[書籍紹介]
副題に「不安の時代の皇」とある。
「皇」は「すめらぎ」と読み、
天皇のことを示す。
「すめらぎ」。
古語だ。
でも、良い響き。
おごそかさと伝統が香り立つ。
副題にあるように、
天皇に関する書物である。
(従って、昨日の「国連の介入」と記述が重なる点は、ご容赦願いたい。
なお本書には書かれていない私なりの注釈は、
「補足」として記した。)
原作は青山繁晴さん。
議員連盟「日本の尊厳と国益を護る会」の代表幹事だ。
「原作」とあるのは、
この本がコミックだからだ。
作画は弘兼憲史さん率いるヒロカネプロダクション。
高校3年生の永峯あかりは、
京都御所を訪ねたことで、
天皇制に興味を持つ。
学校の図書館で調べていると、
新任の司書・紀(のり)が近づいて来た。
紀は不思議な力を持ち、
タイムワープして、あかりを神代の世界導いていく。
そこで、仁徳天皇の姿を見、
「民のかまど」の故事を目的する。
かまどから炊事の煙が立たないほど
民が貧しいのを見て、
仁徳天皇は、3年間税を取らないで、
質素な生活をし、
3年後、かまどから煙が立ち上っているのを見て、
満足したという話。
そして、紀の導きで、
あかりは、万世一系の天皇の系譜、
男系天皇の本質を初めて知る。
という100ページにわたる画に、
項目ごとに解説が加わる。
解説もほぼ100ページ近くあり、
漫画と半々を占める。
本書で主張している主な内容は、次のとおり。
○天皇は、西洋の王や中国の皇帝とは違い、
権力者ではない。
私利私欲で民を支配しているわけではなく、
その証拠に天皇の住いだった京都御所は、
堀も砦もない、警固な守りの必要がないものだった。
(皇居に石垣があるのは、徳川家の居城である場所を利用したため)
(注釈:便宜的に英語で「エンペラー」と訳すが、
歴代の皇帝とは意味が異なり、あまり適当とは言えない。)
○天皇の役割とは何か。
それは、国民の平和と安寧を祈る存在。
まさに、「祭司」としての存在だ。
○天皇の存在は「国の根っこ」である。
だから、武士が台頭して
権力が移り変わっても、
天皇の存在は否定されることなく、
存在し続けたのである。
日本が敗戦して、
国家存亡の危機が来た時も
廃されることなく
「国の根っこ」として存続し続けた。
(補足:全ての既成価値観を否定した織田信長は、
自分が天皇になり替わろうとしたため、
明智光秀の謀反を誘発した、
という小説もある。)
○その天皇の皇位は、 「父系継承」という、日本だけの方法で継承されてきた。
父から息子へ、更にその息子へと。
だから、天皇の系譜を父方で辿れば、
126代を貫いて、
そのまま神武天皇までさかのぼることが出来る。
それを「万世一系」という。
(注釈:新約聖書を開いた方なら、
「マタイによる福音書」の冒頭に長い系図が出て来るので驚いた方がいることだろう。
「アブラハムはヤコブの父であり、
イサクはヤコブの父、
ヤコブはユダとその兄弟たちとの父、
ユダはタマルによるパレスとザラとの父、
パラスはエフロンの父・・・・」
と延々と系図が描かれて
52代にわたり、
最後に
「ヤコブはマリヤの夫ヨセフの父であった。
このマリヤからキリストといわれるイエスがお生まれになった。」
と、キリストの家系が父系によってたどられている。
旧約聖書にも同様の系図があり、
家系を大切にするユダヤと日本は類似している。
もっとも、マリヤは処女懐胎だというのだから、
この家系は意味がないのだが、
なぜか誰も問題にしようとはしない。)
○日本以外の諸国の王室は、
女系の皇位継承も行われた。
血筋が絶えると、
別な血筋から王を迎え、
王朝は変更した。
今のチャールズ国王はウインザー朝で、
その前はハノーヴァー朝、
その前はスチュアート朝、というように。
(補足:たとえば、
ステュアート朝の断絶を受けて、
ドイツ北部の領邦君主の家系であったハノーヴァー家から
ジョージ1世を国王に迎え入れて成立した。)
(補足:イギリスの王位継承は「兄弟姉妹間男子優先相続制」であり、
エリザベス2世はジョージ6 世の長子(第一子)だったが、
もし仮に彼女に弟が存在していたらば、
その方がイギリス新国王として即位していたことになる。
ただし、2013年の王位継承法の改正で、
王位継承を性別によらないものとした。
日本の「皇室典範」第1条に
「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」
とあるのとは明確に異なる。)
○しかし、女性天皇がいたではないかという声がある。
確かに、天皇の系譜を辿ると、8人(10代)の女性天皇が存在する。
ただ、全員父は天皇である。
第33代・推古天皇、第35代・皇極天皇(重祚第37代・斉明天皇)
第41代・持統天皇、第43代・元明天皇
この4人は元皇后であり、
