日本に住んでいるときは、割合スマイルに囲まれて暮らしている。レストランや交通機関、警察官や市役所どこへいっても笑顔で接してくれることが多い。もちろんそうでない人もいるが、おおむねそうだ。
海外に旅すると、とたんに笑顔は少なくなる。航空会社のアテンダントもJALとANAは除いて余り笑顔を見せない。何か用を頼むときちんとやってくれるし別に不機嫌というわけではないのだが。又、笑顔のない表情が一転して愛嬌のある顔になるとこれはこれで又いいものだが、顔の基本形にはスマイルは浮かんでいない。
国によって異なるが、出国審査や税関でも同様で、手荷物を調べられるときなど、被疑者になったような心境になるときもある。被疑者になった心境と書いたが、相手は被疑者だと思って調べてるのだろう。
レストランはたいてい愛想がいいが、まれに言葉が通じなくて、ウェイトレスに、にらみつけられたりされた経験もある。別に敵意はないのだろうが、食欲がなくなる。
タクシーは両極端だ。途中まで無愛想で、こちらが日本人だとわかると、急に親切に、各国の品評を始めるのもいる。A国人はけちだとか、B国はずるいだとか、C国は油断がならないとか延々と聞かされる。いくら日本をほめられても、これでは鼻白む。
悪口も言わず、町のよさを淡々と語ってくれるドライバーに当たると、うれしくなって、思わずチップをはずんでしまう。
概して、一歩海外に出ると、スマイルは余り期待できない。玉村豊男の「パリ旅の雑学ノート」には、興味深い話があった。彼が数十年前にパリに初めて出かけた折のことだ、あるカフェのバーでなにか軽食を頼んだが、相手は無視している。彼はなんだか悲しくなって出ようとしたら、頼んだ皿がでてきた。周りを観察していると、他のフランス人も皆、同じように返事も返されず、出てきたら金を無言で払い、食って出て行く。
玉村氏は、その雰囲気が好きになるのにそんなに時間がかからなかったようだ。自分の仕事のみを客に売っているそのスタイルが気に入ったとある。最初は日本人のコンプレックスが無視された行為を増幅したのだろうが、そのうち、誰に対してもそうだとわかり、かえって好感を持つにいたったと理解できる。
要は慣れの問題ですね。今まで、笑顔で応えられるのが普通の環境に住み、突然、それがない国に来たとき、理屈でわかっていても心がついていかないのですね。