死ぬべきはず の者が生きのび、生きてあるはずの者たちが死ぬ。せっかく生きのびて故国に還って来たのに、愛する者たちはみな死んでいたというこのむなしさは忘れられぬ。同時に、このむなしさの向うからひらけて来たあの大らかな世界も忘れられぬ。わたしの心の中にはいつもこの二つのものがある。空しさの方は「虚空」、大らかさの方は「空」。わたしの心の奥には、虚空と空とが重なり合っているようである。 紀野一義講演
冲也は理想の中也節を模索しながら果てしない虚しさの中を遍歴する。虚しさの中に悟りを得る男の遍歴は西行や山頭火、芭蕉に通じるのだろう。山本周五郎 虚空遍歴を読んで
今日は涅槃会
とりのなくねにも
かなしみあり
さむきあめふりいで
はやくくれたれば
はやとをしめ
とおきひの
かなしみにひたる
とりよ
なにをわれにかたらんとするか
なべてものはうつろいゆく
おこたらず
つとめよと
なれもまた
いうなるか
坂村真民の詩
この詩に全身全霊の悲しみがある。あるひとに聞こえて聞こえない人がある。追いつめられていることがほとけの声が聞える条件になる。