空飛ぶ自由人・2

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短編集『それは令和のことでした』

2024年10月14日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

『小説NON』に掲載された短編6本と
書き下ろし1本と
他の雑誌に掲載された超短編1本を集めた単行本。

「彼の名は」

理屈をこねまわし、
世の常識に反抗する母親から与えられた名前は「太郎」。
太郎は高校で3人組から強烈ないじめに遭う。
ある日、隠れ家に呼び出された太郎は、
首謀者を殺してしまう。
(殺人ではなく、過失致死)
それは、意外な形でいじめの残り2人により発覚する。
更に母親も殺すが、
最後の一行
なぜ太郎がいじめに遭っていたかが判明する。
うわ、毒親の話だったのか。

「有情無情」

初老の男は、妻が死んだ後始めた
登下校の子どもたちの見守りをしていたが、
おもちゃを無くして泣いていた男の子を助けたことで、
幼児性愛の嫌疑をかけられ、
故郷を追われ、東京に出る。
それ以来、子どもに親切することを避けていたが、
幼児が連れ去られ、殺された事件を知り、
それを防げなかった自分を激しく責める。
そして・・・

「わたしが告発する」

ひきこもりの姉と両親の遺産相続でもめたあげく、
身勝手な姉を殺してしまった男は、
自首しようとするが、
恋人に止められ、
山中に遺体を埋める。
姉の消息をひきこもりの不在としてをごま化していたが、
ある人物が接触して来る。
しかし、意外な形で殺人が発覚してしまう・・
題名の「わたし」とは誰か。

「君は認知障害で」

大学へ行く気をなくし、ゲームにあけくれていた男が、
ある場所で老人の殺人事件に巻き込まれる。
嫌疑がかけられないよう細心の注意をしたが、
ゲーム仲間には、そのことを話してしまう。
すると警察が現れ・・・
最後になってゲーム仲間の正体が明らかになる。

「死にゆく母にできること」

入院した母の世話でいらついた主婦が
ついつい子どもに強く当たるのを夫にいさめられる。
やがて、義母がやってきて、
主婦は家から追い出される。
やがて、入院中の母が亡くなるが、
その話に、ある女性が
母親のいいなりになった歴史の告白文がからまり、
終わり頃になって、その文書を誰が書いたかが明らかになる。
その文書が母の死に関わってきて・・・
ここでも二人の毒親が登場する。

「無実が二人を分かつまで」

サラリーマンだった男は
自ら望んで会社をやめ、炊きだしの食事の世話になる。
そこで知り合った男と一緒に
荷物整理の会社の仕事をするようになるが、
ある日、その男が会社の脱税金を盗んだ嫌疑で
古参のバイトともみあいになり、
頭を打って、人事不省になる。
その男と同棲中の人に連絡を取ると、
気を失った男は、実は外国人で不法滞在中だと分かる。
会社も男も警察沙汰には出来ない事情があったのだ。
やがて、真相が明らかになり、
同棲中の人にある提案をするが・・・
これも最後の一行
世界がくるりと反転する。

「彼女の煙が晴れるとき」

橘駒音はトラック運転手と同居し、
運転手の引きこもりの娘の世話をしている。
唯一の息抜きは、町の将棋道場で将棋を打つことだ。
腕はかなり高い。
しかし、うだつのあがらないトラック運転手と
大きな子どもの世話をするだけで、
一日一日老いていく自分にうんざりし、
自殺も考えている。
駒音には喫煙の依存症があり、
将棋仲間からも指摘される。
駒音は禁煙を決意し、禁断症状に悩まされる。
最後の6ページで、真相が明らかになり、
それまで見えてきた景色が一変する。

あらすじの紹介がしづらい作品群。
その理由は、読んだら分かる。
どれも小説だから成り立つ騙しだ。

総題名にあるとおり、
令和の時代を反映した作品。
親の子への名付け、
幼児性愛者とのいわれなき嫌疑、
家族の引きこもり、
大学からのドロップアウト、
毒母親の支配、
不法滞在
などの社会問題を背景として、
自分ではどうしようもないことで追い詰められ、
事件の当事者になってしまう人々。
一言で表せば、
理不尽

そういう意味で、ごく現代的な作品群だ。
しかも、筆力があるからぐいぐい読ませ、
騙す。
そういえば、この人の作品を初めて読んだ
「葉桜の季節に君を想うということ」
見事な騙しの小説だった。 
歌野晶午の作品は久しぶりに読んだが、
テクニックは健在だった。

 



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