは1とコスんで、黒2とツガせるところ。
・白3は必ずしもすぐハネるとは限らない。
※黒aからの反撃がきびしいから。
※したがって、白3では白bとヒラくくらいだろう。
※なお、5図黒2のツギは少々重い。

【7図】(黒の正しい応接)白8ツグ(3)
・黒1のオサエから3と切り込むのが好手筋。
・黒7のアテに、もし白8とツゲば、黒9からの攻めがきびしい。
・したがって、白8で白aとヒラくことになる。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、82頁~84頁)

5攻め合いの手筋テーマ図第5型


【テーマ図第5型】
・白が隅の手入れを怠っているので、黒からの手段がある。
・無条件とはいかないが、攻め合いで花見コウにもち込むことができる。
・ただし、手順を間違えないように注意してほしい。

【1図】(失敗―手順を誤る)
・黒1のサガリは急所の一つ。
・しかし、手順を誤った。白2とオサエ込まれては、攻め合いにはならない。
※黒aとアタリをかけても、白bとツガれてそれまで。

【2図】(正解―正しい手順)
・まず隅から黒1とオサエ。
・白2を待って、黒3とサガるのが正しい手順。
※次に黒aと詰められては、それまでであるから―

【3図】(放り込む手筋)
・白4とツグ一手であるが、ここで黒5と放り込むのが、なかなかの手。
・白6と取らせて、黒7とオサえれば、これは≪二段コウ≫と呼ばれるコウ争い。
※白aの詰めに黒5とコウを取り、さらに黒bと取って本コウであるから、解決までには手がかかる。
・しかし、黒にとっては花見コウ。
 もともと隅は白地だったと思えば、気の楽なコウといえる。

【4図】(テーマ図の手順)
・白3~7は無謀に近い打ち方。
・黒14まで黒の厚みが勝る。
・黒14のあと、白aが本手だった。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、85頁~86頁)

5攻め合いの手筋テーマ図第6型


【テーマ図第6型】
・この問題は大分むずかしい攻め合いの筋が含まれている。
・しかし攻め合いとしては、基本的な原理でもあるので、あえてとりあげておいた。
・普通は白△の二段バネは成立するのであるが、左方に黒▲の備えがある場合には危険。

【1図】(失敗―チャンスを逃す)
・おそらく実戦に出た場合、多くの読者は黒1のノビを考えるだろう。
※確かに穏やかな打ち方で悪くはならないが、実はせっかくのチャンスを逃している。

【2図】(正解)
・黒1の出から3と元を切る手が成立。
・そして黒5の切り。
・さらに―

【3図】(正解の続き)
・白6のツギを待って、黒7、9とハッていく。
➡ここではじめて攻め合いの問題が生じた。
・白10とオサエられ、果たしてこの黒は勝つことができるのだろうか。
※黒のダメはわずかに三手、そこで―

【4図】(シメツケの手筋)
・黒1の切り込みがきびしい手筋になる。
・黒3、5は前にも出た≪石塔シボリ≫の手順。
※このシメツケの手筋は攻め合いの際、しばしば活用されるはずであるから、しっかり頭の中にたたき込んでおいてほしい。
・白6の二子取りにつづいて―

【5図】(両バネ)
・黒1の放り込みから3とアテ。
※ここでよく見ると、黒のダメはいぜん三手であるが、白のダメは四手ある。
 したがってこのままでは黒は勝てないはず。
・ところが黒5のハネが先手で打てるのがミソ。
・白6と交換してから、黒7とハネ。
・この黒5と7とが両バネ。
※格言に≪両バネ一手延び≫というのがある。
 黒のダメは一見三手であるが、両バネで四手に延びている。
・白8と打ち欠いても、黒9で黒の勝ちがはっきりした。

【6図】(テーマ図の手順)
・黒▲がすでにあるという前提。
・この場合、白10の二段バネは打ち過ぎとなる。
・その10では、

【7図】(正着)
・白1とノるのが正着だった。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、87頁~89頁)

5攻め合いの手筋テーマ図第7型


【テーマ図第7型】
・隅を白が放置していたので、黒1と出て白2と交換した。
・下方の梅鉢形の白との攻め合いであるが、果たして結果はどうなるだろうか。
・この攻め合いは白黒双方に、好手筋が内蔵されていて、なかなかやっかい。
 コウ含みであるが、黒の有利な攻め合いにもち込みたいものである。

【1図】(失敗―黒、無条件負け)
・初級者のほとんどは、黒1のオサエ込みを考えたはず。
・これには白2の腹ヅケが有力。
・ただし、黒3では白4で、簡単に負けてしまう。

【2図】(白、取り番のコウ)白8コウ取る(4)
・1図黒3で、1とサガリ、白2に黒3とマゲる強手があった。
・白は4と放り込むのが好手。
・白8まで白の取り番のコウになった。
※黒はコウにもち込んだが、やや不利なコウ。

【3図】(正解-コスミの手筋)
・黒1のコスミがこうした形でのうまい手筋になる。

【4図】(黒、余裕のあるコウ)
・白2から6と頑張る手はあるが、黒7と取って、黒の楽なコウ。
・白はいま一手aとダメを詰めて、はじめて本コウ。つまり≪一手ヨセコウ≫というわけである。
・なお、途中黒5に白bと抜くと、黒cで、これは黒の攻め合い勝ちになる。
・したがって、白は次図で―

【5図】(白の危険なコウ)
・白1のアテから3と打つコウも考えられる。
※黒aと抜いてコウであるが、これは白がコウに負けたときの被害が大き過ぎて問題。
いずれにしても、白の有利なコウは考えられない。
 3図黒1のコスミが好手筋といわれるゆえん。

【6図】(テーマ図の手順)白10ツグ(5)
〇ではテーマ図の手順を示しておく。
・黒1のボウシから生ずる変化で、中盤の定石といわれるもの。
・白2に黒3のツケから5と切り込むのが手筋で、以下黒11までの手順をへて、次に黒a、白bが加わったのがテーマ図。
・なお―

【7図】(本手)
・黒1のオサエには白2の手入れが本手。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、90頁~92頁)

2章 攻めの基本手筋 3サバキの手筋


・相手から攻撃を受けたときなど、じょうずに処理して苦境を打開する――これがサバキである。
・弱い石が攻められた場合、ただ逃げることだけを考えるようでは強くなれない。
・一般に「サバキにはツケ」とか「サバキはツケ切りで」などといわれている。
 これらはサバキのテクニックの一面を表現している。
・状況に応じて、たとえば一部の石を捨て石にして、本体を安全に導くなど、いろいろな方法がある。
・そうした巧みにサバく手筋を身につけていれば、いかなる根拠に立たされても、怖いものはなくなる。
・比較的多く実戦に生ずるサバキの基本例を6型とりあげてみた。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、160頁)

2章 攻めの基本手筋 3サバキの手筋 第1型


【テーマ図】第1型 黒番
・星定石にしばしば生ずる形。
・白が△に打ち込んできたところであるが、黒は分断された二子をどうサバいたらよいだろう。
・例によって、まず失敗図から。

【1図】(失敗Ⅰ――不利な戦い)
・平凡に黒1とトンで逃げ出すようでは、白2とコスまれて、黒は二分される。
※黒aとツケて動き出すことはできるが、黒は弱石を二つ抱え、そのシノギは容易ではない。
・いま一つ疑問の手は――

【2図】(失敗Ⅱ――白の実利大)
・黒1の上ツケ。
・白は2のハネ出しから、普通に白8までと決め、黒の一子(▲)を手中にして、その実利はかなりのもの。
・黒9で治まったものの、白の利益には及ばない。

