まさおレポート

AT&Tの電波天文学への貢献

AT&Tは1925年にウェスタンエレクトリック社と合併したのちニュージャージー州にベル研究所を設立した。通信の実際的な研究は勿論の事、「第一級の学術的な研究を行うことにより、好奇心と言う文化を育み、大学との架け橋になれば、それがいずれは商業的な利益にもつながっていくというものだ。」というポリシーを掲げ、6個のノーベル物理学賞11人の受賞者を輩出していることはつとに有名である。例えば。

1937年にはクリントン・J・デビッドソンが物質の波動的性質に関する研究で

1956年にはバーディーン、ブラッテン、ショックレーがトランジスタの発明で

1978年にはベンジアスとウィルソンがCMB放射を検出して

1998年にはシュテルマー、ラフリン、ツーイが分数量子ホール効果を発見して

ノーベル賞を受賞している。しかし、現代最先端の宇宙創成理論であるビッグバンの一翼を担う電波天文学にまで行きがかりとはいえ研究対象を広げていたことはあまり知られていないのではないか。

AT&Tは1928年に長距離通信に雑音がはいる原因の探求に乗り出した。当時電波による大西洋横断の電話サービスを三分75ドルで提供(現在1000ドルに相当)しており、いわばドル箱のサービス向上に取り組んだわけで、第一級の学術的な研究に乗り出したわけではない。ベル研の若手スタッフであるカール・ジャンスキーはこの電波雑音の原因を探っていくうちに24時間ごとにピークを持つ宇宙からの電波を検出して「地球外に起源をもつとみられる電波障害について」の論文を発表 銀河電波を発見して電波天文学の創設ならびにその後のビッグバンの証明の基礎を担うという快挙を成し遂げる。その後1978年にはベンジアスとウィルソンがCMB放射(宇宙背景マイクロ波放射)を検出してビッグバン理論通りの波長のマイクロ波を検出することに成功し、ビッグバン理論の定常宇宙理論に対する優位さを証明することになる。

一企業がノーベル賞を11人も輩出し、ビッグバンの証明を担うという電波天文学を創設するなど現代ではどの企業にも望むべくもない。往年の巨大企業AT&Tが如何に巨大であったか、又懐の深い研究開発ポリシーを持っていたことの証明だろう。マイクロソフト創業者のビル・ゲーツは私財数千億を投じて新しい原子力発電の開発に乗り出すという。しかし、AT&Tの研究開発のスケールの比ではない。

AT&Tは1985年の分割後、ベル研を縮小したが、果たしてこのベル研縮小が米国物理学の発展に対してどのような影響をおよぼしたのだろうか。AT&Tの分割の功罪をこの点から見ると、罪に値するのかどうか。だれかこのテーマで研究した人はいるのだろうか。

(新潮文庫 宇宙創成 サイモン・シンを参照させていただいた)

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