まさおレポート

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孫正義 事業家の精神

2019-12-22 | 通信事業 孫正義

 

 

作家の井上篤夫氏は、1987年に孫正義に初インタビューして以来30年余にわたって密着取材を続けている。「事業家と作家」として深い交流関係にある井上氏が、今回『孫正義 事業家の精神』を上梓した。

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この作品は、井上氏が30年余の取材で得た事業家・孫正義の発した言葉や行動を「36篇のヘッドライン」としてまとめたものである。ソフトバンクグループを売り上げ9兆円企業に育て上げた風雲児・孫正義は、何を考えて、どこに行こうとしているのか――。以下、井上篤夫氏の寄稿である。

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「起業家っていうのはクレイジーでなきゃいけない」
 ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長の孫正義は、自らを「事業家」だとする。

 私はかつて「起業家は事を起こし、事業家は事を成す。経営者は事を治める」と聞いた。

 今回、改めてインタビューで(序章)その違いについて訊いた。

 「起業家っていうのは、ある種クレイジーでなきゃいけないんですよね。起業家は、今まで存在してないことを生み出す、一般の人々が考えないことを考える」

 そのクレイジーさが、「事を成す」ところまででたどり着かずに終わる場合もあると、孫は言う。

 「スティーブ・ジョブズも若い頃は、クレイジーさがゆえにアップルコンピュータ(現・アップル)を追い出されたりもしたわけですよね。でも、もう一度戻ってきて立派に事を成したのです」

 人のまねではなく、新しいものをクリエイトして新しいチャレンジをするのが起業家だ。業を起こす。模倣するんじゃなくて「起こす」。新しい世界観をつくり出してる。

 それが起業家だと、孫は更に続ける。

 「だけど、それが1ビリオン(10億ドル)を超えるレベル、100万人のユーザー数を超えるようなレベルに行くまでは、本当の意味で業を起こしたことにならないです。チャレンジはしているけども、まだ十分に飛んでない。翼のレベルまで行ってない。しょせん、ありきたりな馬でしょ、いうことになるわけです」

 孫がビジョン・ファンドをつくったのは、100万人のユーザーに価値を与える、しかもそれが、サステイナブル(持続可能)な事業を支援するためである。

 「サステイナブルというのは要するに翼があるということで、飛び続けることができている。翼がないとジャンプしただけで落ちているわけです。ジャンプして飛ぶのと、飛び続けるのとは違う。翼がなくたってジャンプはできるけど、翼があってちゃんと飛び続けることがサステイナブルであり、1ビリオンの企業価値、1ミリオンユーザーのレベル。このレベルになって初めて翼が生える。これがユニコーンなんです」

 ビジョン・ファンドはそのユニコーンだけを見出して育てて、かつ大きくさらに飛んでいけるようなことを支援する。

 しかし、事業家になるには狂ったほどの情熱が必要である、と孫は力を込めて言う。

 「それほど難しいんです。翼を生やし飛んでいくっていうのは、それほど難しいんです。もう狂ったほど、嵐の中でも何でも、駆け抜けて駆け抜けて駆け抜けて、あの崖を飛び越えたいと。あの崖を飛び越えて向こうの崖に飛びたいとカーッと駆けて『このっ』て飛んで、でも崖に落ちて、何回も何回も『このっ』て飛んで、崖に落ちて、そのたびにもう一回戻っていってまた走ってバーッと飛んで、崖の向こう岸に、飛んでいこう、飛んでいこうって、力いっぱい走ってガーンとやっているうちに、いつの間にか翼が生えてくるわけです」

 孫の言葉は熱気を帯びて、私の心に突き刺さった。

 「その思い入れと願望と、この狂ったほどの努力がないと翼なんか生えてこないっていうことですよね」
 
以下、本書36篇のヘッドラインから2篇を紹介したい。

 

「反省もするが、委縮はしない」
 2019年11月6日、ソフトバンクグループの2020年3月期中間決算説明会は、「ウィーワーク・ショック」に沸いた。四半期ベースで過去最大となる約7000億円の最終赤字。その大きな要因の一つとなったのがコワーキングスペース「ウィーワーク」のサービスを手がけるウィーカンパニーだった。

 記者からの質問が、この問題に集中した。

 「20年後には時価総額200兆円」の壮大な構想をあらためてぶち上げた5ヵ月前から一転、孫は「反省した」と何度も繰り返した。株主や金融機関、投資家をはじめ、多くの関係者に心配をかけたと詫びた。反省に学び、経営を進化させると約束した。