【3図】(正解――下ツケの手筋)
・黒としては1と、下にツケるのがうまいサバキの手筋になる。

【4図】(変化)
・白は1とハネ出し、黒6のとき白7と切るのが、常法ながら強手。
・白9抜きにつづいて、黒には二通りの打ち方が考えられる。

【5図】(黒、実利を重視)
・黒が1のツケから7までと実利を稼ぐのがその一つ。
・また――、

【6図】(利き筋を残す)
・4図につづいて黒1とサガリ、白2と受けさせるのも有力。
・白4で黒三子は助からないが、まず黒5のアテを利かせ、黒7と整形。
※これはいずれ黒aのコウ狙い、黒bのサガリが利き筋で、右方の白を攻めるには強力。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、160頁~162頁)

2章 攻めの基本手筋 3サバキの手筋 第2型


【テーマ図】第2型 黒番
・白と黒との競り合いであるが、白1とノビるのが一つの手筋。
・黒はピンチに立たされているが、どうサバいたらいいだろう。
・まず失敗図から。

【1図】(黒、やや不満)
・白aのカカエを避けるために、黒1のサガリ。
・しかしこれでは白6まで、黒の二子を取られて、不十分。
※一見利かしたようだが、二子を打ち抜いた白の形は厚過ぎる。

【2図】(正解――腹ヅケの手筋)
・黒1とツケるのが≪2の二≫の急所。
 いわゆる≪腹ヅケ≫と呼ばれる好手筋。
※白は隅の二子を助ける打ち方もある(4図参照)が、普通は――

【3図】(変化Ⅰ)
・白2とアテるところ。
・黒3で隅の白二子を手中にすることができた。
・黒3につづいて、白はaから黒b、白cとするか、あるいは黒3のあと白dから決めて、上方に厚みを築くか、選択の権利はある。

【4図】(変化Ⅱ)
・黒1の腹ヅケに、白が隅の二子を助けて戦うには、白2とアテ、4とツギ。
・黒は5と二子を動かし、白6以下、黒13までの戦いに入る。
※3図をとるか4図を選ぶかは、周囲の状況による。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、163頁~164頁)

2章 攻めの基本手筋 3サバキの手筋 第3型


【テーマ図】第3型 黒番
・前型とは白石、黒石の配置が反対になっている。
・その時は黒A(前型では白)とノビたが、黒はほかにいま一つうまい手筋がある。
 その手筋を発見してほしい。
【1図】(失敗――俗手)
・初級者だと、ほとんどの人が黒1、3を考えたはず。
・そして、黒5以下13まで。
※大変な厚みを築いたようだが、白14と押し上げられると、厚みはさほど働きそうもない。
 それになによりも隅の損が大き過ぎて、失敗図といえる。

【2図】(正解――腹ヅケの手筋)
・黒1のツケ。
※前型とは少々異なるが、これがうまいサバキの手筋。
・黒aと取らせるわけにはいかないので、

【3図】(黒、サバく)
・白2と逃げ出せば、黒は3の押しを一本打って、黒5と一子をカカエる。
※しかし、これで一段落というわけにはいかない。
・このあと――、

【4図】(白の抵抗)
・白1とサガリ、3と切る鋭い手筋。
※ここまでを見て、どういう変化になるか、また白は何を意図しているのかわかれば、たいへんな上達。

【5図】(互角)黒10ツグ(8の左)
・前図につづいて、黒4と二子を取るくらいが相場。
※黒aなどとマゲると、白6のシチョウで黒二子が取られてしまう。
・白はそこで5とカケる。これがまたうまい手筋。
・黒6の抵抗に、以下白9までとシメツける。
※白も下方の四子を犠牲にして、うまくシメツケることに成功。
 このワカレはいい加減のものといえる。

【6図】(テーマ図の手順)
・星の黒に白1とカカり、3、5と切り違えたところから生じた。
・なおその白7で、

【7図】(白、失敗)
・白1とノビ、3とハネるのは黒4と打たれ、aの切りとbの取りを見合いにされて、失敗。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、163頁~164頁)

3章 攻めの基本手筋 3ヨセの手筋 テーマ図第4型


【テーマ図・第4型】黒番
・この白の形を一見しただけで、多くの読者は、「ああこれか」と、ピンときたことと思う。
・この白に対して、黒はどうヨセるのが正しいか――というのがテーマである。

【1図】(失敗Ⅰ―凡手)
・おそらく実戦では、黒1とツイでヨセる人が多いはず。
・白はむろん2と整形する。
※黒aに白bツギが先手で利くとしても、これで白地が6目できてしまう。
 また中には、……

【2図】(失敗Ⅱ―余計な手)
・黒1と放り込み、そこで3、5と余計なことを考えている人もあるかもしれない。
・これは手がないばかりでなく、1図よりもさらに2目損をしてしまった。

〇では正しい手筋を示そう。
【3図】(正解―置きの手筋)
・黒1の置きからいくのが、正解。

【4図】(白、大損)
・もし、白2と受ければ、そこで黒3と根元をツギ。
・白4は仕方ない。
※それで白7とツグと、黒aアタリ、白5ツギ、黒4ツギで、中手三目の死形となってしまうから。
・白6で生きであるが、黒7と三子を抜かれては白地よりも、黒の得た利益のほうが大きい。

【5図】(セキ)
・白は2とツキアタリ、黒3ツギに白4とツイで、以下黒7まで。
※これは一見≪隅のマガリ四目≫と錯覚しそうであるが、まぎれもなくセキ。
※地としてはゼロ目であるが、4図より1目得という計算になる。
 つまり、この白2と打ちセキにするほうが、正しいというわけである。

【6図】(テーマ図の手順)
・黒の星から大ゲイマにヒラいた構えのところに、白1と三々に入ったところから生じる変化。
・白が15とカケツいだ場合には、黒16とカケツいでおく。
・またその白15で、……

【7図】(固ツギの場合)
・1と固くツイだ場合は、黒2の固ツギで、aの欠陥を補う。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、217頁~219頁)



≪囲碁の手筋~小林覚氏の場合≫

2025-01-12 18:00:03 | 囲碁の話
≪囲碁の手筋~小林覚氏の場合≫
(2025年1月12日)

【はじめに】


 1月5日(日)は囲碁の日だそうだ。
 その日、日本棋院で「令和7年打ち初め式」を開催されて、You Tubeでその模様が配信されていた。年頭の挨拶をさた武宮陽光理事長が、去年は日本棋院創立百周年に当たっていたが、3つの大きな出来事があったとする。
①一力遼棋聖の世界戦応氏杯優勝(日本としては19年ぶりの悲願)
②上野愛咲美立葵杯の呉清源杯優勝
③ノーベル化学賞受賞者でアルファ碁の開発者であるデミス・ハサビス氏の来院
 巳年生まれの武宮理事長は、ヘビは脱皮を繰り返し、再生と成長というポジティブな意味があることを強調し、101年目の日本棋院の発展を祈願しておられた。
 続いて、昨年、話題になった草彅剛主演の映画「碁盤斬り」の脚本家・加藤正人氏が、祝賀の挨拶をされた。
 その後、棋士の年頭の挨拶があり、新年記念対局として、リレー方式での対局(連碁)が行われた。男女3人ずつ(1人20手)のチームに分かれて、打ち初めが開始され、福岡航太朗竜星が初手天元を打ち、会場を沸かせていた。
 折しも、1月5日(日)のNHK杯は、井山裕太王座と河野臨九段の力戦が繰り広げられていた。

 さて、今回のブログでは、囲碁の手筋について、次の著作を参考にして考えてみたい。
〇小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]
 本日、1月12日(日)の「囲碁フォーカス」においても、小林覚九段が出演されていた。
(小林覚九段は、武宮陽光理事長が就任する前の理事長であった)
 今年2025年は、昭和100年に相当するようで、「私の愛するあの一局」と題して、昭和の思い出深い対局を紹介するという企画であった。小林九段が若き時に薫陶を受けた梶原武雄九段の棋譜から「梶原定石」について解説されていた。梶原九段は「序盤は学問」という信念をお持ちだったようで、捨て石作戦を含む「梶原定石」を用いた対局を小林九段は取り上げておられた。それは、昭和59年の十段戦で、梶原武雄(黒)vs橋本昌二の対局であった。
(小林九段の青年時代の写真も紹介されており、パーマの髪型に“時代”を感じた)
 今回は、その小林覚九段が執筆された「はじめて」シリーズでも、手筋について解説した本を紹介してみたい。
 また、影山利郎氏の『素人と玄人(日本棋院アーカイブ③)』の手筋の解説も付記してみた。手筋の中でも、とりわけウッテガエシについて紹介しておく。