夫が天皇なので、その子に継承しても問題ない。
第44代・元正天皇、第46代・孝謙天皇(重祚第48代・称徳天皇)
第109代・明正天皇、第117代・後桜町天皇
この4人は生涯独身を貫き、子をもうけず、
退位して、次の男系子孫に地位を譲った。
おそらく、男系天皇の意義を知っていたため、
結婚しなかったのだと思われ、
男系男子天皇候補の成長までのツナギ役として、
身を慎んだと言える。
女性天皇8人は、
全員強靭な意思を持たれて、
神武天皇からの一系統を護られたのだ。
○つまり、日本には女系天皇はこれまで一人もいない。
「女系天皇」と「女性天皇」は違う。
「女系天皇」とは「父親が皇統(天皇の血統)に属さない天皇」。
すなわち「母親しか皇統(天皇の血統)に属さない天皇」ということなのだ。
今まで皇室の女子が皇統とは無縁の男性と結婚し、
その子が天皇になること、
つまり女系による皇位継承は
日本の歴史で一度たりとも起こっていない。
(補足:次のような科学的学説がある。
遺伝情報を伝達するためのヒトの染色体の本数は23組、46本存在する。
その23番目の染色体のことを「性染色体」と呼ぶ。
この性染色体が「XX」型ならば女子として生まれ、
「XY」型ならば男子として生まれる。
「X染色体」は男子も女子も持っているが、
「Y染色体」は男子しか持っていない。
つまり「Y染色体」は父親からしか受け継ぐことができない。
もし女性天皇を認めると、
その夫が皇族外であった場合、
その子どもには皇統の「Y染色体」が受け継がれなくなってしまう。
この意味で、日本の天皇家は「Y染色体」を連綿と受け継いでいる血統なのだ。
平安時代の人が遺伝子の仕組みを知っていたはずはないが、
知らず知らずのうちに、遺伝の秘密さえ体得していたことになる。
もっとも、本書にはこの話は登場しない。
半端な科学的知識を持ち込めば、
信憑性がかえって損なわれると思ったのだろう。
それゆえ、補足の形で記述する。)
○日本の天皇の系譜は、「世界で最も長く続いている王朝」
と言われるのは、以上のような理由による。
天皇家が「万世一系(皇統が永久に続くこと)」と称されるのは、
神武天皇の時代から「男系天皇」を継続してきたからにほかならない。
○今、愛子さまを天皇にしてもいいのではないか、
という声が沢山ある。
しかし、愛子さまが他の男性と結婚して、
その子に天皇位が継承された時、
男系で連綿として継承されてきた家系が途切れてしまうのだ。
○今皇室は継承問題で深刻な事態を迎えている。
皇室に男性が少なく、父系の皇位継承に危機を迎えているからだ。
そこで、小泉純一郎政権下(2004年)、
「皇室典範に関する有識者会議」という諮問機関が設置され、
「女性天皇・女系天皇(母系天皇) の容認、長子優先」を柱とした報告書を提出した。
これまで皇室が築いてきた万世一系の伝統を一気に崩壊させかねない内容だった。
その後、秋篠宮に悠仁(ひさひと)親王が生まれ、
第1次安倍内閣によって、
有識者会議の報告書を白紙に戻す方針が出された。
一時的に継承問題は休止したが、
継承者不足は変わらない。
皇位継承資格者は秋篠宮文仁親王・悠仁親王・常陸宮正仁親王の3名しかいない。
常陸宮正仁親王は高齢のため継承する可能性はないとしても、
あとは、今18歳の悠仁親王が結婚して、男子を生んでもらうしかない。
あるいは、GHQが廃止した旧宮家を復活させる方法もある。
こうした話は、日本人でも正しく理解している人は少ない。
学校でも社会でも教えていないからだ。
ここまで読んだ人の中には、
皇位の父系による継承というのを知っても、
「だから、どうだというのだ」
「そんなもの、壊してしまえばいいんじゃないか」
という人がいるだろう。
しかし、それは、歴史と文化と伝統に対する感性の違い
だとしかいいようがない。
良い悪いではない。
そういう形で日本人は伝統を継承してきた事実がある。
日本人のDNAの深みに存在する
日本人の感性をお持ちの方には、即座に理解されるだろう。
二千数百年もの間、同じルールで血統が継承され、
その天皇が神道の宮中祭祀を執り行ってきた歴史的価値は極めて大きい。
そのかけがえのない伝統を、
国連の勧告のように、
ひとときの時代の価値観や判断で断絶していいものか。
ご自分を捨てて、民の平安を祈る祭主、
まつりぬしを
2千数百年を超えて戴き、
西洋や中国の利害衝突の「政治」ではなく、
互いに人のために祈りつつ生きる
「まつりごと」を進めるお方の存在を
「国の根っこ」としてきた
そういう貴重な宝物をわれらの祖国は持っている。
そのような日本人の長い歴史と伝統を大切にしたい。
一度失われたら、
返ってこないのだから。
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