 孫はこの日、冷静沈着に、反省点と善後策を説明した。

 ただ、ウィーワークの創業者のアダム・ニューマンについて問われた時、少し複雑な表情を見せた。

 「彼にはいい部分と悪い部分が、混在しているところがたくさんあったと思います。私は、彼のいい部分について、その価値を多く見過ぎてしまったのかもしれない。彼には、やる気や攻めの姿勢、アーティスティックなところにおいて、非常に素晴らしいものがあり、良い部分ばかりに目が行くあまり、マイナス部分には目をつぶってしまった。そういうところを非常に反省している」

 孫は、本質的に性善説の人である。それゆえに痛い思いをしたことは今回ばかりではないが、そのたびに反省し、前を向く。

 「反省した」と繰り返した孫だが、ビジョン・ファンドに対する意欲は、いささかも衰えていなかった。

 「ビジョン変更なし、戦略変更なし。このまま粛々と前進するというのが、孫正義の決意であり、方針であります」

 事業家の魂が宿る一言があった。

 「反省もするが、委縮はしない」

 挫折は挑戦する者の宿命である。そこから何を学び、どう行動するか。そこに真価が現れる。

「いいね、いいね、わくわくする」
 今から19年前の2000年11月、ラスベガスのMGMグランドホテルの部屋で私は孫の秘書からの連絡を待っていた。最初の連絡がノートパソコンに入った。それから何回かメールのやり取りをして、「まもなく孫が会議室を出ます」という連絡があった。

 ラスベガスの大きなホテルの広い廊下を孫が数人の社員を従えて歩いてきた。大柄な外国人社員たちの中心に少年が混じっているような異様な光景にも見えた。

 まるで、映画の一場面でも見るようだった。

 やがて、社員たちは離れ、孫と私は2人で歩き始めた。

 その時、孫が第1声を発した。

 「いいね、いいね、わくわくする。アメリカに来ると武者震いがする」

 アメリカにいる孫は本当に嬉しそうだ。

 16歳の時、九州の名門校、久留米大学附設高校に入学しながら、夏休みを過ぎると、周囲の反対を押し切って中退し、アメリカ留学を決めたのだ。 

 在日韓国人3世として生まれた孫は、そのまま日本の高校を卒業して大学を出ても未来はないと考えた。(現在は日本に帰化)

 だが、その悩みはカリフォルニアの青い空を見た途端、吹き飛んだ。アメリカが孫を変えたのである。

 

62歳の孫は、「まだ、青春真っ只中!」

 そして今年62歳の孫は言う。「まだ、青春真っ只中!」

 何か新しいことに挑戦する時の情熱は「初めてアメリカの土地を踏んだ頃」と少しも変わらない。しなやかで素直な心の奥底から湧き上がる感動こそが孫を突き動かす。

 私の畏友にして日本ソフトバンク(現・ソフトバンクグループ)の常務取締役出版部長を務めた故・橋本五郎がこう言ったことがある。

 「孫さんはアナログの心を持ったデジタル人間だ」

 アメリカで学生時代に起業した孫青年は大成功を収めた。だが、そのアメリカの会社を売却し、日本に帰国する決断をした。

 16歳で単身、アメリカに渡る時、母は心配のあまり号泣した。その時、「留学を終えたら日本に戻ってくる」と孫は母に約束をした。そして約束どおり日本で起業したのである。

 事業家・孫正義は「情報革命で人々を幸せに」という強い信念を持っている。
私の手元に1987年10月に初めてインタビューした5時間の記録がある。その時から孫の技術進化への信念は些かも揺らいではいない。

 孫正義という稀代の「事業家の精神」を本書から感じ取って頂けたら幸いである。(文中敬称略)

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井上篤夫(Atsuo Inoue)作家
1986年、ビル・ゲイツ、テッド・ターナーを単独取材した。1987年、孫正義を初インタビュー、以来30年余にわたって密着取材を続けている。鋭い観察眼には定評がある。著書に『志高く 孫正義正伝 新版』(実業之日本社文庫)『とことん 孫正義物語』(フレーベル館)『ポリティカル・セックスアピール 米大統領とハリウッド』(新潮新書)『素晴らしき哉、フランク・キャプラ』(集英社新書)。訳書に『今日という日は贈りもの』(角川文庫)『マリリン・モンロー 魂のかけら』(青幻舎)『ミシェル・オバマ 愛が生んだ奇跡』(アートデイズ刊)などがある。
http://www.ainoue.com
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 *『孫正義 起業家の精神』の大きな特徴の一つは孫の言葉を、日英両語を突き合せて読むことができることだ。孫が米国メディアに答えたインタビューなどから、シンプルで力強い英語を再現した。

井上篤夫


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