 ところで、「令和7年打ち初め式」の壇上で、芝野虎丸九段も挨拶をされていた。理事長の巳年の話を受けて、去年は自分にとって余りいい1年ではなかったが、ヘビは脱皮を繰り返して成長する生き物だそうで、見習って、去年の記憶を脱ぎ捨てて今年1年頑張りたいという。
 影山利郎氏も、その著作の中で、「脱皮」について言及しておられた。
相当ひどい筋悪の碁を打っている人は、この手筋の章、特に念入りに勉強の要あり。そして、早く筋の悪さから脱皮しなされと。(192頁)

 DAPPY NEW YEAR!(ダッピー・ニュー・イヤー;ダッピー=脱皮ー)が巷間で流行っているとか、いないとか。
 とにかく、私も、今年は囲碁力を養って、脱皮、成長してゆきたい。

【小林覚(こばやし さとる)氏のプロフィール】
・昭和34年、長野で生まれる。
・昭和41年、木谷実九段に入門。昭和49年入段、昭和62年九段。
・昭和55、56年第4、5期留園杯連続優勝。
・昭和57年第13期新鋭戦優勝。
・昭和62年第2期NEC俊英戦優勝。
・平成2年第3期IBM杯優勝。
・平成2年第15から17期まで、三期連続で小林光一碁聖に挑戦。
・平成6年第19期棋聖戦九段戦優勝。
・平成7年第19期棋聖戦七番勝負で趙治勲棋聖に挑戦。四勝二敗で破り、棋聖位を奪取。
・同年第42回NHK杯戦初優勝。同年第20期碁聖位。
・平成8年第5期竜星戦優勝。

※兄弟は四人とも棋士。小林千寿五段、健二六段、隆之準棋士二段、姉弟の末弟。
<著書>
・『初段の壁を破る発想転換法』(棋苑図書ブックス)
・『はじめての基本手筋』(棋苑図書基本双書)
・『はじめての基本定石』(棋苑図書基本双書)
・『はじめての基本死活』(棋苑図書基本双書)



【小林覚『はじめての基本手筋』(棋苑図書)はこちらから】



〇小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]
本書の目次は次のようになっている。
【もくじ】
はじめに
第1章 はじめての手筋は石取り
 1 取れる石は取ろう
 2 シチョウ
 3 ゲタ
 4 オイオトシ
 5 ウッテガエシ

第2章 連絡の形と手筋
 1 連絡した石は強い
 2 連絡の基本の形
 3 連絡の基本手筋

第3章 石を取る基本手筋(34問題)
 基本の積み重ねが大切
 第1題 オイオトシ
 第2題 例の筋
 第3題 ホウリコミの場所
第4題 危地からの生還
 第5題 一刻の猶予なし
 第6題 常用のテクニック
 第7題 一手目が肝心
第8題 弱点だらけ
 第9題 ゲタの基本形
 第10題 カナメを取る
 第11題 連絡に弱点あり
第12題 ヨミ不足だ
 第13題 手筋一発
 第14題 ダメヅマリ
 第15題 オイオトシの好手順
第16題 素直に取る
 第17題 無条件で取れる
 第18題 一手目が勝負
 第19題 本隊のダメをつめる
第20題 黒1は悪手だ
 第21題 手筋の出動
 第22題 カナメを取る筋
 第23題 最後はゲタの筋
第24題 ヨミ不足だ
 第25題 アガキの証明
 第26題 内部の急所攻め
 第27題 一手目が肝心
 第28題 決め手
第29題 有言実行
第30題 基本の積み重ね 
第31題 隅と握手
 第32題 複雑な形
第33題 手筋の出番
 第34題 弱点はダメヅマリ

第4章 腕だめしの基本手筋(32問題)
 一に基本、二に基本
 第35題 連絡の綱わたり
 第36題 獅子身中の虫
 第37題 手筋の証明
第38題 折り込み済み
 第39題 筋ちがい
 第40題 天国と地獄
 第41題 隅の基本手筋
第42題 目がキラリ
 第43題 コウの筋
 第44題 オリキリ活用の筋
 第45題 鋭い手筋の継承
第46題 重大な欠陥
 第47題 オイオトシの筋
 第48題 上級者の仲間?
 第49題 トントン
第50題 好手筋
 第51題 有段の手筋
 第52題 連絡の好手順
 第53題 勝手ヨミだ
第54題 手筋の継承
 第55題 コウ手段あり
 第56題 連絡の基本形
 第57題 オリキリが働く
第58題 巧妙な連絡の形
 第59題 コスミ一発の証明
 第60題 腕しだい
 第61題 ゲタの発見
第62題 深ヨミのゲタ
 第63題 「二の二」の急所
 第64題 ダメヅマリ全開
 第65題 すばらしい手筋
第66題 基本の基本手筋




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・はじめに
・第1章 はじめての手筋は石取り 5 ウッテガエシ
・第3章 石を取る基本手筋 第1題 オイオトシ
・第3章 第21題 手筋の出動
・第3章 第26題 内部の急所攻め
・第4章 腕だめしの基本手筋 第35題 連絡の綱わたり
・第4章 第47題 オイオトシの筋
・第4章 第49題 トントン
・第4章 第54題 手筋の継承
・第4章 第59題 コスミ一発の証明
・第4章 第64題 ダメヅマリ全開
・【補足】影山利郎氏による手筋の解説~影山利郎『素人と玄人』より




はじめに


・初段前後の人のための棋書は多いのに、初級や中級の人にふさわしい本が少ない。
 初級や中級の人がどの分野から入っていくのが一番効果的な上達法を考えた。
 布石、定石、手筋、死活などさまざまな領域がある。考えた末、やはり手筋の勉強から入るのが効果的な上達法ではないかという結論に至った。

・その理由は?
 入門後しばらくの間は石取りのおもしろさに取りつかれているから。
 いうまでもなく囲碁は陣地の多少を争うゲームであるが、そのプロセスでは戦いが何度となく起こる。その戦いの本質は石取りともいえるから、石取りに関心を持ち、おもしろがるのは当然といえば当然。

・著者の考えでは、石取りの基本手筋を習熟すればアマ初段だという。
 とすれば、初級や中級の人が早く上達して初段に到達するためには、一番関心の深い石取りの基本の基本手筋を身につけ、「手筋とは何か」をしっかり理解するのが大切。
 石取りの基本手筋を勉強して、「なるほど手筋の威力とはこんなに強力なのか」がわかってくれば、実戦でもだんだん応用できるようになる。

・本書は初級・中級の人が基本の基本手筋を積み重ね、初段の基礎固めとなる手筋を実戦でも使いこなせるようになるのを、主たる目的に構成したという。
(むろん、上級の人が石取りの基本手筋を再認識するのにも役立つはず)
高度な手筋よりも、まずは基本。基本がわかれば骨格が太くなり、より早くより本格的に上達できるから。
 本書は前半で石取りの基本手筋を解説している。また、石を取られないためには、連絡の基本手筋を知っておくと便利だから、その手筋を簡明に説明したという。
 そして、後半は石を取る手筋を問題形式で構成している。

・「石取りの手筋」は手筋の原形。したがって、手筋や石の効率的働きとは何か、を理解する好材料である。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、3頁~4頁)

第1章 はじめての手筋は石取り 5 ウッテガエシ


第1章 はじめての手筋は石取り 5 ウッテガエシ
【第1型・黒番】
・白△六子は黒にべったりくっついている。
※こうした形を「ダメヅマリになっている」などという。
 オイオトシや、これから説明するウッテガエシが成立するのは、こうしたダメヅマリになっているときだけである。
≪棋譜≫ウッテガエシ第1型、52頁

【1図】(常用の手筋)
・黒1のホウリコミがオイオトシに導く常用の手筋。
・白2と取らせて、

【2図】(オイオトシ)
・黒1のオイオトシがヨミ筋。

【3図】(不発)
・黒1のホウリコミはソッポ。
・白2のツギが好手で、オイオトシ不発。

【4図】(白の変化)
・黒1に白aの取りで、白2とツイでくることも考えられる。

【5図】(ウッテガエシ)
・こんどは黒1のウッテガエシの筋にハマっている。
・白2と取ったあとの状態が、白アタリになっている。
したがって、黒からウッテガエシ完了に。

※オイオトシの筋と同じで、相手に取らせるのがウッテガエシに持ち込む手筋
 ウッテガエシの筋にハマると、取ってもアタリの状態になってしまうので、どうしようもなくなる。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、52頁~59頁)

第3章 石を取る基本手筋 第1題 オイオトシ


【第1題 オイオトシ】(黒番)
・黒数子は、隅だけでは生きるスペースがない。
 つぎに黒Aは白B。隅では一眼しか作れない。
・幸い、白はダメヅマリ。オイオトシの常用手筋で、白△を取ることができる。
 一手目が大切!

