903の1『自然と人間の歴史・世界篇』溶ける氷河(アレックス氷河など)
2018年の夏、例えば、アルプス山脈最大の規模を誇る、スイス南部バレー州にあるアレッチ氷河の融解が話題になっている。アルプス山脈(スイス・アルプス)の北部、ベルナー・アルプスに属するこの地で、今年夏の欧州は記録的な猛暑のため、7月下旬に、平年より約1か月早く降雪が止まった。そのため、氷河の後退が進んでいるという。
この氷河は、2001年に国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録された、極北を除く欧州では最大だ。この氷河の浸食作用によって削り取られた山々の肌は、氷河地形の典型だとされる。1970年代には、その長さが約24キロメートルあった。
ところが、2014年には、約22キロメートルに縮小した。同地点で撮影された写真が公にされており、なるほど、同氷河の末端近くでは、岩肌の露出が見てとれる。
最大クラスのものでこうなのであって、アルプス一帯にある中小の氷河にも融解がひろがっているという、この数千年間では前代未聞の出来事になっている。
そこでもしこのような融解が続く中、そのことにより増えた水が海に大量に流れ出すことになると、話は地球全体のものとなっていくのだろう。
なぜなら、陸上にあった氷がそこを外れていくのだから、例えば北極海で浮かんでいる氷が溶けるのとは異なる(注)、そしてまた、一旦水となりかわれば、そこからの温度上昇の程度によっては、海水面上昇をもたらしうるものとなるのだろうから。
いずれにしても、このような氷河の融解がこれ以上の話になっていく可能性はかなり大きく、これまで以上の対策がとられる話になっていくのかもしれない。
(注)
いま氷が海水に浮かんでいることにしよう。これは、氷は海水より比重が小さい、つまり軽いことによる。
体積(V)の氷の比重をX)とすると、その重量(G)はこうなる。
G = X・V ・・・ (1)
この氷がとけて水となってのその重量(G)は、質量不変の法則から変化しない。ついては、とけた水の体積を(Vw)、その水の比重を(Xw)とすると、その重量はこうなる。
G = Xw・Vw ・・・ (2)
アルキメデスの原理によれば、水中の物体は、その物体が水に入る時おしのけた水の重量だけ軽くなる。
そこでいま、氷の水没している部分の体積を(Vu)としよう、すると、氷に働く浮力(F)は次の式で求まる。
F = Xw・Vu ・・・ (3)
かかる状態は、力のつり合いがとれている訳なので、の法則より、次の式のように、氷の重量=氷に働く浮力となっているはずだ。
G = F ・・・ (4)
(2)(3)式を(4)式に代入すると、(5)式が成立する。
Vw = Vu ・・・ (5)
つまりは、氷がおしのけた水の体積はとけた氷の体積に等しい。
よって、海面に浮かぶ氷がとけても海面上昇はなく、これをもって、例えば北極海の氷が溶けても海面上昇には至らない。
一方、氷床のあるところでは、溶け出したら海面上昇につながりうる話であると述べたが、その形成時期としては、いつ頃のことだったのだろうか。いま最終氷期(さいしゅうひょうき、Last glacial period)というのは、およそ7万年前に始まって1万年前に終了した一番新しい氷期をいう。
それが、この直近の氷河期が終わった頃の日本列島での気温は、今より2、3℃高くなっていた。およそ6000年前、日本では「縄文海進」と呼ばれている時期、海面は今より5メートル位は高かったのでは、ないかと考えられている。ちなみに現在、海抜5メートル付近には、横須賀の夏島遺跡など多くの貝塚遺跡が明らかとなっている。
参考までに、こうした論調には、次のような定量的な話も加わっていて、しばしばマスコミなどでも取り上げられている。
「地球温暖化による大雨が増加する主な原因は、気温の上昇に伴う大気中の水蒸気量の増加にあると考えられている。クラウジウス・クラペイロンの関係(CC効果)によれば、気温が1℃上昇すると、大気に含まれうる最大の水蒸気量(飽和水蒸気量)は理論上約7%増加する(注1)。」(地球温暖化による大雨への影響評価には100年以上のデータが必要、NPO法人 国際環境経済研究所HPに掲載(2021年5月31日付け)の堅田 元喜主任研究員の論文、インターネット配信経由より引用)
それが今日では、例えば、グリーンランドの事例で、こんな研究結果が紹介されている。
「北極圏にあるグリーンランドで、2019年に解けた氷床の量が、過去最高の5320億トンに上ったとする研究成果を、ドイツや米国などの国際研究チームがまとめた。地球の平均海面が1.5ミリ・メートル上昇する量だという。
