バリで知り合った人とビラの近くの日本料理店で一緒になった。以下は彼、斉藤さんに起こった昨日の出来事で、だれかにその腹立ちを訴えたかったのだろう、その顛末をビールを飲みながらときおり怒りをにじませて話してくれた。
斉藤さんは今住んでいるビラを一年契約で借りているが、2月末には期限が切れる。子供が大きくなってきてもう少し広い物件を借りたいと考えていた。11月の初めに斉藤さんが親しくしている藤野さんから「私のビラをかりてくれませんかねえ」と持ちかけられた。環境や価格を考慮して早めに返事をしてあげたほうがよかろうと12月の初めには借りる意思を伝えた。藤野さんは「では、部屋の修理等も12月中にすませますから。洗濯機は私が持って行っていいですか。引っ越し先にないもので」などと具体的な話までしていた。
今年の1月2日には契約金の支払い口座は日本がいいのかあるいはルピアがいいのかまで話を詰めた。藤野さんはルピアがいいというので、その準備も始めたという。「入居時期は2月1日でいいですか。念のために、金額や条件をメールで送ってくれますか。契約書も急がないといけませんね」というと、「斉藤さんは日本人だから大丈夫ですよ。契約書も別に入居の後でも構わないですよ。」と、信頼関係を強調する。
斉藤さんは今借りているビラのオーナーから年賀メールがきたので、早めにお知らせしたほうがよかろうとお礼メールに契約更新はしない旨を伝えた。そして転居先にインタネット用にADSL用電話回線を引く手配や転居先の周りのWIFI環境の調査に時間をかけた。速度が時間帯ででかなり変化すると聞いていたので実際にその場にパソコンを持っていき何回も調査したという。十分な速度を確認して安心をしていた。ADSL用の回線手配は藤野さんがビラ側に1月4日にプッシュしていたので、少なくともこの時点では藤野さん側に心変わりはなかったということだろう。
斉藤さんは昨日の夕方、食事に出かけるときに、ビラのオーナーから呼び止められた。「藤野さんから、斉藤さんに賃貸の件はなくなったと伝えてくれといわれましたよ。朝お聞きしたんですが。」 斉藤さんはこの話が最初何を意味するのかも理解できないくらいで、そのうちそんな重要な話を簡単に人づてですますはずはない。さきほども藤野さんと顔を合わしたばかりだがそんな話はなかった。なにかのいきちがいではないかとオーナーに答えた。しかし話を聞いてみるとどうやら本当らしい。別の借主が現れたのでそっちに貸すことにしたという。
斉藤さんは藤野さんに電話をしてみた。「以前から話があったのだが、返事がなかったのであきらめていたが、昨日急に借りたいという話になりました。そろそろどっちかに決めなければと思い、斉藤さんのほうを断ることにしました。」とまるでひとごとのようにのんびりとした声が返ってきた。 斉藤さんは内心「おいおい、二股かけてこっちはオサエのつもりだったのかい」と極めて不快になったというが、ながながとピンとはずれの言い訳をする藤野さんには途中で遮って「もういいです。藤野さんはそんな人だったのですか。モラルがまったく欠けてますね。」と電話を切った。
斉藤さんの腹立ちは、結果的に二股をかけていたこと、すでに現在滞在中のビラの契約更新をしないと伝えてあり、はしごをはずされたこと、相手にはなはだしい迷惑をかけているのに都合がわるくなると他人に軽い話でもするように伝言を頼んでいることだといった。それが大ショックだと締めくくった。