〇ホウリコミが手筋
【1図】(失敗Ⅰ)
・単純に黒1とアタリしては万事休す。
・白2にツガれて、どうにもならない。黒の取られ確定。

【2図】(失敗Ⅱ)
・オイオトシはホウリコミが常用の手筋になる。
・といっても、黒1はソッポのホウリコミ。
・白2で失敗する。

【3図】(正解)
・黒1が急所のホウリコミ。オイオトシに導く。
・白2と取るほかない。

【4図】(オイオトシ)
・そこで、黒1のアタリが正しいヨミ筋。
・つぎに白aは黒b。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、89頁~90頁)

第21題 手筋の出動

第3章 石を取る基本手筋 第21題 手筋の出動


【第21題 手筋の出動】(黒番)
・白四子と黒二子が攻めあいになっている。
・常識的にはつぎにアタリにされる黒の取られ。
 その常識をひっくり返するためには、手筋の出動しかない。
・みなさんには手筋の次の一手が見えるだろうか。

〇第一線コスミの筋
【1図】(失敗Ⅰ)
・単純にダメを詰めるのは攻めあいの手筋知らずだろう。
・白2のアタリでアウト。

【2図】(失敗Ⅱ)
・また、黒1とサガるのも白2、黒3までセキ。
※黒1が本隊のダメを詰めていないので、セキに持ち込まれたのである。

【3図】(正解)
・黒1の第一線のコスミが攻めあいに勝つ常用のテクニック。
※黒1は実戦でよく使われる基本手筋。

【4図】(一手勝ち)
・つぎに白1は黒2。
・白aと打てないので白1のほかなく、黒2のアタリで一手勝ち。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、129頁~130頁)

第26題 内部の急所攻め

第3章 石を取る基本手筋 第26題 内部の急所攻め


【第26題 内部の急所攻め】(黒番)
・この形を見て「ハハーン、あの筋だな」と気付いた人は初級や中級の域を超えている。
・例の筋とはウッテガエシ。
・一手目、白の内部の急所攻め。

〇ウッテガエシの筋
【1図】(失敗)
・黒1などとアタリしても、白2とツガれ、後続の攻め手に窮してしまう。
・つぎに黒aは白b。白は無傷の生き。

【2図】(正解)
・黒1が黒aとbのウッテガエシの筋を見合いにした急所攻め。

【3図】(ダメヅマリ)
・白は猛烈なダメヅマリ。
・白1と打ちたいのだが、白1はアタリになってしまい、黒2と取られ。
※白1でaも黒b。

【4図】(ウッテガエシ)
・といって、白1は黒2。
※白1で2も黒1のウッテガエシの筋。
※黒2を打たなくても白は二眼ないが、ウッテガエシの証明である。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、139頁~140頁)

第4章 第35題 連絡の綱わたり 2025年1月5日

第4章 腕だめしの基本手筋 第35題 連絡の綱わたり


【第35題 連絡の綱わたり】(黒番)
・腕だめしといっても、基本の手筋ばかり。
・基本の基本さえ本当にわかっていれば、難問はない。
・まずは連絡、ワタリの基本形から。
 黒三子を連絡する綱わたりを問う。

〇コスミが基本
【1図】(失敗)
・黒▲のサガリサガリの真ん中、黒1はワタリの筋ちがいになる。
・白2のツケコシが筋ちがいのとがめかた、好手。

【2図】(ワタリ失敗)
・結局、黒1、白2となり、ワタリ失敗。
※黒1で2は白1と大きく取られるので、黒1は仕方がない。

【3図】(正解)
・黒1、あるいは黒1でaが連絡の基本形。

【4図】(連絡)
・こんどは白2に黒3で連絡。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、159頁~160頁)

第4章 第47題 オイオトシの筋


【第47題 オイオトシの筋】(黒番)
・黒の大石は一眼しかない。しかし、黒▲の一子が働き、オイオトシの筋に持ち込む常用のテクニックがあり、隅の白三子を取ってシノげる。

〇捨て石からオイオトシ
【1図】(失敗)
※オイオトシはホウリコミの捨て石が常用の手筋。
・というわけで、黒1。
・しかし、白2とツガれて、後続手がなくなる。

【2図】(正解)
・黒1と二子にして取らせるがオイオトシに導く第一歩。
・白2のとき、

【3図】(ヨミ筋)
・さらに黒1とホウリコむのがヨミ筋。
・白2に黒3が最善。
・白4の取りなら、黒は手抜きで隅の白がオイオトシ!

【4図】(オイオトシ)
・すなわち、白aと手入れしたとき、黒bと打てばよい。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、183頁~184頁)

第4章 第49題 トントン


【第49題 トントン】(黒番)
・これまた、第1章で解説したオイオトシの筋。
・この形も実戦にしばしばあらわれる。
・一手目が捨て石の筋。あとは一本道。トントンとオイオトシに持ち込む。

〇切り込む筋
【1図】(失敗Ⅰ)
・単純な攻め、黒1は白2と急所をツガれて、万事休す。

【2図】(失敗Ⅱ)
・また黒1も、つぎに白aなら黒2であるが、白2と急所をツイでくるに決まっている。
・さらに黒1でbも白2。
※この形は2のところが攻防の急所なっているのがわかる。

【3図】(正解)
・黒1の切り込みから3のアタリが常用の筋
・白4のとき、

【4図】(オイオトシ)
・黒1でオイオトシ完了。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、187頁~188頁)

第4章 第54題 手筋の継承


【第54題 手筋の継承】(黒番)
・黒1のハネコミは手筋。
・白2と受けさせ、ここでウッテガエシの筋に持ち込もうというのである。
・黒1、白2を継承するウッテガエシの手筋とは?