チームは人工衛星による観測と気候モデルを組み合わせ、融解した氷床の量を推定した。19年に解けた量は、降雪によって増加した氷の1.8倍に上り、これまで最高だった12年の4640億トンを上回った。
また、1948年以降で解けた氷床の量が多い上位5年は、いずれもこの10年間に集中していた。チームは、北極圏で急速に温暖化が進んでいる結果だとして、警鐘を鳴らしている。」(「読売新聞」電子版、2020年8月22日付け)
ちなみに、いま1気圧の環境を考えよう。ここでの海水の比重(1.02程度)は真水の比重(1)よりわずかに大きいが、これを無視した上での話としよう。
なお、かかる1気圧のもとでの水の密度(Y)は 、(1)氷(0度):0.91671g/立方センチメートル (2)水(0度):0.999840g/立方センチメートル (3)水(3.98度):0.999973g/立法センチメートルでこれが最大値であり、1番重い。
これだと、0から3.98度までの水は、温度が上昇するにつれて体積が縮小していたのが、それ以後の温度上昇により熱膨張していく。
次に、海洋の平均水深を(D)と見立て、海水の熱膨張は海面上昇の一つの要因となりうると仮定しよう。すると、各温度において海水温が1度上昇した時の、予想される海面上昇率(H)は、次のようになろう。
H(t+1時点)=(Y(t))/(Y(t+1)-1)D
Y(t))は、温度tにおける水の温度
(Y(t+1)は、温度t+1における水の密度
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とはいえ、これら、地球が温暖化しており、これからも上昇を続けるだろうとの議論には、別の論調も見受けられる。なお、産業革命からは徐々に、小規模ではあるものの気温の上昇が現時点では認められる。
(注)なお、氷河期(その中には氷期と間氷期とがある)と氷期との使い方で相互乗入れというか、同じく「期」を付けることによる混同が、ままあるようだ。ついては、「氷河時代」の中に「氷期」と「間氷期」があるという書き方に統一するのが望ましいとの見方もあるほどだ。いづれにしても、現在が「間氷期」であるという認識で、地球の歴史の中では比較的「寒冷な時期」であるという点だと考えられていることては、変わりはなかろう。
言い換えると、現在の完新世間氷期は、約11,700年前に更新世の最後の氷期が終わりを迎えるとともに始まった、氷期と氷期の間に挟まれた、気候が比較的温暖な時期であると考えられている。
けれども、この先の気候かどうなるのかの確かなことは、まだわからない。だから、より厳しい寒冷な氷河期への転換が起こってくる可能性もありうるという、上記の地球温暖化学説が描くシナリオと逆をゆく学説も出てきていることに、留意すべきだろう。その一つには、こう、ある。
「1、地球の平均気温は長期にわたって変動を繰り返してきた。中世温暖期(~10世紀)から小氷河期(16~18世紀)を経て、現在は再び中世温暖期とほぼ同じ気温に戻った。300年前から上昇してきた気温は18年前から頭打ちになっている。
2、気候変動と太陽活動との間に強い相関があることは古くから知られていたが、最近、これは太陽磁場が地表に到達する宇宙線量を左右しているためであるという認識が得られた。すなわち太陽磁場が弱くなると宇宙線量が増え、これが低層雲を作ることで気温を下げることになる。現在、太陽は長期にわたる活動期を終了したので、今後は活動が弱まるにつれて気温の低下をもたらすものと予測される。
3、今後の数十年間は、太陽活動の低下による寒冷化の一部は二酸化炭素の増加による温暖化によって打ち消されるが、全体として気温は頭打ちから低下に向かい、大きな寒冷化が頻発するものと予想される。
4、大気中の二酸化炭素は植物の成育を促すプラスの効果はあっても、人間の環境にとって如何なる意味でもマイナス要因にはならない。
存在する二酸化炭素を減らすこと自体に意味はないのであって、二酸化炭素排出削減は炭素資源を子孫に残すためにこそ意味がある。
5、炭素資源に替わるエネルギー源の開発は緊急の問題である。将来のエネルギーシステムとして可能性があるのは、水と太陽光から水素を作って水素を2次エネルギー媒体として使う水素エネルギーシステムと、藻類バイオマスエネルギーである。とくに藻類エネルギー開発には国家プロジェクトとしてただちに取り組むべきである。」(深井有(ふかいゆう)「地球はもう温暖化していない」平凡社、2015)
(続く)
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