〇ウッテガエシの筋
【1図】(失敗)
・ウッテガエシの筋が見えない人は黒1とツイでしまいそう。
・黒1は白2のシチョウか、白aのツギか。白2でも白aでも黒の失敗は明白。

【2図】(正解)
・黒1がウッテガエシをふくみにした基本手筋。
・白2のツギのとき、黒aは白bとツガれてしまうから。

【3図】(ウッテガエシ)
・黒1とウッテガエシで取る。
・つぎに白2と取っても、

【4図】(取れる)
・黒1と取れる。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、197頁~198頁)

第4章 第59題 コスミ一発の証明


【第59題 コスミ一発の証明】(黒番)
・こうした形は黒1のコスミが石の筋。
 黒1のコスミ一発で白四子が身動きできなくなっている。
・とはいえ、取ったという証明をしなければいけない。
 白2の抵抗は?
※ウッテガエシの筋でトドメを刺す。

〇ウッテガエシの筋
【1図】(失敗Ⅰ)
・黒1のハネは軽率な打ちかた。
・白2、4が見え見え。逆に、取られてしまう。

【2図】(失敗Ⅱ)
・また、黒1も白2のアテから4。
・この場合は白6、8までで取られ。

【3図】(正解)
・黒1のワリコミが白四子のダメヅマリをつく筋。
※ウッテガエシがヨミ筋。

【4図】(ウッテガエシ)
・ついで、白1、黒2のウッテガエシ。
※黒2でaと打っても白四子を取れるが、黒2の場合はつぎにbと打てる。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、207頁~208頁)

第4章 第64題 ダメヅマリ全開


【第64題 ダメヅマリ全開】(黒番)
・上辺の白は連絡しているように思えるが、見る人が見れば違った判断をする。
・白はダメヅマリだ。
 オイオトシの筋で白石を取り、隅の黒三子を救出できる。
 こう判断する。
・一手目が肝心。白のダメヅマリを全開にする。

〇オイオトシの筋
【1図】(失敗)
・まず、黒1でaは白2で万事休す。
・また、黒1、3も白4。
※白のダメヅマリをとがめていない。黒三子は取られ確定。

【2図】(正解)
・黒1は気付きにくい一手であるが、白のダメヅマリ全開。
・もう白△三子は助からない。
※黒1に白の応手はaかbか。

【3図】(オイオトシ)
・まず、白1は黒2のホウリコミが常用のオイオトシのテクニック。
・白3は黒4まで。

【4図】(同様)
・また、白1は黒2、4である。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、217頁~218頁)

【補足】影山利郎氏による手筋の解説~影山利郎『素人と玄人』より


 影山利郎氏も次の著作において、手筋およびウッテガエシについて解説している。
〇影山利郎『素人と玄人(日本棋院アーカイブ③)』日本棋院、2013年

手筋については、「第10章 手筋」(189頁~242頁)において、次の手筋を取り上げている。
 1ウッテガエシ 2オイオトシ 3グルグルマワシ 4オキ 5ツケ 6石の下
 ここでは、ウッテガエシについての解説を紹介しておこう。
 まず、手筋については、次のように述べている。

・あの人の碁は筋がいい。筋がいい碁だから、近い将来あの人は強くなるにちがいない。
 こんな話はよくきく。筋とは一体何なのだろう。
・手筋とは、碁の手段のうえでの技、とでも申せば当たらずとも遠からず。
 その手筋が良ければ、将来性大いにあり。

・となるとこれは、あだやおろそかにはできないということになる。
(だが、その代表的な基本手筋を御紹介するだけでもかなりのページ数を必要とし、少し丁寧に書きだせば1冊の単行本ぐらい楽に材料は余っている。ここでは限られた余白で、できるかぎり簡潔に、要点重視の影山流にとりまとめていくつもりである。)

【ウッテガエシ(打って返し)】
・「ウッテガエシとは何か」と人問わば、朝日ににおう快手筋かな。
 さよう。すでにして、これは手筋以外のなにものでもない。
 にもかかわらず、少々強くなってくれば、これはもう初歩の術語ぐらいにしか思わず、軽視しがちなものである。
 そこで例によって、この誰でも知っている「ウッテガエシ」の筋の重要性を改めてじゅんじゅんと説こうとするものである。

【1図】
・黒の大ゲイマの構えに白1と三々入りをし、以下黒14までは衆知の一型にすぎない。
・黒14とがっちり白を取りきって黒の外壁は完成する。
・黒14は本手である。
※が、碁によっては、このような本手を打っている暇のないときもあって、黒14でここを手抜きして他の好点にむかう。
 そういうときも間々あるものだ。そのとき、何がおこった?

【2図】
・白1と活動開始は当然。
・黒2、かたちからみて当然とみえる。
 逆に白2を占められる差である。
 この追撃が実は大変な悪手なのだが、対局両者は気付かない。

【3図】
・ほとんどノータイムで白3と一間にトンだが、黒4から黒6となって白さっぱりつまらない。
・いかにお世辞をうまく言えといったって、黒▲の悪手をとがめたなどとは、いえようはずもない。
※もっともっと、ここは「かたちの急所」を深刻にみつめるところだったのである。

【4図】
〇白先でどう打つか考えるとき――
・白aがすぐ目につく人、そういう人は自分の碁、相当ひどい筋悪の碁だと思って間違いない。
(この手筋の章、特に念入りに勉強の要あり。そして、早く筋の悪さから脱皮しなされ。
 筋が悪いなど先天的なもので、不治の病かなんぞのごとくにみられがちだが、そんなことはない。この章をじっくり勉強なさい。)
・ところで、白b、黒a、白cといわゆる団子にシボることをすぐ思いうかべる人、その人は筋が良いのである。だからといって、先をみずにそれを決行すれば――

【5図】
・黒6までとなり、3図と大同小異の結果と相成る。
※時と場合によって、手筋も軽率のそしりをまぬがれない手となるのだ。

【6図】
・白1のコスミツケ、これがウッテガエシの筋をにらんで好手となる。
・しかも、この場合は黒2のツギのとき、第二弾白3の強手が炸裂するとあって、黒たまったものではない。
・この後、黒aなら白bと抵抗し、どのように黒打つとも、黒の一団は取られる悲劇を避けられない。
 もし黒がこの後、活路をきりひらいたとしたら、それは、よほど白がまずいことをやったときだけだ。
・この白1を――

【7図】
・俗悪の白1にかえてみれば、その差のあまりの大きさに驚くばかりであろう。
※この両図を比較して、どこがどう違うかを自ら開眼するまでよくよく検討し、自らの筋の悪さを直していくよう心掛けねばならないのである。

【8図】
〇話を元に戻して――
・白1のとき、黒2とこんなところへナラんで打つ手が、絶対の一手となる。
・“敵の急所は我が急所”
・だが黒2のような手は、何か石の働きに乏しく気のきかない手のように素人はおもう。
※石の働きを求めてやまぬ強い人たちは、できるかぎり石を離して打とうとする。それが急所を見失う因となるようだ。

・黒2で黒a、時にはそれも強手となることあれど、この場合は白2、これで黒窮する。
・黒4以下は周囲の状況如何で、戦いはどうなるか判らないが、とにかく白3までは絶対手順のようだ。
・こういう形態は一にこれにとどまらず、例えば一間高ガカリの定石で――

【9図】
・白1以下黒10までとなるとき、白11が前例と全く同系のもので、これらは一隅の戦いのみならず、中盤侵分の段階でもみられるものだ。
(影山利郎『素人と玄人』日本棋院、2013年、)190頁~194頁)

【10図】(第1問)
・黒先、白△四石を取れますか?
※問題として出せばなんの雑作もないこと。
 容易に正解はだせると思うが、さて実戦でこれが容易かどうか?
 問題ならできても実戦ではできないという人が多いが、それはおかしい。

【11図】(第2問)
・白先、黒を分断して、右方黒数石を取ってください。
(影山利郎『素人と玄人』日本棋院、2013年、)194頁)



≪囲碁の手筋について プロローグ≫

2025-01-05 18:00:03 | 漢字について
≪囲碁の手筋について プロローグ≫
(2025年1月5日投稿)

【はじめに】


 今年のブログ記事の予定として、囲碁の手筋や死活に関する記事を投稿してみたいと記した。そして、次のような手筋に関する参考文献を掲げておいた。
 次回から、それぞれの本を紹介していくにあたり、今回はまず「手筋」とは何かについて述べ、プロローグとしたい。

<手筋>
〇小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]
〇加藤正夫『NHK囲碁シリーズ 明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年
〇結城聡『囲碁 結城聡の手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年
〇大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法―意外な急所がどんどんわかる』誠文堂新光社、2014年
〇白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年
〇工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]
〇依田紀基『囲碁 サバキの最強手筋 初段・二段・三段』成美堂出版、2004年
〇原幸子編『新・早わかり 手筋小事典 目で覚える戦いのコツ』日本棋院、1993年[2019年版]
〇溝上知親『アマの知らない実戦手筋 利き筋の考え方』毎日コミュニケーションズ、2009年
〇藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]
〇藤沢秀行『基本手筋事典 下(序盤・終盤の部)』日本棋院、1978年
〇山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年

 さて、囲碁の手筋とは何かと問われた場合、その答えは著者によってまちまちである。
 それは、おそらく読者の棋力によって、著者がいろいろと工夫して表現しておられるからであろう。
 例えば、事典によれば、囲碁の手筋とは、最も効率よく石を働かせた着手をいう
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、3頁)
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、3頁)
 また、藤沢秀行氏によれば、「手筋は全碁人の財産であり、囲碁の美学の根源をなすものであろう。とはいえ、手筋は両刃の剣であり、誤れば我が身を傷付ける恐れなしとしない。
 この「最も効率よく石を働かせた着手」という手筋の意味は、囲碁を極められたプロ棋士が、上級者もしくは有段者向けに定義されたものであろう。
(上級者以上でなければ、囲碁で「石の効率」など考えないのではなかろうか)
 もっと分かりやすい定義としては、小林覚九段が初級や中級の人に向けて書かれた『はじめての基本手筋』の「はじめに」において登場する。囲碁のどの分野から入っていくのが一番効果的な上達法を考えた場合、布石、定石、手筋、死活などさまざまな領域がある。そして、やはり手筋の勉強から入るのが効果的な上達法ではないかという結論に至った。
その理由は入門後しばらくの間は石取りのおもしろさに取りつかれているからだとする。囲碁は陣地の多少を争うゲームであるが、そのプロセスでは戦いが何度となく起こる。その戦いの本質は石取りともいえるから、石取りに関心を持ち、おもしろがるのは当然といえば当然。石取りの基本手筋を習熟すればアマ初段だという。
 とすれば、初級や中級の人が早く上達して初段に到達するためには、一番関心の深い石取りの基本の基本手筋を身につけ、「手筋とは何か」をしっかり理解するのが大切であるという。
 また、加藤正夫九段によれば、筋というのは「関係」のことであり、その筋の中でも、特に手段として効果をあげられるのを、手筋という。つまり、「手になる筋」というわけで、手筋と表現すると簡明に説明されている。
 その他、手筋の意味について、プロローグとして、まとめてみたので、参考にして頂ければと思う。



【小林覚『はじめての基本手筋』(棋苑図書)はこちらから】

さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・小林覚『はじめての基本手筋』の「はじめに」
・加藤正夫『明快・基本手筋』の「はじめに」
・白江治彦『手筋・ヘボ筋』の「はじめに」
・溝上知親『アマの知らない実戦手筋 利き筋の考え方』の「序章 利き筋とは」
・藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』の「はしがき」
・山下敬吾『新版 基本手筋事典』の「はしがき」




小林覚『はじめての基本手筋』の「はじめに」


・初段前後の人のための棋書は多いのに、初級や中級の人にふさわしい本が少ない。
 初級や中級の人がどの分野から入っていくのが一番効果的な上達法を考えた。
 布石、定石、手筋、死活などさまざまな領域がある。考えた末、やはり手筋の勉強から入るのが効果的な上達法ではないかという結論に至った。

・その理由は?
 入門後しばらくの間は石取りのおもしろさに取りつかれているから。
 いうまでもなく囲碁は陣地の多少を争うゲームであるが、そのプロセスでは戦いが何度となく起こる。その戦いの本質は石取りともいえるから、石取りに関心を持ち、おもしろがるのは当然といえば当然。

・著者の考えでは、石取りの基本手筋を習熟すればアマ初段だという。
 とすれば、初級や中級の人が早く上達して初段に到達するためには、一番関心の深い石取りの基本の基本手筋を身につけ、「手筋とは何か」をしっかり理解するのが大切。
 石取りの基本手筋を勉強して、「なるほど手筋の威力とはこんなに強力なのか」がわかってくれば、実戦でもだんだん応用できるようになる。

・本書は初級・中級の人が基本の基本手筋を積み重ね、初段の基礎固めとなる手筋を実戦でも使いこなせるようになるのを、主たる目的に構成したという。
(むろん、上級の人が石取りの基本手筋を再認識するのにも役立つはず)
高度な手筋よりも、まずは基本。基本がわかれば骨格が太くなり、より早くより本格的に上達できるから。
 本書は前半で石取りの基本手筋を解説している。また、石を取られないためには、連絡の基本手筋を知っておくと便利だから、その手筋を簡明に説明したという。
 そして、後半は石を取る手筋を問題形式で構成している。

・「石取りの手筋」は手筋の原形。したがって、手筋や石の効率的働きとは何か、を理解する好材料である。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、3頁~4頁)

加藤正夫『明快・基本手筋』の「はじめに」


・碁を覚えて、ようやくその面白さがわかってきた頃、筋とか手筋という言葉を耳にするようになる。
 「筋がいい」とか「筋が悪い」などと批評され、筋とはどういうものか気になりはじめる。
 そうした読者のためにまとめたのが、本書であるという。
・では、筋とか手筋とはなにか?
 著者によれば、筋というのは「関係」のことであるとする。
 碁では石の関係、たとえば黒石と黒石、あるいは黒石と白石にさまざまな関係が生じる。
 ケイマの筋、一間の筋、接触した筋などがそれである。
・その筋の中でも、特に手段として効果をあげられるのを、手筋という。
 つまり、「手になる筋」というわけで、手筋と表現する。
・ところが、同じ手になるにしても、ごく当たりまえの手段では手筋とはいわない。
 意外性が強調される手段にかぎられるのが特徴である。
(だから、本とか実戦で、はじめて手筋に接したとき、おそらく読者の多くは驚きと感銘を受けるだろう。そして、碁の奥深さは倍加するはず。)
・碁の腕を磨くには、定石の勉強をはじめ、戦い(攻め、守り、模様の形成、厚みの生かし方等)の仕方など、いろいろとやることが多いもの。
(それはそれで上達するためには欠かせない勉強である)
・しかし、それらの中に、つねに手筋が顔をのぞかせてくる。
 だから、手筋を学ぶことによって、他の分野の勉強も比較的容易に理解できるようになる。
・本書では、まずどういう手筋があるか、基本的な型を76型収録した。
 そして、その手筋がどういう状況で生ずるか、そのプロセスにもふれ、納得できるようにまとめてみたという。
(これらは手筋へのいわばスターとラインに過ぎない。本書が碁への理解を深め、上達の手助けになってくれることを願う)
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、2頁~3頁)

白江治彦『手筋・ヘボ筋』の「はじめに」


・一局は平均250手ほどかかる。
 正しい着手もあれば凡手もある。
 正しい着手は手筋、凡手はヘボ筋である
(ヘボ筋は俗筋ともいい、はたらきの少ない着手のことである。イモ筋、筋違い、無筋とも言われる)
・手筋の中でも接近戦になるものを「形」といい、石がぶつかり合えば「筋」となる。
※故瀬越憲作九段は、筋と形の違いを「筋は攻撃、形は守りの正しい打ち方を指す」と表現した。
(ただ、サバキやシノギの手筋など、攻撃より防御の雰囲気のものもあり、いちがいにいえない部分もあるが、わかりやすい区別である)

〇ところで、接近戦でもっとも効果の高い着手である手筋の効用は、多目的ホールのようなもので、何にでも使われるすぐれものであると、白江氏はいう。
・攻め合い、死活、遮断、連絡、封じ込め、封じ込め回避、荒らし、シボリ、愚形に導きコリ形にさせる。
・また、オイオトシ、ウッテガエシ、ゆるみシチョウなど捨て石を駆使した華麗な展開も可能。
(捨て石を使った手筋は、相手地の中への元手なしのもの、リスクなしで攻め合いに勝ったり、地の得をはかったりするものも多くある)
・しかし、手筋のそばには多くのヘボ筋があり、注意が必要。
(ヘボ筋とは、満点のはたらきをしていない減点着手、さらに打たない方が良いマイナス着手まである)
 ヘボ筋の罪は、攻め合いに負け、死活に失敗、ヨセの損など序盤戦から終盤戦まで延々と続く。
※本書では、それぞれの形で、手筋とヘボ筋の違いを鮮明にあらわしたという。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、2頁~3頁)

溝上知親『アマの知らない実戦手筋 利き筋の考え方』の「序章 利き筋とは」


・利き筋とは、簡単にいえば弱点のこと。
 相手の弱点を利用して、得をはかるのは当然の碁の戦法。
 その弱点である利き筋をうまく使うことができれば、勝負所で優位に立て、勝ちに直接結びつけることができる。
 利き筋を利用するには、いくつかコツがある。

①「利き」は必要になったら打つ
・とりあえずアテておこう、と思うことは多くないだろうか。
 この「とりあえず」をやめよう。
・利き筋は受けないと相手が困るところ。
 決めてしまうと、選択肢が減るので、手段の幅が狭まり、それは条件の悪化を意味する。   
 とくに2つ以上の可能性があるとき、例えばアテる方向が2カ所ある場合などは、むやみに打たないように気をつけてほしい。
・利き筋は、決めないもの、だいたい先に打たなければいいと思っていていいだろう。
 最も効果的になるまで、打つのはがまん。

②「利き」を生かすも殺すも手順しだい
・利きが複数あるとき、どこから決めていくかは、かなり重要な問題。
 手順ひとつで、うまくいくものも、いかなくなる。
・利き筋をもっとも生かすための手順を発見するには、やはり慣れが必要。
 本書では、問題形式でかなりの数の利き筋の活用を体験できる。

③理想を実現へ
・「ここに石があったら取れるのに」「ここに石があれば生きるのに」
 そんな思いになることは、実戦でもよくあるはず。 
 そんな理想をかなえてくれるのが、利き筋。
※利き筋は、「ここに石があればなあ」という思いから考えるのが、見つけるコツでもある。

・この願いを「利き筋」を使って実現するのである。
 利き筋を最大限に活用すれば、相手に「理想の場所に受けさせる」ことができる。
(溝上知親『アマの知らない実戦手筋 利き筋の考え方』毎日コミュニケーションズ、2009年、8頁~9頁)

藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』の「はしがき」


・手筋とは、最も効率よく石を働かせた着手をいう。
 これを大前提として目的別に分類し、布石からヨセまで、碁の打ちかたの基本を集成したのが本書である。
・従来、単に「手筋」といえば、接触戦の戦闘技術を指し、攻めの急所の「筋」と守りの急所の「形」を総称したものとして、理解されていた。
 しかし、他に「死活の手筋」「ヨセの手筋」等、さまざまな用法があるなかで、「手筋」の定義がややあいまいになっていたことも事実だ。また、あまりに雑多な領域にわたるため、系統的な分類はわずかに形による二、三の例が数えられるだけであった。
・ここでは、手筋の領域をさらに広げるとともに、着手の目的による分類を試みている。
 いわば、悪手以外はすべて手筋であるとする観点に立ち、そして、悪手かどうかはつねに全局的目的から判定されなければならないからである。
(もちろん、本書の分類には数々の疑点があり、重複もあるのだが、なんのために手筋を打つか、という根本的な問題には、答えを出したつもりである)

・手筋は全碁人の財産であり、囲碁の美学の根源をなすものであろう。
 とはいえ、手筋は両刃の剣であり、誤れば我が身を傷付ける恐れなしとしない。
(手筋に幻想を抱くことは禁物としても、これを無視し、未発掘の状態に置いては、囲碁の真に目をそむけ、囲碁の善に背を向け、囲碁の美を汚すことになる)

・本書は上巻に従来の「戦いの手筋」を置き、下巻には「布石、セメアイ、死活、ヨセ」の手筋をまとめた。
(上巻はさらに「攻めの手筋」と「守りの手筋」に二大別し、それぞれ着意別11項目に分類してある)
・「手筋読本」にも「実力養成問題集」にも用いられるように編集したつもりである。
 著者の真意は、これらを通じて、碁の深奥に通じる道を発見していただきたいということである。
(構成にあたっては、古来からの手筋書の多くを参考にしたし、読者に見やすい形を選ぶため定石変化からの抜粋も少なくないという)
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、3頁~4頁)




≪2025年 ブログ記事の予定~抱負として≫

2025-01-02 19:00:03 | 日記
≪2025年 ブログ記事の予定~抱負として≫
(2025年1月2日投稿)

【はじめに】



謹賀新年
よき新年をお迎えのことと拝察しております
いつもブログを閲覧して頂き、有難うございます

昨年はどのようなお年でしたのでしょうか。
昨年、投稿した記事は、高校生向けに、漢文に続き古文が3月まで、それ以降は、囲碁の記事でした。囲碁の攻め、布石をテーマとしました。
引き続き、今年も囲碁関連の記事を投稿したいと考えています。
とりわけ、以前から気になっていた川端康成の小説『名人』を取り上げ、そのフランス語訳を紹介したいと思います。
〇川端康成『名人』新潮文庫、1962年[2022年版]
〇Yasunari Kawabata, Le Maître ou Le Tournoi de Go, Éditions Albin Michel, 1975.
●川端康成の『名人』については、次のような論文がネットで閲覧可能です。 
〇福田淳子
「「本因坊名人引退碁観戦記」から小説『名人』へ―川端康成と戦時下における新聞のメディア戦略―」『学苑・人間社会学部紀要』No.904、2016年、52頁~67頁

もちろん、囲碁そのもの、例えば、手筋や形勢判断、死活をテーマにした記事を、形にしたいとも考えております。

〇囲碁関連


囲碁の基本に立ち返って、手筋、定石、死活に関する記事を投稿してみたいと思います。
 
<手筋>
〇加藤正夫『NHK囲碁シリーズ 明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年
〇結城聡『囲碁 結城聡の手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年
〇大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法―意外な急所がどんどんわかる』誠文堂新光社、2014年
〇白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年
〇工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]
〇依田紀基『囲碁 サバキの最強手筋 初段・二段・三段』成美堂出版、2004年
〇原幸子編『新・早わかり 手筋小事典 目で覚える戦いのコツ』日本棋院、1993年[2019年版]
〇溝上知親『アマの知らない実戦手筋 利き筋の考え方』毎日コミュニケーションズ、2009年
〇藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]
〇藤沢秀行『基本手筋事典 下(序盤・終盤の部)』日本棋院、1978年
〇山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年

<囲碁の死活>
〇小林覚『はじめての基本死活』棋苑図書、2000年
〇船越哲治『囲碁・実戦の死活130』山海堂、2003年
〇新垣武『NHK囲碁シリーズ 新垣武の実戦に役立つ死活反復トレーニング』日本放送出版協会、2000年
〇山田至宝『基本死活 虎の巻』日本棋院、2004年[2012年版]
〇小島高穂『実戦死活がおもしろい!』フローラル出版、2001年
〇加藤正夫『新・木谷道場入門第8巻 死活と攻合い』河出書房新社、1973年[1996年版新装改訂]
〇山田至宝『初段合格の死活150題』(日本棋院、2001年[2013年版])
〇桑本晋平『三段合格の死活 150題』日本棋院、2002年[2010年版]
〇工藤紀夫編『新・早わかり 死活小事典 形で見わける生き死にのコツ』日本棋院、1993年[2008年版]
〇趙治勲『基本死活事典(上・下)』日本棋院、増補改訂版1996年[2006年版]

<定石と布石>
〇工藤紀夫『やさしい定石 詳解45型』毎日コミュニケーション、2007年[2009年版]
〇久保秀夫『定石を覚えよう』日本棋院、2015年
〇石倉昇『NHK囲碁講座 定石の生かし方(上)(下)』朝日出版社、1990年[2004年版]
〇田村竜騎兵『やさしい定石教えます』有紀書房、1999年
〇武宮正樹『基本定石24』筑摩書房、1992年[1997年版]
〇三村智保『三村流布石の虎の巻』マイナビ、2012年
〇趙治勲『ひと目の定石』マイナビ出版、2009年[2019年版]

<形勢判断>
〇片岡聡『一番やさしい形勢判断法』毎日コミュニケーションズ、2009年
〇石田芳夫『新・木谷道場入門 第10巻 形勢判断とヨセ』河出書房新社、1974年[1996年版]

<昭和の碁>
〇江崎誠致『昭和の碁』立風書房、1978年[1982年版]
〇江崎誠致『呉清源』新潮社、1996年
〇桐山桂一『呉清源とその兄弟―呉家の百年―』岩波現代文庫、2009年

その他


次のような記事が投稿できず、残念でした。
 例えば、映画と英語(語学の学び方)に関連して、次の小説についても、投稿したいと思います。
〇ヘミングウェイ(大久保康雄訳)『誰がために鐘は鳴る(上)(下)』新潮社、1973年[1978年版]
 原書とヘミングウェイについての本は購入して手元にあり、読み進め、半分ぐらい原稿化しています。
〇Ernest Hemingway, For Whom the Bell Tolls, Scribner Paperback Fiction Edition, 1940[1995]
〇今村楯夫『ヘミングウェイと猫と女たち』新潮新書、1990年

 次の本を読み進めています。
〇鷲見洋一『翻訳仏文法(上)(下)』ちくま学芸文庫、2003年
〇トレイシー・シュヴァリエ(木下哲夫訳)『真珠の耳飾りの少女』白水社、2000年[2004年版]
 その他、稲作、ガーデニングについての記事も投稿してゆきたいと考えています。

本年も皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます

2025年お正月


【補足】川端康成『名人』について
『名人』は、川端康成の長編小説。
 1938年(昭和13年)の6月26日から12月4日にかけて打ち継がれた21世本因坊秀哉名人の引退碁の観戦記を元に小説の形にまとめたものである。川端文学の名作の一つとされている。
秀哉名人没後の翌々年の1942年(昭和17年)から本格的に書き出され、途中の中断を経て十数年がかりで完成となった。
家元制度最後の本因坊秀哉の人生最後の勝負碁の姿を見た川端自身が、観戦記者からの視点で「不敗の名人」の敗れる姿を「敬尊」の念を持って描いた記録小説である。名人の生死を賭けた孤高の敗着に「古い日本への挽歌」、芸術家の理想像を重ねた作品である。
女性を描くことがほとんどの川端作品の中では異色の作品である。
・完成版翻訳版は、エドワード・サイデンステッカー訳(英題:The Master of Go)
 フランス(仏題:Le maître, ou le tournoi de Go)など、世界各国で行われている。

【補足】本因坊秀哉名人引退碁(1—100手まで)

(川端康成『名人』新潮文庫、1962年[2022年版]、164頁)

黒47と白48について


 黒47と白48について、小説の中で、次のように棋譜解説されている。

 黒九十九は、中央の白の掛けつぎに覗き、白百とついだのが、入院前の一手だった
が、名人は後の講評でも、この白百はつがないで、右辺の黒をおさえて、白地への侵
入を防いでおいたら、「おそらく黒も容易に楽観をゆるされぬ局面なのであった。」と
言っている。また、白四十八で下辺の星に打つことが出来て、布石の「天王山を占め
たのは、白も不満のない構図と言わねばならない。」として、名人は早くもそこで、
「相当に有望」と見たのだった。したがって、「白に天王山を譲った黒四十七は、堅過
ぎるように思われる。先ず緩着の誹りをまぬがれない。」と講評している。
 しかし、大竹七段は黒四十七と堅く打っておかねば、そこに白からの手段が残るの
をきらったと、対局者の感想に語っている。また呉六段の解説では、黒の四十七は本
手であり、厚い打ち方だとされている。
 観戦していた私は、黒が四十七と堅くついで、次に白が下辺の星の大場を占めた瞬
間、はっとしたものだった。私は黒四十七の一手に、大竹七段の棋風を感じたという
よりも、七段のこの勝負に臨む覚悟を感じたようだった。白を第三線に這わせて、黒
四十七までの厚い壁でがっちりおさえつけたのには、大竹七段の渾身の力がこもって
いると見えた。七段は絶対に負けない打ち方、相手の術策に陥らない打ち方に、足を
踏みしめていたのだった。
 中盤の百手あたりで、細碁の形勢、あるいは形勢も不明というと、黒が打たれたこ
とになるのだが、それはむしろ大竹七段の腰を沈めて度胸の据わった、作戦なのかも
しれなかった。厚みは黒がまさっていたし、先ず黒地は確実で、これから白模様をが
りがり噛ってゆく、七段得意の戦法に移るわけだった。
(川端康成『名人』新潮文庫、1962年[2022年版]、113頁~115頁)

<ポイント>
●黒47と白48について
黒47すなわち(た, 十三)(4, 十三)と白48(ぬ, 十六)(10, 十六)
●黒47
・堅く打っておかねば、白からの手段が残るのを大竹七段は嫌った。
・黒の47は本手で、厚い打ち方(呉清源の解説)
・白を第三線に這わせて、黒47までの厚い壁でがっちりおさえつけた(大竹七段の渾身の力)~絶対に負けない打ち方、相手の術策に陥らない打ち方

〇白48
・白48で下辺の星に打つこと=布石の天王山を占めたのは白も不満のない構図
(白に天王山を譲った黒47は、堅過ぎる。緩着の誹りをまぬがれない)

≪仏訳≫
〇Yasunari Kawabata, Le Maître ou Le Tournoi de Go, Éditions Albin Michel, 1975.
Noir 99 surveillait un triangle blanc, et avec le 100, son
dernier coup avant d’entrer à l’hôpital, le Maître avait
regroupé ses pions. Plus tard, en y réfléchissant, il dit que
s’il ne les avait pas rassemblés, mais que s’il avait été
menacer le groupe noir, à l’est du damier, pour empêcher
une incursion dans le territoire des Blanc, « le jeu
n’aurait pas pris une tournure qui permette aux Noirs de
se montrer si sanguinaires ». Le début du jeu semblait lui
avoir donné satisfaction. D’avoir pu jouer Blanc 48 sur
une étoile, sur une case privilégiée, lui offrait, au début
du jeu, « ce que tout le monde devait s’accorder à tenir
pour une formation idéale des Blanc ». Il concluait que
Noir 47, renonçant à un point stratégique, se montrait
trop conservateur et ne pouvait se défendre contre l’ac-
cusation d’une certaine tiédeur.
Otaké, pourtant, dans ses commentaires, dit que s’il
n’avait pas joué de la sorte, les Blanc auraient gardé des
libertés dans ce coin qu’il ne pouvait leur tolérer. Dans
ses commentaires, Go Sei-gen se montra d’accord avec
Otaké. Le Blanc 47, bien joué, laissait les Noirs avec une
formation de pions très dense.
Je me rappelle être resté bouche bée quand Otaké serra
ses rangs avec Noir 47, laissant les Blanc prendre la
position stratégique sur l’étoile, avec Blanc 48. Ce que je
sentais, dans ce Noir 47, c’était moins le style d’Otaké
que la résolution farouche avec laquelle il s’était engagé
dans ce tournoi. Il renvoyait les Blancs sur la troisième
ligne, et s’élançait pour construire son mur massif. Je
sentis qu’il se donnait entièrement à sa partie. Carré sur
ses positions, il n’envisageait pas un instant de perdre, et
n’allait pas se laisser distraire par les stratagèmes subtils
des Blancs.
A Blanc 100, au millieu du jeu, l’issue paraissait incer-
taine, peut-être parce que les Noirs se laissaient déborder.
Mais, en réalité, Otaké ne jouait-il pas une partie précau-
tionneuse autant qu’audacieuse? Les Blancs possédaient
une force massive; le territoire des des Noirs était inatta-
quable et le temps approchait où Otaké devait lancer
l’une de ces offensives pour lesquelles il était célèbre, et
grignoter les groupes ennemis, ce à quoi il se montrait
toujours fort habile.
(Yasunari Kawabata, Le Maître ou Le Tournoi de Go, Éditions Albin Michel, 1975, pp.110-111.)